大和型戦艦 一番艦 大和 推して参るっ!   作:しゅーがく

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第3話  歓迎会は波乱万丈

 提督の部屋でお茶をした時に言われたことだが、今日は歓迎会が開かれるそうだ。

誰の歓迎会かは、言わずとも分かる。俺の歓迎会だ。

主催は提督で、会場は食堂。出席するのは艦娘たちと提督らしい。

聞いている限り、かなり曖昧な気もしなくもないが、別に良いかと俺は気にせずに出席する事を伝えた。

 歓迎会までの間はここにいるといいと、提督が言ってくれたので、グダグダとソファーでだらけながら待つこと数時間。歓迎会の時間になったようなので、俺と提督は食堂に向かう。

ちなみに、武蔵の案内で食堂の場所は分かっているんだが、提督が護衛だと言って聞かないので、こんな風に一緒に向かっている。

それもそうだろう。執務室でだらけるまで、俺は青葉や憲兵に絡まれていたからな。この世界の常識やなんかを考えれば当然のことなのだろう。全くこれっぽっちも理解したくないが。

 そんなこんなで、俺と提督は食堂に着いた。中からは騒がしい声が漏れているが、扉の前で俺は提督に待つように言われた。

 

「いい? 呼ぶまでここで待ってて。絶対、勝手に入ってきたらダメだからね」

 

「分かった……」

 

 正直、不服だが仕方ない。これでも上司というか、なんて言えば良いんだろう。

飼い主? 否、俺は犬じゃない。じゃあなんだろうか……。まぁ、上司でいいか。

ここでの上司の命令は絶対だ。軍隊だからな。

そんな事を心の中では言うが、実感もしてなければ、そんな心構えもない。

姿勢を崩して、頭を掻きながら適当に答えるだけだ。

 

「じゃあ、待っててよ」

 

 そう言って、提督は食堂に入っていく。

入った途端、部屋は静かになり、提督の声が聞こえるようになるのだ。

 

『えー、これから歓迎会を開こう!』

 

『『『ワー!!』』』

 

『数人会っているかもしれないが、今回の新入りは大和だー!!』

 

『『『オー!!』』』

 

『なんとぉ?! 武蔵の姉妹だー!!』

 

 拍手が巻き起こるが、それを武蔵の一言で会場が静寂と化す。

 

『姉妹? 違う、兄妹だろう?』

 

 その言葉で、会場は鎮まりかえる。会場の外に居る俺でさえも、それが伝わるくらいだ。

相当な衝撃だったんだろう。

 

『え? あー、武蔵?』

 

『なんだ?』

 

『私の言ってることって、間違ってはないんだよ?』

 

 そう言った提督は、『大和―!』と叫んだ。

それに答えるかのように、俺は提督が入っていった扉を開いて、提督の横に向かう。

だが、変だ。

俺と同じように、提督に向かってきている艦娘が居るんだ。

目を凝らして見てみると、それは俺が求め続けていた存在だった。ここですぐに駆け寄って声をかけたいところだが、俺は提督の横に立って、大勢の艦娘の方を見る。だが、あの艦娘も俺と同じように提督の横に立って、大勢の艦娘の方を見たのだ。

 一瞬、頭の回転が鈍ったが、提督の声がそれを正してくれた。

 

「さぁー! 今回の新入りはぁ?! なんとー! 大和と大和っ!」

 

「「「「「「はぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!」」」」」」

 

 会場に声が木霊したのは言うまでもない。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「えー、落ち着いて。この状況、一番理解してないのは私だから」

 

 そう言いながら、平静に話す提督に白い目を送る。

それに気付いているのか気付いてないのか分からないが、提督は話し始める。

 

「今回のデイリー大型建造1発目で出たのが、こっちの大和ね」

 

 そう言って提督は俺の方に指を指す。

 

「んで、2回目のデイリー建造をだらけながらやって出たのがこっち」

 

 提督は俺の反対側の艦娘に指を指す。

 

「という訳で、我が鎮守府には世界最大最強の戦艦が3隻になった訳だけども、維持できるかどうか分からないし、その辺は潜水艦と遠征組に投げるとしてだね」

 

 『酷いでち! 鬼! 悪魔!』という叫びと、『これで強くなれるのなら問題ないだろうな』とかいう声が聞こえた。前者。さっきの提督の姿を見た後では、擁護出来ないぞ。

首が落ちるだろうな。

 

「いやはや、困ったものねー! 最初は大和建造の報告書を出すだけのつもりだったのに。大和2人になっちゃった」

 

 てへぺろとやる提督に少しイラッときたが、俺は抑える。

 そんな事を気にしてかしてないのか、提督を挟んだ向こう側の艦娘はしきりに俺の方を見ていた。

それに気付かない程、俺は鈍感になった覚えはない。

 

「という訳で自己紹介。はい、マイク」

 

 そう言われて俺は提督から受け取ったマイクを片手に、一歩前に出て自己紹介を始める。

 

「俺は大和型戦艦 1番艦の大和だ。よろしく。あー、なんて言えばいいか分からないんだけど、とりあえずマイクチェックの必要はないからな」

 

 そう言ってマイクを下ろすと、正面の有象無象がガヤガヤとしはじめ、並が壇上のすぐ手前まで押し寄せてきた。

ちなみに目は見てはいけない。一番手前にいる艦娘に見覚えがあるんだが、コイツはダメだ。

 マイクは提督を挟んだ向こう側の艦娘に渡す。そうすると、そっちも自己紹介を始めた。

 

「私は大和型戦艦 1番艦の大和です。よろしくお願いします。って、一緒に進水した艦娘(?)も大和らしいですが、私も大和ですので!」

 

 少し頬を赤く染めながらそう挨拶したのは、俺が求め続けていた大和だった。

俺は思わず、声をかけそうになるが後でもいい。とりあえず、足元に集っている艦娘と憲兵から身を引かないといけない。

少し後ろに下がった俺は、提督との距離を縮める。

どうにかしてくれるかもしれないと、そう考えての行動だ。

その期待に答えてくれるかのように、提督は腰に下がっている長いものに手をかけると、皆、静かになる。なんという影響力。

小柄で可愛らしい雰囲気の提督なんだが、威圧感が出ているのは俺も分かる。さっきもそれは垣間見ているからな。

 

「とりあえず、全員が集まってないと出来ない事を知らせるから聞いててね」

 

 俺と大和の方に向かって、提督は言う。

 

「この呉第ニ一号鎮守府艦隊司令部は艦娘の総括である秘書艦の補佐として、3人の艦娘を指定してるの。水上打撃部隊旗艦、空母機動部隊旗艦、水雷戦隊旗艦って居るから、その艦娘の顔だけは覚えてね」

 

 そう言って下の有象無象から艦娘が3人、出てきた。顔が緩んでいるのが1人。見覚えのあるのが2人だ。

 

「自己紹介して」

 

 そう提督の指示で、順番に自己紹介をする。

 

「水上打撃部隊旗艦の武蔵だ。水上打撃は艦隊戦では常套手段だが、私が出撃する時は、戦線を突破する時くらいだな」

 

 武蔵は笑うが、俺にとっては笑えない。その出撃機会がたったいま1/3に減ったんだ。

 

「空母機動部隊旗艦の鳳翔です。先ほどはありがとうございました。私たちは艦隊を率いて各方面の海域で戦線維持を担う中核です。一緒に艦隊を組むこともあるでしょうが、その時はお任せ下さい」

 

 てっきりこういうのは赤城とかがやると思っていたが、そうではないみたいだ。元一航戦というのかな? これは。

 

「水雷戦隊旗艦の大淀です。私は司令部施設の搭載が可能ですので、旗艦というのは肩書です。ですが、旗艦としての任務は全うできるほどの力があると自負していますので、よろしくお願いします。ちなみに艦隊護衛や支援艦隊として度々見かけることがあると思いますので、お見知り置きを」

 

 自己紹介をするが、俺からしてみれば名前を名乗られなくても誰だか分かる。なので、正直役職とどういう立ち位置かしか聞いてなかった。面倒だからな。

そんな3人に俺は『よろしく』とだけ言って、ふと鳳翔の後ろに目線を向けた。

その先には、資料室で鳳翔に怒られていた加賀の姿がある。

 今は変な風にはなっていないようだが、誰かに引っ張られているみたいだ。しきりに右腕を気にしている。

 

「という訳で語っ苦しい挨拶は終わりね! じゃあ自由に食べて飲んで、親睦を深めようー!」

 

 そんな事を言ってくれるのは有り難いが、俺の目の前に迫りくるなんとも言えない脅威をどうにかして欲しい。

艦娘とその中に混ざっている憲兵が、見せたらいけない表情で迫ってきているのだ。

 

「男、男よね?」

 

「男に見えるデース」

 

「初めてみる男だけど、ちょーイケメンじゃん?」

 

 冷や汗が額を伝う。その刹那、前に出てきていたうちの2人が俺の前に立ちはだかった。

 

「意識を持て馬鹿者共! "ブタ箱"に行きたいのかっ?!」

 

 そう言ったのは武蔵だった。その言葉に怯んだのか、皆の勢いは弱まる。

 

「気持ちは分かりますが、がっついては大和君が怖がってしまいます! 先ずはお友達にならないと!」

 

 やばい。鳳翔の背中に天使の羽が見えた。これからは大天使・鳳翔様って呼ぼうかな。

 

「それから親友、恋人、そして……永遠を誓い合って、寵愛していただいて、それからそれからっ」

 

 前言撤回。その辺の有象無象と同じだ。

 多分、この時の俺は嫌な顔をしていたんだろう。そんな俺に、大和が声をかけてくれた。

 

「大和……君でいいのかしら? よろしくね」

 

「あ、あぁ。よろしく」

 

 武蔵と鳳翔が騒ぎを抑えているその後ろで、そんな会話をする。

 

「どうして男の姿なの?」

 

「ストレートに訊くなぁ……正直な事を言えば、答えられない」

 

「え?」

 

「そう言われているんだ」

 

「そ、そうなの」

 

「あぁ」

 

 俺の言った言葉に少し戸惑う大和は、言葉通りの意味で飲み込んだのか、違う話をしてくる。

 

「こっちは煩いのであちらに行きましょうか。同期ですし、仲良くしましょう」

 

「そうだな」

 

 そんな事を言って、俺と大和は人が引いている、ビュッフェ方式のご飯をお皿に盛って食べ始める。

ちなみに俺の中であることが崩れ落ちた。目の前で食べる大和の皿の上には、山になっているご飯はない。至って普通盛り。というか女性なら相応の量を盛ってきていた。

そんな事に1人、衝撃を受けながらも食べる。ちなみに、俺は食べ盛りなので結構食べれる。何度か皿を取ってきては食べているので、大和に『凄い食べるんですね』と言われてしまった。

 

「ねぇねぇ大和君! 本当に男なの?」

 

「一杯食べるんだねー! 本当に男なんだぁ!」

 

「腕、触ってもいい?」

 

「握手して下さい!」

 

「名前呼んで下さいッ!!」

 

「ねぇ! 私と結婚しない? しよ? ね?」

 

「おっきいよねー。身長どれくらい?」

 

「やばっ、鼻血がっ……」

 

 いつの間にか、俺たちがこっちで食べているのに気付いたのか、こっちに艦娘と憲兵たちが集まってきていた。

俺に触れるか触れないかっていう距離で、押し合いながら話しかけてくる。

俺はそれに答えたかったが、食べている最中なので待って欲しいとだけ言って、皿にあるものを口に放り込んでいく。

皿が綺麗になると、ペーパーナプキンで口の周りを拭いて答えることにした。

といっても、答えれる範囲でだけどな。

 

「男だし、結婚は知らない。身長は最近測ってないから分からない。握手もいいし、腕も触っていいぞ」

 

 そう言うと、目をギラギラさせた艦娘と憲兵が一斉にこちらに飛びかかってきた。

それに驚いた俺は、立ち上がって受け身を取ろうとするが、意味はなく、瞬く間に囲まれてしまった。

 そんな俺をあれやこれやと触ってくる艦娘と憲兵だが、腕やら腹回りやら首やらを触ってくるのは別に良いんだが、触り方がやらしい上に、女の子というか女性もだが凄くいい匂いを発している為、鼻孔がくすぐられている。甘い香りに鼻がやられかけていた。

 

「ちょっと。そんなたかるな! そして誰だ! 頭をすり寄せてくるのは!!」

 

 下が見えない上に、両手も首もホールドされていて、両足も動かせそうにない状態になっていた俺は、そんな叫びを訴えることしか出来ないようになっていた。

それを見ていたであろう大和はというと、辛うじて俺の視界の端に写っているが、どうしていいのか分からないみたいでオロオロとしている。

 そんな過酷な状況で、遂には身体のあちこちに柔らかいものが押し付けられているのが感じた。これは何だと、考えるがすぐに答えは出る。

口には出さないが、俺の正面にいる艦娘。多分戦艦だが、恍惚な表情をしている。

これは不味いと思い、ある人の名前を呼んだ。多分、無意識で助けを呼びたい人の名前を呼んだのであろう。

 

「提督ー! 提督ー!? てーいーとーくー!!」

 

 呼んでも呼んでも来ない。提督なら助けてくれるだろうと思っての、叫びだったんだが現れない。なので、本名で呼ぶ。

 

「山吹提督ー!? ゆき提督?! 山吹 ゆきさーん?!」

 

 最終的には病院の待合室で呼ばれるみたに呼んだんだが、それでも来ない。

この会場内に居ることは確かなんだが、どうして来てくれないんだろうか。

 そうやって叫んでいた俺に、近くまで来ていて武蔵がある事を俺に言った。

 

「普通に名前で呼んでみたらどうだ? 来てくれるかもしれない」

 

「分かった! ゆきさーん!? ゆきー?!」

 

 そう俺が叫ぶと、遠くで『はーい』と返事が聞こえた。やっと聞こえたみたいだが、その遠くの方角がその瞬間、ひと目で分かってしまった。

奥のほうが、明らかにどす黒くなっているのだ。

コレはヤバイと、俺は直感的に感じたのだ。この歓迎会が始まる前、詰め寄られていた憲兵から助けてくれた時の提督が出していたオーラとそっくりなのだ。

言うまでもないが、多分抜刀済み。

 提督が出しているオーラに気付いたのか、後ろの方の艦娘や憲兵が道を開けていく。

そして、それがこちらの視界に入るくらいまでに迫ってきた頃には、一番近くまで来ていた艦娘と憲兵は戦意喪失していた。

俺からはなられないものの、ガタガタと震えている。確かにこの状態の提督は怖いな。

 

「呼んだ?」

 

「呼んだ呼んだ。助かったー」

 

「うん。そっかー……やっぱりこうなるよねー」

 

 そう言った提督は抜刀したまま振り返る。

 

「ここまで来ていた者達。覚悟はいいな?」

 

 一瞬にして場の空気が凍る。

 

「反省文、30枚、今日中、日付変わるまでに私が読み終われるように提出」

 

「「「「「了解っ!」」」」」」

 

 ざっと10人くらいがその反省文対象になった。

この後、武蔵やらが合流して楽しく食べていた。だが、俺への過度な接触を試みようとした者を、懲罰対象とすると宣言したので、皆あまりがっついて来なくなった。普通に話しかけに来るだけになった。

 ちなみに反省文を書く事になった者たちは、大急ぎで部屋に帰っていった。理由としては、反省文を書くため。30枚なんて、単純計算で言えば12000字だ。早く始めないと提出期限に間に合わなくなってしまうんだとか。ちなみに今の時刻は午後7時。読み終わるのに20分かかるとしたら午後11時半には終わってないといけない。その上、対象が2ケタいるので、もっと早くに書いて持ってこないといけないみたいだった。

俺は寮のある方角に向けて合掌をした。

 

 




 (毎回こっちに投稿する文字数が多いような気もしなくもない……)
 最近の暑さにやられている作者です。通学辛すぎるwww
それはおいておいて、今回は前回よりもスパンが短いことは突っ込まないで下さいね。
以前よりも少し余裕が出てきたものですから、調子に乗っているというだけです。
また更新速度が落ちると思います。多分……。

 元ネタから相変わらずの話ですが、ツッコミ所満載だと思いますので楽しんで下さい。
前回ほどではないと思いたいです。

 ご意見ご感想お待ちしています。

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