俺は南西方面に出撃していた艦隊の旗艦である足柄と共に、あるところに来ていた。
そこはこの呉第ニ一号鎮守府の中でも、憲兵にお世話になる人が入るところである。そう、営倉なのだ。
何故、俺がこんなところに来ているのかというと、簡単な話だ。
南西方面に輸送路の掃海任務に出ていた俺たちが2回目の戦闘をした時に投降してきた空母ヲ級。それが営倉に入れられているのだ。
深海棲艦だというのにどうして営倉なんかに入れているのかというと、ここに入れられている空母ヲ級は飛行甲板(頭の帽子みたいなやつ)も脱落しており、杖みたいなものも持っていない。非武装状態で戦闘など不可能であると判断されたからである。
本題に戻ろう。俺がどうしてここに来ているのか。
それはゆきに言われて、一緒に尋問するために来ているのだ。もちろん憲兵も一緒だ。
「……ここがどこだか分かるわね?」
営倉のなかの1つ。空母ヲ級が入れられている牢の前に、俺と足柄、憲兵が立つ。ゆきは少し離れたところから観ている。
足柄がそう切り出した。それにヲ級は答える。
「鎮守府でしょ? そんなこと分かってる。……それで、アンタは私を尋問しにきたの?」
「えぇ。幾らか吐いてもらうから、その気でいてね」
何だか海上で投降した時の雰囲気とかなり違うようだが、どうしたんだろうか。少し高圧的というか、反抗しているようにも見える。
そんなことを知ってか知らずか、足柄が尋問を始めた。
「貴女の所属と階級を言いなさい」
軍のテンプレ通りのことを聞いているんだろうか。
「中央総軍南西方面派遣艦隊 海上航空団。階級なんて無いわ」
「っ……。良いわ」
何この子あっさりと言っちゃってるの。今さっき反抗的な態度取ってたよね?
ヲ級の態度を分かっていたのか、足柄は眉をひそめていた。やはり反抗的に見えていたんだろう。
「投降した意図は?」
この尋問内容から、全てが変わってしまったのだった。
「そりゃもちろん!! そこに居る男性から身ぐるみ剥がされて、公衆の面前で恥辱をっ……はーっ、はーっ、はーっ、んぐっ…………そんなことをされたら、もうその男性に投降するしかないじゃない!!」
「は?」
あ、これはヤバい奴だ。俺は直感的にそう感じた。さっきまですまし顔をしていたヲ級も、いきなり頬を赤く染めてトランス状態に入っている。
そのうっとりとした表情を俺に向けて、色々と吐きはじめた。
「中央に居たのにいきなり遠方に派遣されて嫌だったけど、こんなことになるなんて思ってもみなかったわ。男性なんて死んでもお目にかかることが出来ないのに目の前に現れるし、しかも私のことを攻撃してくれるんだもの!! あぁ、でも私たちでこっち側に投降したのなんて居ないから色々言われているんだろうなー。軍籍剥奪とか色々ありそう……。でもでもこっちに居る方が絶対良いわよね!!!」
俺の顔をガン見するヲ級が所々欲しかった情報を吐いてくれたみたいだ。足柄が憲兵に言ってメモを取っていっている。
そして足柄がヲ級に対して言い放ったのだった。
「取り敢えず今日はここまで。じゃあ、帰るわよ」
『今日は』ってことは明日もあるんだろうか。
帰ると言われて、俺は後ろを振り向くが突然ヲ級がわめき出したのだ。
「あぁ、行かないでぇぇぇ……。名も知らぬ私のご主人様ぁー!! 私を独りにしないでぇ、ぐすっ……」
セリフが彼氏に棄てられた彼女みたいになっているが、残念ながらそれは出来ない相談だ。何故なら……。
「大和ぉー! この後、アイス食べにいこー!!」
ゆきに腕を引かれているからだ。こればっかりは振りほどけ無いな。
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ーーー
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ゆきに連れられて甘味処に来ているが、そこで聞かれた。
「あのヲ級さ、もしかしてさ」
「ゆきの想像通りだ。陸でも海でも変わらない」
「だよねぇ……。やっぱり大和目当てで軍を棄てたドアホウだったかぁー」
そう。今日の尋問で、それが分かったのだ。あのヲ級は男である俺を見て、軍を捨てる覚悟を数十秒で決めた深海棲艦側の脱走兵なのだ。
しかもかつての味方の情報を明け渡すのに抵抗はないみたいだし……。
「しかもド変態と来たもんだ。どうしようね……」
そして皆が甘味を楽しむ空間の中で2人、頭を抱えるのであった。
そう、あのヲ級は変態なのだ。攻撃されて喜ぶ、縛り上げられて喜ぶ、何故か主従関係がヲ級の中で成立している。最後はともかく最初の2つは完全にソレといっても良いだろう。
南西方面から帰ってきた際に足柄が提出した報告書を読んだ結果、ゆきもそういう風に捉えたみたいだった。もちろん、目の前で見ていた俺も然り。
逆に考えて、ここまで来たら面倒事を全て避けるっていう方法もある。
俺はそのことを思いついたが、どうやらそれはゆきにもあった様で、先に言われてしまう。
「あーあ、仕事増やすのも嫌だからなぁー。ヲ級のことも上に報告せずに、このままこっちに引き取ろうかー。あの様子だと大和の言う事には従順だろうし。武装も妖精さんに調べてもらって、もし残っていれば即時武装を解体すれば良いかぁー」
「俺としても上に報告は勘弁して欲しい」
俺がどうして上に報告することを避けるのか、その気持ちはゆきにも分かったようだ。
「視察とか言って来るんだろうけど、どう考えても大和との接触も狙って来るだろうからね。大和は心労2倍デーになっちゃう」
「全くその通りだ。ヲ級の相手よりも、こっちの軍上層部の相手の方が格段に面倒だ」
嫌われたものだな、と思いつつも俺はアイスを食べる。
ここ甘味処 間宮は鎮守府に必ず設置されている、娯楽施設の1つだ。間宮と伊良湖が切り盛りしている店で、甘味が楽しめるということで人気がある。もちろん呉第ニ一号鎮守府でも人気だ。
俺はゆきに誘われて来ているが、今回のお代はゆき持ち。おごりというやつだ。まぁ、こんなみてくれをしているが上司なものだから格好つけさせて欲しいんだとさ。
「んー!! 美味しい!!」
本当、こんなみてくれだけど一応上司なんだよな……。たまに中学生か高校生に見えるときがあるが、それは俺だけでは無いだろう……。そうであって欲しい。
ーーーーー
ーーー
ー
最初に言っておく。仕事が増えた。そもそも仕事をそこまで振られない俺ではあるが、ゆきがおもむろに俺に仕事を与えてきたのだ。
その仕事というのは『拘束したヲ級を手懐け、情報を全て引き出せ』というもの。可愛い顔してえげつないことを仰る、ウチの提督殿は……。
与えられたからにはその仕事を完遂すべく、俺はヲ級が拘束されている牢までやってきた訳だが……。
「なぁ」
「何ですか、ご主人様?」
「その格好は何?」
「私に敵意が無いことをご主人様にお伝えしようかと思いまして、このような格好をしています」
今にも『ふひっ』とか言いそうな表情で、俺の顔を見上げているヲ級の格好というのはなんとも見てられないものだった。
取り敢えず地べたに正座している。これはなんとも思わないが、ここからが問題だった。頭を下げている状態、つまり土下座状態なんだが、その隣には身につけていたであろう衣類が畳まれている。
ヲ級をよく見れば、どうやら何も着ていないようだ。
これは本格的にヤバイと思った。どう考えたって、全裸土下座って問題しか無いだろうに……。
俺はそのことを理解してすぐ、後ろを向く。
「取り敢えず服を着てくれないか? その後にここに来た理由を言うから」
「着衣がお好みなんですね……マニアックなところもまた」
「早く服を着やがれ変態」
「は、はひっ!!」
取り敢えず服を着せないことには、話をすることも出来ない。強く言って服を着てもらった。
というかヲ級のあの格好って服だったんだな。からだの模様かと思っていたぞ……。
すぐに服を着たヲ級に声を掛けられた、俺はヲ級の方を向く。
確かに服は着ているようだ。これなら話をすることが出来る。
「ストレートに言うからちゃんと答えること」
「はい」
「ヲ級が知っている深海棲艦について全て吐け。吐けば俺の上司が何かご褒美くれるそうだ」
そう言っておく。ゆきからは『拘束したヲ級を手懐け、情報を全て引き出せ』という様に言われているが、これは俺が勝手に要約した言葉だ。
本当は『大和が捕まえたヲ級ちゃんがどうやら大和に懐いているみたいだし、好きにしてもいいよー。あ、だけどね逃がすのは無しね~。それと出来れば深海棲艦側の情報を引き出せたらゆきちゃん的にはとっても嬉しいかなぁ~きゃっ』ということだ。
何だかかなりのキャラ崩壊をしているような気がしなくもないが、元からそういう感じだったから気にしないでおこう。
それよりもコイツ(ヲ級)は本当に本心からの行動で、ああいう態度を取っているのだろうか。俺はそれが気になっていた。その後からでも情報は引き出せればいいからな。
だがここに来て分かったこともあった。疑っていた態度に関してだが、まさか全裸待機&土下座をするとは思ってもみなかった。もし演技でしていたとしたら、そうとう羞恥心があるはずだ。
そこで恥ずかしさを表情に出しても良いんだろうが、このヲ級はそれが一切無かった。
つまりは疑いはまだあるものの、本心から下ってきたということを仮定しても良い段階にあるんだろうということが分かったのだった。
「ご褒美っ!? ご褒美ってどんなことですかぁ?!」
「どんな『こと』?」
「はいっ!! 投降した時みたいに縛り上げてご主人様の前で晒し者にするのか、はたまたご主人様の前で恥ずかしい格好をしてご奉仕するのかぁぁぁ!!」
ヲ級の相手をしていると疲れるな……本当に。どうしてそこまで思考して、しかも恥ずかし気もなくそんなことが言えるのだろうか。
俺はそんなことを思いつつも、冷静に回答をする。
「ご主人様はどのような格好がお好みでしょうか? ミニスカメイド? ミニスカナース? リ◯ルートスーツ? スク水? 他でも私は万事オッケー!! どんとこいですよぉぉ!!」
「……はぁ」
「ん? もしかしてもっと過激なものの方が良いですか? この前みたく亀甲縛りとか、r[自主規制]
ダメだこのヲ級。俺と主従関係を結んでいるつもりであることは分かるんだが、どうしての相手の前でここまで暴走出来るんだろう。
本当に頭が痛い。そんな風に頭を抑えている俺のことはつゆ知らず、既にセリフとしても本文としても掲載するには不味い発言をしているので言わないでおこう(メタ発言)
「……で、ご主人様はどのようなプレイがお好みで?」
「格好のことを訊いてたんじゃなかったのかよ……」
俺が捕まえた捕虜はとんでもなく変態だったみたいだ。
「はっ?! もしかしてやっぱりz[自主規制]
いやはや皆さん。大和くんの更新が早いと思っているでしょう? そりゃもちろんです。
最近、こっちの方にスイッチが入っておりまして、結構な速度で書き進めております。
というのは置いておいて、最近は『[1自主規制]』が増えてきましたが、完全にネタとして振ってますのでご容赦ください。
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