連邦兵のザンスカール戦争記   作:かまらん

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第19話 決心

「クソおおおお!!」

 

 

ビームバズーカのトリガーを引き、俺は背後を見せていた蟹野郎の に向けてビームを放つ。だが、そのビームは難なく躱されてこちらへと振り返り、キツネ目でこちらを睨む。

 

体の中で、熱い何かが煮え滾る。…わかってる、これは戦争なんだ…殺すか殺されるかの瀬戸際で、こんな怒りは場違いというのはわかっている。だけど…そんな理屈で容易に消せるものではなかった。

 

「うおおおらぁ!!」

 

勢いよく、機体で体当たりをする。最大加速でのG…そして体当たりによる衝撃で、目の前が歪んで見える。それでも…俺は真っ直ぐ、コックピットの方に視線を向けていた。

 

「終わりだ…!!!」

 

懐に入った事により、敵は即座に行動をする事ができなくなる。ビームバズーカの砲口をコックピットへと向ける。瞬きするのとなく、俺はトリガーを…

 

「!?があ!!」

 

背後から爆発音が聞こえる。その影響で機体の姿勢が崩れ、ビームバズーカの放ったビームが当たる事なく、遠い彼方へと進んでしまう。何だ…。相手の援護か…!!

 

「左の肩が…!?」

 

蟹野郎の左にあった鋏が、遠隔操作で機体の背後に回り、バックパックを斬り裂いた。もう少しで墜とす事ができた筈だ…!バックパックの故障により、機体が動くことすらままならない。

蟹野郎がそのままビームサーベルを取り出し、刀身の先を俺の目の前…コックピットへと向け突進した。

 

「…!!熱」

 

躱し切れなかった俺の機体は胴体の脇を掠り、コックピットが熱く覆われていく。ビームサーベルは近いだけでこんなにも熱を発生するのか…!!

舌打ちし、俺は機体の全身を使って蟹野郎にしがみついた。例え性能が上だろうと、バルカンの弾をゼロ距離で発射すれば、ひとたまりもないだろう。

 

熱により、全身が火傷をしているんじゃないのかと錯覚しながらも、俺はレバーのボタンを押した。バルカンの弾が至近距離で放たれる…蟹野郎の頭部が蜂の巣となり、機能停止する。

 

だが、敵もまだ諦めた訳ではなかった。脇にあったビームサーベルで胴体を真っ二つにしようと徐々に横にずらしていく。より一層高まる熱によってそれがわかる。

 

唸り声が無意識に溢れる。身体の危機を脳が伝えようとしているのか、頭痛が強烈に響いていく。

震える手で、レバーを握り締める。ここで…死ぬものか…!!

 

ビームバズーカを放り投げ、俺はビームサーベルを取り出す。そちら側がするのなら、こちらも同じ事をするまでだ…!!

 

「うおおらぁ!!!」

 

ビームサーベルを胴体へと斜め横に貫く。その貫いた場所から爆風が起こり、続けざまに蹴りを放った。コックピットを切り裂こうとしたビームサーベルの刀身が離れ、熱が収まっていく。

 

「…くっ…!!」

 

視界の向こうでは、蟹野郎がこれ以上は無理だと判断したのか遠ざかっていく。…俺の貫いた場所はコックピットではなかったのか。悔しい気持ちが脳裏をよぎった。

…信じられない程に静まる戦場。さっきまで殺し合いをしてたのが嘘みたいであった。

 

…だいぶ、リーンホースから離れてしまった。周りを見れなかったんだ…。自分の戦いに頭が一杯になっていた証拠だ。俺は横目で残骸となっているジャベリンを見る。

 

あのパイロットは俺を助けてくれた…だが、そこまでして俺は助けられる価値の人間だったのか?

 

「…」

 

砂嵐が混じるモニター。どうやらこの機体もガタが来た。当然だ、片腕と胴体はやられ、背中のバックパックも壊される始末。だが…バックパックは完全な故障では無く、微弱にもまだ作動することができる。

 

コックピットのハッチを開け、機体の外から出る。遠くではリーンホースが敵艦と接触し、白兵戦が始まろうとしていた。その側で爆発が起こっているのもわかる。

 

…見てるだけでは駄目だ…早く行かないといけない。

 

 

 

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『メオ!生きてるのか!!』

 

「大丈夫だ…微弱ながら機体も動ける」

 

リーンホースへと向かう際、一機のガンイージが肩を掴んでくる。この声は…ケイトのようだ。何とか、味方との合流は果たせたか…。

 

『あんた…戦えると思っているのか!?』

 

「やらなくちゃ駄目だろ」

 

こいつらが必死に戦っているのに、俺は一機相手にズタボロにやられている。女や子供が戦っている中、自分だけが安全な場所へと行く訳にはいかない

 

「やるかとか、そんな問題じゃないんだよ!瀕死のあんたが戦っても足手纏いになるだけ!私がカタパルトまで運ぶから!」

 

「…そんな事したら、お前まで巻き込まれる事になるぞ!」

 

『そんなの平気さ…メオ、あんたには借りがあるからね!」

 

借り…あのジブラルタルの時か。だが、それでもやっぱりこいつに俺という重荷は背負わせたくない…俺は、オーバーヒートを起こさない程度に、ペダルを踏むのを再開する。

 

「別に借りとかそんな事俺は思っていない。大丈夫だ…このボロボロの姿を見れば、敵も残骸だと思ってくれる。後このバズーカはやるよ」

 

『…そういう事じゃ無くて…!あっ…!』

 

微笑んで俺は、ケイト機から離れる。リーンホースからの距離はそこまで遠くない。最初のバーニアの反動で、機体を動かすか。あとは身を任すだけ…。

 

俺は、操縦席の裏側から拳銃を入れているホルスターを身につける。生身の戦闘なんて久し振りだ…この銃も地球にいた時は使う事はなかったが、手入れは暇な時があればしていたから新品とも同然。

 

あとは射撃の腕が鈍ってなければいいのだが。

 

拳銃のまじまじと見て、ホルスターにしまい周りを見渡す。モニターには、ガンイージやVが戦っているのが見える。何とか残骸だと見せる作戦はいけるか?

 

この混戦の中、熱源センサーによって見つかるのは難しいとは思うが遠くで、ゾロアットなど敵機を目にすると心臓に悪すぎる。

 

…リガ・ミリティアが優勢な為か、他の護衛艦達が撤退するのが見えた。どうやら敵艦の乗っ取りも成功している様だ。

リーンホースの姿が大きくなっていく。少し安堵して溜め息を零すが、横を通るビームに尚もビビってしまった。

 

「…忍び切れる事はできたか」

 

カタパルトに機体を下ろして、コックピットから出る。この損傷だとMSでの戦闘は無理だ…。俺も加勢しなくては。

 

腰のホルスターから拳銃を取り出す。背中に背負ったスラスターを動かしてカタパルトに足をつける。そしてスクイード級へと近づこうと動いた瞬間、

 

『あの…』

 

「!?」

 

 

不意に後ろから声をかけられた。振り向くと、そこにはべスパの赤いノーマルスーツを着た奴がワッパに乗っていた。敵の兵士か…!!

 

「何だお前は!!」

 

即座に拳銃を向ける。まさかリーンホースに乗ってやがったとは…!よくよく見ると女…。しかも美人であった。こんな奴がべスパにいるのか…。

 

『え、わ、私はザンスカールの人じゃないです!』

 

「あ?ど、どういう事だ…?」

 

なら何でこんな所にいるんだ。…いや、信用しては駄目だ。俺を混乱させるためにこんな嘘を…。だが、女の瞳はそれを言っている様には見えない。だとすると何だ…?

 

「捕虜か…?」

 

『それもありますが…詳しい事は言えません。ウッソ・エヴィンという少年に伝えて欲しい事があるんです』

 

「ウッソ?あんた知ってるのか!?あいつの知り合いか?」

 

女はそれを俯いて小さく、はいと答えると、ワッパのハンドルを切る。俺は拳銃をホルスターに入れ呼び止めようと肩を掴むが、手で払われる。

 

『シャクティとスージィ達は無事って、そう伝えてください!』

 

「おい!待てって!!」

 

何処かへと立ち去る女。俺はそれを追おうとしたが、カタパルト付近で爆発が起き、衝撃を手で頭を覆うように防いだ。もう一回、女が向かった方向を見たが、既にいなくなっていた。

彼女は一体誰なんだ…?

 

すると、スクイード級とリーンホースの距離が遠くなっていく。何だと思い、カタパルトの壁を掴み、艦から離されないようにしてリーンホースの側面を見るとMSが敵艦と話す方向で押していた。

 

…どうやら、俺の出る幕ではなかったようだ。敵艦の攻略もできたようだから、この艦隊戦は俺たちの勝ちとも言える。バーニアの光が去っていくのを見る…敵機も撤退したようだ…。

 

もしかして、さっきの残骸のフリをしていた事は無駄じゃなかったか?…撤退している光景を見ていると、そんな事に気付いてしまった。…はぁ、ケイトとのやり取りがただの茶番と化した。溜め息を零して俺はリーンホースのカタパルトの上で漂流しているジェムズガンを見る。

 

…これは大幅な修理が必要だな。いや、いっその事に機体を変えるべきか…。そんな中、俺はリーンホースへと戻ってきているMS達の姿を目にする。帰ってくるのか…じゃあ俺は邪魔になるな。そう考え、カタパルトデッキ内へと足を運ぶ。

 

この戦いで2つの死を見てしまった。…だが、これは当たり前の事だ。逆に今までがおかしかったんだ。戦争ならば、死を受け入れなければならない。俺を助けてくれた人も、死を覚悟していたんだろう。

 

ここで助けてくれた命を無駄にする事はできない。この命、何が何でも役に立たせなければならない。名も無きパイロットに向けて俺は、敬礼した。

 

今回の艦隊戦はこちらが勝った。だが、次はザンスカールも士気を溢れんばかりに上げて戦いに臨むだろう。今回はただの序章にすぎない。これから本当の地獄を見る事になる…それでも、戦い続けるとそう決心した。

 

 

 

 

 

 




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