大和型戦艦 一番艦 大和 推して参るっ!   作:しゅーがく

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第13話  勝利報酬の行方 その4

 装甲車の中で大人しく待っていると、ゆきが帰ってきた。

装甲車に乗り込んできたゆきが俺に話しかけてくる。

 

「大和。ちょっと上司に言われてさ、今から一緒に行こう?」

 

「……連れてこいって?」

 

「そう。連れてきてるって言っちゃったからさ。そうしたら政府に連絡を飛ばして、あっちの人たちも来るって」

 

「はぁ……。分かった」

 

「ありがとう!」

 

 どうせそんなことだろうと思った。連れてきた理由がゆきの気まぐれだったのなら良かったが、多分、このことを想定していたんだろう。それに、口を滑らせたのではなく、意図的に上司を誘導したのではないだろうか。

 

「じゃあさっさと行こう!」

 

 すっごいいい笑顔で言っているが、碌でもないことでも考えているのだろうか。はたまた、呉第ニ一号鎮守府の利になることを起こさせようとしているのか。きっと、何か意図しているに違いない。そう俺は思った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 装甲車から降りて大本営の建物の中に入るまでは、気分が悪かった。

俺に降り注がれる視線をチクチクと感じていたからだ。憲兵や軍属、配達に来たのだろう郵便局員、宅配業者……。ありとあらゆる職業や年齢の人間からの視線は、どれも好奇の目とは形容し難いものだった。どういうものかは言いたくない。

 建物に入ってもその状況は続き、すれ違う人々の顔を見てはいけないと悟る程に良くなかった。きっと見たら何かとんでもないことが起こるのではないだろうか、と感じてしまう程に。

そんな状況でも叢雲はそういう人間に対して威嚇し、近づいてきたら遠ざけたりしてくれた。礼を言っても『当然のことよ』としか言ってくれない。ちなみに、そういう度に叢雲の顔は赤くなっていった。

 大本営のある一室に到着した俺たちは、ゆきからドアの近くで注意を受けていた。

 

「いい? 今から会う人は大本営の偉い人。いわゆる”上層部”の人間。階級云々というよりも、そういう肩書があってもそういうものから左右されない人。何かあると速攻私の首が飛ぶ可能性があるから注意してね?」

 

 そんな人相手に話の誘導をしたのか、この人は。

 

「分かった」

 

「分かったわ」

 

 俺と叢雲は何も気かずに返事をした。

何を言っても状況は変わらないし、”上層部”の人間であることには変わりはないのだ。

 

「じゃあ、入るね」

 

 そう言って、ゆきはドアを4回ノックした。

返事が帰ってきて、ドアを開いて入っていく。

 内装は鎮守府の執務室と家具の配置や雰囲気は似ているものの、何処か高級感というか高尚な雰囲気が出ていた。その部屋の窓際にある大きな机に向かっている人物。

その人がゆきの云う偉い人なのだろう。

 

「呉第ニ一号鎮守府、山吹入りました」

 

「えぇ。……それで山吹。この前、報告書で送ってきた大和がそれ?」

 

 開口一番がそれだった。まぁ、俺を連れてこいという話だったからそうなのだろう。

 

「はい。経緯は報告書の通りです」

 

「把握しているわ。……大和?」

 

「はい」

 

 俺の方に対象が変わったようだ。

 

「自分の置かれている状況は理解しているかしら?」

 

「十分に。山吹提督から」

 

「ふむ……」

 

 少し考えだした偉い人は、数秒間だけ黙ると口を再び開いた。

 

「貴方の意見を聞かせて欲しいわ。貴方はこのまま呉第ニ一号鎮守府で艦娘として使役するか、男性と同様に政府の管理下に置かれるか」

 

「前者でお願いします」

 

 

 俺は間髪入れずに即答した。考えるまでもないものだったからだ。

ここで政府を選んだらどうなるか分かったものじゃない。何かやらされるに違いないのだが、その”何”が怖い。それなら、ゆきの下に居た方が良いに決っている。

 

「政府の管理下にいれば何かと安全で過ごしやすいと思うけど、それでも良いのね?」

 

「えぇ。慣れてしまいましたし、管理されるのは好きでは無いんですよ」

 

「なるほど……」

 

 偉い人はスッと立ち上がり、俺の前に立った。といっても、1mくらい離れたところに居るが。

 

「ここからは私個人で良いかしら?」

 

「え? えぇ」

 

 そう俺が答えると、偉い人はため息を吐いた。気を張っていたのだろうか。

少し髪を触り、俺にあることを聞いてきた。

 

「艦娘の特異種ってことで良いのよね?」

 

「そうですね。そういう報告を山吹提督が提出していると思いますが」

 

「えぇ。大和建造報告書の後に」

 

 ジャケットがキツかったのか、ボタンを外したみたいだ。

前が開き、中のシャツがあらわになったが、特に何も変ではない。着崩した、といったところだろう。

 俺は気にも止めずに、偉い人の話を聞く。

 

「信じられないわ」

 

「何がでしょうか?」

 

「男が私の目の前に居るってことよ」

 

 何を言っているのか分からないが、どういう意味なのだろうか。

そもそも、男性保護法が出来る程に男性が少ないことは知っている。だが、一度や二度は見たことがあっても変ではないのだろうか。

街でぶらついているかなんて分からないが、街で見かけたことがあるとゆきも言っていたことだし。

 

「そこまで珍しいですか?」

 

「まぁ……日本の男性人口は約795名しかいないから」

 

 衝撃の事実だ。そんなこと、ゆきは俺に教えてくれなかったのだ。

 

「少なっ?!」

 

「それだけ貴重なのよ。そこまでしか居ないからこその男性保護法であって、あれだけ厳しい法律があるの」

 

「確かにそうですね。問答無用で牢屋行きとか、その場で打ち首とか……」

 

「あら、もうそんな事が起きていたのね」

 

 すまし顔で言うが、どうなんだろうか。毎日似たような騒ぎが起きていた気がするが。

 

「まぁ……男性保護法なんて法律が出来るくらいですから、男性がいればそういうことは起きますよ」

 

 俺はそう言って少しだけ姿勢を崩した。

ずっと直立したままだと足の裏がそろそろ痛くなり始めたころだったからだ。

 

「それもそうね。……じゃあ、この後政府の役人が来るわ。それの対応をするけど、どういう風に済ませたい?」

 

 話が唐突に変わった。

どうやらここからは私用ではなく、普通に公務になるみたいだ。偉い人の顔つきも変わった。

 

「どういう風にって、それはこちらで指定出来るということでしょうか?」

 

「そういうことになるわ」

 

「……面倒なのは無しでお願いします」

 

 偉い人も大概だ。ニヤリと笑うと俺に確認を取った。

 

「こちらから大和の最低限の説明をして切り上げる、ってのはどうかしら?」

 

「最善ですね。出来れば会いたくありませんが……」

 

「それはごめんなさいね。……政府の人間にはそう伝えるわ」

 

 偉い人は携帯を取り出し、何処かに電話を掛け始めた。

 

「あ、もしもし。……えぇ、そうです。『大和』の件で……」

 

 俺は話しながらさっきまで座っていた席に座った偉い人の顔を見た。

手で何かを合図してくる。どういう意味だろう。

 

「大和」

 

 俺には全く分からなかったが、どうやらゆきには分かったようだ。

 

「会議室に入るよ。多分、もう着くんだと思う」

 

 そういうゆきは偉い人の方を見ながら話し続けた。

 

「下の階にある第5会議室に行くよ」

 

 喋りながら偉い人が指示を出したのだろう。

 ゆきに付いて、俺は指示に従った。政府の人間に会うってのはなんだか嫌な感じだが、向かってきているものを断るのも良くないことだろう。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 ゆきに連れられて会議室に入った。数分後には偉い人も入ってきた。

 妙な緊張に支配されていたが、所詮この世界の女性だ。反応の種類は少ない。浅倉か香羽曹長かこの偉い人かゆきか。確認しただけでもこれくらいだ。ちなみにゆきの反応はレアケース。多くの人に会った訳ではないが、ゆきの反応は至って普通だったのだ。

 この会議室には他にも人間が入っており、ゆきと偉い人以外にも秘書っぽいのも居た。こちらをチラチラと見てくるが、そろそろ慣れてきたのでどうと思うこともない。

 十数分待っていると、会議室の扉が開いた。入ってきたのはスーツ姿の女性4人。いかにもっていう雰囲気を醸し出しているのが2人いるので、残りの2人は秘書かなにかだろう。

 俺たちは向かい合うように座った。俺の右側にゆき。護衛で付いてきていた、名目上のゆきの秘書である香羽曹長は俺の左側。ちなみに、政府の人間が入ってくる前に合流した。

偉い人はゆきの右側だ。

香羽曹長も俺に絡むと変な気を起こすのも、そろそろ自制出来るようになってきたらしく、かなり落ち着いている。

ちなみに叢雲は俺の背後で立っている。俺の護衛であり、艦娘であるからだ。理由はそれだけしか聞かされていない。

向こう側も同じような配置。俺とゆきの正面に政府の人間が座っている。その背後に秘書が立っていた。

 

「海軍呉第ニ一号鎮守府 山吹大佐。君が提出した報告書の件で、我々は急行してきた訳だけども……」

 

 俺の顔をジロジロと見た政府の人間は書類に目線を落とし、話をする。

 

「最初に自己紹介を。私は政府より派遣された法務省の人間、とだけ言っておきます。倉田と申します」

 

「同じく佐川です」

 

 この2人。なんだかいけ好かない。俺の第一印象だ。

政府の人間、政治家が汚職をしているだとか、横領しているだとかそういうイメージしか一方的に持っていなかった俺のせいでもあるだろうが、そういう風に見えてしまっているのだ。ちなみにどちらも歳を取っている。40代か50代くらいだろうか。

 

「それでは、大和。貴方に幾つか質問をさせて頂きます」

 

「……」

 

 俺は返事をしない。何故なら、この会議は俺側が一方的に説明をすることになっている。あちらに質問の権限はない。

 返事のない俺に不満が少しあったのか、少し声の音色を変えて質問をしてきた。

 

「貴方は本国の男性保護法に基づき、我々政府の保護対象です。ですが、貴方はそれを認めていない。まずはコレに答えて頂きたい」

 

「……」

 

 そう訊いてきた。だが、俺は答えない。

 

「戦場は世界に溢れかえっている女性だけで十分です。男である貴方が出る必要はありません。そもそも国際条約で男性は……」

 

 そう倉田が言いかけたその時、ゆきが割り込んできた。

 

「国際条約で男性は政府が保護し、管理下に置く。ですか?」

 

「その通りです。ですから、艦娘として建造された特異種である貴方も、例外無く保護するのが政府の役目です」

 

 言ってやったぞ、と言わんばかりに得意気な表情をした倉田は違う書類に持ち替えた。

だが、その書類に関して話す前にゆきが仕掛ける。

 

「あら? その書類は何でしょうか? ……なるほど。男性登録番号の割当と、配属護送旅団の詳細。政府管理下にある施設のパンフレット……。ここにいらっしゃる前に電話口でこちらが今この場で行われている”会議”の内容を指定したはずですが?」

 

 少し身を乗り出したゆきは、多分人数分用意されているであろう書類の束を見て言った。

その書類は俺の目にも入っていた。この人たちは何を訊いてここに来たのだろう。

 

「貴女がたに我々の行為を制限することは出来ません。ですので、無視させて頂きました」

 

 つくづく嫌な女だなぁ、と思いつつ澄まし顔で聞く。

 一方、ゆきの方もかなり落ち着いているようだ。笑顔を振りまきながら、次の言葉を出していた。

 

「会議の内容は大和が指定したものです。これは大和の精神衛生を鑑みたものです。これを無視する行為、どういったものかご理解しているでしょうか? そもそも、この話は耳にしておられると思うのですが?」

 

「確かに伺いました。ですが、我々はそれに従う義務はありません」

 

「なるほど。そうなんですね」

 

 真横に座っているゆきの表情は見えないが、きっと悪い顔をしているだろう。

 

「なるほどなるほど。国家を代表する人間が、自ら法を犯したことを肯定しないんですね」

 

「この場に法は影響を受けません」

 

「受けますよ? 国法で何よりも優先される男性保護法。その対象者が居るんです。その対象者の要請ですし、そもそも貴女がたにそのような法規的措置を受けているようには思えません」

 

 ゆきは調子に乗っているようで乗っていない。次々と言葉を繰り出し、倉田と佐川に投げかけていく。

 その状況をよく思わなかったのだろう。佐川が「軍人風情が何を……」と言った声が聞こえた。多分、ゆきや偉い人にも聞こえていただろう。

 

「なら、貴女がたが此方の要請に応える必要がないとしましょう。話を続けて下さい」

 

「……国際条約に基づいて貴方も政府の保護下に置き、不自由のない生活とこの国の繁栄に尽くして下さい。ですから、こちらの書類に目を通し、サインをいただきたいです」

 

 そう言った倉田は俺に書類を渡してきた。

その書類はゆきがさっき指摘した書類たちだ。

 俺は少し目を通し、ある事をゆきに訊いた。

 

「ゆき、ちょっと良いか?」

 

「うん」

 

「現状、深海棲艦との戦争はどうなっているんだ?」

 

 今、突然気になったことをゆきに訊いてみた。俺は特になんの意味もなく訊いただけだが、俺の言葉を訊いたゆきは嘲笑い、倉田たちは顔を歪めた。何かあるのだろうか。

 

「じゃあ色々端折って説明するよ」

 

「申し訳ありません。今、気になったことですので。お時間を頂きます」

 

 そう言って俺は倉田たちに有無も言わさず、ゆきの話を訊いた。

 

「私たちが深海棲艦と戦争を始めて5年経ったよ。初期は現行兵器で対抗していたけど、段々と戦線を押し上げられて各国海軍は湾外に出れなくなるまで攻められたよ」

 

「それによって我が国は輸入に頼っていた資源が枯渇、産業の低迷、工業化によって諸問題が発生。これによって国営機能を半ば失いつつあった時に艦娘が生まれた」

 

「艦娘は対深海棲艦戦闘に強く、また現行戦闘艦よりも遥かにコストが安く済むことが分かり、国内配備が進んだのが3年前」

 

 俺も知らなかった現代史が聞けている。だが、多分そこから何かがあったんだろう。

 

「艦娘の配備によって資源も枯渇から開放され、諸問題も解決。産業も立て直しが成功。国内情勢は元に戻ったけど」

 

 そう言って詰まったゆきはすぐに話しを再開した。

 

「制海権を取り戻しつつあることに気を抜いた政府がスキャンダルを続々と記事にされたの。汚職・賄賂・闇取引・八百長・横領……。明るみになっただけでも年間問題になる政治家問題が一気に10年分くらい出てきたの」

 

 苦虫を噛み潰したかのような表情をした倉田を尻目に、ゆきは遠慮なく続けた。

そういう風に俺には見えたのだ。

 

「それは置いておいて、戦争に関してだね。戦争は戦線を押して押し返されてを繰り返している。その背景には、政府が軍の作戦に口出しをしていたりするんだけどもさ」

 

「どう考えても足を引っ張っている現状なんだよね。だから、戦線の膠着ってのは政府が何か思惑があるのか。はたまた、戦線が善戦することになにか問題があるのか……。私には分からないよ」

 

 そういう現状なんだ。俺は初めて知ったのと同時に、イラつきが増した。

 足を引っ張る。戦争が利益を生んでいるのかもしれない。だが、人的資源の喪失は良しとしないのではないだろうか。そんな風に思えた。

 

「なるほどね。ありがとう、ゆき」

 

 俺はゆきに礼を言い、倉田に対して回答した。

 

「この話、受けません。法律がどうのって言う前に、自分らの身内を整理して下さい」

 

「な……に……」

 

「政府の保護下に俺を置く、と仰ってましたね? そんな政府の保護に置かれ、管理されるのはまっぴらってことですよ」

 

 俺はそう言って立ち上がった。

不毛だ。政府はおかしい。そんな状況なのにも関わらず、男性保護法は機能しているのだ。絶対何か起きているに違いない。俺はそう思ったのだ。

 俺が立ち上がった刹那、倉田が俺にある事を言ってきたのだが、その言葉はとても衝撃的だった。

 




 今回も投稿が遅れましてすみません。いやぁ、スランプ気味です。
色々あったというより、疲れているだけなんでしょう。それと、違うことを色々考えてしまっていて、たまに手が付かないことがあったんですよ。それとゲーム。
 作者にも色々あるってことですが、エタることはありませんのであしからず。ですけど、強引に完結させる可能性はなきにしもあらず。本編に集中すると言ってやらかす可能性が大な訳ですが、どうもねぇ……。
 色々つらつらと書きましたが、正直考え事が原因でしょうね。
『どうして外伝がこんな風に人気になるのか』っていうこととかですけど。原因なんて色々分かっているんで、考える必要もないんですけどねwww

 ご意見ご感想お待ちしています。

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