大和型戦艦 一番艦 大和 推して参るっ!   作:しゅーがく

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第7話  大和争奪戦 その3

 

 今から海域に出て、俺のレベリングを行う。

艤装を展開して、海に足を乗せて浮く。この感覚は昨日も味わったが、何というか不思議で堪らない。これまでに感じたことのない感覚だったからだろう。

 俺に歩調を合わせて俺中心の輪形陣で港を出て行く。

見送りは居ないが、別に見送って欲しいとも思わない。死にに征く訳でもないからな。

 

(あー、背中の機関部が熱い……)

 

 そんなことを考えながらも、何も考えずに航行する。

別に戦場が怖くない訳でもない。だが、本当に知らない訳だし、これから知るからなんとも反応に困るのだ。ここでビビっても結局は着いてしまう訳だし、戦闘にもなる。勿論、俺が旗艦だから敵の深海棲艦からも狙われるだろう。

そんな曖昧な感情を持ったまま前を向いて航行していると、すぐ横を航行している鳳翔が声を掛けてきた。

 

「始めての戦場……大和君は怖いですか?」

 

 たった今考えてたことを訊かれた。もしかしたら、自分の考えている感情とは違ったものが表情で出ていたのか、と少し考える。そう考えると、多分鳳翔は心配をして声を掛けてきたんだろう。

 

「怖くない、って言えば嘘になるな。だが、実感が沸かないんだ。今から戦場に征くのも、もしかしたら今日死ぬかもしれないのも」

 

 そんな風に話して、俺は鳳翔の顔を見ない。見たら何か読み取られてしまうと思ってしまったからだ。

 

「そうですね……私たち軍人はいつ死ぬか分からないですものね」

 

「あぁ」

 

 生返事を返して前を見る。

そんな俺の視界に突然、ある艦娘が入ってきた。

 

「知ってる? 私たち、貴方と同じ艦隊になったけど、色々面倒なことを踏んでるのよ?」

 

 そう言った叢雲は、指を折りながら数えていく。

 

「誓約書でしょ、公正証書でしょ、念書……」

 

 片手で数えれるだけの書類を書いたと叢雲は言った。

だがそれがどういう意味なのかは、俺には全く分からない。そんな俺に、端折って教えてくれた。

 

「つまり、私たちが作戦行動中、貴方に危険が振りかかるようなら私たちは接触し、強引に大和君の言葉を訊かずに行動できるってこと」

 

「何じゃそりゃ。そんなんあったら男性保護法も意味ないし……」

 

「まぁ、大和くんが深海棲艦に轟沈させられるのと、私たちが接触して強引に逃げるの。どっちの方が、有益なのかしら」

 

「男性保護法があるからこそか」

 

「そういうことね」

 

 叢雲はそう言う。

だが一方で叢雲はというと、必死に隠しているのが丸わかりなくらいに口元が緩んでいる。

喋っている内容はマジメなのに、喋ってる本人がこれじゃあ……と、そんなことを考える。

 

「まぁ。とっとと行こうか」

 

 こんな風に話しながら航行していると、いつの間にか接敵していたのだ。

俺はそれを視界から見逃さなかった。

 

「航空戦を仕掛けます! 加賀さんっ!」

 

 陣形を整え、鳳翔が出します。まぁこれは決まり事なんだろうな。初撃の航空戦のタイミングは。

鳳翔と加賀は弓に矢を携えて立ち、引き放った。矢は風を切りながら飛び、そして艦載機へと変貌したのだ。

発動機が唸りを上げて、艦載機たちは空を登っていく。そんな光景を俺は眺めつつ、ある指示を出した。

 

「艦隊。複縦陣へ陣形変換」

 

 特に意味は無いが、こうやって守られてるのも癪なのだ。

そもそも俺のレベリングだから、俺が積極的に戦わなくてどうするよ。そう俺は自分に言い聞かせて、艤装を撫でる。

 

「歩調は俺に合わせてくれ。最大戦速で突っ込むっ!」

 

 俺は目で深海棲艦を捉えた。その風貌は正しく深海棲艦そのものだ。あのゲームで敵対していた深海棲艦だ。どことなくアニメ版のような雰囲気になっているが仕方ない。

 

「さて……と」

 

 俺が目線を深海棲艦に向けたその刹那、俺を取り囲んでいた輪形陣が散開した。

空母の2人は残っているが。

流石に空母が裸なのはどうかと思うので、俺は前に出ずにそのままの速度を維持する。

 

「あ、行っちゃいましたか……」

 

「何その察したみたいな」

 

 俺が横目に見ながら鳳翔に言った。

呆れたというかなんとも言えない表情をしている。

 

「多分、大和くんがいるから張り切っているんでしょうね。いいところを見せたいんでしょう」

 

 そう言いながら、加賀が弓を引いた。艦載機を発艦するんだろう。

こういう光景を見ていると、アニメの方を思い出す。海上を滑りながら矢を放つ描写が、俺の目の前で起きている。

なんというか、反応しづらい。

 

「そうなのか?」

 

 分かってないように反応をする。

 

「そうですよ。大和くん。皆さん、気を惹こうとしているんでしょうね」

 

 澄まし顔で鳳翔はクスクスと笑うが、一昨日の時点であの辺と同族判定したことを俺は忘れてない。

 

「そうか……。まぁいい。空母も護衛出来ないのなら知らん」

 

「あら。結構薄情なんですね」

 

「なんとでも言え。旗艦は俺だが、空母がいる以上、守らないでどうするんだよ」

 

 俺は深海棲艦に目を向けたまま話すが、俺はあることをし始める。

主砲に徹甲弾を装填し、相手の軽巡目掛けて撃つのだ。

艤装が駆動音を立てながら、砲塔を旋回させる。そして仰角を調整し、砲撃。

とんでもなく大きな音を轟かせる。海面が一瞬凹むと、砲弾が尾を引きながら飛翔し、交戦中の深海棲艦に降り注いだ。

 高い水しぶきを上げ、その中に黒煙が混じっていることから命中したんだろう。

 

「攻撃隊が帰還してきました。どうやら殲滅したようですね」

 

 加賀がそう言う。俺の目にも深海棲艦は写っていない。

俺は全体に号令を掛けた。

 

「全艦転進。鎮守府に帰還する」

 

 そう。俺はレベリングに来ているのだ。場所は北方海域キス島。いわゆる3-2-1だ。

面倒で時間の掛かるレベリングだが、改造までには練度を上げるそうだ。

無論、俺もそのつもり。

 この後、鎮守府に帰還した俺たちは、補給をしてから再出撃。疲労が溜まるまで出撃し続けた。

ゲームではよくやっていたレベリングだが、実際にやってみるとかなりキツいものだ。身を持ってそれを知ることができた。全然嬉しくないが。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 3-2-1周回もとい、北方海域キス島レベリングで俺は改造練度に達した。これまでの出撃で俺は背中の機関部が発する熱にも耐えれるようになり、弾着観測射撃も取得。ついでにあることを覚えた。何というか某モンスターをゲットするゲームみたいな言い方だが、気にしない。

 

「ふーん。直接ねぇ……」

 

「あぁ。何故か知らないけどな」

 

 俺の報告を聞いていたゆきは顔をしかめながら考える。

確かに、普通に考えたら変なことかもしれない。だが、出来ることに悪いことは無いだろう。

 

「でも……46cm砲弾を投擲するって…………しかも、なに? 砲弾が炸裂せずに船を貫通?!」

 

「あぁ。大穴だ」

 

 これでも真面目に答えている。

 

「奇っ怪なワザを取得したんだね。……まぁいいか。薬嚢を使わないんでしょ?」

 

「薬嚢? 何だそれ」

 

「砲弾を撃つ時に使う、麻袋に入れられた火薬のこと」

 

「それは使わないが、何があるのか?」

 

「普通に撃てば砲撃音が聞こえるからね。ぶん投げるんなら、精々大和の掛け声くらいでしょ?」

 

「そりゃもちろん」

 

 ゆきは話していくが、つまり、投げれるのならいいことがあるということだろう。

確かに、砲撃しないから音は出ないだろう。艦砲射撃が始まったことを察知されないことや、初撃だった場合、相手にこちらの位置を知らせずに攻撃できる。

考えれば便利だ。

 

「それで。改造は完了して、装備品の更新は?」

 

「終わってる。46cm三連装砲を2つ。紫雲、九一式徹甲弾を装備してきた」

 

「うん。それでいいよ」

 

 俺はそれを聞き、握り拳を作った。これであのオイルバレル(浅倉海軍大将)に吠え面をかかせてやれる。にやける顔を意識して戻すが、目の前のゆきもにやけていた。

 そういえば聞いてなかったが、ゆきは一体こちらの要求は何にしたんだろう。

 

「そういえば、ゆき」

 

「ん? なに?」

 

「こっちの勝利報酬は何を要求したんだ?」

 

 そう俺が訊くと、どこから出したのか、1枚の紙を広げて淡々と話しだした。

 

「呉第ニ一号鎮守府へ各資材を15万と開発資材を500個、バケツを2000個。母港拡張に関する申請書類を浅倉大将名義で提出することと、母港拡張の資金調達くらいかな」

 

資材の要求は数を聞いただけでも凄いと分かった。それとゲームとは違うのか、資材の行き来が自由みたいだった。

何というか、都合が良いな。

 

「あとね、演習に出るときに双方の艦隊が開始直前に教え合うんだけども、色々しておくよ」

 

「ん? それじゃあ、俺が旗艦だってことバレるんじゃないか?」

 

 そう言うと、ゆきはニヤリと笑った。

悪いことでも考えているんだろう。

 

「演習前に鳳翔たちに言って、女の方の大和と一緒に行動してもらうよ。それを出来るだけ、あのクソババアに見せる。あっちだって、こっちが女の方の大和が来たばっかりだって知ってるから、調子乗ると思うんだ」

 

「そりゃ乗るだろうな。練度が低い訳だし……」

 

「そ。んで、実際に戦ってみるとオドロキッ! 男の方の大和がいるじゃありませんかー」

 

 リアクションをつけながら話すゆきに、俺は笑いながら聞く。

 

「まぁ、驚くだろうな」

 

「もちろんっ! んでねー、コレ」

 

「ん?」

 

 俺はあるモノを受け取った。それは陣形配置や作戦概要が書かれているものだ。明日行われるオイルバレル(浅倉海軍大将)との演習で使うものだ。

俺は適当に流し読みしてゆきの顔を見る。ゆきはニコニコしているが、なんだか嫌な予感がした。

 

「な、なんだよ」

 

「いや~。ちゃんと読んでよ?」

 

「わかってるって」

 

 言われたので、その場でちゃんと紙に目を通した。そうすると、ある記述があった。

 

『陣形は単縦陣。艦隊順序は先頭から大和、日向……』

 

『艦隊順序は先頭から大和……』

 

『先頭…大和……』

 

 その記述を見た瞬間、俺はゆきの顔を見た。

ゆきは満面の笑みを浮かべてサムズアップしている。

 

「つまり、俺が先頭に立つということは……」

 

「相手の発見を早めるんだよ。戦闘開始前には双方の偵察機が艦の位置と陣形を調べるために偵察機を出すでしょ?」

 

 そういうことらしい。別に変な意味ではなかったみたいだ。

 

「でも、戦闘が始まっても陣形変換せずに動くからそのつもりで」

 

「はぁ?! じゃあ俺は……」

 

 ゆきはペロッと舌を出して答えた。

 

「撃ってきた時の弾除け、だよ」

 

「ぬわああぁぁぁぁぁああああぁぁぁぁ!!」

 

 つまり演習弾に当たれということらしい。

 

「仕方ないじゃない。大和が一番装甲厚あるし、頑丈だから」

 

「そうだけどな……。まぁいいか」

 

「うん。いいんだ~」

 

 俺は受け取った紙を机に置いて腰を下ろした。

ゆきが多分お茶を持ってきてくれる。少しここで休憩することにした。

 ずっとレベリングで忘れていたが、俺がこの世界に来て2週間が経った頃だ。もう鎮守府にも慣れ、艦娘や憲兵をあしらうことにも慣れてきたころ。

前は必死に逃げまわっていたが、どうにか話術であしらえるのでもう必死に走ることは無くなった。それでも追いかけられるときは、追いかけられるんだけどな。

 





 約1週間振りくらいの投稿になります。最近は姉の方に力を入れていますので、コチラは片手間になってしまっています。
メインは姉の方なんですが、こちらの方が読者様が多いようで、不思議な気分です。
 それは置いておいてですね、今回で時間軸を早めました。
次回が演習の話になります。

 ご意見ご感想お待ちしています。

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