GOD EATER ~The Broker~   作:魔狼の盾

62 / 126
記念すべき60話はブレンダン回です。アーク計画で仲間を見捨てる決断をしたブレンダン…事の真相を知った彼は何を思ったのか…


mission60 償う者

 -極東支部-

 

 テスカトリポカを討伐した後、カノンが『お尻が冷たい』と言って確認すると、初恋ジュースの缶が潰れて中身をぶちまけていたと言うハプニングもあったが、帰投後ユウキはまずカノンを初めとした出撃メンバーにブラスト使いとの立ち回りを話していく。

 破砕バレットの特性を話していくとアリサ達もカノンの誤射についても納得し、カノンには遠距離で使える破砕バレットを作り、後ろに下がって周りを見て動く様にアドバイスした。

 そしてカノンの戦術を見直してから1週間後、ペイラーに渡した羽の分析結果を待っている中、極東支部は現在…

 

「ヒバリ!!反応はまだ捕捉出来ないのか?!」

 

「ま、まだ捕捉できません…旧地下鉄辺りを重点的にサーチしているのですが…」

 

「くそっ!!本部の連中は現場も知らずにこんなガラクタばかり作りおって…!!」

 

 反応が掴めずに焦りをみせるヒバリと、現状に苛立ちをみせるツバキの雰囲気で支部内は緊迫した空気が流れていた。

 と言うのもグボロ・グボロ堕天種討伐のため旧地下鉄に向かったブレンダン、カノン、アネットの反応が任務中にロストしたのだ。極東支部のあらゆる機材を使ってサーチしているが、未だに反応を捕捉出来ないでいる。

 そんな状況を心配しているのか、多くの神機使いがエントランスに集まっている。

 

「クッソ!!状況が分からねえ!!もうこうなったらブレンダン達が行った任務地に直接向かうか?!」

 

「状況が分からなければかえって危険です!!最悪その方法も考えないといけませんが今は「見つけました!!」…っ!!」

 

 焦りをみせて飛び出そうとするタツミをユウキが抑える。しかし、腕輪反応が消失してから新しい情報が全く入ってこない。そんな状態では焦るのも無理はない。

 最悪事前情報無しで救助活動を行わなければならない事を考えていると、ヒバリから待ち望んだ報告が飛んでくる。

 

「本当か?!ヒバリちゃん!!」

 

「この反応は…アネットさんの腕輪反応です!!旧地下鉄上層です!!それにこの反応は…セクメトです!!近くにセクメトがいます!!」

 

 ユウキとタツミが顔を見合わせる。どうやら考えている事は同じ様だ。

 

「「ツバキさん!!」」

 

「よし!!タツミとユウキ、それからアリサとユーリ!!今すぐに旧地下鉄に向かえ!!先に出撃した3人を救出するのだ!!」

 

「「「「了解!!」」」」

 

 出撃メンバーが返事と同時に出撃準備に入る。その後10分程でユウキ達は出撃した。

 

 -煉獄の地下街-

 

 ヘリを2台飛ばして30分、旧地下鉄の待機ポイントに着くとアネットが足を押さえて踞っていた。その女性らしいしなやかで細い足からは切られたのか赤い血が流れていた。

 

「アネット!!」

 

「せ、先輩…!!タツミさん!!アリサさんにユーリまで!!」

 

 ユウキの声を聞いてアネットは顔を上げる。

 

「アリサ!!アネットを撤退させろ!!ユーリ一緒に来い!!カノンの撤退の支援だ!!」

 

「ま、待って下さい!!まだ戦えます!!私も一緒に…」

 

 アネットはアリサから使いきった回復錠を受け取り傷を治していく。それと平行してアリサが消毒などの応急措置を施していく。

 しかしユウキがアネットを撤退させるよう指示すると、アネットは怪我が完治していないにも関わらず自分も行くと言い出した。

 

「ダメだ!!怪我した人間を連れていく訳には行かない!!」

 

「で、でも!!カノンさん、まだ赤いシユウと戦ってて…!!」

 

 ユウキが連れていく事を拒否するが、なおもアネットは食い下がる。

 

「大丈夫!!俺とユウキが行くんだ、必ずセクメトを抑えてカノンを助ける!!」

 

「アネット!!カノンが何処に居るのか教えてくれ!!」

 

 タツミとユウキがカノンを必ず助けるとアネットを説得する。その為にもユウキは事前情報を元に氷刀新を装備してきたのだ。アネットはその事を察して静かに口を開く。

 

「…場所を変えてなければ地下街下層にある、旧ショッピングモールです。カノンさんの事、お願いします。」

 

 タツミとユウキの言葉を信用してアネットはカノンと最後に別れた場所を伝える。

 

「任せな!!行くぜ、ユウキ!!ユーリ!!」

 

「「はい!!」」

 

 タツミが出撃の合図を出すと、アリサを残してタツミ、ユウキ、ユーリの3人は旧地下鉄下層に降りていった。

 

 -カノンsaid-

 

「いい加減に…」

 

 カノンがセクメトに向かって銃口を向ける。

 

「沈めぇ!!」

 

 魔王モードの時の荒い口調でセクメトの右の腕羽を爆破する。アネットと別れてすぐの頃に破壊したであろう左の腕羽も合わせて腕羽は両方結合崩壊を起こしていた。

 

  『オォォオ!!』

 

 セクメトが怒りながら腰を落として構える。するとセクメトの掌から火球を連続で放ち、カノンを狙っていく。

 

「きゃあああ!!」

 

 カノンは走り回って火球を躱す。するとセクメトは炎を纏ってカノンに突っ込む。

 

  『カチッ!!カチッ!!』

 

 迎撃しようと引き金を引くがバレットが発射される事はなく、セクメトはそのままカノンに向かってくる。

 

(あ…)

 

 特に何か理由があるわけでもなく自身の死を直感する。カノンは全てを諦めたように棒立ちしていると…

 

「止めろおぉぉぉお!!」

 

 突然青い刀身によりセクメトの肩は斬られた。その勢いに負けてセクメトが少し押し戻されて怯む。

 

「斬!!」

 

 その隙にタツミが勢いよく突っ込み、セクメトの頭を貫くと結合崩壊を起こす。その勢いに圧されてセクメトは体勢を崩す。

 

「タツミさん!!ユウキさん!!」

 

 前触れもなくユウキとタツミが援護に入った事でカノンは思わず驚いた。

 

「カノンさん!!援護します!!」

 

「ユーリさんまで…!!」

 

 ユーリの一言でようやく増援が来た事を察し、カノンは一気に緊張の糸が切れる。

 

「カノン!!撤退しろ!!あとは俺たちで受け持つ!!」

 

「…お願い…します…」

 

「おう!!任せとけ!!」

 

 タツミから撤退の指示を受けて、ヨロヨロと立ち上がったカノンはユーリに連れられて撤退していった。

 

「さーて…コイツどうしてくれようか?ウチの大事な隊員を怪我させたんだ、覚悟は出来てんだろうな?!」

 

 それを見届けたタツミは神機を肩に担いで、ユウキが抑えていたセクメトを睨み付ける。

 

「タツミさん!!ブレンダンさんが近くに居ません!!早くセクメトを倒して足取りを追いましょう!!」

 

 戦闘しながら辺りを見回し、ブレンダンが居ないか探していたのだが、どうにも見当たらない。ならばここには用はない。早くセクメトを倒してブレンダンの捜索を始めるように進言する。

 

「だな!!どのくらいで行けそうなんだ?」

 

「10分…いや5分で片付けます!!一瞬で良い!!セクメトの気を引いて下さい!!」

 

「了解!!任せな!!」

 

 そう言うとタツミはユウキとの戦闘に気を取られているセクメトの頭を再度斬り付ける。

 結合崩壊を起こしている事もあり、1撃でセクメトは怯む。

 

「もらった!!」

 

 その隙にチャージ捕食でセクメトを喰ってユウキはバーストする。能力を底上げしたユウキとタツミの素早い剣撃に翻弄され、ユウキが宣言した5分まであと僅かの所でセクメトは倒された。

 

 -医務室-

 

 セクメトを倒した後、少し遅れてユウキとタツミは極東支部に帰還した。カノン達は医務室で治療を受けており、ユウキ達も話を聞くために医務室に入ってきた。

 

「カノン!!アネット!!大丈夫か?!」

 

「タツミさん、ユウキさん!!ブレンダンさんは?!ブレンダンさんは無事でしたか?!」

 

 2人が医務室に入って来ると、カノンは真っ先にブレンダンの安否を確認する。しかし…

 

「分からねえ…あの場には居なかったんだ。」

 

「やっぱり…そうでしたか…」

 

 タツミがブレンダンの無事を確認出来なかった事を伝える。

 

「ブレンダンさん、何処に行ったのでしょうか…?」

 

「近くには…居たと思うのですが…」

 

 現状ではブレンダンが何処に居るのか分からず、カノンもアネットも不安そうな声色になる。

 

「ブレンダンさんがどっちの方向に行ったかとか、分からないかな?」

 

「何処に居るのかまでは分かりません…ただ、あのときコンゴウの群れがやって来て、ブレンダンさんはそれを引き付けて…気が付いたら近くから居なくなってたんです。」

 

 アリサとユーリ、それからツバキとヒバリには既に事の経緯と状況を話してあるが、ユウキとタツミは未だ報告は受けていない。カノンがブレンダンと別れた際の状況を説明していく。しかしいつ居なくなったのか、何処に行ったのかは結局分からないままだった。

 

「くそ…行方不明になった神機使いが再度生存している状態で発見される事なんて滅多にない…最悪の場合…」

 

「「…」」

 

 過去の例から1度行方不明となった神機使いが再度見つかる事はとても珍しいケースだ。最悪の状況を考えてしまい、全員が黙り込んでしまった。

 

  『ピリリリリッ!!』

 

「ッ?!ヒバリちゃん?!何か分かった?!」

 

 突如タツミの端末に着信が入るとタツミが慌てて電話に出る。

 

「ホントか?!ああ…うん…あっ!!ちょっと待って!!」

 

 通話の途中でタツミは端末をスピーカーモードに変えて、その場に居る全員に聞こえる様にした。

 

『ブレンダンさんの居場所が分かりました!!』

 

「「「本当ですか?!」」」

 

 待ち望んだ報告にユウキとカノンとアネットは弾んだ声になる。

 

『カノンさんやアネットさんの話を元に、コンゴウの足取り追ってみました!!その結果、ブレンダンさんの腕輪反応がエイジスで確認されました!!』

 

「エ、エイジス?!何だってそんな所で?!」

 

 予想もしない場所を聞いてユウキは思わず聞き返す。

 

「今はそんなことどうでも良い!!ヒバリちゃん!!詳しい情報を教えてくれ!!」

 

『現在、ブレンダンさんはエイジスで未確認反応を出しているアラガミと交戦中です!!それから、話に出てきたコンゴウの群れの反応はありません!!この新種のアラガミに倒された可能性があります!!』

 

 現状では反応があるのはブレンダンの腕輪と未確認のアラガミだけらしい。

 

「何だっていい!!エイジスにブレンダンは居るんだな?!」

 

『はい!!それは間違いありません!!』

 

 ヒバリの返事を聞いたタツミがブレンダン救出にすぐに向かえるであろう人を考えていく。

 

「よし、ユウキ!!悪いが一緒に来てくれ!!」

 

「了解!!」

 

「タツミさん!!」

 

 ユウキを出撃メンバーに加えタツミはそのまま出撃しようとするが、カノンがそれを制止する。

 

「私も!!私も連れていって下さい!!」

 

「…分かった。カノンも連れていく。良いな?」

 

「はい!!」

 

 カノンも出撃メンバーに加えて、今度こそ出撃しようとするが、今度はアネットに止められた。

 

「タ、タツミさん!!私も…」

 

「アネットはダメだ。まだ怪我も治ってないし、未確認の新種が相手だ。悪いが今のアネットが来ても戦力にはならない。」

 

「…分かり…ました…」

 

 現在出血こそ止まっているが、未だにアネットの足は傷が塞がっておらず、動かすだけでも痛みが走る様な状態だ。そんな状態で連れていっても足手まといになるだけだ。

 ましてやどんな攻撃や特殊な力を持っているかも分からない新種が相手だ。経験が浅いアネットでは荷が重い事もある。

 そもそも回復錠を飲んだからと言って一瞬で傷が治る訳ではない。怪我の程度にもよるが、ユウキの様に飲んだ瞬間に傷が塞がり、痛みが引いていく方が異常なのだ。

 自分の状況と現場の状況を照らし合わせた結果、自分が行っても力にはなれないと気が付いたアネットはそのまま引き下がる。

 

「大丈夫!!必ずブレンダンは連れて帰る!!ユウキ、カノン!!すぐに出るぞ!!」

 

 タツミの声と共にユウキ、カノンがブレンダンの救出に向かった。

 

 -エイジス-

 

 ユウキ、タツミ、カノンはジープに乗り、エイジスへの道を高速で走り抜ける。以前アルダ・ノーヴァと戦闘した管制塔に続く大型の物資搬入用のエレベーターにジープごと乗り込み、扉が開くと再びアクセルを吹かしていく。

 

「タツミさん!!カノン!!飛び下りる準備を!!」

 

 管制塔の頂上まで一本道となったところでユウキが何かを感じて2人に降りる準備をさせる。

 そのまま最後の扉を突き破り、ユウキ達はド派手に登場する。

 

「当たれ!!」

 

 銃形態に変形していたユウキがジープから飛び降りながら、ブレンダンを狙う青い人形をしたアラガミの頭に狙撃弾を撃ち込む。しかし青いアラガミは後ろに大きく下がりそれを躱す。

 だが、『乗り手が居なくなった』ジープがそのまま放物線を描きながら青いアラガミに突っ込んでいく。

 

  『ガシャァン!!』

 

 派手なクラッシュ音と共にジープが青いアラガミに突っ込む。勢いに圧されて青いアラガミに隙が出来る。

 

「だぁあ!!」

 

「そら!!」

 

 その間にタツミ上から急降下して切り裂き、カノンは飛びながら爆破弾を撃ち込んで爆破する。その結果、青いアラガミの胴体には切り傷と砕かれた様な傷が同時に付いた。

 

  『ヴル"ラ"ラ"ラァ"ァ"ア"!!』

 

 タツミとカノンはブレンダンの壁になるように着地する。それを形容出来ない声をあげて青いアラガミはタツミ達を睨む。

 

「よう、ブレンダン先生!!取りあえずは生きてる見たいで安心した。」

 

「お、お前たち…!!」

 

「加勢します、ブレンダンさん!!」

 

 予測出来なかった援護にブレンダンは驚きながら動きを止める。そしてその間にユウキがインパルス・エッジの爆破で一気に距離を詰めてアラガミに斬りかかる。

 

「分かった。だがあいつの攻撃には強力な毒が含まれている上、神機のオラクルを減らす妙な効果が付いてくる事ある。気をつけろ。」

 

「「「了解!」」」

 

 ブレンダンがこれまでの戦いで得た情報を全員に伝えるとタツミ、カノン、ブレンダンは既に戦闘を始めているユウキの元に向かう。

 青いアラガミが鞭の様に腕をしならせ、ユウキを攻撃するが後ろに飛んで躱し、さらにもう1度同じ攻撃をしてきたので、今度はジャンプで避ける。

 

(見たところアルダ・ノーヴァ神属か…確かアルダ・ノーヴァの試作品だったかプロトタイプが多く残っていたんだったか?ノヴァの残滓が影響したのか?)

 

 攻撃を避けながら、見た目はアルダ・ノーヴァの女神とほぼ同じ事とアルダ・ノーヴァが人工種であることから、目の前のアラガミの正体を考えていた。その結果、目の前の青いアラガミはノヴァの残滓によって生まれた可能性があるという結論に至った。

 

(けど、男神が居ないからか…)

 

 鞭の様な攻撃を避けながら神機を構える。

 

「シッ!!」

 

 ユウキは小さく息を吐きながら神機を横に振り、青いアラガミの頭上にある三日月を思わせる月輪を破壊する。

 

(随分と楽だな!!)

 

 結合崩壊と共に青いアラガミは体勢を崩し、その隙にタツミが足を斬り、カノンが頭を爆破し、ブレンダンが胴体を叩き潰す。さらにユウキは穿顎を展開して捕食の体勢に入る。

 

「さあ、喰い尽くせ!!」

 

 急降下して青いアラガミの月輪を捕食してバーストする。

 

「もう1回!!」

 

 着地の際にゼクスホルンを展開してユウキはバーストしつつ青いアラガミから離れる。

 しかし今度は青いアラガミが反撃に月輪をユウキ達に向けて掲げ始める。

 

「デカイのが来る!!装甲を展開しろ!!」

 

 アルダ・ノーヴァの時と同じならばここで極太のレーザーが来るはずだ。実際、青いアラガミの月輪からはチャージしているような光を放っている。

 

「カノン!!俺の後ろから動くなよ!!」

 

 装甲を持たないカノンの前にユウキが立って装甲を展開し、タツミやブレンダンもまた装甲を展開する。

 

  『ズガアァァァア!!』

 

 その瞬間、極太のレーザーが発射された。装甲を展開しているお陰でユウキ、タツミ、ブレンダンは攻撃を防ぎ、カノンはユウキの陰に隠れてやり過ごした。

 そしてその瞬間、ユウキの目に『あるもの』が目に映る。

 

「タツミさん!!奴との位置関係を入れ替えます!!手伝って下さい!!」

 

「了解!!任せな!!」

 

 タツミが青いアラガミの眼前に飛び出して顔を斬りつける。その隙にユウキ達は青いアラガミの後ろに回る。

 そしてタツミも2撃目として肩に神機を突き刺して、そこを軸に青いアラガミの後ろに回り込む。

 

「おらぁ!!」

 

 ユウキの後ろに全員が回ったことを確認すると、ユウキはジープを青いアラガミに向かって蹴り飛ばす。

 

  『バァン!!』

 

 青いアラガミは腕を伸ばしてジープを突き刺すと、爆発を起こしている辺りが暴煙に包まれて、互いの視界が遮られる。

 

「そら!!」

 

「ハァッ!!」

 

 暴煙の左右からタツミとブレンダンが飛び出して斬りかかる。しかし、青いアラガミは後ろに飛んでその攻撃を躱す。

 

「吹っ飛びな!!」

 

 カノンが荒い口調で上に弾丸を射つ。その弾丸が暴煙を越えた辺りで青いアラガミの方に向きを変えた新しい弾丸が発射される。

 

「くらえ!!」

 

「斬!!」

 

「当たれ!!」

 

 しかし、それが着弾するよりも先にカノンが別の弾丸を発射する。すると弾丸が通ると煙を拡散させながら青いアラガミに着弾して爆発する。

 さらに最初に発射した弾丸も着弾して爆発する。完全に体勢を崩した青いアラガミにタツミとブレンダンがすかさず斬りかかる。

 2人の攻撃がもろに入り、青いアラガミは膝を突く。そしてその間にユウキは神機を構えてつつアラガミの後ろを取る。

 

「くたばりな!!」

 

 ユウキの一言と共に青いアラガミは胴から真っ二つに斬り裂かれる。その後緊張の糸が切れたのか、ブレンダンが意識を失い、青いアラガミのコアを回収した後、ユウキ達は帰投した。

 

 

 -医務室-

 

「ん…ここは…?」

 

「気が付いたかブレンダン!!」

 

「タツミ…?」

 

 目を覚ましたブレンダンが最初に目にしたものは見知った病室とタツミの顔だった。既に怪我の処置を終えたのか、至るところにガーゼやら包帯が巻かれていた。

 

「目を覚ましたんですね!!ブレンダンさん!!」

 

「良かった…本当に良かったです!!」

 

「カノン…アネット…」

 

 カノンとアネットも目を覚ましたブレンダンを見て安心した様な声色でブレンダンの無事を喜ぶ。

 

「具合、どうですか?怪我自体は大した事ないはずですけど…」

 

「神裂も居たのか…」

 

 連れ帰ってからブレンダンの容態が気になり、ずっと近くに居たユウキにも気が付いて、ブレンダンは生きて帰ってきた事を実感していた。

 

「俺も皆も…生きて帰ってきたのか…」

 

 思わず思った事を呟いた。それを聞いたタツミを初めとする仲間の『お帰り』と言う言葉で、帰ってきたと言う実感がより一層強くなる。

 その後、カノン達を逃がしてから何があったのかを聞くと、コンゴウを引き付けながら戦っていると、気が付いたら旧地下鉄を出てしまい、戦闘中にツクヨミが乱入、これたまた気が付いたらツクヨミがコンゴウを全滅させ、ブレンダンはエイジスに逃げていたのだと言う。

 一頻り話終えたブレンダンはおもむろに体を起こしてベッドから出ていく。

 

「お、おいおい…まだ動くなよ。」

 

「コーヒー買いに自販機まで行くだけだ。」

 

 医務室を出る直前、ブレンダンは振り返りユウキに話しかける。

 

「なあ…神裂…」

 

「はい。」

 

「少し話がある。着いてきてくれないか?」

 

「…分かりました。」

 

 ブレンダンに促され、ユウキもその後に着いていった。

 

 

 -エレベーター前-

 

 ブレンダンに連れられて、ユウキはベンチに座らされた。その後すぐにブレンダンはコーヒーとお茶を買ってきて、お茶をユウキに手渡した。

 

「付き合わせてすまない。どうしても…聞いておきたい事があってな…」

 

「構いませんよ。それで、何が聞きたいんですか?」

 

 何が聞きたいのか尋ねたユウキだったが、会話のパターンからどんな話か予想はついた。だがこの手の話題で大事なのは相手が何に悩んでいるかを聞き出す事だ。そのため、あくまでブレンダンが話しやすい空気とテンポで話せるようにブレンダンのペースに合わせる。

 

「…ここ最近なんだが、気落ちしていたカノンが急に元気を取り戻してな。」

 

 一呼吸置いた後、ブレンダンは最近になって感じた変化について話し出す。

 

「以前より任務に積極的に出る様になったし、まだ荒いが立ち回りも改善されてきている。そのお陰か分からんが、誤射も少しだが減っている様に思える。」

 

「…」

 

 予想通り、ブレンダンもカノンと似た悩みを持っていたようだ。ユウキは聞きに徹し、ブレンダンの悩む理由を探っていく。

 

「今回の任務、カノンが変わった理由を聞きたくて誘ったんだ。そしたら、お前に戦う理由を教えられたと言っていた。」

 

「…」

 

「…その過程で、神裂の戦う理由やアーク計画を止める理由がそれと繋がっている事も聞いた。」

 

 ここまで聞いた所ではブレンダンの悩む原因は見つからないように思える。ブレンダンはやや聞きにくそうに、途切れ途切れにあることを尋ねる。

 

「神裂…お前は…アーク計画を止めた事…本当に後悔してないのか?」

 

「してません。」

 

 ユウキは即答する。あまりの速さにブレンダンは面食らった様な顔になる。

 

「カノンからある程度聞いているとは思いますけど、俺は自分が生きた証を消したくない…虐げられる人達の助けになりたい…その為に戦っています。そしてアーク計画はそんな俺の理想に反していた…だから計画を止めました。でもこれは…謂わば理想の押し付けです。共感出来ない人達からは批判させる事も覚悟してました。」

 

「いっそ清々しいな…だが、助かるはずの者達戦場に送り返したのも事実だろう?ならそれについてはどう思うんだ?」

 

 ブレンダンが率直に感じた疑問を投げ掛ける。批判される事を覚悟していたのなら、その事に対するフォローは何か考えてあるのか気になったからだ。

 

「人とアラガミが争う事のない世界を創る。それが俺なりの…地獄に叩き落とした人達への償いです。」

 

「償い…か…」

 

 何やら思う所があったのか、ブレンダンは顔を伏せて呟く。

 

「俺は…ゲンさんや教官…アナグラに残った者達から…第一部隊がアーク計画を止めたと聞いた。それを聞いた時…自分が酷く情けなく思ってな…」

 

 ブレンダンはゆっくりとアーク計画の後にあった事、感じた事を話始める。

 

「俺は自分の命惜しさに仲間を…タツミやカノンを見捨てた…真実を知った今、その事を後ろめたく思っている。」

 

 どうやらアーク計画でタツミ達を見捨てる決断をした事を気にしているようだった。それをユウキは『そこまで気にする必要は無いのに』と思いながら聞いていた。実際タツミ達も気にしていないので、本来ならそこまで気にする必要は無い。

 だが第一部隊が危険も省みず、他人から批判される覚悟もしながらゴッドイーターである事を貫いた事実を知った事で、生真面目な性格のブレンダンは自分を許せなく思っていた。

 

「俺は…どうにかして罪滅ぼしをしたかった…俺の命を犠牲にして誰かを助ける事が償いになるのなら…俺は…喜んでこの命を差し出す覚悟はある。だが…」

 

  『ベシン!!』

 

 ブレンダンが心の内を吐露する中、突然ユウキはブレンダンの頭を思いっきりひっぱたいた。

 

「バカかお前?」

 

 そして唐突に罵倒する。

 

「な、なに!?」

 

「てめえの命1つ犠牲にして誰かを助ける?ホンットにバカだなお前!!そんなもん償いにならねえ。ただ逃げてるだけだろ。」

 

 ユウキは荒い口調で、アーク計画の真実を知り自分の命を犠牲にして誰かを助ける事が償いだと言ったブレンダンの考えを真っ向から足蹴にする。

 

「ならどうしろと言うんだ!!どうしたら…償える…?」

 

「知らん。それは自分で考えて答えを出して、どう動くか決めるべきだ。手が必要なら手伝うし力も貸す。でもブレンダンさんの自分の命を犠牲するってのは、助けた人に命と言う名の十字架を無理矢理背負わせるって事です。自分は死んで悩みや苦しみから解放されても、命を背負わされた相手は一生そのキズを引き摺って生きていくんだ。俺はそんな事をする方がよっぽど無責任に思います。」

 

 いつの間にかいつもの口調に戻ったユウキが、かつてアリサに言った事と同じことを言う。

 しかし今回はそれに加えて自分の命を犠牲にしてでも誰かを助ける事はただ逃げているだけだとブレンダンを諭す。

 

「確かにあの時の俺は…誰かの命を背負う覚悟も…誰かに自分の命を背負わせる覚悟もなかった。けど自分が何をしたいか、自分にとってのゴッドイーターは何かを考えたら…自然と誰かの命を背負う覚悟もできた。どんな事をしてでもやり遂げたい事を見つければ、きっと自ずと答えは見つかると思います。」

 

「…」

 

 ユウキは自身が他人の命を背負う覚悟が出来た過程を話していく。それはゴッドイーターの本懐と向き合いアーク計画を止めた事で、助かるはずだった人を地獄に叩き落とした事へのユウキなりの贖罪だった。

 人とアラガミが争う時代を終わらせ、助かるはずの人を来るべき時代が来るまで守り抜く。もしそれが叶わないのなら、せめて次の世代が人とアラガミの共生に希望を持てる様に、可能性を遺して行く…それがユウキの言う命を背負う覚悟だった。

 

「もう1度、これだけは言っておきます…死んで償える事なんてない。どうやって償うのか分からないなら…ずっと悩んで苦しんだ方がよっぽど償いになる。」

 

「…そうか…」

 

 最後にユウキは死んで償うなんて事は間違いだと言う。ブレンダンがボソッと答えると、ゆっくりと顔をあげる。

 

「確かにそうやって償い方を考え続けるのは、自分のやった事と向き合い続ける事になるのかもな…」

 

 ユウキの話で思う所があったのか、死んで償うとは言わなくなった。

 

「ありがとう、ユウキ。まだどうしたら良いかは見えてこないが…何をすべきかは見えてきた。」

 

 ブレンダンはユウキに礼を言って立ち上がる。

 

「しっかり悩んで、考えて…その上で答えを…償い方を考えるとしよう。」

 

 ブレンダンは別の償い方を考えると言うと、医務室に歩いて行き、ユウキもそれに続いて医務室に帰っていった。

 しかしユウキが語った命を背負う覚悟がいかに安っぽく中身が無く、薄っぺらな覚悟だったか…少し先の未来で、彼は身をもって思い知る事になる。

 

To be continued




後書き
 どうも、ジープとバギーのイメージが逆になっていた私です。
 今回でブレンダンが心の内に秘めた後悔を吐き出しました。RBでも触れられていましたが、なんやかんや真面目すぎるブレンダンは仲間の命よりも自分の命を優先した事に負い目を感じて『死んでも仲間を助ける』事こそ償いだと思っていました。(RB 中にもそんなことを言っていた気がします。)しかし、自分が思うにそれは償いか方が分からず、取り合えずそれらしい『死ぬ』、『辞める』、『居なくなる』と言う方法に逃げただけだとも思います。それをやるにしても自分のやった事を正してからやれ、死ぬ位なら一生自分のやった事を忘れずに苦しむ方がよっぽど償いになると思い、ユウキにはそんな感じの説教をしてもらいました。
 ツクヨミは…うん、目新しい攻撃やら動作も無かったので正直そんなに強い印象は無かったのであんな扱いになりました。今後は更に強力な個体が現れるかれませんので、ツクヨミの恐ろしさはその時に頑張ってみます。 

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。