投降したヲ級の言葉で、『えぇ。私の考えですけど、私のようなド変態マゾ奴隷候補は普段は猫被ってますから、もし寝返ったとなるともっと多くの仲間がこっち側に来ますよ』というものがあった。
"尋問"で引き出した情報の全てはゆきに伝えられているので、もちろんゆきもこのことは知っている。そこでゆきはヲ級の情報を元に、ある行動を始めるのであった。
「で、このメンバーって訳?」
「そうみたいね」
絶賛足柄がゲンナリした顔で、俺の横に立っている。
ゆきに呼び出された俺と足柄、夕張、夕立、伊勢、赤城は執務室に来ていた。
要件は超極秘任務の説明。メンツで何があるのかなんて、俺はすぐに見抜いていた。それは足柄も同様で、赤城は何か知っているような素振りを見せている。その他の3人はよく分かっていないようで、「なんだろねー?」とか言っている。お気楽なもんだな、本当に。
「面倒事は勘弁願いたいんだが……」
「仕方ないわよ。貴方が居ないと何も始まらないんだもの」
「そうだなぁ」
呆れ顔をした足柄に諭されながら、ゆきの声に耳を傾ける。
「今回君たちに来てもらったのは他でもない……」
何か始まった。今回は面倒だからスルーの方向で良いか。
隣に立っている武蔵も今度ばかりは付き合わないみたいだしな。
「うっし、じゃあ行くか」
「おー」
任務内容は分かっているようなものだし、わざわざゆきの説明を聞くまでもない。だが形式上は聞く必要があるのが、少し面倒なところでもある。
聞かずに行こうとする素振りを見せると、よく分からない演技を止めてちゃんと本題に入ってくれるゆきは実は良い子なのかもしれない。……かなり腹黒いけど。
「こほん。……ヲ級から得た情報より、今回君たちには『深海棲艦と言語的接触の実験』をしてもらいたいんだ。それにはヲ級が投降した場に居合わせた君たちが適任だと思ってね」
ぴらぴらと出撃指令書か編成表かをなびかせながら、ゆきがそんなことを端的に説明してくる。
やっぱりそのことだったか。と俺は思ったし、隣の足柄もそんなことを言いた気な表情をしている。
伊勢や夕張、夕立はどういう意図か分かったみたいだし、赤城は表情を変えない。やっぱり分かっていたんだな。
「これまでになかった試みだけど、皆がその足掛かりになることを念頭に置いておいてね」
真面目な顔つきで云うゆきの言葉に、皆が頷く。
「これで失敗したらそれはそれで面倒なことになるから、今度のこともかかっているよ」
静かにその言葉を受け止める。
「でも、やり方は皆に任せたっ!!」
おい。
「じゃあ、いってらっしゃーい!! 行先は適当で!!」
途中まではよかったのに、最後でぶち壊していったな……。そこまで言ったならば、何かあると思ったのに何もないんだからな。
俺たちが考えろってことで、投げ出されてしまう。本当に詰めが甘かったりするよな。他のところでは完璧だったりするのに……。
ーーーーー
ーーー
ー
ということがあり、俺たちはカレー洋を目指していた。一度艦隊が到達し、定期的に深海棲艦の殲滅戦を行っている海域だ。
一度攻略したからといって、その海域の制海権を完全に奪うことまでは出来ないみたいだな。
それは置いておいて、だ。
カレー洋沖に到達しており、空では赤城の索敵機が全周警戒を行っている最中だ。どうやら今、この海域に他の鎮守府から派遣されている艦隊は1つも居ない模様。俺たちに課せられた任務を遂行するならば、これ以上ないくらいに良い状況だった。
今日も旗艦を務めている足柄は、赤城からもたらされる索敵情報を整理しながら針路を決めている最中だった。
そんな足柄を知ってか知らずか、俺たち4人は話しながら航行しているのだった。
「そういえばこの前、どこかに泊りがけで行ってたみたいだけど、どこ行ってたの?」
思い出したかのように、伊勢が俺に訊いてきた。
多分呉第〇二号鎮守府のことだろうな。別に隠していることでもないし、何か面倒なことに巻き込まれたってこともなかったからな。
「呉第〇二号鎮守府に。あれだ。ゆきが執務室から出てこなかった時があっただろう? あれの原因になったやつ」
「うーん、なんだっけ? 電話とか手紙がひっきりなしに来ていたやつ?」
「そうそれ」
同じ鎮守府であったことだ、伊勢や他の皆が知らないはずがない。特にゆきなんてどこに居たって目に付くからな。恰好的にも言動的にも……。
それはともかくとして、俺がそれだけの説明をしただけで伊勢は分かったのだろうか。
まぁ、念のために全部説明しておくか。
「元は呉第〇二号の都築提督が言い出したことなんだけど、前にもあっただろう? 今回の任務の原因になったヤツ。南西諸島で他の鎮守府の艦隊と遭遇した時に混乱が起こっただろう? そうならないように俺が本当にいることと、戦場に身を置いていること。意思を持ってここに居ることを理解してもらうために行ったんだ」
「へぇー」
「あとは都築提督に貸を作るためでもあった、かな」
「いきなり真面目な話に……」
そんな風に話しながらも、俺たちは全周警戒を緩めることはない。
「何にせよ、あっちは静かだった」
「そうなの?」
「こっちはうるさいからな。艦娘も憲兵も……」
そうつぶやきつつ、俺はゆきの泣いた顔を思い出していた。自分の指揮する鎮守府を『動物園』って比喩していたからな。
呉第〇二号鎮守府から帰ってきて報告をしている時に、泣いてしまったあの時を。ウソ泣きだったかもしれないけどな。計算高いし腹黒いから、ゆきは。
「何それ、ひどーい」
「毎日毎日飽きないよな。俺の私室前で出待ちとか、食堂で席の争奪戦とか……。もう慣れたけど」
「じゃあいいじゃん!!」
ニコッと笑った伊勢に、いつもの様子とは違う何かが一瞬見えた気がした。素の伊勢、何だろうか。だがそれもすぐに消えてしまったから、確かめることもできない。
最近思ったことだが、こうやって時々一緒になるメンツは慣れてきていた。足柄は元からお姉さんっぽかったし、夕張も純粋に人として接してくれていた。夕立はなんだか幼心とかも残っているが、近所のお兄さんみたいに俺を感じているんだろうし、赤城も顔を赤くすることはあまりなくなった。伊勢もまた暴走することはなくなった。
というか南西諸島以来、武蔵や大和、ゆき以外といるときはこの中の誰かか雪風たちと一緒だったりする。
そんなことを考えていると、どうやら赤城の哨戒機が敵影を発見したみたいだった。
俺たちにその情報が口頭で伝えられる。
「9時方向、方位172。37km海域に深海棲艦の艦隊を発見!! 編成。戦艦1、軽空母1、重巡1、軽巡1、駆逐2!!」
ガラリと空気が変わり、張り詰めてはいるが緊張感のそれなりにある雰囲気に変わる。そんな中で足柄が指示を出した。
「戦闘用意ッ!! 赤城は準備出来次第攻撃隊発艦開始!!」
「はいッ!」
足柄のハリのある声が海上に木霊する。
「今回の目的は"
「「「応ッ!!」」」
伊勢、夕張、夕立が返事をする。どうやら最後に俺への指示が出るみたいだな。
「大和は細心の注意を払って接近、投降を呼びかけてね」
「応!」
なんだか俺の時だけ言い方が優しかった気がするな。
そんなことを考えている暇は数秒もなく、艦隊は俺基準の最大戦闘速度で突進を開始する。常に赤城の哨戒機から情報は入ってきているが、その情報によれば、あちらもこちらの存在に気付いて向かってきているとのころ。正面から反航戦を仕掛けることになる状況ではあるが、こちらはそんな気は毛頭ない。
「艦隊単縦陣!! 先頭は大和!! 会敵の際、頭以外は散開して攻撃された場合は各個に反撃、いいわね!!」
「「「「「了解!!」」」」」
気合の入った足柄の声に鼓舞される皆に一層前を見る目に力が入る。
艦隊の雰囲気はまさに
そんな俺の考えていることに悠長に時間をくれない深海棲艦たちの艦隊は、俺たちの艦隊目掛けて一直線に向かってきていた。
皆厳戒態勢で、俺もいつ攻撃が来ても良いようにダメージコントロールのことを考えていた。
そして射程圏内に入る。俺の主砲の射程圏内は当の昔に突入しているが、相手の艦隊で一番ロングレンジであろう戦艦の主砲の想定射程圏内に入っていた。だが様子がおかしい。
それには足柄と赤城が真っ先に気付いていた。
「……おかしいわね」
序列2番の足柄が俺に聞こえる程度の声量で聞いてきた。ちなみに足柄は俺の水偵を通してその趣旨を言ってきていたのだ。序列最後尾にいるから肉眼では確認できないが、入った途端に撃たないのは引き付けているとも考えられる。だがたいていの場合は射程圏内に入り次第バカスカ撃ってくるのが"普通"らしい。だから、赤城も不信に思ったのだろう。
その不信感はやがて艦隊全員に伝播した。だがそれでも相手は撃ってこない。
「でも……まぁ良いわ。私たちはインファイトが得意だもの。本来は砲雷撃戦をする私たちでも、接近して近接格闘戦だってしてやるんだから」
その光景はあの戦いでも見たが、まぁ見るに堪えないものだから勘弁願いたいところではある。
そうこうしている内に、深海棲艦との艦隊が目視範囲内に入ってきていた。そしてもうすぐそこまで迫ってきている。構成されている艦隊の面々の表情が見える。
戦艦はどうやらタ級。軽空母は言わずもがなヌ級。重巡リ級。軽巡へ級。駆逐イ、ハ級。ばらつきの激しい編成ではあると思うんだが、どういうことだろう。
そんな風に他人事のように解析していたが、遂にその艦隊がもうすぐそこまで迫っていた。
「っ!!」
俺は気合を入れて、陣形から離脱。深海棲艦の艦隊正面に立ちふさがった。
そして、声を出す。
「と、投降する気は……ないか?」
なんだか通り過ぎて行った艦隊が盛大に滑ったような気がしたが、大丈夫だろうか。配置に付けているのかは、目の端に映っているから問題ないだろう。すぐに起き上がって配置に付いた。
だが問題は目の前にいる深海棲艦の艦隊だった。俺が突如針路上に現れたことから、急停止をした深海棲艦の艦隊の先頭、戦艦タ級は俺の顔を何とも言えない表情で見ていた。
こっちに針路を向けてきて、反航戦だったにも関わらず、攻撃をしてこなかった彼女たちは……。俺には時の進みが極端に遅くなったように感じた。
前回から良い具合に投稿時期を刻んでいっているように感じます。多分そう感じているだけです……。
今回は題名に勘繰られてしまっている方も少なからずいるのではないでしょうか。何せ作者がアレですからね(ゲスガオ)
まぁ、そんなことも気にせずに楽しんでいって欲しいですはい(本音)
少し話を進展させようと思いまして、こういう話にさせていただきました。
少々お付き合いください。
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