GOD EATER ~The Broker~   作:魔狼の盾

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R編最終話です。消えたり死にかけたりアラガミ化やら色々大変なうちの子ですが一旦落ち着いて、博士の研究発表します。


mission90 消失

 -???-

 

 黒く鋭い鉤爪の両手足、色素が抜けた様に白い身体、身体と同色の顔とボリュームのある長い白髪、縦に割れた瞳孔に赤銅の瞳、そして頭と背中からは黒い翼を生やして完全にアラガミ化し、光の柱へと消えたユウキは気が付くとまた何も無い真っ白な空間に立っていた。

 

「グルルルル…」

 

 数秒後『何か』の気配を感じ取ったユウキは突然構えて唸り出す。そしてさらに数秒後、淡く輝く球大きな体が少し離れたところに現れた。

 

『…』

 

 対して球体は何の動きもない。しかし、アラガミ化して本能や感覚、直感が研ぎ澄まされている為か、この淡く輝く球体からは途方もない力をハッキリと感じ取る。

 

「ガルゥァア!!」

 

 だが今のユウキは理性を失っている状態だ。淡く輝く球体を『喰って』自らの力に取り込もうと言う本能に従い、ユウキは球体に向かって突っ込む。

 

  『ガァンッ!!』

 

 右手の爪で切りかかるが、ユウキが球体に攻撃するよりも先に、爪が見えないバリアの様なものに防がれてしまった。

 

「ガッ?!」

 

 攻撃を防がれて一瞬隙が出来る。その間に突然強い衝撃波の様なものを受け、ユウキは吹っ飛ばされた。

 その後、空中で体勢を整えると、ユウキは右腕を振り上げながら球体に向かって猛スピードで滑空する。

 

『愚かな…』

 

「グゥラァアッ!!」

 

 再度右腕を振り下ろす。

 

  『ガシャァンッ!!』

 

 今度はガラスが割れる様な音と共にバリアを突破する。そしてその先、謎の球体に右手が触れる。

 

「ッ?!」

 

 その瞬間、ユウキの意識は一瞬飛んでしまった。その間に、ドロドロに溶けた地表、すべてを飲み込む様な大雨、海が出来て時が経ち生物が誕生、全てが凍る氷河期、恐竜の誕生と絶滅、人の誕生と進化、村、地域、国が出来上がり、血で血を洗う戦争、この中で現れた一騎当千の英雄達、神の声を聞く聖人達、神と呼ばれた人間、そして彼らの最後、工業により急速に発展する社会、その代償に失った環境、そんな中でも平穏に流れる日々、そしてアラガミが現れ、死に行きながらも生き抜く人々、フェンリルによる統治、一人の赤ん坊が研究施設カプセル内で意識の無いまま無理矢理生かされ、現在に至る。

 世界中のあらゆる過去と事象が感応現象を通じてユウキの頭の中で一瞬のうちに再生される。

 そして感応現象によるイメージの再生が終わると同時に、またユウキは衝撃波で吹っ飛ばされる。今度は受け身を取れずに背中から落ち、そこから一度バウンドしてうつ伏せに倒れて動かなくなった。

 

『驚いたな…儂の記憶を覗くとは…』

 

 球体は自らに触れた事もそうだが、記憶を覗き見た事に純粋に驚いていた。そしてその後、ピクリとユウキが動き、両腕を動かして立ち上がろうとするがうまく身体が動かない。

 

「グッ…ゥ"ゥ"ヴ…」

 

『どうやら無事では済まなかったようだな。まあ儂の記憶を受け止めれば当然か…』

 

 立ち上がろうとしてもうまくいかずにまた倒れる。アラガミ化したユウキが両手両足をノロノロと動かしている姿を見た謎の球体は当然の結果だと一人納得する。その間に、ユウキは覚束ない足取りで何とか立ち上がり、謎の球体を睨み付ける。

 

『…おもしろい。』

 

 そんなユウキの姿と『目』を見た球体はユウキに興味を持ち、ある考えが廻った。

 

『目覚めた貴様が何を成すのか…じっくりと見せてもらう。』

 

 すると謎の球体の光が少しずつ強くなり辺りを照らし始める。ユウキは次第にその光に呑まれていった。

 

「グァアアアァァァ…」

 

 光に呑まれたユウキが叫び声を上げる。そして光が収まった後、そこにユウキはもう居なかった。

 

『さて、吉と出るか凶と出るか…期待しているぞ。境界の子(イレギュラー)…』

 

 -ラボラトリ-

 

 端末を操作しながら、ペイラーはディスプレイに表示されているグラフや資料を眺めていた。

 

(そう言う事だったのか…)

 

 そしてユウキの生体サンプルの解析が終わり、ユウキに起きた変化にペイラーなりに結論が出た。

 

(ユウキ君には通常神機使いに投与されるP53偏食因子とは別の偏食因子が血中に流れている。これがユウキ君の適合率の異常やアラガミ化の進行に大きな影響を与えていたのか…)

 

 サンプル解析の結果、ユウキには神機使いに使用されるP53偏食因子以外の偏食因子が血中に含まれていた事が分かった。ペイラーはこの結果を見て、顎に手を当てて考え込む仕草をする。

 

(捕食能力を持った偏食因子…これによって他の偏食因子を取り込み、増殖する…この特性のお陰で時間はかかるが偏食傾向を完全に書き換える事も出来る。ユーリ君の神機が後から使えるようになったのは腕輪や触手を介して神機の偏食因子を書き換え、ユウキ君に適合させていたみたいだね。)

 

 ユウキ特有の偏食因子を調べると、偏食因子そのものに捕食能力がある事が分かった。そこでペイラーはかつてユウキに見せた、ユウキとユーリの神機との適合率の推移を示したグラフを見直す。グラフと偏食因子の特徴から、ユウキがユーリの神機を使えたのは、ユーリの神機の偏食因子を書き換えたからだと結論を出す。

 

(血中のP53偏食因子を投与しても彼の偏食因子が喰ってしまう。彼と神機との適合率が安定しなかったのはこの為だろうね。表面上ではP53偏食因子との違いがそれくらいしかなかったから発見が遅れたが…)

 

 続いてペイラーはユウキとユウキが元々使っていた神機の適合率のグラフに切り替える。適合当初から大きく増減し、安定しなかったユウキと神機の適合率、この理由もユウキに投与されたP53偏食因子が新しい偏食因子に喰われたからだと考えた。

 しかし、その考察だと疑問が一つ残る事になる。

 

(何よりこの偏食因子、本来は細胞核内に格納されていたみたいだね。宿主であるユウキ君が複数の偏食因子を取り込んだ事で、それらを排除しようとしたのか、後から血中に流れる様に因子製造プロセスが変化している。ただ、偏食因子が格納されていた核が…オラクル細胞と同一の核だとはね。)

 

 続いてユウキの細胞から得た解析結果を表示する。そこにはヒトならばあり得ない、細胞核内に核がもう1つ…しかもオラクル細胞の核が存在していると示すデータが映し出されていた。

 

(ヒトのDNAは細胞核内に格納されている。オラクル細胞も単細胞生物と同様、細胞核に塩基配列が存在している。そしてユウキ君の場合、核の中に超圧縮されたオラクル細胞の核が格納されている…)

 

 事実上、ヒトのDNAとオラクル細胞の塩基配列、その2つが共存している…これが今まで知られていなかったユウキ君の特異な体質であり、何かしらの理由で、神機使いになる前からこの特異な偏食因子を持っていた為に、適合率が安定しない理由だとペイラーは結論付けた。

 

(まさか細胞内に2つの核があるだなんて思いもしなかったよ…お陰で見逃してしまっていた。)

 

 通常、ヒトのDNAを取り出す際、遠心分離機を使う事があるが、神機の適合試験の際、ユウキのDNAを調べる時もこの方法を取った。しかし、オラクル細胞の核はDNAと繋がっている訳でもないのでそのまま見逃していた。

 

(ユウキ君のアラガミ化…それはもしかしたら、複数の神機を使った事で起きたアラガミ化に対する自浄作用だったかも知れないね…)

 

 体内に増えた異物とも言える偏食因子…それらを全て喰らい、クリーンな状態にしようとした。その結果自身の細胞が活性化してアラガミ化が大きく進行したと言うのがペイラーの仮説だった。

 

(取り敢えず『P16偏食因子』と名付けたが…)

 

 アラガミ化しつつある細胞を攻撃し、正常なものに戻す…ヒトが本来持っている異常な細胞の増殖を防ぐ働きと似通った性質からユウキの持つ偏食因子に名前をつける。

 

(まさか、このP16偏食因子を利用したアラガミ殲滅計画があったなんてね…)

 

 ペイラーは今までの見ていたものとは別のディスプレイに目を移す。

 

 『Relief by victim project』

 

(通称RVプロジェクト…意訳すると犠牲者による救済か…結局計画の内容は殆ど分からなかったけど、まともな計画ではないだろうね。)

 

 映し出された文字を読み、大きくため息をつく。

 

(それにしても人とアラガミ、2つの遺伝子を完璧な形で保持している。これではまるで…)

 

  『ピリリリリリッ!!』

 

 ユウキの正体について考察していると、ペイラーの端末にユウキの捜索に出ていた第一部隊から通信が入る。

 

「はい。」

 

『…俺だ。』

 

 一瞬のノイズの後電話が繋がり、聞き覚えのある声が聞こえてきた。通話の相手はソーマのようだ。

 

「ソーマ?何かあったのかい?」

 

 捜索中の電話…何か嫌な予感がしつつもそれを振り払い、ペイラーはソーマに要件を尋ねる。

 

『ユウが…消えた。』

 

「き、消えた…?どういう事だい?」

 

 ソーマの言っている事が理解出来ず、ペイラーは戸惑いながらどういう事か聞き返す。

 

『エイジスで光の柱に飲まれて…光が消えたらそこにはもうユウはいなかった…』

 

「い、言っている事の意味がよく分からないよソーマ?」

 

『すまない、現実では起こり得ない様な事が起きて…まだ混乱している。』

 

 ソーマから当時の状況を聞いたが、突拍子の無い事ばかりだったので、ペイラーはますます混乱した。

 

『とにかく、帰ってから状況を説明する。ただ、こっちも色々とありすぎて何から説明したらいいか…』

 

「そう…か…分かったよ。」

 

 状況の整理も込めて、取り敢えずソーマ達は極東支部に戻る事にペイラーに伝える。

 

『それから、アリサなんだが…』

 

「アリサが…どうかしたのかい?」

 

 ここに来てアリサの話が出た…これまた嫌な予感がして、ペイラーは恐る恐るソーマに尋ねる。

 

『…いや、これも帰ってから話す。別に怪我とかではないんだが…たぶん、直接見た方が早い。医務室の準備だけしておいてくれ。』

 

「…分かった。」

 

 少し間を置いた後、ソーマが医務室の準備を頼むと話を切り上げる。ペイラーも了承すると、そのまま通話は切れた。

 

(間に合わなかった…か…)

 

 ペイラーは大きなため息をつきながら肘をついて俯き、心の内で大きく落胆する。傍らのディスプレイにはアラガミ化の制御理論で研究した、未整理の実験データが映し出されていた。

 

To be continued




後書き
 最近食っても食っても満腹感が得られない私です。色々と不思議な存在が現れたりして意味不明なままリザレクション編が終わりました。…最後がこんなんでいいのだろうか?
 ペイラーが『P16偏食因子』やらヒトとアラガミの遺伝子を持つなど、ユウキの正体に気がついたみたいですがその話はまた後々…
 バイオ工学難しいわぁ…下にクロウの設定紹介を載せます。

クロウ(人形)

 シユウを喰った事で人の姿へと進化を果たした。黒をベースにした配色は相変わらずで、長くなった腕から翼が生えて飛び回り、人と変わらぬ顔になり表情が現れ、喋れる様になった。
 シユウと同様掌からオラクル弾を放ち、着弾地点に協力な爆発を起こす。中型種のシユウよりは少し小さくなり、鳥形よりも小回りが利く様になって、複雑な軌道で飛び回るなどトリッキーな戦い方も出来るようになる。
 飛行能力で素早く接近し、両手足の爪で敵を切り裂く奇襲が得意。気付かれても弾速の速いオラクル弾で敵を当てて吹っ飛ばす事も可能。
 何故かアラガミ化したユウキはクロウと同じ顔になっていた。
 髪型のイメージはスーパーサイヤ人3です。

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