超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth1 Origins Alternative   作:シモツキ

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第五十一話 大事な居場所

--------それは、暖かく優しい光だった。絶望の淵に落ち、全てを投げ出しそうになっていた私を救い上げ、癒す様に包み込んでくれた一筋の光。そしてその光は照らしてくれた。自分を見失い、暗がりへと目を向けていた私には見えていなかった私の居場所を。

『自分は自分』『君は君だ』そんな言葉がある。一見すれば中身のない、ただただ綺麗なだけの陳腐な言葉にも見えるそれは、本当は真理でありそれを一言で表している言葉なのだ。例えどんな経緯があっても、或いは何も経緯が無かったとしても自分は自分であり、他人になる事はない。他人に近付く事は出来る。他人を演じる事も出来る。だが、それもやはり近付いている『自分』や演じている『自分』であって、いつ如何なる時も自分である事が変わったりなどする訳がないのだ。だから、何を知ろうと、何も無かろうと、何かの代わりであろうと、絶望する必要はない。そんな事では自分という存在が揺らぐ事などなく、存在し続ける限りは周りへ影響を与え、周りから影響を受け、確固たる一人であり続けるのだから。

--------やっと、私は歩み出せる。記憶と過去を求めて彷徨う『誰か』ではなく、原初の女神に世界の守護の為生み出された『複製体』でもなく、ただ一人の『イリゼ』として。

 

 

 

 

「たっだいまー!」

「ご迷惑をおかけしましたっ!」

 

コンパのアパートの玄関に響く二つの声。夜だというのにテンション高い方はネプテューヌで、開口一番謝ってるのは私だった。……何このコンビ…。

 

「まさかねぷ子が見つけてくるとは…やるわねねぷ子」

「イリゼちゃんお帰りなさいです。何も言わずこんな夜まで出かけちゃ駄目ですよ?」

「あ、うん…ほんとごめんね、騒がせちゃって…」

「全く…反省してる様だから良いけど、今後はない様にしなさいよ?」

 

ネプテューヌ(と、捜索対象だった私)が一番戻るのが遅かったらしく、アパート内にはパーティーメンバー全員がいた。まぁ、ダンジョンにまで足を運んだネプテューヌが一番時間かかるのは当然だよね。

 

「ねぇネプちゃん、イリゼちゃんは何処にいたの?」

「んとね、魔窟の…何て言うんだろ、隠しエリア?的な所だよ」

「あぁ、私達がイリゼと初めて会った…というか発見したあそこね」

「隠しダンジョンと言い隠しエリアと言い魔窟は裏要素多いのね…」

「……あの、イリゼ様…(u_u)」

 

私を発見するまでの経緯と発見した場所について話し始める私達。…と、そこでおずおずとイストワールさんが私に声をかけてきた。…まるで、上司に謝罪をしに来たかの様に。

 

「…イストワールさん、私にきちんと真実を伝えて下さってありがとうございました」

「……っ…!…怒っては、いないんですか…?」

「勿論ですよ。イストワールさんは私の頼みを叶えただけです、非なんてありませんよ」

「…ありがとうございます、イリゼ様…」

 

私の言葉を聞いたイストワールさんは最初ハッとした様な顔をした後、どこか安心した様な表情を浮かべていた。怒られずに済んで安心しているのか、私が元気を取り戻して安心しているのか…確証はないけど、きっと後者だよね、イストワールさん。

 

「…先程から気になっていたんだけど、イストワールってイリゼを様付けしてたっけ?」

「それに昨日までに比べ敬っている様に見えますわね」

「…あれ、イストワールさんは私の事話してないんですか?」

「あ、はい…勝手に話すのはイリゼ様に悪いかと思いまして…(´Д` )」

「それは…そう、ですね。私自身もまだ知って一日経ってませんし」

 

ノワールとベールから私への態度の差異…平たく言えば私だけ扱いが違う事を指摘されるイストワールさん。それについては私も思う所があったし、何より私の正体についてはきちんと皆に知っていてほしいという思いもあったので私は口を開く。

 

「…えと、さ…少し皆に話しておきたい事があるんだけど…良いかな?」

「ふむ、流れからして…記憶の事なのだろう?」

「そう、私の記憶と過去の事。…どこから話せば良いかな…」

「第四十八話と第四十九話読めば良いんじゃない?」

「言うと思ったよ話数ネタ!久しぶりだね!…全くもう、ネプテューヌったら……」

 

いきなり話の腰を折られて辟易とする私。…けど、次の瞬間私はネプテューヌの表情がいつもと少し違う事…普段ボケた時の愉快そうな様子の中に、ほんのりと私を気遣う様なものが含まれていた事に気付く。…そっか、ネプテューヌは私が気負いしない様わざとボケてくれたんだ…ありがとね、ネプテューヌ。

 

「…何で貴女はちょっと嬉しそうな顔してネプテューヌ見つめてるのよ」

「へ?あ…こ、こほん…ええと、まず私の記憶の事なんだけど…」

 

そうして私は話し始める。記憶がそもそも無かった事、自分が原初の女神の複製体である事、その事で精神的に追い詰められて今日の騒動を起こしてしまった事を。また、説明の中で私より色々と知っているイストワールさんが、オデッセフィアの事を中心に適宜補足を入れてくれた。

きちんと説明出来ていたかどうかは分からない。私にとっては人生初の身の上話であり、その身の上も経験や思い出としてではなく、知識として『覚えた』に過ぎない。だから私は終始知り合いの身の上話をしている様な感覚だった。

そして、数十分後……

 

「……で、何百年何千年と眠っていた私をネプテューヌ達が起こして私の…人生?…が、始まったんだよ。…こんなものかな、イストワールさん」

「良いと思います、歴史学ならともかくイリゼ様の身の上話というならそれで十分ですよ( ̄^ ̄)ゞ」

 

話し終えた私はふぅ、とため息を漏らす。緊張していたのもあったけど、それ以上に長時間喋ると言うのは意外と疲れるものだった。…そう考えると、話す事が仕事である教職員の人や芸能人の人ってやっぱり凄いなぁ。

 

「むむ、魔窟の奥でイリゼを見つけた時もそれっぽい事言ってたけど…まさかイリゼの正体が原初の精霊だったなんて…」

「いや原初の『女神』だから、それだと紀元前じゃなくて三十年前になっちゃうから…後私は複製体の方だし…」

「…原初の女神、か…何か琴線に触れる響きだ…」

「気が合うわねMAGES.、私も同じ事思っていたわ」

「あそう、それは良かったね…」

 

MAGES.とアイエフがちょっと目を輝かせていた。想定済みだったネプテューヌのボケはともかく、そんな厨二心をくすぐられた何ていう感想を言われてもどう反応したら良いか分からない。

 

「貴女はわたし達と同じかわたし達以上に特異な存在なのかもしれないと思っていたとはいえ…流石にこれは予想外だったわ。女神が女神を生み出すなんて…」

「予想外だったのは私もだよ。こう、何ていうのかな…瓢箪から駒どころかペガシス105Fが出てきた感じ?」

「例えがアレなのはともかく驚きはよく伝わってきましたわ…」

「イリゼ様自身も何も知らない状態でしたからね。驚くのも無理はありません(-_-)」

 

やっぱり皆も私が普通の人間では無いどころかかなり特殊な存在なんだろうと思っていたらしく、ブランの言葉に何人かがうんうんと頷いていた。

 

「それにしても凄いね、原初の女神様って。ネプちゃん達も同じ事出来る?」

「そりゃー勿論……流石に主人公補正があっても無理かなぁ…」

「話聞く限りじゃ文字通り人知を超えているものね。…にしても、一人でゲイムギョウ界を守るなんてどんだけ強かったのよ原初の女神」

「そうですね…今のネプテューヌさん達が四人がかりで…あ、ネプテューヌさんも女神化出来るとしますよ?…戦っても完敗すると思います( ̄ー ̄)」

『え……』

 

さらっとかなり凄い事を言ってのけるイストワールさん。それを聞いた皆…特に女神の四人は目をぱちくりとさせる。まぁそりゃ女神四人で完敗って言われちゃ驚くよね…。

 

「…原初の女神は初見殺しとかですの?」

「いえ、初見殺しの技もあるとは思いますけど、それを抜きにしても完敗するでしょう( ̄▽ ̄)」

「原初の女神さん凄過ぎですぅ…」

「そんなに強いなら今のマジェコンヌも倒せるんじゃ…」

「贔屓目無しに勝てると思いますよ?(・・?)」

『…………』

 

速報、私の創造主さんは手のつけられないレベルとなった敵ボスすら普通に勝てる強さだった。…うん、何とも言えない気持ちになるよね。そりゃ生い立ちと使命的にはそれ位の強さが無きゃ駄目なんだろうけどさ…。

 

「…あれ?そう言えばイリゼってそんな強かったっけ?わたし達と同じ位だったよね?」

「確かにイリゼは今聞いた原初の女神と同格の力を有している様には見えませんわね…あ、別に貶している訳ではありませんわよ?貴女の力が弱いと言おうものなら壮絶なブーメランになってしまいますしね」

「それは私も気になってたり…イストワールさん、これにも何か理由があるんですか?」

「ありますよ。何千何億の人に究極の救世主として望まれたイリゼ様と、そのイリゼ様一人が守護者として望んだもう一人のイリゼ様では力に大きな開きが生まれてしまうんです。それに、シェア率100%故に底知れない量のシェアエナジーを有していたイリゼ様と違い、ここにいるイリゼ様はイリゼ様の残したシェアエナジーでやりくりしてる様なものですからね(。-_-。)」

「え…っと、つまりどゆ事?」

「皆さんの知るイリゼ様はラケルタビームサーベルとピクウス以外の全武装を封印し、PS装甲にかける電圧を落としてバッテリー駆動式に変えたフリーダムの様なものです(・ω・)」

 

二人の私を区別せず『イリゼ様』と呼んでいた事を始めとして若干難しかったイストワールさんの説明。それが珍しくパロディを織り交ぜた事で格段に分かり易くなっていた。…いや、元ネタが分からなきゃ分かり易いも何も無いけどさ…。

 

「残したシェアでやりくり…だからイリゼは女神としての認知度が無くても女神化出来たのね」

「ちょっと羨ましいですわ…」

「女神として羨むのはどうなのベール…」

「あ、じゃあわたしは?わたしもシェア率とか考えず生活してるけど力奪われるまでは問題無く女神化出来てたよ?」

「ネプテューヌは記憶喪失になる前のシェアでやりくりしてるんでしょ、イリゼと違って現守護女神なんだから信仰者がいる限りはシェアエナジーの配給はされる訳だし」

 

皆に私について話す事で新たに自分自身の力について知らされる。自分一人ならまず疑問として思い付かなかったであろう事実や事象。偶然にもそれに気付く事が出来た私だった。

 

「っと、そう言えば皆に伝えておかなきゃいけない事があったんだっけ」

「伝えておかなきゃいけない事?まだイリゼちゃんの事で何かあるの?」

「ううん、私の記憶や過去とは無関係。関係あるとすればそれはネプテューヌかな?」

「え、わたし?」

「うん。私は数時間前、女神化したネプテューヌと会って一戦交えた。…それが何を意味してるか分かる?」

 

私の言葉に部屋の雰囲気が一変する。勿論この中に実はネプテューヌが力を保持したままで、私を奇襲したと考えている人はいない。その上でこのピリッとした雰囲気が部屋の中を包んでいるという事はつまり、皆も私と同様の考えに至っていたという事だった。

 

「イリゼ、その偽物のネプテューヌはどれ位の強さだったの?」

「そうだね…私も冷静じゃなかったから正確には分からないけど、女神化したネプテューヌより数段は劣っていたかな。流石にそこらのモンスターよりはよっぽど強いけど」

「ふむ…となるとマジェコンヌがネプテューヌに変身していた訳ではない様ですわね」

「でもマジェコンヌ以外に女神の偽物を作るなんて芸当が出来る奴がいるかしら?」

 

ブラン、ベール、ノワールを中心に偽ネプテューヌの正体についての推理が始まる。…が、それは数分で詰まってしまう。何故なら…

 

「女神化したねぷ子よりやや弱い、ってだけじゃ情報が少な過ぎるわね…マジェコンヌの仕業だって考えればそれっぽくはなるけど」

「そうだね、ネプちゃんの偽物に悪事を働かせてシェア率を落とせばその分ユニミテス信仰者が増える可能性あるし」

「とはいえ、確固たる証拠がない以上安易に結論付けるのは賢い選択とは言えないな」

「何れにせよ調査が必要ですね。いつまた現れるか分かりませんし、皆さんも気を付けて下さいね(>_<)」

 

と、言う事で偽ネプテューヌの件は取り敢えず保留となる。先入観は視野を狭めちゃうし急いては事を仕損ずる、という言葉もある以上保留がベターな選択だよね。

 

「さてと…じゃあ私の話はこんな所、かな。皆だいたい分かってくれた?」

「色々と興味深い話が聞けた、感謝するぞイリゼよ」

「ありがと、じゃあこの話はこんな所でお開きに…」

「イリゼちゃん、わたし達に話してくれてありがとうございますです」

「ちゃんと話してくれて良かったし安心したわ」

「…え……?」

 

良い頃合いかな、と思って話を閉めようとした所で私に意外な言葉を送ってくれるコンパとアイエフ。更にそれに目を瞬かせる私に対し、皆は優しく微笑んでくれている。そして、極めつけのネプテューヌの言葉。

 

「ね、言った通りだったでしょ?イリゼはわたし達の大事な友達だって」

「……っ…!」

「だからこれからもイリゼは自信を持って…って、ちょ…な、何で泣くのイリゼ!?」

「え、あ、あれ…?何でだろ……」

「何イリゼ泣かせてるのよネプテューヌ」

「イリゼちゃん、大丈夫ですか?」

 

今日何度目か分からない涙が私の頬を伝う。…けど、今は辛い訳でも苦しい訳でもなく、むしろ心が温かくなる様な…そんな気持ちだった。受け入れてくれるかどうか不安だった私を、何の気兼ねもなく受け入れてくれた皆への感謝でいっぱいだった。だから、これはきっと…

 

「ごめんね…ぐすっ…でも、これは…嬉し涙だから…」

『友達泣かせるなんて、サイテー』

「まさかの完全アウェー!?いやこれわたしが最後の一押ししただけで涙の原因は皆にもあるよね!?っていうかそもそも嬉し涙だから悪くないよね!?」

「ふふっ…ネプテューヌ、サイテー」

「イリゼまで乗るの!?うぅぅ…不幸だぁぁぁぁぁぁ!」

 

私達の理不尽な悪ノリに嘆きの叫びを上げるネプテューヌ。狙った通りの展開になった事でくすくすと笑いを漏らす私達。

温かくて優しい皆のいる場所。いつの間にか手に入れていて、それが普通になっていたからこそ気付けなかった、大事な世界。それが、私の目の前に広がっていた。誰かが無理している訳でも、仕方なくその場にいる訳でもない、皆が楽しいと…ここに居たいと思える場所が。

私は、やっと気付いた。--------あぁ、ここは私の居場所なんだ、って。




今回のパロディ解説

・原初の精霊
デート・ア・ライブにおける重要な立ち位置の存在。何を隠そう、原初の女神という名はこれの響きの良さに感化されて考えたのです。だから何だという話ですけどね。

・ペガシス105F
メタルファイト ベイブレードに登場するベイであり実在するホビーの事。因みに瓢箪から駒の駒は独楽ではなく馬の事であり、ペガシスは羽の生えた馬…はい、掛けました。

・ラケルタビームサーベル、ピクウス、PS装甲、フリーダム
機動戦士ガンダムSEEDに登場する武装、装甲、機体の事。作中でも言いましたがSEEDを知らないと全然分からない例え話となっています。知らない方、申し訳ありません。

・「〜〜不幸だぁぁぁぁぁぁ!」
とある魔術の禁書目録主人公、上条当麻の口癖(不幸)のパロディ。…ですが、パロディ部分は『締めに不幸と言っている』というだけなので、あまりパロディ感ないですね。

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