大和型戦艦 一番艦 大和 推して参るっ!   作:しゅーがく

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第48話  ストーカー その1

 ぞわぞわと寒気がするのはいつものことだが、今日は一段と背筋がゾワゾワとしていった。これは何かあるな、直感的にそう感じ取ってしまった。

 最近、俺の私室に突撃してくる艦娘や憲兵も自重を覚えたらしい。朝凸はしてこなくなったが、それでも接触して来ようとする者は後を絶たない。既に慣れてきているので、かなり適当にあしらっているが、根が軍人なだけあってかなりの精神力だ。何を言おうとも全然離れていかない。かなりの食いつきで未だに困っているところでもある。

それでも護衛が付いたことによって、かなりそれも楽になってきたというものだ。何かあると担当の護衛がどこからともなく現れるからな。あれは怖い。守られている本人も怖い。

 そんな環境に身を置いている俺ではあるが、交友関係は広まってきたところだった。

最初はゆきと武蔵だけだったが、艦隊を良く組むようになった艦娘とはそれなりに打ち解けてきていると思う。雪風は本当に良い奴だ、うん。

 

「どうしたんですか、大和さん?」

 

「んあ? あぁ、雪風は良い奴だなって思っていただけだ」

 

「えへへっ、そうですか?」

 

「そうだとも」

 

 今日も飽きずに遊んでいる訳だが、こう長いこと遊んでいると、仲間に入ってくる艦娘も俺の交友関係が広がっていくに連れて増えていくわけだ。

集まっているのは6人。俺と雪風、霞、磯風、夕立、夕張。あれ? なんだか駆逐艦が多いな。しかもデカいの(大型艦)は俺だけ? ……まぁいいか。

 その6人で、さっきまではカードゲームをしていたが飽きてきたということで、かくれんぼをすることになった。

この6人はかなりかくれんぼをしてきている猛者たちで、近頃心理戦まで持ち込むようになってきたので、もはやかくれんぼとは違う別の何かになってきているが、それは俺だけが思っている訳ではないだろう。

ともかく、既に鬼は磯風で決まっている。他は隠れる側だ。

 

「じゃあ2分数えたら探し始めるからな」

 

 そういった磯風が目を隠して数を数え始めた。俺たちは散り散りになって隠れ場所を求めて走り出す。

今回のかくれんぼは鎮守府内にある外限定。ルールは発見されるまで、一度隠れた場所から移動することは認められている。隠れないのはダメだ。何度か雪風が鬼の後ろを歩いていたことがあったので、それは流石にダメだということで禁止になった。

俺は広い鎮守府の敷地内、解散したところから走って1分のところに身を隠すことにした。建物と建物の間で、案外見落としやすいところ。普通に歩いていたら、そこに隙間があるなんて気付かないところだ。ここに他の誰かが隠れたこともなければ、俺も隠れたことがない。一度隠れた後に移動するのはリスクがある。特に俺はそうだ。

なので移動しない選択肢を取るのがいつものことになっていた。

 俺は隙間で小さくなりながら考え事をすることにした。

さっき感じた寒気の正体だ。ぶっちゃけ色々思い当たる節があるが、今回ばかりはなんとも言えない寒気だった。身の危険を感じるほどでもあるし、注意するに越したことはないだろう。

そんなことを考えながら、俺は隙間で時間の経過を待った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 既に開始2分は経っている。否。むしろ6分ほど経っている頃だ。

これくらいになると、そろそろ半数が発見されているころだ。恐らく未だに見つかっていないのは、俺と雪風くらいだろう。夕立はすぐに移動するから見つかるし、夕張はドンくさい。見つけようと思えばすぐに見つけられる相手だ。霞は最近始めたばかりではあるが、かなり上手い方だ。室内でやった時なんて、屋根裏に隠れていたからな。見つけられる訳ないだろうに。

その時鬼をしていた夕張の目が死んでいったのは今でも覚えている。

 磯風の鬼のパターンとしては、近くから探していくタイプだ。しかも視界の広くとれたところから順番に。しらみつぶしはしないが、感でも探さない。推理して探すタイプ。

だとすると、俺の隠れるパターンは読まれている。雪風はほとんど見つからない。こういった広域だった場合は、だ。恐らく2分を超えても移動を続けているだろうから、見つけるには最低30分は必要になる。

となると、磯風が既に夕立と夕張を捕まえていると考えると、狙うは俺か霞。今回も逃げ切りたい。

 かくれんぼのことを考えていた俺は、またもや寒気を感じた。今回は悪寒だ。

しかも、本格的に不味いと思われるもの。その正体を知るのは、ほんの数秒後だった。

 

「……」

 

 今、隙間から変な人が通っていったのが見えた。艦娘でもなければ憲兵でもない。ならば誰だ?

一瞬しか見えなかったが、少し猫背で髪が長くぼさぼさ。服も少しヨレヨレで、袖からは細すぎる腕が見えていた。そして妙に口角の上がった口元も見えた。

アレは異形だ。どうしてそんな人間がここに居る。そんなことを悟った時、既に頭の中にはかくれんぼのことは綺麗さっぱり無くなっていた。

 再び人が通りかかる。今度ははっきりと見えた。

さっき通った人だ。

 

「……」

 

 女性、何かを手に持っている。そして彼女は絶対に鎮守府の人間ではないことが分かった。

そして再びその女性が通る。今度は手に持っているものが分かった。それは……俺のシャツ。と言っても寝間着にしているTシャツだが、それをどうして持っているのだろうか。

俺の体躯的に女性物では絶対に収まらないので、この世界ではかなり大きいサイズになる俺の服は、誰が持っても大きく見える。持ち方次第ではただの布切れに見えるが、今の女性は襟口を持っていたから、風になびいてその全体像が見えたのだ。柄、サイズで俺のものだと判断するしかできなかった。何故それを、今の女性が持っている。

洗濯は何故か鳳翔がしてくれているが、鎮守府の建物の屋上で干しているらしい。そこは憲兵が頻繁に巡回しているし、見張りも居る(俺の私物があるため)。そんなところに忍び込んで盗むことなんてできなければ、そもそも鎮守府にどうやって入ったんだ、という話だ。

 今起きている事態が、どう考えても不味いことはすぐに分かった。だが、今近くでそれが歩いているのが問題だ。ここから出て行ったら何かされるかもしれない。

それに護衛は今日は磯風と雪風以外には居ない。全員出撃中で、ヲ級もゆきのところに居る。なので呼ぶことも出来ない。ここから呼んでも到着には時間が掛かる。ならば息を潜めている他無いだろう。俺は口元を手で押さえた。

 刹那、再び女性が通る。

 

「ふひひっ、じゅるり、大和くぅん……私の、旦那様ぁ」

 

 ゾワゾワゾワッ。

猫撫で声のつもりだろうが、かなり気味悪く聞こえた。しかも確定だ、アレは……。

 そのまま女性は何度も歩いている姿が見えたが、近くに誰か来たのか去っていったみたいだ。

そうすると、聞きなれた声が聞こえてくる。

 

「あとは大和さんだけですか?」

 

「そうだな。他の皆は見つけたが……しっかし、どこに隠れているんだ?」

 

 雪風と磯風だ。それが分かった途端、俺はその場から立ち上がって建物の隙間から飛び出す。

それに驚いた雪風と磯風、他の皆も一緒に居たので俺は一安心した。だが、自分から出てきてしまったので、俺はなんとか言い訳をする。

 

「い、いやぁ、スマン。あんまり息苦しくってな」

 

「いや、良いんだ。じゃあ、これで全員発見だ」

 

 磯風がそう言って、また雪風たちが話し始める。次は何をしようか、どこか探検に行くか、みたいな話をしている中、俺は周りをキョロキョロと見ていた。

さっきの女性が気になったのだ。否。警戒したいのだ。だが、そんな時、目に映る。

遠くの建物の物陰、俺が隠れていたところの近くにあるところからこちらを見ている顔が見えた。それにひらひらと風に舞うTシャツも……。

俺はスッと目を逸らしてしまう。今回は顔をしっかりと見た。覚えた。……しかし怖い。そんなことを磯風にも雪風にも言えず、俺はその後も後を付けられていることを感じながら遊び続けた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 "あの件"をゆきに相談する気にもなれず、武蔵にも言えない。矢矧にも雪風にも……。唯一言えたのはヲ級だけだった。

そう考えると、いつもあんな風なヲ級も俺の心の中に結構入り込んできているんだな。発言はアレだけど……本当に。

 消灯時間間近の俺の私室、ここに居るのは俺とヲ級だけ。流石に消灯時間以降はヲ級だけでも大丈夫だろうと、ゆきが判断したことだった。

隣に住んでいることだし、何故か察しが良いからな。普段はアレだけど……。

 

「で、私に"おあづけ"させるってことですね?」

 

「どう聞いたらそう聞こえるんだよ……」

 

「え? 違うんですか? つまり、私に今夜はここに居て欲しいってことですよね?」

 

 合っているんだが、おあづけではない。断じて無い。

 

「いつも強気で私に言い聞かせるご主人様も素敵だけど、こう弱々しくなっているところも最ッ高!! あーなんだかこう頭を撫で回してから膝枕してじ[自主規制]

 

「だぁぁぁ!! 違うっての」

 

「えぇ……では、どうして?」

 

 本当は癖っ毛で天然パーマだったのに、アイロンで強引に銀髪ストレートにしているヲ級の髪が揺れる。

本気でああいう事を言っているのか分からないが、何故かこういう時に空気を読まない発言をしてくれるのは嬉しい。気が紛れるからな。

 

「こう、本当に身の危険を感じた。さっき話しただろう?」

 

「不審人物と盗難ですか?」

 

 俺は頷く。

 

「普通に考えれば不審人物は確かに侵入していたかもしれませんが、盗難の件は私含めてご主人様以外の呉第二一号鎮守府に所属している全員が容疑者になりますよ?」

 

「それは言えているが……」

 

 ヲ級は推理を始めた。

 

「ご主人様の汚れ物を何故か選択している鳳翔が第一容疑者候補に浮上しますね。それ以外には、ご主人様の私室を出入りする人物」

 

 となると、武蔵、大和、矢矧、雪風、浜風、磯風、霞、朝霜、初霜、ゆき、ヲ級も容疑者候補に挙がる訳か。

 

「それに何らかの手を使って侵入できる可能性も捨てきれません」

 

 だからここの人間全員が容疑者という訳か。

だが、ヲ級を含めて他の私室に出入りする艦娘やゆきはそんなことしないと思う。大和がやりそうではあるが、それ以外では微塵も窃盗するような人物とは思えない。

 

「……それで、本当にTシャツだけだったんですか? 無くなっていたものは」

 

「他にもシャツが数枚とゴミ箱、下着も無い」

 

 まさかとは思っていたが、これは完全にアレだ。ストーカーとかいうそういう部類の奴だ。

今まで考えてこなかったが、この世界は男女の貞操観念が逆転している。俺の中でも常識であるように、男性が女性の衣類などの私物を盗むようなことが大きく取り上げられる事件だった。だがそれがこの世界では真逆になるということだ。

意識が甘かったのかもしれない。そう俺は感じた。

 ヲ級は俺の本当の正体を知らない。知っているのはゆきと武蔵だけ。

このまま今日はヲ級に頼み、明日から武蔵とゆきに相談する方が良いだろう。俺はそう思い、とりあえずヲ級に頼んだのだ。結構煙たがっては居たが、それでも頼れる奴だ。あれやこれや言うが、弁えている。そう思えたから、ヲ級に相談をした。

 

「そうですか。……さっきは茶化しましたけど、今回は私の職務怠慢とも言えます。今日はここで見張りをしますから、ご主人様は寝てください」

 

「……ごめん、そうさせてもらう」

 

 珍しく真面目な表情でそう言ったヲ級に甘え、俺はとりあえず寝室に向かった。ヲ級は寝室の前に座って夜を明かすとのこと。朝一でゆきのところに行く、と約束して俺はそのまま眠りについた。

 




 今回は若干違う切り口から貞操観念逆転の話を……と思ったんですが、普通でもあるっちゃある話ではありますよね。どうやら、私怨とか復讐のための方が圧倒的に多いらしいですけど……。

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