魔法少女リリカルなのはstrikers Return of a soul   作:K-15

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第10話 開示される謎、なの

 ネネが発動させた転送魔法によりミッドチルダへと送り返されるクレア。移動する異次元空間はどこを見渡しても虹色のように光り輝いている。

 無重力のように宙に浮いた状態で流されるがまま身を任せていると、体の中に吸収されたもう1つのオーバーソウルから彼女の声が聞こえて来た。

 それは消えてしまったネネの声。

 

(ここまで来れば取り敢えずは大丈夫なの。奴らも簡単には追い掛けて来れないの)

 

「この声!? さっきの子供か!」

 

(我にはネネと言う名前があるのだけれど、今はそんな事をしてる暇はないの。時間が限られてるのは同じなの)

 

「教えて貰うぞ、今度こそ。オーバーソウルってのは何なんだ?」

 

 管理局も探知しない全く新しいロストロギア。それが原因でクレアはフィルと共にミッドチルダへと迷い込んでしまった。

 そしてまだ、このレリックには隠された能力がある。

 

(我も全てを知ってる訳ではないの。まずは順を追って説明するの。このロストロギア、オーバーソウルを作ったのはメガミ・クライシスが母と呼ぶ女)

 

「メガミ・クライシス……あの時の女か?」

 

(オーバーソウルは全部で8つ、理由はわからないけれど今はバラバラになってその内の4つは奴らの手の中に)

 

「2つがアタシの体の中、もう1つはフィルか」

 

(奴らは血眼になってオーバーソウルを探し出し、奪い取るつもりなの。残る1つが見つかれば、アナタを殺してでもオーバーソウルを取り返す。そうすればメガミ・クライシスの計画が実行される)

 

「計画?」

 

(内容まではわからないの。でも意味ありげにメガミはいつも言ってたの。オーバーソウルが集まればお母様の計画が実行できるって。そしてここからが本題なのだけれど)

 

 ネネの存在は声だけでしか確認できない。しかしその声も、時間と共に薄れつつあった。

 

(オーバーソウルには幾つかの能力があるの。その1つが魔力の貯蔵と増強。アナタの魔力が突然跳ね上がるのはオーバーソウルの能力のお陰なの)

 

「じゃあ突然使えなくなるのは何なんだ?」

 

(常に能力を開放する事はできないの。貯蔵した魔力を増強して開放する、そして魔力が尽きればまた貯蔵する。言ってみれば時限式なの)

 

「そうか、ようやくわかった。で、他にはどんな能力があるんだ?」

 

(オーバーソウルを持つモノには魂が宿る、そう聞いた事があるの。メガミの仲間の1人も死にかけてた所をコレで助かったと聞いたの)

 

「魂……」

 

(そろ――時間――の)

 

 途切れ途切れになるネネの声。

 説明されてもまだまだわからない事だらけだが、彼女の最後が近い事だけはクレアにもわかる。

 数分前まで殺し合いをしていた相手だが、息絶えようとする時間が迫ると不思議と悲しさと寂しさを覚えた。

 

「お前、死ぬのか?」

 

(正確にはもう死んでるの。今の私はオーバーソウルにこびり付いたわずかばかりの意思の片割れ。本当の我はもういない)

 

「メガミにやられたのか? アイツの目的は何なんだ?」

 

(言った――ずなの。全てはし――ないの。我の魂――お前に託す――)

 

「おい、待て! まだ聞きたい事が――」

 

 目の前に彼女が居る訳ではない、それでも反射的に右手を伸ばしたクレアだが掴むのは何もない空間だけ。

 声は完全に聞こえなくなり、気が付けばクレアはミッドチルダの訓練場へと戻っていた。

 

///

 

「訓練中にお前は何をやってたんだッ!」

 

 突如として訓練中に居なくなった事でクレアはヴィータにこっ酷く怒られた。とは言っても本人は怒られたと自覚してないのが質が悪い。

 隣に整列させられるティアナとスバルも気持ちが落ち着かず背中に嫌な汗が流れる。

 クレアは現代人の生活や考え方をまだちゃんと理解してないのもあるが、訓練やヴィータの説教よりも先に考えるべき事があった。

 託された2つ目のオーバーソウル、そしてメガミ・クライシスと呼ばれる女の事。

 

(オーバーソウルってのが何なのか少しはわかったけど、この体の事は結局わからずじまいか。でも1つだけ確かなのは、近い内に必ず敵が来る!)

 

「聞いてんのかッ!」

 

 結局この後1時間にも及ぶ筋トレと言う名の罰で3人は開放された。時刻が18時を超える頃には日も沈み月明かりが見え始める。

 仕事を終えたフェイトはカバンを片手にデスクを離れると建物の出入り口で彼女が来るのを待った。定時を超えた事もあり他の職員が次々と管理局を出て行く中で、彼女も人の流れに混じってやって来る。

 

「クレア、お疲れ様」

 

「あんた……」

 

「あんた、じゃなくてフェイトって名前があるのだけれど」

 

「あぁ、そうか。フェイト」

 

「フェイトさん、ちゃんと付けてね。一応歳上のつもりなのだから」

 

「フェイト……さん……」

 

 照れながらぎこちなく呼ぶクレア、その様子を見るとフェイトは満面の笑みを浮かべた。

 

「はい、よろしい。それじゃあ家に帰りましょ。お腹、空いてるでしょ?」

 

「う、うん。腹は減ってる」

 

「ヴィヴィオも寂しがってると思うし、寄り道はナシね」

 

 言うとフェイトは自宅に向かって歩き出し、クレアは彼女の後に続いた。沈む夕焼けを見ながら歩く2人は隣り合いながら歩き、フェイトはフランクに彼女へ話し掛けた。

 

「今日は初めての訓練だったみたいだけど大変だったみたいね」

 

「大変? そうなのか?」

 

「3人ともヴィータにみっちり扱かれてたじゃない。スバルは大丈夫そうだったけどティアナは完全にバテてた。クレアは体、何ともない?」

 

「別に、腹が減ったくらいだ。あれくらいなら何ともない」

 

「そう、でもお風呂に入ったらすぐに寝て体を休ませないと」

 

「お風呂!? 嫌だよ、あんなの!」

 

「ダメ、ちゃんと体綺麗にしないと。ヴィヴィオだって毎日入ってるんだから」

 

「関係ないだろ!」

 

「ダメったらダ~メ!」

 

 言い合う2人はそのまま暫くすると家に到着する。その姿は傍から見れば姉妹のように見えたかもしれない。現にフェイトはクレアの事をそのような目線で見る事もあった。

 幼少期に辛い経験をしたフェイト。けれどもなのはとの出会いを得て今は幸せを感じられる程にまで環境も考え方も変わった。

 親友のなのは、義母のリンディと義兄のクロノ、娘のヴィヴィオ。フェイトの傍には多くの人が居てくれる。

 だが1つだけ気がかりがあるとすれば母であるプレシア・テスタロッサの娘、自身の姉だったかもしれないアリシア・テスタロッサの事。

 その名前と最後に見た亡骸の表情しかわからないが今でもしっかり覚えている。

 

(だからかな。クレアの事、どこか昔の自分と重ね合わせてる。もしかしたらすぐ離れ離れになるかもしれない。それでもアナタの事……)

 

///

 

 夕食を食べ、入浴し、3人はベッドに入った。ヴィヴィオは布団をかぶり数分もするとまぶたを閉じて眠りに付いた。クレアも既に寝息を立てている。

 2人の様子を確認したフェイトは鋭い目付きに変わるとベッドの中から出た。

 

「バルディッシュ」

 

『了解、マスター』

 

 バリアジャケットを展開するフェイト、右手にはデバイスのバルディッシュ。リビングを抜けて玄関に来たフェイトは正面から家を出ると来訪者を待ち構える。

 魔導師としての高い技術と積み重ねて来た経験が彼女に伝えた。敵が居る、と。

 

「こんな夜中に来るだなんて。どこに居るの、出て来なさい!」

 

 闇夜に響くフェイトの声。冷たい空気が静寂を生み、月明かりだけが彼女を照らす。

 

「んふふふっ、流石は魔導師ランクSプラスなだけはありますね。アナタの名前は調べずとも耳に届いてますよ、フェイト・テスタロッサ・ハラオウン」

 

「そう。知っててわざわざ家にまで来るだなんて随分自信があるようだけれど、相手をもっと選ぶべきだった。管理局機動六課執務官、フェイト・テスタロッサ・ハラオウンです! 今すぐに武装を解除すれば刑は軽くなります」

 

 フェイトの名乗りを聞いて男は闇の中から現れた。ようやく見る事ができた相手の表情は不気味な程の笑顔。黒の髪の毛はオールバックになっており、後ろ髪は腰の辺りまで長く、後頭部に赤い紐で髪を一纏めに結ばれている。

 体格は細身でひょろ長く、黒い長袖の服と赤いベストを身に付けており、右手には鞭の形をしたデバイスを握っていた。

 どこを見てるかわからない糸目にフェイトは警戒心を強める。

 

「いやいや、こんな夜分遅くに申し訳ありません。自己紹介が遅れましたね。私の名前はコバルト、以後お見知りおきを」

 

「私は武装を解除するように言った筈だけど?」

 

「フェイト・テスタロッサ、今回私の目的はアナタではない。義理の娘である高町ヴィヴィオの事も非情に気になりますがそれでもない」

 

「だったら何なの?」

 

「クレアですよ。居るでしょ? 彼女が身に宿すオーバーソウルを頂きに来ました」

 

「ロストロギアの私的利用など許せる筈ないでしょ。それに――」

 

 バルディッシュを構えるフェイト、黄色の魔力が放出されると巨大な鎌のような形態になる。戦闘態勢に入ったフェイトはコバルトに鋭い視線を向けた。

 

「誰だろうとクレアに手出しなんてさせない!」

 

 地面を蹴ったフェイトはバルディッシュを振り被りコバルトに迫る。突風のように加速し一瞬で距離を詰めるフェイト、バルディッシュの刃が目と鼻の先にまで迫るにも関わらずコバルトは笑みを崩さない。

 

「やれやれ、結局こうなるか。いでよ、マンティスマン!」

 

「はァァァッ!」

 

 振り下ろした刃はコバルトに当たる事はなく何者かに弾き返される。フェイトの攻撃を防いだのは鋭く光る緑色の鎌。

 突如として現れた新手にフェイトは目を見開く。

 

「これは魔法生物!?」

 

「正確には少し違う。私は次元生物と呼んでいる。ソイツの名はマンティスマン。見ての通り人形に進化したカマキリだ。戦闘能力は折り紙付きだよ」

 

 身長が2メートル近くある2足歩行カマキリ、それがコバルトを守るようにすぐ傍に現れた。両腕の巨大で鋭い鎌が、人間の視力より遥かに発達した目が、フェイトを獲物と判断して狙う。

 

「この程度で私を倒せるとでも? 悪いけれど、クレアだけじゃなくて回りの住宅にも被害は出させない。すぐに終わらせます」

 

「すぐに終わらせる、かッ! だったらすぐに終わらせてみて下さい」

 

 言うとコバルトは鞭状のデバイスを大きく振るい、空気を斬り裂くと甲高い音が響く。すると紫色の魔法陣が展開され、そこから次々と新しい生物が送り込まれて来た。

 新たに現れたのは黒い毛のオオカミ。

 

「また新しい魔法生物を」

 

「私は捕獲した次元生物に名前を付けていてね。勿論ソイツラにも付けてある。血のようにドス黒い牙を持つ事からブラッドファングと名付けた。集団で迫る来るコイツラに勝てるかな? 私はその間にアナタの家に失礼させて貰うよ。もう1度だけ言うけど、目的はクレアのオーバーソウルだけだ」

 

「待ちなさい! ッ!?」

 

 先を行くコバルトを追いかけようとするが、闘志をむき出しにしたブラッドファングがフェイトの行く手を阻む。数えれば13匹、これだけの数を無視して進む事はできない。

 

(探知した魔力はオオカミの方でCランク、カマキリでAって所。倒すのは難しくないだろうけれど、その間にクリアの所に行かれてしまう。どうすれば……)

 

 この状況を打開する方法がすぐには思い付かない。その間にコバルトは余裕を持って家の方向へと歩いて行く。カマキリの次元生物、マンティスマンも彼と共に付いて行ってしまう。

 そしてブラッドファングもグルグルと声を鳴らしながらフェイトに距離を詰めて行く。

 

「こうなったら戦うしかない!」

 

 再びバルディッシュを構えるフェイトだが、けれどもその時周囲に突風が吹き荒れる。

 

「え……」

 

「何だ!?」

 

 激しい閃光と甲高い音が響き渡す。衝撃が地面を伝わり気が付いた時にはマンティスマンの体は吹き飛んでいた。

 

「キキャァァァァッ!」

 

 叫び声を上げながら街灯の柱に激突して動きが止まった。光の消えた街灯はくの字の折れ曲がり、マンティスマンの特徴である両腕の巨大な鎌は腕ごとへし折られている。

 傷口からは紫色の体液が流れ出していた。

 

「何だコレは? 何が起こった?」

 

「訓練項目その1、先手必勝ってね」

 

 そこにはバリアジャケットを展開しデバイスを肩に担ぐクレアの姿があった。レッドストライマーは最初からバースト形態へと変化している。

 

「さて、訓練の成果を試すとするか。全然やってないけど」




スーパーかみさんのキャラを使用させて頂きました。
ご意見、ご感想お待ちしております。

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