大和型戦艦 一番艦 大和 推して参るっ!   作:しゅーがく

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第11話  勝利報酬の行方 その2

 横須賀第三ニ号鎮守府は、俺が居るところの鎮守府とは作りが違っていた。

本部棟などの建物は全てレンガ造りでは無く、普通に鉄筋コンクリート製。それ以外にも、色々な施設が隣接しているというか、くっついている。

言うなれば、場所が無い感じだ。窮屈に思える。

それぞれに建物の区別はあるが、全部が屋内で移動できるようになっているみたいだ。

 

「呉とは違うから珍しいだろうね」

 

「全然違うな。確かに」

 

 俺は目の前で揺れる長い銀髪を追いかけていた。

これから寝るためだが、白華提督の好意で寝る場所を確保してもらった。ちなみに、何故だか叢雲も一緒にいる。俺の後ろから鞄を持って付いてきていた。

 

「さて、着いた。入って」

 

 どうやら着いたみたいで、大きな扉を潜った。そこは呉でも見慣れた光景があった。

執務室の内装はどこも同じらしい。大きい机があり、ソファーがあり、所狭しとファイルが入っている本棚がある。

 

「この光景には見慣れているんじゃないかな?」

 

「そうだな」

 

 俺はカバンを邪魔にならないようなところに置き、白華提督に向いた。

 

「ん?」

 

「ありがとう。ゆきの友人って言ってたけど、面倒な俺の寝床の用意まで」

 

「いいさ。それに、ゆきにはいつも助けられてるから。ゆきが困っている時には最大限、私は恩返しのためにするだけだよ」

 

 被っていた帽子を机に置いた白華提督は、そんなことを言った。

さっきまでのとは違う、柔らかい笑顔で言ったのだ。

 

「それで、叢雲」

 

「ん? 何よ」

 

「叢雲は何しに?」

 

 そう。叢雲が付いてきていたのは知っていたが、何のために来ているのか分からなかったのだ。

多分、護衛なんだろう。ゆきの護衛は憲兵で間に合っているのかもしれない。

 

「貴方の護衛よ」

 

「そうなんだ」

 

 だろうとは思っていが、やはりそうだったのでそこまで驚かない。

 

「大和と叢雲は夕食は食べたかい?」

 

 大きな机に着いている白華提督が訊いてきた。

時間は午後8時。そんな心配をするもの最もだろう。

 

「ここに来る前に済ませてある」

 

「そうか……こんな時間では眠くもならないだろうから、くつろいでいてくれていいよ」

 

「ありがとう」

 

 ずっと立ったままだったので、ありがたい。俺はソファーに座った。

ソファーの感じも、呉の執務室と変わらなかった。

座って一息吐くと、白華提督が話しかけてきた。

 

「本当に男性なのか?」

 

「見ての通りだ」

 

「半ば信じれなくて訊いてしまった」

 

「いいさ」

 

机に手を置いて話す白華提督だが、どうやら話がしたいみたいだ。俺も手持ち無沙汰で暇になっただろうからありがたい。

 

「ゆきとは友人って言ってたが、どれくらいの関係なんだ?」

 

「えぇと……同い年で、同じ期に士官学校に入ったんだ。入った時からはもう友人だったよ」

 

「そうか」

 

「うん。それでさ、大和」

 

「ん?」

 

 白華提督は立ち上がり、俺の前に立った。

俺は座っているので、白華提督を見上げることになる。彼女が俺を見下ろす顔が、何処か違和感があった。

 

「ゆきにとても気に入られているみたいだね」

 

「まぁな。念願の大和だったって言ってたし」

 

 俺がそう答えると、白華提督は近くにいた叢雲に声を掛けた。

 

「ちょっと叢雲。廊下に行っててくれないかい?」

 

「何故かしら?」

 

「ちょっと……ね」

 

 少し見つめ合うと、叢雲は執務室から出て行ってしまった。

どういうことなのだろうか。俺にはさっぱり分からない。

 

「叢雲もゆきの艦娘だろう? ちょっと、追い出してしまったけど気にしないで」

 

 そう言った白華提督は、俺の正面に座った。

 

「君がゆきに気に入られているだろうから、さ」

 

「どういうことだ?」

 

「小さくて可愛い癖に、やることなす事が汚かったり顔を歪めたくなるようなことがあっただろう?」

 

 突然、この人は何を言っているんだ、と俺は思った。だが、思い返せばその通りなのだ。

俺よりも遥かに身長は小さく、顔も童顔。見た目は幼く見えてしまうかもしれない。だけど、考えていることは歳相応。否、それ以上かもしれない。

今回の俺の事件だってそうだ。俺も同調してゆきに乗っていたが、客観的に見たら人に褒められたことは何もしていない。

勝負事に反則(俺を出した)を使い、相手の身から出た錆を使って脅し、資源を略奪した。

そう見られても仕方ない。

 

「あぁ……」

 

「ああなってしまったのは、仕方のないことなんだ。許してやってくれないか?」

 

「今回のは、ゆきにとっても色々なことが変わる節目になったのかもしれない。君が来たから……」

 

 そんなことを遠い目をしながら、白華提督は言った。

そして突然、白華提督の目つきが変わった。何というか、疑心暗鬼な感情が篭った目に見えるのだ。

 

「……君は」

 

 俺は黙ってその目を見つめる。

 

「君は、一体誰なんだい?」

 

 そう言った白華提督は、急に立ち上がると本棚の前に立ち、あるファイルを引き抜いて持ってきた。

それを開くと、一枚の写真を俺に見せてきたのだ。

 

「これ、誰だか分かるだろう?」

 

「あぁ。大和だ」

 

「分かっているんだな。これを踏まえてもう一度訊く。君は”誰”なんだ?」

 

 俺の目を捉えた、白華提督のグレーの瞳には力が込められていて、疑心暗鬼な心情であることも伝わる。

 

「私は大和と言われて、真っ先に思いついたのはコレだった。だけど、大和と名乗った君は一体誰なんだ? 艦娘(?)の同名艦が2種類もあるなんて聞いたことが無い」

 

「……」

 

 俺は黙ってしまった。

 どうして、白華提督は分かってしまったのだろう。俺と初めて会ってからまだ1時間経ったくらいなのに。

洞察力があったということだろうか。それとも、何か掴んでいたのか。色々定かではない。

 

「……答えたくないのなら、無理に答えなくていいよ。私は君の上司って訳でもないし、訊く義理だってない。興味で訊いただけだからね」

 

「答えたくない訳ではないんだ」

 

「なら……」

 

「それでも答えられない。いずれ分かるだろうから」

 

「そうかい。……もう時間が時間だし、寝るとしよう。大和、私の寝室で寝てくれて構わないよ」

 

 時計に目を向けると、もうそろそろ10時という頃だった。

別に俺は眠くないのだが、白華提督は眠いようだ。

 

「分かった」

 

 女性の部屋だから、とかって言うと不味いので言わない。これはさんざんゆきに言われてきたことだ。

俺が居た世界とは違う、と。そういう身振りをするのは良くないと言っていたのだ。

だから、頭の中では良くないと思っていても、そう処理せざるを得ない。

 白華提督の後に付いて、執務室の奥の部屋に入った。そこがどうやら、白華提督の寝室らしい。

入って最初の感想は、『鼻がやられそう』だった。臭いということではない。女性特有の甘い匂いで充満している。俺にはというか、男にはこういう匂いは良くない。

というもの、頭がおかしくなりそうなのだ。

 

「ん? どうした?」

 

「い、いいや。なんでもない」

 

 平静な素振りを見せて、俺は寝室に入っていく。

 質素な部屋で、シングルベッドが1つ。キッチンが1つ。ソファー(1人掛け)が1つ。きっちり本が入った本棚が2つ。2人用テーブルが1つ。壁紙は白で、奥を見ると、シャワールームだろうか。それに繋がる扉が開いた状態だった。

 

「ごめんなさい。女の部屋なんて」

 

 そんな風に白華提督は言った。

 

「ここ以外、安全なところが無いのなら仕方ないだろう?」

 

「そうなんだが……」

 

「正直、ソファーで寝ても構わないんだがなぁ……」

 

 そんな風に俺は漏らす。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 俺は寝室で落ち着きを保てずにいた。

悶々とするという言い方ではアレだが、落ち着けない。ちなみに白華提督は執務室で、叢雲は廊下に居るらしい。

護衛という任なので、寝るわけにはいかないと言って、寝ない宣言をした叢雲は廊下に出て行ってしまったのだ。

白華提督はソファーで寝ると言ってそのまま。

 

「今から言って、変えてもらおう。落ち着かないって」

 

 そう思い、俺は執務室に戻った。

執務室の照明はほとんど消えており、唯一、ソファー前の机にあるライトだけが点いていた。

ソファーには白華提督が身体を揺らしながら寝転がっており、どうやら寝辛いみたいだ。

というか、多分まだ寝ていないんだろう。

 

「ちょっといいか?」

 

「……ん? どうしたんだい?」

 

「やっぱり、俺はこっちでいいよ。寝れないみたいだし」

 

「そういう訳には行かないなぁ……。君は男性で、私は女性。女性がいつも使ってるベッドに寝るのには抵抗あるだろうが、そこなら内側からロックが掛かるし艦娘にも常日頃入らないように言ってるから、艦娘が入ってくることもないんだ」

 

 どうやら白華提督は、俺が気を使ったと思っているようだ。そんなつもりはないんだがな。

 この環境に慣れてきているとはいえ、やはり慣れはあっても抵抗はある。

今後、会う可能性があるにはあるが、顔を出さなければいいと思い、俺は自分のしたいようにすることにした。

 

「そういう扱いをされるのは嫌いなんだ。むしろ、俺はそういう扱いを女性にすることが多かった」

 

「?」

 

 白華提督はどうやら分かっていないようだ。

 

「だからなんて言えば良いんだろう……。こういう風に、保護対象というかそんな感じに扱われるのが嫌なんだ」

 

「よく分からないが、つまり、嫌なのかい?」

 

「そういうことになる」

 

 俺は空いていた1人掛け用のソファーに腰を掛けた。

2人掛け用では、白華提督が横になっているからな。

 

「そもそも俺は白華提督の部下ではないにしろ、扱いは艦娘。そう考えると、この対応は違うと思う」

 

「うーん」

 

 どうやら、分からないようだ。

それなら強引に行こう。

 

「いいから、ほら」

 

「だけども……」

 

 俺は頭を掻く。物分りが悪いというか、頑固というか。白華提督はそういう性格なのだろうか。

仕方がないので、俺はこのままここに居座ることにした。

 どうして良いのか分からないみたいで、白華提督もそのままソファーに留まった。

チラチラと俺の顔を見ては、視線を逸らす。視界の端に映っているから、よく見えるのだ。

気付かれてないとでも思っているのだろうか。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 結局、白華提督とは我慢合戦をした。眠気との戦いだ。

午前2時辺りまでは全然平気だったが、途中から俺がうとうとし始めてしまい、午前3時になった時の記憶が無くなっている。ということは、俺が我慢合戦で負けてしまったのだ。

 身震いをするほどではないが、身体が寒いと感じた。ぼやける視界には見覚えのない景色が映り始めた。身体を起こし、頭を掻いて目を擦る。

視界が徐々に鮮明になり、辺りの状況が把握できるようになってきた。

 

「おや、起きたのかい? おはよう」

 

 何処かから声がしたので探してみると、白華提督が机に向かっていた。

 

「おはよう。……今、何時だ?」

 

「6時前だよ」

 

「ありがとう。ゆきのところに行ってくる」

 

「その必要はないかな」

 

 そう言われてどうしてだろうと思った。だが、白華提督が見る方向を見てみると、そこにはゆきがいた。

 

「おはよう、大和」

 

「おはよう」

 

 俺が寝ていた1人掛けのソファーの横にもう1つ、同じのがあるんだが、そっちにゆきは座っていたのだ。

 

「……装甲車で寝てたんじゃ?」

 

「5時くらいにこっちに来て、透子を叩き起こしたんだよ。『起きたかー』って」

 

「は?」

 

 笑いながらそういうゆきだが、目は笑ってない。一体、何があったというのだろうか。

 

「そしたら透子ってば、大和の膝に頭乗せてた」

 

「は? どういう状況?」

 

「うーん……膝枕みたいになってた?」

 

 どうして疑問形なのか分からないが、とりあえず俺の膝を枕にしていたらしい。

 

「俺が知らなかったのならいいじゃないのか? 流石に不味いのはあるけど、それくらいなら良いような……」

 

「大和は甘いよ……まぁいいか。友達の好で許す! 私が許す!」

 

 眉を吊り上げて、ゆきはそう宣言した。別に、俺が気にしないって言ってるから、良いような気もするけど。

 

「あはは……ありがとう。今朝はどうしていくんだい? ウチで朝食でも」

 

「こっちが連れて来てる憲兵たちもいいの? 優に100人は居るけど?」

 

「構わないよ。今から言えば用意出来るだろうから」

 

「ありがとう、透子」

 

「いいさ」

 

 白華提督は立ち上がり、執務室を出て行ってしまった。多分、俺たちの分も作って欲しいと伝えに行くんだろう。

 俺は浅くソファーに座り、ゆきの方を見た。

ゆきは自分の執務室と違うからか、キョロキョロと見渡していた。流石に友人ではあるが、部屋をジロジロと本人の前で見ることに抵抗があったんだろう。

 

「私のところとはやっぱり違うなぁ。鎮守府自体も構造が違うし」

 

「そうだな。ここは建物が密集してるから、少し閉鎖的に思える」

 

「同感。だけど、こういう作りも悪くないなぁって思う」

 

 キョロキョロするのを止めたゆきはこっちを向いて言った。

 

「とりあえず、寝癖直したら?」

 

「寝癖? あぁ、鏡あるか?」

 

 俺はゆきから鏡を借りて身支度を整えた。寝起きだから寝癖を直したりシャワーを浴びたりした。白華提督が執務室近くのシャワーを抑えてくれていたみたいで、そこを使った。ついでに、服も変えて戻ってきたころには、白華提督が戻ってきていた。

 

「朝食を頼んできたよ。ここに所属している人数分しか屋内はないから、今日も晴れているし、屋外で良かったかい?」

 

「いいよ。ありがとう、透子」

 

 30分後。ゆきと白華提督とで、トラックの集まっている駐車場に来ていた。そこでは、炊事が出来る車両が止まっており、そこでは料理が出来上がっていたみたいだ。周りに連れて来ていた憲兵たちが群がっていたのだ。きちんと列を成しているが。

 

「メニューはカレーライスだ。野菜は調達しやすいからな」

 

「本当にありがとう、透子」

 

「いいよ。じゃあ、出発するときにまた声を掛けてね」

 

 そう言った白華提督は戻っていってしまった。

 俺とゆきも列に加わり、カレーライスを受け取って食べ始める。朝からカレーライスは重いような気がしたが、どうやらその辺りは考慮してくれたみたいだ。野菜中心の野菜カレーになっていた。

 カレーを食べ切った俺たちは、役割分担をして片付けを済ませると、白華提督に礼を言って出発をする。

 

「炊事車と食器は洗って返して置いたから」

 

「ありがとう。どうだった? 横須賀のカレーは」

 

「美味しかったよ。朝に食べても食べやすかったし」

 

「そうか……。このまま次はどこに行くの? まだ資材が載ってるトラックがあるようだけど」

 

「横須賀第六三号鎮守府に」

 

「あぁ……あそこは確か、身代金を要求されていた……」

 

「そこだよ」

 

「私たちの後輩が受け持っているところだから、あまり気にせず行くといいよ」

 

「うん。じゃあ」

 

「じゃあ」

 

 さよならとかまたねとかは言わないらしい。どうしてかは分からないが、俺たちはそのまま第三ニ号鎮守府を出て行った。

荷を下ろしたトラックは呉第ニ一号鎮守府に戻り、残りのトラック数十台を連れて移動を始めたのだ。

 




 おとつい、Twitterで連日投稿と言いましたが、アレは嘘です。
時間がかかりますね、やっぱり。

 後書きに書くネタもそろそろ切れてきましたよ。
内容のことなんて、内容読めばいいですし……。
あ、最近誤字が多いです。感想欄で誤字報告を受けたり、誤字報告の機能で知らせてくれたりと、本当にありがとうございます。あれでも一応、推敲しているんですよね(汗)
もっと、ちゃんとやれって言われそうですが、最終確認はいつもエディターに表示されてるテキストを読むだけですので、見落としとか多いんですよ。
という言い訳でした。ちゃんとやっていても見落としはあるんですよ。

 ご意見ご感想お待ちしています。

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