GOD EATER ~The Broker~   作:魔狼の盾

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今回は戦闘のない会話回です。ついにリンドウさんの生存を皆に伝え、捜索を開始します。


mission61 迫る現実

 -ラボラトリ-

 

 第二部隊が見つかってから翌日、ユウキはペイラーの呼び出しを受けてラボラトリに居た。

 

「やあ、良く来てくれたね!実は1つ2つ、耳にいれておきたい事があってね。」

 

「もしかして…羽の事ですか?」

 

 ユウキが入ってくるなり、ペイラーは要件を話していく。

 

「それもあるが、昨日倒した青いアラガミ…通称『ツクヨミ』の事だ。」

 

「…?はい…」

 

 昨日倒した青いアルダ・ノーヴァは、第一種接触禁忌種『ツクヨミ』と名付けられたようだ。しかし、そんな事よりも話の内容が見えてこない。そのせいか、どこか疑問に思っていると言う事が滲み出るような返事となった。

 

「持ち帰ってくれたコアを調べたんだが、どうやらコアに使われているオラクル細胞の圧縮率が他のアラガミと比べてずば抜けて高い事が分かったんだ。」

 

「はあ…」

 

 ツクヨミのコアは他のものと比べて高い圧縮率で生成されているそうだが、どういう事かあまり把握出来ていないユウキは気の抜ける様な返事をする。

 

「結論から言おう。ツクヨミのコアにはそれだけ多くの情報が詰まっていると言う事だ。それに加えて、本来のスペックも君たちが戦った時のスペックよりも遥かに高い事が分かったんだ。」

 

 それを聞いた途端、ユウキの顔が険しくなる。

 

「…手を抜かれていた…って事ですか?」

 

「いや、恐らくあの時のツクヨミはあれが限界スペックだよ。生まれたばかりの赤ん坊が自分の力をフルに発揮出来ないのと同じさ。ツクヨミのコアがどれだけ凄くても、まだコア自身がそれを制御仕切れてないないのさ。」

 

「なるほど…」

 

 確かにアルダ・ノーヴァ神属ともなればつい最近まで禁忌種が現れなかったことも頷ける。そんな中でいきなりの戦闘では、アラガミにとっての頭脳とも言えるコアの学習が追い付かないのも無理はない。

 

「ただ、そのスペックを出し切れないのも時間の問題だろうね。いずれは他の禁忌種同様、単騎で神機使いを殲滅出来るようになるだろうね。」

 

(…あれで全力じゃなかったのか…敵の力量を見誤るようじゃ…俺もまだまだだな…)

 

 ツクヨミとの戦闘では然程脅威とは感じなかったが、話を聞く限りツクヨミの本来の力はあんなものではないらしい。今後同じ感覚でツクヨミと戦うと間違いなく殺される。以後は気を引き締めなければならないだろう。

 

「分かりました。ツクヨミの件は今後気を付けます。」

 

「頼んだよ。それじゃあ本題の黒い羽の事だ。照合の結果、あれはリンドウ君の遺留物であることが確定した。」

 

「っ!!」

 

 黒い羽はリンドウのもの…それを聞いた瞬間ユウキの目付きは鋭くなる。

 

「ほう…目付きが変わったね。分かってると思うけど、人間であるリンドウ君からこんなものが出てくる訳がない。となると…」

 

「アラガミ化…ですね。」

 

「その通り。まだ深刻な事態になるまでは進行していないようだけど、早く探し出した方が良いのは間違いない。今後は皆にも協力してもらいながらの捜索になる。」

 

「はい!!」

 

 ユウキが勢い良く返事をする。絶対にリンドウを探しだしてみせる…強い意思を表しているようだった。

 

「本来なら私も捜索に協力したいところなのたが…リンドウ君がアラガミ化しているのであれば一刻も早く対策を打たねばならない。私はそちらの研究に入る事にするよ。」

 

「状況が状況とは言え、博士からの支援が無いのは辛いですね。」

 

「なに、その代わり捜索の指揮はツバキ君に任せてある。部隊編成なんかの相談は彼女にして欲しい。」

 

「分かりました。」

 

 ペイラーは捜索の指揮権はツバキに託した事をユウキに伝える。今後は捜索に関してはツバキに進言した方が良さそうだと考えていると、ペイラーが話の締めに入る。

 

「今の件で近い内に召集があるはずだ。そこで詳しい方針を話してくれるだろうから、捜索に関してはそちらに従ってくれ。」

 

「はい。それじゃあ、失礼します。」

 

 ユウキは踵を返して、招集に備えてラボラトリを出ていく。

 

「…さて、ここからは…」

 

 部屋を出ていくユウキを見送ったペイラーが呟きながらキーボードを叩き始める。

 

「時間との勝負…だね…」

 

 ペイラーのポツリと呟いた独り言がラボラトリ内に響いた。

 

 -エントランス-

 

「さて、全員集まっているな。」

 

 ユウキがラボラトリを出てからしばらくすると、神機使い全員がエントランスに集められた。そこからさらに10分程して、神機使いが全員集まり、ツバキもやって来た。

 そして来るなり全員居る事を確認すると、早速本題に入る事となった。

 

「今回諸君らに集まって貰ったのは、ある重要な任務のためだ。」

 

 重要な任務と聞いた神機使い達が、内容を把握しきれず考察し合う様に辺りがざわめく。

 

「静粛に!」

 

 鶴の一声…否、鬼(教官)の一声で辺りは静まり返る。

 

「…諸君らに対応してもらいたいのはある人物の捜索任務だ。ここ最近になって、とある遺留物が発見されるようになったのだが、これをリンドウのDNAパターンを照合した結果、捜索対象を雨宮リンドウ大尉と断定…本日一二〇〇をもってリンドウの捜索任務を再開する。」

 

 ツバキがリンドウの生存の確認が取れたため、以前打ち切った捜索任務を独自に再開する事を伝える。

 だが、誰もが忘れた様な頃に待ち望んだ報告が来て、神機使い達は良い意味で沈黙している。

 

「生存自体はほぼ間違いないが、腕輪の制御を失って久しいため、アラガミ化の進行が懸念される。接触には十分注意するように。」

 

(アラガミ化…)

 

 リンドウのアラガミ化が進行している可能性がある。それを聞いた時、アリサは無意識に既にアラガミ化が進行しているユウキを横目に見る。

 

「…いい年をした迷子の愚弟を…皆、よろしく頼む。」

 

「「「了解!!!!」」」

 

 リンドウの捜索が決まった。全員が喜びを滲ませながら了承の返事をする。

 

「リンドウが…生きてる…!」

 

「サクヤさん!」

 

 辺りから喜びの声が上がる。特にサクヤは表情だけでなく、声色や雰囲気からも喜びが現れていて、あの日失った希望を取り戻したようだった。

 アリサもそれを感じたのか、彼女も喜びと希望を取り戻した様な口調となっていた。

 

「フン…さっさと見つけて連れて帰るぞ…」

 

「ええ…必ず連れて帰りましょう…必ず…!!」

 

「うっし!!そうと決まれば早速行こうぜ!!ユウ!!」

 

 気合い十分なコウタがユウキに出撃を進言する。

 

「いや、第一部隊は通常任務を前提とした広域捜索が担当だ。基本的な捜索は第二、第三部隊に担当してもらう。」

 

「えぇ?!な、何でですかツバキさん?!」

 

 が、ツバキによってそれは阻まれた。ツバキ曰く、第一部隊はいつも通りのゲリラ戦のついでにリンドウの捜索、第二、第三部隊が捜索に専念すると言うものだった。

 

「アナグラの主戦力である第一部隊は、強力なアラガミへの対抗策として、長期間アナグラから離れない様にして欲しいのです。」

 

「ま、どっかのバカがこの間みたいな事をしないようにするためにも必要ではあるか…」

 

 ヒバリがツバキの指示の補足をする。確かに以前の様に神機使い総出で出撃した結果、極東支部が直接攻撃されても対処出来ない可能性はある。

 あの時は小型種であるヴァジュラテイルだったからこそ、ユウキが適合していない神機使い使っても倒す事が出来たが、これが中型種になったらもう対処出来ないだろう。

 その事を考えると極東支部には必ず誰か1人は神機使いが残っていた方が良いのは間違いない。

 

「ヒュ~♪ヒュ~♪ヒュ~ヒュ~♪」

 

「吹けてないし誤魔化せてないんだけど…」

 

 以前の失敗を蒸し返され、ユウキは誤魔化す様に口笛を吹くが、音が出ずに空気の漏れる音がするだけだった。

 

「それから…ユウキには今後、第二、第三部隊の補佐もやってもらう。」

 

「それは構いませんが…何故俺だけ?」

 

 皆が同じことを考えていた。先程第一部隊は極東支部を離れない部隊展開をすると言っていた。にも関わらず、ユウキだけが捜索任務に出ると言うのはどういう事かツバキに聞いてみた。

 

「現地での禁忌種対策だ。アナグラの中でもユウキは禁忌種討伐数がずば抜けて高い。討伐経験者があまり居ない他の部隊への増員と言う事だ。」

 

「ぶぅ~…ウチからはユウだけかぁ…」

 

 どうやら現地で禁忌種が出た時の助っ人と言うことらしい。確かに現状、禁忌種が大量発生している。行った先で禁忌種にバッタリ…なんて言う可能性は高い。そのための対応策としてユウキが捜索隊に加わると言う事だった。

 しかしコウタは納得いかないのか、文句を言っている。

 

「大丈夫!リンドウさんの事は俺らに任せとけ!生きている事は間違いないんだろ?きっとすぐに見つかるさ。」

 

「見つけたらすぐ連絡します!ね?ジーナさん。」

 

「そうね、リンドウさんを連れて帰りたいと思ってるのは、貴方達だけじゃないもの。」

 

「ああ。新人達も居るし、人手も何とかなるだろう。必ず、リンドウさんを探しだしてみせる。」

 

 タツミ、カノン、ジーナ、ブレンダンが各々リンドウを連れて帰ると決意しる。カレルやシュンも口には出さないがいつもより気を引き締めているような雰囲気になっている。

 そんな様子を見ていたサクヤはリンドウがこんなにも皆から大切に想われているのだと実感して、嬉しくなって思わず口を開く。

 

「そうね…私が言うのも、ちょっと変かも知れないけど…お願い!皆の力、貸してちょうだい!!」

 

「よっしゃあ!!それじゃあ早速リンドウさん探しに行くか!!」

 

 サクヤからの頼みを受けて、タツミは気合いを入れながら出撃準備に入る。

 

「それでさ、ヒバリちゃん…俺がリンドウさん連れて帰ってきたら食事にでも…」

 

「え…?えっと…考えなくもないので、頑張って下さい…」

 

「…えぇ…」

 

 が、タツミはいつものように出撃前にヒバリを口説たが、全員の前で撃沈していた。

 

 

 -ベテラン区画-

 

 タツミとの打ち合わせを終えて、ユウキも第二部隊と共に捜索任務に出る事になった。まずはリンドウが潜伏していた旧寺院からだ。

 出撃準備をするため、1度自室に戻りにベテラン区画に来ていた。ユウキがエレベーターを降りると、そこには初恋ジュースを片手に自販機に背中を預けているレンが居た。

 

「レン…」

 

「リンドウさん…本当に皆に慕われてたんですね。数も数えられない様なバカなのに…」

 

「…」

 

 レンの相変わらずな毒舌が飛んでくる。どうにもレンはリンドウに対して厳しい気がする。

 

「そう言えば、貴方が初めてオウガテイルと戦った時もやってましたね。あれは彼なりの緊張の解し方でしょうか?」

 

「多分そうじゃないかな?流石に数を数えられないなんて事はないと思うよ。」

 

 リンドウとの初陣の時の事を思い出しながらユウキは苦笑いする。

 

(ん…?何でレンが俺の初陣の事を知ってるんだ…?)

 

 ふと、何故レンがユウキの初陣の事を知ってるのかが気になった。しかもレンの口振りからはユウキが出た任務以外でもやっているようだ。

 リンドウが話したからと言ってしまえばそれまでだが、どうにも腑に落ちないと思っていると、レンが話を進める。

 

「そんな貴方も、今はもう立派なリーダーですね。皆に慕われ、導く立場にあります。」

 

 何故そんな話をするのか見えてこない。困惑しているユウキを無視してレンはさらに話を進める。

 

「そんな貴方にこそ…知っておいて欲しい事があります。」

 

「…何?」

 

 何故かユウキは嫌な予感がして、何処か暗い声色になる。

 

「…アラガミ化した人間の処理方法です。」

 

「…は?」

 

 心の内で嫌な予感が的中した様に感じて、嫌悪感を隠すことなく威圧的な返事をする。

 

「そもそもアラガミ化とは、何か…人体への偏食因子の供給異常、或いは暴走により人体が急速にオラクル細胞に変化していく突然変異現象です。」

 

 ユウキの変化に気が付きながらも、それを無視してレンはいつかペイラーから聞いたものと似通ったアラガミ化の説明をしていく。

 

「アラガミ化してしまった者は、2度と人間には戻れません。さらに人を媒介にして生成されたオラクル細胞は、非常に多彩で複雑な変化を遂げます。この場合、通常の神機が有効でない例も数多く存在します。」

 

「…るせぇ…」

 

 レンは人間がアラガミ化したら通常の神機が通じない事を伝える。それを聞いたユウキは想像したくない現実を突き付けられた様な気がして、思わず呟いてそれを否定する。

 

「その対処方法として、適合者本人にしか使えないと言う矛盾があるため確実な手とは言えませんが…」

 

「…うるせぇ…」

 

 さらに話ていく内に嫌な予感が本当に当たっている事を実感して今度はレンに聞こえる様に止める様に伝える。

 

「適合者が使用していた神機で…」

 

 しかしレンは止めろと言ったユウキを無視する。

 

「殺す事です。」

 

  『ガァンッ!!』

 

 レンが喋った瞬間、ユウキはレンの首を掴んで自販機に叩き付ける。それと同時にレンは持っていた初恋ジュースを落としてしまった。

 

「…それ以上喋るな…でないと…」

 

 レンの首を掴む右手に力が籠る。しかしその顔は俯いていてユウキの表情は見えない。

 

「その舌、今すぐ引っこ抜くぞ…!!」

 

「ッ!!」

 

 ユウキの『目』を見た瞬間レンは戦慄を覚えたが、すぐに何ともなさそうにケロッとした表情になり、1度下を見る。

 

「リンドウさんの足跡を追って、運良く彼を見つける事ができたとしましょう…その時、彼がアラガミとなって立っていたら、貴方は…」

 

 レンは一瞬間を開け、再び顔を上げる。

 

「その『アラガミ』を殺せますか?」

 

「…ッ!!」

 

 レンがまるでゴミを見るような冷たい目でユウキを見る。そしてレンはまるで集ってきた虫を払う位の軽い動作で自らの首を掴むユウキの右手を払い除ける。

 

「…この世界はいつだってわがままで、理不尽な選択を迫り、それが現実として連綿と続いていく…」

 

「…」

 

「あの時の彼の選択は…皆を幸せな現実に導いたのでしょうか?」

 

 レンの語りに気圧されてユウキは黙り込んでしまう。

 

「そして貴方は、その現実の中で…どんな選択をするんですか?」

 

 レンは相変わらずゴミを見るような目でユウキを横目で見つつ、落とした初恋ジュースを拾い上げに行く。

 

「…人の命って言うのは、そんな簡単に割りきれないものです。だから貴方はこうして悩み、状況を打開する方法を考えている…それは僕も分かってます。でも、覚えていてください。」

 

 初恋ジュースを拾ったレンはユウキと向き合う。ゴミを見るような目は止めたが、相変わらず睨む様な目でユウキを見る。

 

「最悪の事態を想定せず逃げていては…その時になって何も出来ずに全てを失うのは…貴方の方です。」

 

 『医務室に戻りますね。』と何時ものように柔和な表情と口調に戻ったレンが飲み干した初恋ジュースの缶を捨てて、エレベーターに乗り込んで行った。

 

「…どうしろってんだよ…」

 

 レンから最悪の可能性を聞いたユウキは、リンドウを殺し確実に事態を終息させるか、出来るかも分からないリンドウを救う可能性に賭けるか、頭を悩ませていた。

 

 -エレベーター内-

 

(驚いたな…)

 

 エレベーターの中、レンはさっきのユウキの事を思い出していた。

 

(まさか人があんな『目』をするなんて…まるで獣…いや、『アラガミ』だ…)

 

 怒りによって人のものとは思えぬ目付きになったユウキの表情…強いて言えば目を思い出していた。

 

(このままじゃ、僕が彼の目の前から消えるのも時間の問題かな…)

 

 近いうちにユウキの目の前から居なくなる…そんな事を考えながらレンは今後どう動くかを整理していく。

 

(急がないと…リンドウを救うには、もうこれしかないんだ。)

 

 最初からリンドウを救う…そのためにレンは動いてきた。今さら止まれないしそんなつもりもない。何にしても時間がない。リンドウを救うため、レンは事を急ぐ事にした。

 

To be continued





後書き
 リンドウさんの捜索が開始!!…される一歩手前の回です。仲間達が希望を抱く中、レンとの会話でユウキ独りが絶望の淵に立たされる…もうちょっと虐めたい気もしましたが、良い案が出てこなかったのでこの程度にしました。
 原作でもムービー中のレンのあの蔑む様な目は主人公に現実を突き付ける意味でも良い演出だったと思います。
 そしてバースト編も佳境に入り、あと10話も無い(予定)所まで来ました。もうすぐあの名台詞のシーンを書けると思うとワクワクしてます。

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