連邦兵のザンスカール戦争記   作:かまらん

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Vの時代でも、サラミス級残っているという事実。


第14話 関係

「すいません、ジャベリンの予備機体はリーンホースの援護の時に破壊されてしまい…」

目の前の連邦兵は深く頭を下げていた。

…何となく嫌な予感はしていた。ジャベリンの頭や胴体部が切り離されて無重力の空間を漂っているのを、ジェムズガンでカタパルトデッキの中に入る時に見てしまったからだ。

予想はしていたので怒りは湧いてこない。というよりか、ジェムズガンでどう戦えばいいかを考えなければならない。

 

「…はぁ分かった。別に謝る事じゃない」

 

こうなったら戦闘の時は、必ず誰かに着いて行く形で行動しなければならないな。孤立しない様に気をつけないと…。後ろで援護射撃しているのが丁度いいかもしれない。

 

そんな事を考えながら、艦長席での激しい争いを見る。

 

「だから!カイラスギリーの艦隊を今!!叩かないと、このチャンスは一生ないんだぞー!!」

 

「無茶を言ってるのがわからないですかい!?艦やMSが負傷している中にいったって返り討ちにあうのがオチだ!」

 

ゴメス大尉と同い年の中年男性が顔を真っ赤にしながら力説している。この男こそが、リガ・ミリティアを増設したジン・ジャハナムらしい…だけれども、その容姿はまるで狸…いや、失礼だ。

とにかく、ブリッジはゴメス大尉との意見の食い違いでこんなに大騒動になっている。現在カイラスギリー艦隊はビッグキャノンの建造中であり、その間に叩くというジン・ジャハナムの意見と、リーンホースの修理を先に済まし、完璧な状態で艦隊を叩こうというゴメス大尉の意見だ。

 

どちらかというと、ゴメス大尉の方にみんなは賛同する者が多い。俺もその一人だ。第一、艦にダメージが入ったまま戦場に投入するとなると、誤作動を起こしかねないからな。

まぁ…このジン・ジャハナムという人間性自体が嫌いな事もあるが。俺が初めて見た時、とんでもない甲高い声で止血しろと叫んでおり、とっても情けない姿だった…あれが本当に英雄のジン・ジャハナムなのか…?首を傾げながら、俺はガウンランドのブリッジから出る。

 

「…ふぅー腹が減ったな…そういや」

 

あの艦隊戦後何も口にしていない…腹が減っては戦ができないという、何処かのことわざを思い出しながらガウンランドのカタパルトデッキへと辿り着く。

 

リーンホースよりもやっぱ広いな。流石重巡洋艦といったところか。その格納庫はジャベリンが多数並んでいる。色々な怒声や整備の合図が聞こえており、活気溢れている。まだまだ連邦も捨てたもんじゃないな…。

一人ポツンと立っているジェムズガンの元へワイヤーガンで向かう。なんやかんやいってジェムズガンにも愛着が湧くもんだ。長年付き添っていたパートナー見たいなものだからな。

 

「修理はもう大丈夫ですぜー!」

 

「ああ、助かる」

 

ガウンランドの整備士が遠くから手を振ってくる。それに応じて俺も手を振り、そのままコックピットへと乗り込む。

 

ジェムズガンでリーンホースの所まで向かおうとしたが、そこで小さな蝸牛(かたつむり)の様なものがリーンホースのカタパルトデッキから出ている…。何だあれは…?

ペダルを軽く踏み、バーニアを少し吹かしながらその蝸牛もどきに近づく。

 

「何やってんだ?」

 

『あ、メオさんですか?今稼働テストをしているんです』

 

カタツムリの中で、エリシャが掌をひらひらさせている。何とも変な形だなぁ…。ハイランドの子供達はこんなのに乗っているのか…何ともいえない形なものだ。

 

「これは君達が作ったのか?」

 

『はい!ハンドメイドです。宇宙で生きる為には、船は必要不可欠ですから』

 

凄いな、あの歳で船を作るとは。宇宙で生活するのは難しいんだな…

 

「あまり遠くに行かない様にな。べスパと接触したら危ない」

 

『『はーい!』』

 

一斉に元気な返事が聞こえる。最初会った時とは全然違う態度だな…接しやすいと思っているのか、それとも単純に舐められているのか。

 

蝸牛もどきの横を通りすぎ、俺はカタパルトへと向かう。機体を誰かのガンイージと隣り合わせにし、足の部分を固定させる。

…よし、これでジェムズガンがデッキから離れる事はない。

 

俺はコックピットを開け、艦の内部へと続くドアに向けてワイヤーガンを放った。この動作もだいぶ体に染み込んできた。

…ん?

 

「ゾロアットか」

 

V、ガンイージなどに並んで白いゾロアットが立っている…何度もゾロアットに危険を晒されたためか、味方機であったとしても少し心臓がビクリとしてしまう…。

しかし、よくこんなの捕獲できたな。どんな手を使ったのだろうか。 ゾロアットの足元を見ていると、パイロットスーツを着た二人が何か口論している。…よーく見てみると、ジュンコとオリファーじゃないか。二人とも、どこか沈んだ表情だ。

何しているだろうと、ドアにつけていたワイヤーを巻き、二人の元に発射させる。

 

「何争っているんだ?」

 

二人は俺の存在に気付き振り向き、オリファーとジュンコは少し目を見開くが、またさっきの表情を浮かべる。ジュンコはそのまま何事なく、立ち去ってしまった。

 

「…おいジュンコ!まだ話は終わってな…」

 

遠ざかるジュンコに、オリファーは伸ばしかけた手をカクンと下げ、溜息を零す。さっきのギスギスした空気だと、何やらワケありのようだ。職場での人間関係は面倒くさいからな。戦闘の時にこの人間関係の縺れが障害になるかもしれない。ここは一肌脱いでるか。

 

「どうしたんだオリファー?」

 

「…メオか。ジュンコの事なんだが…最近あいつが戦闘の時に真っ先に突っ込みに行くんだ。まるで死に急ぐように」

 

「確かに、その節は見てたな。前にその事を言ったが、どうにも逆鱗に触れてしまったようで…こっぴどく反撃を食らった」

 

俺の言葉に、オリファーはやはりかと頭を抱える。

 

「何故かはわからないが、マーベットと仲が悪いみたいなんだ。二人の話を聞いても、何かうわべっつらな…重苦しい雰囲気だ…。どうすりゃいいのか」

 

マーベットと仲が悪い…。マーベットはオリファーの恋人…。ジュンコはオリファーの部下…ああなるほど、理解した。これは完全に…

 

「三角関係だな…」

 

「さ、三角関係!?どう言う事だメオ!」

 

白々しい事にも程がある。何がどう言う事だ、だ。どう考えても、マーベットとジュンコは恋敵という事じゃないか。…いや、既にオリファーとマーベット同士はデキているのだから…恋敵と呼ぶには少し 違うかな?

前言撤回。バッカらしいと、俺は踵を返す。何でこいつの恋愛事情の尻拭いを手伝おうしたんだ俺は。

 

「助言しておこうか」

 

「おい待てよ!何がどういう事なんだ!?」

 

よくよく考えてみれば、この問題は三人達が自分自身で解決しなければいけない事。そんな中で第三者の俺が入ったら余計混乱するだろう。

 

「ハッキリと言っといたほうがいいぞ」

 

オリファーの態度に少し腹が立ったのは、嫉妬ではない…嫉妬じゃない。

 

 

-----

 

 

 

「ふう…お、ハンバーガーか」

 

 

艦内のランチルームに向かおうとしたが、道中にハンバーガーや、ホットドッグなどのジャンクフードの自動販売機があった。手軽に食べたいという願望もあるから、ランチルームで食べるのはやめてここで腹を満たす事にしよう。

 

「どれがいいかな…」

 

ハンバーグの種類が数種類あり、イメージ写真を見るとどれも美味しそうに見える。…まぁ実物はこれよりも貧相なものだが。一番ボリュームのありそうなヤツを決め、スイッチを押す。取り出し口からハンバーガーを手に取ってみると、

 

「やっぱりな」

 

野菜はたくさんあるものの、ミートパテがイメージ写真と比べて小さ過ぎる。しかもパンがしなびれている。

MSなどの兵器の技術は上がっても、こういう生活上の物は大したことがない。本来はそれが逆になるべきなんだがな。俺はそのまま袋を開けてハンバーガーを齧る。

 

「メオじゃない」

 

自分の名前を呼ばれ、前方を見ると小さな休憩所に、ジュンコとマヘリア以外のシュラク隊、そしてオペレーターのネスがベンチや椅子に座っていた。ここから見ると、まるで高嶺の花の様で、別の世界にいる様な感じであった。だが、シュラク隊の奴等の横暴な性格は分かっていたので、すぐに我に返る。

 

「女達の駄弁り合いか?」

 

「あんた失礼な物言いだね…。一時の休憩ってヤツだよ」

 

溜息をつかれ、ヘレンはやれやれという感じで首を横に降る。何故こんなに呆れられているんだ?ハンバーグを再度齧りながら、ベンチの隅っこで座っているネスを見る。ネスは俺の視線に気付き、苦笑いをして会釈する。

 

「お前ら…ネスの事をもう少し気遣ってやれよ。肩身が狭そうだぞ」

 

年上が周りにいると緊張してしまう。それは俺も昔体験した事だ。話題も違うし、どう話せばいいかわからないしな。

 

「い、いいえ!中尉、大丈夫ですよ!シュラク隊方々の貴重な体験談を聞くことができて嬉しいです」

 

「体験談…?」

 

「内緒だよ。これは女の秘密なんだから」

 

ネスの顔が真っ赤だ…しかも体験談って言い方。これ以上は深く追求しない方がいいかもしれない。俺の勘がそう伝えている。どう考えても嫌な予感しかしない…ハンバーガーを口に押し込み、包装紙をゴミ箱に投げ入れる。

 

「マヘリアの調子はどうだ?」

 

「マヘリアかい?足の回復は順調に進んでいるよ。カイラスギリー艦隊の戦闘までは間に合わないけど…」

 

コニーは小さく何かしらのドリンクを飲みながら、俺の質問に答えてくれた。あんなので腹が満たすものなのか…?もう少し俺みたいに、ガッツリとしたものを買った方がいいと思うが、女性であるので敢えて言わない。

 

「あらら、マヘリアの事まだ心配しているの?」

 

ヘレンがニヤニヤとした表情で俺に近づき、脇腹を肘で突く。なんかウザったらしいたらありゃしない。俺はヘレンの肘を手で振り払う。こいつらのペースに飲まれたら駄目だ。質問責めに遭う羽目になる。

「貴重な戦力だから確認しとくのも当たり前だろう」

 

マヘリアのガンイージはケイトが乗っている。ケイトのはジブラルタルのマストドライバーに柱として残ったからだ。なので、マヘリアの奴は実質失ったようなもの。

何となくケイトを見るが、そっぽ向かれた。よくわからないな…あいつ。

…いかん、腹の中が満たされると眠くなって来た。欠伸を口で抑えながら、踵を返す。仮眠でも取るとしよう。

 

「…んじゃあ俺はここで」

 

「あら?寝るのかい」

 

手を掲げながら俺はああと小さく呟き、ベッドルームで一休みしようと向かおうとしたが、

 

『リーンホースとガウンランドのクルー、及びパイロットはリーンホースの指令室に来てくれ。作戦の内容を説明したい』

 

艦内で響き渡る、ゴメス大尉のガラガラした声がそれを制止する。あの人の声はホント頭が痛い。あの人が俺の上司になってからはあの声が目覚まし代わりになっていたなぁ…。ホント、寝させる暇もさせないつもりか。

 

「叶わぬ夢だったねメオ」

 

ニヤニヤとするケイトとペギー。…とても腹が立つが、今は艦内放送通りに行動するのが先。後で懲らしめてやろうと、手を握りながら決心する。

 

 

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「…三人はどうしたんだァ!?」

 

指令室内で、鳴り声が響き渡る。やっぱりうるさいな…室内にいるやつら全員耳を塞いでいる。声主であるゴメス大尉は、スクリーンを大きく叩く。ちゃんと力加減してんのか…?

ウッソとマーベット、オリファーの席が空いているが、まさか遅刻というわけではあるまい。そんなの真面目な奴等に限ってあり得るのだろうか。そんな疑問を抱いていると、整備士が息を荒くして指令室に入ってきた。

 

「ゴメス艦長!Vと捕獲したゾロアットがないです!あと、ザンスカールの魚の骨も…」

 

「そういやあの蝸牛もどきも稼働テストとか言って、どっか行ってたな…」

 

近くで連邦兵がこそこそと話している…今思えばエリシャの言葉が、演技みたいだったように思えてきた。

 

「…なにい〜!いうことはあいつらリーンホースから出たのか!?」

MSに乗ってどこかへ行ったということか?両親を探すしか、理由が思い浮かばないが、ウッソは自分の為に勝手に動くような子供ではない気がする。

 

「オリファー隊長はどうしたんだい?」

 

隣に座って、机に肘ををついているジュンコが俺に尋ねてくるが…ジュンコが去った後に、俺は話を少しして食事に行っただけだ。オリファーのその後なんてわかるはずがない。

 

「…メオ!」

 

いきなりの呼び掛けに俺はビビる。この流れだとまさか…

 

「あいつらを探して来てくれ」

 

俺の予想はやっぱハズレないな…悪い意味で。ジャベリンの補給の件似たデジャヴを感じながら、俺は肩をガックリと下げて重い腰を上げる。ゴメス大尉のパシリじゃないんだぞ俺は。いや上司と部下という関係なら、そうかもしれないが。

 

「ゴメス艦長、私も探しに行きます」

 

「私も行きます」

 

隣のジュンコと、近くにいたケイトが立ち上がり、俺にアイコンタクトする。どうやら手伝ってくれるらしい。何とか助かるな…2人もいると心強い。…だけどジュンコは良いのだろうか。マーベットとオリファーと会っても重苦しいだけと思うぞ。

 

「三人か…探すには丁度いい数だ。くれぐれも敵との接触は避けるように」

 

「了解しました!」

 

…あいつら、まさかべスパと遭遇してしまったのだろうか。いやそれはないと信じたい。俺は心の中で必死に願った。

 




ザンスカールのMSのプラモ…ホシイ。
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