「とまぁ、そんな訳だ」
「全っ然、意味が分からないんだけど?!」
ふふふ。意趣返しという奴だ。北方海域から帰還した俺は、ゆきに報告をしている最中だった。ちなみに全体の報告は武蔵が先に済ませていたみたいで、俺の報告案件は北方棲姫についてだけだった。
面と向かって話したのは俺だけであり、今回の失踪から解放、帰還までの全ての流れに俺が関係しているからという理由。
「北方海域で艦隊が失踪していた理由は、北方棲姫傘下の北太平洋軍 アリューシャン統合戦闘艦隊が中央総軍の命である艦娘特異種の捜査の一環で捕縛していたみたいだ」
「うん。すっごい簡潔。そして想像通り」
「捕まっていた艦隊も該当艦隊だったし、欠員無しだった」
「分ったよ。……でも私が聴きたいのはそこじゃないんだけどなぁ?」
そう言われ、俺は覚悟を決める。今回、こうして無事に帰ってくるために取った行動を話さなければならない。
……多分、ゆきは腰抜かすか白目剝くかひっくり返るだろうなー、と思いつつも、正直に話す。
「大和がカチコミに来ただけでも、普通に出れたかもしれないけどな……」
「そうかもねー。何やらとても気合入っていたみたいだったし」
「俺が交渉した」
「へ?」
「俺が交渉した」
「……」
あっ。ゆきの目が遠くなっていく。まぁでも、大丈夫だろう。そう信じたい。
すぐにゆきは組んでいた腕を解き、指を組んで某特務機関の司令みたいなポーズを取った。本当にそれ好きだよな。
「……交渉の詳細は」
「俺が目を覚ました時に求婚されていたことを逆手に、曖昧な言葉で解放に誘導した」
バンッと机を叩いて立ち上がったゆきから一言。
「屑だ!! 屑がここに居る!!」
「若干自覚はあったけど、面と言われると辛すぎるッ!?」
溜息を吐いたゆきが、俺にあることを訊いてきたが、正直聞く必要なんてないだろうと本人も思っていることだろう。
「ちなみに、さ。私が想像通りだと本当に面倒なんだけど」
そらみろ。絶対そのことを確認で訊いてくると思った。
「北太平洋軍 アリューシャン統合戦闘艦隊はほとんどが離反、大部分が近くに来てるぞ」
とまぁ、ストレートに言ってしまう訳だ。
あ、ゆきが白目剝いた。まるで灰のようだ……。
ーーーーー
ーーー
ー
いつから私は苦労人になったんだと訴えながら、俺の肩を揺らす揺らす。力が弱いからそこまでシェイクされることはないが、まぁ酔いはするよな。
それが数分間続いた後、ゆきが『罰として、執務は終わっているから膝枕させろ』とのこと。まぁ、逆らっても良いが面倒なので言うことを聞くことに。近くで見ていた武蔵の眉間がヒクついてるが、見なかったことにしておこう。それに万が一、大和が来た時のためにここに居てもらわなければ困る。ということなので……。
「武蔵!!」
「な、なんだ?」
「布団が欲しい!!」
「キメ顔で云われても、その格好で言われてもなぁ」
うるさい。文句はゆきに言えよ。
「それはそうと、どうして膝枕させて欲しいなんて?」
首を少し回せばゆきの顔はすぐ近くに見える。いつもだと見ないアングルだが、如何せん髪が顔にかかってくすぐったい。
かき上げて欲しいんだが、多分分かってくれないんだろうな。
「んー」
少し考える仕草をしたゆきは、ニコッと笑って答えた。
「最近、何やら色んな子とイチャイチャしているみたいだね? だから私も」
「えっと……」
「ん? 何?」
目が笑ってないんですが……。どうして怒っているんですかねぇ……。
「いや、何でもない……」
「ならよかった」
本当、どうして怒っているんだろうか。布団を持ってきた武蔵も若干膨れっ面しているし、一体全体どういうことなんだろう。
ーーーーー
ーーー
ー
少し前に鎮守府の牢に入っていたタ級たちの尋問が今さっき終わったので、急ぎ処分を言い渡すことになった。どうやら俺はゆきの膝枕で寝てしまったらしく、武蔵と共に先に牢に行ってしまったらしい。置手紙が置いてあったからな。
若干首が痛いのを気にしつつ、布団を畳み、執務室を出ていくこととなった。途中、ヲ級も牢に行くというので一緒に行くことに。
牢に着いてみると、ゆきと武蔵、足柄、憲兵が2人到着しており、既に処分の言い渡しを行ったみたいだった。
ということは、一足遅かったんだろう。面倒なことになっていなければいいんだけど……。
「起きた? ごめんねぇ、置いてきちゃった」
「いい。それで、処分の方は?」
俺がそう訊くと、武蔵が答えた。
「タ級たちは大和との接触許可を交換条件に提督の私兵になった」
「は?」
俺が理解不能の主旨を伝えようとした刹那、ゆきによって遮られてしまった。
「だって~、ねぇ? 持っている情報はまだまだあるみたいだし、かと言って面倒見れないからって上申したらそれこそ……」
ゆきが回避してきたことが行われるだろうな。相手は人間じゃない地球上に存在する2つ目の知的炭素生命体。人権なんてものは保証されていないだろうからやりたい放題だろう。
それは確かにゆきが嫌がるのも頷けるし、俺としても嫌だ。それは納得するしかないな……。
とはいえ、私兵って……。一体どんな扱いをする気なんだろうか。ヲ級とは違うんだろうけど……。
「傍に置いておいた方が都合が良いし、そもそもこの子たちは大和目当てで離反してきた子だからねぇ~。利用されるのも了承済みって訳」
「情報源、か?」
「そう。それにまぁ……他にも色々思いつくけど、私の、何より"大和"の不利益になるようなことはしないってさ」
本当に適当だよな。最近真面目になったかと思えば……。もう決めてしまったことなら俺が何を言ってもどうすることもできないだろうし、もし決めてなかったとしても俺が口出ししたところでゆきは辞めなかっただろうな。そんなことを考えつつ、俺はそれ以降口を閉じることにした。
「大和」
鉄格子の向こう側、今はタ級たちが一緒に入れられている牢で、タ級が俺に声を掛けてくる。
「何だ?」
ある程度、どういう人となりなのかは理解しているが、それでも話した時間が圧倒的に少ないと思う。それでも、俺はそこまで警戒していなかった。
「あたしたちは納得している。あちらから背いて来たから、ここを離れると行き場が無い。裏切るなんて、絶対にしない」
それは、既に裏切りをしているタ級の口からは虚言にも聞こえる言葉だった。だが、それに続いた言葉で俺は信じることが出来る。
「ここに大和が居る限り」
デスヨネー。
ーーーーー
ーーー
ー
という訳で、牢から出されたタ級たちはすぐに着替えて会議室に異動することになった。
タ級たちはゆきの命令によって動く私兵となり、給料は大本営からの必要経費をちょろまかして確保。というか、その辺りの話は濁された。拠点を執務室から少し離れたところにある会議室として、そこをタ級たちの寝室とした。それでも満足だというが、本当に良いのだろうか……。
私室に帰る途中、ヲ級が俺にあることを話し出した。
深海棲艦についてだ。
「いつかご主人様に話したと思いますが、アレが私が昔言っていた……」
「ヲ級みたいに離反を平気でするっていう?」
「少し言い方が違ったと思いますが、大方その通りです。その中にあのタ級たちも居ました」
「……そうか」
ヲ級は得意気にそんな話をする。
「それと大和が愚痴ってましたよ。先の出撃で北太平洋、北方海域の最大勢力の北方棲姫の艦隊が投降したとか」
「そういう形にはなるのか……」
「……違うんですか?」
北方棲姫はそういう形では認めないだろうな、と心の中で考える。対等な関係で事を進めるつもりでいるのは、北方海域で捕らえられていた時になんとなくだが感じていた。
ここに来て手のひら返しをされると、きっと怒るだろうな、と。だが本人たち北太平洋軍 アリューシャン統合戦闘艦隊所属艦の大半、およそ1000人の深海棲艦は納得しないだろうな。
「よく分からないってのが本音だけど、北方棲姫は譲歩しないと思うぞ。今のところは離反しているだけだし、俺に付いてきたって言うだろうけど」
「なるほど……。でも、私と同じド変態マゾ奴隷志願者は多いと思いますよ。いじめたいって人は……多分精肉機に」
途中まではいつものことだったのに、いきなりどうしたんだ? そりゃ確かに、ヲ級みたいに『自称:ド変態マゾ奴隷』っていう人はいるだろうが、そりゃ逆も存在するだろうな。存在するだろうけど、え? 精肉機? 何それ怖い。
それは置いておいて、だ。血を見ることになるのは明らかみたいだな。言っているヲ級は普通みたいだけど……。
「ほら、属性ってあるじゃないですか?」
「いきなりどうした」
なんとなく、話の流れでそうなるのは分かるけどな。
「よく言う属性ですよ。ツンデレとかそういう」
「あー」
「私の場合は『変態』『マゾ』『奴隷』『性奴r[自主規制] 『Nt[自主規制] 『現t[自主規制] 『押しかけn[自主規制]………………
とりあえず色々あるのは分かった。多すぎる気がするけど……。というかほとんど今作ったやつだろうな。完全にそうだわ。目泳いでるし。目泳いでるし。モジモジしているし……。
「それは置いておいて、ですね……そんな属性にあるじゃないですか。危険な属性、とか?」
その一言で全て察した。ここまで引っ張る癖に、重要なところは簡潔に伝えるんだからなぁ、このヲ級は……。
「分かった。分かったからそれ以上言うな」
「ヤンデレとか、メンヘラとかそういう類ですねー」
「てめぇ……」
ちなみに呉第二一号鎮守府にはいないよな? よな? そう思いたい。磯風とかヤバそうだけど、そう思いたい。きっと健全な子なはず!! そう、だよね? 廊下の曲がり角に手と顔の1/3くらい見えているけど、きっと護衛だから!! 護衛だからぁ!!
これでシリアスなところからは抜け出した、と宣言しておきます。それ以降は……通常運転で行きます。
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