超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth1 Origins Alternative   作:シモツキ

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第七十一話 信頼と真剣と

同じ一つの倉庫内で繰り広げられる、二つの戦い。

一つは偽者のノワールを討つべく刃を振るう、ノワールとサイバーコネクトツーちゃんの戦い。圧倒、とまでは言わないにしても偽者よりも強い力を持つノワールと、そのノワールに着いていける程度には技量を有するサイバーコネクトツーちゃんが連携する事により優勢を保っていた。

一つはアヴニールの横暴により生み出された兵器の生き残りを撃破すべく駆けるこんぱとあいちゃん、そしてわたしの戦い。こちらは得手不得手が全く異なるが故に一方的な戦況とはならず、一進一退の攻防が続いていた。

 

「こんぱ!あいちゃん!三方向から攻めるよ!」

「了解です!」

「言い出しっぺが遅れるんじゃないわよ!」

 

正面からはわたしが、右からはこんぱが、左からはあいちゃんがキラーマシンへと走り込む。対するキラーマシンは両腕の武器を広げ、真っ向からわたし達を迎撃する体勢を取っている。

普段なら正面からの殴り合いはわたしの担当だけど、今のわたしは女神化出来ない上に相手は人の身で殴り合えば十中八九ただじゃ済まないキラーマシン。そこでわたし達はいつもと戦法を変え、今までの対大型兵器戦で培ってきた知識と経験を活用する事としていた。

 

「一撃一撃が重くても……」

「当たらなければどうという事はないのよッ!」

 

わたし達三人を一度に屠ろうと外側から内側へと武器を横薙ぎにするキラーマシン。けど、三人同時に狙えば当然ながら攻撃は大振りになるし、そうなれば反応出来ないわたし達じゃない。わたしとこんぱは予備動作が見えた時点で足を横向きで前に出して急制動、そしてわたし達の中で機動力が頭一つ抜き出ているあいちゃん(勿論わたしが女神化したらその限りじゃないよ?)は逆に加速し、武器が当たる直前に走り幅跳びの様に跳躍して回避と肉薄を同時に行う。

 

「■■ー!」

「あら、攻撃すると思った?残念、本命は…」

『わたし達(だよ・です)!』

 

カタールの届く距離まで接近したあいちゃん。この距離では武器による迎撃は無理だと判断したキラーマシンは体当たりで跳ね飛ばそうとする…けど、そこであいちゃんは攻撃はせず、キラーマシンの胸部装甲を蹴ってバック宙。体当たりの勢いを利用する事で一気に距離を取る。

そして、あいちゃんと入れ違いになるかの様に接近をかけるわたしとこんぱ。あいちゃんが派手な動きをしてくれたおかげでキラーマシンに警戒される事なく一気に距離を縮められたわたし達は、すれ違いざまに同時に関節部へ一撃を叩き込む。

 

「こんぱ、今ので致命傷与えられたと思う?」

「さっきと同じ位浅かったと思うです」

「そっか、次来るよ!」

 

攻撃の後、キラーマシンの反撃から逃れる為に即座に離れるわたしとこんぱ。原作みたいにターン制だったり攻撃がヒットするかどうかが運次第だったら楽だけど、現実はそうじゃないんだよね…!

距離を取りつつ合流するわたし達三人と同じ手を食らうのは御免なのかわたし達の動きを見定めている(気がする)キラーマシン。

 

「普段ねぷ子達が関節をバッサリ斬り落としてたから知らなかったけど…結構関節部も頑丈なのね…」

「んー、多分このキラーマシンは比較的関節が頑丈なタイプなんじゃないかな?今と女神化してる時とじゃ微妙に感覚が違うから確信はないけどさ」

「どっちにしても、このままじゃ中々倒せないですね…」

「向こうと違って私達の体力に限界がある以上長期戦は…っとッ!」

 

攻めあぐね、何か作戦を建てようとわたし達が話し合い始めた瞬間に仕掛けてくるキラーマシン。幸い目は離していなかったおかげで三人同時にお陀仏になるという最悪の展開こそ回避出来たものの、ろくに作戦を建てる事も出来ないままわたし達は分散させられてしまう。

無論、わたし達は固まって動くつもりはないし、実際さっきまでもわたし達はそれぞれが別方向から攻めていた。けど、その戦法だと少しずつ削る事は出来ても削りきる前にわたし達の体力が切れてしまう可能性が高い上に、当然ながら長期戦になればなる程どこかでわたし達が攻撃を受けてしまう可能性も高くなる。そして、もし攻撃を受ければわたし達側のアドバンテージである数の優勢を失う事となる。詰まる所、わたし達は一気に削る手段を早急に見出し実行しなければならなかった。

 

「ねぷ子!貴女の技の中にかなりの大剣を顕現させる奴あったわよね、あれ関節に撃ち込める?」

「無理!関節そんな広くないし止まってる目標じゃないもん!」

「やっぱそうなのね…じゃあ、こんぱ!貴女攻撃魔法使える?」

「は、はい!あいちゃんやメーちゃん程じゃないですけど少しなら出来るです!」

 

三方向から時間差で攻めつつ、あいちゃん主導で作戦立案を進めるわたし達。もしここでダメージを与えるのが目的なら同時に攻める所だけど、その場合キラーマシンは防御しきる事を諦めて誰か一人を倒そうとしてくるかもしれないし、その戦法を取った所でろくにダメージを与える事が出来ないのは数度の攻防でもう判明している。だったらわざとギリギリ対応出来る程度に時間差をつける事で防御に専念させて、その間に話し合いを進めるって方が有益だよね。

 

「OK。ならねぷ子、ちょっとだけ無茶してもらっていい?」

「勿論!どんな事でもどんとこいだよ!なにせわたしは不可能を可能にする女だからね!」

「それ微妙に死亡フラグ感が…まぁ良いや、だったら私達が準備出来るまでキラーマシンを相手してて頂戴!」

 

具体的な指示は出さず、ただ『キラーマシンの相手してて』とだけ言ってこんぱの元に走るあいちゃん。だけど、別にわたしはそれで困ったりはしない。あいちゃんは必要な説明を忘れる程うっかりさんじゃないし、仮に物凄く細かい説明されたりしてもわたしじゃ逆に混乱しちゃうからね。多分それを踏まえてあいちゃんは簡素な指示だけだして動き出したんじゃないかな。

あいちゃんがこんぱに合流しようとするのを見たキラーマシンは二人の元へ接近。そうはさせまいとわたしが二人とキラーマシンの間の空間に滑り込む。

 

「■■■■!」

「せーせーどーどー勝負だよッ!」

 

キラーマシンが突撃しながら振るった右腕の武器に太刀を打ち合わせ……ると見せかけてわたしから見て左に側転。更にそこから振るわれた武器に向かって捻りを加えた回転斬り。攻撃をした事により僅かながら崩れていた体勢に遠心力で重さと速度が増した一太刀が入る事でグラつくキラーマシン。と、そこでわたしは追撃せずに後方に跳ぶ。

 

「女神化してなくてもわたしは主人公!無人機なんかに遅れは取らないんだよね!」

「■■…■■ー!」

 

太刀の切っ先をキラーマシンに向けながら声を上げるわたし。それに対してキラーマシンは二人よりもわたしの方が優先的に倒した方が良いと判断したのか(ひょっとしたらわたしに負けるかー!って気持ちが芽生えたのかも…なーんてね)、駆動音を響かせながら高速で突進をしてくる。

 

「これはちょっと無理かな…ッ!」

 

今までの攻撃に繋げる回避ではなくそれ単体で完結する回避行動に出るわたし。小回りや柔軟な動きに難のあるキラーマシンは至近距離なら女神化せずとも十分対応は出来るけど、中長距離からスピード上げての攻撃…所謂チャージ的な形で仕掛けられたら、とてもじゃないけど迎撃やカウンターなんて出来ない。こんぱ達が準備完了するまで引きつけ続ける為にもこれが最善の選択だった。

そして、次の瞬間…

 

「ねぷねぷ!こっちはもういけるです!」

「あ、もう良いの?よーしそれじゃ二人共デカいの任せ--------」

「■■■■ーーーー!!」

『……ーーッ!(ねぷねぷ・ねぷ子)っ!』

 

一瞬前までわたしがいた場所を駆け抜けていくキラーマシン。それと同時にこんぱから合図が送られてくる。意気揚々と引きつけ役を引き受けたとはいえ、一対一だと女神状態でも手のかかる相手を女神化していない姿で戦っていた訳だから内心おっかなびっくりだったわたしはつい二人の方へ顔を向けて…つまり、キラーマシンから目を逸らしてしまう。二人の方を見ていたのは数秒にも満たない僅かな時間。だが、その間にキラーマシンは胸部装甲を稼働させ、キラーマシン系列の最大の矛、胸部ビーム砲を展開させる。

わたしがそれを目視した時には既に光を放ち始めていたビーム砲。わたしが発射までに出来るであろう事はせいぜいワンアクションで、ワンアクションでは走ろうが跳ぼうが攻撃範囲から逃れられる筈がない。

そして、キラーマシンから放たれる大出力のビーム。強烈な閃光を発しながら駆け抜けた光芒は床や射線上のコンテナを溶解させながら進み、倉庫の壁へと突き刺さる。無論、これ程までの威力を持つ一撃を生身の人間が耐えられる訳は……無い。

 

 

 

 

「ほらほらッ!私の姿をしてるならこの程度で押されてるんじゃないわよッ!」

 

自身の偽者へと手に馴染んだ大剣を振り回す私。サイズも重量も普通の女性には到底振り回せる訳のないこの大剣も、私にとっては身体の一部の様に取り扱う事が出来る。それは、私にとって少なからず気分の良いものであり私が戦闘において高揚感を抱く理由の一つだった。

 

「……ッ…」

「ノワール様、油断は禁物ですよ!」

「油断?まさか、仮にも私と同じ見た目の敵なんだから手を抜く訳ないでしょ!」

 

私の声音から調子に乗っているのではないかと心配したのか、サイバーコネクトツーが忠告をしてくる。それに対し、偽者への攻撃の手を休める事なく返答する私。そう、今の敵は他でもない私の偽者。この状況で手を抜ける訳がないわよね。

二対一という状況であり、イリゼの言っていた通り偽者は私やネプテューヌ達(今のネプテューヌは女神化出来ないけど)に比べると些か劣っている。だから、キラーマシン担当のネプテューヌ達より速く片付けて助けに入ろうと思っていたんだけど……

 

「……!」

「ちっ、ちょこまかと逃げ回って…!」

 

横薙ぎを跳躍する事で回避した偽者の私は、その勢いのまま後方へと跳び距離を開ける。それを見て自分でも分かる位に不満感を露わにする私。

防御する事、回避する事は悪手じゃないし、ましてや恥ずべき事でもないわ。むしろ、防御や回避を蔑ろにする事こそが悪手であって、その点において私の偽者はよく分かっていると言えるわ。攻撃は最大の防御である様に、防御もまた最大の攻撃。えぇ、認めてあげようじゃない。…けど、それはあくまで戦闘の意思があり、防御・回避の先に攻撃がある場合であって、それがない場合は……ただの逃げ腰よ。

 

「…サイバーコネクトツー、まだまだ私は加速出来るわ。貴女はついて来れる?」

「…愚問ですよ、ノワール様」

「ふふっ、頼りになる返事ね。なら…畳み掛けるわよッ!」

 

隣からの力強い返事に笑みを浮かべ、距離を取った偽者の私へ再度接近をかける私。迎撃の為に繰り出された大剣を正面から打ち払い、偽者が次の行動を起こす余裕を与えずにサマーソルトキックを放つ。対する偽者の私は咄嗟に腕を交差させる事で私の攻撃を凌ぐけど…私『達』の攻撃がこれだけで終わる筈がない。

 

「後ろがガラ空きだよッ!」

「ク……ッ!」

「良いタイミングよサイバーコネクトツー!」

 

一瞬の攻防の間に偽者の後ろへと回り込んだサイバーコネクトツーが、二振りある自身の短剣で十字に斬りかかる。惜しくもその攻撃は偽者の私が翼を広げ飛翔した事で空振りに終わるも私達は落胆しない。今のは偽者に大きなプレッシャーを与える事には十分なっていた筈だし、そもそも今の攻撃の狙いはダメージを与える事ではなく、偽者の私を空中へと舞い上がらせる事だったのだから。

 

「さっきは縦横無尽に動いたけど、やっぱりコンテナがあると十分には動けないのよね。貴女もそう思うでしょ?」

「…………」

「相変わらず殆ど喋らないのね…いいわ。だったら、言葉じゃなくて直接貴女の身体に教えてあげるからッ!」

 

床を蹴り、偽者を追う様に飛翔する私。天井も壁もある以上野外に比べればやはり動きに制限がかかるけど、それでもコンテナが邪魔にならない分機動の幅は大きく広がる。それは、私にとって大きなアドバンテージだった。

下方からの一閃。即座に離れて側面へ回り、続きの一閃。その勢いのまま螺旋を描いて上昇し、真上から叩き込むかの様な一閃。正に怒涛と言える程の急加減速と旋回、上昇下降を複雑に織り交ぜた空中連撃に偽者の私は対応しきれず防戦一方となる。勿論、空中に上がる前から偽者の私は防戦中心であり、先程までと極端に動きが変わった訳ではない。けど、自ら選んで防戦を行うのと選択肢がなく防戦をせざるを得ないのとでは天と地程の差があった。

連撃に次ぐ連撃は次第に偽者の私の体勢を崩していき、遂には私の肉薄を完全に許してしまう程となる。ニィ、と口元に笑いを浮かべる私と目を見開く偽者の私。次の瞬間には私の回し蹴りを受けた偽者の私が床へと落下する。

やっと生まれた一気に押し切るチャンス。しかし、そのチャンスは奇しくももう一つの戦いによって生じた強烈な光にやって阻まれる。

 

「び、ビーム!?」

「やっぱあいつも装備してたのね…射線上に入っていなくて良かったわ…」

 

自分達へ向かってきた訳ではないものの、強烈な光を放つものが目視出来る範囲に現れれば否が応でも気を取られてしまう。そして、私とサイバーコネクトツーがもう一度仕掛けようとした所でコンパとアイエフの只ならぬ声が倉庫に響く。……ったく、何下手打ってるのよネプテューヌ…。

 

「サイバーコネクトツー、この流れが切れないうちにもう一度ダメージを与えるわよ」

「え…の、ノワール様……?」

「何ぼさっとしてるのよ、今は戦闘中よ?」

「……っ…何言ってるんですか…ネプテューヌさんがやられちゃったんですよ!?ノワール様は何も感じないんですか!?」

 

信じられないものを見るかの様な目で私を見るサイバーコネクトツー。彼女の言いたい事は分かる。状況と、コンパとアイエフの絶叫を聞けば誰だってこう思う。『ネプテューヌはキラーマシンのビームにやられて死んでしまった』と。…と、そこまで私は考えた所でため息を吐き、偽者の私を視界に捉えながら言葉を発する。

 

「…まさか、ほんとにネプテューヌがやられたと思ってるの?」

「え……?…それは…」

「ネプテューヌは破天荒で無茶苦茶で常識無視のどうしようもない子よ。でも、ネプテューヌ程強い信念を、諦めない精神を持っている奴なんてそうそういないわ。だから安心しなさい--------」

 

私は知っている。ネプテューヌの良い所も、悪い所も、強い所も、駄目な所も。だから確信を持って言える。自信を持って断言出来る。ネプテューヌは……

 

 

「--------こんな所で、やられる訳がないわ」

 

その瞬間、サイバーコネクトツーとコンパ、アイエフが死んでしまったと思っていた相手が、私が生きている事を何の疑いもなく信じていた相手が--------ネプテューヌが、空中に姿を現し、キラーマシンのメインカメラへ太刀を突き刺しながら同機の上へと降り立つ。その姿に歓喜するコンパとアイエフ。安堵のため息を漏らすサイバーコネクトツー。そして私は……自分でも気付かぬうちに、とても楽しげな笑顔を浮かべていた。




今回のパロディ解説

・「当たらなければどうと言う事はない〜〜」
機動戦士ガンダムに登場するライバルキャラ、シャア・アズナブルの名台詞の一つ。これは当然といえば当然ですが、実力者でなければ成り立たせられない事柄ですね。

・「〜〜不可能を可能にする女〜〜」
機動戦士ガンダムSEEDのメインキャラ、ムウ・ラ・フラガまたはリトルバスターズのメインキャラ、井ノ原真人の名台詞のパロディ。どちらもそのキャラらしい台詞ですね。

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