連邦兵のザンスカール戦争記   作:かまらん

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第12話 艦隊戦 前編

「おーい!ジェムズガンのバルカン砲!補給を頼む!」

 

「もう少し待って下さいよ!!ただでさえ人手不足なんですから!」

 

 

カウボーイハットを被っているメカニック、クッフは俺の呼びかけに対してレンチを横に振る。全く、リガ・ミリティアはもう少し人員を増やせる事ができないのか?そのお陰で、MSデッキ内は慌ただしく人が行き交う。

ハイランドへの距離は大分短くなってきた…じきにウッソ達と合流できる。そういやウッソは親探しの為に、シャトルへと乗り込んだ訳だが…何か手がかりでも掴めたのだろうか。

 

 

「チッ…、仕方ないか」

 

軽く舌打ちをしながら、ジェムズガンの頭を蹴る。その反動で俺の身体が下へと下降していく。無重力での移動も大分慣れてきた…が、慣れたとしても、やはり恐怖が消える事は無い。意識がフワフワと浮かんでいる気分が、俺にとっては気持ち悪い以外の何物でも無い。

 

そういえば、喉が渇いていたな…MSの整備が忙しいせいでそんな欲求も忘れていたようだ。急な出撃があり得るかもしれない…今の内に水分補給しておくか。

ワイヤーを使って、MSデッキの出口へと向かう。コロニーに住んでいる人達は、これが日常茶飯事なんだろうな。その人達にとって。地球の重力はどういうものだろう?

そんな疑問を抱いていると、あっという間にドアの前にたどり着く。ドアが勝手にスライドし、俺はそのままロビーの通路へと向かう。

 

「給水場は何処にあるっけ…?」

 

戦艦ってのはあんまり好きじゃないんだよな…道が長いし、複雑に通路が入り組んであり迷ってしまうので、不便極まりない。もう少し乗員に優しい設計して欲しいものだ。そんな要望を思っていると、ふと、少しドアの隙間が空いているロビーがある。

 

 

「何だ…故障でもしているのか?」

 

 

そのスライドドアは自動で開く事ができず、俺は無理やりドアを引く。すると、ロビーの中から何かしらの毛が出てくる。その毛は無重力空間を漂い続けており、ロビーのそこら中にある。その毛をつまみ、目に近づけてよーく見る。人間の髪の毛…じゃないな。これは…

 

 

「犬の毛…か?」

 

 

何でこんな所にあるんだ?ここに犬とか飼っている…訳ないよな。犬と思えば、ウッソの飼っていたフランダースしか思い浮かばない。しかし、そのフランダースはシャクティと一緒にカサレリアという、田舎へと帰って行ったはずだ…。

そんな事を考えていたその瞬間、艦内で急な衝撃が襲った。それにより、俺はロビー内をぐるりと回ってしまう。そして、近くにあった椅子へと頭をぶつけた。

 

「うおおっ!?」

 

気が動転し、慌てて古臭いロビーを出る。まさか…いや、敵襲だ。遂に宇宙での戦闘が始まるんだ。

 

「死ぬんじゃねえぞ…俺」

 

手に掴んでいた毛を投げ払い、直ぐにMSデッキへと向かった。

 

 

------

 

 

『機体の修復を中止!総員、第一戦闘配置だ!!MS隊はリーンホースの前方空域をカバーしてくれ』

 

 

艦内放送が流れるデッキ内で、俺はヘルメットを被りながら、コックピットへと座る。コントロールパネルでモニターを起動させ、バルカン、ビームライフル、などの装備弾数を確認する

 

しかし、大分俺もMSの扱いに慣れてきたな。この一連の動作が無意識にできる。前は警備や作業で偶にしか動かさなかった事もあり、あまり手つきが良くなかった。しかし、戦闘を重ねていくうちに腕が上がったようだ。…嬉しいのやら、悲しいのやら。

 

『メオ、聞いているかい?ここからの戦闘はミノフスキー粒子で無線が効かない。敵や味方の動きを的確に見て、冷静に動きな』

 

 

そんな事を考えていると、ジュンコからの通信が繋がる。リーンホースはミノフスキー粒子を散布しているらしいな…という事は、いよいよ艦隊戦が始まるのか。

 

「了解…俺はなるべく、シュラク隊を後方支援する。…あと、あんまり突っ込まない方がいいぞ。敵だって棒立ちのカカシじゃないんだ」

 

 

何故か、俺の口からは無茶はするなと暗に伝えてしまった。俺は、自分の放った言葉に驚愕してしまう。何となくジュンコが死に急いでいるように感じる。

 

 

『アンタ!!私をからかっているのかい、何が棒立ちのカカシ!?そんな常識、とうの昔に知っているよ!突っ込むな、なんてアンタに言われる筋合いはない!』

 

 

俺の言葉が癇に障ったのか、ジュンコは激昂し声を荒げる。不味いな…逆鱗にでも触れてしまったか?

自分の発言に後悔しながら、ヘルメット越しに耳を手で塞いでいると、そのままジュンコからの無線がプツンと切れた。一瞬の出来事に目を丸くし、心臓の高鳴りを鎮めるように胸を押さえる。

 

 

「これからの自分の発言には、気をつけないとな…」

 

 

戦闘が始まる状況で、そんな呑気な事を言える俺のメンタリティの成長さに感心する。…とシュラク隊のガンイージが出撃し始めた。

ベスパのゾロアット…どんな立ち回りで撃墜しなければいけないのか。シュラク隊の対応を真似てみるとしよう。

 

シュラク隊の全員がカタパルトから離陸し、次は俺の番だ。ここからは無線も繋がる事が出来ないので、自分の判断能力が問われる。とにかくだ、死という最悪な結末は避けなければいけない。死んだらそこで何かもが無意味になってしまうからな。

 

 

「メオ・マルス、ジェムズガン出る!!」

 

 

わかっていても、やはりカタパルト出撃にかかるGは驚いてしまう。しかし、これは前の模擬戦とは違い、本当の戦いなんだ。こんな事で根を上げるなんてする暇がない。今は、彼方にある戦場へと集中しなければ。

 

「これが…宇宙か…!!」

 

 

所々、ビームなどが飛び交い、そして火球が浮かび上がる。まさに激戦区だ。あの乱戦ならば、何が起きているのかの判断がわからない。そのお陰で、味方の攻撃にやられる可能性だってある。

 

 

「…!!」

 

前方にガンイージが、赤色のMS…いや、あれがゾロアットなのだろう。その2機がビームサーベルで斬り合っている。こんな戦場で接近戦なんて、度胸があり過ぎだろうと眉を寄せる。

するとその間から、もう1機目のゾロアットが背中にあるビームキャノンの砲口をガンイージへと向けている。

 

 

「やばい…!!」

 

 

取り回しの良い、前腕に装備しているビームガンでゾロアットの砲撃を妨げた。ゾロアットはビームが飛んできた方を見て、猫の目のセンサーをギラギラと光らせる。ゾロアットの顔が、邪魔されて激怒した様な表情にも見えた。

すると、こちらへと狙いを変えたゾロアットがビームキャノンをこちらへと放った。

 

「くっ…!」

 

ビームシールドで防ぐものの、あのビームは出力が高く、ビームとビームがぶつかり合った衝撃では、こちらの方が物凄く大きい。少しバランスが崩れたジェムズガンの姿勢を微妙なアポジ加減で元に戻しながら、ビームライフルを2、3発放った。腕には、ビームシールドの発生装置が無い…これならビームライフルで仕留める事ができる…と思っていたが、

 

「何…!?」

 

ゾロアットの肩にあるバインダーから、ビームシールドが展開される。あんな所にあったのか…ベスパのMSは侮れないと改めて思い、接近させない様に、足についているアポジで後退する。

ビームはそのままシールドに難なく防がれる。こちらへと前進しながら、防いでおり、何も怯んだ様子が見られない。やはりあちらの方が機体の出力が高いのか…そりゃそうだ、こちらは少しの改修レベルだぞ?ゾロアットは主力機。その差は歴然だ…が、だからと言ってやられる訳にはいかない。

 

 

「こんのおおぉ!!」

 

 

背中の砲口から、無数の弾丸を発射させる。かなりの弾丸がばらつき、まるで散弾の様だ。…だけど今の状況では都合が良かった。何故なら今はこちらへと接近させないのが目的。散り散りと放たれる弾丸は、それにもってこいの代物だからだ。

ゾロアットは、バインダーのビームシールドで防ぎながらも、無造作に襲いかかる弾にたじろぐ。やはりその通りだった。これならどんな性能差があろうとも、撃墜ができるかもしれない。

 

そのたじろいだ隙を逃さずに、マシンキャノンを放ちながら左手にビームライフル、右手にビームガンを乱射させる。この小柄な機体での一斉射撃だ。こちらにかかる反動は、とてつもなく大きい。しかし、今は撃墜する事に専念しないといけない。反動を奥歯で歯軋りしながら耐える。

 

 

「…堕ちろぉぉ!!」

 

 

俺の叫び声がヘルメットに振動として伝わる。前方の敵は自分を撃墜しようとしているのだ。先にやらないと、こちらがやられてしまう。そんな事を言い聞かせ、レバーを握り締める。

 

「避けようとしてるのかよ!野郎…!!」

 

スラスターを巧みに動かしながら、流暢にゾロアットが射線を潜り抜けようとしている。このままでは、こちらの懐へと突っ込んでくる。それだけは防がなければいけない。

 

発砲している途中で、銃口の方向を移す。射線変更した事により、ゾロアットに弾丸の雨が降り注ぐ。先程のダメージが蓄積されたのか、ビームシールドの発生装置があるバインダーを破壊した。機体を守る術が無くなってしまったゾロアットは、がむしゃらにビームキャノンやビームライフルを乱射する。

 

 

「なぁっ!?」

 

 

ビームシールドで防ぐが、無数のビームに俺もたじろいでしまう。このままでは、敵機を破壊するチャンスが無くなってしまう。

守るばかりじゃ駄目だ…攻撃は最高の防御という事が本当だってのを見せてやる!

 

 

防御として用いていたビームシールドを解除させて、引き続き攻撃に専念する。ビームの弾頭がこちらへと向かう。だが、相手はがむしゃら…無造作に発砲しているだけだ。当たるわけがない…そう、当たらないんだ。恐れるな、俺。

恐怖を抑えるように、手を握り締める。力が入り過ぎて逆に震えてしまっているが。

 

 

「当たれ…当たれぇ!!」

 

 

そう呟きながら、こちらへと向かってくるビームに、目を細くしながら横目で見る。震える手で、ビームライフルを放った。その1発は見事にコックピットを貫き、ゾロアットが爆散する。

 

 

「くっ…!?」

 

 

爆散の光に対して、俺は目を細めながら見る。ゾロアットの破片が散り散りと宇宙に流れていた。

 

 

「やったのか……」

 

 

機体の破損状況を、モニターで確認する。流石に無理に動かした為か、駆動部にダメージがある。だけど性能が格上のゾロアットを撃墜する事ができたんだ。これだけでも、俺は賞賛に値するだろうな。自分自身で褒め称え、機体を360度回転させる。

だからって、このまま帰るわけにはいかない。まだ味方が戦っているだろうから。

 

 

「ゾロアットを撃墜した事を報告したら…やっぱ俺はエースパイロットってか?」

 

 

異名が付いていたら尚更いい。かの連邦の白い悪魔なんて、カッコいいからな…。

…いかんいかん、完全に浮かれていた。まだ戦闘中なんだ、気を張り巡らせなければ。

 

 

俺は自分に鞭を打つように、ヘルメットを叩く。早くシュラク隊と合流しなければ…レバーを押し出し、機体を加速し続ける。流石にバックパックは破損していないようだ。推進力が安定している、

…だが、その加速が仇となった。

 

 

「…っ!?」

 

 

前方に、ワイヤーが網状に待ち構えていたのだ。俺は前面に装備していたアポジモーターでブレーキをかけるもの、加速での急なブレーキだ…直ぐに止まるわけもなく、網へと一直線に突っ込んでしまう…!

 

 

「うわぁぁ!?」

 

 

網にかかった魚の如く、機体の全身にワイヤーが絡みつく。そのワイヤーは紫電の光を帯びており、まるでビームのようだった。その紫電が俺に対して襲いかかる様に、光っている。

 

 

「…っあ…!?」

 

 

コックピットを通じて、電撃が俺の身体に侵入する。初めて感電した身だ。未知なる痛みにより、叫びすらもままならない。

そして、今まさに最悪な事となっている。

 

 

「動かない…手が…手がぁ!?」

 

 

レバーを握り締めていた両手が、思うように動かない。脳では動かせと命令しているのに、動かない。レバーを動かさなくなった事により、機体はその空間で佇んでいる。

 

 

「…な…あ、あいつか…!!」

 

 

呂律が回らない口で、バインダーからワイヤーを射出しているゾロアットを目にする。このワイヤーがユカの言っていた兵器なのか…完全に敵を甘く見ていた。この戦闘中で、軽口なんか呟いた所為だ…!!

 

自分の未熟さに、怒りを覚える。その激しい感情で奥歯がギシギシと軋みあう。ゾロアットがそのまま、ビームキャノンの砲口をこちらへと向ける。奴はコックピットを狙うつもりだ!

早く、早く避けなければ…!!だが、高圧の電流を受けた身、全身のあらゆる部位が震えており、動くことができない。

 

 

「…動けよ…動いてくれよ、頼むよ…動いてくれ…死にたくないんだよまだ…!!」

 

 

砲口から、俺にとっては死の閃光である…ビームが放たれた。

 

 

 

 

 




Gジェネのジャベリンの武装の豊富さは異常
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