連邦兵のザンスカール戦争記   作:かまらん

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第16話 開戦

「ロメロ爺さん、これはもう動けるのか?」

 

「キャノンのバックパックは外したから、機動性は上がっている筈じゃぞ。…まぁそのかわり武装が減ったが」

 

MSデッキで、俺は眉をひそめているロメロ爺さんにどんな状況かを聞くが…あの表情だと、やっぱりマシンキャノンは復活しそうにないな。

 

「本当ならヴェスバーをつけたいところなんじゃが…」

 

ヴェスバーか…可変速ビームライフルの事だが、あれはビームシールドを貫ける代物。量産型F91での標準装備となっていたが…、あれを運用した部隊はどうなったのだろうか。

 

「まぁ…俺が捕獲したこのビーム砲を使うから大丈夫ですよ」

 

ジェムズガンの横にあるビーム砲を指差し、ロメロ爺さんに見させる。ロメロ爺さんはほぉー、と感嘆してくれている。相手の対艦兵器を奪えたのだから、中々のものだろう。

…自画自賛していると何だか悲しくなってくるのは何でだろう。

 

「これは凄いな…よし、中尉。わしがこれに名前をつけてやろう」

 

「…名前?」

 

確かにビーム砲と呼ぶのもめんどくさいな。名前を決めていた方がいいやすい。

 

「バストライナーじゃ!」

 

「…バストライナー?」

 

よくわからないが…何だか、意味のある名前そうでいいじゃないか?

 

「なら、引き続きジェムズガンの整備のよろしくお願いしますよ」

 

「任せてくれ、中尉。戦いに備えて一休みしといてくれ」

 

お言葉に甘えて、俺はデッキから出る。確かに、宇宙に出てからは全然寝てないな。前も寝ようとしたところをゴメス大尉に邪魔されたし…。

 

欠伸をしながらベッドルームに向かうが、その途中でジュンコと遭遇する。ジュンコは俺の存在に気づくが、そのまま通り過ぎようとする。

 

「おい」

 

「…」

 

 

呼びかけるも、そのまま無視されてしまう。俺は溜息をつき、ジュンコを追って肩を掴んだ。

 

「…何も無視はないだろう」

 

「何か用かい?女に軽々と触れるものじゃないよ」

 

こうでもしないと、無視するだろうが。そんな文句を喉から出そうだったが、何とか押し込む。オリファーの件は無視しようと思ったが、ジュンコの死ににいくような戦い方を見てるとほっとけるような感じじゃなかった。

 

「お前がどんな事を思いながら戦っているかは知らないけどな、オリファーにも言われているだろうが、突っ込みすぎだ」

 

「ハァ…わかってるよ。…そんなに私が心配なのかい?」

 

ウンザリ気味か溜息混じりに答えるジュンコ。何度も聞かせておかないと、簡単に命を捨てるような特攻などやり兼ねない。彼女はシュラク隊のリーダー的存在なのだから、死んでほしくない。

 

「また、輸送機の時と同じように一緒に飲みたいのさ、みんな生き残って」

 

「あの時、あんた乗り気じゃなかったよね?」

 

確かに、オリファーの野郎の酔っ払い野郎や、ヘレンとマヘリアみたいなガサツな奴等との相手はめんどくさいもなんの。だけど…

 

「何だかんだ、仲間みたいなのができて嬉しかったからな」

 

駐屯地に従事してた時は、上司の愚痴や待遇などによる嫌味しか聞いていなかったから、あんなに単純明解な話は新鮮味があり、楽しいと思えた。

 

「私にはあんたが心配だよ、メオ」

 

「何度修羅場を潜り抜けたと思う?生き残ってみせるさ」

 

自分の胸をトントンと叩き、平気なアピールをする。すると、ジュンコはふふっと小さく笑って俺に近寄る。ジュンコの美麗な顔がこちらに迫り、俺は息を呑む。

 

「…お、おい…」

 

美人に迫られるのは悪くない…、むしろ嬉しい方だ。そして続けての口付けだったとしたら…。何故か、無性に期待を抱いてしまう。ま、まさか…?本当に…

 

「メオ…」

 

「…なんにゃ」

 

ジュンコとの唇との距離が1cmを切った時、ジュンコの人差し指が俺の頬に向けてぐにりとめり込み、俺はタコのように口が突き出てしまう。…またやりがった。

 

「あっはは!本当ウブだねぇ!ふふ…ははっ!!」

 

腹を抱えて笑うジュンコ。人をイジって楽しかったのか、とても身を震わしている。何でこいつツボに入ってるんだ…。

 

「くそ…!お前もマヘリアみたいな事をするのか!」

 

顔が熱く感じる。ジュンコからすると顔が真っ赤になってるように見えているだろうな…。俺は舌足らずな口調で喋る。

 

「…ふふふ…はぁ…メオ、ありがとう」

 

「あ?」

 

「何か…清々しい気分になったよ。…さっ、早く仮眠でもとりな」

 

「いっ!!…つつつ…。おい!何をしやがんだ!!」

 

俺に対して感謝すると、いきなり尻をバシリと叩いてきた。俺の尻はヒリヒリと痛みが広がっていく。力加減というものを知らないのか…!

俺は文句を言おうとしたが、既にジュンコの姿は見えなかった。さっきの感謝の意を俺に述べた時…何だか、表情が前よりも明るくなったような気がした。

…元気になってくれたのなら、何よりだ。

 

 

 

 

-------

 

 

 

 

ウッソの考案した作戦によって、ガウンランドからジャベリンなどのMSやクルーがリーンホースへと移る、謂わば引っ越しみたいな事を現在進行形で行なっている。

 

リーンホースの近くでビームライフルを構えながら、進行状況がどこまでいっているかを見てるが、これが慎重すぎて遅い遅い。もう少しパパってやってくれないものか。

 

そんな事を思っていると、カタパルトに縦一列に並ぼうとしているジャベリン達が相互にぶつかり合い、後ろの資材が巻き込まれようとしている。

何やってんだと、マニピュレータで最後尾にいたジャベリンの肩を掴む。この繊細な操作。もしかしたら、俺の方がこいつらよりも操縦の腕が良いかもしれない。

 

そんな自惚れた思いを馳せていると、暇を持て余してたのか、ハロがこちらに耳?らしきものをパタパタと動かしながら向かってくる。ワイヤーを射出し、コックピットへ、接触回線の音声が流れる。

 

『ハロ!ハロ!ヒマ!アソベ』

 

「それは無理な話だ、今リーンホースの警備をしているからな。というか子供達の方に行けば良いだろう?」

 

『ハロ、アイテサレナイ、サレナイ』

 

そう言葉を繰り返しながらまたリーンホースの方へと戻る。しかし、あんな感情豊かなロボットがいるとは驚愕だ。どうやってプログラムを組んでいるのだろうか。

 

「しかし、マイクロウェーブか…」

 

5分間カイラスギリーの艦隊に向かって、マイクロウェーブを照射させる。その時に攻撃を仕掛けるというか、そのマイクロウェーブの影響は此方にも及ぶ。何とか耐えなければならない。

 

 

『ガウンランドのリモコンテストを行う!ヘルフノズル付近から離れろ!』

 

ガウンランドはリーンホースの前方へ向かい、1つ寂しく暗闇の宇宙へ前進する。どうやら、上手くいったらしい。これをやってのけるあたり、オーティスさんは流石サナリィの技術者だ。

 

『MSパイロットは発艦準備だ!』

 

とうとう突撃か…俺は急いで、カタパルトに載せておいたビーム砲…いや、バストライナーの台座に機体ごと乗る。それと同時に、ジャベリン達はミサイルコンテナを手に取る。

 

「照準設定…よし、出力設定よし。」

 

コントローラパネルをカタカタと鳴らし、このバストライナーの設定を確認する。

…よし、砲台のバーニアが動いてくれているな。そんな中、ガンイージ達がミサイルコンテナを引きながら追い抜いていく。みんな速いな…。そう呟きながら、ペダルを踏んだ。

 

 

『聞いているかい。マイクロウェーブのテリトリーに入るからね』

 

ジュンコの声だ。どうやら、真正面にいるガンイージに乗っているらしい。

 

「入った瞬間に先制攻撃か…」

 

俺は遠くの方で、赤い艦隊が見える。あれがカイラスギリーか。

…!頭痛がする。どうやら始まったようだ…!

 

砲口を艦隊に向け、照準に合わせる。気持ちが悪いが30秒間耐えればいいんだ。そう自分に言い聞かせる。何故かやけに心臓の鼓動が聞こえる。…人は極限状態になると、周りが静かになるのか。ボタンに震える指先を添える。撃つという簡単な作業がこんなにも長く感じる事はあったか。

 

 

 

息を忙しなく行いながら、俺はボタンをレバーを握りしめると同時に、押した。

 

 

 

突如衝撃がコックピットに襲いかかり、極太のビームが前へと突き進んでいく。

 

 

ーーーーそして一斉に、ミサイルが放たれる。

 

 

「…ぐっ!」

 

ミサイルの雨と、一閃のビームは艦隊の方へと向かい、強烈な光が俺の目に刺さる。どうなったかなんて、砲撃の衝撃とそれに伴う気持ち悪さで確認する暇がない。

 

ミサイルを放ったシュラク隊、そしてバグレ隊の生き残りとガウンランドの部隊は前方へと果敢に向かう。

俺もそれに続かなければ。

 

バストライナーの稼働状態を確認し、俺は照準を合わせる。モニターの映像を一箇所だけ最大まで拡大させる。どうやら、バストライナーの射線上にシノーペ三隻が此方に向かって来ている。これはチャンスだ。気持ち悪さもだいぶ消えてきた。

 

「…ガウンランドやシュラク隊!俺の射線上には入るな!…巻き込まれるからな!」

 

俺は目を細め、ビームを再度放った。…モニターに映っていたシノーペが爆散する姿を目にする。どうやら命中したようだ。

次は、1つだけ前に出すぎている、アマルテア級に狙いを定める。

 

すると、機体の付近で爆発が起きた。何事かと思いきや、ゾロアットの機体が半分に割れ、漂流しているのを目にする。その手にはビームサーベルが握られていた。いつの間に、背後を取られていたんだ…!?

 

『あんた!集中するのはいいけど、目の前の事だけに捉われるんじゃないよ!』

 

ペギーの声か。あいつのガンイージがゾロアットを撃ち抜いてくれたらしい。ペギーの言葉に、俺は心を揺さぶられる。ここは宇宙。全ての方位に敵が襲ってくる可能性だってある。

こんな事に気付けなかった自分が情けない。

俺は小さく舌打ちすると、すぐに照準に合わせてビームを発射させる。射線上にいたゾロアットごと巻き込んで、ブリッジに命中した。

やったのか…!?アマルテア級は爆発に爆発を重ねていく。

 

「…やっ、やった…!艦を沈めたぞ!」

 

一瞬歓喜したが…、さっきのペギーの言葉を思い出し、我にかえる。何とか戦力は削げたものの、ぺギーの援護がなかったら、俺は何をされたのかわからないまま信じただろう。

 

土台のバーニアを動かし、次の標的を探そうとした…その時、ビームが下から土台と砲塔ごと貫き、火花が散った。

 

「…バストライナーが!」

 

すぐさまビームシールドを展開させ、土台から離れる。

俺の下方向に、ゾロアットがビームライフルを構えて此方に向かってきていた。

 

「…チッ!?」

 

飛んでくるビームをシールドで防ぎ、バルカンで牽制する。バルカンの弾はゾロアットの肩にヒットし、俺はコックピット向けてビームを放った。胸部装甲が溶け、爆散するが…

 

「….またか!?…くそ!」

 

その爆発の光に紛れ込み、もう一機のゾロアットが現れ、接近ざまに肩のビームシールドで切り裂いてきた。こちらも対応して左手でビームサーベルを取り出そうとするが、あちらは奇襲での攻撃。…間に合うはずがない。そう考え、こちらもビームシールドで咄嗟に防ぎ、脚で頭部を蹴り飛ばした。

 

 

「次はどこだ…!?」

 

辺りを見渡すと、遠くに一機のジャベリンが左腕を破壊されながらも交戦している。直ぐに援護に向かねばとペダルを一気に踏んだが、

 

「…!」

 

一閃のビームがジャベリンの腹を突き破り、爆発した。死んだのか…?ジャベリンの形骸を見て、俺は唾を飲み込む。

 

「くそっ…!」

 

俺はバーニアを吹かして、ジャベリンを撃墜したゾロアットに向かう。ゾロアットは俺の存在に気付くが…その時にはもう遅かった。

 

ビームサーベルを取り出し、薙ぎ払った。桃色の刀身が赤い胴体を斬り裂いていく。そしてモニターの前で狐目のセンサーが光る。

…!サーベルを握っていた右のマニピュレータの腕が掴まれていた。胴体の切り口がまだ三分の一にも満たしていなかった。

 

「俺だって死ねるかぁぁ!!」

 

バルカンを連射させ、機体の股座を蹴り飛ばす。AMBCAで姿勢制御を取ろうとする隙に、ライフルを放った。

 

ビームは脇の部分に擦り、小規模な爆発が起きる。

 

「…やったのか?」

 

…相手に動きがない…?爆発で死んだのか…。俺は呼吸を止めているおかげで、息を忙しなく吸ったり吐いたりしている。

そんな繰り返しの中、目の前の破壊されたゾロアットの胴体から何かが這い出る。

 

「…っ!」

 

それはあの機体の、べスパのパイロットの死体だった。ヘルメットのバイザーが割れており、そこから顔が覗いている。

思わず、息を飲み込む。その顔は、俺を見ているようであるからだ。死んでいるはずなのに、その目はまるで俺に語りかけるような…そんな目であった。

 

「…っ」

 

彼だってさっきのジャベリンを殺した筈だ。死ぬ事は覚悟していた筈だ。

 

『アンタッ!こんな所で何突っ立てるの!?死ぬよ!?』

 

「…あ、ああ…」

 

ケイトの呼びかけに、しどろもどろに答える。さっきの死体は今もなお、宇宙を漂い続けている。俺はそれを横目にし、ケイトのガンイージと共に、戦線へと戻る。

 

「くそ…!」

 

あのパイロットの顔が思い浮かんでくる。もし、俺が死んだらあんな風になるのか…?その事を考えながら、俺は唇を噛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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