連邦兵のザンスカール戦争記   作:かまらん

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第15話 新たな兵器

「…あれ?」

 

俺達がデッキに向かう途中、オリファーとマーベットの姿が見えた。あいつらリーンホースの中にいたのか。

 

「おい、ウッソは?」

 

「それがオデロ達と一緒に、シャクティを探しに行ったのよ…!」

 

「それを伝えに行こうとしてた…が手間が省けた!」

 

「シャクティ?」

 

シャクティ…?ウッソの幼馴染みの子の名前が何で出るんだ?あの子は確か地球に残って、カサレリアに帰った筈。

 

「あの子、リーンホースにいた形跡があるんだ。俺達がトリモチで塞ごうとした部屋で…その空いた隙間から、無重力空間に流れ出た様なんだ…。それでウッソは…」

 

「あの子、何で宇宙に…」

 

ケイトと同じ疑問を抱く。あの子は少し大人しめな雰囲気だったが、そんなアクティブな行動を起こすなんて。

しかし、漂流したとなると危ないな…宇宙服は来ているのだろうか。来ていたとしても酸素の欠如などで窒息死の可能性もある。

 

「とにかく、俺達もVで出撃するから手伝ってくれ!」

 

「了解、元々ゴメス大尉からお前達を探せって言われたんだ」

 

まずウッソ達を探さないとな…しかし、オリファーとマーベットがリーンホースにいたとすると、Vはウッソとして誰がゾロアットに乗っているんだ…?

 

 

 

 

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『全く、世話を焼かせる坊やだこと』

 

 

カタパルトから出撃して、数分が経つものの影が見当たらない。ゾロアットもVも白いのだから、白いものがあったら第一にウッソ達のと思えばいい…が。こう真っ暗すぎると、何とも言えない気持ちになる。マーベットはゴメス大尉に説明するため艦に残ったが、ゴメス大尉が納得できるか…。

流石に探す事に集中し、沈黙な状態に耐え切れなかったか、ジュンコがボソリと軽口を叩く。確かに勝手にMSを運用したのは悪いが、幼馴染みが宇宙で彷徨っているって聞いてじっとしていられなかったのだろう。

 

「…しかし、シャクティだけかと思いきやスージィや赤ん坊までいたとは知らなかった」

 

マーベットによると、哺乳瓶などのものが部屋に浮いていたらしい。一緒に漂流したとしたら、本格的に危ないんじゃないか?べスパに連れさられた可能性だってある。

すると、いきなりビッーと信号がコックピット内に響く。…や、やばい音量でかすぎた。

いつも戦闘で気合い入れてるから、大音量にしてあるが捜索中にこんなの流されてもうるさいだけだ。自分で大音量にしたくせに、その音に腹を立てる。

 

『…べスパのシノーペ2隻に、加えてゾロアット4機だ!!ウッソのVと捕獲したゾロアットが奴らと交戦している!』

 

やはりと言うべきか。ウッソ達は既にべスパと戦っている。ウッソがスペシャルにしても4機は無理だ。余程のMSの才能がない限り、袋叩きにあう比の数。どうか間に合ってくれ…!その望みを抱えてば期待のバーニアを最大出力へと徐々に上げていく。

『ケイト、ジュンコ、そしてメオ。10秒後には戦闘に入る!散開して1機ずつ確実に墜とすんだ!』

 

前方にポツポツと火球が浮かび上がる。いつ見てもこの景色は緊張してしまう…いい加減慣れないとといけない。片手でヘルメット越しに頭を叩き、オリファーの命令に小さく了解と呟く。

…Vが戦っている。ビームとビームの間を潜り、ビームライフルで応戦している。何とか持ち堪えてくれているが、墜とされるのも時間の問題。

 

俺はモニターに映るゾロアットにターゲットロックにさせ、標準を合わせる。バーニアを最大まで稼働させているから、その衝撃が機体に伝わって照準がブレる。

 

別に当たらなくともいい、これで多少に威嚇になればそれでいい。そう自分に言い聞かせて、強張っていた肩を徐々に緩める。

 

「…!」

 

レバーのスイッチを押す。光速で放たれたビームは、暗闇の空間を突き通りゾロアットのコックピットを貫いた。巻き起こる爆発を見た俺は、目を見開いた。

 

「くぅ!?」

 

お、俺がやったのか…?まさか、この距離で当たるとは思わなかった。

自分の射撃に驚愕してしまった。だが。今はそれどころの状況ではない。たかが一機破壊したんだ、それが何だというんだ。

 

「慢心なんかするかよ…!!」

 

慢心が綻びを生む。そしてその綻びは自分の全てを消してしまう。そのせいで組織戦の時は命の危機にあってしまった。常に状況が変わる戦場では、常に敵をどのようにして墜とすかを考えなければならない。そこに情けなんて邪魔になるだけだ。

 

「…!?」

 

10時の方向から野太い光の束が横を通る。俺はとっさにビームシールドで防御姿勢をとった。高熱のビームは横を通るだけでも熱が感じてきそうだ…あれを直に触れるとどうなるのか?

 

「あそこか…!?」

 

そこにはシノーペを守るように、前に立ち塞がるゾロアット。そのゾロアットは今まで戦ってきたやつと比べて決定的に違うものがあった。

 

いくつものアポジが搭載された土台があった。そしてそれに連結した、現代のMSの二倍の長さを誇る砲塔。SFS(サブ・フライト・システム)だ。あの大きさだと、戦艦の主砲級の威力が出るだろう。

シノーペという哨戒艇が偵察しにきただけと思ったが、あれを見ると、あの兵器のテストをしにきたという事なのか。

 

だけど好都合だ。あれを奪取できれば…こちらの戦力になる。しかし、その奪うまでの過程までが至難の技だ。あの兵器のでは掠っただけでもお釈迦になる威力。

 

そう考えていると、ゾロアットが再度に砲口に光を収束させている。また放ってくる気だ…!ここは避け…いや、ここで引き下がったら接近なんか出来ない。

 

縦横無尽に駆け巡る思考により、俺はゾロアットに向かった。射撃でゾロアットだけを撃墜するのは難しい。ならば接近戦でカタをつけるしか方法がない。

 

ゾロアットは、俺が向かって来ていることに動揺しているのかシノーペ2隻の間を通り後退する。チャンスだ…俺もこのまま2隻の間を通れば、背後にいるシノーペを盾にできる。

汚い手だが…なりふり構っている暇はない。できるだけ活用できるものは活用しないと。

俺はシノーペの間を潜り、ジグザグの軌道で接近する。ラックからビームサーベルの柄を左手のマニピュレータから取り出す。

流石に砲台とMSの速度は段違いだ。長距離も徐々に縮まり、砲台に乗っているゾロアットの姿が大きくなっていく。

 

「…!?」

 

俺の作戦は見事に外れた。砲口から極太のビームが発射されたのだ。 咄嗟に鉛直下向きに回避行動を行うが、マシンキャノンの砲塔がそのビームに巻き込まれた。この高熱のビームによってマシンキャノンが無事でいられるわけがない。

 

後ろを振り返ると、ビームがシノーペを通り過ぎ、かつてない爆発が起きていた。盾にしたとはいえ、まさか味方ごと撃ったのか…?驚愕を隠せない…が、これはチャンスでもあった。あの高威力のビーム砲を連続して放つ事はできない。

さっきと同じ、チャージする時間が必要なのだろう。

 

ゾロアットはこれ以上は危険だと、砲台から離れるが…、

 

「遅い!」

 

最大稼働で向かっていた俺に今更逃げられるわけがない。ビームサーベルを横になぎ払い、ゾロアットの胴体を溶断する。ゾロアットの装甲の為か、バターの様に滑らかに斬る事はできず、スパークが散り引き裂く様に胴体が分解した。

爆発の衝撃を受けない様にするため、直ぐにビームシールドで構えて防ぐ。

 

「…ふぅ」

 

ヘルメットを外し、額の汗を拭う。ガンイージ達の方はというと、こちらに向かって来ており、あちらも片付いた様だ。シノーペは捕獲したかったもの、ビーム砲を手に入れる事が出来たんだ、上出来だろう。

 

ウッソ達のMSや艦に損傷が見当たらない。どうやら無事だな。大事にならなくて良かった。

ビーム砲を運び、ウッソ達と合流する。やっぱり、魚の骨と蝸牛もどきもウッソに着いて行ってたのか。

 

『シノーペ達はどうなったんだ?』

 

オリファーがメインカメラを動かし、周りを見渡しながら尋ねてくる。

 

「相手がこのビーム砲で、俺ごと巻き込まれて沈んだよ。相手のパイロットはパニックを引き起こしてたかもしれないな」

 

ビーム砲をマニピュレータを使って指差し、これこれと俺が成し遂げた功績を強調させる。別に戦闘外なら慢心したっていいだろう。

 

『よし、これは有効活用できるかもしれないな…ウッソも見つかった事だし、帰還するとしよう』

 

「…そういや、俺の背中にあるマシンキャノンはどうなっている?損害状況では砲塔が溶けて、弾が発射されないらしいが…」

 

『…駄目だ、これは直しようがない。完全にキャノンが溶けて、歪んだ形になっている』

 

まじか…これじゃ、改造してくれたロメロ爺さんに面目が立たない。しかも大切な武装が無くなってしまった。これで本当に戦えるのか…?

一抹の不安を覚えながら、左フットのペダルを踏んだ。

 

 

 

 

-----

 

 

 

 

 

「おいー!!ゴメス艦長、これは独房行きだぞ!!」

 

「まぁまぁジン・ジャハナム閣下…」

 

戻って来たカタパルトデッキで、ジン・ジャハナムは怒鳴り声を上げていた。それを制止する様にゴメス大尉は両手で仰ぐ。

 

戻って来た時、ゴメス大尉は最初は怒鳴りはしたものの、マーベットが事情を話している為、ウッソの行動をそこまで咎める事はなかった。

ジン・ジャハナムは納得できなかったのか、顔をトマトの様に真っ赤にさせている。まぁあれも何とかおだてれば、直ぐに機嫌が良くなるだろう。

 

「ゴメス艦長が許してくれたんだ…さぁ行きなさい」

 

マーベットの誘導に子供達はついて行く。何となく心配だな…俺も同行するとしよう。最後尾のウッソの横に向かう。

「…」

 

後ろを振り向いてジン・ジャハナムから遠ざかるのを見て、沈んでた表情のウッソにコソコソと口を開く。

 

「あまり気を落とすな。シャクティ達がべスパに保護されている可能性だってある」

 

「はい…」

 

ボソリと呟いたウッソはやはり元気がない。赤の他人からの慰めなんて効果がないだろうが、こうしないと

 

「だったら尚更危ねぇじゃねえか…!シャクティ達がギロチンにでもかけられたりしたら…!」

 

ウッソの横にいたオデロが口を挟む。確かに危険性は無いとは言えないものの、漂流してるなら、シャクティ達がリガ・ミリティアのリーンホースにいた事はベスパにはわからないだろう。

「あいつらは飽くまでも一般人だ。まずギロチンにかけられる事はない。お前の気持ちはわかるが落ち着け」

 

「…っ…」

 

オデロが俺の言葉を黙々と聞き、手を握りしめていた。その手からは震えが見える。…スージィはオデロ達にとっては妹分なのか。

 

「そうか!ハイランドのマイクロ波を使ってキャノンを作れば!」

 

「やれるかどうかはわからないんですけどね」

 

ジン・ジャハナムとゴメス大尉の会話がこの距離でもまだ聞こえる。あの声量は指揮を取るものとしての貫禄なのだろうか。

 

「…ウッソ?」

 

ウッソは遠くから、あの2人を見ている。作戦の会話を聞いているのだろうか。何か言いたげだな…。

 

「ウッソ、お前いい案があるのか?」

 

「え、ええ…どちらかというとハイランドのマイクロ波ををキャノンに使うのは勿体無いと思うんです」

 

「…ん?どういう事だ…?」

 

「この少ない戦力でやるには、奇襲が一番と思うんです。マイクロ波の周波数を変えて、べスパの人達の体の調子を狂わせれば…」

 

なるほど、その間に攻撃を仕掛けるというわけか。確かに、さっきの戦闘でキャノン砲は捕獲できたし、そのマイクロ波のキャノンを製造する必要はない。

 

「いい作戦じゃないか。少し掛け合ってみるか?」

 

「は、はい!」

 

ウッソの表情が少し明るくなっている。シャクティが無事だと信じて、自分に今やれる事をやっているのだろう。あまり重荷を背負わない様にしなければ。

 

 




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