GOD EATER ~The Broker~   作:魔狼の盾

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雪パネェ…今回はオリ設定の説明回となります。

今回グロ描写があります。グロ描写は※で挟んでありますので、苦手な方は飛ばしてください


mission74 超越者

 -???-

 

「…え?」

 

 ユウキは目が覚めると、自分以外には何も無い真っ暗な場所で立っていた。屋内なのか屋外なのか…地上か地下か…昼か夜か…訳が分からない状況に混乱していると、不意に人の声が聞こえてきた。その声は少しずつ大きくなり、それと同時に『ヌウッ…』暗闇の中から知りもしない、会ったこともない人が現れる。

 

「な…なん…だ?」

 

 ざわざわとした話し声が少しずつ大きくなり、いつの間にか先の様に現れた人に囲まれ、ユウキはその顔も知らない人達の視線に晒される。

 しかし、何よりも戸惑ったのは彼らが向けてくる怒り、憎悪、侮蔑…負の感情を込められた視線だった。見ず知らずの人に突然そんな視線を送られて、混乱していると、後ろから聞いた事のある声を耳にする。

 

「…先輩…」

 

「ユ、ユーリ…?」

 

 ユウキが振り向くと、そこには自身が助けられずに死なせてしまったユーリが居た。

 しかしその目からは怨嗟の籠った視線に気圧されてユウキは思わず後ずさる。

 

「何で…何で…僕の事は助けてくれなかったんですか…?リンドウさんは…命懸けで助けたのに…」

 

「ち、違う!!いや…結果的には…助けられなかった…けど、見捨てるつもりなんて…!!」

 

 見捨てる気はなかった。絶対に助けると心に決めていた。言い訳の様にその事を伝えるが、結果は助ける事が出来なかった。ユーリからしたら『過程など関係なく、助かる可能性を見せられて殺された』と言う認識にしかならないのかも知れないと言う考えが頭を過り、ユウキは途中で口を閉ざしてしまった。

 

「でも、僕の時は…助けようともしなかったじゃないか…」

 

「エ、リック…さん…?」

 

 今度も聞き覚えのある声がユーリの後ろから聞こえてきた。最初は輪郭がはっきりしなかったがすぐにしっかりとした形を作り、声の主が誰なのか判別出来るようになる。

 そこには神機使いになってすぐの頃に目の前で死んだエリックが立っていた。何度も自分の目の前で死んだ人間が現れ、ユウキは既に状況を理解出来なくなっていた。

 

「僕が喰われたあの時…ソーマは僕を助けようと動いたのに…君は目の前で喰われる僕を…ただつっ立って眺めていた…ほら、助けようともしてないじゃないか…」

 

「あ、あれ…は…」

 

 目の前に居たのに助けられなかった…どう動いていいか分からず、見殺しにしてしまった事に反論できずに、ユウキは押し黙ってしまう。

 すると『最低だな…』『クズ野郎め!!』『この人でなし!!』と見ず知らずの人達から罵声が聞こえてくる。

 

「僕はね…死にたくなかった…死ぬわけにはいかなかった…僕が死ねば…エリナが悲しむ…エリナが戦場に出るかも知れない…なのに…君は僕を…み、見ごろろろろろろしににしだっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然エリックが痙攣しだしたと思えば、急に呂律が回らなくなる。そして少しずつ首があらぬ方向に回りだし、首から血が吹き出ると同時に頭がゴロンと落ちる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「結局貴方は…自分に都合の良い人しか…利用出来る人しか助けない人でなしビャッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ついさっきまで普通に喋っていたはずのユーリは最後に奇声を上げると、首が飛んで血飛沫を上げる。

 

「な…あ…」

 

 さらには見ず知らずの人達も突然首が飛んで倒れたり、体のどこかが吹き飛んだり、頭から血を流しながらユウキを見ていたりする。あまりの惨事にユウキは目の前の光景を理解しないように思考を完全に止め、目の前で次々と人が死んでいくのを小さな声を漏らしながらただ見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『お前のせいで…』

 

 『アーク計画さえ完遂していれば…』

 

 『何で止めた…!!』

 

 『全部お前が悪いんだ!!』

 

 死んだはずの人間から罵声が聞こえてきて、ユウキは思わず耳を塞ぐ。

 

   『僕悪いことしたの?!?!もうしないから教えてよ!!!!』

 

「ッ!!」

 

「ユウ?!」

 

「よかった!!目ぇ覚ましたんだ!!」

 

 突然ユウキがベッドの上で目覚め、視界には白い天井と見知った第一部隊の面々…特にユウキの顔を覗きこむアリサとコウタが目に映った。

 

 -ラボラトリ-

 

「あ…れ?」

 

 さっきまでユーリやエリック、知らない人達に囲まれていたはず…先とはまったく違う状況にユウキは理解が追い付かず、何とか声を出す事が精一杯だった。

 

「寝惚けてんのか?ここは博士のラボだ。あのあとユーリの部隊の遺体や神機を回収して戻って来たろ。」

 

 ソーマに言われて戦闘の後何があったのかを思い出しながら起き上がる。ヴァジュラを倒したのを確認すると戦死した者達の遺体と神機の回収、そしてユウキの破損した火刀・極の切っ先も回収して極東支部に帰還、その後事後処理の後に眠らされて様々な検査を受けていたのだ。

 

「あぁ…そう…だった…あれから何日経った…?」

 

「2日だ。そのうち1日は丸々寝てたがな。ま、取り敢えずは生きて帰ってきたみたいだから良かったよ。」

 

「そうよ。検査のために寝かされたとは言え、丸1日起きないから心配したわ…」

 

 ユウキの様子が気になっていたのか、任務の時は一緒に居なかったリンドウとサクヤも見舞いに来ていたようだ。2人の取り敢えず無事(?)に起きた事に安堵した様子だった。

 

「まったくですよ!!あんなに約束したのに!!何でまた危険な事ばっかりするんですか!!」

 

「…」

 

 しかしアリサは心配の方が遥かに大きかったのか、ユウキが目を覚ますと捲し立てる。だが、ユウキはうつ向いておりその表情を窺うことは出来ない。

 

「自分の神機が攻撃出来る状態じゃないからって他人の神機で戦闘を続行するなんて…リンドウさんの件で散々皆から言われたの忘れたんですか?!」

 

「…っ!!」

 

 ユウキの口元が微かに歪んだ。

 

「それにあの場で他人の神機を無理矢使ってユウが動けなくなったらどうするつもりだったんですか?!適合していない神機を使うよりも何か別の手が…!!」

 

「…っ…ぇ……」

 

「え?」

 

 ユウキが何か言ったが、アリサには聞こえず聞き返す。

 

「うるせぇんだよっ!!!!」

 

「「「「「っ?!?!」」」」」

 

 アリサが聞き返すとユウキは突然怒鳴り散らす。その場に居た全員が驚いて思わず硬直する。

 

「なら他にどんな手があった?!!!足止めは出来ない!!神機が壊れて足手まといの俺が狙われる!!!!そのサポートに全員が周っても誰も逃げられない!!なら倒すしかねぇだろっ!!!!」

 

 拘束出来ない、逃げる事も出来ない、そして逃げる奴と足手まといを狙い撃ちにする。そんな状況で生き残るには戦って倒すしかない。それがユウキの判断だった。その事を怒鳴りながら伝えたせいなのか、ユウキの息が少し乱れている。

 

「出ていけ…」

 

 ユウキはボソッと小さな声で呟く。今度は皆にも聞こえたが、今までにそんな事を言われた事がなかったため、ユウキの言ったことが信じられずに固まっていた。

 

「出ていけって言ってるだろ!!!!」

 

 再度ユウキが怒鳴ると、ようやく第一部隊が動き、全員がその場から去っていった。

 

「あ"あ"あ"ぁぁぁ…クッソ…」

 

 だが第一部隊を追い出した後、ユウキは右腕で膝を抱えながらそこに顔を埋め、左手で頭をワシャワシャとかきむしり、第一部隊を追い出したことを後悔していた。

 

「まあ、昨日もユーリ君のご両親…特に母親から散々詰られた後だしね…虫の居所が悪かったのも仕方ないね…」

 

「…」

 

 ペイラーの一言でユウキは少しだけ顔を上げ、ペイラーの方を見る。そしてその目は不機嫌そうに細められていたのがペイラーからも見てとれた。

 

 -2日前-

 

「…そう…ユーリが…」

 

 ヴァジュラを倒した後、ユウキは極東支部に戻ると戦死した神機使いと近しい人に電話等を使ってその事を伝えて回っていた。勿論ユーリの両親にもテレビ電話を通じてその事は伝えられた。だがユーリの両親の反応は淡白なものだった。

 

「…はい。遺体は今日中に搬送します…その…ショックを受けるかも知れませんが…」

 

「…」

 

 両親からの返事はない。しばらくの間沈黙する。

 

「…今回の件は…私の力不足が全ての原因です。私の力が及ばず…ユーリ君を…助ける事が出来ませんでした…申し訳ありません…」

 

「…」

 

 ユーリの死因は自分にある…そう言ってユウキは画面越しに頭を下げて謝罪するが、相変わらずユーリの両親からのリアクションはない。

 

「あの子…極東支部で活躍する貴方達の事…尊敬してました…極東支部の皆の様に活躍できる神機使いになって帰ってくるって…」

 

 どのくらい時間が経ったのか…しばらく沈黙が続くと、唐突にユーリの母親が極東支部に来る直前のユーリの様子を話し始める。

 

「…少し前に、貴方が命懸けで上官を救ったって話も聞きました…なのに…どうして…」

 

 ユーリの母親は目を伏せ、一旦言葉を区切る。

 

「どうして私の子は助けてくれなかったのよ?!!!」

 

「っ?!」

 

 突然ユーリの母親が怒り出す。あまりに急な変貌だったため、ユウキよりもユーリの父親の方が驚いたようだった。

 

「上官って人は助けたのに!!!!何でウチの子は助けてくれなかったの?!!!」

 

 目の前で助けを求めた我が子を助けてはくれなかった。母親にとってはそれだけで画面越しに居る男を恨むには十分過ぎる理由だった。怒り狂いながらユウキに何故助けなかったのかと問い詰める。

 

「何が極東のエースよ!!!!目の前で助けを求めている子を救いもしないで!!!!」

 

「落ち着け!!」

 

 母親は怒りに任せてユウキに罵声を飛ばし、流石に言い過ぎだと父親が止めに入る。そんな中ユウキは頭を下げ続けていた。

 

「あんたみたいな人でなしのクズが生き残って…何で私の子が死ななきゃいけないのよ!!!!」

 

「止さないか!!」

 

 これ以上言わせると本当に何を言い出すか分からない。画面に掴みかかる母親を父親が引き剥がして落ち着かせようと強い口調で嗜める。

 

「返して!!!!返してよ!!!!私の子を…ユーリを返してよ!!!!」

 

「…」

 

 『ユーリを返せ』と言うと、母親は遂に泣き崩れた。そのままその場に座り込み、『返して…』とうわ言の様に呟いている。そんな母親の怒りも懇願も、ユウキにはただ黙って聞くことしか出来なかった。

 

「…すまない、神裂君…」

 

 母親を落ち着かせながら、父親がユウキに謝罪する。

 

「…だが…もうこれっきりにしよう…お互いのためにも…それが一番だと思う…」

 

「…わかりました…」

 

 その言葉の意味するところを察したユウキは静かに頷く。顔を見ただけで、声を聞いただけで嫌な気分になる。ユーリの両親にとって、神裂ユウキと言う男は2度と顔を見たくないどころか存在を感じたくない様な相手なのだ。

 それを理解したユウキは頷き、通話が切れるまで頭を下げていた。

 

 -ラボラトリ-

 

 前日にユーリの両親から…特に母親からの罵声を受けた事、八つ当たりで仲間に暴言を吐いた事を思い出して、ユウキはベッドの上に座った状態で沈んでいた。

 

「さっきの件…私からフォローしておこうか?」

 

「…いえ、大丈夫です…自分で…やります…」

 

「…そうか。でも、仕方のない事だって世の中にはあるんだ。全部抱えて無理するような事はしないようにね。」

 

 自分が蒔いた種である以上、他人を巻き込めない。それに自分から動いて謝らなければ伝わるものも伝わらない。そう思ったので、ユウキはペイラーの申し出を断る事にした。

 

「さて。それはそうと…今回の件でユウキ君に報告しなければならないことがいくつかある。」

 

 そう言うとペイラーはタブレット端末をデスク(?)の脇から取り外すと立ち上がり、ユウキの元に移動する。ユウキもそれに合わせて姿勢を少し直してペイラーの話を聞く体勢になる。

 

「まず1つ、リンドウ君を助けた際にほぼ治ったと言ったアラガミ化が再発している。」

 

 ペイラーの口から無慈悲な現実を突きつけられる。

 

「昨日のうちにルミコ君と検査した結果、抗体持ちと言う事を考慮しても、以前よりも早くアラガミ化が進行している事が分かった。人としての姿を保っていられるのは恐らく…長くて10年だ。」

 

「…そうですか…」

 

 10年後には自分はアラガミとなっていると言われたにも関わらず思いの外ユウキは冷静に返事をした。

 

「…驚かないんだね。」

 

「覚悟はしてました。ただ…10年…か…」

 

 『皆にこの事は?』『話したよ。10年の猶予の事以外はね。』と2人が話すと、すぐにペイラーは説明を再開する。

 

「何度も言うけど、この10年の猶予はあくまでも予測、しかも長く見て…と言う話だ。これより短くなる事はあっても長くなる事は期待しない方が良いだろうね。」

 

「…」

 

 長いようで短い10年と言う猶予…しかも更に短くなると言うのだからのんびりはしていられない。この残された時間で何が出来るかを考えるが特別何が出来るのか思い付かずに、ユウキは黙り込んでしまう。

 

「なに、さっきも言ったが猶予はある。人として生きる事を選び、アラガミ化する時にその生涯を終わらせるか…あるいはアラガミとして生きていく事を選び、取りあえずは今までと変わらぬ生活を送るか…はたまた運命に抗い、アラガミ化を治す術を探してみるか…」

 

 パッとでてきた選択肢は3つ。もしそれしか選択肢がないのだとしたら、アラガミ化の治療を諦めた瞬間に死の運命が確定しているようなものだった。しかしペイラーは淡々とその事について話続けている。

 

「君の人生だ。君の思うように選ぶといい。どんな選択でも、私は全力でサポートしよう。ただ…」

 

 ここまで淡々と説明してきたペイラーだったが、最後には顔を伏せて声のトーンを落として何処か悲しそうにも悔しそうにも聞ける声色になった。

 

「私としては…アラガミ化を治して、これからも皆と変わらぬ生活を望む事を選んで欲しいと思っている。私もユウキ君を喪うと悲しむ者の1人だからね。」

 

「そうです…ね。出来ることなら…アラガミ化を治したい。この先も皆と…生きていきたい…」

 

「分かった。なら私もアラガミ化の治療方法を探してみよう。」

 

「お願いします。」

 

 ユウキとて死にたいなどとは思ってはいない。ならば生き残る可能性があるアラガミ化を治す以外に道はなかった。

 

「それからもう1つ。君たちが戦った特異なヴァジュラの事…それに関係して君の神機の事だ。」

 

 アラガミ化の件は取り敢えず話がまとまったので、ペイラーは次の話に始める。

 

「まずは神機について話そう。これを見て欲しい。」

 

 そう言うとペイラーはタブレット端末をユウキに手渡す。ユウキが端末を見てみると、そこには折れ線グラフが映っていた。

 

「このグラフが何か…?」

 

「君の腕輪のログから得たデータを元に、君と神機の適合率の推移を表しているグラフだ。」

 

 ペイラーが何のグラフか説明すると、ユウキから端末が見える様にした状態のまま画面に触れてグラフ全体が見える様に画面を縮小する。

 

「全体的な傾向として、君と神機の適合率は安定していない事が分かった。神機を使い初めてからしばらくは90%を上限に少しずつ、あるいは大きく下がりながら80%近くまで下がった後、また90%まで引き上がっている。」

 

「…ずいぶんと波がありますね。下がる度合いもその時々でバラバラだ。」

 

 縮小したグラフを見ると、かなり急勾配で増減しているようだった。グラフが横ばいになっている状態が安定していると言うことならば、自身の適合率が安定していないと言われるのも頷けるとユウキは思った。

 

「通常、神機との適合率は多少変動しても3%程度で、加齢によって緩やかに下がっていくのが通例なんだ。だが君の適合率が高水準であるにも関わらず、何故ここまで変動し、安定しないのか…そこはまだ私にも分からない。」

 

 どうやらユウキの適合率の変動は通常あり得ないらしい。これも抗体持ちであるためなのだろうかと考えていると、ペイラーが話を進める。

 

「…そこは追々調べていくとしよう。そしてここからはリンドウ君の神機を使った後の適合率だ。上限を70%に落として、今までと同じように適合率が上下している。」

 

「…後から出てきているこの線は?」

 

 ペイラーが画面に触れてグラフを一部を拡大する。そこには一気に右下がりになり、再び70%辺りまで一気に上がっていくグラフが目に入る。そんな中ユウキは後になって一本のグラフが追加されている場所を指を差して聞いてみた。

 

「それはリンドウ君の神機との適合率だ。初回は26%でとても安全に起動出来る適合率ではないが、少しずつだけど上昇する傾向にある。そして…」

 

 ペイラーがグラフを進めて別の場所を指差す。

 

「これがユーリ君の神機との適合率だ。特異なヴァジュラとの戦いで初めて使った時の適合率は31%…リンドウ君の神機と同様、安定起動には程遠い。だが今見て欲しいのはそこじゃない…」

 

 ペイラーは再び画面上で指をスライドさせてグラフを少し進める。

 

「ほら、ここから適合率が一気に上がっているだろ?この時の数値を見て欲しい。」

 

「100%…」

 

「正確には100.001%…ほんの一瞬、少しだけ100%を超えたいたみたいなんだ。そしてその後、元々ユーリ君が使っていた神機との適合率は62%に下がり、ユウキ君が使っていた神機との適合率は99.999%…限りなく100%に近づいている状態になっている。」

 

「…」

 

 グラフを見てみると、確かに最大値の100%に達していた。その後、ユウキが元々使っていた神機の適合率は横ばい、ユーリが使っていた神機の適合率は一気に下がっていた。

 

「私の考察ではあるが…ユウキ君、君の神機に発現した特異な力…それは恐らく『ブレイクアーツ』と呼ばれるものだろうと考えている。」

 

「ブレイク…アーツ…?」

 

 初めて聞いた単語にユウキは思わずペイラーの方を見て聞き返す。

 

「ブレイクアーツ…神機との適合率が100%を超えた者だけが使える神機をより高度に、より自由に扱う力、そんな者をとある論文では『 限界を打ち破る者』、『超越者』と言う意味合いを込めて『ブレイカー』と呼んでいる。」

 

「俺が…そのブレイカーだと…?でも、神機との適合率が100%って…」

 

 神機との適合率が100%を超えた者をブレイカー、そしてブレイカーが使える特別な力をブレイクアーツと言うようだが、ユウキは神機使いと神機の適合率が100%と言うことに違和感を感じていた。

 

「そう、普通はあり得ない。どんなに似通い、近付いた存在であっても、それぞれが別の個体である以上、完全な適合と言うのは出来ないものだ。だから、ブレイカーと言うのはあくまで理論上の話なんだ。」

 

 人間と神機…どうあっても別の個体と言う壁が立ちはだかる。そのため、件のブレイカーは理論だけの空想の存在なのだとペイラーは語る。

 

「ただ、理論や適合率の数値的な話に絞れば、このブレイカーと言う存在はあり得るんだ。適合率が100%…つまりは神機=神機使いとなれば、神機を本当の意味で自分自身の身体と同じように自由に動かせる。そして適合率100%を超えた時、神機使いは神機を自身の身体以上に自由に扱えると言うわけだ。」

 

「自分の身体以上に自由に扱える…だから本来出来ない様な事も、オラクル細胞の塊である神機ならそのイメージを形に出来る…と?」

 

 ペイラー曰く、神機使い=神機ならば自らの手足として、そして適合率が100%を超えると自身の身体以上の自由さを手に入れる事が出来るとの事だった。ぼんやりと理解したユウキは自分なりにまとめてペイラーに確認する。

 

「概ねその通りだ。今回の例で言えば、神機の刀身部分の物理的な攻撃能力を捨てる代わりに、その分付加属性の攻撃力を跳ね上げる…と言った具合にね。」

 

 『今回発現したのは付加属性の能力を限界以上に解放する力…さしずめ属性解放と言ったところだろね。』とペイラーが付け足す。

 

「ちなみに、過去にそれらしい神機使いが現れたと言う話があるんだけど、結局それも真実かどうかも分からない様な話なんだよね。」

 

「…」

 

 ペイラー曰くブレイカーが現れたと言う話はあれど、結局本当に居たのかも分からないらしい。実際には居たがすぐに死んだのか、あるいはまだ生きているのか、様々な憶測や噂程度の情報しかないような存在らしい。

 

「…ただ、適合率が100%に近づき、さらにはそれをも超えると言うことは、それだけ使用者がアラガミに近付いているとも言える。ユウキ君のアラガミ化が早まった事にも影響しているかもしれないね。」

 

「…」

 

 神機との適合率が高いとも言うことはそれだけ使用者がアラガミに近い存在と言えるだろう。ユウキは普段の生活の中でもかなり危ない橋を渡っている状態であることに今さらながら気が付いて言葉を失っていた。

 

「…1度に話したせいで少々混乱しているかもしれないけど次で最後だ。例のヴァジュラについては、残念ながらサンプルの回収が出来なかったため、予測でしかないんだけど…あれは恐らくノヴァの残滓を取り込んで進化した変種と考えられる。」

 

 だがペイラーはユウキが黙り込んだのは1度に多くの事を話したせいで整理が追い付いていないのだろうと思い、もう少しだけ頑張って聞いて欲しい旨を伝えて、最後に特異なヴァジュラの事を説明していく。

 

「…ノヴァの残滓の影響を受けたアラガミとはまた違うみたいな言い方ですね。」

 

「その通り。今までに現れたのはノヴァの残滓の影響を受けた通常のオラクル細胞が特異なコアを作り出し、禁忌種の様に強力な力を持った新たな個体…それからノヴァの残滓そのものがコアを生成して歩く終末捕食と化した第二のノヴァ…そして今回のヴァジュラはそのどちらにも当てはまらない新個体…既に存在しているヴァジュラがノヴァの残滓を取り込み、進化したアラガミと言えるだろうね。」

 

「だからアルダ・ノーヴァと似通った特徴がある…と?攻撃以外の時は異様に硬かったり、喋ったり、知能を持っていたのは…ノヴァの残滓を取り込んだからと?」

 

「あくまでも予測だけどね。」

 

「…」

 

 サンプルがない以上、簡単な予測しか出来ないため、ペイラーの説明は非常に簡易的なものだった。今までとは別の方面でノヴァの残滓の影響を受け、アルダ・ノーヴァに近い力を持つアラガミに進化した個体…それがペイラーの回答だった。

 しかしその説明を聞いて、ユウキは何処か浮かない顔をしていた。

 

「取り敢えず報告としては以上だ。1度に全部話したから、少し混乱させてしまったかな?」

 

「あ…いや…その、ちょっとした疑問…なんですけど…」

 

「何かな?」

 

 ペイラーはユウキが浮かない顔をしていたのは1度に全部話した事による混乱だと思っていた。しかし、ユウキから返ってきた言葉はとある『疑問』だった。ペイラーとしてはユウキが今の話を理解して疑問を持ち、話のネタにしてくれるのかと思い、少し嬉しく思いながら何が聞きたいのか聞いてみる。

 

「そのヴァジュラは…倒してよかったのかなって…」

 

「…どういう意味だい?」

 

 しかしユウキの疑問を聞いた途端、ペイラーの目が薄く開いて少し威圧的な声色に変わる。

 

「あのヴァジュラは、ノヴァの残滓を取り込んだ事で特異種に進化したって言ってましたよね?」

 

「ああ、あくまで私の予測の範疇での話だがね。」

 

「もし、その予測通りだとしたら…あいつは、シオの様になれたんじゃないかって…思ったんです…」

 

「…」

 

 ユウキのゴッドイーターとしてあるまじき発言にペイラーは驚いた。

 

「仲間を…ユーリが殺されたあのとき…確かに俺は明確な殺意を持ってあいつと戦った。人を守るには…生き残るには…アラガミは倒さなければいけない…けど、こんな事をしていて…人とアラガミの共生が出来るのか…分からなくなって…」

 

 仲間を殺されてアラガミを憎んだユウキだったが、大半の人間があのときのユウキの様にアラガミを憎む者なのだろう。人々はゴッドイーターにアラガミを殺す事を期待してゴッドイーターはそんな期待に応えてアラガミを殺し続ける。世界中の人がアラガミを憎みを持ち続ける現状に、本当に共存など出来るのだろうかとユウキは疑問を持ち始めていた。

 

「俺たちは…人とアラガミが共生する世界を目指しているはず…なのに、今やっているのは、特殊なアラガミや強力なアラガミが現れると、危険だからって人の都合で殺して…もしかしたら、そんなアラガミが、シオの様になれるんじゃないかって思って…もし、その通りだったら…共生の可能性を潰しているのは俺達の方じゃないのかなって…こんなやり方で…人とアラガミが共存出来るのかなって…」

 

 少なくも今回倒したヴァジュラには、他のアラガミとは違い言語を理解している節があった。この戦闘の少し前に、シオの事を思い出した事もあり、ユウキは喋る=知性がある、あるいは知性に目覚め、特殊なアラガミとして進化する可能性があるのではないかと考えていた。

 そんな特殊なアラガミこそが人との共生に必要なのではないかと考える様になり、ユウキはアラガミと戦う事自体にも疑問を持っているようだった。

 

「ごめんなさい…変な事言って…」

 

 最後に『部屋に戻ります…』と言うと、ユウキはベッドから下りてペイラーの横を抜けて扉に向かって歩く。

 

「ユウキ君…君がさっきも言った通り、人間とアラガミの共存を実現するにはまず我々が生き残らなければならない。そのためにも戦う事は必要な事なんだ。確かに間違っているのかも知れない。けどそのために人々が殺されるのを黙って見ている訳にもいかないだろう?」

 

「…失礼しました…」

 

 ペイラーの言うことはもっともだ。アラガミとの共生を目指しているとは言え、それでアラガミを倒す事を戸惑っていては周りの人間に被害が及ぶ。ペイラーの正論と自身の疑問の間で葛藤しつつも、ユウキはラボラトリから出ていった。

 

(…ユウキ君は…アラガミをただの敵としてではなく、『命を持つ一個体』として見始めているようだけど…このままでは…)

 

 ペイラーはユウキの抱える疑問を垣間見た事である問題点が浮かんだ。そのせいで、ペイラー自身の表情も浮かないものになっていた。

 

「…非常にマズイね…」

 

 矛盾を抱えたまま神機使いとして戦っていけば、いつか精神が壊れてしまう。自身の考えで答えを出せない現状ではどうしようもないが、今後の戦闘に支障が出るならユウキを戦場に出すべきではないかも知れない。そんな事を考えながら、ペイラーはユウキが居た場所を見つめていた。

 

 

 -神機保管庫-

 

 部屋に戻るとは言ったが、神機を破損させていた事が気になり、ユウキは神機保管庫に足を運ぶ。そこにはユウキの神機の前で作業をしているリッカがいた。

 

「…リッカ?」

 

「やぁ…またやったみたいだね。」

 

 ユウキがリッカを呼ぶ。呼ばれたリッカは振り返ってユウキを見る。その表情は少し呆れたと言いたげな顔をしていた。

 

「もう皆から色々言われてると思うから…私からは何も言わないでおくよ。けど、もう…本当に2度とこんな事しないで。」

 

「…うん…」

 

 今までにも散々言われた様に今回も注意された。だがこの男にはもう何を言っても無茶は止めないのだろうと結論が出たのだろうか、他の者とは違いあまり強くは言われなかった。

 

「…アネットとフェデリコ…どうだった?」

 

「アネットは…泣いてた。それをフェデリコがなんとか落ち着かせてたけど…2人共かなりショックを受けたみたい。」

 

「…そうか…」

 

 同じ日に配属されたアネットとフェデリコ、2人はユーリと仲が良かったため、ショックを受けていたようだ。

 その事を聞いて、『もしユーリを助けられたら、アネットやフェデリコも悲しませなかったのだろうか』と考えていると、不意にリッカがユウキに声をかける。

 

「…自分のせいだなんて思わないでね?仕方のない事だってあるんだから…全部抱えて無理するくらいなら、潰れる前に吐き出して。私で良かったら話相手になるから。」

 

「…うん…」

 

 『仕方のないこと』…自分じゃどうしようもないことだとしても、その場に居たのはユウキを始めとした第一部隊だ。ならば自分達で何とかしないといけなかった。それなのにどうにも出来ず、大勢の人を死なせた事に対して申し訳なさと後悔、そして戦う事に対する疑問も感じて、ユウキ自身の頭の中はぐちゃぐちゃになっていた。

 だが『こんな意味不明な事を話したらリッカに迷惑をかけるのでは?』と考えてしまい、結局ユウキはリッカに話すことはしなかった。

 そしてしばらく沈黙した後、何か話そうと思ってユウキの神機を見ると、隣にあるものが目に入る。

 

「…ユーリの神機…どうなるんだ?」

 

 アリサのものとは色違いで蒼い色のユーリ神機だった。

 

「本当なら昨日遺体と一緒にロシア支部に送られるはずだったんだけど…ユウとの適合率が60%を超えて安定起動が出来るようになったから、このまま極東支部で管理するって。多分このままユウが使っていく事になると思う。」

 

「俺が使って良いの…?」

 

「一応は適合しているから…使えるはずだよ。色々と調べたら、神機を2つ同時に使っても大丈夫みたいだし、使わないのは勿体ないってさ。けど、不思議なんだよね。ユーリの神機…最初は適合してなかったのに、今は扱える様になってるし、ユウが使ってた神機も適合率が大幅に上がってる。まるで神機側がユウに合わせたみたい…」

 

 リッカ曰く、適合しているからこのままユウキが使っていく予定らしい。しかも適合率の変化を見る限り、神機側がユウキに合わせた様な変動のしかたらしく、リッカは不思議がっていた。

 リッカの考察を聞くと、ユウキは右手を自身の神機、左手をユーリの神機のコアに添えて声をかける。

 

「そう…なのか?もしかして…俺を助けるために…俺に合わせてくれたのか?」

 

 恐る恐る聞いてみる。すると、ユーリの神機のコアは一瞬力強く輝き、ユウキの神機は弱々しく淡い光を放つ。

 ユウキもリッカも返事をするように神機のコアが光った事に驚いた。だがユウキは神機=神機使いと言われているブレイカーであるにも関わらず、何故神機がここまでしてくれるのか、自身に何を求めているのかが分からず、モヤモヤした感覚を覚えた。

 

「…リッカ…元々の俺の神機は…どうなっている?」

 

「神蝕剣タキリを折った時と一緒だね。刀身が折れた時に休止状態になっていたからなのか、神機には大きなダメージはないみたい。」

 

 ユウキが破損した神機の状況を聞く。どうやら以前あった破損と同じ様な状況らしく、神機本体へのダメージは少ないらしい。それを聞いたユウキは取り敢えず一安心した。

 

「刀身は?修復ついでに強化する事は…」

 

「それは無理だよ。刀身はカタログ上最終段階まで強化しちゃってるし、その上切っ先も握り潰されてて、修復も出来ない…これなら新しく作った方が早いと思う。」

 

(…新しく作る…)

 

 リッカが言うには以前と同じように直すことも強化も出来ないらしい。なので、新しく全く同じものを作る事を提案されたが、ユウキは何かが引っ掛かっていた。それが何なのか、同じものを作った事でどうなるかを考える。

 

(同じものを作ってどうする?この先あのヴァジュラみたいなのが現れたら…この度に神機を壊す事になる…このままじゃまた同じことを繰り返す。どうにかして次の段階に強化しないと…)

 

  『ダイジナモノヲウシナウヨ?』

 

 突然背後から声が聞こえた気がしてユウキは勢いよく振り返る。しかし、そこには誰も居なかった。

 

「わっ?!えっ?!な、なに?!」

 

 いきなりユウキが勢いよく後ろを見たことで、何があったのかとリッカが驚く。

 

「…リッカ、タキリの時みたいに何か素材があれば火刀を直せる?」

 

「え?う~ん…まあ、形だけなら…ただ性能面はもしかしたら今までのものと比べるも劣るかも。そもそもこれ以上強化しようのないものに余計なものを混ぜ混むから、今までのようには使えない可能性もある。それでもって言うなら、やってみる価値はあるけど…」

 

 直せない事もないがもしかしたら劣化する可能性があるそうだ。ただ直すだけなら可能ではあるらしい。これを聞いた時ユウキの頭にある方法が浮かんだ。

 

「何か使ってみたい素材でもあるの?」

 

「雷刀だ。」

 

「なるほど。それじゃあ早速…って雷刀?!刀身を素材にして刀身を作れって言うの?!」

 

 ユウキが提案したのは素材ではなく装備そのものだった。予想を超えた提案にリッカは思わず声をあげる。

 

「どちらかと言うと混ぜ合わせるって言った方が正しいかな?」

 

「いや、言い回しとかの問題じゃなくて…て言うか正気?前例が無さすぎるよ!!」

 

「…俺も何か確証がある訳じゃない。完全に思いつきだ。どう?やれそう?」

 

「やれそうって聞かれても…さっきも言ったけど前例がないからなんとも…」

 

 ユウキが確認するも前例が無いため、どうにもハッキリした答えが返ってこない。

 

「…やっぱり無理か…」

 

「誰が無理なんて言った?」

 

「え?」

 

 ハッキリとした返事が来ない事を無理だと思い、その事を無意識に呟くとリッカの技術者としてのプライドを刺激したようだ。

 

「私はなんとも言えないって言ったんだよ?決して無理なんて言ってないんだよね。」

 

 不意にリッカのプライドを刺激したことで少し怒った様な声色になる。

 

「技術者の意地を見せてあげる!!ほら、ユーリの神機もユウ用に調整しなきゃいけないんだから!!早く打ち合わせするよ!!」

 

 そう言ってリッカはユウキの手を取り、一緒に技術部用の会議室に入って行った。

 

To be continued




後書き
 ただの説明回だと言うのに無駄に長くなってしまいました…
 また他人の神機を使ってユウキ逆ギレ…う~む、何かただの酷いやつになっちゃいましたかね?ただそんなユウキも悪夢に悩まされたり、ユーリの母親からボロクソに言われたり、アラガミ化が再度進行していたり、神機が壊れたりと散々な目にあっていますが…
 そして喋るアラガミ=シオの様になれると考えてしまい、戦う事自体に疑問を持ったため、そのせいで今後色々とやらかします。
 この後はオリ設定の『ブレイカー』、『ブレイクアーツ』、『属性解放』の説明です。



ブレイカー
 神機との適合率が100%を超えた者の総称。通常、神機使いと神機の適合率はそれぞれ別の個体、人体細胞とオラクル細胞との違いもあり、どうあっても100%にはならない。しかし過去にはこのブレイカーが現れたと言う話もあったのだが、結局真実なのかも分からない都市伝説レベルの存在。

ブレイクアーツ
 ブレイカーが使える神機をより自由に、高度に扱う事の出来る力。ブレイカーは神機との適合率が100%を超えているため、神機を自分の身体以上に自由に扱えることによる副産物とされている。炎や雷等様々なもの、状態を再現出来るオラクルの塊である神機でこのブレイクアーツを使用すると、使用者のイメージをそのまま反映させる事も理論上は可能とされている。

属性解放
 ブレイクアーツの一種。神機に装備した近接武器の物理的な攻撃能力を捨てる代わりに付加属性の攻撃力を大幅にあげる技。異様に硬い敵に有効。(ゲーム的には物理攻撃力が0なので、クリティカルは一切出ないが攻撃の通りは平均以上になる。)

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