「お呼びですか、ゴメス大尉…」
ブリッジへと入る。窓からは紅い夕陽の光がブリッジへと差し込み、人の影が限界までに伸びきっていた。ブリッジの中には、リガミリティアの老人達がこちらを見ていた。
「あぁ、ちょっとお前には話しておきたいことがあってな…」
いつものと嗄れた声とは違い、やけに芯の入った強い声だ。この時点でゴメス大尉の話す内容は、真剣なものだと確信する。
俺と大尉は2年前からの付き合いだ。…といってもベチオンで腐れあっていただけの事だが。
「俺もリガ・ミリティアとベスパ…いやザンスカール帝国に立ち向かう事にした」
「なっ!?」
ゴメス大尉の口から信じられない言葉が出た。抵抗する無意味さを知っていたゴメス大尉、何故そんな事を決意したんだ…?リガミリティアの戦う姿を見て感化でもされたのか?
「べ、ベスパと戦うんですか!?」
「ああ、そうだ。お前はどうする…?無理強いはしない。お前にゃお前の人生ってもんがあるからな…」
正気かよ…わざわざ死にに行くようなもんだぞ?俺は心の片隅でゴメス大尉に対し、毒突く。ザンスカール帝国なんて狂った国と戦うなんて恐怖でしかない。ただでさえTVで放送された、あのギロチン処刑がトラウマなんだ。今でも生々しいギロチンの刃の光が脳裏にチラつかせれている。
「今ジブラルタルへと向かっているから、連邦軍本部への出航の手配ができる。好きなものを選んでくれ」
「なら…」
本部へと戻る。そう即答しようとしたが、あの老人達の姿が目に映る。老人達は目を細くさせ、俺の返答を待っているようだった。何だよ?逃げるなってか?その目、まるで俺が逃げている卑怯者の様じゃねぇか!
「な、何を見てんだ!あんた達!」
「いや、わし達は別に君を責めている訳じゃないぞ?」
「何、子供が戦っている中で、軍人が逃げるなんて憐れだなんて、そんな事を思ってはないよ」
腕を組み、目をそらす老人達。わざとだなこいつら…。子供という言葉が出ちゃあ、もう逃げる事なんて出来ない。しかも大半のパイロットは女らしいからな。男であり、軍人の俺が逃げるわけにはいかないだろう。
「あああ!もう!わかりました!わかりましたよ!戦えばいいんでしょう!?」
半ばヤケクソ気味で、ゴメス大尉にそう答えた。大尉はそのまま俺の方に振り返り、無精髭を摩りながら微笑んだ。
「よく言った!お前ならそう言ってくれると期待していた!」
その無精髭を摩っていた右手を老人達の方へ向け、グッドラック。老人達もそれにニッコリと笑って応える。
…まさか
「大尉!あんたハメやがったな!?」
「何の事だ?俺は別にお前の好きにしていい言ったが?」
「さて、わし達は君のジェムズガンの修理をするとしよう…」
「あんた達グルを組んでやがったのか!おい!逃げんじゃねぇよ!」
ブリッジから退出しようとする老人達。さっきのあの蔑んだ目も演技だったのか。
「まぁ…本当に戦いたくないのなら、前言撤回をしてもいいんだ」
「ぜ、前言撤回なんて…俺だってプライドがある!ええ!やってやろうじゃないの!あんな狐目か、猫目なんかわからん奴なんかコテンパンにしてやりますよ!」
「ハハハハハハ!それは心強い!頼りにしてるぞ!」
高笑いをするゴメス大尉を尻目に、俺はブリッジから退出した。既に夕陽は沈み、暗闇の夜となっていた。俺は、さっきの意地を張ってしまった言葉のお陰で頬から汗が伝う。
「ハァァァ…」
あんな事を言ってしまったが、逆に俺がコテンパンにされる側ではないか?冷静に考える。…いや考えても意味が無いだろう。今は戦いで蓄積された疲労により、身体が怠い。さっさと寝ちまうか…。
機内の座席に横になり、俺は静かに目を閉じた。
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「今日からリガ・ミリティアと共同戦線を張ることになった、メオ・マルス中尉だ。よろしく頼むよオリファー隊長」
翌日、俺はシュラク隊を編成したオリファー・イノエという男性パイロットに挨拶をする。俺の差し伸べた右手に、オリファーは握手で応答する。見た目は何か頼りなさそうな風貌の男だが…まぁ、あのウッソの件もあるんだ。中々の腕前だろう。
「ハハッそんなに肩苦しいのはやめにしないか?こちらとしても飲み仲間ができて嬉しいよ」
飲み仲間って…あんま酒好きじゃないけどな。口にしない方が良い事実を、俺は苦笑しながら頭の中にしまう。
「MSのパイロットはあそこのウッソ含めて、これで全員かい?」
「ん?いや、もう1人いるんだ。女パイロット、マーベット・フィンガーハット。シュラク隊とはまた別の部隊に所属している」
「…女のパイロット率高くないか?」
「仕方がないさ。今は宇宙戦国の時代、戦争で男なんて死んでしまっているから少ないからな…」
コロニーが1つの国として、他のコロニーと互いに戦争をしあう。それが宇宙戦国時代だ。30年前のコスモバビロニア戦争がきっかけで激化したらしいが…。
「俺たちも、もしかしたらこの戦争で死ぬかもしれないしな…」
「おいおい、俺はまだ死にたくないぜ…まだ人生があるからな」
オリファーの不謹慎な言葉に、俺は眉を寄せる。ヘレンも早死にとか言ってたが、何でこうもリガ・ミリティアはネガティブに染められようとしてるんだ?レジスタンスなんだからこう、もっと、我らは負けない!みたいな闘志溢れるポジティブさがあるんじゃねぇの?
ま、そんなイメージは俺の偏見だから、実際はこんな感じかもしれないがな。それよりもオリファーに聞きたいことがあるんだ…
「オリファー、確かシュラク隊のパイロットを1人で集めたんだろ?」
「ああ、そうだが。何か聞きたい事があるのか?」
「彼女ら、オリファーの女の好みで集めたのか?」
「ブフゥッ!?ば、バカをいえ!好みなんかで部隊を組ませるなんてする筈がないだろ!」
「イヤイヤ…だからって全員が美女っていうのはありえないだろ」
オリファーは飲んでいたドリンクを吹き出す。ゲェッ…汚いなぁ。しかし、この反応だと図星のようだな。美女の部隊。明らかに趣味で編成させたようなものだ。こいつムッツリスケベだな。間違いない。
「そんなの偶然さ、偶然。腕利きのいいパイロットを捜そうとしたら、自然に美女…ゴホンッ、彼女らが集まってきたんだ。しかも俺にはマーベットがいる!」
「マーベットとは恋人って事か?恋人がいて尚、あんな部隊を創りだした訳か…。…刺されても文句言えないぞ」
「だから!偶然って言ってるだろ!」
オリファーは顔を真っ赤にさせ、必死に弁解しようとしている、修羅場になったらそれはそれで面白いかもな。
「おーい!ジェムズガンの膝部分を修理したいから、動かしてくれー!」
ブリッジにいたメカニックの老人だ。確か、ロメロといったかな?
「じゃあ、俺は用事があるから」
「ああ、わかった。メオ中尉。」
「肩苦しいのは無しなんだろ?メオでいい」
俺はすぐさまジェムズガンに駆け寄る。あの戦いで、MSの前面は泥で擦れており、膝部分はフレームが露出している。我ながら派手にやらかしたもんだ。
「壁に当たらないようにな。この輸送機は脆いんだ」
「了解、わかってますよ」
俺はロメロ爺さんの手信号に合わせてレバーを引き、ジェムズガンを小幅に動かす。
あのまま堕落した生活を送っていく事だと思っていたが、まさかベスパと戦うなんてな。一体どんな地獄が待っているのやら…。
ギロチンの刃を思い出し、俺はコックピットの中で身震いをした。
ゴメスの口調が再現できない…どうすりゃいいんだ!
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