超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth1 Origins Alternative   作:シモツキ

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第九十四話 最終決戦

少しずつ暗さを増す裏天界に、刃が舞う。縦に、横に、左に、右に。

ゆっくりと負のシェアが満ちてゆく裏天界に、戦士が踊る。奥へ、手前へ、地へ、空へ。

激しくはあるが煩雑ではない、熾烈ではあるが泥沼ではない、そんな攻防が繰り広げられていた。

 

「ノワール!ブラン!」

「指示は無用よッ!」

「ネプテューヌ、タイミング見逃すなよ!」

「イリゼ、わたくし達は追撃を!」

「了解、挟み込むよ!」

 

同時に放たれる衝撃波と電撃。どちらも高い破壊力と範囲を持つ攻撃ではあるものの…文字通り斬り込んだノワールとブランが正面から薙ぎ払い、相殺。次の瞬間二人の後ろから飛び出したネプテューヌが最短距離でマジェコンヌに肉薄し、下段からの逆袈裟を放つ。

が、マジェコンヌもそれでやられる程柔な相手ではない。下がるでも左右に避けるでもなく、敢えて前進する事でネプテューヌの攻撃タイミングをズラした彼女は、更に槍を遠心力の乗らない大太刀の根元に打ち込む事でネプテューヌの攻撃を完全に挫き、逆に手首の捻りで矛先を上げた槍で反撃する。

一瞬ながら武器を押さえられ、スピードも乗っていた為に回避もままならないネプテューヌ。しかし彼女は身体を逸らし、力を抜いて慣性に身を任せる事で槍を回避しつつマジェコンヌの横をすり抜ける。

避けられたと見るや否や即座に次の攻撃を仕掛けようとするマジェコンヌ。それを阻止したのが私とベールの挟撃だった。

 

「追撃をする筈が…」

「ネプテューヌへの攻撃の迎撃になってしまいましたわね…!」

「ちぃっ…おいネプテューヌ!曲がりなりにも主人公ならば、仲間を下がらせ一対一で戦ったらどうだ!」

「…それは確かに…皆、下がって。原作ゲームの最終決戦宜しくわたしが一人で…」

「何口車に乗ってんのよ、主人公云々って言ったってスーパー戦隊やRPGの主人公は一人のボス相手に仲間と戦ってるでしょうが」

「そ、そうだったわね…」

 

先とは逆にマジェコンヌは大きく後退する回避行動を取った為に、私とベールの攻撃はマジェコンヌの帽子を僅かに斬るだけに留まる。

そしてマジェコンヌとネプテューヌ(と、突っ込みとしてノワール)による謎のやり取り。側から見れば何をふざけて…と思えるそれも、私達刃を交えている者なら分かる。ネプテューヌはともかく、マジェコンヌの方はふざけてる訳でも煽っている訳でもなく、本気で一対一へ持ち込みたいのだと。

 

「また距離を取ってきたね…」

「正面からぶつかったらわたし達に勝てないって分かってるんだろ、ったく…同じ戦力のモンスターならもう勝負は終わってるだろうによ……」

 

マジェコンヌは相変わらず一人。対する私達はメインとして私達女神五人に、支援のコンパとアイエフを含めた計七人。どんなに強くとも、圧倒的な量の前には敵わない…とは限らないのが世の中だけど、敵の数が多ければ多い程厄介なのは事実だし、大前提として一対一なら簡単に倒せる…と言える程私達女神とマジェコンヌとで実力差がある訳でもない。有り体に言って、マジェコンヌは量において大きく劣り、質においてもせいぜい一枚か二枚、状態次第では互角になってしまう程度でしか上回れていないという、かなり厳しい状況にあった。

だからこそマジェコンヌは近距離での攻防を数手に押さえて囲まれるのを避け、あの手この手で私達の分断を図ってきた。キラーマシン系統やユニミテスならもっと単純且つ安易な手を打ってくれるのに…と歯噛みする私達。

 

「ふん…主人公云々以前に、一人ではロクに戦えもしない癖に大した態度……」

『はぁ?…いいじゃ(ない・ねぇか)、だったら(私・わたし)が一対一で倒してやる(わ・よ)!』

「二人まとめて釣られてどうするんですの…」

「奴に余裕を持たせたらその内本当に術中にはまりかねないわね…攻勢に出るわよ、皆」

 

攻勢に出る。それは私達の戦いの流れを大きく変えさせる合図だった。

悠長に戦っている場合ではないとはいえ、総合戦力ではこちらが上回っているし、堅実に戦闘を進めれば私達側に戦況が傾くのは明白。だから功を焦って無理に攻める様な事を避けていたんだけど…女神化して気分が高揚している事もあり、マジェコンヌの揺さぶりは結構私達に効いていた。

だからこその攻勢。今まで敢えて半ば放棄していたイニシアチブを、私達は行使する。

 

「一気に決めてやるわッ!」

「やれるものならなぁッ!」

 

とんっ、と軽く地を蹴って前へ出たノワールは空中で牙突…じゃなくてその逆、右片手一本突きの構えを取り…爆発的に加速。一気に距離を詰めて眼前へと迫る。

対するマジェコンヌは、ネプテューヌの時程余裕が無かったからか前進はせず、その場で槍を引いてノワールの突進に合わせる。……が、激突の直前、ノワールがスピードを落とさぬまま無理矢理急浮上。目標を失ったマジェコンヌの槍は前へと投げ出される形となる。

 

「な……ッ!?」

「……ッ…残念だけど…一気に決めるのは、私じゃないわ」

 

表情を歪めるノワールとマジェコンヌ。ノワールが歪めたのは無茶な機動で身体に負荷がかかったから。そしてマジェコンヌが歪めたのは…ランスチャージの様に槍を構え、マジェコンヌへと突貫を仕掛けたベールの姿を捉えたから。

攻撃が空振りするという事はつまり、目標に当たる事で消える筈だった分の力が行き場を失い、それに振られて体勢が崩れるという事。常人の武道の試合ですら隙となってしまうそれは、常人の域を超えた存在同士の戦いでは破滅的なミスとなる。

だが、マジェコンヌはそれで終わる様な普通の超人ではない。回避不能と見るや否や槍の先端から電撃を放ち、回避ではなく迎撃を図る。咄嗟に出した為か、電撃は威力も範囲も先のものより劣っていたが、それでもベールにダメージを与えるには十分な出力。たまらずベールは突撃を中止し横へ逸れる。……薄い笑みを浮かべながら。

 

「…ふふっ、決めるのはわたくしでもなくてよ?」

「二重のブラフだと……ッ!?」

「二重で済めば良いけど…ねッ!」

 

電撃を飛び越える様に跳躍し、大上段から斬りかかるネプテューヌ。更にワンテンポ遅れる形で私が接近し、側面から仕掛ける様に動く。

私の長剣もネプテューヌの大太刀も…というか、女神の武器はすべからく自身の身の丈並みに長大で、身体一つ分動いた程度では避けられない。前方と側面はネプテューヌの攻撃範囲で、後退してもその瞬間に私の攻撃が飛ぶ。そんな状況でマジェコンヌが回避先に選べる場所といえば、上空のみだった。

真上へと飛び上がるマジェコンヌ。そちらへしか逃げられない状況を作った私は当然その動きも予想の範囲内であり、ネプテューヌの大太刀の腹を踏み台にさせてもらう事で極力勢いを殺さないままマジェコンヌに追いすがる。

交錯する視線。長大と槍がぶつかり合う。

 

「ぐっ…ぬぅ……ッ!」

「降参する気はある?あるなら私達も必要以上に貴女を痛めつけたりは……」

「ーーっ!その慢心が…命取りだッ!」

 

開戦前とは逆の立場で提案をする私。同時にその意思を表明するかの様にほんの僅かに力を抜く。その瞬間、マジェコンヌから返ってきたのは提案の返答ではなく、提案そのものの否定だった。

それと同時に全力で槍を振り抜くマジェコンヌ。女神四人分の力を得ており、尚且つ恐らく負のシェアの力すら利用している彼女の女神以上の基本スペックと、私が力を抜いた事とが相まって、振り抜いた槍は私を弾き飛ばすだけの力となる。

長大を片手で持ち、落下しながら体勢を立て直す私。対してマジェコンヌはやっと連携が途切れ、敵が体勢を崩しているという絶好の好機を無駄にしまいと即座に槍を構え、私への刺突を敢行する。

チャンスが一瞬にしてピンチとなったかの様な状況。でも私は焦ってはいなかった。だって…端から弾かれるつもりで力を抜いたんだから。

 

「慢心する程…貴女を見縊ったつもりはないッ!」

「そして悪いな…今更降参なんざさせる気もねぇんだよッ!」

 

長大から離した片手に現れたのは、私が精製した戦斧。着地の寸前に私の手から投げられたそれは、ブランの手に渡った瞬間にマジェコンヌへと投擲される。

即席品という事もあり、ブランの戦斧に比べて切れ味も強度も劣るその戦斧。それでもブランによって勢いを込められたそれは、攻撃体勢へ入っていて防御もままならないマジェコンヌの腹部を裂くには十分な代物だった。

そして、そこからが怒涛の攻撃の始まりだった。ダメージを負った相手を複数人で攻撃し続けるというのは少々残酷で、女神としてはあまり褒められた戦い方ではなかったのかもしれない。けど、私達に躊躇いは無かった。手加減だとか、相手を尊重するだとかは相手の態度や相手のしてきた事とを天秤にかけた上でするものであり、どんな相手であろうと正々堂々戦えというものではない。勿論、それを踏まえた上で正々堂々戦う人は尊敬に値するし、私達は女神としてそれを目指すべきかもしれないけど…マジェコンヌは、今すぐそれを実行出来る様な相手とは対極の、全身全霊でもって、打てる手を全て打つべき強敵に違いなかった。

 

 

 

 

「--------貴女の負けよ、マジェコンヌ」

 

大太刀の切っ先をマジェコンヌへと向けるネプテューヌ。その先に立つマジェコンヌは、満身創痍そのものだった。身体の至る所に傷が開き、衣類は血に染まり、常に彼女が纏っていた威風も覇気も消え去っていた。ただ、その顔は…憤怒と憎悪に彩られたその形相だけは、一切の衰えを見せる事も無く、むしろこれまでにない程濃くなっていた。

 

「黙れ…ッ!図に乗るなよ女神共が……ッ!」

 

ギロリと私達を睨み付けるマジェコンヌ。そのかつてない程に強烈な視線に、コンパとアイエフは勿論歴戦の女神ですら一瞬肩を震わせる。絶体絶命の状況にありながら、命乞いどころかむしろ未だ戦闘続行の意思を見せる彼女は、いっそ敵ながら天晴れだった。

 

「図に乗ってるつもりはないわ、それとも貴女にはまだ奥の手があるとでも?」

「五月蝿い…ッ!私はこの世界を…憎きこの世界を、不愉快なこの世界を、私の思いの害となるこの世界を壊すッ!潰すッ!消滅させるッ!邪魔をするな、女神共がぁぁぁぁぁぁああッ!」

「そう…だったらもう、わたし達のする事は一つ。……やるわよ、皆」

 

ネプテューヌの言葉に、私達は頷く。そして、一番槍の如くノワールが突出する。

 

「あんたの野望も願いも知った事じゃないわ。ただ私は、ラステイションを無茶苦茶にしてくれた借りを返すだけよ!」

「は……っ!アヴニールが好き勝手振舞う間、おどおどと指を咥えて見ているしかなかった、非力な女神が言う様になったものだな!」

「…何?それで挑発してるつもりなの?」

 

斬り結ぶノワールとマジェコンヌ。先程はマジェコンヌの挑発に乗りかけてしまった彼女だったけど、今はそれを不敵な笑みを浮かべたまま真っ向から跳ね返す。

きっと、それは国の事だから…ノワールの大切な、ラステイションの事についてだったからだろう。

 

「確かに私はちょっと要領が悪かったり、不器用な感じがあるのは自分でも分かってるわ。それでもね、シアン達国民の為に良い国にしようって、ケイ達教会の職員がうちの職員として誇れる様にって、一生懸命頑張ったのは本当。そして、それはこれからも続けていくつもりよ。だって…私はラステイションの女神、皆の思いを受けて戦う女神なんだから!」

 

斬り結びの最中に突然一歩下がり、マジェコンヌをつんのめりさせるノワール。更にノワールはマジェコンヌに息つく間もなく再度接近し、斬りつける。

痛みに呻くマジェコンヌを尻目に、彼女から離れるノワール。

 

「次は私ですわ?…さて、わたくしからは一言お礼を言わせて頂きましょうか」

「ふん!女神の力を失った事がバレるのが怖くて、一人閉じこもっていた臆病者が…ッ!」

「確かに貴女の言う通り、わたくしは臆病者だったかもしれませんわ」

 

マジェコンヌから距離を取るノワールと入れ替わる様に接近するベール。ベールが次々と放つ槍の連撃を、マジェコンヌは辛うじて防いでいく。

 

「…ですが、そのおかげであいちゃん達に出会う事が出来たのです。彼女達はわたくしを、女神グリーンハートとしてではなく、ベールという一人の女の子として慕ってくれた。その出会いのおかげでわたくしは自信を持って外に出る事が出来たのです。そして出た先に待っていたのは、わたくしが女神としての務めを半ば放棄していたにも関わらず、わたくしを待っていてくれたチカやイヴォワール達職員の皆と国民…ですから、大切な友人との出会いをくれ、信頼する職員との関係を思い出させてくれた貴女にお礼を…その上で、それを奪わせない為にも、ここで討たせて頂きますわッ!」

「ぐぅぅ…それが、貴様の戦う理由だというのか…よくも、そんなくだらない理由でここまで来れるものだ…」

 

連続攻撃の末に生まれた、ほんの僅かな防御の隙を突いて槍をねじ込むベール。その一撃を受けたマジェコンヌはよろつき、数歩後ろへ後退する。

その姿を見て跳躍するベール。

 

「孤独なお前には、どうやら仲間の良さが分からないみたいだな」

「誰が孤独だと…?ルウィーを奪われ、信者に偽者と罵られ、教会を追い出されたのはどこの誰だったかな…!」

「そうだな。それは間違いなく事実だ」

 

まるで一連の流れかの様に、ベールに変わって躍り出るブラン。腰溜めにした戦斧を振り抜き、何とか槍を掲げたマジェコンヌの防御体勢を打ち砕く。

 

「けどな、フィナンシェはわたしをずっと信じてくれていた。ミナはわたしの為に、敵の本拠地とも言える教会にずっと残ってくれた。兄弟は変態だが、あいつらなりに手を貸してくれた。職員も、国民も騙されていただけで、てめぇに鞍替えした訳じゃねぇ!こんなに、こんなに多くの人がわたしを信じてくれているんだ!命を懸けて戦うのに、これ以上の理由はねぇんだよッ!」

 

地を踏みしめ、振り上げた戦斧を振り下ろすブラン。重い一撃をしたたかに受けたマジェコンヌは息を詰まらせ、攻撃の勢いに耐えきれずにたたらを踏む。

マジェコンヌを一瞥したブランは、即座に下がる。

 

「…私は貴女に何かを奪われた訳でも、壊された訳でもない。だから、私が抱く気持ちは皆とは違うよ」

「だから、何だと言うのだ…貴様は過去も昔も持たぬ存在だ、違うか…?」

「その通りだよ。でも、過去や昔は無くても今は、未来はある」

 

真っ正面からマジェコンヌへと飛び込む私。愛用の長剣を握り直し、悪足掻きが如く振られたマジェコンヌの槍を、紙一重で回避する。

 

「私が貴女に抱く気持ちは同情。貴女は本来私達と同じ様に、大切な人や大切なものの為に強大な存在に立ち向かい、戦った存在でしょう?なのに貴女はその末に闇に、悪意に飲まれてしまった。だからこそ、私は貴女を倒す!貴女が野望を、元の貴女の夢とは対極の願いを叶えてしまう前に、貴女を倒してそれを止める!止めて…私自身の願いも叶えるッ!」

 

マジェコンヌの姿を完全に捉えた私は、全力で持って長剣を振り抜く。私から放たれた長剣の一太刀は槍ごとマジェコンヌをしたたかに斬り、手から槍を跳ね飛ばす。

私は少しだけ、少しだけ憐憫の視線をマジェコンヌへ送った後に距離を開ける。

 

「友も仲間もいない貴女には、皆の言う事は分からないかしら?」

「あぁ、分からんさ…分かりたくもないな…」

「それは悲しい事ね。昔のわたしはどうだったか知らないけど、今はこんぱやあいちゃん、女神の皆、別次元から来た皆、いーすん達教祖の皆、協力してくれた他国の皆や職員や国民の皆。そんなたくさんの人達と、これからも楽しくやっていきたいからここにいるのよ。楽しくなかったり、友達がいなくちゃ、そこまで頑張ろうとは思わないわ」

 

真っ直ぐに、一直線にマジェコンヌへと近付くネプテューヌ。彼女の素早い一撃によって腕での防御すら崩されたマジェコンヌに、ネプテューヌは鋭い視線を向ける。

 

「大義もない、気楽な考えだと思うかしら?えぇ、わたしもそう思うわ。…でも、他人が見てどうとかは関係ないわ。誰かといて楽しいとか、ずっと一緒に居たいって凄く大切だと思うもの。だから、わたしはマジェの助を…いいえ、マジェコンヌを倒して、皆で見るって決めているのよ!ゲイムギョウ界のハッピーエンドをね!『ビクトリィースラッシュ』ッ!」

 

高く、高く大太刀を振り上げたネプテューヌ。そして彼女は放つ。V字に斬り裂くその技を。勝利の名を冠する、乾坤一擲の大技を。

そして、放ち終わったネプテューヌが大太刀を降ろすと同時に…マジェコンヌは、倒れた。

 

 

--------だが、

 

「まだ、だ…まだ、私は…終わらん……!」

 

ボロボロになりながら、血反吐を吐きながら立ち上がるマジェコンヌ。もう勝機などある筈もなく、それどころか致命傷を受け、死の淵に立っているにも関わらず…マジェコンヌは、立ち上がる。

 

「…何が、そこまで貴女を駆り立てるんですの…?」

「お前はもう、十分に…十二分に戦っただろ…お前の強さはわたし達全員が分かってるんだ、なのに何で……」

「言っただろう、野望の為だと…馬鹿め、命を懸けて戦っていたのが自分達だけだと思っていたのか……」

 

よろよろと、気力を絞り出す様に一歩一歩、負のシェアの柱へ向かって歩くマジェコンヌ。その時私達は、間違いなく彼女へ畏怖の念を抱いていた。…もし、彼女が善性を持った女神ならば、さぞ高尚な存在だったのだろうと思う。

 

「ネプテューヌよ…貴様は先程、まだ奥の手があるのかと訊いたな…」

「え、えぇ訊いたわ…けど、それが何……?」

「…見せてやろうじゃないか…私の最後の…文字通りの、奥の手をなぁ……ッ!」

「……!?あいつ何かする気よ、ねぷ子!」

「は、早く止めるですねぷねぷ!」

「もう遅い!これが、これこそが私の最後の切り札だ…ッ!」

 

私達が止める間もなく、負のシェアの柱へと身を投げ出すマジェコンヌ。切り札という言葉、そして負のシェアの柱へ触れるという行為から私達はそれがハッタリでも何でもなく、本気で起死回生を狙っているのだと感じ取り、気を引き締める。

…否、引き締めようとした。だが、引き締めなかった。何故なら…

 

「な…に……ッ!?何故だ…何故私の力とならないシェアエナジーよ…私の力は…女神四人の力は制御するに十分な筈…なのに何故、何故……ぐ…何だ、これは…私に、流れ込んできて…ぁ…がぁぁぁぁああぁぁああ!!ああああああああああああァッ!?」

 

負のシェアの柱から闇色の波動が放たれる。それと同時に、まるで沼に落ちたかの様にマジェコンヌの身体は柱へと沈み始め、マジェコンヌはこの世のものとは思えない絶叫を上げる。

戦慄する私達。その間にもマジェコンヌは沈み続け…私達の硬直が解ける頃には、彼女は完全に柱に飲み込まれてしまった。

 

「……どういう…事なのよ…」

「分からない…でも、マジェコンヌの気配はもう消えてるよ、ね…?」

「じゃあ…わたし達、勝ったの…?」

 

突然の事態に戸惑う私達。勝てたのなら嬉しいし、誰も死んだりしなかったから万々歳ではあるけど…あまりにも想定外の事態過ぎて、私達の頭は追いついていなかった。それに、飲み込まれたマジェコンヌを助けようとは微塵も思わないけど…何度も私達と戦いを繰り広げ、私達を追い詰め、世界を震撼させ…果てには私達にも負けない覚悟と意思を見せたマジェコンヌの最後があんなもの、というのは正直憐れだった。

だが、とにかく戦いは終わった。私達の勝利で、戦いは終わった。

 

「…取り敢えずは、下界に戻る…いや、連絡を取るのが最優先ですわね」

「だな、場合によっちゃ急いで戻って汚染モンスター戦に参加してやらねぇと…」

「マジェコンヌが本当に死んだのか、いーすんに確認もしてもらいたいものね。一先ず連絡の出来る所まで移動しましょ。その後やるべき事を一つずつ片付けて……」

 

--------その時だった。負のシェアの柱から、再び波動が放たれたのは。『何か』の鼓動が響いたのは。

そしてそれは……まだ、戦いが終わっていない事を意味していた。




今回のパロディ解説

・原作ゲームの最終決戦
本作の原作である、超次次元ゲイムネプテューヌ Re;Berth1における、トゥルーエンドルートの最終決戦の事。本作の最終決戦は…さて、どうなるでしょう?

・牙突の構え
るろうに剣心シリーズに登場する、刀の構えの一つ。作中でも触れている通り、本来これは左手で刀を持つ構えなので、右手且つ大剣を持つノワールの構えは違いますね。

・最後の切り札
大乱闘スマッシュブラザーズシリーズにおける、大技の事。このワード自体は特殊でもなく、状況的にも自然なので、分かり辛いパロディになってしまった気がします。

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