大和型戦艦 一番艦 大和 推して参るっ!   作:しゅーがく

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第9話  大和争奪戦 その5

 

 こちらは傷一つない状態で、あちらはペンキだらけで戻ってきた。場所は会議室。

ちなみに演習弾は、被弾するとペンキがべっとりと付く。それで損傷具合を判断している。

 俺たちは意気揚々と陸に上がり、ゆきに報告した。

ゆきは手を上げて跳び跳ねる勢いで喜び、近くで見ていた浅倉は歯ぎしりを立てながら悔しがっている。

ちなみに、演習は公式に記録されているらしい。書面上では、こちらの艦隊が相手を封じ込めで圧勝したことになっている。どうやら『戦意喪失』という文字は書けないらしい。

 

「わっほーい!! やったー!!」

 

「落ち着けって」

 

 ニコニコ笑いながら喜ぶゆきをなだめながら、俺は回りを見る。

浅倉は歯ぎしりを立てているし、アチラの艦隊は顔を伏せている。そんな状況にスカッとしているのは俺だけではないはずだ。

 

「では、浅倉大将。約束通り、お願いしますよ!」

 

 これでもかというくらいの笑みを浅倉に向けて、ゆきはそう言った。

今の浅倉にそれをすると、変に刺激してしまうことになるかもしれない。そう思っていたら、案の定そうだった。

 

「む、無効よ! 演習艦隊に大和くんを入れてくるだなんてっ!」

 

 俺が首をつっこんでも仕方ないようなので静観する。

 

「そうですか? 彼も私の鎮守府の一員です。演習に参加する権利はありますし、私にも命令する権利がありますよ? さきほどの演習に、私が誰をどのように参加させても問題はありません」

 

「分かっててやったんじゃないの?!」

 

「何をですか?」

 

 ゆきはしらばっくれているが、それを狙って編成した艦隊と作戦だ。

気付くのが遅すぎたな。

 

「大和くんを入れるなんて卑怯だわ!」

 

「どうしてですか? さっきも言いましたよね? 私には演習艦隊に大和を加える権利があると。それを使うかどうかなんて私次第ですが?」

 

「それでもよ! しかも貴女、男性保護法のことも知ってて入れてるわねっ?!」

 

「まさか……」

 

 ゆきは軽くあしらって鼻で笑っているが、なんというかこの光景が面白い。

自分よりも年下でいっちゃ悪いが、若輩者のゆきに完全敗北をした浅倉。面目丸つぶれだろうな。

それに、浅倉がこうやってゆきと一方的な口論をしているのを見ると、浅倉がどれだけ無能かが伺える。

 

「無効無効無効―!! 再戦するべきよ! そして貴女の艦隊に大和くんは入れたらいけないわ!」

 

「なぜです?」

 

「平等な演習にならないからよ!」

 

「はぁ? 十分平等だと思いますよ? むしろハンデが欲しいくらいです。練度差、装備の充実度……挙げ句の果てに装甲空母を2人も寄越すなんて。せめて1人にして欲しいものです」

 

「どの口がそんなことをっ!!」

 

「さぁ、どの口でしょうか?」

 

 浅倉がゆきに対して一方的につっかかっているこの状況は、勝手に浅倉がヒートアップしていくだけだ。ゆきは至って冷静。静かに淡々と返している。

 

「じゃあ何がどういう理由でどう平等じゃないのか、今ここでご教授願います。私のような”若輩者”には、どう平等じゃないかなんて”高度”な分析が出来ないものですから」

 

 俺は思った。ゆきはこの状況を楽しんでいる、と。完全に今の発言は煽りだ。

 

「減らず口をっ!!」

 

「ご教授いただけないのですか? ……残念です」

 

 オーバーにゆきはしょんぼりとする。完全に演技だろうが、これも煽っているに違いない。目に見えて浅倉がイライラしているのだ。

 

「貴女だって士官学校を出たんでしょう?! それくらい自分で分析しないさいよ! それに、今回の演習は無効っ! 公式記録にも残さないわっ!」

 

 これは俺でも分かる。横暴だ。いくら階級が大将でも、これは職権濫用だろう。

しかるべきところにバレた場合、しょっぴかれるのは大将である浅倉だ。

 

「それは横暴ですよ?」

 

「ぐぬぬ……」

 

 一進一退(?)の攻防が繰り広げられているが、正直この一方的で下らない口論も面倒になってきていた。というのは建前で、面倒だからとっとと終わらせたいのだ。

 

「面倒だなぁ……」

 

 俺の呟きに反応した浅倉が、コチラに何か言ってきた。

 

「貴方の提督(仮)が面倒なのよ。貴方もこんな演習、無効だと思ってるわよね?」

 

 こいつ馬鹿だと内心呟く。

その演習に参加していたのが俺で、しかもゆきの作戦に乗っていて、その上、手を貸していたことに気付いていないのだ。本当に浅倉は海軍大将なのだろうか、と疑ってしまう程だ。

 

「うーん……」

 

 俺は遊んでやろうと考えるフリをする。もちろん、ゆきは気付いているみたいだ。そもそも、コチラ側の人間だから疑うこともないだろう。

 どう弄ってやるかと考えていると、俺を説得するようなことを言ってくるようになった。

 

「大和くん? 本当のことを言って? この小娘に騙されていたって。私のような”お姉さん”の鎮守府に本当は行きたいって」

 

「うーん……」

 

「本当は護送旅団に居たのに、襲撃されて拉致られたって。本当は艤装なんか使えないって」

 

「うーん……」

 

 必死過ぎて笑いをこらえるのに必死になりながら考える。視界の端に映るゆきも腹を抱えて笑いをこらえていた。

 

「なぁ、浅倉大将」

 

「ん? なに?」

 

 鼻息の荒い浅倉が接近してきた。その距離、手を伸ばせば届く距離だ。

 

「私のところに来る気にもなった?」

 

「アンタの本音を教えてくれ」

 

「そりゃもちろん、軍にいたら男なんて滅多に会えないから」

 

「から?」

 

 得意気に話そうとしはじめた浅倉は、ハッと気付いたようだ。

俺はしめたと思い、追撃する。

 

「から、どうするんだ? 俺を」

 

「えっと……」

 

「正直に言えばそっちの鎮守府に行ってやる」

 

 そう俺が言うと、後ろで慌て始める武蔵の声が聞こえた。

凄いテンパっているようで、『おい大和! 今すぐここであの大将を撃てっ!』と言っている。自分、艤装を身に纏っていることも気付かずに。

 

「……その前に一つ、ゆきに訊きたいことがあるから訊いてもいいか?」

 

「え、えぇ。構わないけど」

 

 俺はすぐに浅倉から視線をずらして、ゆきの方を見る。

 

「ん? どうしたの?」

 

「男性保護法ってのは、誰の証言で違反者を罰するんだ?」

 

 俺はニヤけながら言う。そうすると、これまで空気だった浅倉の連れている憲兵たちの顔が青くなっていった。

どうやら彼女たちは浅倉と違って、理解が早いみたいだ。

 

「そんなの、貴方の言葉に決まってるじゃない」

 

「だけど、俺って国に認知されているのか?」

 

「一応ね。書類だけはちゃんと届いていると思う。あっちはその書類だけで大騒ぎしてるだろうけどね」

 

「そうか、ありがとう」

 

 俺は浅倉の顔を見た後、その後ろで顔が青くなっている憲兵を見た。そこに居た憲兵は全員、ここに乗り込んできた時の憲兵なのだ。

つまり、俺が何をするかというと、あちらのカードを奪うのだ。浅倉に弱みを握られているか知らないが、憲兵という立場を利用されても面倒なことになる。なら、そのカードを使えなくすればいい。それだけのことだ。

 

「そこの憲兵」

 

「は、はいっ!」

 

 いきなり呼ばれてピンと背筋が伸びた憲兵たちに、俺はあることを言った。

 

「この前、俺を無理やり拘束して連れて行こうとしたか?」

 

「?」

 

 どうやら、これでは俺が何をしたいか伝わっていないようだ。

少し考え、俺はゆきにまた訊いた。

 

「なぁ、ゆき」

 

「なに?」

 

「浅倉海軍大将ってさ、なんで嫌がられてるんだ?」

 

「そりゃもちろん、賄賂に着服、略奪、粛清……。クソ汚いことばっかして、自分の気に入らない人間を消したり、気に入ったモノはなんでも奪ったりしているからかな? 私も……ううん。なんでもない」

 

 想像通りだった。こういう嫌われている人間は、こういうことをしているに決っている。それに、この前来たときに、憲兵を『あの子たちは私の下僕よ。何言っても私に利のないことはしないわ』と言っていた。それはつまり、弱みを握られているか、何か抵抗できない原因があるのだろう。

 それに俺は浸けこむ。そして、こんなやつ見たくもないから”ブタ箱”に落ちてもらう。

つばも飛んできたしな。

 

「ゆき」

 

「ん?」

 

「俺を羽交い締めにして無理やり連れて行こうとしてたのは誰?」

 

「そこの醜い肉の塊。あ、違うや。脂肪の塊」

 

 浅倉は凄い形相でゆきを睨んだ。さっきまでのこともそうだろう。見下していた相手が調子に乗っているのなら、機嫌が悪くなることも仕方のないことだ。

 

「あそこの憲兵は?」

 

「どうだったかなぁ?」

 

 どうやらゆきもそのつもりらしい。浅倉に支配されていた憲兵をどうにかするつもりみたいだ。

ならばと思い、俺はあることを武蔵とここにいる大和(女)に言った。

 

「大和。憲兵隊を呼んできてくれないか?」

 

「は、はい」

 

 大和は分かってないみたいだが、浅倉の制止を無視して廊下に出て行った。

これで終わりだ。

 

「さっきの質問だ。俺を捕まえてどうするつもりだった?」

 

「えっと……」

 

「正直言ったら大和を止めてくるぞ?」

 

「……よ」

 

「ん?」

 

「貴方を連れ帰って私の……せ(自主規制)するつもりだったのよっ!」

 

 ゆきがニヤリと嗤った。これで勝ちだ。

だが、俺は浅倉を無視して廊下に出た。

 

「大和ー! 戻ってこいー!」

 

「え? いいんですか?」

 

「いいさ」

 

 大和を連れ戻した俺は、浅倉の前に立った。

 

「忘れてた。……浅倉海軍大将?」

 

「なに……よ」

 

「こちらの演習勝利報酬を受け取ってないんだ。今すぐそっちの鎮守府に連絡して送って貰えるか?」

 

「あーそれに俺は理解しないが、特権やら書類の処理も頼んだ。じゃあそういうことで」

 

 俺はそう言ってゆきのところに歩いて行く。

 

「やったね! これで楽ができるっ!」

 

「そうだなぁ」

 

 という具合の会話をしていると、後ろで歯ぎしりが聞こえてきた。どうやら浅倉はこちらを睨んでいるようだ。

ゆきは恨みを買ったからな。何かされるかもしれない。だが、そんな状況下でも、ゆきは嗤っていた。

 

「ざんね~ん! これ、何か分かる?」

 

 そう言ってゆきはあるものを見せた。

それはボイスレコーダーだ。きっと、ここでの会話を全部録音していたんだ。俺はそれに気付いていた。ポケットに手を入れてゴソゴソしているのも気付いていたし、ゆきがポケットからそれを出して俺に見せていたからだ。

 

「上層部には言わないけど、私に飼われることになるよ!」

 

 キャピ☆彡 と言いたげに決めポーズをするゆきを見て、浅倉は地団駄を踏んだ。

完全敗北。搾取されまくって捨てられるのだ。これまで、あまたの人間にしてきたように。

 多分、浅倉に味方は居ない。自分がやってきたことの積み重ねで、敵しか居ないのだろう。階級と支配していた憲兵を使って好き勝手してきたからだろう。

 

「あ、言い忘れてた」

 

 ゆきは何かを思い出したのか、ボイスレコーダーをポケットに仕舞い、不意にテレビの電源を点けてリモコンを操作した。

そして、そのテレビにあるものが映ったのだ。

浅倉がここに来て、俺を連れて行こうとしたときの映像だ。

 

「逃げられないよ? ○欲まみれの大将さん?」

 

 トドメだったらしい。浅倉はその場に座り込んでしまった。

これで、今回の騒ぎは幕を下ろした。

ちなみに、浅倉の鎮守府からは資源が予定通り届けられ、特権や書類の作成もやってくれたようだ。当たり前だろう。こちらは弱みを握っている。

 





 今回で大和争奪戦は終わりです。内容は金剛くんのときよりも、結構酷くしました。
まぁ、感じ方は人それぞれだと思うんですけどね(汗)

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