超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth1 Origins Alternative   作:シモツキ

67 / 108
第六十一話 恋色模様は複雑怪奇

偽者のベールと偽者が用意したモンスターを倒してから数十分後。わたし達は目的を達成したという事で教会に戻ってゆっくりと休息を……取っていなかった。普通にまだダンジョン内にいた。

 

「奴は、ベールはどこだぁ!出て来い偽ベール!出ないと傷…はないから多分何かが…疼くだろうがぁっ!」

「そんな言い方されて出てくる人なんていませんわよ…」

 

プラネテューヌに現れた偽者のわたしは一人じゃなかったんだから、偽者のベールも一人だけとは限らない。偽者とモンスターを倒した後にあいちゃんが言った言葉によってわたし達は再度偽者のベール探しをする事になっていた。…いや、あいちゃんの言う通りだし後々後悔するのも嫌だから探す事自体は嫌じゃないけどさ…前回の終わり方的に今回はゆっくり休めるかな〜と思ってた所にこれだから、ふざけてないとテンション下がっちゃうんだよねぇ…。

 

「全然見つからないですね…」

「うーん、じゃあここは一つ餌で釣ってみる?」

『餌?』

「うん、あいちゃんかネトゲを目に付きやすい所に配置しておけば偽者のベールがふらふら〜っと来そうでしょ?」

「色々言いたい事はあるけど取り敢えず…何私を餌にしようとしてんのよ!」

 

予想通りわたしに突っ込みをいれてくるあいちゃん。確かにあいちゃんを餌として上げたのは冗談だけど…相手が相手なだけに、ほんとに餌として機能しそうでもあるよねぇ…。

 

「あはは、ごめんごめん。けど真面目な話探し回るんじゃ大変じゃない?偽者のベールが複数いるとも限らないし」

「…割とまともな事言うわね…でも探せる時に探しておいて損はないでしょ?」

「えーっと…ちょっと思った事があるんだけど、良いかな…?」

「鉄拳ちゃんどったの?」

「うん、多分だけど近くに偽者のベールさんがいたならさっきの戦闘の音を聞きつけてこっちに加勢してたんじゃないかな…」

『あ……』

 

鉄拳ちゃんの言葉にはっとするわたし達。さっきの戦闘は別にサイレント仕様だった訳じゃないし、特に最後のベールの一撃は遠くからでも分かる位強烈なものだったんだから近くにいるなら気付かない筈がない。なのに現れないという事はつまり……

 

「じゃあ、ここに偽者のベールさんは居ないって事です?」

「そういう事。あくまでわたしの予想何だけどね」

「何か意図があって身を隠している偽者がいる、という可能性もなきにしもあらずではありますけど…それを言い出したらきりがありませんものね」

「となると再度…というか少し時間を置いてから情報収集し直す方が良さそうね」

 

鉄拳ちゃんの一言で探索を打ち切る方向に急転換、これぞまさに逆転の一手だね。…え、違う?…まぁいいや。

目的だった偽者のベールは倒し、新たな目的である他の偽者探しも一旦終了という事で、ここにいる理由がなくなったわたし達は今度こそ教会へと戻る事となる。ふぅ、今回は殆ど雑魚しか相手してないけどその前後で結構歩き回ったし、教会に戻ったら甘いもの食べたいなぁ〜。

 

 

 

 

女神というのは人々から慕われ、尊敬される存在であり、同時にそれは女神が女神である為に必要不可欠な要素。故にどんな形であれ信仰されるのは女神にとってありがたく、信仰してくれる人達は出来る限り大切にすべきではあるんですけど…

 

「貴様等…グリーンハート様を何だと思っておるのだ!」

「落ち着いてくれ給えご老体。我々はベール様を軽んじるつもりなど毛頭ない、いやあの様な豊満な胸をお持ちの女性を軽んじられるものか」

「そう、僕達にとって胸のある女性とはそれ即ち僕等の主君。自分で言う事ではないけど僕達程ベール様を敬っている人はそうそういないだろうね」

「つまりはどちらも胸目的だと言う事じゃろうがっ!」

 

一体何がどうしたのか、わたくし達が教会へと戻るとイヴォワールと兄弟が言い争いしていましたわ。しかも聞く限りでは言い争いの論点はわたくしの模様。…何だか頭が痛くなりそうな気がしますわ…。

 

「えーっと…ベール、何か争ってるみたいだけど止めなくていいの?」

「わたくしには見えませんし聞こえませんわ。それよりもわたくしの部屋でティータイムとしようじゃありませんの」

「うんそれさらっとあの言い争いから目を背けてるよね?物理的にも比喩的にも」

 

と、極力気にしない様にしているわたくしにその事について振ってくるのはネプテューヌ。おかげでノータッチでやり過ごす事も出来ず、話題を振られた事で否が応にも言い争いの内容が聞こえてきてしまう。

 

「だってあれはどう考えても関わったら面倒な雰囲気ですもの…」

「それについてはかなり同感だけどさ、ほっといたらほっといたで面倒な事になりそうじゃない?」

「私もそう思いますよベール様。何かもう今の時点で両者言い争いの中でベール様を褒めちぎってますし」

「色んな意味で物凄く恥ずかしいのでそれは言わないで下さいまし…」

 

多かれ少なかれつい自画自賛をしてしまうわたくしやネプテューヌ達女神でも、あからさまに誉めまくられたら気恥ずかしさを禁じ得ない。しかもそれが時折見当外れな賞賛になっているとなれば尚更である。

 

「ベールさん、ここは女神様としてバシッと言ってくるです」

「…何をですの…?」

「それは…えーっと……」

「いやそこは考えてから言わないと駄目でしょコンパ…」

「それはともかく…ベールさん、スルーにしても関わるにしても早く決めた方が良いんじゃないかな?ここにいてもどんどん恥ずかしくなるだけだと思うし」

「そうですわね…はぁ、うちの者にも困ったものですわ…」

 

ため息を吐きつつ渦中の三人の方へ向かうわたくし。この場限りで考えればスルーしたい所ですけど…これが元となって変な噂が流れるのも嫌ですし、何より教会に師事するもの(一方は微妙な立ち位置ですけど)の争いを女神が見過ごすというのもあまり良くありませんものね。苦渋の決断、というものですわ。

 

「一般人も来る教会の大広間で何を騒いでいるんですの貴方達は…」

「む…グリーンハート様、お帰りでしたか」

「という事は、もしや我等といたもう一方のベール様は…」

「倒したに決まっていますわ。貴方達の見解はどうあれ、偽者である事に変わりはありませんもの」

 

兄弟の兄の言葉に淡々と言葉を返すと、それに愕然とする兄弟。…ほんとにこの二人は何なんですの…彼等の思考回路は胸を中心に回っているとでも言うんですの…?

 

「嗚呼…ならせめて、もう一方のベール様のご冥福を祈ろう…」

「だから偽者だと言っているでしょうに…」

「全くですな。グリーンハート様は唯一無二であるからこそ意味があるのじゃ。ただ多ければ、大きければという問題ではないわ」

「そういう事ですわ。流石にイヴォワールは分かってますのね」

「当然でございます。もしグリーンハート様が増えようものなら…余計仕事が増してしまうであろうが……」

「い、イヴォワール…?」

 

何か今、イヴォワールの本音らしきものが垣間見えた気がした。…き、気のせいですわよね。一瞬厄介な部下に困り果てる老人の様な顔をしていたとかわたくしの目の錯覚ですわよね、えぇ。

 

「…こほん、とにかくくだらない言い争いは止める事、宜しくて?」

「そうですな…以後気をつけるとしますぞ」

「お言葉ですがベール様、これは我々にとってくだらない事では…」

「よ・ろ・し・く・て・?」

『……はい』

 

イヴォワールはすんなりと、兄弟は渋々とという違いこそあったものの、何とか双方の矛を収めさせる事に成功。イヴォワールに偽者のわたくしについての情報収集を続行する様指示を出し、あいちゃん達の元へ戻る。

 

「お疲れ様です、ベール様」

「やー、中々良い仲裁だったんじゃない?わたしとしてはもうちょい波乱がある事を期待してたんだけどさ」

「なら自分で争いを探しにいけば良いじゃありませんの、その間わたくし達はスイーツでも食べているとしますけどね」

「じょ、冗談だよベール。わたしもそっちの方が良いなー…」

「ネプテューヌさんって時々自分のボケで自分の首絞めちゃうよね…」

 

と、言う訳で何だか戦闘とは違う意味で披露したわたくしは休息と糖分を求めて自室へと向かうのだった…。

 

 

 

 

「さぁ、遂に…遂にこの時間がやってきましたわ!」

 

あれから数時間後、良い子ならもう寝る時間にわたくしの部屋に響く一つの声。無論声の主はわたくしですわ。

 

「て、テンション高いですねベール様…」

「ふふっ、わたくしはあいちゃんが側にいるとテンションにブーストがかかるんですのよ?」

「そ、そうですか…ところでベール様、一つ質問良いですか?」

「えぇ、何ですの?」

「教会に戻って以降ロクに偽者探しをしてませんけど良いんですか?」

 

一体どんな質問をしてくれるのかと内心わくわくしていたわたくしの心とは裏腹に、あいちゃんがしてきたのは真面目な質問だった。…まぁ、真面目なあいちゃんも好きなので問題ないのですけどね。

 

「あいちゃん…せっかくわたくしと二人きりなのにそんな質問とは…わたくしと偽者のわたくし、どっちが大切なんですの!?」

「えぇ!?な、何でそんな事になるんですか!?」

「冗談ですわ。で、探さなくて良いのかと言われればまぁ良くはありませんけど…こういう場合情報を受け付ける場を作って後は入ってくるのを待つだけで良いのですわ。あいちゃんならばその理由は分かるのではなくて?」

「……探し回るだけで見つかるならもう情報がきている。そして向こうが女神を陥れる事が目的ならいつかは確実に動くから結局情報が入る…って感じですか?」

「流石あいちゃん、ばっちりですわ」

 

過不足ない、正に我が意を得たりの答えをして下さるあいちゃん。やはり自分の思っている事がきちんと相手に伝わっているというのは気分が良いですわね。しかもその内容が単純な事ではないとなれば尚更ですわ。さて、そんなあいちゃんにはご褒美に……

 

「〜〜♪」

「あ、あのベール様…なにを…?」

「ご褒美になでなでをしているんですわ」

「そ、そうではなく…というかベール様の方が楽しんでいるんじゃ…」

「可愛いあいちゃんを撫でているんですもの、楽しいに決まっていますわ」

「か、可愛いなんて…あぅ……」

 

撫でているうちにほんのりと頬を染めるあいちゃん。このノワール程ではないツンデレがあいちゃんの元々のクールさと相まって何とも言えない可愛さに…あぁもうたまりませんわ……。

…あ、因みに五人で一つの部屋に寝るのは流石にちょっと狭いという事でネプテューヌ、コンパさん、鉄拳ちゃんは隣の部屋にいますわ。…えぇ、勿論人の割り振りはわたくしの意見でしてよ。

 

「さてそれではあいちゃん、ゆっくりと夜を楽しもうじゃありませんの」

「よ、夜を楽しむ…ですか…?」

「えぇ、あんな事やこんな事を…ふふっ、例えば……」

 

あいちゃんの頭を撫でていた手の腹を離し、指は側頭部から頬、そして顎の裏へと滑らせる。そのまま指先であいちゃんの顔をあげさせ、同時に顔を近付ける。その一連の動作は自分でも賞賛出来る程優美で妖しいものであった。

わたくしの指が伝い、顔が近付いた事で一層顔を赤らめるあいちゃん。互いの吐息が頬を撫で、今までとは何か違う雰囲気がわたくし達を包み込む。薄い笑いを浮かべるわたくし。目を潤ませるあいちゃん。そして……

 

「……スマブラ、とかですわ」

「…………」

「…あら?…あいちゃん?」

「……って、スマブラかいッ!」

「いや反応遅過ぎですわ!」

 

…まぁ、この有様ですわ。わたくしは妙に溜め過ぎて、あいちゃんはあいちゃんで雰囲気に飲まれて反応が遅れてこの有様ですわ。しかもあいちゃん敬語が抜けてましたわね…そこまで飲まれるとは予想外でしたわよ…。

 

「…何か、すいません……」

「いえ、良いんですのよ…ネプテューヌの様に上手くはいきませんわね…」

「ねぷ子はボケの申し子ですからね…」

 

またも変に疲れてしまったわたくしと、このやり取りでわたくし以上に疲れてしまった様子のあいちゃんが揃って脱力しつつ、苦笑を浮かべる。…因みにこの時隣の部屋からくしゃみの様な音が聞こえてきた。……まぁ、ネプテューヌでしょうね。

 

「さてと、それじゃどうします?」

「どうって…スマブラですか?」

「別にそれ以外でも良いですわよ?どうもわたくしをネトゲとBLゲーにしか興味がない女性だと勘違いしている方がいるみたいですけど、普通にそれ以外のゲームもしますもの」

「えーっと…じゃ、特にこれをやりたい、というのもありませんしスマブラで」

「…あ、一応言っておきますけどこれスマイルブランちゃんの略称じゃありませんわよ?」

「そりゃそうですよ…誰が間違えるんですかそれ…」

 

気の抜けた雑談をしつつゲームを用意していくわたくし。…自分で言っておいて何ですけど、スマイルブランちゃんって物凄く違和感を感じる言葉ですわね…。

そして数分後、何はともあれ準備が出来た所で…

 

「それじゃ、電源を--------」

「ちょっとお待ちになって下さいましお姉様!」

 

…何故かチカがバーン!と扉を開けて部屋の中へと入ってきた。あいちゃんはその突然の出来事に、わたくしはそれに加えて普段チカがやらない様な無作法な方法で入ってきた事に二重に驚く。

 

「な、何ですのチカ…」

「それはこっちの台詞ですわ!何なんですのさっきの妖艶な雰囲気は!」

『見てた(の・んですの)!?』

「いいえ、外に雰囲気が漏れてましたわ」

『漏れてた!?』

 

衝撃の事実に再度驚かされるわたくしとあいちゃん。確かにゲイムギョウ界は何でもありな風潮がありますけど、まさか雰囲気が漏れるなんて事態があるとは…防音ならぬ某雰囲気設備が必要ですわね…。

 

「…酷いですわお姉様。今までは実の姉の様にアタクシを気にかけて、愛でていてくれたというのに…」

「え、いや確かに貴女を気にかけてはいましたけど愛でていたつもりは…」

「それで、貴女も貴女よ!今日も旅の間もずっとお姉様と一緒にいたくせにまだお姉様を独占するつもりなの!?」

「ど、独占!?朝も思ったけどちょっと私の事誤解してない!?」

 

情緒を軽く心配する位わたくしとあいちゃんで態度が違うチカ及びチカの発言に再々度面食らうわたくしとあいちゃん。登場以降チカはずっとぶっ飛んでいた。…普段のわたくしなら身体の弱いチカがここまで元気(?)なのに少なからず安心していたかもしれませんけど…この状況では安心とかしていられませんわね…。

 

「全く…頑張ってお姉様の偽者の状況を探している間にお二人がこれじゃやってられないわよ…」

「えぇと…つまりチカは何を言いたいんですの…?」

「そんなの…アタクシの口から言わせないで下さいまし!」

「えぇー……」

 

些か以上に理不尽な要求に辟易とするわたくし。ラブコメでたまに見るこの系統の台詞をわたくしが言われる日が来るとは…。

 

「…ちょっと、それは一方的過ぎるんじゃない?気持ちは…まぁ分かるけど…」

「一方的にお姉様を掻っ攫っていった貴女に言われたくはないわ」

「だから私の事誤解してるわよね!?か、掻っ攫ったって…私は貴女の中でどんなキャラになってるのよ!?」

 

…辟易としている間に何故かあいちゃんとチカが言い争いを始めていた。しかもやはり内容はわたくし関連。どうして日に二度も同じ展開になるんですの…。

…なんて嘆いていても仕方ありませんわね。それにイヴォワールと兄弟ならともかく、大好きなあいちゃんと可愛いチカの言い争いとなればほおっておく訳にもいきませんし、ここはわたくしが率先して止めるとしましょう。

 

「あいちゃん、チカ、喧嘩はいけませんわ。まずはお互い一旦深呼吸を…」

『ある意味この言い争いの原因である(ベール様・お姉様)がそれ言います(の)!?』

「わたくしが原因なんですの!?」

「…いや、この際むしろアタクシ達ではなくお姉様に直接決めてもらうべきですわね。お姉様、アタクシとアイエフ、どっちがお姉様の一番なんですの!?」

「ちょっ、そういう問題じゃないでしょうが!?…わ、私ですよねベール様…?」

「え、えぇーっと…その……」

 

妙に凄い剣幕で見てくるチカと、興味無い様な顔しつつちらちらと見てくるあいちゃん。そして、二人に挟まれる形となるわたくし。これは…まさかの修羅場的展開ですわ!

ふふっ、わたくしも罪な女ですわね…。

…なんて喜んでいられる訳ないでしょうが!

 

「お姉様!」

「べ、ベール様!」

「うぅぅ…だ、誰か助けて下さいまし……」

 

楽しい夜になる筈が一転、追い詰められる夜となったわたくしだった……。昨日のネプテューヌ同様助けを求めたのは、偶然か否か…は、どうでもいいのでほんと誰かこれを乗り切る手段をご教授して下さいまし……。




今回のパロディ解説

・「奴は〜〜疼くだろうがぁっ!」
機動戦士ガンダムSEEDの敵メインキャラの一人、イザーク・ジュールの印象深い台詞の一つ。勿論別にネプテューヌは偽ベールに傷付けられた事なんてないですよ。

・スマブラ
大乱闘スマッシュブラザーズシリーズの事。ベールとアイエフでスマブラやったらどうなるんでしょうね?まぁ両方熱くなるんだろうなぁ、とは思いますけど…。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。