――――――私の未来の旦那さんなんだからッ!!! 私が守ってみせるッ!!
この直後、全員がコケたのだった。
深海棲艦の艦隊との交戦圏内に入るか入らないかというところで、だ。
「ちょっと、何いきなり叫んでるのよ!! それよりも内容がぁぁぁぁぁ!!!」
最初にツッコミを入れたのは足柄だった。足柄の声に正気を取り戻した面々が次々と不満を言っていくが、今の状況を忘れているのだろうか。
刻一刻と深海棲艦の艦隊が近づいてきているのだ。
そんな中、俺はさっきまでの恐怖が一瞬にして吹き飛んでしまったような気がした。
1人だったなら、奮闘しても沈められてしまうかもしれない。だが、今は仲間が居る。初対面で今日初めて会った艦娘ばかりだが、それでも同じ呉第ニ一号鎮守府の艦娘だ。
皆がいれば怖くない。そう思ったのだ。
それに俺は大和。世界最大最強の戦艦なのだ。そんなことも忘れていたのか……。
「はっはっはっはっ!!!! バカバカしくなってきたー!!」
ギャーギャーとやりあっているところで、俺は大声で叫ぶ。
覚悟を決めて、俺は立ち向かおうと決めたのだ。今まで怯えていたのがバカバカしくなったのだ。
そんな俺の様子を見て、騒いでいた中から伊勢が出てきた。
そして俺の横に立って、優しく微笑んだのだ。
「頑張れっ!! 男の子っ!!」
応援されたが、何だか腑に落ちない。
そう。俺は守られたくはないのだ。練度に差があるのは分かっている。恐らくこの艦隊で一番の低練度は俺だろう。だが、俺はそんなことを無視してでも"勤め"があることには代わりはない。
「なぁ、伊勢」
「ん、何?」
「守ってもらうのは嫌だ」
俺がそう宣言すると、騒いでいた足柄たちも黙った。急に静かになり、遠くで起きている航空戦の音と潮の音だけが耳に入ってくる。
そんな中、俺は言ったのだ。
――――――俺が守ってやるよ
刹那、空気がカーっと暑くなってくる。俺の顔が暑くなっているのかもしれないが、すぐにそれが違うことに気がついた。
明らかにオーバーヒートしそうな勢いで飛び出していった夕立に続き、次々と艦隊が深海棲艦の艦隊目掛けて全速力で突っ込んでいったのだ。
「それだけなのかァァァァァァ!! もっと私を轟沈させる気で掛かって来いッ!!」
まさしく狼の様に戦艦相手に次々と攻撃を繰り出す足柄。
「まだまだ目を覚ますことは許さないっぽい!! そのまま悪夢に喰われて沈めェェェェェェ!!」
持ち上げた駆逐艦を重巡に投げつけている夕立。
「ちょーっと実験台になって貰いますよ……っと。はいはい沈んで下さいねー!!」
駆逐艦をぶつけられてすっ飛んでる重巡じゃない方を、無理やり海に沈めている夕張。実験台とか言ってたから、今回全く役に立ちそうにないソナーの実験台にでもする気なんだろうか。
「告白されたプロポーズされたどうしようどうしよう……お金あるかな? 無かったら日向から借りて指輪買わないと、新婚旅行はどうしよう休み取れるかな? あーでもそれよりも大和くんってもう少し細い子の方が好みなのかな? まずダイエットしないと……。でもでもむっちりしている娘が良いって男の人ってよく言うらしいし、適度にお肉落とすだけの方が良いのか? どうしようどうしよう……」
伊勢が何かブツブツ言いながら足柄が相手をしていない戦艦に砲撃したり、刀で切りつけたりしている。
「私も加賀さんを見習って攻めた方が良いんでしょうか? 奥手の方が好かれるって前買った本に書いてありましたし……。えぇと……どうしましょうか……」
口走ってる内容は乙女なんだが、やっていることが乙女じゃない赤城。空母相手に上空では航空戦を続け、赤城自身は何故か空母相手にインファイトしている。
このカオスな戦場で、俺は呆然と立ち尽くしていた。口走った"ひとこと"で、これだけのことが起きてしまうとは思いもしなかった。
それよりも先ほど連絡を受けて到着した、呉第三九号鎮守府の艦隊の皆がドン引きしているんだが……。この状況を俺が説明しなくちゃいけないのか?
というか深海棲艦の面々がむっちゃ涙目なんだけど……。
ーーーーー
ーーー
ー
俺以外の艦娘たちにフルボッコにされた深海棲艦たちは、泣きながら沈められていったのだった。
それで今はというと、艦隊の単独行動は危険ということになり、即席の連合艦隊にて行動中。合流したのは呉第三九号鎮守府の艦隊。旗艦が飛鷹の軽空母戦隊編成だ。
今回は同鎮守府からの連合艦隊ではないために、近くを航行している。目視範囲内だ。
さっきの艦隊を撃破したことにより、他に同じような艦隊が存在しないかということを調査するために南下を続けていた。
その道中、遠方を航行している深海棲艦の単独航行などは目撃しているが、今のところの戦闘は1回しか起きていない。
「……」
俺は静かにしていた。理由は明白だ。
さっき俺が言った言葉を曲解している約5名が、少々煩いからだ。それはもう今すぐに離れたいレベルで。
「大和くんはどんな女性が好みなのかしら?」
「艦娘や日本人でも私のような見た目の女の子はいないけど、どうっぽい?」
「私、結構男の人が好きそうなもの好きなんですよねー。大和くんって好きなものとか無いんですか?」
「新婚旅行どこにいく? 私は北海道に行きたいなぁ」
「今度一緒に甘味処行きませんか? 最近美味しい最中が出たんですよ」
とまぁこんな調子だ。戦闘前までの様子とは全然違い、戦列もバラバラ。陣形と言える陣形ではなくなっており、俺の周りをぐるぐると5人が回っている状態。
俺はそんな風にされても、黙って海を見ていた。今はそんな話をしている場合ではない、ということは十分に分かっている。多分5人も分かっているんだろう。
だが俺にはそんなことをしている余裕は無いのだ。そのうち出来るようになるんだろうが、今は出来ない。
「だぁぁー!! もう、うるっさい!!」
遂にその騒がしさにも耐えられなくなり、俺は皆にそう訴える。
「言い渡された任務の艦隊は倒したけど、まだいるかもしれないからってこうやって居るんだろうが!!」
「「「「「そんなこと分かってるけど?」」」」」」
「分かってるのかよ……」
ともかく、今は索敵に専念して進んむのが最適だろう。
俺はそう思い、紫雲を飛ばす。
「取り敢えず、あんまり俺の前でグルグル回るのは止めてくれないか?」
「……仕方ないわね」
そう言って足柄は離れていき、それに続いて他の艦娘たちも離れていった。やっと煩いのからも開放されたかと思ったその時、赤城が叫んだのだ。
「2時方向に深海棲艦の艦隊を発見ッ!!」
艦隊内が一気に緊張で包まれる。その連絡は近くの呉第三九号鎮守府の面々にも伝え、共同戦線で撃破していくことになった。
前衛は俺たちで、後衛・援護は呉第三九号鎮守府の艦隊が務めることになる。陣形を複縦陣に整え、真後ろに後衛の艦隊が入ってくる。攻撃準備完了だ。
赤城の偵察機からの連絡を待ちつつ、赤城と飛鷹は第一次攻撃隊発艦を始めていた。先制攻撃を行い、砲雷撃戦を行う俺たちへの負担を減らすのだ。
そんな時、俺はあることを思い出す。不意に艤装から砲弾を取り、手に持つ。
その光景を見ていた夕張が俺に聞いてきたのだ。
「どうしたの? 46cm砲弾なんて持って」
「ちょっとやりたいことがあってな。俺も先制攻撃をする」
手に持っているのは零式通常弾。いわゆる榴弾だ。これで何をするのかというと、以前やれることが判明した投擲だった。
俺は戦列から少し脇に出て、振りかぶる。既に目視出来る距離には居るので目標物は見えていた。そして投げた。砲弾は一瞬で消え、遠方で爆炎が上がるのを確認した。
「おー当たった当たった」
そんな風に見ていると、皆がざわざわしていた。それもそうだろう。砲弾は砲から撃ち出すものであって、投擲するものではないからな。
それが普通の認識だ。だが俺は違う。投げることも出来るだろうと投げた結果、こういうことが出来ることが分かっていたのだ。
「『おー当たった当たった』じゃないよ!! 砲弾投げて、しかも当てちゃうしぃ!!」
少し興奮気味の伊勢にそう言われたが、俺は無視して戦列に戻る。
何を言われようが、俺はこれを止めるつもりはない。
「止めても無駄だからな。俺は投げれるのなら投げたい」
「……い、いや、止める気は毛頭ないけど……。いきなり攻撃されて驚くだろうから、奇襲にはうってつけの攻撃方法だね」
止める気は無かったんだな。まぁ、良いか。
それよりも赤城がどうやら深海棲艦の艦隊の編成を掴んだようだった。
それを俺たちに報告してくれる。
「相手の艦種は戦艦2、空母3、重巡1ッ!!」
これも本命って思っても良いだろう。編成的にも該当する艦隊だ。大型艦が中心の艦隊。
俺たちの即席連合艦隊が戦闘態勢に入る。既に俺が先制攻撃をしたために、空母が中破しているらしく、航空戦では有利な状況。あとは砲雷撃戦でカタをつけるだけだった。
それに俺も既に鼓舞し、やる気に満ち満ちていた。
「反航戦よ!! 一撃で粉砕するわよっ!!」
「「「「「応!!」」」」」
俺の最大戦速に合わせて、艦隊を増速させる。そしてそのまま深海棲艦の艦隊と接触。戦闘を始めたのだ。
正面からぶつかり、先ほどの戦闘と同じ程度に奮闘する仲間たちに混じり、俺も砲撃を繰り返し、繰り返し、空母を戦闘不能状態に追い込んでいた。
艦隊編成的には深海棲艦側の方が有利だったが、俺たちはそれ以上にアドバンテージがあった。後衛が対空射撃を行ってくれていたお陰で、相手の航空隊は尽く撃墜し、主戦場はもっぱら水上になっていたのだ。それにその水上には狼と悪夢がいる。そしてさっきから『ソナーの実験』と称して、重巡を沈めようとしている軽巡やら、今度は弓でビシビシと叩いている空母やらが居る。
もう完全にカオスな戦場となっていた。そして、俺はというと……。
「あ、あのっ……」
「……え? なにこの状況」
目の前に居る女の子は、海の上で正座をしている。そんなことが出来る理由をぜひとも聞き出したいところではあるが、それどころではない。
さっき倒したはずの空母がどうして座っているんだ。しかも話しかけてきているんだ。
状況が飲み込めない。沈んだから水面から消え去るんじゃないのか、俺の今までの経験ではそれが普通だった。だが、目の前の血色の悪い少女はほんのり頬だけを赤くして、上目遣いで言うのだ。
「私をどr[自主規制]
ーーーーー
ーーー
ー
戦闘は終了し、取り敢えず輸送路を清掃は終わったということで、俺たちは鎮守府に撤退を始めていた。1人増えた状態で。
さっきの戦闘中、どうしてか投降(?)してきた空母の深海棲艦。判別名:空母ヲ級は、拘束して連行中だ。どうやら俺が最初に投擲した砲弾に直撃して、早々に戦闘力を失っていた空母だったらしい。
そして俺との砲雷撃戦のさなか、兵装の全てが脱落。保有する航空隊も全て撃墜されてしまったらしく、実質非武装状態になっているらしい。
それで今の状況だ。
「なぁ……」
「何かしら?」
「どうしてさ」
どうして足柄は……。
「たまたま持っていた縄で拘束するのは分かる。分かるんだけどさ」
「うん?」
「どうして亀甲縛りで、しかも浮いていた廃材で捕獲したイノシシのごとく担いでいる訳?」
今、そのヲ級は足柄に亀甲縛りをされた状態で、海を浮いていた廃材でぶら下げている状態だ。確かに身動きは取れないだろうけど、どうして亀甲縛りをする必要があったんだろうか。
しかも腕も背中で縛っているし、口に何か咥えさせているし……。
そして廃材の両端を担いでいるのは足柄と伊勢。どうして皆、この状況に違和感を持たないのだろうか。
来た道を戻っているんだが、なんというかシュールだ。
それに例のヲ級はというと……。
「ふーっ、ふーっ、ふーっ」
「うわぁ……」
「ふーっ、ふーっ、ふひっ……」
「……」
なんで恍惚としているんですかねぇ……。
そんなヲ級から目を逸らし、俺は前方に向く。
「あー、早く帰りたい……」
前話のアレは何だったのか、と言いたげな読者の皆さんの顔が眼に浮かぶようです!!
ふはははははは!!
この作品にシリアス展開があったとしても、完全にそういう方向に持っていく訳ないじゃないですかァ!! 絶対ネタに引き込みますからね!!
ということで、また期間が開くかもしれませんのでご了承下さい。
ご意見ご感想お待ちしています。