大和型戦艦 一番艦 大和 推して参るっ!   作:しゅーがく

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第23話  急襲! どうも政府の者ですが

 

「てな訳で大和っ!! 君には雲隠れしてもらうよっ!!」

 

「分かんないから。重要なところ抜けてて分かんないから」

 

 急にゆきに呼び出されて執務室に来てみれば、こんなことをいきなり言われた。

そんなこと言われたって、俺には何も分からないんだけど……。

 

「ごめんごめん。えぇと、ね……政府の人が大和に話をしに来るってこと」

 

「なるほど理解した」

 

「理解が早くて助かるよ~。大和は政府の保護下に入るつもりはないってこの前言っていたから、話をする必要も無いって言ったんだけどねぇ……」

 

 ゆきの表情から分かる、面倒なことになっているということが。

どう考えてもアレだ。『俺への説得』ってのをゆきに伝えているんだろうが、本心は別にある筈だ。それから逃げるために、俺に雲隠れするようにゆきは言ったんだろう。

一度会ってしまえば、面倒事は避けられない、と。そういう意味だ。

 

「分かったから、いつから隠れれば良いんだ?」

 

「今から」

 

「は?」

 

「今からっ!!」

 

 完全に今後の展開が想像出来る。デジャヴだ。絶対そうに違いない。この部屋には何故かいつもいる武蔵が居ない。

もうすぐ入ってくるだろう。

 

「提督っ!! 来たぞっ!!」

 

 ほらみろ。ってことは……。

 

「お忙しいところ失礼します」

 

 入ってきた。ほら、入ってきた。これ完全にデジャヴなんだよなぁ……。

 そんな俺の心情はつゆ知らず、ゆきは平静を装って椅子に座っている。そして俺はすぐに押し黙り、武蔵の横に行く。

今入ってきた人に声は聞かれていないはずだ。男勝りな艦娘は何人かいる。それと同類と間違えてさえくれれば、この場から逃げ出すことだって容易なはずだ。

 

「政府から派遣された男性保護に」

 

「あー、分かってますから手短にお願いします」

 

 ゆきが敬語になった。大本営の御雷さん以来だな、ゆきの敬語を聞くのは。

 

「海軍呉第ニ一号鎮守府、大型艦建造にて建造された男性型の戦艦大和の件ですが、男性保護法の適応により、政府の方で保護をする趣旨を伝えに参った次第です」

 

「はい。その件でいらっしゃっるということは、事前に聞き及んでおりました。ですが、先方にも以前に本人がお伝えしました通り、これまで通り、海軍にてその能力を振るうという意思があります。それは今も揺るがない、とここには居ませんが言っておりましたが?」

 

 あの時の政府の人間め。内容をちゃんと上に報告していないんだな。もしちゃんとしていたのなら、ここに来ている人は保護云々ということを最初に言わないだろうからな。

こりゃ完全に組織として腐っているな、政府は。

 そんな風に考えていると、隣の武蔵から声を掛けられる。

俺にしか聞こえない程度の声の大きさで話してくれた。

 

「さっさと執務室を出ると良い。そうすれば、今日はもう話になることは無いだろうからな」

 

 頷いて答えると、俺はそのまま扉の方に歩き出す。

その途中、話し声はずっと聞こえてきているのだ。

 

「なるほど……。前回の話では、保護に関して積極的だったという報告を受けていますが?」

 

 そらみろ。正確な報告をしていないんだ。

背中越しに伝わる、明らかにゆきの黒いオーラに気付きつつも、俺は扉に手を掛けた。そしてそのまま何事もなかったかの様に出ていく。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 完全にこのノリだったら、『話が噛み合っていませんね。貴方はどうお考えですか?』みたいなノリで、最初からバレていた感じになると思ったんだがな。

どうやらそんな感じにはならなかったみたいだ。俺は何事もなかったかのように執務室を出て行き、そのまま自分の私室へと直行したのだった。

 道中、すれ違うのは艦娘と憲兵だけ。反応はいつも通りだ。

その反応にも慣れてきた頃で、最近ではあまりに反応しているのを観てしまうとイタズラしたくなる衝動に駆られたりもする。何でだろうな……。

 それはともかくとして、俺は自分の私室に入って鍵を締め、チェーンロックをする。

ここまでするのも、既に習慣化してきたものだ。俺はそのまま寝転がり、まぶたを閉じる。

きっとゆきがあの人をどうにかして追い返してくれるだろう、そう思いながら……。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 そんな風に思っていた時期が俺にもありました。

 目を覚まして少しすると、部屋の扉をノックされた。どうやら来ていたのは武蔵だったようで、俺はいつもと同じ風に扉を開ける。

俺はてっきり休憩がてら、俺の部屋にお茶を飲みに来たんだとばかり思っていた。だが、全然違ったのだ。

 

「兄貴」

 

「何だ?」

 

「まだ政府の奴は居て、話をしているところだ。あれこれと言葉巧みに提督の言葉を上手く利用している」

 

 最も考えたくなかったことが起きていたみたいだ。ゆきの話術が通用しないとなると、ここから先は直接俺が面倒事に巻き込まれることになる。

それは嫌だったし、ゆきもそれを避けるために話をしているのだ。なのに、それすらも駄目だというのなら、俺が出ていくしか方法は無くなった。

俺の直接的な言葉で、きっぱりとここに残ることを言わないといけないのだ。

それを言ったとして、恐らく政府の方は食い下がってくるだろう。何故なら、こんな危険なところに男性を置いておく訳にはいかないからだ。

 

「そろそろ面倒になった提督が折れて、招集が掛かるはずだ」

 

「えぇ……面倒だなぁ」

 

「それは政府の奴に言ってくれ……」

 

 座って話をしていたんだが、俺は立ち上がった。この話の流れから察するに、武蔵は俺のことを呼びに来たんだろうからな。

 俺が立ち上がるのと同時に武蔵も立ち上がり、扉の方に歩き出す。

話をするにしても、俺への配慮が何よりも最優先で行われる。ならば、俺はこのままここに残る意思を伝えるだけで良いだろう。それをしたからと言って、あちらは手も足も出せないはずだ。

もし何かするようならば、ブタ箱行きは確実。政府の人間だからといって、例外なんてあり得ない。いかなる法よりも上に位置する男性保護法だからな。

 私室を出て、そのまま執務室へ向かい、中へ入る。

そうすると、まだ中では話をしているみたいだった。だが、俺が入るなりその話はピタリと止む。

 

「提督、連れてきたぞ」

 

「ん、ありがとう。武蔵」

 

 執務室に到着すると、少し疲れた顔をしているゆきと、政府の人が居た。2人ともソファーに腰を降ろしており、お互いの目を睨み合っていた。

武蔵に礼を言ったゆきも、こっちに顔を向けることなく、そのままの姿勢で言ったのだ。

 俺はその2人が睨み合っている間に立ち、ゆきに声を掛ける。

 

「戦艦大和ですね?」

 

「はい」

 

 ゆきが言うよりも早く、政府の人が俺に話しかけてきた。

 

「貴方に来てもらうまで、山吹海軍大佐から話を聞いていました。その内容についてすり合わせをしたいのですが、よろしいでしょうか?」

 

「構いませんが」

 

 何だか乗せられているような気がする。というか、完全に乗せられているな。

それに気付いた時には既に遅かった。

 

「私の方に来ている前回の報告書によれば、前回大本営にて行われた際には『呉第ニ一号鎮守府所属 大和型戦艦 一番艦 大和(特種)は政府による男性保護法発動において、政府管轄の施設への収容・管理に関して肯定的な発言をしたものの、返事を追って連絡する』ということになっていました。その件に関して山吹海軍大佐は『そのような話はしなかったし、大和は否定し、抵抗をした』と仰っておりました。そこで、真意を訊きたいのです。……貴方は本当に軍に残り、前線に立つことを望んでいるのですか?」

 

 難しい言い方をしているような気がするが、だいたいその通りだ。

 それよりもあの2人。嘘を報告していたんだな。やっぱり。

まぁ、ゆきに色々言われてぐうの音も出ない状況に追い込まれていたからな。仕方ないのかもしれない。

 

「はい。それに前回の件ですが、山吹提督が貴女に仰った通りでした」

 

 ここからは俺が話す番だ。

 

「それにこちらは、会議開始前に内容を指定していました。ですが、そちらが派遣したお2方はこちらの『意思』を歪曲し、強制を強いてきました。どういうことか説明していただけますか? 更に、私自身も既に私自身の意志は伝えてます。どうして今になって貴女がここにいらっしゃる必要があったのでしょうか?」

 

 ふーあっはは!! このまま帰ってもらいたいものだっ!!

前回の会議であったことにふまえ、今回のも俺が望んでいなかったことを伝えた。今までの様子から察するに、今日派遣されてきているこの人は話が出来る人だ。

絶対分かってくれる筈。

 

「なるほど……分かりました。戻り次第、派遣した2名を"形式上"の弾劾裁判に掛けましょう。それと『軍に残る』ということですが、私だけでは判断しかねますので上に報告させていただきます。次、このようにお伺いする時も事前に連絡致しますのでよろしくお願いします」

 

 と言って、執務室から出ていってしまった。そのままゆきと武蔵はその後をついて行き、結局鎮守府から出ていったみたいだ。

帰った、ということだろう。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 見送りに行ったゆきは戻ってくるなり、椅子に座ってカタカタと震えでした。

そんな状態が数秒もすると一転し、バンッと机を叩いて立ち上がったのだ。

 

「なんだそりゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 いや、こっちのセリフだから。

 

「え? 何あの人?! すっごいあっさり帰っちゃったけどぉ!! 何かもっと食い下がってくるかと思ったんだけどどういうことなのねぇねぇ!!」

 

「揺らすな揺らすなー」

 

「本当にあの2人の上司なのかなぁ!? どう思う大和ぉー!!」

 

 首がガックンガックンなってて苦しんですが……、と言おうにも俺は口が開けなかった。それと同時に意識を失ったからである。

 この後、特に何も起きなかったので、どうにも言う事が出来ないが、大本営に行った時に会った法務省の人間と言った2人は案の定"ブタ箱"に入れられたようだった。

そして、俺が政府の管理下に置かれる云々という話は一時的にはあるが、凍結することになったとさ。あまりにも俺という存在が特殊過ぎるからだとかなんとか。

 





 前回の続きでヲ級のことを書くと思いましたか? 残念でした!!
一応、これにて政府との色々ないざこざは終了です。大本営での2人のことは、今回来た人が中心になって解決されましたので、今後はほとんどこの件には触れることはないと思いますはい。

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