GOD EATER ~The Broker~   作:魔狼の盾

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何故いつまで経ってもリンドウさんは射撃が下手なんだろう?


mission86 拉致

 -嘆きの平原付近-

 

 ユウキが第一部隊の前から消えてから5日後、ユウキの捜索を続けているが発見する事は出来ずにいた。そんな中、僅かな時間だがユウキの反応を旧ビル街で感知したと言う情報が入ったため調査に来ていた。

 

「反応があったのはこの辺りか…」

 

「ああ。多分色んな場所をフラフラしている間に近くを通りかかったってところだろう…今ならまだ近くに居るはずだ。必ず見つけるぞ。」

 

 ソーマとリンドウがユウキの捜索を始めようとすると、唐突に通信機に連絡が入る。

 

『皆さん聞こえますか?』

 

 通信に出るとヒバリの声が聞こえてきた。それを聞いて現在第一部隊の指揮をしているリンドウが話を進める。

 

「こちら第一部隊リンドウ。何があった?」

 

『たった今、旧ビル街に強力なオラクル反応を確認しました。反応のパターンから、おそらく先日発見された鳥型のアラガミ…『クロウ』のものと思われます。それから…』

 

 旧ビル街で新種のアラガミ『クロウ』の反応があった事を、少し慌てた様子で伝えるとヒバリは一旦言葉を区切る。

 

『クロウと交戦していると思われる、ユウキさんの腕輪反応を確認しました。』

 

「ほ、本当ですか?!」

 

 ユウキの腕輪反応を確認したと聞くと、アリサがその情報に食い付く。

 

『はい。ただ、先ほども言いましたが、戦闘中の可能性が非常に高いです。接触する場合は十分に注意してください。』

 

 しかし、ユウキの反応はクロウと一緒に居るものだ。それならば戦闘中であることはほぼ確実だ。ユウキがアラガミ化が大きく進行しているとしたら第一部隊を襲ってくる可能性も十分にあり得る。その事を踏まえた上で近づくようにヒバリは注意を促す。

 

「ようやく手がかりが掴めたな。」

 

「リンドウ…!!」

 

 ソーマとサクヤの表情が緊張感を持ちながらも少し明るいものに変わる。

 

「ああ、ユウの元に急ぐぞ!!」

 

「うん。必ず連れ戻そう!!」

 

「はい…必ず…!!」

 

 リンドウから指示が出ると、コウタとアリサの表情は逆に強張る。

 

(今度こそ…必ず…!!)

 

 これを逃せばいつまたチャンスが来るか分からない。引きずってでも必ず連れて帰る。そんな事を考えていると、神機を握るアリサの手に無意識に力が入る。そのままユウキが居ると思われる旧ビル街に向かって行った。

 

 -嘆きの平原-

 

「チッ!!」

 

 上空から飛びかかって来るクロウを横に避け、反撃しようと神機を振り上げるがクロウが急にユウキの方に向いて大きく羽ばたき軽く上昇する。

 

「っ?!うぉっ?!」

 

 羽ばたいた時に起こった強風でユウキは足を取られ、後ろに軽く飛ばされてそのまま倒れてしまった。

 

「クッ!!」

 

 その間にクロウは体勢を整えてユウキに向かって突っ込んできた。まだ立ち上がっていないユウキにこれを避ける術はない。間に合うかはかなり怪しいが直撃だけは避けようと右手の神機の装甲を展開しようと前に神機を突き出す。

 

  『ズガガガ!!』

 

 突如クロウにオラクル弾が無数に撃ち込まれる。しかしクロウは旋回して間一髪で避ける。

 

「ユウ!!」

 

 聞き慣れた声が聞こえてきた方を向くと、神機を銃形態に変形してクロウにオラクル弾を撃つアリサと第一部隊が援護に来た。

 

「させるかよ!!」

 

 オラクル弾を避けたクロウは上に逃げようとするが、今度はコウタがクロウの頭上に段幕を張り、逃げ場を塞ぐ。

 

「そこっ!!」

 

 逃げ場を一方向に絞られたクロウは追い込んでくるアリサの銃弾から離れる様に飛ぶ。上はコウタの段幕で塞がれている以上、このまま真っ直ぐに飛ぶしかない。

 そしてサクヤが逃げる先に2発レーザーを撃つ…所謂、偏差射撃でクロウを狙う。下は地面に、後ろと左右に逃げれば追い込んでくるアリサの銃弾に、上に逃げればコウタの銃弾、逃げた先にはサクヤのレーザーが迫ってくる。どう足掻こうともいずれかが当たる。誰もが避けられないと思った。

 しかしクロウは急加速してコウタとアリサの段幕を振り切り、サクヤが撃ったレーザーとコウタの段幕の間を抜ける様に急上昇しつつ一気に旋回する。

 

「フフッ…」

 

 だがサクヤはその様子を見て不敵に笑う。

 

  『バスンッ!!』

 

 2発目に撃ったレーザーが急に上に曲がり、クロウの左翼を撃ち抜いた。体勢を崩し、高度を下げてきたところをソーマとリンドウが飛びかかかる。

 

「ハッ!!」

 

「おりゃあ!!」

 

 クロウの腹にX字に切り傷が着いてクロウはビルの残骸に叩きつけられた。しかし羽毛に守られたのか、大きな傷にはならなずに体勢を立て直す。

 

「チッ!!」

 

「ユウ!!」

 

 第一部隊がクロウに一撃入れる間に、ユウキは立ち上がりながら舌打ちする。そのままユウキは飛び上がるクロウに向かって走り出す。

 

「ヤツの注意を逸らせ!!後は何とかする!!」

 

 ざっくりとした指示を出し、両手の神機を内側に振り抜いてクロウに斬りかかる。しかしクロウは急上昇してそれを避ける。対して上に向かって外へと両手の神機を振り抜き追撃するが、一気に加速してユウキの攻撃から逃げる。

 高度を上げて近接攻撃が届かない高さまで上がると、ユウキは廃棄と化したビルの中に入って行った。

 

「サクヤ!!アリサ!!コウタ!!ヤツを地表に誘導してくれ!!」

 

 リンドウの指示でアリサとコウタが弾幕を張って追い込み、逃げ道をサクヤの狙撃弾で潰していく作戦を取った。しかし、今のクロウは地表近くを飛んでいるわけではない。弾幕で追い込み、狙撃弾で逃げ道を塞いでも器用に旋回して包囲をすり抜けていく。

 

「クッ!!リンドウ!!貴方も弾幕張って!!3人じゃ囲い切れない!!」

 

 先と状況が変わり、クロウを囲む事が出来ないと判断したサクヤがリンドウにも砲撃に加わるよう進言する。

 

「けど俺は…」

 

「良いから早く!!」

 

「…どうなっても知らねえぞ?!」

 

 自身の射撃の腕は素人よりも酷い事はリンドウ自身が良くわかっていた。それでも弾幕で取り囲み、誘導するには人数が足りないため、サクヤはリンドウを一喝すると、リンドウは渋々右腕を銃形態に変えてオラクル弾を発射する。

 しかしリンドウの銃弾は3人の弾幕からかなり離れたところに発射され、クロウは簡単に3人の弾幕を避けていく。そして再びクロウを取り囲むも、リンドウが弾幕を張るとコウタの弾幕と干渉して邪魔をしてしまい、またクロウを取り逃がす事となった。

 

「リンドウさん下手すぎですよ!!」

 

「だから言ったろ!!こっちは銃なんて使った事無いんだっての!!」

 

 実際に銃撃に参加させたがフォローどころか邪魔になった事にコウタが愚痴る。リンドウも慣れない銃を使うのに焦っているのか、余裕のない口調で返す。

 

「…クソッ!!」

 

 しかし、クロウが降りてこないと攻撃も誘導も出来ないソーマは苛立ちを覚えていた。何も出来ないのか?何か出来ないか?器用に弾幕を避けるクロウの気を逸らす方法は何か無いかと考える。

 ソーマは使えるものはないかあちこち見回して数歩下がると、何かを踏んだのかバランスを崩す。その足元を見ると丁度野球ボール程の石だった。よく見ると辺りにも不揃いだが似たような石はいくつかあった。それを見たソーマは足元の石を手に取り、飛び回るクロウを見据える。

 

(狙うなら翼…?胴か…?いや、アラガミにそんな事しても無駄だ…なら…)

 

 何処を狙うか…考えが纏まったソーマは神機を左手に持ち、右手に石を持ち変えて投擲の体勢を取る。

 

(視界を奪う!!)

 

 ソーマはクロウの顔面目掛けて全力で石を投げ付ける。

 

  『ゴッ!!!!』

 

 鈍い音と共に石はクロウの右目に当たった。ソーマの全力投球をもってしてもアラガミにはダメージを与える事など出来はしない。しかし、意識外からの不意討ちによる衝撃と視界を塞がれた事に驚いて、今まで器用に飛んでいたクロウはバランスを崩して高度をガクッと下げた。

 

 

  『ズガガガ!!』 

 

 体勢を崩したクロウはリンドウが明後日の方向に撃っていた弾幕に偶然当たり、さらに体勢を崩す事となった。その間に廃ビルの屋上に登ったユウキが左右の神機それぞれ1度ずつ穿顎を展開して空中を飛んでしてクロウの真上に移動する。

 それに気が付いたクロウがその場から離れようとするも、逃げ道をアリサ、コウタ、リンドウの弾幕で制限され、残った逃げ道に逃げ込もうとするもサクヤの狙撃弾に邪魔され、身動きが取れなくなった。

 その隙に両腕の神機から『パニッシャー』が展開され、それを下に向ける。

 

「くたばれ。」

 

 静かに呟くとユウキは勢い良く落下する。重量級の捕食口が自然落下で捕食口がクロウの背中にクリーンヒットする。

 重量級の捕食口が2つ。その重さを支えられるはずもなく背中を喰い千切られて地面に落下する。

 ユウキがクロウから飛び降り、警戒のために第一部隊がクロウを取り囲み様子を窺うがピクリとも動かない。

 

「…倒した?」

 

 コウタがポツリと呟く。誰もがクロウを倒したと思いとどめにコアを摘出しようと、ユウキがゆっくりと警戒しながらクロウに近づく。そして捕食口を展開し、神機を構える。

 

  『ヴォ"ォ"オ"!!』

 

 しかし、コアを摘出しようと言うタイミングで新手が滑空しながら飛び込んできた。

 

「シユウ?!」

 

「チッ!!こんな時に!!」

 

「チッ!!」

 

 コア摘出を中断して向かってくる高速で向かってくるシユウを迎撃すべく、第一部隊はシユウに対して戦闘体制を取る。当然クロウから注意が逸れる。

 

「グァッ?!」

 

 その瞬間クロウは低空飛行でユウキの横を猛スピード飛んでいく。ユウキとぶつかり、転んでいようがお構い無しに一目散にシユウ突っ込む。距離が詰まるとクロウは少しだけ上昇し、滑空するシユウの両翼手を両足で掴む。するとクロウはシユウを地面に仰向けになる様に叩きつけ、そのままマウントポジションを取る。

 クロウは身動きの取れないシユウに鋭い嘴を腹に何度も突き刺し、シユウの体を啄む。

 

「シユウを…喰ってる?」

 

 そして何度かシユウを喰うと、クロウは頭を上げる。その嘴にはコアが咥えられて、そのままコアを飲み込む。

 

  『メキッ!!バキベキッ!!ボキッ!!』

 

 骨格が作り変わっているのか、首があらぬ方向に向いたり、羽の位置がずれたりしながら骨を折ったり砕いたりしている様な音が辺りに響き渡る。

 そしてクロウの身体が少しずつ崩れ、崩れた部分は黒い霧になってクロウの身体を覆い隠していく。

 クロウが完全に霧になり、少しずつ姿を整えて次第に霧が晴れる。するとそこには全身のほとんどが黒色で、獣脚の足2本で立ち、長い腕に羽を生やし、センター分けでボリュームのある長髪…そして牙が生えた口元と、ハッキリと人の顔となっているクロウが現れた。

 

「姿が…変わった…?」

 

「シユウの様な…人型に…」

 

 アラガミが進化するところを目の前で見た第一部隊は動揺して動きが止まってしまうが、それでも変化したクロウを観察していく。と傷が消えている。恐らく全快しているのだろう。そう考えて、動揺しつつもいつでも動ける様に警戒する。

 

「レイ…ヴン…」

 

「「「っ!!」」」

 

 第一部隊はクロウが喋った事に驚いて動きを止める。クロウが目前で人型へと進化しただけでも驚いたのに、さらに話しかけてきたのだ。初めての経験ではないが、喋ると思っていなかった分驚く事があるのだろう。

 

「レイヴン…オレノ…コ…オッテ…コイ…」

 

「レイ…ヴン…?誰の事?てか…人?」

 

 『レイヴン』、それから追ってこいと謎の多い事を言われ、第一部隊は混乱していた。コウタがポツリと呟くと、混乱した第一部隊を置いて、人型となったクロウは勢いよく空高く飛び上がり、そのまま何処かへと飛び去っていった。

 

「…」

 

 何が起こっているのかよく分からないまま、第一部隊はクロウの飛び去った方を眺めて呆然としていた。すると、徐にユウキが神機を仕舞いながら、リンドウ達から離れる方に歩き始める。しかし突然ユウキは歩みを止める。

 

「離せ…アリサ…」

 

 いつの間にかアリサの両手がユウキの左手を掴んでいた。手を掴まれていては前に進めない。ユウキは低く静かに圧を込めてアリサに手を離すように言う。

 

「…嫌です…」

 

 対してアリサも静かに返す。この手を離したら2度と会えなくなる。そんな気がして絶対に離すものかと、ユウキの手を握る両手に力が入る。

 

「離せ…殴るぞ…」

 

 相手は女の子だ。殴られて顔だとかが腫れたりするのは嫌だろうし、ここまで言えば引き下がるとユウキは思っていた。

 

「絶対に離さない!!殴られても蹴られても絶対に離さない!!」

 

「っ!!」

 

 しかし実際には引き下がるどころか、むしろ余計に手を離さなくなった。完全に想定外な対応に、驚きつつも自分の思い通りに事が運ばない事にユウキは苛立ちを覚え、振り向いて右手を振り上げる。

 

「っ?!??!!」

 

 しかし振り上げた拳はアリサに届くよりも先に、間に割り込んできたリンドウの強烈なパンチがユウキの鳩尾に綺麗に入る。

 

「リン…ドゥ…」

 

 恨めしそうな視線をリンドウに向け、ユウキは膝から崩れ落ちる。そして意識を失いリンドウに向かって倒れる。

 

「リ、リンドウさん…?」

 

「大丈夫だ。気絶させただけだ。」

 

 気を失ったユウキを抱え、リンドウは撤収する。それに続いて第一部隊もそれぞれ帰還準備に入った。

 

To be continued




後書き
 ユウキ、帰還(強制)。しかし諸問題が解決していないのでこれからどうなる事やら(ワクワク
 クロウが目の前で進化したりと状況も次々と変わっていく中、描写が雑になっている気ががが…
 次でクロウ(鳥形)の設定です。


・『クロウ』
 黒い身体で全身に羽毛が生えていて、大きな翼を持ったカラスの様な鳥形のアラガミ。
 ブレスや遠距離攻撃は出来ず、直接的な攻撃しか出来ない。しかし、同じ空中を飛び回るサリエルと違い、直接的で高い運動性と機動性を持ち、複雑で素早い空中戦を仕掛け、鋭い嘴で突き刺したり、爪で捕まえる、切り裂いてくる。
 羽毛のせいで胴体にはあまり攻撃は通らないが、火属性、切断属性ならば通る。翼には雷属性の貫通、頭は火属性の破砕が有効。ユウキ達との戦闘で一度倒されているが、乱入してきたシユウを喰い、人形に進化する。

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