大和型戦艦 一番艦 大和 推して参るっ!   作:しゅーがく

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第26話  大和のそっくりさんはまとも?

 

 困った。

最近、俺が頭を抱えることが増えてきたとつくづく思う。そもそもの原因はこの世界に何らかの要因で連れてこられたことなんだけどな。

普段はムッツリスケベな大和が何かしらやらかした時や、加賀が何かした時や、憲兵たちが何かした時なんかがそれな訳だけども……。いや、ほとんどが加賀と憲兵たちが原因なんだけどな。

そろそろ通院して胃薬処方してもらおうか、と考え始めているんだ。

それはともかくとして、だ。今俺が何に頭を抱えているのか。それは、目の前の艦娘に理由がある。

こう表現したということは大和でも加賀でもないことは自明だ。ならば誰か?

 

「大和……」

 

「……」

 

 矢矧だ。朝食を摂って戻ってきた後、1時間くらいしたら俺の私室を訪ねてきたのだ。

海上で砲撃訓練をした後に水とタオルを持って現れた時以来、こうやって面と向かって話をしている。

それまではどうやらタイミングが上手くつかめなかったらしい。何でも基本的に俺が私室に篭っていることや、私室に居なくても執務室に居たり、浜風や磯風が近くに居て近づけなかったからだとか。なんだか引っ込み思案な人が良いそうな言い訳をされたが、それは置いておこう。今回の件には全く関係ないからな。

 矢矧がこうして俺の目の前にいる理由、それは『最期まで見届けられなかったから、巡り巡った今この時も最後の最後まで一緒に居るため』だそうだ。

ちなみに今の言葉は俺が要約したというより、人様に内容を聞かれた時に伝わりやすいように変えた文だ。本当は『大和の従者ならば、最期の時を共に海の上で駆けた護衛の旗艦である私がその席に居るべきだ』と言ったのだ。

普通の人が聞けばただの嫉妬にしか聞こえないのがあら不思議、綺麗な言葉に直せば綺麗な言葉になるんだ。

とまぁ、そんな言葉を言われて返事を悩んでいる俺なのであった。

 

「どうして俺なんだ? この鎮守府に"大和"は2人居る。本来の大和ではなく、どうして俺の方にその言葉を言いに来たんだ」

 

「それはっ……」

 

 矢矧が顔を伏せてしまった。

 どうして俺なのか? その質問は少し意地悪だったんだろうか。

彼女なりに心の中で天秤にかけ、悩みに悩んで俺の方に言いに来たんだろう。自分の発言に少し後悔しつつも、矢矧からの返事を待つ。

 もしかしたら、矢矧は『俺が男だから』とかいう理由でその天秤の重さを偽装したのではないか。そのような考えが脳裏をよぎる。

こういった"軍艦だった頃の記憶"という話題は今まで無かったから考えたこともなかったが、真面目な話をしていても大概の根幹には『男』というものが付きまとう。今回もそうなのではないか、と俺は決めつけていた。

だが矢矧はそんなことは毛頭考えていなかったのだ。否。むしろ、考えることもなかったのかもしれない。

 

「それはきっと、貴方がこの鎮守府で最初の大和だからだと思うわ」

 

 確かに、俺はこの鎮守府で最初の大和だ。本来の大和は俺の次に建造されているからな。

 

「私たちの中では"大和"という存在は貴方である、ということが……なんて言えばいいかしら。……何というか小さい子どもに『あなたのお母さんは?』と訊いて、子どもが1人だけを想像するようなことと同じ、だと思う。貴方ともう一人の大和は『同一人物であって、そうでない』ってこと……なんて言えば良いのか分からないけど、そういうことよ」

 

「うーん……。つまり『大和は2人認識しているけど、矢矧たちにとっての大和は俺で、もう1人の本来の大和はもう1人の大和』ってことか?」

 

「そういう感じね。だからほら、雪風も貴方にかなり懐いているわ。人懐っこい子だけど、貴方だけには本当に懐いている感じがするの」

 

「雪風のことは分からないけど、大体分かった。……"記憶"にある大和が俺で、護衛艦として最期まで守れなかったから近くに居たいってことで良いのか?」

 

 そう俺が聞くと矢矧は黙って頷いた。

 話は綺麗なんだけど、この話はもう1人の大和が不憫でならないな。……まぁこればっかりはどうしようも出来ない。

矢矧はこうやって俺のところに来ては居るけど、他の艦娘だって俺じゃない方の大和にも積極的に関わって行っている。仲良くしている姿はよく見るのだ。だけど、こうやって来るような艦娘は居るのか分からないな。

 

「だから大和、私もそばに置いて欲しい。今度こそ、私は貴方を守ってみせるから」

 

 強い意志の篭った眼が、俺の目を見ている。その目はこの世界で見るような『男を見た時のだらしない女の目』ではなく、強い信念みたいなものしか込められていない目だ。

下心は無い、そう言い切っている目。

 俺はその言葉を信じることにした。だが、守られるのは合わない。

大型艦らしく、男らしく俺が守ってやる……そう言いたくなったが、これを言った後で面倒なことになったことを思い出し、口を閉ざす。

頷くだけにしておこう。

 

「……良かった」

 

 胸を撫で下ろした矢矧は少し姿勢を崩し、目を閉じてから再び俺の顔を見る。

 

「言い忘れていたけど、これは私だけの意思では無いわよ?」

 

「ん? どういうこと?」

 

「これは"私たち"の意思。"あの日"まで、沖縄までを一緒に航行した"私たち"の意思。私は他の子を代表して言いに来ただけよ?」

 

「"あの日"、というと……そういうことか」

 

「えぇ。貴方もよく会っている雪風と浜風、磯風。多分近いうちに初霜と霞、朝霜も会いに来ると思うわ」

 

 矢矧が代表して来ている時点で、どういう組み合わせなのかは分かっていた。どうやらその通りだったみたいだけどな。

 

「……ところで大和?」

 

「何だ?」

 

 そんな真面目な話はこれで終わりみたいだ。矢矧が俺に何か聞くみたいだな。

 

「私はどうしてか簡単に入れてもらえたみたいだけど、廊下でうろちょろしている……」

 

「加賀のことか?」

 

「えぇ。加賀ってもっと……軍規や命令に従順なお手本みたいな人だったと思ったんだけど」

 

「キャラ崩壊している原因は俺だ。鳳翔からも理由は訊いている」

 

 今までの話は全て、俺の私室で話されていたことだった。

矢矧は武蔵の仲介で『話したいことがある』ということで、俺の私室に来て入っている。俺もその話というのが下らなくない、ということは分かっていたからこうして入れている訳なんだが、加賀はそうでもない。

私室前に度々出没しては鳳翔に見つかって連行、お説教を食らっている。そんなことがもう15回ほど起きている。

矢矧が何を気にしたのか、ということも鳳翔から小耳に挟んでいるんだけどな。俺としては面倒だから関わりたくない、というのが本音だ。怖いからな。

 

「それにしても、他の艦娘や憲兵もそうだけど、あそこまでしなくても普通に話しかけていけばいいと思うわ」

 

「全く同意だ」

 

 すまし顔でそんなことを言い放つ矢矧ではあるが、それは多分矢矧たちだけだと思うぞ。と俺は心の中で呟いた。

だってそうだろう? 俺と普通に接している連中が"大和と最期まで一緒に居た艦"だと考えれば……。他の艦との関わりは知らないけどな。

 

「そう考えるとアレだな。矢矧とか浜風たちって、あんなに飢えた獣みたいな目で俺のことを見てこないけど……それって女性としてどうなんだ?」

 

 俺は地雷を踏んでしまったのかもしれない。

この言葉を口にした刹那、矢矧は少し頬を赤く染めたのだ。

 

「もちろん、大和はとても魅力的に映るしそういう下卑た考えが無いわけではないのだけど……望みが無いわけでもないし、でもやっはり考えちゃう」

 

「あー……」

 

 完全に踏み抜いた。

 

「でも自制が効くし、ガツガツ行っても引かれるのは分かっていたから、こうやって話をしたり関わっていこうと……」

 

「分かってた、分かってたよ……。男性少ないから仕方ないもんな」

 

 もうどうしようもないな、こればっかりは。もう女性の性なんじゃないですかねぇ……。

そんな風に考えつつも、やはり矢矧も浜風や磯風、雪風と同じだ。俺の目に見える形で反応をしたりはしない。まぁ、普段話す分には全然問題ないし、仲良くしてもらうのは嬉しい限りだ。

ただし知りたくなかった。やっぱり皆同じだったって……。

 

 





 他の艦娘と絡ませてみました。といっても、元々予定していた艦娘ですけど……。

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