-エントランス?-
「っ?!?!!?!?!?」
意識がハッキリとしてきた。ユウキは目を開いてみると、そこは今まで居たエイジスではなかった。
「えっ?!あれ??ここって…」
ユウキの眼前に広がっていたのは、いつもの見慣れた極東支部のエントランスだった。
「アナグラ…だよな…?でも…いつの間に…?」
少なくとも自身の意思で帰ってきた覚えはない。まさかハンニバル侵食種との戦いは夢オチだったのかと思っていると、ある事に気が付く。
(…何の気配も感じない…?)
エントランスに人どころか何かの気配を『全く』感じないのだ。それどころか視界には黒いモヤの様なものもかかっていて、あまりに現実味の無い感覚にユウキは内心困惑していた。
何かおかしい…そう思いながら、ユウキは見知ったはずの極東支部を1度探索する。元自室、リンドウの部屋、医務室、ラボラトリ、支部長室等、あらゆる部屋を見て回った。
(…誰も居ない…)
だが、誰一人と見つかる事はなかった。夜中であれば各自の部屋にくらいは居そうなものだが、そこにさえ人が居ないとなると、ここが極東支部なのかも怪しく思えてくる。
「一体どうなっているんだ?本当にここはアナグラなのか?」
「ええ、アナグラですよ。」
「うわっ!?レ、レンか…ビックリした…」
突然気配もなく、レンの声が後ろから聞こえてきて、ユウキは思わずすっとんきょうな声を上げて驚いた。
「驚き過ぎですよ…」
「う、うるさい!!それより本当にここはアナグラなのか?雰囲気が何かおかしいし、レン以外に誰も居ないし、妙に暗くて辺りがモヤモヤしている様な気がするし…」
「ええ、アナグラです。もっともここはリンドウの精神世界…いや、正確にはリンドウと貴方と僕の記憶や精神が入り雑じった世界と言った方が良いでしょうか…まあ、小難しく考えずにリンドウの精神世界だと思って頂いて結構です。」
レンがユウキの様子を見ると苦笑する。レンの反応にユウキはむくれつつも、ここは何処だとレンに対して質問攻めにする。
しかし、レンは今居るこの場所はリンドウの精神世界だと、いつもと変わらぬ様子であっけらかんと答えていく。
そんなレンの話を聞いたユウキは余計に混乱し、動揺した様子を見せる。
「…え?え?!ちょっ!!ちょっと待って?!何?!精神…世界?って何?!現実じゃないってこと?!何だってこんな俺は所に?!」
「落ち着いてください。掻い摘んで説明しますから。」
レンは動揺から煩くなったユウキを宥めて、ここが何なのかを説明し始める。
「まずここに至るまでの経緯は思い出せますか?」
「エイジスでリンドウさんと戦ってて…倒して…その後リンドウさんの神機を使って…それから…えっと…あれ?」
レンに言われて、ユウキはここに来るまでの自分の行動を思い出してみる。エイジスでハンニバル侵食種と戦い、死闘の果てに倒したは良いが蘇生され、仲間来た後に、リンドウの神機を再び使い、ハンニバル侵食種を攻撃した…この辺りまでは思い出せるが、そこから後がどうにもあやふやでハッキリと思い出せないでいると、レンが補足するように何があったのか説明していく。
「結論から言うと貴方はリンドウの神機を使った結果、左腕がアラガミ化しました。その状態の左腕でアラガミ化したリンドウのコアに触れた事で、感応現象が起こりこのような現象を引き起こす事になったんです。推論ですが、これは触れたもの同士がオラクル細胞である事も関わっていますが、何よりもコアに直接触れた事による影響の方が大きく…着いていけてますか?」
「あ、う、うん…何とか…」
まるで頭から煙でも吹き出していそうな難しい顔で、ユウキはレンの説明を聞いていく。
「…まあ、アラガミ化したリンドウと感応現象を起こして意識が繋がったと思ってください。」
「わ、分かった。」
レンはただでさえ混乱している状況で、これ以上小難しい話をしても頭がパンクするだけだろうと思い、単純に感応現象によるものだとユウキに伝える。
「…それにしても…アラガミ化リンドウのコアに対して原始的な攻撃に出るとは…狙ってたんですか?」
レンはやや呆れたような雰囲気の声でユウキの愚行とも言える行為の真意を尋ねると、ユウキは目を逸らして明後日の方向を見ながら答える。
「い、いや…その…半ば自棄になって…取り敢えず黙れって意味で殴りかかっただけ…です。あ、でもリンドウさんの本体が半分出てきてたから、黒いハンニバルから引き剥がしたらどうにかなるんじゃないかとは思ったね…」
「はぁ…まったく貴方と言う人は…まあでも、こちらとしても嬉しい誤算ではあります。この状況なら…リンドウを救えるかも知れない。」
「本当か?!」
ユウキ自身、何ら確証があるわけでもなくただの自棄だったと話すと、レンは呆れながらため息をつく。そして最後には今までリンドウを殺せと言ってきたレンが、リンドウを救えると言ってきた。
予想外の提案ではあるが、ユウキ自身はその提案に迷いなく食い付く。
「ええ。ただし、貴方の協力が不可欠です。手伝ってくれますか?」
「分かった。何をすれば良いんだ?」
リンドウ救出にはユウキの協力が必要なようだが、等の本人からすれば待ち望んだ提案だったので迷いなくレンの提案に乗る。
「…時間がありません。移動しながら説明します。」
そう言うとレンはエレベーターに乗り込み、ユウキもその後に続いた。
-役員区画?-
「先程も言いましたが、ここはリンドウと僕達の記憶と精神が混ざりあった世界です。でもリンドウは今、アラガミ化しているせいでリンドウの精神は弱まっています。なのでリンドウの過去を追体験するとこで記憶を刺激して意思を保たせると同時に、リンドウの意識の干渉するんです。」
エレベーターの中で、レンが今後の動きを説明していく。どうやらリンドウの記憶と精神を刺激してやる必要があるようだ。ユウキは何となく理解したような状態で話を聞いているとエレベーターが止まる。レンはそのまま歩き出し、ユウキもそれに続いてエレベーターを降りるとある部屋の前まで移動する。
「…支部長室?」
「まずはここです。行きましょう。」
「ま、待って!!さっき入ったけど誰も…」
先にユウキが見に行った時は誰も居なかった。その事を伝えようとするも、レンは聞く耳を持たずに支部長室に入っていく。
「やっぱり…」
「し…支部長…?」
部屋に入った時はレンの陰で気が付かなかったが、先程入った時とは明らかに違う事があった。
前支部長のヨハネス・フォン・シックザールがデスクに座っていたのだ。ただし、ヨハネスはユウキ達が来ても構わずに、声を発する事なく口だけを動かしている。
「な、何で…ここに…?」
ユウキは驚愕し、言葉を失う。それも当然だ。エイジスでの決戦でこの手にかけた者が目の前に居るのだから。
「落ち着いてください。ここはリンドウの記憶の世界…かつてここで話した時の記憶が再現されているにすぎません。確証は取れました。次に行きましょう。」
レンは何やら確証を得られたと言って、支部長室を出ていく。そしてユウキは何も分からないままレンの後に着いていった。
-リンドウの部屋?-
レンが次に来たのはリンドウの部屋だったが、ユウキはレンが何をどうするつもりなのかまったく分からなかった。
そんな中、レンはリンドウの部屋に入ったので、ユウキもそれに続く。
「リンドウさん?!サクヤさんまで!!」
「おう、来たか。そう言えば、俺の部屋に来るのは初めてだな。どうだ調子は?…元気が無いみたいだが大丈夫か?体調管理も立派な仕事だぞ。具合が悪いならちゃんとメシ食ってしっかり寝とけよ。」
さっきは居なかったリンドウとサクヤが部屋の中に居た。ただしサクヤは相づちや身振りはしているものの、基本的にヨハネスの時と同様、口だけ動かすだけで言葉を発してはいない。
対してリンドウはユウキが初めてリンドウの部屋に来た時の会話を、壊れたラジオの様にただひたすら繰り返していた。
本人ではないとは言え、見知った人間と同じ人物の異様な光景を目の当たりにして、何処か恐怖に近い感覚を覚えた。
「な、なんか不気味だな…これも、記憶の再現ってやつなのか?」
「ええ…リンドウの記憶を刺激するには、この『記憶の中のリンドウ』が鍵です。ただ、気を付けてください。リンドウはアラガミ化により、精神を酷く消耗しています。リンドウの意思が彼を喰らおうとするアラガミに負けると、僕達もこの精神世界と共に喰われていきます。そうなると、現実世界で目覚める事は2度とありません。」
レンはもたもたしているとリンドウ精神世界と共に自分達も消え去ると説明する。しかし、ユウキの口角は少しだけつり上がっていた。
「…関係ないさ。結局リンドウさんを取り戻さなければ出られないんだろ?なら、何にしてもやるしかないさ。」
やることは見えた。こうなったら意地でもこの男はやるだろう。さらにはリンドウを救えると言うのだから、気合いも入ると言うものだ。
ユウキは目付きを鋭くして、レンの横を抜けて記憶の中のリンドウに近づく。
「…っ!!」
しかし突然頭痛がレンを襲いふらついた。それに気がついたユウキは1度歩みを止める。
「レン?」
「…何でもありません。それじゃあ行きましょう。」
レンは一瞬頭を振り、気をしっかりと保つ。そしてユウキの記憶の中のリンドウの前まで歩くと、ユウキの手を取り、リンドウに触れると、辺りが白く染まって意識が遠退いていった。
-煉獄の地下街?-
「…あれ?ここは…」
気が付くとユウキは今までに見たことのある場所に居た。
「旧地下鉄?何でこんな所に…?ここもリンドウさんの精神世界なのか?」
極東支部の様な異様な雰囲気とは違い、かなり精巧に再現されていたせいなのか、一瞬現実に戻ってきたのではないかと錯覚した。
「神機まで…いつの間に…なあレン…」
気が付いたら神機まで握っていた。状況の変化に着いていけず、レンに説明を求めようと辺りを見回したが、レンが何処にも居ない事に気が付いた。
「レン?レン?!何処だ?!」
『聞こえてますよ。』
まるで天の声かの様に突然レンの声が辺りに響く。しかし依然として姿は見えず、流石にレンの安否が気になっていた。
「レン!!無事なのか?!」
『ええ…どうやら、僕は失敗してそっちに行き損ねたみたいです。リンドウの部屋のモニターから様子は見えているので、ここからオペレートします。』
「そうか、分かった。」
会話も出来るあたり大丈夫と言うのは本当なのだろう。通信機もなく声が聞こえてくるのは少々落ち着かないがそうも言っていられない。少しの間の後、状況の把握が終わったのかレンは説明を始める。
『ここはリンドウの記憶と共に貴方の記憶でも形づくられています。なので、貴方が当時の感覚を思い出す事が出来れば、以前のように神機の力を引き出す事も、身体の限界を超える事も出来ます。時間がありません。それらの力で手早く片付けて下さい。』
「…了解。相手は?」
『スサノオです。丁度こちらに向かっています。』
神機の能力を引き出し、自身の限界を超える…リンドウの神機を使ってから久しく使えなかった力だが、ここでは感覚さえ覚えていたら使うことが出来るそうだ。相手がスサノオであるなら力が使えるかを確認するには申し分無い相手だ。
『グルラアオオオ!!』
スサノオが雄叫びと共に壁を突き破って現れた。ユウキは神機を握り直し、目付きを鋭くして戦闘体勢に入る。
「任務…開始!!」
ユウキは真っ直ぐにスサノオに向かい、スサノオはユウキを串刺しにしようと尻尾の剣を突き立てる。
『ズガンッ!!』
スサノオの剣が地面に突き刺さる。しかしユウキは紙一重で躱し、スサノオの上までジャンプしつつ捕食口を展開する。
(周りが遅い…思考をクリアになっていく…余計な音が聞こえないし落ち着いている…それに…)
スサノオの上に来ると、翔鷹で下から掬い上げる様にスサノオの背中を捕食する。
(体が軽い…)
バーストしてスサノオを飛び越えたユウキは、スサノオの後ろに回った瞬間に体を捻って尻尾を切り落とす。
突然尻尾を落とされたスサノオは痛みで怯んで隙が出来る。
(力を貸せ…相棒!!)
『ドクンッ!!』
スサノオと背中合わせになるように着地すると、右腕の神機から脈動を感じ取る。
(これだ…この感覚だっ!!)
神機の力を引き出した事を感じると、もう1度回転して横凪ぎに神機を振り抜いた。身体の限界を超え、神機の力を引き出し、さらにはバーストした身体能力とベルセルクの発動…異様な攻撃力で神機を振り抜き、『ズシャァ!!』と肉を斬り裂く音と血が吹き出る音が同時に聞こえてスサノオはあっさりと真っ二つに両断された。
しかし、『倒した』と言うその手応え感じた瞬間、ユウキの視界は突然白く染まった。
-エントランス?-
「…っ?!も、戻ってきたのか…?」
気が付くと再び極東支部に戻ってきていた。いつの間にか神機も消えている。
(どうにも慣れないな…)
毎度突然景色が変わるため動揺して頭が着いていけなくなってしまう。こんな調子で大丈夫だろうかと少し不安になりつつもエレベーターに向かっていると、ふとミッションカウンターに誰かが居るのが目に入る。
(…ヒバリさんがいる?)
さっきは見かけなかったヒバリがカウンターに居た。何かしらこの精神世界の事を聞けないかと思い、ユウキは下階に降りてヒバリに話しかけてみる。
「あの、ヒバリさん?」
しかし、ヒバリも支部長やサクヤと同様、誰かと話しているように仕草や身振りはあるが、言葉を発することなく口だけを動かしていた。
(…ダメ…か…)
何度か話しかけてみたが結局ヒバリからの返事がなかったので、情報を得ることは出来ないと思い、ユウキはその場を後にして、エレベーターを待っている。
(レンは…リンドウさんの部屋かな?)
先の戦闘の時にはリンドウの部屋から様子を見ていたと言っていたはずだ。レンの側で大きな変化が起きていないのなら、恐らくまだそこに居るだろうと考え、ユウキはエレベーターに乗り込んだ。
-リンドウの部屋?-
リンドウの部屋に入ると、予想通りレンが居た。退屈だったのか、ベッドに腰かけて足をブラブラさせていた。
「少し遅かったですね?」
「ヒバリさんが居たから…ちょっと気になってね。」
「そうですか。それじゃあ次に行きましょう。」
遅れた理由について特に言及することなく、さっさと次の工程に行くと伝えると、レンはベッドから降りてリンドウの近くまで移動する。
「早く来ないとすねて帰っちまうとさ…ったくせっかちなやつだ。俺はそろそろ行く。命令はいつも通り。死ぬな、必ず生きて戻れ、だ。」
いつだったか行き掛けまでは一緒だったが、途中からリンドウが離脱したときの会話だった。相も変わらず同じ内容でずっと繰り返し話している。
「だいぶあの日のリンドウに近づいてきましたね。」
「あの日?」
レンが意味深な独り言を呟く。それはユウキの耳にも届いていたため、思わず聞き返す。
「リンドウが皆の前から居なくなったあの日です。さあ、行きましょう。」
そう言ってレンは再度リンドウに触れる。するとユウキ達の視界は白に染まった。
-嘆きの平原?-
目を開けるよりも先に頬に冷たい水飛沫が当たる感覚を覚える。ユウキはゆっくりと目を開けると、そこには巨大な竜巻と鈍色の空、そして絶えず降り続ける雨が目に映った。
「ここは…旧ビル街か。」
「ですね。今回は僕もこっちに行けたみたいで、取り敢えずは問題なさそうですね。さて、相手は…」
「ウロヴォロス…気配で分かる。」
かつて体験した感覚…直接見える位置に居るわけでもないのに感じる圧倒的な存在感を感じ取り、ユウキはすぐに相手が何なのか理解した。
「分かっているなら話は早いです。手早く片付けましょう。」
「了解!!」
ユウキは神機をしっかりと握り、待機ポイントから飛び下りる。レンもそれに続いて飛び下りる。するとレンは銃形態『サースティハート』に変形して上空に向かってレーザーを放つ。放ったレーザーは消失と同時に爆発し、辺りに爆音が響いた。
「え?!ちょっ?!何してんの?!」
ウロヴォロスに気付かれると思い、ユウキは慌ててレンの方を見る。
「誘き寄せただけですよ。向こうから着てもらう方が早い。それに、今の貴方ならウロヴォロス程度、大した敵でもないでょう?」
「まあ、否定はしないけど…」
特に悪びれる様子もなく、レンは目的を教えた。しかし、時間が無いのは分かるがせめて何か一言あっても良かったんじゃないかとユウキは心の内で考えていた。
『ヴォオォォオッ!!』
竜巻を突き破り、ウロヴォロスが雄叫びと共に現れる。ユウキは真っ先にウロヴォロスに向かい、レンは剣形態『ファントムピアス』に変形してから走り出す。
(早いとこ終わらせる!!)
『ドクンッ!!』
神機が脈打つのを感じて、力を引き出した事を確信する。ウロヴォロスが右の前触手を構えてユウキに殴りかかる。
(ッ!!)
ユウキはギリギリスサノオの時の様に紙一重で躱し、カウンターで触手を切り落とそうと思ったが、想像以上速く感じて横に大きく避けるのが精一杯だった。
そしてレンはシールド『グリーディキッス』を展開してウロヴォロスのパンチを防御すると、勢いに圧されて少し後ろに下がる。しかし即座に反撃に出る。ウロヴォロスの触手の上に乗り、走り抜ける。その途中で、まるで踊る様に、かつめちゃくちゃに触手を傷つけていく。
しかし、レンのファントムピアスはショートブレードだ。しっかりと斬れてはいるが、大したダメージではない。だが今はそれで十分だった。
ユウキもまたレンの後を追うように、地上からウロヴォロスに向かって走る。だが、自身が思っている様なスピードはでていないのか、レンになかなか追い付けない事が気になっていた。
「気のせいかな…?身体の限界を超えられない?」
そんな自身の疑問も呟きながらユウキはウロヴォロスの前触手をバラバラに切り捨てていく。神機の能力を引き出していると言うこともあるが、レンが先に着けていった傷と反対側から重なる様に斬っていった事で、あっさりとウロヴォロスは片方の前触手を失った。その結果、自らの体重を支えることが出来ずに、ウロヴォロスは立ち上がる事が出来なくなった。
「恐らくリンドウの精神の中核とも言える場所に近づいたからだと思います。貴方が自身の限界を超えられる事も、神機の力を引き出せる事もリンドウは知らない。そう言った『リンドウの記憶』が優先されているからだと思います。」
「なるほど。もしかして最終的には現実と大差無い感じになってしまったり?」
「可能性は高いですね。あ、今ですよ。バーストさせますのでとどめを刺してください。」
前触手をバラバラに刻んでいる間も呑気に話をしている。話が1度落ち着くと、レンは前触手の破片を弐式で3つまとめて捕食してバーストする。手に入れた3つの受け渡し弾を、ウロヴォロスから飛び降りながらユウキに渡す。
するとユウキはリンクバーストLv3となり、ウロヴォロスの眼前で神機を上段に構える。
「とどめだっ!!」
『フッ!!』と空を切る音と共に、ウロヴォロスの巨体からスサノオとは比較にならない程の血飛沫を撒き散らせながら、左右に切り分ける。
そして
その瞬間、またしてもユウキとレンの視界は白く染まった。
-エントランス?-
ウロヴォロスを倒すと、またもやいつの間にかエントランスに戻っていた。レンもすぐ横に居るのを確認すると、ユウキは思わずため息と共に呟いた。
「戻ってきたか…」
「急ぎましょう。そろそろ時間が無くなってきました。」
「ああ。」
レンは戻るや否や即座にリンドウの部屋に向かう。ユウキもそれに続いてエレベーターに乗り込んだ。
-リンドウの部屋?-
リンドウの部屋に入ると、そこには異様な光景が広がっていた。
「リンドウさん…」
「これが…今のリンドウです。」
部屋は荒れ果てており、ボロボロの隊長服を着て、赤黒い異形の右腕に鎖を巻き付け、今にも死にそうな目をしたリンドウが壁に凭れて座っていた。
「立ち去れ…早く…っ!!」
痛みでも走るのだろうか…呻き声を上げながらリンドウはここから去るように訴える。
「ようやくここまで来た…これで最後です。リンドウを…救いましょう。」
「当然!!」
レンがリンドウに触れる。するとレンとユウキの視界は白く染まり、意識が遠退いていった。
To be continued
後書き
今回は遅れると言いながら何とか普段と変わらぬペースで投稿出来ました。今後もリアルの都合やらやりたいことで遅れる可能性が高いので、気長に待っていただけると(待ってる人居るのかな?)助かります。
今回は一時的にユウキが全盛期の力を取り戻しました。ユウキ、レン、リンドウさんの記憶によって形作られた世界なら、当人が思い出せれば失った力を取り戻すことも可能じゃないかと思い、こんな設定にました。
と言うかそうでもしないとスサノオ戦とウロヴォロス戦でグダる可能性が高かったんですよ…