GOD EATER ~The Broker~   作:魔狼の盾

60 / 126
ここからユウキ君が感応現象を手がかりにリンドウさんの痕跡を追い始めます。


mission58 痕跡

 -外部居住区『S35』-

 

「おーい!にぃちゃーん!ソイツ持ってきてくれー!」

 

 修復中のゲートを突破され、防衛戦が行われた翌日…ペイラーに黒い羽を渡した神裂ユウキは破壊されたゲート付近でガテン系の男性に呼ばれ…

 

「はーい!」

 

 ゲート修復作業の手伝いをしていた。

 

「いっ…よっと!」

 

 縦横100mm、長さ500mmで穴加工されたH型の鋼材を左右の肩にそれぞれ担いでゲートがあった所まで持っていく。

 

「おお!!ユウ兄ちゃんスゲー!!」

 

「へっへーん!!だろ?」

 

 居住区に住む子どもが、見た目に反したユウキの腕力を見て喜んでいると、ユウキ自身も得意気になる。

 

「いやあ、助かるぜ!!昨日の騒動で重機も壊れちまったからな。」

 

「気にしないで下さい。俺がやりたくてやってるだけですから。」

 

「そうかい。ならそう言う事にしておくよ。あ、1本ここに立ててくれ。」

 

「あ、はい。」

 

 男性の指示でゲートがあった場所に1本だけ鉄骨を立て、倒れないように押さえる。

 

「にしても神機使いの腕力ってのはスゲーなぁ。その細っこい腕で鉄骨を軽々と持ち上げるなんて…まるで人間フォークリフトってところだな。」

 

「あはは!とは言えこの身体能力を得る代わりに、より危険な戦いをしないといけないので…やっぱり一概に良いとは言えないですね。」

 

 話をしながらユウキが立てた鉄骨とベースを大きなリベットで繋いでいく。

 

「ちげぇねぇ!やっぱり平和が1番だ…よし!!次は反対側に立ててくれ。」

 

「分かりました。」

 

 リベットを打ち終わると、男性が先に目的の場所に行く。鉄骨を落とさないように1度持ち直し、指定された場所に行く途中、ふとある人物が目に映る。

 

(…レン?)

 

 離れた所にレンが佇んでいた。その手には例の羽を持っていて、それを眺めていた。『先日の襲撃で怪我した民間人の手当てをしにしたのだろうか?』と考えていると、ユウキとレンの間に人影が通り、一瞬レンがユウキの視界から消える。再び視界が広がると、レンは既にその場から居なくなっていた。

 

「おーい!どうした?兄ちゃーん?!」

 

「え?ああ、すいません!!すぐに持っていきます!!」

 

 何があったのかと思っていると男性から声をかけられ、慌てて意識を作業に戻して鉄骨を指定の場所に持って行った。

 

 -1週間後-

 

「…なんだ?この惨状は?」

 

 外部居住区に侵攻するハガンコンゴウの群れを討伐する任務を終え、極東支部に戻ると、半死状態でグロッキーなソーマとタツミがエントランスのベンチで踞っており、その傍らには必死に笑いを堪えているコウタが居た。

 

「あ!お帰りユウ!…プッフフフ!」

 

「…いきなり人の顔見て笑うなよ。」

 

 顔を合わせるなり笑われたユウキが不機嫌そうにコウタを見る。

 

「ああ、ごめんごめん!いやぁあのときの2人の顔ときたら…クフフ!」

 

「…何やったのさ?」

 

 踞るソーマとタツミを見た後で、ユウキは白い目でコウタを見る。

 

「俺は特別変な事してないよ!それよりこれ!新作のジュースなんだけど、飲んでみ?」

 

「えっと…『初恋ジュース』?」

 

「そそ!博士が作った新作ジュースさ!『苦甘酸っぱいような何とも言えないじたばたしたくなるような味』って事なんだけど…どう?」

 

 会話の流れ的に恐らくこれを飲ませたのだろう。この初恋ジュースを飲めば自分も生きた屍の仲間入りをする事になるだろうが…

 

「じゃあ、貰うよ。」

 

 怖いもの見たさもあり、割りとアッサリと缶を受け取る。プルタブを起こすと『プシュッ!!』と炭酸が抜ける音がする。するとその音を聞いたタツミが反応する。

 

「ま、待てユウキ!!」

 

 初恋ジュースと言う名の毒物でダメージを受けたタツミが必死に止める。しかしその制止も虚しくユウキは初恋ジュースを飲んでしまった。

 

「の、飲んじまったか…初恋とは程遠いクソ不味い物を…」

 

 タツミが『やっちまったか…』と言いたげな表情でユウキを見る。しかし当のユウキ本人は…

 

「…?言うほど不味いかな?」

 

 皆の評判に首を捻っていた。ケロッとしたその様子から特に何ともなさそうだったので皆が驚いていた。

 

「え?!ウソォ?!」

 

「特別美味しい訳でもないけど…何処にでもありそうな炭酸の入った普通のチェリー系の甘酸っぱいジュースだ。飲めない程じゃないよ?」

 

 何故皆して不味いと言うのか分からなかったが、取り敢えず飲み干して未だグロッキー状態から立ち直れていないソーマに『大丈夫…じゃないよね。』と声をかけながら近付いていく。

 

「う…グッ…コ、コウタのやつ…後で絶対ぶっ飛ばす…」

 

「うん、分かったよ。取り敢えず医務室に行く?」

 

「お、おお…」

 

 ソーマに肩を貸して立ち上がらせると、そのままスローペースでエレベーターまで歩く。

 そしてもはや顔を上げる事さえ出来ない状態のソーマとエレベーターに乗り込むと、扉が閉まり始める直前に1人で神機保管庫に向かう人影が目に映る。

 

(あ、レン…)

 

 エレベーターの扉が閉まる中、レンがユウキの存在に気が付いたのか、神機保管庫に行くのを中断して会釈すると、丁度扉が完全に閉まり、エレベーターが動き出した。

 

(…さっきまで…居たかな?)

 

 あの惨状を野次馬根性で見物していた者は多かったが、どれだけ記憶を辿ってもレンは居た場面を思い出せない。だがユウキからは見えない位置にずっと居ただけかも知れないので、あまり深く考える事なく思考を放棄した。

 

 -医務室-

 

 ソーマを医務室に連れていくと、ユウキはルミコの助けを借りてソーマをベッドに寝かせる。その後はルミコがソーマに問診と触診である程度の見解は出たようだ。

 

「結論から言うと、ソーマの不調の原因は初恋ジュースの味だね。」

 

「え?味…ですか?」

 

 予想外な答えに、ユウキは拍子抜けする。

 

「そ、初恋ジュース自体は飲んでも体に影響ないみたいだし、単純にあまりの不味さにソーマのメンタルがやられて、それが体にも出てきたってこと。」

 

「じゃあ、特に何か危ないとかじゃないんですよね?」

 

「うん。結局のところ、ソーマが不味いと感じる下限を突き抜けてただけだからね。」

 

「だってさ。ソーマ。」

 

 ルミコの見解をカーテン越しに聞いているソーマに向かって話しかける。

 

「…ぉぉ…」

 

「ソーマ、そろそろ戻るけど…今はゆっくり休んでね。」

 

「…ああ…」

 

 ユウキの問いかけにソーマは覇気のない声で返事をする。それを聞くとユウキは、踵を返して医務室から出ようとする。

 

「なぁ、ユウ…」

 

 が、ソーマに声をかけられて途中で歩みを止める。

 

「ん?」

 

「コウタに会ったら、体調が良くなったら覚悟しとけって伝えてくれ…」

 

「あはは…分かった、伝えとく。けどさ、ここ最近研究室に籠りっぱなしだったから…休むって意味でも丁度良かったのかも知れないよ?」

 

 ソーマからコウタへの死刑宣告の言伝てを頼まれ、苦笑いしながら伝言を伝えると約束する。

 しかし、今回の事で研究室で働きづめの現状から、形はどうあれ休む事ができたのも事実だ。1度研究から離れて気持ちを切り替えるきっかけとなったと前向きに捉える事が出来れば、また次から研究を頑張れるだろう。

 もっともコウタがそこまで意図していたかは分からないが…

 

「…伝言の変更だ。1発で許してやるに変えてくれ。」

 

「わかった。それはそうと、ノヴァの残滓…回収は進んでる?」

 

 ソーマから伝言の変更を了承する。そしてここ最近会うことも難しくなった事もあり、ついでに回収任務が進んでいるのをソーマの方に向き直り聞いてみた。

 

「ああ、今のところ順調だ…だが…」

 

「…何?」

 

 ソーマ曰く順調なようだが、どこか歯切れがは悪い。ユウキは何があったのか聞き直すが、ソーマは一瞬の沈黙の後に口を開く。

 

「…いや、何でもない…予測値と現実に誤差があることなんて当たり前だ…気にしないでくれ…」

 

 何やら予測とは違う事があったようだが、ソーマ自身は問題ないと言う。今回の回収任務には関わってないユウキでは回収任務の実態は把握しきれない。ソーマの言葉を信じてそれ以上は聞かずに、医務室から出ることにした。

 

「そっか…何にしても、無理はしないようにね。何かあれば手伝うからさ。」

 

「そっくりそのまま返すぜ…身体の事だの任務の量だの…色々無理してんのはお前の方だろ…」

 

 ソーマはソーマで大変だが、ユウキもアラガミ化や日々の仕事量等、問題は山積みだった。特にアラガミ化は抗体持ちの身体のお陰で進行は非常に緩やかだが、それがいつ早まるかも分からない。結局いつ爆発するかも分からない時限爆弾を抱えている事と同じだ。

 ソーマにその事を指摘されてユウキは冷や汗をダラダラ流しながら目を背ける。

 

「アーナンノコトカナワカンナイナー?」

 

「今は他人の事より自分の心配をしろ…俺が言いたいのはそれだけだ…」

 

「…肝に命じます。」

 

 どちらにしてもお互いに大変な状況な事には変わりない。他人を気にかける余裕があるなら自分の心身のケアをしろとソーマに言われ、ユウキも自分のケアをするように心がけると誓う。

 

「それじゃ、またね。」

 

「おお…」

 

 粗方話を終えたので、今度こそユウキは医務室を出ていった。

 

(男同士の友情…ってやつかな…?)

 

 ユウキとソーマの変化を垣間見たルミコはそんな2人の様子を見て微笑ましく思っていた。

 

 -神機保管庫-

 

 医務室を出た後、久し振りにレンを見かけたので、レンに会いに行こうと神機保管庫に向かう。特に大した理由はなく、単に最初に助けてもらって以来、レンに会った事がなかったからだ。そこで礼を含めて1度会って話をしたいと思い、手土産に(ユウキは普通だと思っている)初恋ジュースを 片手に神機保管庫にやって来た。

 

「レンさん。」

 

「え?あ、お疲れ様です。」

 

 保管庫に入るとリッカ達は昼食に行っているのか、入り口近くでレンが1人で神機を見上げながら佇んでいた。ユウキが声をかけると、一瞬驚いた様子になったが、すぐに柔和な笑顔を浮かべながら返事をする。

 

「お疲れ様です。この間はありがとうございます。」

 

「いえいえ!偶然危ない所に居合わせて見過ごせなかっただけですよ。」

 

「でもレンさんが助けてくれたから、こうして俺やリッカは生き残る事が出来たんですから。ちょっと安っぽいかもしれませんが…助けてくれたお礼です。」

 

 ユウキは以前、ヴァジュラテイルが侵入してきた時に助けてもらった事に礼を言って初恋ジュースを差し出す。

 

「ありがとうございます。あ、コレって噂の初恋ジュースですよね。1度飲んでみたかったんですよ。」

 

「気に入ってもらえたみたいですね。良かった。」

 

 少なくとも初恋ジュースを見ただけで拒否される事は無かったようだ。レンの反応をみると、もしかしたらレンもユウキ同様に怖いもの見たさでいつか初恋ジュースを飲もうとしていたのかも知れない。

 

「それにしても、何故敬語なんですか?歳も近そうなのに…何か遠慮してます?」

 

「え?いや、単にレンさんは命の恩人なうえに、まだ会ったばかりなので失礼かと思っただけですよ。」

 

 アネットやフェデリコ、ユーリには敬語を使わないのに、自分に対しては敬語で話すのは何故なのかと言うレンの素朴な疑問を投げ掛ける。

 その答えもまた単純で、命の恩人でまだそこまで親しくないと思っていたからというだけだった。

 

「そんな事気にしないで下さい。実は堅苦しいのはどうも苦手なんですよね。『さん』付けも結構ですから。」

 

「そう?ならレンも敬語無しにならないかな?」

 

「うーん…僕の場合はなんと言うか…もう癖になってるんですよね。なかなか直らなくて…」

 

「あはは、そっか。じゃあ無理のない方で。」

 

 レンはもっと砕けた口調が言いと言うが、レン本人は敬語が癖のようだ。かつてのユウキも敬語が癖だったため、少し苦労したと事を今でも覚えている。ユウキは自身はあまり話し方には拘らないので、軽い感じで好きな方で良いと返した。

 

「あ!すいません。折角ジュースを頂いたのに何時までもおしゃべりして。それじゃあ、いただきます。」

 

 しばらく話し込んでいたため、レンはユウキから初恋ジュースをもらった事をすっかり忘れていた。

 レンはプルタブを起こすと缶から『プシュッ!!』と炭酸が抜ける音がする。そしてレンは初恋ジュースを一口飲む。

 

「これ…すごく…美味しいです!!」

 

「良かった。気に入ってくれて。」

 

 どうやら気に入ったようだ。その事にはユウキが安堵していると、一旦会話が途切れる。

 

「これ、リンドウさんの神機ですよね。」

 

「え?う、うん。そうだけど…?」

 

 そう言いながらレンはリンドウの神機を見上げる。それに釣られてユウキもブラッドサージを見上げる。

 

(なんでリンドウさんの事…知ってるんだろ?)

 

 しかしユウキは何故この間配属になったレンがリンドウを知っているのか疑問だった。

 

「あ、言いそびれてたんですけど…僕、リンドウさんと一緒に戦ってた事があるんです。」

 

「へぇそうなんだ…ふぇ?!」

 

 予想もできない事実を告げられてユウキはすっとんきょうな声をあげる。レンの言うことが本当なら、ユウキがリンドウと出会うよりも前にレンはリンドウと共に戦った事になる。少なくともユウキよりも神機使いとしてのキャリアが長い事は間違いない。

 

「え?!じ、じゃあ実は凄いベテランの神機使いだったり?!」

 

「そんなに大したものじゃないですよ。ただ、リンドウさん…酷い人だなって思っただけです。」

 

「…」

 

 レンの毒舌にユウキは思わず目付きを鋭くして黙ってしまう。レンが予想に反して毒舌家だった事にも驚いたが、それ以上にレンがリンドウを悪く言った事に腹を立てていた。

 

「転属してから支部の中を見て回ったんですけど…こんなに素敵な仲間に囲まれて居たのに…独りで勝手に何処かに行っちゃったんですから…」

 

 そう呟くと、レンはゆっくりとリンドウの神機に手を伸ばす。

 

「っ!!待って!!」

 

 レンの突拍子のない行動にユウキは思わずレンと神機を遮る様に焦って手を伸ばす。そのままリンドウの神機に触れると、脳裏にある場面が再生される。

 

 -???-

 

「サクヤ…これは命令だ!!!全員必ず生きて帰れ!!!」

 

 リンドウが閉ざされた教会でサクヤ達に撤退の指示を出し、眼前にはプリティヴィ・マータが迫ってくる。

 

『いやあぁぁぁ!!!!』

 

『行こう!サクヤさん!このままじゃ全員共倒れだよ!!』

 

『嫌よ!リンドウゥゥゥ!!』

 

 サクヤの叫びが聞こえるが、今はそんなことに構っている余裕はない。目の前に飛びかかるプリティヴィ・マータの下をスライディングで潜り抜ける。そして抜けると同時に急反転して後ろから切りつける。

 そうやって戦っていくうちに少し苦戦はしたがプリティヴィ・マータを倒した。戦闘中は気が付かなかったが、プリティヴィ・マータを倒した頃には教会の外からサクヤ達の声は聞こえなくなっていた。

 他のアラガミの声も聞こえない。恐らくちゃんと逃げられたのだろう。安堵して教会の壁に背中を預けて座り込み、タバコを吹かす。

 

「行ったか…」

 

 サクヤ達の無事を案じながら救助を待っていると、教会にディアウス・ピターが侵入してきた。

 

「はぁ…ちょっとくらい休憩させてくれよ…体が持たないぜ…」

 

 そう言ってたばこを一気に吸い、煙を吐く。吐き終わると残ったたばこを投げ捨てて立ち上がる。神機を担ぎ、ディアウス・ピターに向かって歩いていった。

 

(クッ!!流石に連戦はきついな…!!)

 

 あれからディアウス・ピターの電撃を躱し、切り裂いてくる爪をいなし刃の様な翼を掻い潜ってリンドウ、ディアウス・ピター共に確実にダメージを重ねていった。

 しかし当時新種のような扱いだったプリティヴィ・マータを倒した後にディアウス・ピターとの連戦…ただでさえあらゆる行動に神経を尖らせている現状で長時間の戦闘行動に、そろそろ限界が近づいていた。

 

「クッソ…!!しくじったか?」

 

 ディアウス・ピターが前足の爪で切り裂いてくるを装甲を展開して受け止めるが精神、肉体共に疲労した状態では受け止めきれずに、右腕の腕輪に直撃してしまう。

 その瞬間、右腕…さらに言えば腕輪が着いている右手首から激痛が走り、腕輪の辺りから黒い煙が吹き出していた。

 その隙にディアウス・ピターがリンドウを喰い殺そうと突っ込んでくる。

 

「おおおおお!!」

 

 リンドウが咆哮と共にディアウス・ピターの顔面を突き刺す。だが、激痛や疲労のためか、狙いが逸れてディアウス・ピターの口内に神機を突き刺す。するとディアウス・ピターは仰け反り、下顎にリンドウの腕輪を引っ掻けて無理矢理右腕から引きちぎる。

 するとリンドウは痛みで思わず神機を残してディアウス・ピターから右腕を引き抜いてしまった。

 

「グッ!!オッ!!ア"ア"ア"ア"ア"ッ!!」

 

 引き抜いた勢いで右腕から血が帯状に広がる。さらには腕輪を失い体内のオラクル細胞が制御を失い、暴走を始める。

 激痛でリンドウが右腕を押さえて踞る。動けないリンドウにディアウス・ピターが止めを刺そうと迫ってくる。

 

(クッ!!クソッ!!)

 

 朦朧とする意識の中、ディアウス・ピターが迫ってくるのが見えるが、体が動かない。『ここまでか…』と自身の命を一瞬諦めた瞬間、リンドウとディアウス・ピターの間に白い人影…シオが割り込んできた。

 そのままシオとディアウス・ピターは睨み合っていたが、興味が失せた様に突然ディアウス・ピターはその場を去っていく。

 

「お、お前…は…?」

 

 朦朧とする 意識の中、シオの姿を見たところでリンドウの意識は途絶えた。

 

 -???-

 

 次に目が覚めた時、リンドウ日本家屋のような部屋で壁に凭れていた。ふと右腕に違和感を覚えて見てみると、信じられない様な光景が目に映る。

 

「なんだ…?腕?俺の…腕…か?」

 

 そこには赤黒く刺々しい異形の腕があった。微かに右腕を動かしてみると、異形の腕が連動して動く。

 『やっぱり自分の腕か…』と思った瞬間、右腕から気が狂いそうになる程の激痛が走る。

 

「グウッ!!ア"ア"ア"ア"ア"!!」

 

 リンドウが叫び声を上げると、シオが右腕に手をかざす。すると不思議に痛みが引いていく。よく見ると、リンドウの右手の甲には青いコアの様なものが埋め込まれていた。

 

「ハア…ハア…お前…ありがとな…」

 

 礼を言うと、再びリンドウは意識を失った。

 

 -???-

 

「はら…へった…」

 

 それからしばらくしてリンドウは強烈な空腹感を感じて目を覚ます。自身の心情を思わず呟く。

 

「ハラ…ヘッ…タ?」

 

「ん…?お腹…すいた…だ…」

 

「オナカ…スイタ…ダ。」

 

 シオがリンドの呟きに反応して復唱する。

 

「おなかすいた…」

 

「オナカ、スイタ。」

 

 シオがユウキ達と出会った頃には覚えていた言葉…『お腹すいた』はリンドウから教わったものだったのだ。衝撃の事実を知ったところで、ユウキの意識は現実に引き寄せられた。

 

 -神機保管庫-

 

「あの…どうかしましたか?」

 

 レンは何があったのかと心配そうにユウキに声をかける。だが、ユウキにはその言葉は届いていなかった。

 

「は…はは…」

 

 ようやくユウキが口を開いたと思ったら小さな笑い声が聞こえてきた。

 

「あっははははは!!はっあはっ!!あはははははは!!」

 

 一瞬の間を置いた瞬間、右手で顔を隠すようにして、上を見上げて狂った様にユウキは笑い出す。

 

(なんだよ…シオと初めてあったあのとき…)

 

 初めてリンドウの神機に触れた時と今リンドウの神機に触れた時の事を思い出しながらあのとき何があったのかもう1度整理していく。

 

(リンドウさんは近くに居たんだ!!なのに、俺たちは気付かずにそのまま帰った…その後もきっと!!あの場所に居たかもしれないのに…!!)

 

 笑いながらもユウキは自身の間抜けぶりを自嘲した。こう言うのを『運命のイタズラ』とでも言うのだろうか。なにせ旧寺院でシオに初めて会った時、すぐ近くにリンドウが居たのかも知れないと思うと何故リンドウの存在に気が付かなかったのかと後悔が押し寄せる。

 

「え?あ。あの…」

 

「ははは…ふぅ…レン。これもあげるよ。」

 

 突然笑い出したユウキを不気味に思いながらも、何があったのかと声をかける。するとレンが話しかけた事もお構い無いしに自分の話を進め、初恋ジュースをレンに押し付ける。

 

(さっきのはきっと、アリサの時と同じ現象…あれが正しいなら…リンドウさんはアイツに倒されてなかった…!!生きてたんだ!!)

 

 感応現象で体験した事を思い出しながらユウキは走って神機保管庫を出ていった。

 

(それなら…まだ…生きてるかも知れない!!)

 

 少なくともディアウス・ピターに殺されてはいない。ならばまだ生き延びている可能性がある。その可能性を信じてリンドウの捜索を再開するように進言しに行った。

 

「凄いな…あれが感応現象ってやつか…」

 

 1人取り残されたレンが呟く。

 

「皆不味いって言ってたっけ?こんなに美味しいのに…」

 

 初恋ジュースを飲んでレンは1人感想を呟く。何度飲んでも周りが言うほど不味いとは思えない。

 

「『ヒト』の味覚って随分と贅沢だなぁ…」

 

 誰も居ない神機保管庫にレンの独り言が響いていた。

 

 -支部長室-

 

「成る程…今の話は新型特有の『感応現象』で間違いないだろうね。これでユウキ君はリンドウ君の神機と繋がり、リンドウ君の記憶を体験した。その結果リンドウ君はディアウス・ピターから逃れていた…と…」

 

「感応…現象…?」

 

 リンドウの神機に触れた時の現象で体験した事をペイラーとツバキに報告した。その結果、過去を追体験する現象は感応現象と言うようだ。初めて聞いた単語に疑問を持つが、今はそんなことに時間を取る訳にはいかないので、ユウキはそれ以上は聞かなかった。

 

「にわかには信じがたい話だが…昏睡状態のアリサを呼び起こした神機使い同士…さらには神機と神機使いを繋ぐ力…か…何にしても、まず我々に報告しに来たのは賢明だったな。生存が確定してない状況で変な噂が立たつと、最悪統率が取れなくなる。」

 

「そうだね。まだ確定した情報は何一つ無い。むやみに希望を与えるのは私も賛同しかねる。」

 

 確かに生きているかも死んでいるかも分からない状況なのは事実だ。その状況で生きているかもなんて言って回ると周囲は生きていると期待するだろう。あまり不用意に希望を与え、最後に落胆させるのはあまりに酷だろう。

 

「それにしても実に興味深い不思議な力だ。しかも君は神機とも繋がりを持った…これは今までに無い例だ。是非とも研究したいところだ…」

 

「博士!!今はそんな事を言ってる場合じゃあ!!」

 

「分かってる。その話の通りの事が起きていたなら、早急に手を打たなければならないからね。それにしても実にタイムリーな報告だ。先日ユウキ君から預かった羽なんだが…」

 

 ペイラーはユウキの力を調べたいが、そんな時間もないのでその件はまた今度にする様にユウキが言う。

 その結果話を進める事になったが、その話に関係して先日渡した羽の事で報告があるようだ。

 

「どうやら、リンドウ君の遺留物である可能性が高いみたいだ。」

 

「ッ!!」

 

 どうやら先日渡した羽はリンドウの一部である可能性があるようだ。それを聞いた途端ユウキの目付きが変わる。

 

「あのサンプルからリンドウ君のDNAパターンの一部と思われるものを見つけてね。ただ、情報の欠損が多くて確証には至らない…そこであの羽をもう2、3枚…あるいは欠損が少ない状態のものを手に入れて欲しい。」

 

「はい!」

 

 どちらにしてもリンドウの現状を知るのは大事な事だ。リンドウ生存の可能性を確定させるためにも羽を集める必要があるのなら集めるだけだ。

 

「では今後、情報にあった旧寺院の辺りを中心にリンドウ君の遺留物の捜索は特務として常時受けてもらう。」

 

「分かりました。」

 

「リンドウ君の遺留物探しは、彼の現状を知る上でも大きな意味がある。ユウキ君が感応現象で見たもの…それが全て真実ならば、リンドウ君は腕輪の制御を失って久しいはず。この状況は非常にマズイ。アラガミ化の進行がかなり進んでいるはずだ。完全にアラガミ化してしまう前に、対処法を確立させる必要がある。頼んだよ?」

 

 ユウキが体験した事がそのまま起こっているのなら、リンドウのアラガミ化は進行しているはず。どうにかアラガミ化を止めてリンドウを連れ帰らなければならない。

 

「それから、詳しい状況が分かっていない今、無用な混乱を避けるためにも…この特務、決して誰にも悟られないように…ね。」

 

「はい。」

 

 ペイラーが特務の秘匿性を念押しする。

 

「ユウキ、リンドウの事…頼んだぞ。」

 

「分かってます…絶対に…絶対に見つけてみせます…!!」

 

 ツバキがユウキにリンドウ捜索を任せる。そのユウキの目は強い意思を宿した鋭い目付きに変わっていた。

 

To be continued




後書き
 ゴッドイーターの能力を生かせば外部居住区の開拓とか割りと進むと思い、ユウちゃんにはゲート修復を手伝ってもらいました。
 それから、ようやくユウキ君が感応現象と羽を手がかりにリンドウさんを捜索し始めます。長かった…
 リンドウさんの手がかりを掴むきっかけの感応現象って原作ではレンと起こした見たいですけど、その辺の説明ってどうやってやったんでしょうかね?その辺が分からなくて無理矢理神機と感応現象を起こしたって事にしました。どうやってもレンの事を説明出来なかったorz

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。