超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth1 Origins Alternative   作:シモツキ

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第三十話 策と機械の交わる中で

格納庫内に響き渡る金属音。空を斬る刃の唸り。女神と無人機による攻防は苛烈を極めていた。

 

「そっち行ったよネプテューヌ!」

「挟撃するわよノワール!」

「言われなくてもそのつもりよッ!」

 

既に一機を行動不能にした私達は今までの対キラーマシン戦同様機動力と数的優位を活かした戦術で優勢に立っていた。更に言えば今回は大きければ大きい程行動が制限される屋内戦闘。無論油断ならない相手ではあったけど…十分に勝ち目のある戦いとなっていた。

 

「■■ーー!?」

「この機体はわたしとノワールで一気に倒すわ!その間は……」

「他の機体の迎撃、ですわね?」

「良いぜ、ならさっさとやっちまえ!」

 

流れる様な連携でキラーマシンMK-Ⅲを圧倒するネプテューヌとノワール。そんな二人に横槍を入れさせない為、私、ベール、ブランはわざと大振りな攻撃を他のキラーマシンMK-Ⅲに仕掛け、注意を二人から逸らす。私とネプテューヌが接点となる事でノワールとベール及びブランというまともな連携を取った事の無い組み合わせでも協力を可能としていた。

 

「にしても…私達と正面からやり合えるなんて無茶苦茶な性能だよ…!」

「高出力重装甲とは厄介なものですわね…!」

「けど所詮は厄介止まりだろ?どういう訳だか今回はビームもバリアも使ってこねぇし…なッ!」

 

キラーマシンMK-Ⅲのハンマー…所謂モーニングスターと呼ばれる武器に自身の長刀を打ち合わせて攻撃を阻止、そこから翼を広げ加速する事で一瞬ながらキラーマシンMK-Ⅲを押し切る。

勿論重く出力も高いキラーマシン系にこんな手を使った所で決定的な隙を作る事は出来ない。でも、今はこれで十分だった。何故なら……

 

『これで終わりよッ!』

 

後方から聞こえるネプテューヌとノワールの声と機械の崩れ落ちる音。そしてすぐさま私達に合流する二人。

状況はまた一歩、私達の勝利へと近付いていった。

 

 

 

 

「ふむ…運用に難のあるエネルギー兵装をオミットする事で浮いたリソースを基本性能に回したMK-Ⅲでしたが…女神相手では完全に相手の土俵で戦う事になってしまう訳ですか、少々失策でした」

 

最後のキラーマシンMK-Ⅲが私達の集中攻撃により瓦解したのを見たガナッシュさんは平坦な声音で呟いていた。それはまるで実験結果を見るかの様に。

 

「ふぅ…企業としては腐っていても技術はうちの経済を独占しただけはあるわね、まあまあ良かったわよ?」

「女神様直々に褒めて頂けるとは光栄ですね」

 

ノワールの皮肉混じりの評価に平然と返すガナッシュさん。少なくとも彼の顔に前回キラーマシンを倒した時の様な動揺は…無い。

 

「…ご自慢の兵器がやられたってのに随分と余裕そうだな」

「余裕?まさか、量産出来るとは言っても一機あたりのコストは馬鹿になりませんしこうも場が荒れてしまっては取引も円滑に進みませんからね。困ったものですよ」

「…まさか、まだ隠し玉があるんですか?」

「隠し玉?ふっ…まあ当たらずども遠からず、と言った所ですね」

 

ガナッシュさんが言い終わると同時に何処からか駆動音が響き、突然開かれたシャッターからゆっくりと新たなキラーマシンが姿を現す。

 

「わざわざ最初に展開したキラーマシンMK-Ⅲが全滅した後に出すとは…」

「わざわざ、ではありませんよ?こちらは開発したばかりの最新鋭試作機。本来ならばまだ実戦運用すべき機体では無いのですから」

「ふん、最新鋭試作機だか何だか知らねぇが…」

「たかだか一機で倒せると思わないでよねッ!」

 

言うが早いか地を蹴り一瞬で新型キラーマシンの前後に回り込み同時攻撃をかけるノワールとブラン。決して機動力は高くない新型キラーマシンはその二人の強襲を回避出来る筈も無く、前後から放たれた大剣と戦斧が装甲をしたたかに打ち付け……

 

 

…る事は無く、新型キラーマシンの展開したバリアに阻まれた。

 

『な……ッ!?』

「バリア!?でもあれって前にしか展開出来なかった筈じゃ…!?」

「前面にしか展開出来ない防御機構を新型であるキラーマシンMK-νでもそのままにしておく筈がないじゃないですか。それに、防御機構だけでもありませんよ?」

 

ガナッシュさんの言葉に反応するかの様に胸部装甲を開き、砲身を露出させるキラーマシンMK-ν。…だが、そこから放たれたのは線の攻撃である照射ビームでは無く面の制圧である拡散ビームだった。

直感、或いは多くの経験からなる反射からその攻撃が自身へと及ぶ事を一瞬前に察知したノワールとブランは一気に後退する事で拡散ビームの射程から逃れ、獲物を床に突き立てる事で急ブレーキをかける。

 

「今のを避けますか、やはり女神は侮れませんね」

「全面に展開出来るバリアに拡散ビーム…新型なだけあって厄介ですわね…」

「基本性能重視のMK-Ⅲが量産されてるって事は…あの機体、エネルギー兵装特化って訳でもなさそうだね…」

「でも、所詮は一機よ。全員でかかれば…」

「全員で、ですか…それが出来れば勝ち目はあるでしょうね」

 

にやりと笑うガナッシュさん。人柄はどうであれ、この状況でそんな事を言う理由は一つしかない。それは…

 

「それって…他にもまだ機体があるっていう訳!?」

「あるも何もここは我が社の格納庫。流石にキラーマシンMK-νはこの一機だけですが、量産機や前世代機ならばまだまだあるに決まっているじゃないですか」

「おいおい、冗談じゃねぇぞ…」

「生憎、私は冗談が嫌いでしてね。証拠に今この格納庫にいる全兵器をここに集結させてあげましょう…さぁ、来るのです!」

『……っ!』

 

五人で背を向けあって武器を構える私達。そんな私達の額にはじっとりと汗が浮かぶ。そして、次の瞬間には扉やシャッターが開き次々とアヴニールの兵器が……

 

「…………あれ?」

「……来ない、わね…」

「な……馬鹿なっ!何故来ない!全機何時でも起動出来る様に調整をして--------」

「生憎だが、貴様の援軍は諦めてもらう」

「……!この声…まさか…!?」

 

集結する筈だった兵器の駆動音の代わりに聞こえてきたのは女性の声。ガナッシュさんを含む全員が視線を向けた先にいたのは…魔術師の様な風貌をした少々が立っていた。

 

「久しいな、ネプテューヌにイリゼ。…いや、今はパープルハートと言った方がいいか」

「MAGES.!?どうして貴女がここに!?」

「何、キナ臭くそれでいて物騒な噂を聞いたのでな。少々お節介を焼かせてもらっただけだ」

「ここに兵器が来ないのは貴様が原因か…」

「他に誰がいる、まあ…」

『MAGES.(さん)一人じゃない(です)けどね!』

 

MAGES.の後ろから現れたのはコンパとアイエフ。…え、あれ?二人はいつの間にこの場を離れていた訳…?

 

「悪いがそこのガラクタ以外はこの狂気の魔術師MAGES.と勇猛なる二人によって破壊させてもらった!」

「馬鹿な…あり得ん!多少差はあれど一機一機が女神とやり合える様なものを貴様等三人で壊滅させただと!?そんな事信じられるものか!」

「そう思うならそうなんだろう。お前の中ではな」

「一体、どうやって…」

 

動揺しながら問うガナッシュさんに対してMAGES.は一瞬『よくぞ聞いてくれた!』…みたいな反応を見せた後自信ありげにその手段を語り始める。

 

「何、起動前に私は魔法で、コンパとアイエフは武器で内部を傷付けた後、大量の水をかけただけだ。いかに防水処理をしていようともその防水処理部分を破壊されては意味も無かろう」

「起動前のただ置いてある状態なら傷付けるのも簡単だったです」

「で、それを知らないアンタは起動させた結果…内部の回路がショートしたって訳よ」

 

聞いてみれば簡単な話だった。無防備な所を狙って防御を剥がし、弱点を突く…そんな簡単で、だからこそ状況が味方しなければなし得ない手段。そしてそれが出来たのはひとえに…

 

「くっ…女神は陽動担当だったのか…」

「わたくし達にそのつもりは皆無でしたが…まあ、結果としてはそうなりますわね」

「さあ、残りは後一機。覚悟は出来ているな?」

「MAGES.…もしかして、一緒に戦ってくれるの?」

「当然だ。それに貴様が別人とはいえ、死なれてしまってはあいつが悲しんでしまうからな」

 

そう言ってMAGES.、コンパ、アイエフが私達の隣に来る。それに対し歯噛みをしながらも私達へキラーマシンMK-νを突撃させる。それに各々の武器を向けて真っ向から迎え撃つ私達。

----格納庫内での最後の戦いが幕を開けた。

 

 

 

 

「まさか…まさかキラーマシンMK-νまでもがやられるとは……」

 

バラバラに破壊され、比喩や皮肉ではなく文字通りガラクタとなるキラーマシンMK-ν。最後の戦いは呆気なく終わりを告げた。

 

「なんだ、普通に戦っても手応えが無いではないか」

「いや、これ八対一だし流石に多勢に無勢っていうか…某中将宜しく戦いは数だったって言うか…」

 

そう。別にキラーマシンMK-νが弱かった訳ではない。むしろ私達の感じた通りキラーマシンMK-νは今までのキラーマシン系統の中で最も強かった。…が、八対一、しかもその内五人は飛べて尚且つ正面からやり合える力を持っているという状況では攻撃も防御も満足に行える筈もなく、結果として性能をフルに使えないままキラーマシンMK-νはやられる事となった。

 

「それよりも…ありがとうMAGES.。貴女のおかげで助かったわ」

「気にするな、大した事ではない」

「MAGES.…って言ったな。わたしからも礼を言わせてくれ。おかげで取引を潰す事が出来た、ルウィーの女神として感謝するぜ」

「さあガナッシュ、貴方達の企みもここまでよ!」

 

大剣をガナッシュさんに向けるノワール。既にここには私達を倒す為の戦力はおろか、逃げる為の盾とする機体すらいない。どう考えてもこれはガナッシュさんが積んでいる状況だった。

 

「…ふ、ふふ……」

「ん?」

「…は、ははは…はははは、はははははははは!」

「何だこいつ…自慢の兵器が壊されて頭がおかしくなっちまったのか?」

「我が社自慢の兵器が全滅したのは想定外ですし、はっきり言ってかなりの痛手です。…が、この時間なら本来の目的は無事に果たせている筈です」

「という事は…別の狙いがあったと言うんですの!?」

「貴方達はまんまと偽の情報に騙されたのですよ」

 

私達が前にラステイションでキラーマシンを倒した後を再現するかの様に動揺から一転、余裕に満ちた表情となるガナッシュさん。そして今までのやり取りで私達は既に分かっている…彼が場を乗り切る為のハッタリを言うタイプではない事を。

 

「こんな大規模な事が…本来の目的じゃない……!?」

「私としてはこの場で貴女達を倒すつもりでしたからね。ですがそれはあくまで私の目的であり、アヴニール全体としては引き止めておく為の囮だったのですよ」

「じゃああの情報は嘘だったって言うの…?」

「優秀な情報網があるからこそ罠にかかるという事もあるのですよ」

「そんな…って、電話…?こんな時に一体誰よ…」

「アイエフさん、わたしですっ」

「フィナンシェ!?」

 

大変間の悪い電話をかけてきたのはルウィーにいるフィナンシェだった。何となく私の中に嫌な予感が渦巻き始める。

 

「大変なんです!アジトが教会に襲われ----きゃあぁぁぁぁぁぁっ!?」

「フィナンシェ!?ちょっと!?フィナンシェってば!」

「おい、フィナンシェがとうかしたのか…?」

「アジトが…教会に襲われてるみたい」

「何だと!?」

 

見事に的中する悪い予感。その全く嬉しくない予感的中を視線に乗せて睨んだ先にいたガナッシュさんは歪んだ笑みを浮かべていた。

 

「くっくっく…そう言えば試運転ついでにレジスタンスのアジトをどうとか言っていましたね」

「呑気に話をしている場合じゃないわ。急いでルウィーに戻りましょう」

「そうした方が宜しいでしょうね、では私はこれで…」

『なぁっ!?』

 

懐から何かを取り出し、軽く放ると同時に背を向けるガナッシュさん。次の瞬間私達の視野いっぱいに広がる光。

完全に油断していた。今まで兵器やモンスターに戦闘を任せ、私達に本人は何も出来ないと思わせていたからこそ出来た一手。放たれた閃光弾の光が収まり、私達が目を開けられる様になった時にはもう彼の姿は無かった。

 

「逃げられたですぅ…」

「捕まれられなかったのは癪だが…今はルウィーに向かうのが先決だ」

「貴女も来てくれるの?」

「乗りかかった船だ。最後まで付き合うのが筋だろう」

 

思いがけない戦力増強に歓喜する私達。でも、ルウィーにいるレジスタンスの人達が襲われている以上ゆっくり喜んでいる訳にはいかない。

 

「ブラン、アジトの場所は分かる?」

「当然だ。コンパ達はとにかく急いで来てくれ、わたし達は飛んで一気に行く、良いな?」

「構わないわ、急いで行きましょ!」

「待ちなさい、本気で飛んで行くつもり?」

 

出入り口に向けて走り出そうとしていた私達に静止をかけたのはノワール。動き出そうとしていた所を止められた事もあって私達は出鼻を挫かれた気分になる。

 

「本気に決まってんだろ、わたしに味方してくれている人が襲われてるんだぞ!?」

「分かってるわ、だからこそ飛んで行くのはお勧めしないわ」

「…ノワール、それはどういう意味なの?」

「意味も何も…貴女達連戦での疲労を抱えた上でここからルウィーまで飛んだとして体力持つの?」

『……あ』

 

ノワールの言う事はごもっともだった。状況に翻弄されて冷静さを忘れていた私達は、危うくヘロヘロの状態で偽ブランと教会の人達を相手にする所だったとノワールに言われてやっと気付き、体力を回復させる為に女神化を解除する。

 

「貴女が冷静に判断してくれて助かりましたわ」

「私はそのレジスタンスの人達と会ってない分、逆に冷静になりやすかったってだけよ。でも無駄口叩いてる暇は無いわ、急ぎましょ」

「うん…って、ノワールも着いて来てくれるの?」

「当たり前でしょ、アヴニールが関わっている以上見過ごせないし…わ、私達仲間でしょ…?」

 

ネプテューヌを見ながら若干頬を染めるノワール。微妙に取っ付き辛い雰囲気を醸し出したノワールにベールが一言…

 

「ノワール…貴女はわたくしの同士かも知れませんわね…」

『…………』

『……?』

 

その言葉の意味が分かる私達は反応に困り、分からないノワールとMAGES.は首を傾げる。

そんな何とも言えない状況が十数秒程続いた後…

 

「…いやゆっくりしてる場合じゃねぇから!」

『です(わ)よねぇ!?』

 

ブランの自他両方に向けた突っ込みを聞いて現状を思い出した私達はルウィーへと走るのだった…。




今回のパロディ解説

・「お前が思うならそうなんだろう。お前の中ではな」
漫画、少女ファイトの登場キャラ、式島滋の台詞。ネット上を始め様々な場、様々な作品でネタとされている台詞なので皆さんの中にも知っている方はいるかと思います。

・某中将
機動戦士ガンダムに登場する、ドズル・ザビ中将の事。因みに、中将は戦いは数だよと言っただけであり別に物量戦を仕掛けたキャラという訳ではありません。

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