魔法少女リリカルなのはstrikers Return of a soul   作:K-15

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第5話 違う世界、なの

シャマルが居る医務室へと来ると、自動でロックが解除されドアが開く。

清潔な室内では少し消毒液のニオイが鼻に付く。

設置されているデスクには、白衣を纏うシャマルの姿。

 

「シャーリーさん、どうなさいました?」

 

「いえ、彼女の事が少し気になりまして。様態は?」

 

「今はぐっすり眠ってます。ヴィータちゃんと戦った時のケガも治療しましたから、暫くすれば良くなる筈です。でも彼女は……」

 

神妙な面持ちになるシャマルは隣のベッドに眠る彼女に視線を向ける。

見た目は普通の少女の様にしか見えない。

ロストロギアを体内へ埋め込まれた状態の彼女の状況は、昔のシャマル達と少し似ている。

自然とそう言う目線で見てしまい、自分達と重ねあわせてしまう。

 

「体内に宿したロストロギア。その性質を詳しく調べない事には摘出は無理です。彼女の体だけじゃない、どんな被害が出るかわからない」

 

「その辺りは上層部も認めてくれるでしょう。でも問題は、これからの彼女の扱いです。はやてさんが何とかしてくれると思うのですが」

 

心配する2人は再び彼女の方を見ると、意識が戻りかけたのか小さく声を出した。

 

「んっ!! う゛ぅっ!?」

 

「大丈夫? 目が覚めた?」

 

早足で駆け寄るシャマルはすぐに様態を確認する。

ゆっくり目を開けた彼女は、室内の明かりに慣れずまだ視界があやふやだった。

数十秒時間を掛けて目を慣らし、ようやく周囲の景色を把握してから、ようやく口を開けて声を出す。

 

「ここは……」

 

「ここは機動六課の医務室です。体は痛くない?」

 

シャマルの問い掛けにすぐには反応できない。

呆然と目に映るモノを見るだけ。

その状態がまた数十秒と続き、静かな空気だけが室内を漂う。

誰も言葉を発さず、時間だけがゆっくり流れる。

それから目覚めた彼女の脳もようやく覚醒し、さっき耳にした言葉が体に電気信号を流す。

 

(また見た事のない所、コイツも初めて見る人間だ。服も変わってる)

 

目を見開く彼女は警戒心をあらわにする。

神経過敏な状態の彼女を動揺させないように、シャマルはゆっくりと優しく声を掛けた。

 

「手荒に連れて来た事は謝ります。でも安心して。ここは――」

 

言葉を出し切るよりも早くに彼女は、クレアはベッドから飛び出した。

とにかく走る、前に向かって走る。

水色の検査衣だけを身に纏い、とにかく走った。

シャマルは止めようとするが既に遅く、咄嗟に伸ばした手から遠く離れて行く。

シャーリーの元も一瞬の内に駆け抜けて、開放されたままの医務室から出て行ってしまう。

 

「待ちなさい!! 誰か!!」

 

静止する素振りもなく、医務室から出たクレアは右に左に顔を向ける。

広く長い通路、どこへ繋がるのかもわからない。

それでも立ち止まる事はせず、勘を頼りに左の通路へと走った。

全身の筋肉を活用して全速力で進む先、突き当りに差し掛かりそのまま左に曲がった瞬間、裸足のままの足が宙に浮く。

曲がった先には人が居り、避ける間もなくぶつかってしまう。

衝撃が体に伝わる。

感じた時はもう遅く、右腕を下敷きにして為す術もなく倒れた。

激しい音と同時にそれとは違う鈍い音が聞こえてしまう。

 

「ぐぅっ!?」

 

「イタタ……ちょっと急に……アナタ!?」

 

右腕の骨が折れた事を脳が感じ取り激痛で訴え掛ける。

耐える痛み。

次第に全身から汗がにじみ出るが、歯を食いしばりもう片方の手で折れた箇所を押さえながら、膝立ちでぶつかった相手に振り返った。

そこに居たのは以前に戦った相手。

黒い制服に長髪のブロンド。

尻もちを付く彼女、フェイト・テスタロッサ・ハラオウンが目の前に居た。

 

「あの時の……って事は、ここが管理局って所か?」

 

「もしかして、逃げ出して来たの?」

 

「くっ!! 捕まってたまるか!!」

 

立ち上がるクレアは再び走りだそうとするが、黄色のバインドに瞬時に体を拘束されてしまう。

動けないように上半身と両足が固められた。

抜け出す事もできず、動く事もままならない状況。

必死に体を動かして逃走を図るも無意味で、ハイヒールのカツカツと鳴る音が近づいて来る。

クレアを捕まえたフェイトがすぐ目の前にまでやって来た。

 

「ここから逃げ出そうだなんて。そんな事をすればアナタの立場がもっと悪くなるってわからない?」

 

「わからないね。アタシはアタシの好きなようにするだけだ」

 

「それがこの前の戦闘なの? 無差別に一般の人を襲ったのも?」

 

「そうさ。そうしないと……ぐぅっ!?」

 

痛みに思わず顔を歪めた。

突然変わる表情にフェイトもそれに気が付き、同じくして医務室から追い掛けて来たシャマルとシャーリーも追い付く。

 

「ちょっとアナタ、もしかしてさっきぶつかった時に。どこかケガをしたの?」

 

「お前には関係ないだろ?」

 

「そんな事ありません!! そんな痛そうにして、今度は暴れないで下さいね」

 

言うとフェイトは上半身のバインドを解いた。

左手で押さえる腕を見ようとするが、警戒心をむき出しにするクレアは爪を突き立てて腕を振る。

 

「フンッ!!」

 

「っ!?」

 

空気を裂く。

寸前の所で足を後ろに引いて避けるが、彼女の人差し指の爪の先端が赤い。

フェイトの頬は浅く引き裂かれ、一筋の赤い線ができると少量の血が流れだす。

 

「外した……アタシに触るな!! お前らなんて――」

 

「触らないとキズが見れないでしょ?」

 

今度は自由に動かせる左腕が拘束されてしまう。

見るとシャマルがバインドを発動させていた。

 

「フェイトさん、大丈夫?」

 

「えぇ、私は何ともありません。それよりも彼女の方が」

 

「わかりました。取り敢えず、2人とも医務室に来てくれる?」

 

4人はシャマルの医務室へと戻ると手当を受ける。

フェイトのキズはたいした事はなく、すぐに治療魔法により元通りに回復した。

ベッドに寝かされたクレアはまた逃げられないようにバインドで拘束されたまま、シャマルが負傷した右腕の状態を見る。

赤く膨れ上がる皮膚。

それは痛みを表現してるかのよう。

 

「骨が1本折れてる。でも、これくらいならすぐに治るから。それにしても、ここまで反抗的な人も珍しいかな。どんな人でも捕まったら諦めるモノなのに」

 

「良いだろ。アタシは誰の言う事も聞きたくないだけだ。自分の思う通りに生きる」

 

「そう思うのは勝手だけど、はやてちゃんの迷惑になる事は見逃せない。幸いにも他の人には見つかってないみたいだから穏便に見るけれど、暫くはここから出られないと思って」

 

クレアはシャマルを睨み付けるだけ。

骨折した腕を治療して貰っても感謝の一言すらない。

様子を見てたフェイトはベッドの元まで行くと、優しく話し掛けてみた。

 

「私はフェイト・テスタロッサ・ハラオウン。アナタの名前は?」

 

「なんで……そんな事……」

 

「どうしてかな? 昔の自分に似てるって思ったからかも。猪突猛進、周りの事が全然見えてなくて、自分が傷つく事を厭わない。幼い頃の私もそうだったから」

 

「お前、何が言いたい? そう言えば言う事を聞くとでも思ってるのか?」

 

「ううん、違う。ただ純粋に、アナタの事が知りたいから。名前、教えてくれる?」

 

自然と和らぐ警戒心に口が開いたまま。

心の中で自問自答しながら、それでも相手の表情や敵意は見逃さないように。

笑みを浮かべるフェイトはそっと手に触れて来た。

両手で抱える手、触れ合う肌から伝わるぬくもりに瞳から1粒の涙が溢れる。

 

「クレア……」

 

「クレア? それがアナタの名前?」

 

「なんで……なんで涙なんて溢れるんだ!! わからない!!」

 

「もう大丈夫だから。もう誰も、クレアを傷つけたりなんてしないから」

 

泣き出すクレアの体をフェイトは正面から抱き締める。

彼女の体から伝わって来る熱は、人間のソレを同じだった。

 

///

 

上層部との長い会議を終えたはやては、機動六課本部の自室に備え付けられたソファーに全体重を預けた。

溜まった疲れがどっと押し寄せ、手足どころか指1本すら今は動かしたくない。

制服から着替える事もせず、ただただ脳と体を休ませる。

様子を見ていたリーンフォースは、冷蔵庫から水の入ったペットボトルを小さい体で抱えて来た。

 

「はやてちゃん、大丈夫ですか?」

 

「わかってはいるんやけどな、疲れる時は疲れるもんや。ありがとな、リーンフォース」

 

「はいです」

 

ペットボトルを受け取るはやてだが、キャップを外しもせず両手に抱えるだけ。

ジェイル・スカリエッティ事件を解決してまだ半年。

裏方としてみんなを支える役目に徹するはやてだが気苦労は耐えない。

 

「今回のミーティングも長かったですね。やっぱり、あの少女とロストロギアの事です?」

 

「そうや。それと、これからの彼女の扱いに付いて。神経も疲れたし大変やったけど、なんとか取り付けたわ」

 

「これからどうするのです? 検査も進めないと、ロストロギアの出所も掴めません」

 

「そうや、だからさ。リーンフォース、フェイト執務官を部屋に呼んでくれる?」

 

「フェイトさんを?」

 

頭に疑問を浮かべながらもリーンフォースは指示に従う。

フェイトに念波を飛ばしはやてに言われた通り部屋に来るように伝えた。

それから30分後、部屋にフェイトはやって来る。

制服を正したはやてはデスクの椅子に座りながらフェイトを招き入れた。

 

「忙しい中で呼んだりして悪いなぁ。私もちょっと前まで会議やったんやけど、報告せなあかん事があって」

 

「ううん、大丈夫だよ。それで、報告って何かな?」

 

「ロストロギアを所持した少女の事なんやけど。この事で上層部と揉めてな。でも、なんとかこっちの管轄には持って来れた。あの娘、もうケガは大丈夫?」

 

「少し前に目を覚ました所だよ。名前はクレア。それまでに色々あったけれど」

 

「へぇ~、クレアって名前なん。それじゃ本題に入るけれど、フェイトちゃん……」

 

ニンマリと笑うはやて。

ギュッと体を固くするフェイトは嫌な感覚を覚えるが、今更逃げ出す事もできない。

生唾をごくりと飲み込み、ゆっくり口を開きはやてに問い掛けた。

 

「なに……かな……」

 

「そのクレアって娘、暫くの間預かってくれへん?」

 

「えええぇぇぇッ!?」

 

思わず大声を上げてしまう。

動揺するフェイトを畳み掛けるべく、はやては言葉を続けた。

 

「今はなのはちゃんも出張中やし、部屋は空いてるやろ? ちゃんと手当も付けるから」

 

「でも……家にはヴィヴィオも居るんだよ?」

 

「何か問題があるようなら応援も送るから。ホント、この通りや」

 

「それってどれくらいの期間なの?」

 

「1ヶ月……いや、3週間で良い!!」

 

はやての必死のお願いに悩むフェイト。

腕を組みこれから先の事を考えるが、同居人であるなのはに連絡をすぐには取れない。

自分の独断で決定せねばならず、その為の時間も迫られている。

両手を合わせて頭を下げるはやてを見て、肺に溜まった空気を吐き出した。

 

「はぁ、わかった。ちゃんと手当も付けてよ?」

 

「ありがとう!! その辺りの事はちゃんとやっとくから」

 

「それで、クレアを預かるのっていつから?」

 

「エヘヘッ、それがぁ……今日から頼める?」

 

「今日から!?」

 

「手続きも急がんとあかんのよ。機動六課の施設内にも彼女は置けないって上層部がうるさくて。急場しのぎでこうするしか思い付かんかった」

 

驚いてばかりのフェイトだが、その説明にこれ以上言い返す事もできない。

わずかではあるが打ち解けた彼女と同じ家で生活する事に不安はある。

1番も問題はフェイトとクレアの事ではなく、家に居るもう1人の事。

 

「わかった。それじゃあ私もすぐに準備しないと。クレア、ちゃんとヴィヴィオと仲良くできるかな?」

 

「シャーリーからデータ送られたけど、年齢は私らと同じくらいらしいわ。そんな心配する事もないやろ?」

 

「あの娘、なんて言うか危なっかしいの。そこが心配で」

 

「危なっかしい? まぁ、街中で暴れるような娘やからな」

 

「そう言う意味じゃなくて……どう言えば良いのかな……」

 

「取り敢えず、手続きはこっちで進めとくから。今日からクレアちゃんの事は頼んだで」

 

はやてに言われるがままクレアの身元引受人となったフェイト。

それでも嫌な気分ではなく、医務室に待ってる彼女を迎えに行く。




キャラはズレてない……と……思いたい。
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