俺は建造ドックから連れ出されると、提督の指示で『鎮守府の案内は武蔵に任せるねー。』という事で、俺は武蔵に付いて鎮守府の中を観光していた。
「さっき居たのが建造ドック。建造ドックがある建物が工廠だ。工廠には他に、開発局があって私たち艦娘の兵装を開発してくれる。」
「ほぉー。」
俺は適当に返事を返しながら武蔵に付いて歩くが、何だか変な雰囲気だ。
通りすがる人間は大体が艦娘なのは建造ドックから出る事になった時点で、覚悟は出来ている。だがその目が変なのだ。何というかその……獲物を見るような目つきなのだ。一言で言ってしまえば『怖い』だ。
「……そしてここが普段提督が、って聞いているのか?」
「……ん、あぁ。聞いてるよ。勿論。何だっけ?ここが資材倉庫だっけか?」
「違う。ここは提督が執務をしている執務室がある棟だ。私たちは本部棟と呼んでいるがな。」
「そうかそうか。悪い。」
そう頭を掻きながら謝るが、武蔵は仕方がないなと言わんばかりに溜息を吐いた。
「大和は男だけでなく変な個体なのか?上の空だが?」
「変な個体って、商品みたいに言うな。上の空というか、周りが気になってな。」
「ふむ……確かに妙に視線を感じる。だが、気のせいではないぞ?」
「どうしてだ?」
武蔵は腰に手を当てて答える。
何というか男らしいのか、分からない。
「大和は男だからな。仕方ないだろう?」
「うわっ、適当だな。おい。」
そう答えた武蔵はまた歩き出す。俺の鎮守府観光はまだ続いている様だった。
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ーーー
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俺は鎮守府観光が終わると執務室に来ていた。提督から話があるというか話を訊きたいとの事で来ているんだが、何というか凄い。
提督がいる机の上には辞書並みに積み上げられた書類があるのだ。武蔵曰く『あれは執務で提督が見なければならない書類だ。』だそうだ。見るだけでいいものもあるらしが、サインが必要だったりするらしい。
「おー、来たね。じゃあちょっと休憩。」
そう言って立ち上がった提督は俺をソファーに手招きした。
「ちょいと座って欲しいな。それと武蔵は外で待ってて。」
「分かった。」
提督に言われ、戸惑うことなく俺はソファーに座ると提督は俺の顔をさっきみたいな表情で見た。そして武蔵は執務室から出て行った。
「いきなり聞くけど、大和。」
「はい、何なりと。」
「大和が置かれてる立場、素直に嘘偽りなく言ってくれない?」
そう言ったのだ。その言葉は提督の顔からはうかがえない程の重みがある。
唯の雑談かと思っていた俺は身構えていなかったので、その質問への衝撃にまだ立ち直れていなかった。
「嘘、偽りなく……ですか?」
「そうだよ。」
「はい。……俺は唯の人間です。」
そう言うと提督は頷く。
「それで?」
「今俺が置かれてる状況は、客観視すれば『異世界転生』若しくは『異世界転移』というものです。」
「突拍子もないねー。」
「ただ俺はパソコンに向かっていただけで、光に包まれて、見えるようになったと思ったら建造ドックに居ました。」
「成る程成る程ー。」
提督の気の抜けた相槌を無視しながら俺は答えた。
今言った事、全て真実で嘘偽りない事だ。言い切れる自信がある。そんな俺の言葉への返答を提督はすぐに答えてくれた。
「『異世界転生』、『異世界転移』については超科学で空想の世界のモノだとばかり思っていたけど、現実目の前で起きてしまったから信じざるを得ないね。大和は人間の名乗る様な姓名を名乗ったね。歳もそう。艦娘に歳はないんだよ。だから大和がその異世界から来たという事は信じなきゃね。」
「そうですか、ありがとうございます。」
俺は安心した。提督は何にも疑う事無く、信じてくれたのだ。
「だけどね、いくら大和に人間の姓名があって年齢があっても建造ドックから人間が出てくる事は無いんだよ。だから大和が人間だったとしてももう人間じゃない。艦娘なんだ。」
「娘じゃないですけどね。」
「そうだね。だから大和は特異種の艦娘だね。」
そう言って提督は立ち上がる。
「つまり、普通の艦娘じゃないんだよ。スペシャルな艦娘だ!」
「スペシャルって……。」
「だからスペシャルな艦娘の大和は『異世界転生』やら『異世界転移』やらのせいでここに来てしまって、しかも人間ではなくなってしまったという訳だね。建造ドックから出てきてしまったのと、艤装が操れるならもうここに居なよ。建造ドックでは武蔵の前だったからアレだけど、ここにはいない。ここで私は大和、真木 大和にちゃんとした事を伝えるね。」
そう言った提督は少し息を整えると言った。
「私はこの事を誰にも言わない。勿論武蔵にも口止めする。だから大和はここでスペシャルな艦娘として生きる事。」
「おっ……おう。」
「んで、ここで生きるのなら、働かざるもの食うべからずってね。大和にも出撃して貰うから。」
「そりゃそうだろうな……。」
「勿論。正式に建造報告書は大和で出しておくよ。だけど特異種って事は伏せておく。いいね?」
「はい。」
そう言うと提督は外にいる武蔵を呼びに行き、早速口止めをした。俺の名前に付いてだ。
提督は武蔵に俺の名前『真木 大和』を誰にも言わない事を約束させた。武蔵も聞き分けが良く、何も聞かずに約束したが本当に聞き分けが良い。
「じゃあ改めてよろしく、大和。」
「あぁ。」
「よろしくー。」
執務室で俺と提督、武蔵は言い合うと俺はソファーに座った。
何だか疲れたのだ。そんな俺にまた提督が話しかけてくる。
「そう言えば大和。」
「何ですか?」
「また後で時間ちょうだい。執務が終わった後で。」
「はい。構いませんよ。」
そんな事を言いながら提督はペンを走らせはじめた。
後で時間が欲しいという事なので俺は執務室に残る事にし、武蔵は一度部屋に戻ると言って出て行ってしまった。
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ー
提督は辞書程の高さの書類を終わらせるとソファーに座りに来た。ちなみにまだ武蔵は居ない。
「大和。大和のいた世界の政治体制を教えて欲しいんだ。」
「はい。えぇっと……。」
俺は政治体制について話した。と言っても高校生が政治経済で習う程度の事だったが、30分ほどかけて要約して伝えると提督は顔を顰めた。
「まさかとは思ったけど……そうだったかー。」
「何がですか?」
そう訊くと提督は答えてくれた。
「私は違和感があったんだよ。大和に。」
「どんなでしょうか?」
「男女平等って言葉、よく使われてたでしょ?」
「そりゃ、国連で決められたことですからね。」
そう俺が答えると提督はとんでもないことを口にした。
「この世界では男尊女卑なんだー。でも昭和初期まで根強く続いていたモノとは違う。」
「どういう意味ですか?」
「この世界には男性が極端に少ないんだよ。そりゃもう男性保護法とか作られるレベルで。」
「何ですか、その男性保護法って。」
「男性が極端に減ってしまったから、政府が男性を保護してるんだ。男性は政府の保護下に置かれて男性に触れようものなら一発で豚箱行。」
つまり、提督の言う男性保護法というのは、男性が極端に少なくなった事で子孫の存続が危ぶまれた事をきっかけに出来た法律。女性が男性に対する接触を規制したという事らしい。提督の話を訊くと俺の居た世界の日本、男女平等を謳うが世間での女性と男性の扱いを逆にして極端にしたものみたいだ。ザ・男尊女卑という事になる。
「大和の振る舞いは男女平等時代の産物だねってこと。今の女性はその大和の振る舞いは小説や漫画の中だけでしかないから、大和の振る舞いを見た瞬間、先ず男を見たという事で気が動転するか興奮する。そして大和の振る舞いを見て『私もそう扱ってもらいたい!!』ってなって取り合い合戦の開始だね。」
「取り合い合戦って……。」
「醜い争いだよ。私も1度見たことあるけどありゃ見るに堪えないね。男性が不憫でならなかったよ。ちなみに取り合い合戦してた女性、全員豚箱行き。」
「うひゃー。」
時々提督は変な言葉を使うが、気にならなかった。まぁそこまで話されたら俺は自重しなくてはならない事は分かるので、提督に言った。
「つまり俺はその振る舞いを止めればいいってことですね?」
「そうなるねー。あと大和型だから大丈夫だと思うけど、襲われるかもしれないからご注意を。」
「襲われるって……。」
「勿論、アレなやつだね。」
そう言って提督は『部屋は重要書類を保管するような部屋にしておいたから。』と言われて部屋番号の書かれた紙と鍵を受け取って執務室を追い出されてしまった。
何故追い出されてしまったのだろうか。
話の順番がおかしい気もしますが、このまま投稿させていただきました。
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