GOD EATER ~The Broker~   作:魔狼の盾

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戦う理由を見失ったカノン…同じような理由で迷っていたユウキに相談を持ちかける。その結果…


mission59 迷える者

 -エントランス-

 

 リンドウの痕跡を探し始めて早1週間…新人の実地演習や通常任務、さらには別地域からの帰りに、旧寺院に行っているがリンドウの遺留物の羽はたった1枚しか見つかってない。その他手がかりを探すも何も見つからず、実質の成果は無い。

 新たに旧寺院の辺りの任務はないかと思い、ヒバリに任務のリストを見せてもらっていると、ふと後ろから声をかけられた。

 

「あ、あの…」

 

 ユウキが振り向くと、そこにはカノンが居た。

 

「はい?何でしょうか?」

 

「あの…えっと…」

 

 何やら聞きにくい事なのか、カノンは指を遊ばせ、視線を泳がせながらどうにか次の言葉を紡ぎだす。

 

「少し…時間、ありますか…?」

 

 カノンが要件を口にすると、ユウキはそのままカノに着いていった。

 

 -新人区画-

 

 カノンに着いていくと、ユウキは新人区画のエレベーターホールにあるベンチに座らされた。その間にカノンは自販機で缶ジュースを買い、それを両手に持ってユウキの方に戻っていく。

 

「すいません…こんな事に付き合わせて…」

 

「いえ、構いませんが…一体何の話でしょうか?」

 

 カノンがユウキに缶ジュースを渡しながら何やら謝罪してきたので、とにかく話を進めて聞いてみる事にした。

 

「…神裂さんは…何故アーク計画を止められたのですが?」

 

「えっと…どんな手段で止めたのか…ってことですか?」

 

「あっ!!すいません!!ちょっと違くて…どうやって、アーク計画を止めようと決めたのかって事なんです。」

 

 要するにアーク計画を止める決断を下すに至った経緯を知りたいと言う事だった。しかし、ユウキは何処か難しそうな顔になる。

 

「まあ、教えるのは良いですけど…何だってそんなことを?」

 

「え…あ、その…」

 

 理由を聞かれたのが余程予想外だったのか、カノンは言葉を詰まらせてしばらくの間黙ってしまった。

 

「アーク計画の時…残るか去るかを選べって言われたじゃないですか?でも、残って終末捕食で死んじゃうのは嫌で…でも逃げたら逃げたで、残して来た人の事を無かった様に生きる事も…きっと、出来なかったと思うんです。」

 

 聞きたい事が纏まったのか、カノンはアーク計画で自分が悩んだ事をポツポツと話始める。

 

「どっちを選ぶのも怖くて…結局、何も選べなかった…どうすれば良かったのかとずっと考えていて…そんな時に、神裂さんのあの言葉を聞いたんです。」

 

「あの言葉?」

 

「『誇りが残ってるなら刃を振るえ。誇りを失ったならすぐに立ち去れ』ってやつですね。」

 

「あーあれですか…」

 

 ユウキは内心『今にして思えばメッチャクサイと言うか恥ずかしい事言ったな…』と考えながらカノンの話を聞いていた。もっともカノン本人の抱える悩みや雰囲気は真剣そのものである事は容易に読み取れる。なので照れを誤魔化す様なことはせず、大人しくしていた。

 

「あれを聞いてから…成り行きで神機使いになったとは言え、自分は何のために命がけの戦場に居続けてるのかなって…考える様になったんです。」

 

「…」

 

 神機使いは適合する神機が見つかれば強制的に戦場に出なければならない。そのため大体の神機使いは金のため、家族を護る、自分が生き抜くため等の自分なりの目的を後から作って戦場に出る。

 しかし目的も無しに戦い続けるのは肉体よりも精神的な負担が大きくなる。今のカノンがまさにそれだ。目標、目的、理由を見失い、戦いたくないにも関わらず戦場に出続ける事に限界を感じているカノンの苦悩を、ユウキは黙って聞いていた。

 

「神機使いになって、防衛班に配属されて、戦えない人達を守るために戦って…その間にたくさんの人に迷惑もかけてますが…それでも、守りきったときに『頑張ったな』とか『ありがとう』って言われた事が嬉しくて…誇らしくて…でも…」

 

 1度話を区切ると、カノンは俯いて、さっきよりも声を小さくしながら話を続けた。

 

「本当にその事に誇りを持ってるなら、タツミさんの様に防衛班として最後まで残ったと思うんです。ちょっと動機は違いますけど、戦いたくないなら、ブレンダンさんの様に逃げるはずです。」

 

 何にしても結論を出した同じ防衛班のメンバーと結論を出せなかった自身とを比較し、自分が戦う理由を見出だせない事に悩んでいたようだった。ユウキはただ黙って聞きに徹していた。

 

「でも私は…どちらも選べなかった…結局自分が何をしたいか考えても…よく分からなかったんです…」

 

 『パコッ』と缶が軽く潰れる音と共に、缶ジュースを握るカノンの両手に少し力が入る。

 

「自分が中途半端な気持ちで神機使いをやっている様な気がして…神機使いをやっていく自信が…なくなってしまったんです…」

 

「だから同じような理由で悩んでいた俺がどうやって答えを得たかのかを知りたい…と?」

 

「はい…」

 

「…」

 

 確かにかつてはユウキもカノンと同じような理由で悩んでいた。自分が生き残る道を選べば大多数が死ぬ。果たしてそれで良いのかと随分悩んだものだ。その時の事を思い出しながらユウキはカノンの問いに答えていく。

 

「俺が…アーク計画を止める決断が出来たのは至極単純なんです。俺達が生きた証を刻んだ世界を棄てて計画に乗ったら後悔する…それだけなんです。」

 

 ユウキのあまりにシンプルな回答を聞いて、カノンは目を丸くした。

 

「確かに死ぬのは嫌だ。でも他人が死ぬところも見たくない…この世界じゃ叶う事のないわがままを…貫いていく覚悟を決めただけです。」

 

「何故…そんな覚悟を決められたんですか?」

 

「…助けられなかった人達が居るんです。居住区の外で、死に物狂いで生き抜いて…沢山仲間を殺されて…それでも、居住区に来れば助かると信じて…地獄よりも酷い世界で生き抜いたのに…最後の最後でフェンリルは…再び地獄に突き落とした…あんな思いは…誰もしたくないでしょう?」

 

 ユウキは外部居住区の外から助けを求めたキャラバン達の事を思い出しながら当時の事を語る。助けられると思った人達を初めて助けられなかった時の悔しさも同時に思い出し、ユウキの表情は少し鋭くなっていた。

 

「その時の光のない目が…泣き叫んだ声が…表情が…今でも鮮明に覚えている。」

 

 『一時期忘れてしまってましたけどね…』と最後に苦笑する。リンドウの一件とリーダー就任、そしてシオとの出会い等、短い間に色んな事が起こりすぎて、戦う理由の1つを見失っていた。

 そのため、戦う理由を見出せずに最後の最後まで悩む事になったが、今ではこの選択に後悔はしてない。

 

「差しのべた手が届かなくて…助けたくても助けられなくて…悔しくて…情けなくて…あんな後悔の仕方はもうしたくない…だから俺は『俺のわがまま』を貫き通す…そう決めたんです。」

 

「でも…それじゃあ…」

 

 カノンが何を言いたいのかユウキも理解しているようで、カノンの言葉を遮る様に話を進める。

 

「ええ…これだと、俺のわがままで助かるはずだった人達が命の危機に晒される…だからそんな人達から批判を受ける覚悟もしたし、一刻も早く人間とアラガミの戦いがなくなる様な世界を作る決意もした…」

 

 一通り話し終えたユウキがカノンと向き合う。

 

「これが俺がアーク計画を止めた理由です。納得出来ない、後悔するから…理屈をこね回しても、結局そこに行き着いたからなんです。」

 

「…やっぱりすごいです…私じゃあ、そんな風には考えられないです。自分のわがままだと分かっていてそれを貫き通すなんて事…やっぱり、私には出来そうにありません…」

 

「そりゃあ考え方は人それぞれですから、無理に同じような答えを出す必要はないと思います。ただ、人って言うのは案外勝手なものだと思います。自分が納得さえすれば好きなように動いて、どんな結果でも受け止められる…ただそれが他人と分かち合えないから批判したり恨まれたり悩んだり…色んな価値観の人とぶつかるんだと思います。」

 

「…でも…やっぱり、私には…」

 

 そこまで貫き通せる様な戦う理由がないと、カノンは再び項垂れる。

 

「見つからないならこれから探せば良いじゃないですか。少なくとも今の話で何がしたいか見つかりそうなヒントはありましたよ?」

 

「…え?」

 

 『そんなものあったか?』と疑問に思いながら、カノンは顔を上げてユウキを見る。

 

「感謝の言葉を貰えて嬉しかったって言ったじゃないですか。それを理由に戦えばいい。」

 

「そ、そんな簡単な理由で良いんでしょうか?」

 

 ユウキが戦う理由もシンプルで驚いたが、カノンの話を聞いて見え隠れしている理由はさらにはシンプルなもので、カノンは思わず聞き返した。

 

「戦う理由なんてそんなもので十分ですよ。俺だって最終的には自分や仲間が死ぬのが嫌だってだけで、色んな人が助かるのは結果論なんですから。」

 

「…」

 

 それでもまだ納得出来ていないのか、カノンは黙り込んでしまった。

 

「じゃあ…カノンさん。」

 

「はい…?」

 

 ユウキに呼ばれてカノンはキョトンとしながらユウキを見る。

 

「カノンさんは親兄弟…家族は居ますか?」

 

「え…はい。お母さんと妹のコトミが…あの…それが何か?」

 

 ユウキから家族が居るかと脈絡のない事を聞かれて、戸惑いながらもカノンは家族の事を話していく。

 

「その家族を護る…助ける…その為に戦う。たったそれだけで他にも多くの人の支えになれる。それじゃあダメですか?」

 

 ユウキが諭す様な声色でカノンに話しかけていく。

 

「前に…コウタが言ってたんです。アーク計画で自分と家族が助かっても、その『家族と関わりのある人達』が助からないなら、カエデさんもノゾミちゃんも…もう2度と笑顔を見せてくれないって…」

 

 ユウキはコウタが最終的にアーク計画を止める側になった時の事をカノンに話していく。

 

「俺が思うに、人が生きてきたって証は…色んな人と出会うことで…生きていく上で何かを成すことで刻まれて行くと思うんですよ。」

 

 『勿論、カノンさんと出会った事も俺が生きた証ですよ。』と言ってユウキは微笑む。

 

「それは自分だけじゃなくて、周りの人達も同じです。家族の笑顔を…生きた証を護ろうと思えば自然と周囲を護る事にもなる。だから、家族のために戦う…理由はそれで十分だと思いますよ。」

 

 『納得出来るかはまた別ですけどね。』と最後に苦笑しながら付け足す。

 

「いえ、何となくですけど見えた来ました。家族を護る事が周りを護る事に繋がる…その事を誇りにして戦う…その結果が皆を護れた時の『ありがとう』なんですね。」

 

 今の話でカノンは思うところがあったのか、ユウキの話を一つ一つ思い出しながら、そこで得たモノを話していく。

 

「今の話で何となく何かがスッと落ち着いた様な気がします。私が知らないだけで、家族は色んな人と繋がっている…その繋がっている人も、誰かと繋がっている…そう思うと、無関係な人って言うのは居ないのかも知れませんね。」

 

 人は誰かと繋がっていて、それは人が生きた証とも言える。それは自分だけではなく周りの人も同じだ。自分が知らないだけで家族もその周りと繋がっている。さらにはその周りも誰かと繋がっている。

 こうなると人は間接的に全ての人と繋がりがあるとユウキは言い、カノンもその事には納得したのか肯定的な考えを示す様になっていた。

 

「けど、全部を護ることは出来ないんてすよね。ならせめて防衛班として自分の手が届く人は…キッチリ護ってみせる…うん!!お母さんにもコトミにも悲しい思いはさせたくない!!これが私の戦う理由です!!」

 

 ユウキに相談してカノンなりに戦う理由を見つけられたようだ。今までとは違い、スッキリしたような笑顔をユウキに向けていた。

 

「ありがとうございます!!『ユウキさん』と話したお陰で迷いは吹っ切れました!!」

 

「どういたしまして。カノンさんの力になれたようで良かったです。」

 

 どうやらカノンの悩みを解決出来たようだ。ユウキも一安心しているとカノンは何か難しい顔になる。

 

「カノンさん…ですか。敬語だと何だか他人行儀だと思いませんか?」

 

「そうですか?」

 

「そうですよ。ユウキさんはリーダーなんですから、その辺は気にしなくて良いと思います。」

 

「…分かった。なら、カノンも敬語は無しでね。」

 

 カノンが敬語を止めるよう提案してきたので、ユウキもカノンに敬語を止めるて話すように言う。

 

「あっ…あの、私、これが素の口調なんです。」

 

「…え?あっ…そ、そうですか。なら仕方ないかな。」

 

 カノンは素で敬語を使っているようだが、ユウキにはある疑問が浮かんだ。

 

(こっちが素の口調…?じゃあ、あの魔王モードは…?)

 

 戦闘中の男子も裸足で逃げ出すような男勝りで恐ろしい口調は何なんだろうかと考えていると、突然カノンが『そうだ!!』と声をあげながら『パンッ!!』と言う音と共に両手を合わせる。

 

「今から任務に行きましょう!!今ならいつも以上に頑張れそうな気がします!!」

 

「あっ!!ちょっ!!」

 

 カノンはユウキの手を取りそのままエレベーターに乗り込む。結果的にユウキはカノンと手を繋いだままになっている。

 

「今なら誤射が少なくなるような気がします!!だからユウキさん!!是非とも私の戦い方を『ガンッ!!』ピィッ?!?!」

 

 しかしカノンが全てを言い終わる事はなかった。カノンが話をしている途中で、突如エレベーターの扉から指が生えてきて、扉を止めてしまった。そしてその隙間からは限界まで見開いたであろうサファイアの様な青い瞳が片目だけ見えて、それがユウキ達を見ていたのだ。下手なホラー映像よりも遥かに怖いものを体験して、ユウキも何が起こっているのか理解が追い付かずに固まり、カノンは小さな悲鳴を上げてユウキにしがみつく。

 

「何でユウとカノンさんが…手を繋いでいるんですかぁ…?」

 

 怨嗟の籠った声と共に扉が開くと、嫉妬の女神『亞莉裟』が降臨した。片目が覗いてたのは扉が開くまでの僅かな間の出来事だったはずなのに、10分20分くらいあったのではないかと錯覚する程に恐怖した。

 しかしニブチン唐変木な神裂ユウキにはアリサが嫉妬しているなんて気付くはずもなく、何故怒っているのか訪ねて更にアリサの機嫌を損ねてしまい、首を捻る結果になったのはまた別の話である。

 

 -鎮魂の廃寺-

 

 現在、カノンに連れられたユウキ達は旧寺院の待機ポイントに来ており、テスカトリポカ討伐とカノンの戦術見直しのため、ユウキの神機はブラストタイプの銃身『79式キャノン』を装備したものに変わっている。そしてエレベーターで一緒になった際アリサも任務に参加する事になり、さらには禁忌種討伐にでもあるにも関わらず、何処から聞き付けたのか任務受注直前にアネットも参加する事になった。結果、ユウキ、カノン、アリサ、アネットとコウタが知ったら血涙を流しそうな光景が広がっていた…のだが…

 

「な、なあアリサ…何か気に障ることしたのか?」

 

「…別に…してませんよ…」

 

 カノンとユウキが手を繋いでエレベーターに乗ったところを目撃してからと言うもの、アリサはプリプリと怒っていた。

 まだ恋人でもないとはいえ、惚れた男が他の女と自分の相手をする時よりも親しくしているのは、アリサからしてみれば面白くないものだ。

 しかしニブチン野郎にはそれが分からず、ひたすらにアリサとの気まずい空気に耐えながら任務をこなさなくてはならない現状に参っていた。

 

(…帰りたい…)

 

 気まずい空気に耐えながら心の中で本音を漏らす。しかしリンドウの遺留物捜索も兼ねているこの任務で、今から帰る訳にもいかないのも事実だ。

 

  『ウォォォン!!』

 

 突如ターゲットであるテスカトリポカの鳴き声が聞こえてきた。その瞬間全員が声のする方向を向き、ユウキはそれに加えて目付きが鋭くなる。

 

「近いな…よし、任務の最終確認をします。」

 

 敵がすぐ近くに 居る。ユウキは気持ちを切り替えて戦闘に集中する。それを示す様に、ユウキの目付きは鋭くなっていた。

 

「今回の任務はあくまでカノンの戦術見直し…基本的にアリサとアネットは銃身で後方支援、俺が前衛、カノンがアタッカーです。それから、カノンの護衛には俺が着きます。」

 

 あくまでもリンドウの羽の件は誰にも伝えない。上手く行くかは分からないが、3人に気付かれない様に回収するつもりのようだ。

 

「それじゃ、作戦…開始!!」

 

 ユウキの声と共に全員が飛び出す。そのままユウキとアリサ、それからカノンとアネットに別れてそれぞれ左右の階段から中庭に向かう。

 ちょうど階段を上りきったところで一旦物陰に隠れ、銃形態に変形する。どうやら中庭のど真ん中でテスカトリポカは死んだシユウを喰っているようだった。カノンもその事に気が付いたのか、ユウキ達はと同じように物陰に隠れている。

 ユウキは物陰から飛び出すと、バレットを1発発射する。しかし、そのバレットは直線には飛ばず、真上に飛ぶ。

 そのタイミングで今度はアネットが銃形態でテスカトリポカを撃つ。堅牢な装甲に守られていることもあり、大したダメージにはなっていないが、それでも注意を引く事は出来た。

 テスカトリポカがアネットの方を向いた隙にカノンがテスカトリポカに接近する。

 

「そらっ!!」

 

 男勝りな掛け声と共にカノンが前面装甲を爆破する。足元のカノンに気が付いたテスカトリポカは、カノンを踏み潰そうと前足を持ち上げる。

 

  『ズガァン!!』

 

 突然テスカトリポカの後頭部が爆撃され、不意な攻撃にテスカトリポカは体勢を崩した。

 

(どうやら上手く行ったみたいだな。)

 

 こうなったのもユウキの狙い通りだった。最初に撃ったバレットは、数秒後に敵に向かって着弾したら爆発が起こるバレットであり、それがテスカトリポカの後頭部に直撃していたのだ。

 片足を上げてたテスカトリポカは、結合崩壊こそしなかったが爆発の勢いでよろけながら体勢を立て直す。

 

「行きます!!」

 

「当たって!!」

 

 その隙にアネットとアリサが銃形態でテスカトリポカを撃ちまくるが、装甲にを纏っているせいか、どうにも大したダメージを受けている様子はない。

 

「はっ!!」

 

 小さな掛け声と共に、ユウキは大きく跳躍する。するとテスカトリポカの背中を縦回転切りで斬り付けるも、軽くキズが着く程度となった。

 

(やっぱり堅いな…なら!!)

 

 空中で銃形態に変形すると、爆発バレットをテスカトリポカの背中に撃ち込む。爆発バレット自体は砲身の先で爆発するため、その勢いでユウキは跳び上がりながら、テスカトリポカの背中に傷を付けた。

 

(クソッ!!やっぱり全く強化してないから、威力が…)

 

 ユウキが装備の強化怠った事を内心後悔していると、突然ユウキの背中に衝撃が走り、そのまま宙に舞う。

 

「ブヘッ!!」

 

「ユウ!!」

 

「先輩?!」

 

 変な声を出しながら、ユウキは顔面からテスカトリポカの足元に着地する。その様子を見たアリサとアネットが声をあげる。

 

「邪魔ぁ!!」

 

 しかし、ユウキを吹き飛ばした犯人であるカノンは気合いが入っているせいか、何時もよりも荒い口調でユウキを邪魔者扱いしつつ、新たにバレットを撃ち込む。

 

「うおおぉお?!」

 

 足元に転がっているユウキを踏み潰そうとするテスカトリポカを狙い、アリサとアネットが爆破弾で援護するも、テスカトリポカは体勢を崩さない。しかし、カノンが放ったモルターバレットがテスカトリポカの前面装甲に着弾してその勢いでユウキは再び吹き飛ばされる。

 運良くテスカトリポカの攻撃を回避出来たユウキは、飛ばされながらも体勢を立て直して、銃形態のままテスカトリポカに向かう。

 

「おらぁ!!」

 

 カノンが真正面から放射バレットを放つと前面装甲に結合崩壊が起こる。すると、テスカトリポカは後ろにジャンプしながら下がりつつ、ミサイルポットからカノンに向かってミサイルを放つ。

 

「くっ!!」

 

 アリサがミサイルを迎撃しようと、最前列のミサイルに爆破弾を放つ。すると着弾時の爆発に連鎖するように、密集したミサイルはことごとく撃ち落とされた。

 

「くらえ!!」

 

 ユウキが前面装甲の前まで移動すると、モルターバレットを射つ。結合崩壊していた事もあり、その部分が広がっていく様子から効き目はあるようだ。

 

  『ウォォォン!!』

 

 テスカトリポカが鳴き声あげると、今度は前に跳び出す。

 

「っ!!」

 

 ユウキは咄嗟に地を這う様な体勢を取り、テスカトリポカの下を潜って回避する。しかし、カノンは反応が遅れたのか躱す事が出来なかった。

 

「きゃあ!!」

 

 神機を間に挟んで防御したため直撃こそしなかったが、テスカトリポカの巨体によってカノンは軽々と飛ばされた。

 

「カノンさん!!このぉ!!」

 

 カノンが攻撃を受けたところを見て怒りを露にしたアネットが、連射速度を上げてテスカトリポカの頭に爆破弾を撃ち込む。

 

「アネット!!そのまま撃ち続けろ!!アリサはテスカの気を引け!!」

 

 ユウキの指示でアネットは更に短い間隔で連射を続け、アリサはテスカトリポカの足を狙う。アリサとアネットの神機のオラクルが切れかける程の爆破弾を受け続けたからか、兜が結合崩壊を起こすと同時に流石のテスカトリポカも怯んだ。

 

「そこ!!」

 

 ユウキが再び大きくジャンプして、テスカトリポカの背中を斬り着ける。同じような場所を斬ったので、今度は大きな切り傷が出来る。

 そしてユウキは両腕をバネにして再度大きく跳び上がり、銃形態に変形して結合崩壊した兜を爆破する。

 爆破の勢いで大きく後ろに跳んでいる最中もユウキの追撃は続き、今度は爆破弾を射って兜を爆破する。

 

(成る程…何となく分かってきた。)

 

 今回の任務で、ユウキはブラストを使い続けたことで何となくだが、ブラストを運用する際の特徴を自分なりに掴んだ。

 ブラストの性能的特徴は破砕能力のあるバレットを使用した際の火力、それに伴う高燃費、そして連射性能の低さである。高燃費な部分はオラクルリザーブである程度改善出来るが、連射性の低さはどうしようもない。今回ひたすらブラストを使ったのは、この性能的特徴と立ち回りを掴むためでもあった。

 しかし、ユウキはカノンの戦術改善にはブラストの特徴は無関係だと言うことに気が付いた。そもそもブラストは破砕バレットを使用する事で最大効果を発揮する銃身だ。その破砕バレット自体が敵に貼り付く様に動かなければ敵に当たらない。そうなると必然的に剣形態の様な動きになり、その状態でそこら中で爆発を起こせば剣形態を使う神機使い達は被弾してしまう。

 勿論カノンの仲間の位置を無視して攻撃する『魔王モード』も問題ではあるが、カノンを含めた神機使い達がブラストの立ち回りを把握しきれていない事にも問題があるようにも思えた。

 

(とは言え現状ブラスト使いがカノンさんだけって考えるとそれも仕方ないのかな…?)

 

 そんな事を考えながらユウキは着地しつつカノンの方を見る。現在、カノンが放射バレットでテスカトリポカの前面装甲を吹き飛ばし、アリサとアネットも剣形態に移り、前衛に出ている。

 ユウキの考えていた通り、現在極東支部にはブラスト使いはカノンしか居ない。そのため極東支部でのブラスト使いのデータが足りず、ブラスト使いの特徴をや立ち回りを知る機会が圧倒的に少なかった事が誤射が多くなる原因だと考えていた。

 

(取り敢えず表向きの目的は達成した。そろそろ止めを刺すか。)

 

 ユウキが剣形態に変形すると、テスカトリポカは前に移動してユウキとの距離を詰める。アリサ、アネット、カノンは偶然にも当たらなかったが、ユウキは神機を構えたまま動こうとはしなかった。

 

「…そこだ!!」

 

 昇瀑を展開してユウキは真上に飛び上がる。そしてカノンによって破壊されて中身が剥き出しになった前面装甲部を喰い千切りバーストする。

 弱点を攻撃された事でテスカトリポカは思わず怯む。その隙に神機を振り下ろし、勢い良く肉を斬り裂いていくと、弱点であるコアが露になる。

 

「とどめぇ!!」

 

 未だ空中にいるユウキは穿顎を展開して勢い良くコアを喰い、そのままテスカトリポカの体内を喰いながら貫通する。コアを失った事で、テスカトリポカは力なく崩れ落ちた。

 

「任務完了…ですね。」

 

 アリサが乱れた髪を直しながら歩み寄る。その表情は先程の様な不機嫌さは感じられなかった。

 

「うん。何とか全員で生き残れた。お疲れさま!」

 

 アリサの様子が元に戻った事にユウキは安堵しながら労いの言葉をかける。

 

「どうでしたか?!ユウキさん!!今日は誤射が少なかった気がします!!」

 

「そ、そうだね…まあ、何が悪いのかは何となく見えてきたから、戻った時にでもゆっくり話そう。」

 

「本当ですか?!是非お願いします!!」

 

 カノンが満面の笑みを浮かべる。ユウキがそれを見て少し照れていたものの、何とかカノンの戦術改善の話が出来る様に話を進める。

 

「やった!!やりました!!見ててくれましたか?!先輩!!」

 

 だが、そんな中アネットがアリサやカノンの目も気にせずユウキに抱き付く。

 

「なっ!な、な、なななな何してるんですか!?アネットさん?!」

 

「あ、アネットさん?!い、いきなり男性に抱き付くのは…そ、その…あまり良くないと思います…」

 

 カノンが赤面し、アリサは顔を真っ赤にして叫ぶ。対してアネットは何故皆が騒いでいるのか理解できていなかった。ちなみにユウキは抱き付かれた瞬間頭から煙を出しながらフリーズしていた。

 

「そ、そうです!!ハレンチです!!とにかく離れて下さい!!」

 

 そう言ってアリサはやや強引にアネットをユウキから引き剥がし、そのまま(自分も良く分からないにも関わらず)男女の正しい距離感についてアネットに説いていく。更には何故かカノンもそれを聞き入っていた。

 そしてアリサが説教を初めて10秒程でユウキの意識はは現実に帰ってきた。

 

(あ、そ、そうだ…例の羽は…あるのか?)

 

 そう思い辺りを見回すと、白い雪の上に黒い羽が2枚落ちていた。丁度テスカトリポカと喰われていたシユウが居た場所だ。

 テスカトリポカの居た場所には今までと同じ仄暗い羽が落ちており、シユウが居た場所には更に黒いやや大きな羽が落ちていた。よく見ると仄暗い羽よりも形は綺麗だ。恐らくこれがペイラーの言っていた欠損の少ない遺留物なのだろう。

 漆黒の翼とも言える暗い羽は仄暗い羽と同じ様に、更に光を吸い込む様な色合いだった。

 何処か取り返しの付かないところまで来ているような感覚を覚え、ユウキは焦燥感を強めながらも羽をポケットにしまい、アリサたちの元へ向かって帰投した。

 

To be continued




後書き
 どうも、GW中はフルで仕事だった私です。それはさておき、カノンがユウキに戦う理由について相談してどうにか解決の糸口を見つけました。
 ただ、ちゃん様はやる気になるは良いのですが、魔王モードも常時発動して結果的に空回りするタイプだと思います。
 なので今回は常時魔王モードで口が悪い状態になってもらいました。

台場コトミ
GODEATER mobileで登場したカノンの妹。ゲーム内では旧型スナイパーに適合しているが、本作ではまだ適性は見つかっていない。

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