大和型戦艦 一番艦 大和 推して参るっ!   作:しゅーがく

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第17話  大和の私室で……

 俺は今、危機的状況にある。いや。いつもそうなんだが……。

それはさておき、どうしてこんなことを言い出したのかというと、今目の前で息を上がらせている同名艦が原因だ。

 

「本当に何考えてんだ……大和」

 

「はぁー、はぁー。……良いじゃないですか」

 

 大和が俺にマウントポジションを取り、腕を抑えられているのだ。

いやいや……。本当に何考えてんの、この娘。

 大和は好きだけど、ここまで来るとさ。うん。怖い。

奥ゆかしく、物静かでまさに大和撫子って感じなのを想像していて、実際にこうやって異世界飛ばされて、目の間でそれを見たところまでは良い。

同名ということで仲良くしようだとか、姉妹艦だから云々ってのも良い。そこまでは俺の”夢”は壊されなかった。

なのになぜ?! 今になって?! つか、怖い!!

 

「同型艦で、しかも同名艦。力の強さも同じくらい、ってところでしょうか?」

 

「知らん!! 俺もそんなに乱暴はしたくない!! ……大和だしな」

 

「え? 今なんと?」

 

「うるさいっ!! 早くどけ!!」

 

 なにこれ。何だか俺がツンデレヒロインみたいになっているんだが……。

ヒロインは俺で、主人公は目の前にいる大和って感じか?

バカじゃねぇの? バカじゃねぇの?

 確かに大和の言う通り、同名艦だから力は同じかもしれない。だが、俺は男で大和は女だ。そこで力の差は歴然。……と思っていた時期が俺にもありました。

 

「んー!! んー!! マジで動かねぇのな!!」

 

「私を見くびってもらっては困りますよー。海軍最大最強の戦艦ですからね」

 

 そんなこと知っている!! というか、それを言うのなら俺も同じだ。

 そう言えば忘れていたが、どうしてこんなことになったのか。

それは、数分前に遡る。

 俺の私室に大和が遊びに来ていたのだ。ちなみに武蔵は秘書艦だから執務室。ゆきは提督だからもちろん、そこで執務をこなしている。

俺が私室に引きこもっていることは知っているので、他の艦娘や憲兵たちみたいに鎮守府内をウロチョロする必要もなく大和や武蔵等の例外の艦娘や、ゆきなどは、俺に用がある時はここに迷わず来るのだ。

 

『大和です』

 

『入っていいぞー』

 

『はーい』

 

 こんな風に入ってくるのが、いつものことになっていた。

 大和が俺の私室に遊びにくるのはいつものことになっていた。演習やレベリング、他の艦娘との約束が無ければ決まってここに来る。自分の部屋にいればいいのにな。

 俺の部屋に来て、大和は何をするのか?

色々ある。最初は話すだけだったが、段々とだらしなくなっていった。ちゃんと、節度は守っているが最初は正座をしていたがすぐに止め、女の子座りをするようになった。まぁ、これは普通だろう。

次は部屋で寝転がるようになり、今では構わず俺の布団に入って寝ていたりする。

俺も同名艦ということで、大和には憧れみたいなものは持ってはいたが、極力気にしないようにしていた。だがそれももう意味を成していない。とりあえず何が言いたいのかというと、美味しかったりそうでなかったり、という感じだ。

 話を戻そう。どうして、俺がマウントポジションを取られて、拘束されているのか。

それは、俺が大和のふとした仕草に目線を反らし、それを問い詰められた結果である。何をみて反らしたかは言わないでおく。恥ずかしいから。

 

「それを言うのなら、俺だって大和だ」

 

「そうですね。ですけど、それと同時に私の弟ですっ」

 

「うぐっ……たしかに」

 

「あれれ? 抵抗しちゃって……。お姉ちゃんの言うこと、聞けないんですか?」

 

 普段は優艶なのに、今だけは何だか色っぽいのだ。

そんな大和を俺は降ろさせようと抵抗する。だが、それも叶わない。この前、龍鳳を身体の上から降ろしたことがあったが、あれは龍鳳が俺に比べてかなり小さかったからだ。

だが大和は違う。俺よりかはもちろん小さい。それでも艦娘の中に放り込んだら、かなり高身長なのだ。長門もうそうだけど。

だから、普通に持ち上げようとしてもそうはいかない。

 抵抗を繰り返す俺に、大和が近づいてくる。ゆっくりと顔を近づけ、手を俺の胸の上を這わせる。

そして俺の顔に長い髪がかかり、大和の身体の温かみが直に伝わってくるような体勢になった。平たく言えば、俺の身体の上に大和が身体を乗せてきた、ということだ。

 

「貴方……」

 

 大和が耳元で囁く。それと同時に、背中がゾワゾワとしてきた。恥ずかしいというか、身体がかなり反応してしまう。

 

「ふふふっ……。かわいいところ、あるんですねぇ」

 

「や、大和?」

 

 マウントポジションから、完全に身体を俺に預けてくる。今なら逃げることが出来るだろう。

だが、どうしても乱暴は出来ない。もし落ちて怪我でもしてしまったら……そんなことを考えてしまう。

 

「……温かいですよ、大和」

 

 そう言った時、俺の胸の上で身体を支えていた腕を俺の頭に伸ばしてきた。それと同時に、大和の身体が完全に俺に覆いかぶさる。

柔らかい。そんなことを考えてしまった。匂いに関しては、気にしないように必死に紛らわせていたが、こればっかりはダメだ。

俺はもう、首を動かして逃げることしか出来ない。

 

「暴れたって駄目です。……暴れれば暴れるだけ、ね?」

 

 俺は動きを止めた。

ちなみに、マウントポジションを取られた時に助けを呼ぶことも考えた。だが、すぐに俺の脳内では棄却されてしまった。

もしこの状態で助けを呼んで、誰かが来てくれたら……。その誰かは助けてくれるかもしれない。だが、それよりもマウントポジションを取っている大和に加勢する可能性の方が高いのだ。それと、俺を助けてくるような艦娘や人は、片手で数えるくらいしか居ない。ゆき、武蔵、雪風、浜風、磯風……。マジで5人じゃん。

 半ば諦めつつ、俺はこの後どうなるんだろうかと考える。

大和に何をされるんだろうか……。それこそ、乱暴されることは無いと思う。だが、それ以外だったら何をするんだろうか。怖いことや痛いことはあり得ない。なら何を?

 

「やっと抵抗を諦めましたね。……おとなしくしていて下さいねぇ~」

 

 俺の顔に髪がかかる。大和の脚が俺の身体に絡みついてきた。

もう本当に逃げられない。

 

「うふふふっ……。お姉ちゃんの身体、温かいですか?」

 

 今度は俺の身体のあちこちに触ってくる。

 

「初めて男の人の身体に触れましたよ、私」

 

 そう大和が言ったその時、私室の扉が開かれる。

大和をこの部屋に入れた時に鍵を締めたので、入ってくる人は限られてくる。

 誰かが入ってきた時、大和も動きを止めた。

 誰かがこちらに歩いてくる。段々近づいてきて、すぐ近くで足を止めた。

誰だ。

 

「……」

 

 声は聞こえないが、その刹那、身体が軽くなる。

大和が浮いたのだ。

 

「おい、何をしている」

 

「あ、あら、武蔵……」

 

 武蔵がそこに居たのだ。

やはりここに入ってこれるようなやつは、それくらいだけだろうな。ゆきは艦娘寮の全室の合鍵を持っているし、武蔵も秘書艦だから持っている。そりゃそうだろうな。

大方、ここに来たのは様子を見に来たんだろう。毎日、『様子を見に来た』といってお茶を飲んでいくからな。

それにしても、大和だって武蔵が来る時にはいつも居たから、それくらいには気付きそうなものだけどな。

 それにしても助かった。このまま大和に……うん。考えるのも野暮だ。

俺は座り、武蔵を見上げる。まだ大和をつまみ上げているからだ。

 

「助かった。ありがとう」

 

「兄貴が危険な目に遭っていれば、ギリギリのところで現れる。それが私だ」

 

「ギリギリに現れんな」

 

 そんな話をしながら、武蔵は座布団の上に大和を降ろした。

そして武蔵も座布団に座る。

 

「それで、一体どうしてこんなことになっていたんだ?」

 

「俺に聞くな。大和に聞いてくれ」

 

 ギロッという効果音が付きそうな勢いで、武蔵が大和を睨んだ。それに一瞬怯んだ大和は、すぐに理由は話し始めた。

俺はてっきり言い訳を始めるのかと思っていたが、そういう訳でもないみたいだ。というか、理由を話のも言い訳の一種か。

 

「これです」

 

 そう言って大和は唐突に本を出した。一体、どこからそんな本を出した。背中から出したよな? 大和ってウエストポーチ的なの付けてたか?

 

「ん? 何なに? ……ってぇ!! これはえ、艶……」

 

「艶?」

 

 俺にはあまり見えなかったが、表紙を見て中をペラペラと捲った武蔵が、俺の顔を見るなりそれを隠したのだ。

というか、途中で呟いた『艶』って何だ? キューティクル的なやつか? ちゃんとお手入れしろよ。

 

「や、大和っ!! こんなものを兄貴の前で出してっ!!」

 

 何だか矛先が大和の方に向いた。ちなみに、未だに大和から『お姉ちゃんって呼んで』と頼まれている武蔵だが、一向にそう呼ぶ気配はない。

というか、その本が一体なんだったんだろうか。俺の前で出したら不味い本なんて……あるのか? そもそもそういうのを持っているのは、男の方だろうに。

……違った。そもそも男が少ないこの世界で……ん? そう考えると、大和が持っていたのは……。

 

「へっ? あっ、きゃーー!!!」

 

 武蔵にツッコミを入れられ、大和は何かに気付いたみたいだった。

顔を真赤にして武蔵の持っていた本をひったくり、隠してしまったのだ。そして大和は俺の方を見ようとしない。さっきまで無茶苦茶アレだったのにな。

 そんな状態になっている大和に、武蔵は追撃を掛けた。

ちなみに、俺はこの時点で何の本だったか気付いている。

 

「ほほぉ~ん。大和はそういう趣味があったんだなぁ~。意外だなぁ~」

 

 大和が俺の視界から隠そうとしていた本の場所が裏目に出て、武蔵に持って行かれたのだ。

そして武蔵はそれを開き、内容を読み取っていく。そしてそれを口にしていくのだ。具体的な言葉は使わず、さっきの様に遠回しな口撃をし始めたのだ。

 

「ふむふむ……ほぉ!! これがしたかったから、あんなことをっ……ほぉほぉ……。なるほどなるほど」

 

 ちなみに武蔵は気付いていない。

兄妹という関係ではあるが、一応兄妹の前でアノ本を読んでいることに。これに気付いているのは俺だけ。大和はさっきから顔を真赤にして、『駄目なお姉ちゃんを許して下さい……』って言ってる。誰に対して言っているんだか……。

 俺はそんな状況を楽しみ始めていた。

本来ならば、俺は大和か武蔵の立ち位置のはずだ。だが俺は今、そのどちらでもない立ち位置にいるッ!! こんな美味しいシチュエーション、滅多にない!!

面白から、ちょっと演技をしてみることにした。

 

「な、なぁ、武蔵?」

 

「ん? なんだ?」

 

 口元を本で隠しているが、背表紙がこっちに思いっきり見えているんだが、この際これも放置しておこう。面白いから。

俺は演技を始めた。

 

「そ、それってさ……その……、女の人がよく買うっていう」

 

 早く気付けよ武蔵。『私の義弟は紳士的 ~私が籠絡しちゃうんだから~』ってのが見えているぞ。つかなんだその題名。意味不明なんだけど。

 ここに来てもまだ、武蔵は気付いていない。大和も『むっつりだって思われた』とか言ってるし。今更遅いぞ。

 

「ちょっと、俺にも見せてくれないか……?」

 

 少し顔を火照らせている武蔵に、そう言う。

まぁ、読んでたらそうなるよな。

 俺に言われ、武蔵は素直に渡してきた。

あ、大和が『酷い……武蔵酷い……』に切り替わったな。

 受け取った俺は、表紙を開いて目で字を追う。

そしてここでまた演技を入れる。ヤバイ、楽しい。

 

「……ふ、ふーん」

 

 俺は必死に自己暗示を掛けていた。『顔赤くなれ顔赤くなれ』、『目を潤ませろ目を潤ませろ』と。まぁ、うん。

そういう表情を作って、黙って返せば面白いだろうから。

 次第に顔が熱くなってくる。本を開いて字を追っているように見せかけているが、実は読んでない。

俺が楽しむのはそこじゃないからだ。そして俺は数ページ捲った後、本を閉じて静かに返す。

 

「……ん。返す」

 

「……」

 

 返し先は大和だ。もうこっちに戻ってきたみたいだからな。

 今、絶賛俺の顔は真っ赤になっており、目が潤んでいるはず。視界もぼやけているから、確認不要だ。

 

「ご、ごめん……。なんか。……それと、さ」

 

 いち早くそれに気付いたのは武蔵だった。いや、大和はずっと顔が真っ赤だったからアレだけど。

 

「そういうの、俺に見せるのはどうなんだ? いや、大和がいいなら良いけど……」

 

 武蔵が正常に機能してない。無茶苦茶混乱している。あたふたしているのだ。

そして大和は本を抱えたまま、俺の布団に隠れてしまった。

 そんな光景を見て、俺は思った。

 

「あぁ、面白いな」

 

 と。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 すぐに正気に戻ったのも武蔵が先だった。

そして、こちらの世界に戻ってくるなり正座に座り直し、そのまま土下座。なぜ土下座。

 

「す、すまない兄貴!!」

 

「あ? あぁ、気にしない。というか忘れてるのか? 俺は……」

 

 ここまでいいかけて、俺は言葉に詰まる。

この先をここで話す訳にはいかないのだ。なぜなら、大和がここにいる。

俺が異世界から来た人間であることや、貞操観念が逆転していることは、ゆきと武蔵しか知らないのだ。それに口外禁止ということになっている。

 

「姉貴も年頃の女なんだ。どうか気にしないでやってくれ」

 

「いやいや武蔵? 思い出せよ。俺」

 

「ん?」

 

 武蔵が思い出すのに、数分が掛かった。その間、俺の私室は束の間の静寂に包まれる。

 

「……あ。そういえばそうだった」

 

「な? だから気にするな」

 

「あぁ。……まぁ、違和感がかなりあるが」

 

「おう」

 

 俺は立ち上がる。お茶を淹れに行くのだ。

武蔵だって、この部屋に来たのは俺の様子を見に来たのだ。一応ゆきから休憩は貰っているだろうから、お茶くらいは淹れてやらないとな。

 いつもの湯呑みにお茶を注ぎ、武蔵に渡す。

一応、大和の分も淹れておいた。

 

「……それにしても」

 

「ん?」

 

 お茶を1口飲んだ武蔵が、唐突に口を開く。

 

「大和、こんな騒ぎ起こした癖に兄貴の布団に入ってるんだな」

 

 この言葉の直後、大和が俺の布団から飛び出してきたのは言うまでもない。

 結局、この騒ぎの後、俺が大和の前に現れるとよそよそしくなるようになった。

これじゃあ、どっちが上の姉弟なのか分からいな。

 

 




 今回、何だか今までのものから脱線したような内容になりました。
まぁ、こういうのもあって良いかと思いまして……。貞操観念逆転してますからね。
お年頃にはあるあるネタですね。今時はないらしいですけど。

 まぁそれは置いておきましょう。
前回の投稿から約1ヶ月のスパンが開きましたが、どうやら自分の艦これ二次シリーズで一線を画するのは本作みたいですね(汗)
 皆さん知ってますか? これ、本編から独立しているスピンオフなんですよ?
ご存知ならば問題ないですはい。

 あ、今回の内容ですが、悪意はありません。
それと大和くんが若干キャラ崩壊っぽいことになってますが、アレで正常です。

 ご意見ご感想お待ちしています。

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