横須賀第三ニ号鎮守府から装甲車で走ること十数分。今日の目的地である、横須賀第六三号鎮守府に到着した。
昨日同様に駐車場に入って点呼を取っていると、白華提督のように現れた人が居た。
少しおどおどしながら現れたのは、ゆきよりも少し小さいくらいの女の子。ただし、ゆきと同じ第二種軍装だ。少しダボダボな気もするが、仕方ないのかもしれない。
だが、その女の子は艦娘を連れていた。
「この騒ぎは何ですか?」
吹雪だ。それ以上もそれ以下もない。
インパクトとかもあまりない。きっと聞いたら悲しむだろうが。
女の子は吹雪よりも数cm大きいが、色々出るところは出ている。何がとは言わないが。
「あ……。ここは後輩ちゃんの鎮守府だったのかぁ」
「先輩っ?! どうしてここに?」
「いやなんだ……ちょっと野暮用だよ」
トラックの荷台を叩きながらゆきは言う。
色々と端折って言ってるが、その通りなのだ。用事はトラックなのだ。
「面倒だから先に言うね。……これ、見覚えあるよね?」
ゆきはそう言って懐から紙を出した。それは大本営で破り捨てられていたものをゆきがつなぎ合わせたものだ。
それを見るなり、ゆきの後輩は顔を歪めた。
「それは……」
「うん。私がこの前大本営に行った時に”たまたま”見つけたの。それで、この書類に書いてある件だけど、本当?」
ゆきは後輩に言う。真剣な表情だ。
ゆきにそんなことを訊かれている後輩は少しもじもじしていると、見かねた秘書艦(?)の吹雪が言った。
「本当です。横須賀第○九号鎮守府の浅倉大将が強引に海域から連れ帰った艦娘を拉致して、身代金代わりに資材を……」
言質は取れたと言わんばかりにゆきは連れてきた憲兵に指示を出した。
「荷物を降ろして運び入れて!」
「「はい!!」」
憲兵たちは駆け足でトラックへ向かった。
ゆきは俺たちの目の前でポカンとしている後輩と吹雪に、事の顛末を話し出した。
「色々あってね。オイルバレルとの賭け演習で完全勝利したからさ、それの報酬。それに身から出た錆も全部回収済みだし、色々自供したものも犯行映像も抑えたから……もう心配ないよ」
そう言ってゆきは後輩の頭を撫でる。きっと、昔からやっていたんだろう。慰めるというか、そんな意味で。
それに後輩は少しだけ撫でられるとすぐに離れて礼を言った。
「ありがとうございます……先輩」
「いいのー。後輩を虐めるヤツなんて、私が島風も驚く速度で堕としてやっちゃうから。……いや、正確に言えばこれから?」
そんなことを言ってゆきはニコニコと笑う。
「堕とすって……どうやってですか? あの人、曲りなりにも海軍大将ですよ?」
「さっき言ったじゃん。全部証拠は抑えたって」
「そうですけど……憲兵も味方にするような人ですよ?」
「その憲兵も全員同じように脅されていたからさ、私との演習を境に付き従う必要も無くなったんだよ」
「一体、どんな魔法を……」
そう後輩が訊いた瞬間、ゆきは俺の腕に巻き付いた。その刹那、後輩は顔を真赤にして怒りだしたのだ。
「ちょ! 先輩っ!! そんなことしたら!!」
「大丈夫大丈夫。私の艦娘(?)だから。それに、あんまり嫌がらないよ?」
そう言って俺の顔を見上げてくる。確かに嫌がらないが、それはゆきが他のとは違うと思っているからだ。他意はない。
「どうしてやろうかと考えているところに来てくれたからね、最大限に利用させてもらったよ」
「利用って……」
「もちろん彼も了承済み。むしろ喜んで協力してくれたよ」
ゆっさゆっさと俺の腕で何かが揺れる。何がとは言わないが。
「それにしても今考えたらとんでもない人だよね、あの人」
今度は俺の方を向いて話し出した。
「来て2日くらいで現れたからさー。諜報員でも放ってたのかな?」
「さぁ……俺には分からない」
「だろうね~。私も分からないもん」
「とりあえず、ゆきの後輩には説明は終えたし、どうするんだ?」
「トラックの荷物を置いてきたらとんぼ返り。やることあるからね」
そう言ったゆきは絡みついていた俺の腕から離れ、腕を組んだ。
後輩はどうしようかとおどおどしているようだが、その秘書艦が話をし始めたのだ。
「司令官がすみません。挨拶が遅れました。私は横須賀第六三号鎮守府の秘書艦、吹雪です。」
「見れば分かるよ。私は呉第ニ一号鎮守府の山吹 ゆき。階級は海軍大佐。それでこっちが」
「大和型戦艦 一番艦 大和だ。……知っている大和とは違うと思ってるだろうが、よろしく頼む」
挨拶をすると吹雪と後輩は口をポカンと開けて動きを止めてしまった。
どうしてだろうか。別に変なことは言ってないと思うんだけど。
「さっきはスルーしましたけど、え? 大和?」
「うん。大和」
「本当ですか?」
「うん」
どうやら信じられない様子の後輩。吹雪は同族(?)の直感かなにかで分かったようだ。
「まぁ、その反応が普通だよ」
「そうでしょうね。私は艦娘ですからわかりますけど」
そう言った吹雪に後輩は訊いた。
「本当に?」
「はい、本当ですよ。確かに艤装が使えるみたいですね」
「そうなんだぁ……。あ、自己紹介忘れてた。私は横須賀第六三号鎮守府の小鳥 悠(ことり ゆう)。階級は海軍少佐。よろしくね、大和」
自己紹介をしたが、何というかこの人も姓名が人にあらわれているような雰囲気だ。
「よろしく」
「あぁ」
俺は小鳥提督と挨拶を交わし、ゆきにバトンタッチをする。
「積もる話もしたいところだけど時間が押してるから、これで出るね」
「そうですか……。ありがとうございました」
「いいよ~。じゃあね。また」
「はい!」
昨日とは打って変わり、すぐに出ていくようだ。
昨日は散々白華提督に迷惑をかけてしまったから、当然と言えば当然だろう。
俺だって、昨日みたいに変に気を使われるのも嫌だからな。
「じゃあ」
「またいらして下さいね!」
俺も適当に挨拶をして振り返るが、『またいらして下さいね』ってまた来いってことだろうか。正直、長距離の移動はもう懲り懲りなんだが。
機会があったらまた来ることになるだろうな。とか考えながら、俺は装甲車に乗り込んだ。中は整理してあり、ボードゲームが散らかっていることもない。
行きからずっと座っている座席に座り込み、足元に置いていたペットボトルから水を飲んで外を眺めた。
見慣れない景色。そもそも装甲車に乗ること自体、始めてだから内装を観察していたりもしたが、外を見たことはなかった。
街中を走ってもなんとも思わない民間人を変に思いながら、じーっと外を眺める。
外にはやはり女性しかいない。街往く民間人に男1人も居ない。パンツスーツ姿の女性。セーラー服姿の女の子。小学生くらいの女の子。おばさん。おばあさん。
私服の女性……。ここまで来ると色々と考えさせられることがある。
俺が鎮守府で体験したことを踏まえると、今ここで放り出されたらどうなるかなんて容易に想像出来るものだ。
考えただけでも恐ろしい。いざ、自分にそういうのが降りかかると思うと恐ろしくて堪らない。俺が居た世界の男性諸君。話を聞いたら羨ましがるだろうが、立場が男女入れ替わり、貞操観念も入れ替わり、人数比が顕著に現れたこの世界でそんなことを言えるのだろうか。
「大和? なんか悟ったような表情してるけど、どうしたの?」
そんな俺にゆきが話し掛けてきた。
「なんでもない」
「そう?」
ニコニコとして、ゆきは見ていた方向に向き直った。
俺はさっきに引き続き、外を眺めた。
やはり、外の状況というのは変なものだ。貞操観念が入れ替わってると、こうも変に思ってしまうのだ。
例えば今、コンビニの前を通り過ぎた。丁度、若い女の人が入店したのだ。その若い女の人の格好だ。なんだよ! キャミソールにショートパンツって! せめてTシャツくらい着て欲しいものだ。
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ーーー
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横須賀第六三号鎮守府を出て1時間も経ってないくらい、装甲車が停止した。
どうやら到着したようだ。
「着いたみたいだね」
ゆきはそう言って装甲車から出ていった。俺にはここに残るように伝えたが、俺は装甲車のハッチから少しだけ頭を出した。
装甲車が止まっていたのは、大本営の駐車場らしい。黒塗りの国産高級車だろうか。この辺はあまり俺の居た世界とは変わらないようだ。
懐かしく思えてくるくらいだ。某国際的に有名な自動車メーカーの車も何台も止まっている。
「あれ……あそこに居るのって……」
一瞬でも頭を出したのが良くなかったみたいだ。
近くを通りかかった軍服の女性2人組に顔を見られてしまったのだ。
すぐに頭を引っ込めた俺は装甲車の側面の小さい窓から外を見ると、軍服の女性たちは近づいてきていた。
「さっき見たよね?」
「うん。装甲車のハッチから」
俺はすぐに上を見上げた。ハッチが開いたままだったので、すぐにハッチを閉めた。
金属がぶつかって鳴る音にびっくりした叢雲が、俺にどうしたのかと尋ねてきた。
「どうしたの?」
「外を見ていたら、顔を見られた」
「本当?」
「本当」
そう俺が言うと、叢雲は小さい窓から外を眺めた。
「それでこの2人が寄ってる訳ね」
「そうだ」
外を睨むように見る叢雲は立ち上がり、ハッチを開けて顔を出した。
「何か用かしら?」
叢雲を見てビクッと驚いた2人はそそくさと離れていく。
勘違いだと思ったのだろうか。何にしてもありがたい。
「ありがとう、叢雲」
「礼には及ばないわ。して当然よ」
ドヤ顔で言ってくるのが、なんだか腹が立つ。だけど、追い払ってくれたことに変わりはなかった。
俺は心の中で礼を言って、ゆきの帰りを装甲車で待った。
前話に引き続き、新しい登場人物を出しました。
ゆきの後輩ですけど、吹雪より小さいって……。それはそれでおもしろそうだと思ってやったんですけどね。
全体的に作品の投稿頻度が落ちていましたが、今後はある程度回復させるつもりです。
あと、色々思うところがありまして、今後は攻撃的な文章を書いてしまって気付かないうちに投稿してしまう可能性があります。ご了承下さい。
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