大和型戦艦 一番艦 大和 推して参るっ!   作:しゅーがく

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第19話  南西方面戦役 その2

 海に出ればすぐさま輸送航路に向かい、海域掃討に入る。

近くを通る深海棲艦の艦隊を片っ端から攻撃していく訳だが、これまた面倒なことになっていた。

練度や戦闘経験の関係上、艦隊の旗艦は足柄になっている。それは指して問題じゃない。

ああ見えて足柄、ちゃんと艦隊指揮をしているからだ。巷では戦闘狂やらおばさんやら言われているけど、こんな姿見たら評価が変わるにきまっている。さしずめ『バリバリのキャリアウーマン』だな。年収8桁行きそうで笑えない。

それは置いておいて、だ。問題はそれ以外にあった。夕立が前に出たがり、夕張が予定にない装備を持ってきていたりしたのだ。

 

「えー!! どうして突撃しちゃ駄目なのぉ?」

 

「あったり前でしょ!!! 隊列から外れたら蜂の巣にされるんだからっ!!」

 

 足柄さん。ごもっともです。

 

「そ・れ・に!! 夕張ぃ~!!」

 

「ひぃーっ!! すみませんすみません!! つい、出来心でぇ!!」

 

 ちなみに予定にない装備とはソナーだ。対潜装備を持ってきているのだが、肝心の爆雷は持っていないという始末。意味不明なんだが……。

 

「出来心なら提督に折檻してもらうわ。それが良いわね」

 

「ぎゃー!!!!」

 

 艦隊前衛は出撃してからずっと、こんな様子なのだ。

その一方で俺は赤城と伊勢と共に、艦隊後衛を航行していた。

 

「あいつら、トリオ漫才でもしているんだろうか?」

 

「どうだろうねぇ~。正直に言っちゃえば、私も突撃したいし」

 

 そんなことを伊勢は言いながら、隣を航行する。

ちなみに、今は陣形がほとんどない状態だ。こんな時に接敵でもしたら、とんでもないことになる。と、俺は思っている。

 

「俺は御免こうむる。疲れる」

 

 突撃したらしたで、後々面倒なことになることは経験済みだった。

以前、どっかの海軍大将を〆るためにレベリングしていた時のことだ。その時に艦隊前衛が突撃したことがあったのだ。それに合わせて俺も突撃し、乱戦に入る。

その時、俺に何故かターゲットが集中して、フルボッコにされた挙句、中破で帰還することになったのだ。鎮守府に到着してからがもう大変で大変で……。

ゆきがその名の如く真っ白になるわ、艦隊帰還の知らせで駆けつけた艦娘やら憲兵が顔真っ赤になりながらパニックになるわで、俺としてはもう経験したくない。

 

「あははー。……そういえば、赤城さん」

 

「はい?」

 

 前の経験で少し気分が悪くなっている俺の横で、伊勢と赤城が話し始める。

 

「加賀さんが最近よく鳳翔さんにお説教されているのをよく見るんですけど、どうしてです? 加賀さんって艦娘の中でも真面目で仕事熱心だったような……」

 

「あぁ、それですか。……んまぁ、原因は今ここに居る人なんですよ」

 

 と言った赤城は、俺の方をジッとみた。

話を聞いていてい思ったが、たしかに原因は俺にある。というよりも、俺がこっちに来てからというもの、そんな感じなのだ。俺にどうにかしろと言われても、俺ではどうにも出来ないんだがな。

鳳翔にも頼まれたが、言われてもな……。

 

「あー、大和くんね。……分からないでもないけど、あんまり過激なアプローチは引かれるだけだよねぇ?」

 

「私もそう言ったんですけど、聞き入れてもらえなくて……」

 

 2人同時に溜息を吐いた辺り、どうやら伊勢にも同じような見当があるようだ。

十中八九、日向だろうけど。

 

「……それで、今朝のお説教は何だったんですか?」

 

 あ。面倒くさい方向に話がシフトした。

 

「早朝にチェーンカッターを持って、大和くんの部屋の前に居たらしいです」

 

「……ちょっと笑えない」

 

 俺も同意見。

 

「巡回している憲兵さんに見つかって拘束。そのまま鳳翔さん呼び出しでお説教って流れですね。私も様子を見に行きましたけど……」

 

「けど?」

 

 そして赤城も見ていたのか。面倒だ。今すぐここから逃げたい。絶対、面倒なことになる。

 

「まぁ、アレは……そのっ……大和くん?」

 

 よりにもよって、俺に振るのか。逃げておけばよかった。

 赤城に振られ、伊勢の視線が俺に突き刺さる。

もう話さないといけない雰囲気になっているんだが、嘘を言っても仕方ないので本当のことを口にした。

 

「加賀は鳳翔に説教されていたんだが、もちろん加賀はコンクリの上で正座だったんだ。んで、鳳翔はというと、俺の膝の上」

 

「は?」

 

 まぁ、そうなるよな。誰だってそうなる。

 

「俺も朝っぱらから鳳翔に起こされて、行ってみたらそうなったんだ」

 

 他意はない、つもりだ。

どうしてそんなことになったのかは、俺もよく分からないからだ。寝ているところをとんでもない速さでノックする鳳翔に起こされて、寝ぼけながら付いて行った結果がそれだったからな。

 

「い、いや……サイズ的にはそういう感じになるでしょうけど、え? 鳳翔さんが?」

 

 そう伊勢は取り乱す。これは恐らくというよりも十中八九、伊勢の鳳翔に対するイメージが崩壊したことだろう。

ま、進水早々の歓迎会でもやらかしてくれた鳳翔だし、俺としては今更どうも変わりようがないんだけどな。

 それよりも気になることが1つ。男性保護法についてだ。

触れるなども何やらご法度のように感じていた男性保護法だが、実際のところはどうなんだろうか。それによっては、鳳翔が俺の膝の上に座っていたことがどう転ぶのか分からない。

 

「……大和くんが嫌がってなかったのなら良いんだろうけど」

 

「私も同意見です。ですけど、もし嫌だったのでしたら……」

 

 そう言った伊勢と赤城が俺の顔を見た。

何を訊きたいのかは分かっているので、俺は答えることにする。

 

「嫌では無かったけど、長時間は止めて欲しいな」

 

 とだけ言っておく。どう言っても不利益しか産まないからな。『嫌だった』なんて答えれば、鳳翔はそっこくゆきに通報されて憲兵にドナドナされるからな。確定事項だ。

一方で『俺は全然良いけど?』とか答えたものなら、この出撃から帰ってからは俺の膝の上に常に艦娘が居ることになるかもしれない。

この環境下を鑑みれば、自惚れにもならないだろうけど、実際そういうことになりかねない。それだけは何としても避けて通りたいものだ。

 俺の返答は正解だったみたいだ。伊勢も赤城も『それなら……まぁ』みたいな表情をしている。

 

「……それよりも、加賀さんのアレは流石の私も引きますね」

 

「アレって……チェーンカッターの件か?」

 

「はい。わざわざそんなものを使って大和くんの部屋に入る理由が分からないんですよ。迷惑かかるだけですし、そもそも憲兵さんに連行されてしまいます」

 

 ごもっともである。まぁ、赤城の言う通りなんだけどな。

初見で男性に聞いてはいけないタブーな質問みたいなものをされたりだとか、匂い嗅がれたりだとか……。確かに俺の居た世界では、男性が女性相手にそれやると下手したら痴漢になるし、なんなら逮捕されるからなぁ。こっちではそういう認識で良いんだろう。

 

「真面目で立派な軍人だった加賀さんは一体何処へ……あ、大和くんが悪い訳ではありませんよ?」

 

「ん……分かっている」

 

「ただ、男性が近くに居ることになっただけで変わってしまうものなのかな? と思います。まぁ、私も人並みには……はい」

 

 分かったから、顔を赤くしないで。

変な空気流れるから。

 

「あ、赤城さんの告白はその辺にしておいて、私にも構ってよ~」

 

 赤城が『こ、こ、告白なんてしてませんっ!』って言っているが、まぁ確かに告白に聞こえなくもなかったな。

 その一方で伊勢は、並んで航行していたのを崩して俺の前に出てきた。

手を後ろで組み、少し前かがみになって俺のことを見上げてくる。

 

「ねーね、大和くん。訊きたいことがあるんだけど、良いかな?」

 

「良いぞー」

 

 何か考えていたという訳ではないが、そんな俺にとんでもない質問をしてきた。

 

「ぶっちゃけた話さ、タイプの女の子とか居るの?」

 

 正直に言ってしまえば、とんでもない質問ではないんだ。だが聞いたタイミングがとんでもない。

海上で逃げ場無し。武蔵もゆきも居ないというこの状況では、答えざるを得ないのかもしれない。しかもぶっちゃけた話って切り出している辺り、もうどうしようもない状態にあるんだが……。

 俺は考える。何を答えても面倒なことが起こるのは確定事項だ。なら安牌を取るのが良いんだろうけど、それでもリスクはある。

具体的に『~な感じの人』とか『~な性格』と言ってしまえば、最低限この場に居る艦娘の性格を参照されることは必至。『◯◯のような人』と答えたならば、戦争が起こる気がしてならない。

答えないってのが良いことなんだろうけど……。

 そんなことを考えていると、どんどん伊勢が近づいてくる。

 

「ん? どうしたの? 答えられないの?」

 

 事情聴取でもされているんでしょうか、俺は。

そんなことはさておき、回答をする覚悟を決めた。『秘密』と答えることにしたのだ。

 

「そういう訳じゃない。……そうだなぁ」

 

 と引き伸ばしておく。

というよりも赤城、聞き耳立ててるのが丸わかりなんだが。というよりも、近くを航行しているから嫌でも聞こえてくるんだろうけど。

 

「秘密だなー」

 

 そう。この何となく答えたように言うところがポイント。これで伊勢が諦めてくれれば……。

 

「え~!! 何かないのぉ?!」

 

 どうやら諦めてくれなかったみたいだ。

航行しながら暴れだし、水しぶきは上げるわ飛び跳ねるわで、俺に海水が掛かっている。そしてさっきからチラチラと健康的な太ももが見えているんですけど。あと少しで……。

 

「答えたら答えたで面倒なことになるのは目に見ているからな。それに」

 

 さっき見たことを注意しておこう。一応、伊勢も女の子なんだしな。

 

「さっきから暴れるのは良いが、はしたないぞ」

 

「へ?」

 

 具体的にどうして『はしたない』のかは言わないが、きっと伊勢も分かっただろう。

暴れていたがすぐに動きを止め、スカートを手で抑えたのだ。やっぱり分かっていたんだな。

そして伊勢の顔はみるみる赤くなっていき、口を尖らせてしまった。どうやら拗ねてしまったみたいだ。

 

「ふんっ!! 意地悪する大和くんなんて……き、き……」

 

「き?」

 

「き、きっ……」

 

 なんだ? 猿にでもなったのか? それとも『嫌い』と言いたいんだろうか。

俺は内心ニヤニヤしながらも、その様子を観察する。ちなみに、赤城も黙ったままだ。今の状況を静観しているだけ。

 

「き、嫌い……には、なれないかも……」

 

「……」

 

 ヤバイ。想像のはるか斜め上を行く言葉に、少し黙ってしまった。

多分、意味を深く考えずに言ったんだろう。伊勢の顔は赤いままだが、自信有り気に腰に手を当てて居るのだ。言った言葉は結構恥ずかしい言葉なんだけどな。

 伊勢の言った言葉を言い換えると『意地悪されるのが好き!』ってことだ。

うん。どうして良いのか分からない。

 一方で赤城はというと、必死に笑いを堪えていた。顔を手で覆って、下を向いている。そして肩はプルプルと震えているのだ。

自信満々に言った言葉にツボったのか、それともあまりにも間抜けで笑ったのか……。どちらでも良いが、伊勢のことを笑っているのに変わりはない。

 

「ふっ、ふふっ……っ!!」

 

 遂に赤城が自分の膝を叩き始めた。そんなに面白かったのだろうか?

ちょっと赤城が何を考えているのかが気になる。

 

「ち、ちょっと赤城?! どうして笑っているの?」

 

「ふひっ……ひっ……っ!!」

 

 不満げに赤城に訊く伊勢だが、それが赤城の笑いを増長させてしまったみたいだ。

足がプルプルと震えだしている。そうとう我慢しているんだろう。

 その様子は伊勢も少し不満に思っているみたいで、少し怒りながら理由を訊くが、赤城が回復することはない。

それが1分ほど経った頃、ふと赤城の笑いが止まったのだ。深呼吸をして、少し息を整えた赤城が伊勢を見た後、俺の方を見たのだ。

そして目で何かを訴えてきている。

 

「……」

 

「……」

 

 俺も赤城も5秒ほど黙ったままだ。だがしかし、俺と赤城が一種とフィーリングで会話をしていたのだ。

これは伊勢をからかって楽しむチャンスだと。

 行動はすぐに起こす。最初に赤城が伊勢の真似を始めたのだ。と言っても、動きだけだけど。

スカートが捲れない程度に海水を巻き上げて暴れつつも、俺に言葉を投げかけてくるのだ。

 

「え~!! 何かないのぉ?!」

 

 まるっきり同じセリフを言った赤城に、俺はその時伊勢に返した言葉と同じ言葉を返す。

 

「答えたら答えたで面倒なことになるのは目に見ているからな。それに、さっきから暴れるのは良いが、はしたないぞ」

 

「へっ?」

 

 会話の間に間を開けずに、簡易的な劇をする。

ちなみに伊勢はポカンと見たままだった。

 

「ふんっ!! 意地悪する大和くんなんて……き、き……」

 

「き?」

 

「き、きっ……嫌いになんてなれるわけないじゃない!!」

 

 セリフを変えてきた。やっぱり、赤城は伊勢をからかう気だったんだ。俺も理解した上で乗っかっただけだが、そのまま続ける。

ちなみに伊勢はこの時、かなり慌て始めていた。そして、前衛に居た足柄や夕立、夕張がこっちに戻ってきていて、俺と赤城の小劇場を観ている。にやけながら。

多分、伊勢の暴れていた一部始終を遠目から観ていたんだろう。さしずめ、面白そうなことになっているからと、こっちに来たということろだろうか。

 

「そうなのか?!」

 

「えぇ!! なんて言ったって、私、意地悪されるのが大好きで大好きでっ……ムグッ!!?」

 

 と良いところまでが、途中で伊勢に止められてしまった。

顔を真赤にしながら赤城の口を塞ぎ、額に青筋を立てている。そうとうご立腹な様子。

 

「それ以上言わせないっ!!? それに、なにその曲解と示し合わせたような寸劇はぁ!!!!」

 

 怒る伊勢だが、口を抑えられていた赤城はいつの間にか脱出し、寸劇の続きを再開した。

 

「だから、だからぁ!! も、もっとぉ!! もっと私に意地わ[これ以降自主規制]

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 ということをしていた時期もありました。

今はゆきから言われていた輸送船の航路上に出現する深海棲艦の排除する任務を開始しようとしていた。該当海域に到着し、既に陣形を組んで戦闘態勢に入っているのだ。

 さっきまでの打ち砕けた雰囲気とは打って変わり、緊張とどこかリラックスした雰囲気に包まれていた。

陣形は輪形陣。3列で並び、右列は俺。中央は前から夕立、足柄、赤城、夕張。左列は伊勢だ。典型的な輪形陣ではないが、空母を守るという点に置いては、こういう陣形を取るのが普遍的であるだろう。

俺も足柄から、陣形変更の指示を受けてから、全く違和感を持たなかった。

 

「赤城。偵察機は?」

 

「まだ深海棲艦の艦隊は確認できません。私たちと同じように、輸送船航路の掃海作戦に出撃している艦隊はいるみたいですけど……」

 

 なるほど。この海域には、他の鎮守府からも派遣された艦隊が存在しているということか。

となると、接敵した場合は連携を取って作戦遂行することが出来るな。

 

「所属は?」

 

「呉第三九号鎮守府の艦隊と佐世保第四四号鎮守府の艦隊です。どちらも戦艦なしの軽空母主体の空母機動部隊です」

 

 そこまで分かるんだな。俺にはよく分からないけど。

多分だが、何か見分けるところでもあるんだろう。俺にはよく分からないけど。……大事だから2回言った。

 

「私たちが最大火力保有艦隊か……。いいわ。このまま偵察機を飛ばしつつ、航路を辿って叩くわよ!!」

 

 その力強い足柄の言葉に、皆が返事をする。

 だが、俺たちはこの時、気付いていなかったのだ。

この一見普通の航路の安全確保のための作戦が、あんなことになるとは……。

 




 久々の投稿になります。仰々しい題名ではありますけど、内容は……はい。
タグにもありますけど、かなりキャラ崩壊しています。
 今後もっと色々な艦娘との絡みを入れていきますが、得意・不得意がありますので、登場が遅れる艦娘も出てくると思います。

 ご意見ご感想お待ちしています。

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