GOD EATER ~The Broker~   作:魔狼の盾

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取り敢えず黙って土下座です_○/|


mission57 緩和

 -訓練室-

 

 シュン達と一悶着あった翌日、ユウキは訓練室で新人達の訓練を見ていた。現在、小型種5体を相手に連携の訓練をしている。しかし2、3体ならば取れる連携も、敵の数が多くなると再び自分の事で手一杯になるようだ。

 

「フェデリコ!守ってばかりじゃ敵は倒せないぞ!攻撃を受けきったら装甲は即収納して反撃!」

 

 何時までも装甲を収納しないフェデリコにすぐに反撃するように指示を出しして、今度はアネットの方を見る。

 

「アネット!カウンターを狙うなら1度装甲で受けるんだ!そのハンマーじゃカウンターの前に殺られるぞ!」

 

 相変わらず攻撃しかしないアネットにはカウンターの際に装甲を使うように指示する。

 

「ユーリ!常にベストで最適な支援をする必要はない!それで長考するくらいなら直感で支援するんだ!」

 

 アネットとフェデリコのどちらを支援すべきかを考えているユーリには迷うならば誰を支援するか決めておけとアドバイスをする。

 

(この3人…全員の戦い方が合わさればかなり理想的な動きになるんだけどなあ…)

 

 敵の数が少ないとそれなりの連携が取れる様になったが、敵が多くなると相変わらず悪い意味で癖のある戦い方をするようだ。『アラガミ動物園』とも言われている極東の地で5体程度を捌けないのは些か不安が残るが、こればっかりは慣れて貰うしかない。そうこうしているうちに3人はアラガミを倒し終わり、訓練が終わった事を報告する。

 

「よし、一旦休憩だ。」

 

 ユウキの声と共にホログラムは消え、新人達は1ヶ所に集まる。ユウキも管制室から出てきて3人の元に向かうと、『さてっ…と…』という声と共に今回の討伐訓練の反省会を始める。

 

「フェデリコの課題は神機の操作だね。ハッキリ言うと全てが遅い。」

 

「うっ!…はい…」

 

 何度も言われている事もあって、フェデリコも自分の戦い方については何処が悪いのかは分かっているようだ。そこを指摘されるとガックリと項垂れる。

 

「神機の操作は3本目の手やら足が生えた様な感覚って言うけど、それを掴むのは難しいのは分かる。でもアラガミはそんな事お構い無しさ。動作に一々モタついてるようじゃ的になる。それはそうとフェデリコ…」

 

「はい?何ですか?」

 

「神機の基本動作はオート化されているってのは知ってた?」

 

 ユウキ自身も最初の頃に使っていた機能である、神機の自動動作機能を使っているかをフェデリコに聞いてみると、フェデリコは何とも言えない不思議な表情になる。

 

「…え?!そうなんですか?!?」

 

 一瞬の間が空いて、フェデリコが驚きながら聞き直す。

 

「え?じゃあ今までどうやって操作してたの?」

 

「えっと、例えば装甲を展開するときは、アームを広げてから装甲を広げて、その後前に持ってくると言うイメージを作ってから動かしてますけど…もしかしてこんな事しなくても良かったんでしょうか?」

 

「あ、ああ…展開しろと念じれば後は神機が勝手に展開動作をやってくれる。」

 

 アネットが今まで神機の操作を尋ねると、イメージを作り、その動きを神機に伝えて動かしていたと言うのだ。それを聞いたユウキは驚いた表情のまま動作はオート化されていることを伝える。

 

(マ、マジで全動作をマニュアル操作してたのか…それはそれで凄いな…)

 

 ユウキも最初はオートで動作させていたが、結局その動作では無駄が多いため、マニュアル動作に切り替えた。しかしマニュアル動作が可能だと気が付くまでに時間がかかった事を考えれば、ある意味神機の扱いについては類稀な才能があるのかも知れない。

 

「本来フルマニュアル操作は神機の扱いに慣れてからやるものなんだ。まずはオートで神機の使い方をマスターしていくといい。」

 

「はい!」

 

 ともかくこれでフェデリコの神機操作の件は解決の糸口は見えた。今後は戦い慣れるまで神機はオートで動かしていくよう伝えると、ユウキはアネットの方を見る。

 

「アネットはまずバスターの特徴と立ち回りだ。バスターは重い分回避が疎かになりやすい。だから装甲の展開の指令が最優先になるようになっている。今の様にバスターでカウンターを狙うならを1度装甲で攻撃を受けてから反撃に出た方が良い。攻撃動作の間でもバスターなら装甲を展開出来る。相手の動きを読む事と反射神経を鍛える必要がある。この訓練は自分で効率の良いやり方を見つけて欲しい。」

 

「そんな機能が…分かりました!やってみます!」

 

 アネットは相変わらず攻撃一辺倒な戦い方のままだった。フェデリコが前に出て防御を担当している時は良いが、その守りがなくなるとダメージ覚悟で突っ込むのは正直止めさせたい。

 そこで装甲の展開を最優先とするバスターブレードの特性を利用して、装甲で相手の攻撃を防いでからのカウンター…所謂『パリィ』の要領で相手の攻撃を崩してからカウンターを決めるように指示する。

 

「ユーリは戦闘に出た際に長考してしまうのをクリア出来ればルーキー卒業ってところかな。さっきも言ったけど、何も完璧な支援をしなければいけないってことはないんだ。それを考えて動けないくらいなら攻撃を受けそうな人の支援に入るとか、自分の優先順位を決めておくと良い。長考もこれから経験を積めばなくなっていくだろうから、期待しているよ。」

 

「は、はい!!」

 

 単純に神機の特性への理解が甘い2人に対して、現状ユーリには長考以外には欠点らしい欠点は無い。後は経験さえ積めば勝手に上達していく域にまで達している。第四部隊で実際に援護をしている様なのでその欠点の克服も時間の問題だろう。

 少なくとも悪い評価はされていないと安堵していると、突然支部内に警報が鳴り響く。

 

『緊急連絡!!エリアS35にアラガミが出現しました!!出撃可能な神機使いはただちに出撃してください!!繰り返します!!S35にてアラガミが出現!!神機使いはただちに出撃してください!!』

 

「せ、先輩…!!」

 

 緊急事態にアネットが不安そうな声になるが、ユウキは放送聞くなりすぐに走り出した。

 

「皆は一旦待機!!追って連絡する!!」

 

 新人達に指示を出しながらエントランスに向かう。その途中でユウキの端末に通話が入った。

 

『神裂!!今何処だ?!』

 

「新人の訓練を打ち切ってヒバリさんの元に!!」

 

 訓練室を出た廊下を走りながら電話に出る。声の主はツバキのようだ。

 

『分かった!!新人は出せるのか?!』

 

「はい!!俺が連れていきます!!」

 

『よし!!ならそちらは任せるぞ!!』

 

「了解!!」

 

 新人達を連れていく事をツバキに伝えるとユウキは端末の通話を切る。そのままエントランスに入ると上階から飛び降りてカウンターの前に着地する。

 

「ヒバリさん(ちゃん)!!状況は?!」

 

 ちょうどタツミも来たようだ。ユウキと同時に状況を確認する。

 

「現状数は多くはありませんが、大型種が多いです!!反応は28!!そのうち大型以外は10です!!ゲート修復中のところを突破されたようで、更なる増援も予測されます!!」

 

 ヒバリから大まかな情報を仕入れて、ユウキは部隊員の配置を決めて即出撃に準備に入る。

 

「分かりました!!新人は俺が連れていきます!!第一部隊は俺を抜いたメンバーで構成してください!!」

 

「はい!!」

 

「なら民間人の誘導と護衛は第二部隊と第三部隊で受け持つ!!今哨戒任務に出てる第五部隊が足止めしてる!!可能な限り最前線でアラガミを仕留めてくれ!!」

 

「了解!!」

 

 タツミと部隊配置を簡単に決め、ユウキは神機を受け取りに神機保管庫に向かいつつアネットに連絡を入れる。

 

「聞こえるか?!今すぐに出撃だ!!場所はS35!!ゲート修復中に突破された!!このままにしておくとアラガミが入り放題だ!!今すぐに迎え!!現地集合だ!!」

 

『は、はい!!』

 

 少し緊張した声色で返事が帰ってきた。だが新人だから連れていかないと言うことは出来ない。ここはどうにかしてプレッシャーに打ち勝ってもらうしかないと考えながら、ユウキはS35に向かって走った。

 

 -外部居住区『S35』-

 

 新人達よりも一足先に到着したユウキの目には戦闘中第五部隊が映る。どうやら大型種を捌ききれずに、ゲート区画をかなり手酷くやられたようだ。

 

「加勢します!!皆さんは民間人の避難を!!」

 

 偵察任務を主とする第五部隊ではこの数を相手に防衛戦は難しかったのか、ユウキが来た時には負傷者多数で民間人はパニックになり好き放題に逃げ回っていた。

 とにかく民間人の誘導と避難が先だ。ユウキ自身、避難誘導よりも戦闘能力の方が遥かに高い事もあり、前線を受け持つと提案する。

 

「わ、分かりました!!」

 

「何言ってやがる!!何で後から来たクソ野郎に従わなきゃなんねえんだよ!!」

 

「そんな事言ってもこの数を僕らで相手にするのは無理ですよ!!」

 

「チッ!!」

 

 実際第五部隊の1人が言った通り、既にいくつも施設が破壊されて、負傷した民間人が多数いる現状を見ると彼らの手に負えない状況なのは間違いない。

 ユウキは舌打ちすると自分が避難誘導をした方が早いと考え、走り回る民間人の方に向かうと、ちょうど第二部隊と第三部隊、そしてフェデリコとユーリがやって来た。

 

「すいません、遅くなりました!!」

 

「アネットは?!」

 

「少し遅れてます!!予測では30秒です!!」

 

 やはり重量級の装備をしたアネットは機動力が落ちているようだ。今回のような緊急時では何かしらの対策もしなければならないだろうと考えながら、ユウキは前線のアラガミに向きを変える。

 

「避難と防衛は俺たちがやる!!お前は前線に出るんだ!!」

 

「はい!!」

 

 第二、第三部隊が避難させる事を確認すると、ユウキはフェデリコ、ユーリと共に前線に出る。

 

「まず第五部隊の討ち漏らしを処理しつつ前線に出る!!小型種は任せたぞ!!」

 

「「はい!!」」

 

 指示を出しながらユウキは前線を突破した大型種並びに中型種、フェデリコとユーリは小型種の掃討に向かった。

 

 -新人said-

 

 後衛まで入り込んだアラガミは防衛班に任せて、ユウキは第五部隊が討ち漏らしたアラガミを倒すために新人達と中衛に入る。

 

「そっちのザイゴートは任せる!!何かあれば呼べ!!」

 

「「はい!!」」

 

 ユウキは指示を出すと後衛に向かうヴァジュラ3体を追う。そしてそれを追走するザイゴートの方にフェデリコとユーリが向かう。

 ザイゴートがユウキの存在に気が付くが、ユーリが銃形態で射つとザイゴートは2人に意識を向ける。その結果、ユウキは先行していたヴァジュラ3体と交戦し、剣形態に変形したユーリとフェデリコがザイゴートと交戦する。

 

「フェデリコ!前に!」

 

「分かった!!」

 

 フェデリコはユーリの指示でザイゴートの前に出ると、浮遊しながら突撃してきたザイゴートを装甲で受け止める。するとザイゴートは体勢を崩し、ユーリがフェデリコの後ろから飛び出して上から神機を振り下ろす。ユーリはこの一撃でザイゴートを倒したと思いそのままザイゴートから距離を取ったが、実際には地面に叩き付けられはしたがまだ生きている。フェデリコもその事に気が付いて追撃する。

 

(装甲仕舞わないと…確か念じるだけでいいんだよな?)

 

 訓練の時に言われた事を思い出しながら神機を振り上げると『戻れ』と念じる。

 

  『ガシャン!!』

 

(何時もより速い、行ける!!)

 

 念じると同時に神機の装甲は閉じ、攻撃が可能になる。再び浮き上がり始めたザイゴートの脳天に勢い良く神機を振り下ろす。

 

「でやぁ!!」

 

 掛け声と共にフェデリコがザイゴートを真っ二つにする。するとその声を聞き付けたオウガテイル堕天種が後衛から2人の方に戻ってきた。

 

「また前に!もう1度受けて!」

 

「了解!!」

 

 ユーリの合図で再びフェデリコが前に出てオウガテイル堕天種が噛みついて来たのでそれを受け止め、体勢を崩させる。

 それを見たユーリは先程とは違い、銃形態に変形して辺りの状況を軽く確認する。

 

(少ないけど小型種は確実に流れてきてる…1体ずつ確実に仕留める。)

 

 目の前に敵が居るにも関わらず暢気に状況を確認するユーリは微かに笑っていた。

 

「やぁあ!!」

 

 何故ならオウガテイル堕天種の後ろには攻撃体勢に入っていたアネットが居たからだ。後ろからの襲撃にオウガテイル堕天種は気を取られて隙ができる。その間にアネットが渾身の一撃を叩き込み、オウガテイル堕天種をペシャンコに潰した。

 

「よし!これで揃った!幸い小型種は少ない!冷静にいつもの動きで確実に仕留めよう!」

 

「了解!!」

 

 最も行動を共にした3人が揃うとユーリの指示で地面から現れたコクーンメイデンに向かう。何時ものようにフェデリコがコクーンメイデンの砲撃を装甲で受けると、後ろからアネットが飛び出す。

 しかしアネットが攻撃するよりも先にヴァジュラテイルが横から飛び出す。

 

「アネット!!」

 

 ユーリがアネットの変わりにコクーンメイデンを撃ち抜いて倒し、アネットはヴァジュラテイルを倒しに行く。ヴァジュラテイルが尻尾を振り回すがアネットは何時ものように突っ込む。

 

(訓練でも言われた…装甲で…受けてから!!)

 

 訓練で言われた事を思い出しながらヴァジュラテイルの尻尾の軌道を見極める。

 

(来る!!)

 

 ヴァジュラテイルの尻尾が当たる直前に装甲を展開して攻撃を防ぐと、ヴァジュラテイルが体勢を崩して倒れる。

 

「たぁあ!!」

 

 隙が出来たヴァジュラテイルにアネットが神機を振り下ろして叩き潰す。

 

「よし!次に行こう!!」

 

 ユーリの合図で3人は前線に向かう。すると、何処からか受け渡し弾が飛んできて3人がバーストする。後ろを向くとヴァジュラ3体を葬り、さらには追加でクアドリガとその堕天種を相手にしつつ銃口を3人に向けるユウキが居た。

 

「急ごう!!バーストが解除されるまでにできるだけ多くのアラガミを倒すんだ!!」

 

「「了解!!」」

 

 -ユウキsaid-

 

 新人達に受け渡し弾を渡した後、四方から飛んで来るミサイルを躱しながら強化した『護人刀・改』が装備された剣形態に変形する。

 

(少し…キツいか?)

 

 しかしユウキは内心焦りを見せていた。居住区にミサイルが向かわないように寸での所で避けた時、着弾した際の爆風で足を取られたり、体勢を崩したりと不利な状況になる事があったので、少し表情が険しいままミサイルを踏み台にしてクアドリガの顔面まで飛び上がる。

 

(けど…)

 

  『バァン!!』

 

 神機をクアドリガの頭に持っていくと、インパルス・エッジを発射して顔面を破壊する 。そしてその衝撃でユウキ自身も後ろのクアドリガ堕天種に向かって飛んでいく。

 

(このくらいならどうにでもなる!!)

 

 クアドリガ堕天種と向き合う状態になるとユウキは神機を下から全力で振り上げる。

 

「ぜぁ!!」

 

 振り上げた勢いでクアドリガ堕天種の顔面が割れ、ユウキは勢い良く下に着地する。しかし着地の隙を突いてクアドリガが踏み潰そうと迫ってくる。

 

「チィッ!!」

 

 ユウキは舌打ちしつつもクアドリガの腹下を潜り抜けようとして足に力を込める。

 

  『パンッ!!』

 

 小気味良い音と共にクアドリガの後ろか飛んできた光弾がクアドリガの首もとを貫いて怯ませる。

 何があったのかと一瞬呆けていると、今度はユウキの後ろのクアドリガ堕天種が突然複数の爆発に巻き込まれて動きが止まる。

 

「お待たせ!!」

 

「ここは俺たちが引き継ぐよ!!」

 

 声がする方を向くと、第一部隊が来ていた。さっきの銃撃はサクヤとコウタのものだろう。銃口がそれぞれの標的に向いている。

 そしてソーマがクアドリガ、アリサがクアドリガ堕天種に斬り込んでいく。

 

「お前はさっさとルーキーのところに行け。どうせ気になってんだろ?」

 

「ユウ!!速く!!」

 

 第一部隊が2体のクアドリガを圧倒し、ユウキが前線に行くまでの道ができる。

 

「ああ!!頼んだぞ!!」

 

 仲間の援護を受けて新人達の元に向かう。途中でボルグ・カムランが妨害してきたが、突き刺してきた針をジャンプで避けると、そのまま尻尾の上を走り抜ける。そして飛び下りる際に尻尾を根元から切り落とすと、振り向きながら銃形態に変形して強化した『ガストラフェテス新』から動かない光球を3つ連続で発射する。

 すると、それぞれの光球から1秒以内に計4発の狙撃弾が発射される。切り落とされて守りを失ったボルグ・カムランの尻尾の付け根に、短い時間の間に発射された計12発の狙撃弾が連なり直撃する。

 すると狙撃弾はボルグ・カムランの体内を削りつつ穿孔する。そして最後の1発がコアに届いて貫いた。コアが破壊されたことでボルグ・カムランは活動を停止した。

 ボルグ・カムランを倒した事を確認して、ユウキは新人達の元に向かうと、アネット達は3体のザイゴート堕天種をそれぞれ相手にしていた。

 

「装甲展開しろ!!動くなよ!!」

 

 合図を聞くと3人は動きを止めて装甲を展開する。ユウキはジャンプしつつ展開された装甲の縁に足をかける。

 

「ラァ!!」

 

 展開された装甲から装甲へ飛び移り、瞬く間に3人の近くにいるザイゴートを蹴散らしていく。

 

「今ので片付いたな?!前線に出るぞ!!」

 

 ユウキが周囲の状況を確認して新人達に指示を出すが…

 

  『グォォォオオ!!』

 

「チッ!!新手かよ!!」

 

 突然何体ものアラガミの雄叫びがゲートから聞こえてきた。その方向を見ると、コンゴウとその堕天種、さらには禁忌種まで入り込んできた。

 

「馬鹿野郎!!何処行く気だブレ公!!」

 

 ユウキがコンゴウの気を引こうと向かいつつ、新人達に指示を出そうとすると、突然タツミの怒鳴り声が響いた。

 

 -第二部隊said-

 

 時は防衛班がユウキと別れたところまで遡る。タツミは現状の確認のために全員に聞こえるようにヒバリへ連絡を入れる。

 

「ヒバリちゃん!!避難状況は?!」

 

『自主避難により3番、5番、6番シェルターが使用出来なくなってます。残りのシェルターの中でも7番はほぼ未使用にとなってます。』

 

「了解!!」

 

「第二部隊で民間人を避難させる!!第三部隊で前線シェルターを防衛してくれ!!」

 

「了解。ならシュンが5番、カレルが6番、私が7番に向かうわ。」

 

 ジーナが配置を決めると第三部隊はそれぞれ前線付近にあるシェルターの防衛に向かう。そして第二部隊は空いているシェルターに民間人を避難させ始める。

 ユウキ達が中衛のアラガミを引き付けて倒していることもあり、滞りなく第三部隊がアラガミを倒しながら、第二部隊が民間人を避難させていく。

 

「ブレンダン!!7番シェルターが埋まったぞ!!」

 

「分かった!!」

 

 避難先だった7番シェルターが埋まり、今度は別のシェルターに誘導しなければならなくなった。タツミは少し離れてはいるものの、空いているシェルターで最も近い場所にある4番シェルターに誘導するつもりだったが、ブレンダンは単純に距離が近い3番に民間人を誘導し始める。

 

「馬鹿野郎!!何処行く気だブレ公!!」

 

 明後日の方向に誘導を始めるブレンダンを見てタツミが怒鳴る。

 

「3番シェルターまでは自主避難で埋まっちまったって言ってただろ!!話を聞いてなかったのか!?」

 

「す、すまない…すぐに4番まで誘導する!」

 

 ヒバリからの通信で3番シェルターは使えない事は全員に通達されていたはずだ。それでも尚こんな初歩的なミスをする辺り、任務に集中出来ていないようだ。

 

「カノン!!いつまで誘導してやがる!!アラガミがすぐそこまで来てるぞ!!」

 

「え?!す、すぐに迎撃します!!」

 

 いくら第一部隊とユウキ+新人達のチームが前から来るアラガミを倒しているとは言え全く流れて来ない訳でもない。

 そんな状態でカノンも任務に集中してないのか、近くまで小型種が近づいているにもかかわらず、迎撃に行かないなど凡ミスが目立つ。

 そのまま一旦避難誘導を終えたタツミがカノンのフォローに入り、民間人に近付くアラガミを葬っていった。

 

 -第三部隊said-

 

 タツミが怒鳴っていた頃、ジーナは7番シェルターに近付くアラガミを撃ち抜いていた。

 

「第一部隊総出でも捌ききれないなんてね…その分射てるから良いけど…」

 

 そう呟きながらもジーナは流れてきたヴァジュラを撃ち抜く。実際、ユウキ達が来る間にもアラガミが侵入し、ヒバリから聞いていた数よりも多くのアラガミが居住区に流れてきていたので、前衛と中衛だけでは捌ききれなくなっていたのだ。

 

(それにしてもこの数…あの子達は大丈夫かしら…?)

 

 ジーナはヴァジュラの口内に狙撃弾を撃ち込み、体の内側に直接攻撃してコアを破壊した。

 

「クソッ!!数が多い!!英雄様達は何やってんだよ!!」

 

 その頃カレルは6番シェルターに迫ってきた小型種のアラガミを撃って蹴散らしていた。

 

「アーク計画が成功していればこんな面倒な事にならなかったのに…とんだ偽善者様だな!!」

 

 アーク計画が失敗しなければこんな事にならなかったのにと愚痴りながらカレルは別のアラガミを撃ち抜いた。

 

「クソッ!!全然数が減らねえ!!どうなってんだ?!」

 

 5番シェルターを守るシュンもジーナ、カレルと同じように近付く小型種のアラガミを斬り倒していた。

 

「チッ!!アイツら、面倒事ばかり増やしやがって!!」

 

 シュンもまたアーク計画を潰した第一部隊に悪態をつきながら迫ってくるアラガミを斬り倒し続けた。

 

 -ユウキsaid-

 

 中型種と小型種が破壊されたゲートから入り込み、真っ先に第五部隊とユウキ、新人達を狙いにきた。

 

「クソッ!!こんな時に増援か!!3人は今まで通り小型種を掃討にしろ!!」

 

「「「はい!!」」」

 

 ユウキ自身も可能な限り新人達から離れないように位置取りに気を付けながらコンゴウとの戦闘に入る。

 視界の端にオウガテイル2体を相手にしている新人達を捉えながら、ユウキはコンゴウ3体の集団に突っ込む。正面のコンゴウが腕を振り上げて迎撃の体勢を取る。

 その下を潜り、神機を上に振り上げてコンゴウの腕を切り落とす。するとユウキの足元から風が吹いてきたので反射的に跳び上がると、地面で空気が爆発した。

 ユウキは空気砲を避けると、目の前のコンゴウの顔面を蹴って後ろに跳びつつ後ろに向きを変える。空気砲を撃ったコンゴウの 目の前に来ると、幹竹割りの要領で力任せに神機を振り下ろす。するとコンゴウはコアごと2つに割け、そのままユウキの踏み台になる。

 ユウキがコンゴウを足場に上に跳ぶと、銃形態に変形して右斜め後ろに居るコンゴウの胸部を撃ち抜く。そこにコアがあったのか、コンゴウは力なく崩れ落ちた。そしてユウキは最後に穿顎を展開して、最初に腕を切り落としたコンゴウの首元を喰い千切りバーストして倒す。だが、そこからすぐにコンゴウとその堕天種、さらには禁忌種が2体現れた。

 コンゴウが体を丸めて体当たりしてくるのを右に避けると神機を握り反撃に出る。しかし、その後ろのハガンコンゴウが雷球を飛ばしてくる体勢になっていたのが見えたので、そのままもう1度右に避ける。

 

「クッ!!」

 

 しかし、今度は離れたところで体勢を崩し、コンゴウの攻撃を受けそうになっている第五部隊の隊員が目に入る。ユウキは銃形態に変形すると、右に倒れ込む様な体勢で離れたコンゴウを撃つ。命中こそしたものの、致命傷にはならず今度はユウキを狙って移動を始める。

 しかし今度はコンゴウ堕天種が雪玉を発射してきた。ユウキは神機を左手に持ち右手で勢い良く地面を叩くと、体が宙に浮いて雪玉を躱す。

 

「キャア!!」

 

「アネット!!」

 

 声を辿ると、次はコンゴウ4体に囲まれた新人達、しかもコンゴウの攻撃をもろに受けたアネットが飛び上がった先で視界に入る。

 

「チィッ!!」

 

 ユウキは空中で狙撃弾を4発撃つ。全て命中するも、今回も致命傷となる事はなく、4体中3体のコンゴウがユウキを狙いに来る結果となった。

 

(クソッ!!数が多い!!捌ききれるか?!)

 

 ハガンコンゴウが上から雷を落としてきたので、装甲を展開して神機を上に構えて防ぎながらもユウキは不安を覚える。

 というのも、単純に多数のアラガミを相手にするのならこの程度の数を相手にする事は造作もない。しかし今回は敵に狙われる仲間への支援も必要な他、施設や民間人への被害が出ないようにしなければならない。自由に戦える討伐戦とは違い『何か』を守りながら戦う状況で、ユウキはあらゆるものに注意を払い、結果的に注意力が散漫になっていた。

 そんな自身の状況を理解しつつ、落雷を防いで地面に勢い良く着地する。そこを狙ってきたコンゴウとその堕天種が両サイドから殴りかかってきたので、ユウキは回転切りを繰り出して両サイドのコンゴウを切り捨てる。

 

(しまった!!別動隊が流れてる?!)

 

 しかし、切り捨てたコンゴウの胴体の隙間から、居住区に向かっていくコンゴウの一団が見えた。急いで後を追うため、通り道のコンゴウを両断するも、他のコンゴウ種の空気砲や落雷に阻まれて、結局追うことが出来なかった。

 

『おい!!どうなってんだよ!!アラガミが減るどころか増えてんじゃねえか?!』

 

『英雄様達は仕事サボってるのか?!余計な仕事増やすなよ!!』

 

 第一部隊が交戦するが、そこからも漏れたアラガミ達がシェルターに侵攻する。それらを追加で迎撃する事になったシュンとカレルが通信でユウキと第一部隊に文句を言う。

 

『こっちだって手一杯なんだよ!!前線と俺達で何体倒したと思ってんだよ!!』

 

 余程余裕が無いのか、少し煽られただけでコウタが珍しく怒鳴る。だが、実際にここまで大半のアラガミを倒して来たのは前線に出ているユウキと中衛の第一部隊である事も事実だ。その事からコウタの怒りはさらに増長した。

 

『こ、こちら第五部隊!!神裂さん!!助けて下さい!!』

 

『勝手な事言ってんじゃねえ!!あんなガキ1人来て何が出来るってんだ!!』

 

 今度は前衛の第五部隊から助力を求める通信が入るが、別の隊員がそれを聞くと叱責する。

 アーク計画の件で神機使い達の足並みが乱れているとは言え、ここまで酷いものだとはユウキ自身も思っていなかった。

 このままでは不味い。そう考えると同時に、ユウキの想うゴッドイーターの姿からあまりにもかけ離れた彼らの身勝手な言い分を聞き続けた事で、ユウキの中で『何か』がキレた

 

「いい加減にしやがれぇぇぇぇええええええ!!!!」

 

 ビリビリと空気が震えるほどの大きな声量でユウキが叫ぶ。それに反応して神機使いだけでなくアラガミもユウキの方に気を取られる。

 

「ゴチャゴチャ喚くんじゃねえ!!!!俺達は護る側であって護られる側じゃねぇ!!!!てめえらはここに来てまで何やってんだ!!!!」

 

 アラガミが呆けてる隙に弐式をクイック捕食で発動させ、正面のコンゴウを頭から喰い千切りバーストすると、再び回転切りでコンゴウとハガンコンゴウを2体同時に切り裂く。

 

「お前達は人々の剣となり、盾となるゴッドイーターじゃないのか?!それともその赤い腕輪は飾りか?!その神機は玩具か?!ほんの少しでも他人のためには戦う気にはなれないのか?!!?」

 

 ユウキの反撃を目の当たりにしたハガンコンゴウがユウキの後ろから雷球を放つ。しかし雷特有のバチバチと放電する音を聞いて、後ろを振り返る事なく右に避けると、銃形態に変形して爆破弾を撃ち込み、雷球を放ったハガンコンゴウの体勢を崩す。

 

「ならお前達が戦う理由は何だ!!!?金のためか?!アラガミに…理不尽な世界抗うためか?!?!それとも大切な人を護るためか?!!!どんな理由だって良い!!!!その戦いの中で助かる人が…俺たちが助ける事の出来る人は大勢居るんだ!!!!」

 

 ハガンコンゴウが体勢を崩した隙に正面のコンゴウを切り捨てると、その堕天種が雪玉を飛ばしてくる。それを体勢を崩したハガンコンゴウの方に跳ぶ事で回避すると、そのままハガンコンゴウを頭から両断する。

 

「自分のために戦うだけで、結果的に助かる人が居る!!!!その事に誇りは持てないのか?!?!」

 

 今度は両サイドの上からコンゴウが攻めてきた。ユウキはジャンプすると僅かに早く接触する左側のコンゴウに剣形態のまま銃口を向ける。

 

「誇りが残ってるなら刃を振るえ!!!!誇りを失ったならすぐにこの場から立ち去れ!!!!居ても邪魔だ!!!!今すぐ失せろ!!!!」

 

 左から攻めてきたコンゴウにインパルス・エッジをお見舞いすると、コンゴウが顔面ごと吹き飛んで離れていく。ユウキはインパルス・エッジの爆破の勢いで回転して右から来たコンゴウを切り捨てる。

 

「それも納得出来ないなら…この戦いが終わった時、その蟠りを全部俺にぶつけに来い!!!!俺が…全部受け止めるてやる!!!!」

 

 さっき雪玉を放ったコンゴウ堕天種が体を丸めて突進してくる。それに対抗してユウキも体勢を変えて体を回転させて下から掬い上げる様に神機を振り上げる。

 

「誰1人と死なせるな!!!!必ず!!全員で生き残れぇぇぇぇええええええ!!!!」

 

 着地と同時にユウキが叫びながら正面に一気に跳び、殴りかかるハガンコンゴウが殴りかかるよりも先に両断する。

 そして戦闘領域内のアラガミの大半のが声の主に引き寄せられる。しかしその場に留まり、居住区を荒らすアラガミもまた残っている。

 

「急げハヤト!!もう少しだ!!」

 

「待ってよお父さん!!」

 

 そんな中、1組の親子が5番シェルターに走って近づいて来た。

 

「いった!!」

 

「ハヤト!!」

 

 だがシェルターに向かう途中で子どもが転び、父親が助け起こしに戻る。

 

  『グオォォオ!!』

 

「くっ!!しっかり捕まってろよ!!」

 

 ユウキの声に振り向かず、その場に留まったコンゴウが親子を狙う。もう息子を走らせていてはどちらも助からない。父親が息子を抱えるとシェルターに向かって走り出す。

 

「お兄ちゃん!!助けて!!」

 

 逃げる途中でハヤトの目にシュンが映り、助けを乞う。シュンも声をかけられその子どもが以前S35の防衛戦で助けた子だと気がついた。

 

(俺が…俺様が邪魔だと…?)

 

 ユウキの説教にも挑発にも似た叫びを聞いてから、シュンは腹立たしく思っていた。元々ユウキ自身も自尊心の強い連中を防衛に意識を向かわせるには挑発するのが手っ取り早いと思い、かなり強い言い方をしていたのだが、まさにその狙い通りにユウキの叫びの内容と自身の現状に腹を立てていた。

 

(ふざけんな…!!)

 

 シュンの神機を握る手に力を込める。

 

「うわあああ!!」

 

 走る父親にコンゴウが迫り、2人を叩き潰そうと右手を振り上げる。それが見えたハヤトは父親の腕に抱かれながら叫び声を上げる。

 

  『ザシュッ!!』

 

 短く小気味の良い音と共にコンゴウの右腕が切り落とされる。

 

「ったくお前ら…俺様が居ないと何にも出来ねえな!!」

 

 いつの間にシュンが親子とコンゴウの間に立ちはだかる。腕を切られたコンゴウは呆けてるのか、動きが一瞬止まる。

 

「くらえ!!」

 

 開いている横腹から横一線に神機を振る。すると辺りどころが良かったのか綺麗に2つに裂けた。

 

「お、お兄ちゃん…」

 

「ったく!!早く行けよ!!シェルター埋まっちまってるけど…詰めりゃオッサンと子ども位なら入れるだろ。」

 

「ありがとうございます!!」

 

「ありがとー!!お兄ちゃーん!!」

 

 助かったことを自覚すると、親子はシュンに礼を言うと急いでシェルターに向かう。辺りにアラガミが居ない事を確認し終わる頃に親子がシェルターに入るのが見えた。

 

(けっ!!好き勝手に言いやがって!!これが終わったらぜってーぶん殴ってやる!!)

 

 密かな決意を胸に、シュンは再び流れて来たコンゴウに向かっていった。

 

「らしくねえな…」

 

 カレルも同じく、ユウキの声に興味を示さずに向かってくるコンゴウを眺めながら静かに呟いていた。

 

(金のため…そうだな、もうあんな思いはしたくなくて金を稼いでいたんだったな…)

 

 ユウキの叫びを聞いてから、カレルも自身が神機使いをする理由をハッキリと思い出した。そして神機を握り直し、銃口を向ける。

 

(感傷的になるなんてな…本当にらしくない。)

 

 自身の苦い経験を思い出し、金を稼ぐために戦うという理由を見失っていた自分がらしくないと内心鼻で笑う。

 コンゴウがカレルが守る6番シェルターに近づいて来た。カレルは神機に雷属性の銃弾を装填し、コンゴウに真正面から銃弾の雨を浴びせて少しずつコンゴウの体を削り取っていく。

 

「確かに稼ごうと思えばこの世界の方が良いか。」

 

 『新しい世界で稼げる保証もないしな。』と呟くとコンゴウは苦手な雷属性の攻撃を受け続けたせいか、怯み続けたコンゴウは何も出来ず倒されてしまった。

 

「おおおおおおお!!!!」

 

 ユウキが雄叫びと共にハガンコンゴウの落雷を避けながら一気に近づく。眼前にハガンコンゴウを捉えた瞬間、横凪ぎに神機を振るいハガンコンゴウを両断した。

 

「ハァ…ハァ…終わっ…た…」

 

 ユウキは疲労感からその場に座り込み、端末を取り出して各部隊の状況を確認する。

 

「こちら神裂…状況は?」

 

『こちら第一部隊、中衛はクリア。周囲にアラガミの気配は無いわ。』

 

『こちら第二部隊。その…色々あったが施設や収用した民間人、それから神機使いも全員無事だ。』

 

『…第五部隊だ…全員生きてる。周囲にアラガミも居ない。』

 

『こちら第三部隊、アラガミは全て駆逐したわ。全員生きてる。あとうちの2人が…まあその辺は良いかしら?』

 

 何にしても全員侵入したアラガミ全てを駆逐出来たようだ。今回は外部居住区のゲート修理中にアラガミが接近したこともあり、住民がいち早くアラガミの接近に気付けたため、かなり早い段階で避難が開始された。しかし誘導する人間が居なかったためパニックになり、避難民どうしによる負傷者は居るものの、アラガミに殺された人は奇跡的に居なかった。その結果に安堵しているとユウキはふと周囲に目を向ける。

 

「…にしても…よくこれだけのアラガミを倒したよな…」

 

 ユウキの周辺にはまだ霧散してないアラガミの死体がそこら中に散らばっていた。よくこれだけの数を相手に全員居住区とそこに住む人たちを守りながら生き残れたなと内心驚いていた。

 そして破壊された施設の数々も同時に目に入る。ここの住人達はこのあとこここの修理や保全を行うのだろうが、その間もアラガミの脅威に晒され続けるのだろうと考えると、あることを思い付いた。

 

(そうだな…何も戦う事だけが人々の助けになる訳じゃない。ゴッドイーターであることを生かせばきっと…)

 

 今後どうするかを決めていると、ユウキに近づく人影があった。

 

「おい!神裂!」

 

 突然シュンの声に呼ばれ、そちらを向く。どうやらカレルも一緒のようだ。

 

「はい?何でしょ「バキィ!!」ヘブッ!!」

 

 ユウキは何の用かと思い返事をするが、それよりも先にシュンの拳がユウキの頬を捉える。

 

「え?!ちょっ!!なっ!?げふ!!」

 

 今度はカレルが反対の頬を殴る。何がなんだか分からぬままユウキは殴られた両頬を押さえる。

 

「お前言ったよな?人々を護る事に誇りを持てないなら邪魔だって…納得出来ないなら蟠りをぶつけてこいって。」

 

「いや…うん。言ったけど…流石に振り向き様に殴るのは止めて欲しかったです…」

 

「アーク計画を潰した事と俺達を邪魔者扱いした事に対する俺たちの苛立ちをぶつけさせて貰ったって訳だ。取り敢えず受け取っとけ。」

 

 どうやらユウキの挑発が余程頭に来た(?)ようだ。2人はユウキを殴ると、ここ最近見せなくなった非常にスッキリしたような表情になる。

 

「ま、これでアーク計画の件も俺たちをバカにした事も水に流してやるよ。俺達は邪魔者じゃねえ!これからしっかり見とけよ!!」

 

 捨て台詞を吐くとシュンとカレルは帰投準備に入る。

 

「神裂…」

 

「は、はい?」

 

 『あ、これはまた来るパターンだわ…』と思いながらユウキは声の主の方を見る。そこには今回共に戦った第五部隊のガタイの良い男が居た。

 

「これは俺の分だ。受け取れ。」

 

 言うや否やユウキの脳天に拳骨が飛んで来た。一瞬視界が白くなる程の威力で殴られ、ユウキは頭を押さえて踞る。

 

「俺は今でもアーク計画は間違ってないと思ってる。それを潰したお前達が間違ってると思う気持ちも残ってる…だが…」

 

 男は踵を返すと、独りで語りながらユウキから離れていく。

 

「お前は…俺の想像もつかないような覚悟を持ってアーク計画を止めた事は分かった。この1発でチャラにしてやる。」

 

 さっきよりも小さな聞こえるか聞こえないかの声でユウキに語りながらその場を去っていた。

 

「大丈夫ですか?神裂さん?ヤナギさん、腕力だけは凄いから…」

 

「誰が脳筋だバカ野郎!!適当な事言ってっと拳骨かますぞ!!」

 

 殴られた事を心配している線の細い男子がユウキと話していると、ヤナギと呼ばれた第五部隊のガタイの良い男は、ユウキに話しかけた男子を叱責する。

 

「そこまで言ってないですよヤナギさん!!」

 

「うっせえ!!さっさと帰るぞカオル!!」

 

 カオルと呼ばれた男子もその言葉に従いヤナギと帰投する。その様子を眺めていると、多少は周囲の関係が改善出来たのだろうかと思っていると、あることを思い出す。

 

(おっと!!そう言えば諸々の回収がまだだった。)

 

 アラガミ達を倒してから時間が経っている。早くしないと素材やコアを回収出来なくなる。急いで立ち上がり、1番最後に倒したハガンコンゴウに近づき捕食口を展開した時、ある事に気が付く。

 

(っ!!これは!!)

 

 戦闘中には気付かなかったが、そのハガンコンゴウには着けた覚えの無いズタズタに切り裂かれた様な傷痕が着いていた。丁度今アラガミが倒されていると言う事件と同じような傷の着き方だった。

 そして落ち着いて周りを見てみると、3体に1体程の割合で体に知らない傷痕が着いているアラガミが混ざっていた。

 どういう事かと思い、調べようとするがユウキが動き出すと同時に周囲のアラガミが全て霧散して消えてしまった。

 

(…手がかりなし…か…?)

 

 結局調べる間もなくアラガミ達は霧散した。連日の事件の事で何か分かるかも知れないと思った事もあり、内心落ち込んでいると、アラガミが居た所から『あるもの』が落ち着いていく事に気が付く。

 

(…何だ?これ?)

 

 そこに落ちていたのは黒い羽だった。しかもオラクル細胞に触れても捕食されない様な羽だ。

 

(普通の羽…じゃないよな?後で博士に渡してみるか?)

 

 ともかく何かの手がかりであることには間違いないだろう。この羽をペイラーに渡すと決めると、ユウキはその羽を太陽に翳す。するとその羽は光を吸い込んだかの様に、僅かな光をユウキに届ける。

 その仄暗い羽の光を奪う様子は、何かの希望と言う光を奪う未来を暗示しているかの様にも見え、ユウキは何処か焦燥感を覚えた。

 

To be continued




後書き
 ジャンピングスライディング土下座ぁぁぁあ!!この度は投稿が遅れて申し訳ありません!!更新を待ってくださる方(そんな人居るのかな?)には心よりお詫び申し上げます。言い訳させて頂きますと、普通にリアルの仕事がクソ付く程に忙しいかったもので小説を書く時間がなくなってしまったのです。さらにはセリフ周りの案が中々出てこなかったりと書き上げるだけでも非常に時間がかかってしまった事が原因です。今度は更新期間が空きそうな場合は何処かでお知らせするようにします。
 さて、小説の方はかなり急いで書き上げたのでもしかしたら話の流れが強引だったかも…と後から思いました。(いつか書き直すかも…)何だかユウちゃんの説得と言うか説教のやり方もこれで良いのか少し疑問に思います。まあ、何にしても明確に反発していた人達は勝手に納得して仲直り出来たと思って下さい。(丸投げご免なさいm(_ _)m)

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