大和型戦艦 一番艦 大和 推して参るっ!   作:しゅーがく

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第4話  訓練

 

 歓迎会の次の日の朝。俺はざわざわとする声に目を覚まされた。

何だと思いながら目を開けて扉の前に行くと、そのざわざわの原因が分かった。

艦娘たちと憲兵らが集っているのだ。多分だけど。

そのざわざわから聞き取れた声がある。

 

『大和君っていつ起きるんだろう?』

 

 成る程、そういう訳で部屋の前に集っている訳だ。

成る程とか言っているが、正直なんでかなんて分からない。というかどうでもいい。

安眠を妨害されたので、正直腹が立っている。

 なので扉にチェーンを掛けて、少しだけ扉を開くと、その隙間に手を入れられた。

 

「おはよう! 大和君っ!」

 

「いい朝だね! 元気?」

 

「ねぇねぇ、身体とかおかしいところない?」

 

「髪直してあげようか?」

 

「服にアイロンを当てて差し上げますっ!」

 

 わーわーと騒ぎながら、そんなことを言ってくる。もう何だかなぁ、とか思いながら俺は強引に扉を閉めて身支度を整えるのであった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 身支度を整えた俺は、今度はチェーンを外して扉を開く。

そうすると、チェーンがかかっていた時と同様に、手を扉の間に入れられた。

だが、別に止まる訳でもなく、普通に開いてしまう。

開いた拍子に、数人の艦娘と憲兵がその場に倒れてしまった。

 

「あ、大丈夫?」

 

 俺は反射的に手を伸ばしてしまう。

ちなみに俺が手を伸ばした相手は、頬を赤くしながら手を俺の手の平に乗せてきた。

そして俺はその手の持ち主の顔を見て絶望したのだ。

 

「あら。……こ、こんなことされるなんてっ、思ってもみなかったわ」

 

 そう、飢えた狼こと足柄だったのだ。だがまだうろたえる時ではない。

二次創作でよくある、男に飢えた狼だったなら、何かしらのアクションがあるはずだ。俺は1人、固唾を呑んでどういう反応をするかを観察する。

だが、別に何かするわけでも無かった。

拍子抜けした俺は、そのまま手を掴んで立ち上がらせる。

 

「よっと。……大丈夫?」

 

「ま、まぁね。へっちゃらよ!」

 

 そんなことを言う足柄だが、俺は気付いていた。

足柄と同じように倒れた艦娘と憲兵が物凄い表情でオーラを滲み出させていることに。

俺の本能が直感的に不味いと思ったのか、すぐに他の倒れた艦娘や憲兵にも手を差し出して立ち上がらせる。

 

「あっ、ありがとう」

 

 そんな風に、顔を真赤にしながら礼を言うものだから少し可笑しかった。

変に笑える訳ではないが、なんというか少し笑みが零れたというべきか。そんな感じだ。

まぁ、はにかんだという表現が一番近いのかもしれない。

 少しおもしろいと思いながら、固まる艦娘や憲兵たちの間を縫いながら食堂へ向かった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 食堂には大和と武蔵以外は居なかった。どうやら艦娘ほぼ全員が、俺の部屋の前に来ていたみたいだった。

 

「おはよう、2人とも」

 

 そんな風に陽気に挨拶をして、俺は武蔵の横に座る。

別に何か考えた座った訳ではない。ただ、歩いてきた方向から近かっただけだ。

そんな風に考えはするが、大和はなんにもリアクションしない。

変だなと思いつつ、俺は食堂の厨房に朝食を頼む。適当に。

俺の声に多分だが、間宮が反応してくれた。間宮って確か艦娘だったよな?

 

「いやぁ、部屋の前にすっごい人がいて困った困った」

 

「そうみたいだな。流石、男なだけある」

 

 そんなことを、武蔵は俺の顔を見ながら言う。

そんな武蔵に俺はある疑問を抱いた。

武蔵は他の艦娘みたいに反応しないのか、と。

思い立ったらすぐに行動するのが俺なので、早速武蔵に訊いてみることにした。

 

「なぁ、武蔵」

 

「何だ?」

 

「武蔵は他の奴らとは違って、過剰に反応しないんだな」

 

 そんなことを軽口のように言ったが、返って来た返答が思いの外重かった。

 

「したくても出来無いんだ。相手は実の兄だ。あいつらに混じって反応しようものなら、私は水上打撃部隊旗艦としても、大和型戦艦2番艦としても何だかなぁ……ってなってしまう」

 

 そう言ったのだ。顔を逸らしながら。

 

「そ、そうだったな。い、いやぁ~。武蔵が妹かぁ~」

 

 そんなことを言ってみる。

そうすると、武蔵が急にこちらに振り返り、言ったのだ。

 

「そうだ。私はおっ、おっ、おっ……」

 

「おっ?」

 

 顔を真赤にしながら、壊れたラジオみたいに言う。

あえて言わないでいる俺に、武蔵は言った。

 

「おっ、あ、兄貴っ! 兄貴の妹だからなッ!」

 

 顔を真赤にしながら言う武蔵のセリフに、俺は自然と笑えてきた。

 

「はははっ。そうだな。……そっかー。武蔵が妹かー」

 

 そんないいながら俺は天井に目線を逸らす。

そんな俺と武蔵の間に、大和が入ってきた。どうやら傍観するのにも飽きたみたいだ。

 

「私の妹でもありますよ! ね、武蔵?」

 

「そうだな。大和」

 

 顔は赤いままだが、武蔵ははにかんで言う。

 

「ちょっとー! 私のことも『姉貴』とか、『姉者』とか、『お姉』とか、『お姉ちゃん』とか呼んでくれてもいいんじゃない?!」

 

「ん? 不服だったか? “大和”?」

 

 頬を赤く染めながら武蔵に怒る大和を眺めながら、俺はいつの間にか笑っていた。

そして大和に言うのだ。

 

「じゃあ俺が呼んであげようか? お姉ちゃん?」

 

 顔を両手で隠しながら、『うぅー』とか唸っている姿を見て楽しむ俺と武蔵であった。

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 ゆきの命令で、これから艤装での砲撃訓練をやることになった。

ちなみに、ゆきって呼ぶようになったのは頼まれたからだ。まぁ、提督って呼ぶのも面倒だったから俺的には有り難いけどな。

 そんなこんなで、俺の訓練に武蔵が付いてきてくれるみたいで、ついでに大和も一緒に砲撃訓練をすることになった。

 

「資材はいっぱいあるから気にせずバンバン撃っちゃって」

 

 と、ゆきに言われたので、俺と大和は砲弾を満載して揚々と沖に出た。

 言い忘れていたが、艦娘はどうやら水上スキーみたいに海の上を走る。艦これのアニメみたいに。

 武蔵同伴で、沖まで出てきた俺たちは目標物に向かって砲撃を始めていた。

地響きのような砲撃音に、砲撃した刹那に突き飛ばされるような衝撃が身体に襲いかかる。それを踏ん張りながら、照準と調整してから撃つ。

それの繰り返しだ。主砲の砲身から蒸気が出てくるようになると、俺たちは一旦砲撃を止める。

 

「目で見た方向に砲撃するって、何だか他の方に注意が向かないよな」

 

 そんなことをぼそっと言ってみる。

確かに、向かない、目標物を目で捉えることで、周りの物が何も見えなくなるのだ。

 

「そりゃそうだろうな。だが、勘でどうにかなるだろう」

 

「は?」

 

「勘だ。勘。経験を積むと戦闘時の勘が冴え、視界外からの攻撃なんかに察知しやすくなるんだ」

 

 何だか艦これの回避率の真意が分かった気がする。

 

「そうなんだ」

 

「あぁ。だから高練度艦程、回避率が高い」

 

「だろうな」

 

 俺は主砲の砲身を触りながら応答する。もう加熱は収まったかを確認しているのだ。

 

「うん……砲身も冷えたし、再開しようか」

 

「そうですね」

 

 大和も確認したのか、砲身を撫でながら言う。俺たちは再び構えた、砲撃訓練を再開した。

結局、搭載量の約1/3を砲撃訓練して、帰ることになった。

ちなみに、沖に出てきていたのは俺と大和、武蔵だけだ。どうやら近海の安全は確保出来ているみたいだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 海の上を航行するのは気持ち良いと思っている人が大半だろう。

だが、本当は違う。俺たちが背中に背負っている艤装は、主に機関部だ。言うまでもなく、かなり発熱しているので熱い。

航行すると潮風を切る涼しさと、背中の機関部の発熱で温度が相殺されている。否、むしろ暑い。

航行するだけで暑いのだ。

 そんな状態で鎮守府に戻り、埠頭から陸に上ると、矢矧がタオルと水を持って立っていた。ランニングでもして休憩しているんだろうか、と考えていたが、違ってみたいだ。

俺たちを見つけるなり、こっちに走ってきたのだ。

 

「大和っ!これっ!」

 

 この場に大和は2人居るんだが、どう見ても俺に差し出している。ちなみに、タオルも水も3つずつ持っているので、全員に渡すつもりなんだろうけどな。

 

「ありがとう」

 

 礼を言って、タオルを受け取って水を飲む。

やっぱり他の艦娘も、艤装を背負って航行すると暑い思いをすることは知っていたみたいだ。大和も少し髪が首に貼り付いているので、そうなんだろう。だが、武蔵は平気そうな表情をしている。これは慣れなんだろうか。

 十分に汗を拭き、水を飲んだ頃。俺たちはゆきに報告に行かなければならないので、その場を立ち去ろうとすると、矢矧に止められた。

 

「ちょっと待って下さい。それ、受け取ります」

 

 そう言って、矢矧は俺が肩に掛けているタオルを指差した。

 

「え? どっちも洗って返すんだが?」

 

「い、いや! 大丈夫っ!」

 

 そんな風に矢矧は言うが、やはり使ったものだし洗って返すものだろう。

というかコレ、矢矧の私物だったのか?

 

「いや、誰かが使ったものだし、気持ち悪いだろう?」

 

 そんな風に言うが、矢矧は頑なに譲らなかった。

どうしてだろうか。

結局、俺は渡したが本当に良かったんだろうか。少し気になった。

 

 





 昨日の姉に引き続き、2日連続で投稿させていただきました。
いやはや、なんと言いますか。こっちの作品って完璧口直しですよね。
どう考えても。うん。
まぁ、そのつもりなんでいいんですけどね。

 ご意見ご感想お待ちしています。

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