GOD EATER ~The Broker~   作:魔狼の盾

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アラガミ化が進行したユウキ…仲間たちの反応は…?

今回グロ描写があります。グロ描写は※で挟んでありますので、苦手な方はページを飛ばしてください


mission83 殺せ

 -???-

 

「やってしまいましたね…」

 

「…」

 

 いつもの真っ暗な夢の中でユウキは俯き。虚ろな目で立っていた。目の前にはユーリが立っていた。

 

「貴方のせいで…沢山人が死にましたね。」

 

「…」

 

 先の防衛戦の事を言っているのだろう、ユーリが話しかけてきたが、ユウキは答えない。するとユーリの隣に現れたエリックがユウキに語りかける。

 

「君は結局何がしたかったんだい?誰かを助ける訳でもなく、ただでしゃばって、半端な事をした結果がこれだ。今まで君がやってきた事と何も変わらないじゃないか。」

 

「今までと…変わらない…?」

 

 エリックの言っている事の意味が分からず、ユウキは聞き返す。

 

「結局…貴方は自分が良ければそれで良いんでしょう…?特に何かするわけでもなく…何の考えもなしに…虐げられる人に手を差しのべる…それがもっとも酷い仕打ちだってこと…分からないんですか…?」

 

「…」

 

 『分からない…誰かを助ける事はそんなに悪い事なのか…?』とユーリの言った事を考えていた。しかし何がダメなのか、何故そんな事を言われるのか…どんなに考えても答えは分からなかった。

 

「助かる希望を見せておいて…実際にはそんな希望なんてものは最初から無いんだからね…凄く残酷な殺し方だよ…彼も、僕も…そうやって君の偽善に殺された…」

 

「このままだと無駄に生き残ろうとする貴方(偽善者)

以外は…みんな死んじゃいますよ?」

 

 エリックとユーリが何を言っているのか理解出来ない。何が言いたいのか考え込んでいると、不意にユーリが話を続ける。

 

「ああ、でも…」

 

「…?」

 

 ユーリが一旦言葉を区切るとユウキの足元に向けて指を指す。

 

「貴方が僕達と同じように殺した人なら…ほら、足元に…」

 

「…ぇ?」

 

 ユーリが何を言っているのか理解出来ず小さく声を出すと…

 

「っ?!!?」

 

 突然足を掴まれ、一気に後ろに引かれて盛大にうつ伏せに倒された。

 

「神裂…何で俺達を見殺しにした…!!」

 

「僕たちが…何をしたって言うんですか…!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 頭から血を流したヤナギがユウキの足を押さえ、腹から胃や腸が飛び出たカオルが肩を押さえる。他にも焼け焦げて悪臭を放つ者、首が捻切れ、血が吹き出したままの者と言った防衛戦で死んでいった神機使いやがユウキにまとわりつき、腕や頭を押さえつける。

 

「や、止めろ!!!!放せ!!!!」

 

「呪ってやる…!」

 

 腕を掴んでいた神機使いが呪詛の言葉を呟くと、手始めに右腕を稼働方向とは逆に曲げ、限界まで曲げると力任せに曲げて腕を折るとそのまま右腕を肩から引き千切る。

 

「ア"あ"ぁ"ぁ"ぁ"ァ"ぁ"ア"ぁ"あ"あ"ア"ア"ァ"ァ"ぁ"ぁ"あ"!!!!」

 

「殺してやる…!」

 

「ぎャぁ"ぁ"ぁ"ァ"ぁ"ア"ァ"あ"あ"ア"ァ"ァ"ぁ"ぁ"あ"!!!!」

 

 怨みの籠った殺意を向け、ユウキの足の指を1本ずつ捻切っていく。そしていつの間にか血塗れになっている大勢の人が、何処から取り出したのかナイフ等の刃物でユウキを突き刺し、皮を剥ぎ、切り落とす所がなくなるまで手足を切り落とす。

 それを繰り返しているうちに、ユウキは頭と胴体、そして左手だけが残った状態になり、そうなる間もユウキの絶叫は止む事はなかったが、最後の方は微かに声を出すのが精一杯だった。

 

「独りて死ぬくらいなら…」

 

「ぁ"…ガ…」

 

 もう虫の息となったユウキにヤナギが近づき、神機を突き付ける。

 

「道連れにしてやる!!」

 

「ぁ"ァ"ァ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ァ"…」

 

 最後に怨嗟の声をユウキに投げ掛けると、後ろから神機を喉元に突き刺した。喉を刺されて微かな声をあげる事しか出来ないユウキは、残された左手を助けを求める様に伸ばした。

 

 

(独り…独り…か…)

 

 意識が消え行く中、走馬灯の様に過去の事を色々と思い出していた。そんな中、『独り』と言う単語から、自身が最も独りを意識した時の事を思い出していた。

 

『ひとりにしないでぇぇぇぇえぇえ!!!!!』

 

 かつて声と喉を潰してでも叫んだ一言を思い出しながらユウキの意識は消えていった。

 

 -医務室-

 

「起きたみたいだね。」

 

「…」

 

 ユウキが目を覚ますとベッドの上だった。虚ろな目でキョロキョロと目を動かして辺りを見渡すと左側にルミコがいた。状況的には医務室なのは間違い無いだろう。

 

「大丈夫?具合悪いとか…ない?」

 

「…はい。」

 

 ルミコがユウキの体調を聞いてきた。それに問題無いと答えながらユウキは上体を起こす。

 

「…君の身体だけど…アラガミ化がまた進行したみたい…」

 

「…そうですか。」

 

 寝起きから知りたくない事実を聞かされる。しかし聞かない訳にもいかないので、聞いた後に返事をする。

 

「博士とも話し合ったんだけど…もう君は任務に出られない…って言うか出せない。君の身体を治すためにも、しばらくは医務室とラボを行き来する生活になる。」

 

「…分かりました。」

 

 任務に出られないのは痛いがこの身体では仕方がないと諦めて、大人しくルミコの指示に従う。

 

「準備…必要?」

 

「…はい。ついでに…皆にも…伝えてきます。」

 

 流石に自室にも帰れないとなると何の準備も無しに医務室やラボラトリに引きこもるのは難しいだろう。とは言えユウキは私物も少ないので準備するものと言えば着替えくらいしか無い。

 寧ろユウキにとって皆に任務に出られなくなる事を伝える方が本来の目的とも言える。自分の口で伝える事で自分なりの方法でケジメをつけたいのだ。

 

「うん…明日からは、外を歩く事は出来ないと思うから…困らない様に色々と準備しておいてね。」

 

「分かりました…」

 

 ルミコと一通り話終えると、ユウキはベッドから降りて医務室を出ようとする。すると遠慮がちに『ねえ。』とルミコから呼び止められた。

 

「…本当に大丈夫?その、防衛戦の事…」

 

「大丈夫ですよ…」

 

 『大丈夫』そう言ってユウキは振り向く。

 

「ただ目の前で仲間がたくさん死んだだけですから…」

 

「っ…!!」

 

 ルミコの目に映ったのは微笑む様に口角が上がり、目尻はつり上がっているが、死んだ魚の様な目をして涙を流すユウキの顔だった。ユウキは複雑怪奇な表情で返事をした後、医務室を出ていった。

 そしてどんな感情を示しているのかも分からない表情でとんでもない一言を言い放ったユウキを見て、ルミコは衝撃を受けながらも、もうユウキを戦場に出してはいけないと確信した。

 

 -エントランス-

 

 ペイラーからユウキの状態を聞き、アラガミ化の進行を治す、あるいは遅らせる研究に必要な素材を集める任務に行っていた第一部隊が戻って来た。

 だが、リンドウ達が帰ってくるなり『何か隠しているだろ』と訴えかける疑惑が込められた目線が飛んできて、第一部隊は何とも言えない感覚となった。

 

「なんか…」

 

「ええ…」

 

「ん~…なんか居心地が悪いなぁ…」

 

 この奇妙な居心地の悪さを覚えながらもヒバリに任務の事を報告し、その後逃げる様に第一部隊はエレベーターに向かおうと歩き出すと、その途中シュンと数人の神機使いとすれ違う。最後に一番後ろにいたソーマが彼らとすれ違う。

 

「…………………!!」

 

「あ"ぁ"…?」

 

 しかしすれ違うと同時に、突然ソーマが怒りを込めた声でシュンを威圧しながら絡んできた。

 

「そ、ソーマ?」

 

「ど、どうしたんですか?」

 

 コウタとアリサにはただすれ違っただけに見えていたので、突然ソーマが怒った様に見えて驚いていた。流石にリンドウとサクヤも気が付いて足を止める。

 

「お前…何て言った?」

 

 ソーマは今にも胸ぐらを掴みそうな勢いでシュンに詰め寄る。しかしシュンは軽蔑を込めたイヤらしい笑みを浮かべながらソーマを見る。

 

「…裏切り者って言ったんだよ…あの『アラガミ野郎』がどんな状態か…お前ら全員知ってたんだろ?」

 

 アラガミ野郎…今の極東支部の状況から、思い当たる人物は1人しかいない。しかしそれを聞いたソーマはさらに睨みを利かせ、殺気まで放ち始めた。

 

「そのアラガミ野郎ってのは…まさかユウの事じゃねぇだろうな?」

 

「そいつ以外にあり得ねえだろ…」

 

 相変わらず嫌味な笑みを浮かべたシュンがソーマの言った事を肯定する。

 

「お前っ…!!」

 

「止せっ!!ソーマ!!」

 

「止めなさいソーマ!!」

 

「シュンも止めなさい。」

 

 遂にソーマがシュンの胸ぐらを掴む。流石にこの状況ではサクヤが嗜め、リンドウがソーマを抑えに入る。シュンの方には近くに居たジーナが割って入る。しかし言いたい事が半分出ていたシュンはもう止まらなかった。

 

「アラガミ化したと思ったら素手でアラガミを倒して全て終わったら人に戻る…どう考えたっておかしいだろ!!!!」

 

 シュンが言いたい事、聞いたい事を吐き出していく。しかし、それはあの戦場から帰ってきた神機使い全員が聞きたい事でもあった。

 半分アラガミ化し、アラガミの大群を圧倒し、全て終われば人に戻る。今までの常識から逸脱した存在となりつつあるユウキについて色々と聞きたい事があるのは皆同じだった。

 常識が通じない。それ故に誰もが本当に安全なのか、常識から逸脱した力を自分達に向けないのかが気になり、『異常な力』に誰もが恐怖心を覚えていたのだ。

 

「あんなバケモノ!!!!さっさと殺した方が良いに決まってんだろ!!!!」

 

 そしてシュンが遂に恐怖から逃げる為の一言を叫んでしまう。

 

  『バギィッ!!!!』

 

「テメェ…」

 

 リンドウの制止を振り切り、ソーマがシュンの顔を殴り飛ばす。そしてソーマは少し小さく、怒りで震えた声を出す。

 

「もういっぺん言ってみろぉっ!!!!」

 

 キレたソーマが大きな声でシュンに怒鳴り散らす。

 

「ああ、何度でも言ってやる…あんなバケモノは殺した方が良いって言ったんだよ!!!!」

 

 しかし、殴られて頬を腫らしたシュンも格上であるソーマに負けじと怒鳴り返す。お互いにキレているため、既に収拾がつかなくなり始めていた。

 

「テメェ…ぶっ殺してやるっ!!!!」

 

 ソーマが啖呵を切ると、再びシュンを殴り飛ばそうと飛びかかる。対してシュンもソーマに対して殴りかかる。周りが一斉に騒ぎだして止めに入る。ソーマには第一部隊が総出、シュンには周りに居た数人の神機使いが止めに入った。

 

「大体何なんだよオメーらは?!大事なこと何にも言わねぇでよ!!肝心な時には何時も俺達は蚊帳の外じゃねぇかよ!!」

 

 案の定ソーマには敵わずボコボコに殴られたシュンが数人の神機使いに引きずられて騒動から遠ざけられた。ソーマもリンドウとコウタに取り押さえられていた。

 そんな中、第一部隊以外の大半が持っている不満をぶちまける。

 

「その間にとんでもない事になってよぉっ!!そのくせとばっちり受けるのは俺達じゃねぇか!!」

 

  いつも気が付いたら自分達や支部が危ない橋を渡っている。それを先導しているのが第一部隊とペイラーであり、彼らの判断で何時自分達預かり知らぬ所で身が危険に晒されるかわからない。

 シュンが持つ不満ももっともなものと言えるだろう。

 

「それにっ!!アイツがあんな状態で俺達を襲わないとは言いきれないだろ!!」

 

「うるせぇっ!!!!」

 

 アラガミ化が進行しているユウキが暴れ出す。あり得ない話ではない。シュンが誰もが考えるであろう懸念を口にすると、ソーマがそれを遮る様に怒鳴り散らす。

 

「アイツが…ユウがそんな事する訳ねぇだろっ!!!!!」

 

「分かってるよ!!!!」

 

 ソーマはユウキが暴れる事はないと言いきる。しかし今度はシュンがソーマの言葉を遮る様に大声で『分かってる』と返す。

 

「分かってるよ…アイツ『自身』はそんな事しないってな。けどな…」

 

 シュンは恐怖心で歪んだ顔でソーマを睨む。

 

「アイツは『あの力』を制御出来てねぇじゃんか!!」

 

「っ!!」

 

 『力を制御出来ていない』それを聞いた瞬間、アリウス・ノーヴァとの戦いで自分達も襲われた事を思い出し、ソーマは反論出来なかった。ソーマだけではない。第一部隊の誰もが自身の力を抑えきれないユウキの現状に反論する事が出来なかったのだ。

 

「お前らは良いよな、極東支部のエリート様なら、最悪自分の身を守る事くらいは出来るだろうしよ。けど、一般の神機使いに毛が生えた様な実力の俺達じゃ…あんな力に抵抗しきれねぇ…文字通り瞬殺だ。」

 

「…」

 

 シュンの言い分は自身を含め、第一部隊以外の実力を客観的に評価したもので至極当然な主張だった。寧ろ仲間と言う理由で無条件に自分達を襲わないと信用しきっているソーマの主張の方が異常と言えるだろう。

 

「…そうだよな…」

 

 一瞬の沈黙の後、誰かは分からないがシュンの言い分に賛同する声が聞こえてきた。

 

「あんな…出鱈目な力を制御出来ないなら目の前に爆弾があるのと同じじゃないか!!」

 

 先の声を皮切りにユウキに対する不満が次々と出て来る。

 

「そうだな。不安定な状態が続く様ならいっそ殺してしまう方がこっちとしては安心出来る。」

 

「ふざけんなっ!!」

 

「そんな事させません!!」

 

 そんな中カレルが力を制御出来ないなら殺してしまう方が良いと言う。流石にコウタとアリサが反論するが、自身の身の安全を考えれば今のユウキが全く信用出来ないと言うカレルの言い分もまた事実だ。

 

「アリサ!!コウタ!!落ち着きなさい!!」

 

 ユウキを殺した方が良いと言う意見に殺気立ち始めたコウタとアリサに対してサクヤが制止をかける。

 

「けど、実際危ない事には変わらないだろ!!」

 

 しかし何処からともなくユウキが危険な存在だと言う声がとんできて、再びコウタとアリサ、それからソーマも殺気立つ。

 

「まあ、殺せとまでは言わないけど…何かしらの対策は無いと…この支部も危ないのは事実ね。」

 

「せ、先輩はそんな事しませんよ!!」

 

「アイツにそんな気がなくてもそうなるかも知れないだろ!!」

 

 殺す必要は無いが拘束くらいは必要だと言うジーナ、ユウキは自分達に危害を加えないと信じているフェデリコ、しかしユウキの意思に関係なく襲いかかってくるかも知れないと、別の神機使いが声を荒らげて必死にフェデリコを黙らせる。

 

「だからって…先輩にそんな事…」

 

「そ、そうですよ…」

 

 アネットとカノンはユウキを殺せと言う意見に反対してはいるものの、ユウキが危険な存在になりつつあることも分かるので弱腰の反論になっている。

 

「皆落ち着け!!俺達がどうこう言い争ったって解決する問題じゃないだろう!!」

 

「タツミの言う通りだ。今回の件は支部長代理に指示を仰ごう。」

 

 タツミとブレンダンが殺気立つ神機使い達を抑えようと宥める。

 

「そんな悠長な事言ってられるか!!」

 

「今すぐ殺せ!!奴が手を出してくる前に!!」

 

 しかしタツミとブレンダンのペイラーに指示を仰ぎつつ長期的に対策していく事を主張すると、ユウキの危険性から恐怖心を抱いた神機使い達が今すぐ殺せと息巻き始める。

 

(そんな…)

 

 そんな神機使い達の様子を見たアリサはあることに気が付いて信じられないと言った心情になる。

 

(誰一人…ユウの身を案じる人が居ないなんて…)

 

 誰もがユウキを殺す、殺さないと言う事について話しているが、ユウキは今無事なのから、アラガミ化が治せるのかを心配する者が本当にごく一部しか居なかったのだ。

 そんな中、シュンが再び口を開く。

 

「そうだよ…目の前であんなバケモノになって、アラガミの大群を一瞬で全滅させる様な力を見せつけて…そんな力を制御出来ないのに俺達に向けないって…何で言い切れんだよ!!」

 

 周りの意見のほとんどがユウキは危険だ、殺せと言う意見を聞いて、『俺は間違ってない。』とシュンはしたり顔になる。そのためか、遠回しにユウキを殺すべきだと強く主張する。

 

「だったら…制御出来る様にしてやれば良いだろ!!!!」

 

 ユウキが力を制御出来る様にする。何をするかは分からないが、そう言うと激昂したままソーマが立ち上がり、エレベーターに向かう。

 

「リンドウ!!!!手伝え!!!!お前の腕が必要だ!!!!」

 

「え?あ、ああ…?」

 

 リンドウに手伝う様に言うと、何をするのか分からないままリンドウはソーマに着いていく。2人は喧騒の後をそのままにしてエレベーターに乗り込んだ。

 

 -エレベーター内-

 

 時はユウキが医務室を出ていたところまで遡る。医務室を出たユウキはエレベーターに乗り、神機使いが集まっているであろうエントランスに取り敢えず向かう事にした。

 

(何であんな事言ったんだろう…)

 

 エレベーターの中で、何故『仲間が死んだだけだ』などと馬鹿な事をルミコに言ったのだろうと考えていた。しかし自分の行動について『何故だろう』と考えている時点で答えは出るはずもない。

 

(はぁ…何だか…気が重い…)

 

 また怒られるだろうと思い、ゲンナリしているとエレベーターが止まった。

 

 -エントランス-

 

 エレベーターの扉が開くと何やら大きな声で言い争っているのが聞こえてきた。アラガミ化や人に戻ると言った言葉が聞こえてくる。まさか自分の事だろうかと思い、ユウキはエレベーターから降りる。

 

「あんなバケモノ!!!!さっさと殺した方が良いに決まってんだろ!!!!」

 

(…っ!!!!)

 

 エレベーターから降りると同時に聞こえてきた『殺せ』と叫ぶシュンの声…先の会話でアラガミ化や素手でアラガミを倒す、人の姿に戻ると言った言葉が聞こえてきたので自分の事だろう。それを聞いた瞬間、ユウキは自らの体が氷にでもなったかのように冷たくなった気にがした。

 

 『バギィッ!!!!』

 

「テメェ…」

 

 リンドウの制止を振り切り、ソーマがシュンの顔を殴り飛ばす。そしてソーマは少し小さく、怒りで震えた声を出す。

 

「もういっぺん言ってみろぉっ!!!!」

 

 キレたソーマが大きな声でシュンに怒鳴り散らす。

 

「ああ、何度でも言ってやる…あんなバケモノは殺した方が良いって言ったんだよ!!!!」

 

 しかしシュンも格上であるソーマに負けじと怒鳴り返す。お互いにキレているため、既に収拾がつかなくなり始めていた。

 

(…)

 

 心の何処かで聞き間違いだと自分に言い聞かせていたが、そんな望みも打ち砕かれ、ユウキは皆に会うことなく踵を返す。

 

「テメェ…ぶっ殺してやるっ!!!!」

 

 ソーマが啖呵を切ると、周りが一斉に騒ぎだして止めに入る。そんな喧騒を聞きながら、ユウキは再びエレベーターに戻って行った。

 

 -自室-

 

 感覚が麻痺したかのように動作が鈍くなった身体で、ユウキはどうにか自室に戻る。扉を閉めて鍵をかけ、俯いたまま扉に背中を預ける。

 

「…っ!ぅっ…うぅっ…ッグ…ゥゥゥァアア…」

 

 ポロポロと涙を流したユウキは背中を預けたまま座り込み、膝を抱え込んでくしゃくしゃの顔で声を殺して泣き続けた。

 

(…ここでも一緒だった…やっぱり…俺に居場所なんて…生きていて良い場所なんてなかった…)

 

 本人の居ないところで友人、仲間達に明確に拒絶され、殺せと息巻いた者に殺意まで向けらた。ここにはもう居場所は無い。周りの者全てが死ね、殺すと責められ、かつて受けた希望や信じたものを何もかも粉々に砕かれた様な感覚になる。

 

(もう…ここには…居られない…)

 

 ユウキはその後も夜が更けるまで泣き続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それはきっと、何気ない一言…当人からしたら恐怖した事で言ってしまった、本心かも分からない様な一言だったのだろう。だが…それと同じ様な考えを持つ周りの者が同調し、恐怖でひとつの意思がまとまった時…無意識に、無自覚のうちに手に負えない程の悪意になり、何としてでも対象となった一人を排除しようとする。

 たった一度の何気ない一言…そんな一言が…少年の心を、人生を、そして世界を狂わせる。

 

極東支部第一部隊活動記録 

著:ソーマ・シックザール

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『カチッ』

 

 悲劇の歯車が噛み合った。

 

To be continued




後書き
 ユウキがアラガミ化している事が極東支部の神機使いに知れ渡りました。その結果ユウキは第一部隊以外からは敬遠されました。実際身近に居る人間が暴走を抑えられないのはかなり怖いと思います。

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