GOD EATER ~The Broker~   作:魔狼の盾

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ついにリンドウさん救出戦です!!久しぶりのリンドウさんとの共闘です。


mission69 帰還

 -追憶の教会-

 

 白一色の景色が少しずつ色付いていく。そして眼前に広がった気色は、教会の中だった。ただし、唯一の出入り口を瓦礫で塞がれた後の逃げ場の無い状態だ。

 

「やっと…ここまで来られた…」

 

「リンドウさん…」

 

 その教会の中でリンドウは瓦礫に凭れて座っていた。ピクリとも動かないその様子は、まるて死んでいるかの様にも見えた。

 

「リンドウはここでずっと…自分の中のアラガミと戦い続けていたんですね…」

 

「…」

 

 例の件があってから半年以上が経っている。そんな長い間、1人で精神を削られながら生きていたのかと思うと、もっと早く探しだす事は出来なかったのかと後悔が押し寄せる。

 ユウキがそんな後悔をしている中、レンはリンドウに歩み寄ってリンドウの目の前でしゃがむ。

 

「でも、もう限界です。彼の意識は…もう消えかかっています。」

 

 レンはリンドウの顔に手を添える。流石に誰かが居る事に気が付いて、リンドウは目を開け、顔を上げる。

 

「ぁぁ…?誰だ…お前…?」

 

「…え?」

 

 しかし、リンドウから返ってきた言葉はレンが誰かを問うものだった。リンドウの様子から察するに、今初めて会った様な口振りだった事に、ユウキは少し困惑する。

 

「つれないね、リンドウ…せっかくの再会が台無しじゃないか。」

 

 リンドウが自分が分からなくて少し拗ねたような声色で、レンは相変わらずリンドウと顔見知りの様な口振りで話しかける。

 そしてレンはユウキと向き合い、1度目を伏せる。

 

「これで、本当に最後です。もう一度彼に…リンドウに戦う力を与えてやってください。」

 

 するとレンの身体が突然輝き出し、辺りが光に包まれる。思わず目を閉じ、次に目を開けた時には、レンが居なくなっていて、いつの間にか左手にリンドウの神機『ブラッドサージ』が握られていた。

 

「…え…なっ?」

 

 何が起こって居るのか理解が追い付かずに一瞬混乱したが、レンが消えてリンドウの神機が現れた。この事実から、レン=リンドウの神機と言う可能性を考えたが、あり得ない、現実的じゃないと思い、その仮定を否定するが、レンとのこれまでの会話をふと思い出す。

 

 『今日から極東支部に配属になる新人3人を紹介する。』

 

 『僕、リンドウさんと一緒に戦ってた事があるんです。』

 

 『そう言えば、貴方が初めてオウガテイルと戦った時もやってましたね。』

 

「そっか…そう言う事か…」

 

 新人の紹介が常に『3人』だったこと、リンドウと共に戦っていたこと、ユウキの初陣の内容を知っていること…確かにレン=リンドウの神機であるならば全ての辻褄が合う。

 現実的ではないと否定した先の仮定に対して確信を持った。

 

「なんだ…今のは…?」

 

「リンドウさんの相棒ですよ。」

 

 未だ状況の理解が追い付いていない、困惑した口振りでリンドウは何があったのか聞いてくる。ユウキはざっくりとレンがリンドウの神機だと教える。

 

「おう?…そうか…?」

 

 だが、それでも何があったのか把握しきれていないようで、間の抜けた返事を返す。

 

「…にしてもまったくよ…呆れた奴だよ…こんなところまで来やがって…」

 

 座り込んでいたリンドウが立ち上がり、ユウキと向き合う。ため息混じりにユウキの無茶を嗜めるが、何処か嬉しそうにも見えた。

 

「お前のデカイ声、ちゃんと届いてたぞ…新入り…っと、もう新入りじゃなかったな。悪い悪い…」

 

「ははっ…その絞まりの無い話し方…やっぱりリンドウさんだ。」

 

「ずいぶんな言い方だなぁ…」

 

 今までシリアスな口調だったせいか、リンドウであるはずなのにリンドウではない気が少しだけしていた。だが、この気の抜ける様な冗談混じりの話し方で、今目の前に居るのは間違いなくリンドウだと確信して、ユウキは少し緊張が解れた。

 互いに軽口を飛ばしつつ、さっきからひしひしと感じる敵の気配に気を引き締める。

 

「…まだ、俺の出した命令…果たしていないですよ?」

 

 そう言ってユウキは、リンドウが神機を受け取れる様に、左腕の神機を横にしてリンドウに向ける。

 

「ここには俺が居る…レンも、リンドウさんの相棒も居る…もう1度、生きる為に戦いましょう。」

 

「そうだな…」

 

 リンドウはユウキから神機を受け取り、久し振りの自身の相棒を眺めて感触を懐かしむ。

 

「生きることから逃げるな…か…覚悟が出来てないのは俺の方だったか。」

 

 ユウキの言葉はリンドウにちゃんと届いてたようだ。リンドウの顔にはさっきまでの死にそうな表情は一切無く、かつて見せていた最後の最後まで生き抜く為に戦う戦士の顔付きに戻っていた。

 

「よぅし!!それじゃあ生きる為に、カッコ悪く足掻いてみるか!!」

 

 リンドウは神機を振って感触を確かめた後、肩に担いで戦闘体勢に入る。

 

  『グルルルル…』

 

 いつの間にか教会の壁に空いた穴からハンニバル侵食種が唸りながら現れる。

 

「よう、背中は預けたぜ?リーダー?」

 

「お任せあれ。」

 

  『グォォォオオ!!』

 

 リンドウの穏やかな口調に対して、ユウキはおどけながら返して戦闘体勢に入る。そしてハンニバル侵食種が吠え、リンドウとユウキはゆっくりと歩きながらハンニバル侵食種に向かっていく。

 対してハンニバル侵食種は足に力を入れ、ユウキとリンドウに一気に近づいて両腕の爪を振り下ろす。ユウキは左に、リンドウは右に跳んで爪を躱す。

 ユウキは上に跳びながら、リンドウはそのまま地上からハンニバル侵食種に反撃する。ハンニバル侵食種は後ろに下がって2人の追撃を避けると、今度は黒炎の輪を3つ吐き出しす。

 地上のリンドウは装甲を展開して黒炎の輪を防ぎ、空中にいたユウキはインパルスエッジを発射して上に跳んで躱す。ユウキが先に再度インパルスエッジを発射してハンニバル侵食種との距離を詰める。上からハンニバル侵食種の頭を狙い神機を振り下ろすが、ハンニバル侵食種は頭を後ろに下げてギリギリで躱す。その後すぐにリンドウが飛びかかる。そして神機を横に振るが、ハンニバル侵食種の右腕を左下に動かして、籠手でリンドウの攻撃を防ぐ。

 すると、ハンニバル侵食種は黒炎の剣を作って逆袈裟斬りでリンドウとユウキ、2人まとめて斬りかかる。しかしユウキとリンドウは装甲を展開して防ぎ、結果的にハンニバル侵食種と1度距離を取る事になる。仕切り直しと言わんばかりに、2人の1体は構え直して睨み合う。

 一瞬の間を置いて、ユウキが飛び出し、リンドウもそれに続く。ハンニバル侵食種は右腕の黒炎の剣でユウキの神機を受け止め、左腕に黒炎の剣を逆手に作ってリンドウの攻撃を受け止める。

 

「何かあれだな、こうしてまた仲間と戦えるなんてなぁ世の中何が起こるか分かんねぇもんなだな。」

 

「しかも精神世界の中なんてトンデモ空間での共闘ですからね。まあ何にしてもこっちは嬉しい事ですけどね。」

 

 激しい応酬の中、リンドウはもうこんな風に仲間と戦う事は出来ないと思っていたが、現に夢かと思う出来事に感慨深い感情を滲ませていた。

 それはユウキも同じだった。もう会えないと思った人とこうして肩を並べて戦っているのだ。嬉しくないはずがない。喜びから、何処か高揚を覚えつつ目の前の敵と戦っていた。

 しかし、こんな呑気な会話をしているが今は戦闘中だ。ハンニバル侵食種が待ってくれるわけでもなく、会話の最中でも気にすることなく反撃してくる。

 ハンニバル侵食種は神機を受け止めた黒炎の剣を外に振ってユウキとリンドウを吹き飛ばす。

 

「今までは1人でコイツと戦っていた。何度も何度も打ちのめされては次こそはヤバいって何度も思ったんだが…」

 

 ユウキは空中で体勢を立て直し、銃形態に変形してハンニバル侵食種の胴体を狙撃する。その間、飛ばされたリンドウは両足に力を入れ、後ろにずり下がりつつ踏ん張っている中でもかなり余裕を見せる様に、ユウキに話しかける。

 

「不思議なもんだな。今まで散々苦しめられてきたのに、仲間が居るだけで簡単に越えられそうな壁に思えてくる。」

 

 リンドウが装甲をしまうと、ハンニバル侵食種はユウキの放った狙撃弾を黒炎の剣で切り捨てていた。そのタイミングでリンドウもハンニバル侵食種に向かい走り出し、神機を振り下ろす。

 

「この歳になって仲間ってのは大事なものだって思い知らされるとはな。」

 

 しかし振り下ろされた神機は左腕に握られた黒炎の剣に受け止められる。だが、リンドウは咄嗟に受け止められた場所を軸に倒立の様な体勢になり、腕をバネにしてハンニバル侵食種向かって縦回転しながら突っ込む。

 

「そうですね。仲間はかけがえのないものだって…色んな事があったから俺もよく分かっているつもりです。」

 

 リンドウがハンニバル侵食種に向かっている最中、ユウキは着地して剣形態に変形つつリンドウに返事をする。

 そしてリンドウは両腕で神機を握って回転したままハンニバル侵食種に斬りかかるが、ハンニバル侵食種は半歩後ろに下がってこれを避ける。しかしリンドウは咄嗟に左手を神機から離してもう1回転すると、右手のみで神機を持った事で間合いが伸びて、ハンニバル侵食種に神機が届き、軽くではあるがハンニバル侵食種の肩に傷を作る。

 

「それはそうと、ちょっと気になったんですけど…」

 

「ん?何だ?」

 

 リンドウが一撃入れた事で、ハンニバル侵食種はリンドウを狙い始める。リンドウの着地の隙を突いて踏み潰そうとする。しかしハンニバル侵食種が次の行動に移すよりも先にユウキが首を狙い、神機を振り下ろす。

 意識外からの攻撃にハンニバル侵食種は反射的に大きく後ろに跳び、教会の壁を蹴ってユウキとリンドウの後ろを取る。

 そして着地よりも先に黒炎のブレスを吐き出す。

 

「ここでリンドウさんと会った時、リンドウさん神機を持ってなかったですよね?今までどうやって戦ってきたんですか?」

 

「そりゃあお前、殴って蹴ってだな…」

 

「え?!触っても大丈夫だったんですか?」

 

 ユウキとリンドウはそれぞれ左右に跳び、黒炎を避ける。そしてハンニバル侵食種は黒炎を吐きながら顔の向きを変えると、黒炎でリンドウを追いかけて狙い始める。

 

「ああ、ここでは単純に触れるだけなら大丈夫らしい。てかそうでもなければ最初の1回でもうとっくにくたばってらぁ。」

 

 『それもそうか』と思いながら、フリーとなったユウキがハンニバル侵食種との距離を一気に詰める。

 流石にユウキの接近に気が付いて頭の向きを変え、ブレスを当てようとするが、息が続かずにブレスが途切れてしまう。

 

「…にしても世間話しなから討伐とは、随分と余裕だな。」

 

「こっちにはリンドウさんが居ますからね。それに…」

 

 ブレスが消えた瞬間、ユウキはハンニバル侵食種の懐に入り込む。

 

  『ズシャァッ!!』

 

 神機を振り上げると、ハンニバル侵食種の胴体には大きな裂傷が出来ていた。

 

「1度…原種を含めれば2度倒した相手ですからね。変異種でもなければ今更苦戦する相手でもありませんよ。」

 

 ユウキはすぐに横に神機を振るが、ハンニバル侵食種は上に大きく飛び上がると、落下の勢いを利用して右の拳でユウキに殴りかかる。

 しかしユウキは落下前に攻撃が来ると察知したため、早々に後ろへ下がっていた。しかもハンニバル侵食種の拳が空振りした瞬間、リンドウが横から頭を狙い、袈裟斬りできつい一撃を与える。

 

「ハハッ!!そうかそうか。何と言うか、後輩の成長した姿を見れて、上官としては嬉しい限りだわ。」

 

 次はユウキがハンニバル侵食種の足を切り落とそうと接近する。しかし、今度はハンニバル侵食種が黒炎の剣を振り、ユウキを牽制する。

 

「そう言うリンドウさんは少し弱くなりました?何か動きが鈍いですよ?」

 

「なぁ~に言ってやがる。これからだってぇ…のっ!!」

 

 そう言うとリンドウは着地と同時に地を蹴る。するとリンドウが一瞬のうちにハンニバル侵食種の首元を切り裂く。さらにそのままの勢いを維持したままハンニバル侵食種の首を掴み急反転すると、今度は後ろから首を切り裂いて即座に離脱する。

 まるでスイッチが入ったかの様に動きが鋭くなり、それを見ていたユウキは思わず感嘆の声をあげるが、その頃にはハンニバル侵食種の周りを貼り付く様に動き回って攻撃を繰り返したため、ハンニバル侵食種は確実に身体中に傷を作っていた。

 

「やっぱり凄いな…それなりに強くなったつもりなんだけど、未だに追い付けた実感がないや。」

 

「そう落ち込むなよ。まだまだ俺を超えさせる気は無いが、少なくとも俺と同等にはなってるさ。このまま行けばそう遠くないうちに俺を超えるだろう。どうせまだ本気じゃないんだろ?」

 

「まあ、そうですけど…ねっ!!」

 

 リンドウが離れると、ユウキもまた1度離れた距離を一瞬で詰める。リンドウの動きに翻弄されていた事もあり、ユウキへの反応が遅れる。弾丸の様な勢いでハンニバル侵食種に突っ込み、肩を斬りつけ、そのまま後ろの壁にたどり着くと、壁を蹴ってさっきとは逆方向に飛び出す。

 しかし今度は反応が間に合い、ハンニバル侵食種は首を横にずらして神機を避けるが、ユウキは咄嗟に頭に蹴りを入れる。

 ハンニバル侵食種は避けたはずなのに大きな衝撃を受け、何があったのかと思い動きを止める。この2人がそんな隙を見逃すはずもなかった。

 

「リンドウさん!!」

 

「いまだ!!とどめいくぞ!!」

 

 ユウキとリンドウが同時に走る。対してハンニバル侵食種は両腕に黒炎の剣を作り出し、ユウキとリンドウに向かって振り下ろす。

 しかし2人は大振りな攻撃を外に跳んで簡単に躱すと、互いに外側からハンニバル侵食種に飛びかかる。

 

「ジャラァァアア!!」

 

「うおぉぉぉおお!!」

 

 2人が神機を振り下ろすと、ハンニバル侵食種はV字に斬り裂かれてた上、両腕を切り落とされた。さらに斬撃はハンニバル侵食種のコアに届いていたらしく、ハンニバル侵食種は膝から崩れ落ち、遂に倒れる事になった。しかしユウキとリンドウは神機を構えたまま気を抜けずにいた。

 するとハンニバル侵食種は黒い煙になって霧散していく。しかしその煙は地面に残ったままゆっくりと広がっていく。

 

  『ゴポッ!!グジュッ!!』

 

 突如大量の空気が漏れて出来た大きな気泡が幾つか出来て破裂する。それと同時に粘着質な音が何度も聞こえてきて、ハンニバル侵食種だったものは黒い水となり、先程よりも広がるスピードを速めていく。

 そんな光景を見たリンドウは何かを察したらしく、表情が一段と鋭くなる。

 

「…まったく、俺も厄介な奴に好かれたもんだな。あくまで俺を逃がさないってつもりのようだな。」

 

「ハハッこれじゃあ質の悪いストーカーだ。モテ過ぎるのも考えものですね。」

 

 リンドウもユウキも表情こそ鋭いが、軽口をたたく事が出来る位には心に余裕があった。何とか出来る根拠はないが共に戦う仲間が居る。その事実だけで何とか出来てしまえそうに感じていたからだ。

 

「…よう、お前の出した命令だ。とことん付き合ってもらうぞ?」

 

「当然!!」

 

 『生きることから逃げるな』ユウキが出した命令はまだ最後まで果たされていない。その命令を妨げる最後の壁…それを排除して生きて帰る…2人は今更迷うことなどなかった。

 

「くるぞっ!!」

 

  『グルルォォォアアァァァァァッ!!』

 

「デ、デカイ!!」

 

 黒い水から耳を擘く爆音の咆哮と共に、通常のハンニバル種より2周りは大きくなったハンニバル侵食種の上半身だけが現れる。少なくともこのまま全身が出てきていたら教会に入りきらないであろう大きさだった。

 そんな巨体のハンニバル侵食種が両腕を広げて、左腕でリンドウを、右腕でユウキを、1つに押し潰す軌道で腕を振り下ろす。

 リンドウとユウキは装甲を展開して、各々腕を受け止める。しかしその巨体に負けず劣らずの腕力に圧され、気も力も一瞬でも抜く事は出来なかった。

 

「グッ!!ギィィ…ッ!!」

 

「ぐっおおおぉぉぉお!!」

 

 リンドウの後ろにはユウキが、ユウキの後ろにはリンドウが居る。そのため、どちらかが避ければ残った方が大きな爪で引き裂かれる事になってしまう。同時にその場から離れようにも、タイミングはかなりシビアな上、合わせる余裕もない。

 完全に逃げる事が出来なくなり、互いに互いを守ろうとした結果の悪手とも言える状況となってしまった。

 業を煮やしたのか、ハンニバル侵食種の口元から黒炎が漏れる。そして黒炎を槍の様な形にしてリンドウに向かって放った。

 

「リンドウさんっ!!」

 

「グッ!!」

 

 どちらかが動けば残った方が殺られる。絶体絶命のピンチにユウキが声を上げるが、リンドウはそれでも諦めた表情は一切していない。

 

「俺は…絶対に…生きて帰る!!」

 

「そうだ。それでいいんだ、リンドウ…」

 

 リンドウとユウキ以外に話す事の出来る人が居ない中、そのどちらでもない声が聞こえてきた。次の瞬間、ブラッドサージが装甲『イヴェイダー』が取りついている器官をを伸ばして、リンドウとユウキを押しているハンニバル侵食種の腕を代わりに受け止める。

 そしてリンドウに向かっていた黒炎の槍は、神機本体に突き刺す事で受け止めた。

 次の瞬間、神機が橙色の光を放った後に腹に黒炎の槍が刺さった状態で空中に浮遊しているレンが現れた。

 

「レン!!」

 

「お前…まさか…俺の…」

 

 仲間の腹に槍が刺さっていると言う衝撃的な場面に目の当たりにしてユウキは声を上げる。そして先程は意識もはっきりしていなかった事もあり、レンの正体が自分の神機であると半信半疑だったリンドウも、自身の目の前で神機がレンになった事に驚いていた。

 だがこんなところを見た以上もう疑いようがない。すぐに事実を認識して、レンが共に戦い続けた自身の神機だと受け入れる事が出来た。

 

「リンドウ…やっとまともに話せたね。」

 

 相変わらず腹に黒炎の槍が刺さっているが、レンは非常に穏やかな笑みを浮かべてリンドウに話しかける。

 

「今まで伝えられなかったけど…これだけは、しっかり伝えたかったんだ…」

 

 レンは1度目を伏せ、優しい表情と声でリンドウに語りかける。

 

「僕は…全部覚えてる。君の初陣の時の緊張も、救えなかった人を達への後悔も、戦い続ける日々の苦悩も…そして、愛する人達を救うために、別れる覚悟を決めた事も…リンドウと一緒に戦った日々は、僕の誇りだよ…ありがとう。」

 

「ああ…俺もだ…」

 

 知らず知らずのうちに共に苦難を背負い、自分の事を助けてくれていた相棒が居たのだと、リンドウは長い戦いの中で忘れてしまっていた事を思い出す。

 

「神機使いになってずっと…ずっと俺を救ってくれてたんだな…感謝する。」

 

「十分だよ…僕は…十分、報われた…」

 

 レンが微笑むと、突然レンの体から光を発する。ユウキとリンドウは光で辺りが見えなくり、収まった頃に目をゆっくりと開けると、レンは地面に立っており、腹に刺さった黒炎の槍と、さっきまでレンの後ろに居たはずの巨大なハンニバル侵食種がきれいに消えていた。

 

「本当にありがとう。ユウキさんのお陰で、ここまで来られました。」

 

「ううん…礼を言うのは俺の方だよ。レンが色々と俺に助言をくれたから、リンドウさんを助ける事が出来たんだ。」

 

 『そうですか…』とレンは上品に笑う。そしてユウキと向き合い、伝えたいことを伝えていく。

 

「けど、それは結果論です。でも、こうして一緒に過ごした時間を思い出してみると…凄く楽しかった…」

 

 レンはユウキと出会ってからの事を思い出し、懐かしむ様な表情で語りかけてくる。

 

「リンドウの事で怒った時…貴方の神機として生きていくのも、悪くないなって思った位に…」

 

「…そ、そう?」

 

 レンが珍しく素直にユウキと共に戦っても良いと言ったので、ユウキは照れながら頬を掻いた。

 

「あ、でももう少し丁寧に扱ってくださいね?『彼女』も痛いのはやっぱり嫌みたいですから。」

 

「うっ!!き、気を付けます…」

 

 ユウキはバツの悪そうな顔になりながら、『彼女』とは自分の神機の事だろうか?と考えた。確かに何度か壊しているため、痛いから止めろと小言を言われてもおかしくないだろう。

 

「それから、初恋ジュース…美味しかったです。アラガミなんかよりも、ずっと…ずっと美味しかった。ありがとう。」

 

 今更ながら、初恋ジュースがきっかけでレンとの交流が始まった様な気がする。こんな時でも思い出す辺り、レンにとってとても大事な『思い出』となっているのだろう。

 ユウキはそんなレンの思い出を作ってやれた事に少し喜びを覚えた。

 

「貴方…いや、ユウに会えて、本当に嬉しかった。」

 

「…うん…こっちこそ…ありがとう。」

 

 伝えたい事は沢山あるのに、うまく言葉にできず、結局『ありがとう』と言う言葉でしか返せない。なんだかむず痒い感覚を覚えながらユウキはレンに礼を言う。

 

「ああ、もっと皆で、色々話したかったなぁ…話すってもどかしくて暖かくて、凄く好きだったよ…」

 

 ずっと伝えたかった事をようやくリンドウに伝えられ、さらにはリンドウだけでなく、他の人とも直接話すチャンスを手に入れた…伝えたいこと、話したい事は沢山あるのに、沢山ありすぎて言葉にできない事にレンもまたむず痒い思いをしていた。

 

「そろそろ、お別れみたいだ。」

 

「そっか…」

 

「行っちまうんだな…」

 

 レンが別れが迫っている事を伝えると、皆名残惜しそうな顔になる。

 

「うん…それじゃ、バイバイ…またね…」

 

「ありがとう…俺の相棒…」

 

 レンがリンドウに歩み寄り、手を差し出す。リンドウも同じように手を伸ばして、共に長い間共に戦った相棒であるレンと硬い握手を交わす。

 

「またな…近いうちに…また会おう…」

 

 近い未来での再開を誓い合い、ユウキとリンドウの意識は遠退いていく。

 

「ああ、それから気を付けてください…次…じ事をす…と…貴方…自……身に…」

 

 最後の最後、レンが何かを言った様な気がしたが、それはほとんど聞き取れなかった上、ユウキとリンドウの意識が消えかけていた事もあり、きちんと2人の元に届くことはなかった。

 

 -エイジス-

 

「…ぁ…?」

 

「ユウ?!」

 

 とにかく全身が痛い。そんな状態でユウキがうめき声をあげて目を開けるとユウキの右側に顔を覗き込む様な体勢のアリサが居た。それを見たアリサがユウキに呼びかける。

 

「目ぇ覚ましたんだ!!よかった…!」

 

 左側からコウタの声も聞こえてきたが、何処にも見かけない。

 

「ァ…リ…サ…?」

 

「バカァッ!!」

 

 今の今までリンドウの精神世界に居たが、アリサは見かけなかった。言葉も通じる事もあり、現実に戻って来たのかと思っていたら、アリサから怒号が飛んで来た。

 

「何で…何で1人で行ってしまったんですか!!」

 

「リ…ドゥ…さん…は?」

 

 色々と言いたいのは分からないでもないが、今はリンドウの安否が気掛かりだ。あそこまでやったのに死んでいないか…本当に生きているのかを早く知りたいところだった。

 

「無事…とは言えないけど、ちゃんと生きてる。右腕がアラガミ化してるけど…見た感じ、大丈夫っぽい。」

 

 コウタからリンドウの様子を聞くと、ユウキへ視線を右に移す。そこにはコウタの言った通り、アラガミ化しているが橙色のコアの様なものが埋め込まれた右腕となったリンドウが居た。ブラッドサージを持ったままリンドウを抱えるソーマと、その補助としてリンドウを支えるサクヤも居た。

 

「…ょか…た…」

 

 ボロボロでも望んだ通り、リンドウはちゃんと生きてるようだ。取り敢えず一安心して視線を戻すと、複雑そうな表情をしたアリサが目に入る。

 

「…何で…何で…何も言ってくれなかったんですか…?」

 

 アリサは何故誰にも言わず1人で戦ったのかを静かに問いただす。顔は少し歪んでいて、今にも泣きそうな顔だった。

 

「言ってくれたら…何だって協力したのに…最後に攻撃されたのだって…盾になるくらいしたのに…」

 

 ユウキは頬に水滴が落ちる感覚を覚える。何かと思えばアリサ大粒の涙をポロポロと流しながら泣いていた。

 

「一緒に…戦ったら…そんな…ボロボロに…なることもなかったかも知れないのに…」

 

 リンドウが帰ってきた喜び、ユウキが1人で戦いに行き、裏切られた様な感覚からの悲しみ、何も気づかなかった自分への後悔…色々な感情がごちゃ混ぜになって訳がわからなくなり、アリサはひたすら泣き続ける。

 

「左目だって…」 

 

「そう…か…どうりで…」

 

 そこまで言われて全て察した。何故か目を覚ましてからずっと左側が見えなかったのか、これではっきりした。

 

「ひだり…はん…ぶん…みぇ…なぃ…わけだ…」

 

 そう、ユウキの左目付近はハンニバル侵食種から最後に殴られた時の衝撃でパックリと割れて血を流し、眼球は潰されていたのだ。しかも目の周りの骨も割れたのか、少し歪に顔面が変形し、骨が皮膚を突き破っていた。

 

「ユウ…どうして…」

 

「わる…ぃ…アリ…サ…」

 

 色々言いたいのは分かる。しかしユウキ自身がもう意識を保つ事に限界を感じていた。

 

「さす…がに…つかれ…た…ね…る…」

 

 そう言うとユウキは目を閉じ、一瞬のうちに眠りに落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは、たった一人を救う為に起こした小さな奇跡だった。だが、俺たちにとっては何よりも大きな奇跡だった。今まで誰もなし得なかった方法で、誰も犠牲にする事なく救う事が出来たのだ。皆が望んだ最良の結果を引き当てる結果となった事を、俺たちの誰もが喜んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だがそれは、奇跡でも何でもなかった。代■を支払う事で手に入れた、謂わばただの等価交換だった。そう遠くない未来で、1人を救った事による■償を…少■は支払う事になる。そしてそれは…少■が■■の道をひた走る引き金となる。

 

極東支部第一部隊活動記録 

著:ソーマ・シックザール

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『カチッ』

 

 ■〇の■車が=〇合った。

 

To be continued




後書き
 左目を潰しながらもようやくリンドウさん救出です。ゲームの方でもラスボスがハンニバル侵食種でしたが、既に1度倒した事のある相手だったのでそこまで苦戦せずにあっさりと倒されてもらいました。ラスボスにしては盛り上がりに欠けるところがあるかも?と思いましたが、リンドウさんと共闘するのだし、化け物じみた強さを見せつける意味でもよかったかもと思います。
 レンは…原作でもこの先現れる事はないんですよね…リンドウさんと共に色んなものを見て、体験して、成長した事を伝える機会を得られたが、伝えたい事がありすぎて上手く言葉に出来ないもどかしさを伝えられるよう書いてみたのですが…狙った部分を伝えるというのは難しいです(´・ω・`)
 それでは次話でリンドウ救出編本編は終わり、後日談を一つ入れて、完全に終わります。リザレクション編は9割オリジナルになるので、今まで以上に時間がかかると思いますが、また見ていただけると嬉しいです。
 あ、そう言えばGE3とRPGのアプリのトレーラームービーが発表されたとの事で見たのですが…二刀流やら神機同士のジョイントやら各支部を巻き込んだ作成が展開される等、オリジナルでやろうとしていた事と内容が被る部分があって、この先何か言われないかが心配です(;゚Д゚)
 …プラットフォームにVita残しといてくれぇ(祈 でなきゃやれない

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