大和型戦艦 一番艦 大和 推して参るっ!   作:しゅーがく

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第14話  勝利報酬の行方 その5

 

 倉田が発した言葉は衝撃的だった。それは政治家が発してはいけない言葉。この世界はそうだろうと、俺が直感で分かってしまうものだ。

 

「貴方に政府の方針に対する拒否権はないわ。我が国の繁栄のために、政府の管理下に置かれることは絶対なの」

 

 解釈すれば、『お前は国に奉仕しなければならない。よって、お前に自分の身柄の決定権は皆無だ』ということになる。もっと噛み砕けば、『男性に人権はない』だ。

被害妄想もいいところだろうが、俺にはそう聞こえた。

 俺の心境を汲み取ったであろう、ゆきは反論した。

 

「首輪をつけて鎖に繋ぎ、抵抗する男性を脅し、抑えつけ[自主規制]することが?」

 

「は?」

 

 俺には聞こえなかった。ゆきが倉田と佐川に顔を近づけて言ったからだ。

 それを聞いていた倉田と佐川も顔を歪める。ゆきに良くないことを言われたのだろう。俺はそう考えた。

 

「この場に憲兵がいるのはご存知で?」

 

「くっ!!」

 

「男性を保護下に置くことは間違ってません。政府として当然の判断です

ですが大和が指摘した通り、現状の政府にはそんな麻薬みたいなものをおいそれと放り込む訳にはいかないです」

 

 ところどころ比喩されていて分からないが、俺の言ったことに関連付けるとすぐに分かった。

だが、この場ではあえて言わない。

 

「そのような発言をするということは、分かっているのよね?」

 

「……はて? 来月にでも選挙がありそうですね。支持する政党や政治家を考えねば」

 

 倉田も佐川も身を震わせ始めた。寒気からくるものではないことは自明だ。

相当頭に血が上っているらしい。

 ゆきはこのタイミングを見逃さなかった。

 

「まぁ、政府の方針ですので、一国民が何を言おうと従う義務があります。ですが、貴女がたでは話になりません」

 

「……っ?!」

 

「今回は出生時が男の性だった訳でもないんです。特例なんですよ。ですから、普遍的なことを機械的に処理している貴女がたではなく、それ相応の権力と責任のある人物と共にまたお願いします」

 

 そうゆきは言った。これまでの調子ではなく、至って普通の言い方。流石に軍人ならまだしも、政府の人間にああいう対応はしないみたいだ。

 一息吐き、姿勢を崩した。張り詰めた空気が一瞬途切れたからだ。

そんな俺の姿をチラッと見たゆきは一言言った。

 

「今日はもうお引き取り下さい」

 

「……え、えぇ。そうさせてもらうわ」

 

「では、また来ます」

 

 2度と来るな、そう内心で言いつつ、ゆきの方を見る。

 ゆきは少し考える表情をした後、ニコッと笑った。多分、もう大丈夫なんだろう。

 

「ありがとう、ゆき」

 

「構わないよー。それにしてもイライラしちゃった。こんな書類持ってきてさ」

 

 俺の正面においてあった書類を手に取り、眺めながら言う。

ゆきには同感だが、政府が云々は俺には分からないので反応できない。

 

「ありがとうございました。わがままを聞いて頂いて」

 

 名前は知らないが、偉い人にも礼を言う。

連絡したのは偉い人だが、こちら側に付いてくれたこと。そして、黙っていてくれたこと。

 

「別に構わないわ。山吹とも付き合いは長いし、ただの贔屓よ」

 

「そうなんですか?」

 

「山吹の頭の回転の良さとか、大和も色々見てきただろうけど、だいたいの知識は私が叩き込んだものよ」

 

 きっと海軍大将を懲らしめた件のゆきの動きは全部、この人が教えたものだったのだろう。あれが自前だったら、ゆきは相当なものだろうと思う。

ゆきに逆らったことは無いが、今後も逆らわないと決めた瞬間だった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 倉田と佐川を追い返した俺達は、偉い人の部屋に戻っていた。

会議室にはもう用は無いし、そろそろ帰らなければならなかった。

 ずっと偉い人と心の中で読んでいた人だが、名前は御雷(みかづち)というらしい。さっき『忘れてたわ』とか言って自己紹介があったのだ。

 

「確かに受け取ったわ。中を確認して軍法会議に回すわね」

 

 もともと、ここに来た用事を済ませた。

浅倉がやっていた諸々の一部始終を撮ったビデオや書類などのデータをメモリに入れたものだ。

 御雷さんも浅倉に関しては手を焼いていたらしく、証拠が出てきて喜んでいた。

あちこちで被害が出ていて、処理に困っていたらしい。そんなことだろうと思った。

 

「もう呉へ?」

 

「もちろんです。かれこれ2日間も空けていますからね」

 

 そうゆきと御雷さんは挨拶を交わし、俺と叢雲も頭を下げて退出した。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 夕方前に呉第ニ一号鎮守府に到着した。何をしに行っていたか等、もちろん気になっていた艦娘がいた。だが、そんな艦娘へは事後報告はしなかった。ただ、横須賀と大本営に行っていたとだけ伝え、それ以上のことは何も言わない。そういう風にゆきに言われていたからだ。

 鎮守府に着いた後の安心感に浸っていた。なんというか、家に帰ってきたという感じだ。

 夕食は普通に摂り、日を跨ぐ辺りまで執務室に入り浸っていた俺は、ゆきに言われて寝ようとしていた。

 

「もう遅いし大和、寮に戻って寝ちゃいなよ。疲れたでしょ?」

 

 目をしょぼしょぼさせながらゆきは言った。さっきからフラフラしているから、ゆきは相当眠いのだろう。

 

「分かった。おやすみ、ゆき」

 

「うん。おやすみ」

 

 俺は何も言わずに執務室を出て行く。

 執務室に持ってきていたものを持って、真っ暗闇の中にある寮を目指した。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 大本営から戻って1週間が経過していた。

 今日も俺は執務室に入り浸っている。普通に鎮守府内を歩き回ると、結構怖い思いをすることがあるからだ。何気、ゆきの近くが一番安全であるとも言える。

 ゆきが執務を片付けていると、突然俺に話しかけてきたのだ。

 

「ねぇねぇ、大和。ちょっとこっち来てよ」

 

「ん? 分かった」

 

 何か書類を見ながら俺を手招きするので、俺は立ち上がってゆきの横に向かう。

 近くまで来ると、ゆきは俺に見ていた書類を差し出してきた。

内容を見ると、そこにはあることが書かれていた。

 

「ふむふむ……。軍法会議が」

 

「さっすが、御雷さん! 手が早い! そこにしびれる憧れるぅ!!!」

 

 机をダンダンと叩いて喜んでいた。そこまで喜ぶものなのだろうか。

 

「と、冗談はさておきだよ。……ちゃんと読んでね」

 

「え、あぁ」

 

 すぐに切り替わったゆきに言われ、俺は書類を上からなぞるように読んでいくと、書類がどういった内容かが分かった。

端的に言えば、浅倉海軍大将の身の振る舞いに関する軍法会議が開かれて判決が下されたのだ。判決は有罪。軍籍剥奪と無期禁錮刑。

 

「銃殺されないだけマシだね」

 

 ニコッとそう言うが、言っていることはとんでもない言葉だ。

確かに、銃殺じゃないだけマシだろうけど、軍籍剥奪はまだしも、無期禁固刑はちょっと……。

無期禁固刑は政治犯や社会的地位が高い人間に与えられる刑罰だが、独房でずっと正座らしい。ただの噂でしかないが。

とんでもない刑罰だ。俺だったらいっそ銃殺して欲しいけどな。絶対、気が狂う。

 

「あぁ、でも無期禁固刑って最高だよ! ありがとう! 御雷さん!!」

 

「すっごいいい笑顔してとんでもないこと言うんだな」

 

「え? 当然だよ? ブタ箱に行ったら行ったで、”先輩”方にあれやこれややられて追い込まれるのもそれはそれで捨てがたい……」

 

「いや、怖いって……」

 

 この書類を見てから今日はずっと、ゆきは上機嫌で過ごした。すごくいい笑顔で。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 ゆきが上機嫌に何処かへ行ってしまったので、俺は大和と武蔵のところに来ていた。

そして、今日のゆきの様子を伝えると、武蔵はため息を吐いたのだ。

 

「武蔵?」

 

「兄貴は知らないのか」

 

「え? 何を?」

 

「上機嫌の提督が何をするのか」

 

 何か不味いことでもするのだろうか。俺は唾を飲み込み、神妙に話を聴く。

 

「上機嫌の提督はやることなすことがとんでもないんだ。例えば開発なんだが、この前上機嫌だった時に開発をしたら、烈風がポンポン出てきたり……」

 

「烈風ってポンポン出るもんじゃないぞ」

 

「三式ソナーもポンポン出てきた」

 

「えー……」

 

「建造した日には、雪風5連続とかあったぞ」

 

「……」

 

 何も言えなくなってしまった。上機嫌のゆきはとんでもないらしい。

 

「つい最近なら、兄貴が建造された時だ。あの日、まだ建造する予定があって、兄貴が建造された後に建造したら大和が出てきた。

 

 そう言って、武蔵は大和の方を見る。俺の方ではない。普通の大和の方だ。

 

「え? 私ですか?」

 

「あぁ」

 

 俺がポカーンとしていると、武蔵はあることを言ったのだ。

 

「提督は容姿が整っている私たちから見ても、かなり容姿が整っている。美人と可愛いの中間だ」

 

 たしかに、と内心つぶやく。

 横須賀第三ニ号鎮守府の白華提督より背丈は小さくて叢雲と並んだらゆきの方が少し大きいくらいだが、出るところは十分出ていて、引っ込むところは引っ込んでいる。そして色白。顔も武蔵の言う通りだ。

髪も日本人の割には黒色が薄いような気もする。茶に近い黒といったところ。ダークブラウンというところだろうか。

 

「あれで頭の回転が速い。IQテストとか受けたら、世界的に歴史の古い某高IQ集団に入れると思うのだ」

 

 それには同感だ。

 

「頭が良いことは良いことなんだが、提督は何を考えているか分からない。やることなす事が下衆いこともある」

 

 激しく同感。

 

「頭のネジが数本外れている気がする。まぁ、普通にしていれば可愛い女だとは思うんだがな」

 

 そう言って武蔵はカラカラと笑った。

 

「ゆきがそういう人間だってことは気付いていたさ。今更って感じだな」

 

「ん? そうなのか? 流石、兄貴だ」

 

 と、武蔵と話していると、大和の様子が変なことに気がついた。

 大和が放心していたのだ。多分、大和は気付いていなかったのだろう。

 

「大和?」

 

「大和の様子が変だな」

 

 そんな風に落ち着いて観察する俺たちも相当変だと思う。

 数十分後、大和は無事にこちら側に戻ってきた。ちなみに、俺と武蔵の会話内容は覚えていた。そこは忘れているところだろうに。

 





 これにて勝利報酬の行方は終わりですね。
今回までで色々分かったと思います。ゆきに関して。
色々見なくていい方の話が多かったですが、今後はそういう系は現状のプロット(シリーズ2つ先)までは無い予定です。
ちなみにシリーズというのは『○○○○ その○』とある話のことです。単独でもシリーズとしていますけどねwww

 ご意見ご感想お待ちしています。

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