歪んだ愛をアナタに(完結)   作:ちゃるもん

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投稿です!!

初めましての方は初めまして。
前シリーズを読んでくださっている方には……待たせたな!!(とは言っても一週間程度ですが)

まあ、そんなものは置いておいて。
ヤンデレ大好きちゃるもんです!!

最初はほのぼのです。ヤンデレを期待している方スマソ。

では、どうぞ!!


第1話 森の中

 冬が過ぎ、まだ春と呼ぶには肌寒い時期。桜は小さな蕾を付け梅の花は芳しい爽やかな匂いを漂わせる。その匂いで梅酒を飲みたくなるのは日本人全般に言えるのか、もしくは、俺だけなのか。いや、どちらでも無いのだろう。大人の過半数は仕事に明け暮れそんな事を気にする余裕なんてないだろうし、子供はそもそも酒の匂いなんて分からないだろう。

 そんなどうでも良いことを考えながら、数少ない街灯を目印に、月明かりが照らす街道を歩く仕事帰り。

 電車を使って、家の近くまで来て、後は歩き。月明かりが明るく照らしているとはいえ、やはりどこか一人と言うものは寂しいものだ。とは言っても家に帰っても一人なのだが。その事実に苦笑いを浮かべる。

 ふと横を見るとそこには月明かりよりも圧倒的に明るい光を放つ物があった。どこにでもある自販機だ。ただ、こうやって見ていると、かなり明るいんだな。と何故か実感させてしまう。まったく意味がないことにもこう一々反応してしまうのは寂しいかだろうか。またしても苦笑いを浮かべてしまう。

 

(どうせだから何か買うか)

 

 車が来ていないのを確認し、反対側の歩道に渡る。自販機にはお馴染みのジュースやお茶、コーヒー等といった飲み物。変わり種であろうチョコレートのジュースが置いてあった。

 

「まあ、無難にコーヒーだよな」

 

 自販機の口に百三十円を入れ缶コーヒーのボタンを押す。するとガタンッと固い物が落ちてきた音が聞こえた。少ししゃがみ取り出し口からコーヒーの缶を取り出す。

 

「……なんでだよっ!?」

 

 しかし、取り出してみたらあら不思議。缶は缶でもお汁粉缶が出てきてしまっていた。

 慌てて自販機の商品を確認。缶コーヒーの右隣にひっそりと潜むお汁粉の姿……そして値段は百四十円と少しお高め。

 

「お汁粉……いや、たしかに玉に飲みたくなるけど……しかも損はしてないって所が……なんだこの勝ったのに負けたみたいな……」

 

 はあ……と溜め息を吐き、今日何度目とも分からない苦笑いを浮かべる。

 しょうがない。と諦めお汁粉を取り出し両手を暖めるように、その温かい缶を握りしめた。

 

「はぁ~あったけ~」

 

 どうせだからゆっくり飲みたい。どこかにベンチか何か、座れる場所はないかと見回す。

 自販機の少し先にある公園にならあるだろうか?早歩きで公園を目指す。公園には滑り台等と言った良く見掛ける遊具に加え、案の定ベンチが一脚あった。流石にブランコに乗ってリストラされた大人のような格好になりたくはない。いや、夜中にベンチに一人座ってお汁粉缶を啜る大人もどうかとは思うが……。まあ、そんな思考はそこらのゴミ箱に捨てておけばいいのだ。

 どっこいせ。と、年より臭くベンチに座る。手に持ったお汁粉の缶のプルトップに指を掛け力を加える。カシュッと心地よい音と共に小豆の甘い匂いが鼻を燻る。

 まだ中身は熱いので、意味は無いと分かっていながらふーふーと息を吹き替えける。そして、飲み口に口を付け、ゆっくりと缶を傾けると、少しドロッとしたお汁粉が流れ出してきた。まだ熱いそれを口の中で冷まし、冷めた所をゴクンッと飲み込む。口の中全体に広がる甘さにどこか懐かしさを覚え、二口、三口と一気に飲み干してしまった。

 

「……意外と行けるじゃねえかチクショウ」

 

 まるでその事が悪いみたいに言っているのはご愛敬である。

 

「帰るか。とっ、その前にゴミ箱」

 

 ゴミ箱は何処だ?と、少し顔をずらすと少し離れた場所にゴミ箱があった。ゴミ箱の位置を確認しちょっとした遊び心で缶を投げる。缶は緩やかな放物線を描きカンッとゴミ箱の側面に当たって地面へと落ちた。少し面倒に思いながらもベンチから立ち上がり、缶を拾いにいく。

 

「ゴミはキチンとゴミ箱にってね」

 

 缶を拾い、ゴミ箱の中に入れる。

 

「よしっ。帰るか」

 

 脇に挟んだ鞄を持ち直し、振り返る。

 

「………………………は?」

 

 間の抜けた声が静かに響いた。

 しかし、驚くのも無理はない。何故なら、唐突に、瞬きもしていないのに、目の前の景色が変わっているのだから。

 先程までの都会でもなく、田舎でもない中途半端は街並みも、昼間は子供が遊んでいるのだろうと思わせる公園も、それどころか、さっき缶を捨てた筈のゴミ箱ですら姿を消し、ただ木が連なる深い森となっていたのだから。

 

「は……はは……」

 

 乾いた笑い声が漏れる。目の前の怪奇現象に目を奪われていながらもなお、目を背けたい気持ちを代弁したかのように。

 どうなってるなにがおきたどうすればいいなにをすればいい

 頭の中がかき混ぜられたように思考がぐちゃぐちゃになっていく。まるで、この先が見えない森のように、思考はドンドン深く、暗い場所まで潜っていく。そして、一つの答えを導き出した。

 

「そうだ……そうだよ……これは悪い夢なんだ……ああ、最近疲れが溜まっていたんだろう。だから、無意識にふらふら~ってこんな森に入てしまったんだ!!そうだ!!そうだよ!!まったく、俺は何をしてんだか。さっさとこんな森からは出てしまおう」

 

 そう。現実逃避である。

 男は歩き出した。しかし、進んでも進んでも景色が変わることはない。まるで、終わりのない一本道を歩いている感覚に陥ってしまう。

 だが、それでも男は立ち止まらない。立ち止まったらこれが現実だと知ってしまうから。そして、不意に変化が訪れる。

 体から力がふっと抜けたのだ。まるで蝋燭の炎が風に掻き消されるごとくふっと。

 

(どうなるんだろう……俺……死ぬのかな?)

 

 視界が薄れていく。

 何も感じない。むしろふわふわと浮いているような感じで心地よい。

 

『――――――!!』

 

 なんだろうか?誰か居るのだろうか?…………どうでも、いいか……。ああ、ねむ……い……。

 そうして、男は意識を手放した。

 

□■□■

 

 私の名前はアリス・マーガトロイド。魔法の森に住む魔法使いだ。主に人形を操る操作系の魔法を扱っている。

 そんな私の習慣として週に二回人里に行き、人形劇を披露する。と言うものがある。今は森に迷いこんだ旅人が美しい女性に助けられ恋に落ちる。と、オリジナルで作った劇だ。一応最後は旅人は去っていくハッピーともバットとも取れない終わり方をするのだが、劇ではどうするか決めあぐねている所だ。

 

「最後……どうしようかしら」

 

 自宅へと帰りながら考えを纏めていく。

 子供に人気が出るであろうはハッピーエンドだろう。しかし、自分が初めて作った物語をねじ曲げるのもなんだか嫌だ……。

 

「…………ああもう!!」

 

 頭をガシガシと掻き、一度考えを振り払う。

 

「はあ……。って、あら?誰か……倒れてる!?」

 

 少し先の草むらから片腕だけが飛び出ていた。妖怪に襲われたのだろうか?それとも、迷いこんだのか……恐らく後者だろう。

 魔法の森にはキノコや魔法植物等の胞子が満盈しているのである。中には無害なものも有るが、有害なものの方が圧倒的に多い。妖怪の私ですら胞子が濃い場所に生身では行けない程には危険なのだ。そんな危険な場所に普通の人間はまず来ない。来たとしても此処まで奥深くまで入ってくる事はなく、入り口付近の薬草を取って帰る程度である。まあ、例外もいると言えばいるのだが。

 なんにせよ今はこの誰かの安否を確認しなければ。

 

 草むらを掻き分けると、そこには一人の男性が倒れていた。

 

「もしもし?聞こえますか?大丈夫ですか!?もしもし!!」

 

 じょじょに声量を大きくしていくが、反応はなかった。しかし脈は安定しており、息も確りしている。恐らく睡眠系の毒素を含んだ胞子を吸ってしまったのだろう。

 もしかしたら遅効性のものも吸い込んでるかもしれないわね……。家まで連れていきましょうか。

 

 私は男性の体を担ぎ、帰路を急ぐのだった。

 




お読みいただき有難うございます!!

ヤンデレ要素一切無かったね!!悲しいね!!
ま、まあ、あと三、四話後には出てくる事でしょう。そう信じたいものです。

誤字脱字報告、感想、アドバイスがあれば、よろしくお願いします。

次は一週間後ね!!

では、また次回~

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