GOD EATER ~The Broker~   作:魔狼の盾

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ユウちゃん弱体化!!



mission54 侵食

 -ラボラトリ-

 

「…ん?」

 

「やあ、目が覚めたかい?」

 

 ユウキが目を覚ますと、ペイラーが声をかける。その傍らには無言のままユウキを睨むツバキ、少し離れた所で顕微鏡を弄っていたルミコが居た。

 だがそれよりも病室のベッドの上ではなく診察台の様な場所で横になっていた事の方がユウキは気になっていた。

 

「…あれ?ここって、博士のラボ?医務室に居たはずなのに…?」

 

「起こすのも忍びなかったのでね、眠っているうちにルミコ君と運ばせてもらったよ…さて、君には大事な話がある。」

 

 どうやら眠っている間に運ばれたようだ。ユウキはゆっくりと起き上がるとペイラーへと視線を移す。

 

「結論から言おう…君はリンドウ君の神機を使い、アラガミを撃退した。その結果、君にはアラガミ化の兆候が見られる様になった。」

 

「ア、アラガミ…化…」

 

「適合してない神機を使うって言うのはそう言う事なんだよ。」

 

 ペイラーからの無慈悲な事実を突きつけられ、ユウキは愕然とする。そこにいつの間にかペイラーの横に移動してきたルミコが追い討ちをかける。

 

「そもそもアラガミ化とはどういう状態かと言うと、人の遺伝子情報が書き換えられ細胞が変異する事…要するにDNAが変化して人の細胞からオラクル細胞に突然変異するものと思っていい。」

 

「…」

 

 ペイラーの説明を聞いてもイマイチどう言う状況か理解出来ないが、人のDNAを失う事でアラガミ化するようだ。今こうしている間にも自身の身体でじわじわとアラガミ化が進行していると考えるとゾッとしてユウキは言葉を失った。

 

「では何故アラガミ化は起こるのか…現在判明している原因は3つだ。その内の1つは偏食因子の過剰投与、2つ目は逆で投与不足…そして3つ目はそのどちらでもない、適合していない神機の接続だ。」

 

「分かってると思うけど、偏食因子は細胞に取り込んだ際に一時的にオラクル細胞への捕食耐性を身に付けさせる…詳しい所は省くけど、人の遺伝子情報は細胞の核に入ってて、偏食因子を取り込むとそことは別にオラクル細胞の塩基配列の一部…つまり捕食耐性に関わる塩基配列を人の細胞に付け加える。けどそれも偏食因子の自壊で塩基配列は消滅するの。」

 

 ルミコが偏食因子は取り込む際の説明をする。どうやら、オラクル細胞の遺伝子情報の一部を植え付けるようだが、ユウキはその説明では1つの疑問を持った。

 

「このことから、神機使いは皆アラガミ化していると言ってもいい。ただし、限りなく人に近い状態に制御されたアラガミ化ではあるがね。」

 

「やっぱり…」

 

 ユウキの予想は当たっていたようだ。アラガミ化は人の遺伝子がオラクル細胞の遺伝子に書き換えられる事が原因だと言うのなら、捕食耐性のためオラクル細胞の遺伝子を一部植え付けられる事は制御を受けたアラガミ化をしていると言えるようだ。

 あくまで細胞の変異が起きない様に偏食因子を管理しているから、こうしてアラガミ化しないで今まで生きてこられたのだろう。

 

「では最初の2つのアラガミ化のケースなんだが、偏食因子を過剰に投与するとオラクル細胞の塩基配列による遺伝子の書き換えが進行する。結果、人のDNAを失い、体細胞はオラクル細胞に変化…アラガミ化すると言うわけさ。」

 

「な、なるほど…」

 

 ペイラーの説明で何とかイメージは作れたが、少し曖昧なのか自信がなさそうに返事をする。

 

「逆に投与不足の場合、捕食への耐性を失った細胞をまだ偏食因子の影響が残っている細胞が人の細胞を喰って、そこに弱体化したオラクル細胞が増殖するのさ。」

 

「こうなったらもう最後…後は耐性の無くなった細胞からオラクル細胞になっていく。そして捕食を繰り返して本物のオラクル細胞へと変異するのさ。」

 

「…」

 

 今度は恐ろしいイメージが浮かんだのか、少し青い顔をしながら黙ってしまった。

 

「そして最後…適合していない神機を使った場合だ。これは端的に言えば、人の身に2つのオラクル細胞を宿すと考えていい。」

 

「2つのオラクル細胞を宿す…?」

 

 適合していない神機を使うアラガミ化の事をペイラーから聞いたユウキは今までのアラガミ化とは毛色が違ったため思わず聞き返す。

 

「神機を使う時、腕輪を介して人と神機は繋がるでしょ?その時、神機は神機使いと直接的な意味でも繋がる。」

 

「えっと…どういう意味ですか?」

 

 確かにルミコの説明の通り、神機使いは神機を使用すると触手によって繋がるが、それが何なのか分からずユウキはい聞き返す。

 

「うーん…手と手が触れあうとかそんな感じじゃなくて、君の体から別の体が生えてきたって感じかな?分かる?」

 

「な、何となくは…」

 

 ユウキは神機を使う際、自分に第3の手や足が生えてくるイメージで神機を使っている。ルミコの言う通り、単純に触れると言った感じではないと言うことには納得していた。

 

「つまり、物理的に繋がりを持つことで、神機との間で細胞やらその他諸々のやり取りが行われているのさ。」

 

「っ!!」

 

 ここまで言われてようやくユウキにも合点がいった。緊張が走った様にユウキの目が見開かれる。

 

「察しがついたようだね。君に投与してる偏食因子は普段使っている神機『のみ』に対応している。そんな中に適合してないオラクル細胞を取り込んだりしたら…さてどうなるかな?」

 

「…互いの細胞が喰い合い暴走する…」

 

「そう…それが適合してない神機を使った場合のアラガミ化だ。」

 

「…」

 

 適合した神機のオラクル細胞では何ら人体に影響はない。だが、そこに適合していない神機のオラクル細胞を取り込むと、適合していない細胞が使用者本人を喰い荒し、それに抵抗して適合しているオラクル細胞や偏食因子を取り込んだ人体細胞が異常に活性化して、互いに捕食し合う。

 そして最終的には肉堺になるか、DNAを書き換えられてアラガミ化すると言う事だった。

 ユウキは後戻り出来なくなった事を察すると黙ってしまった。その様子を見たペイラーは立ち上がり、デスクの方に歩いていく。

 

「人の細胞を媒介にしたアラガミ化は非常に厄介でね…細胞単位のDNAの違いや健康状態…様々な要因から、全く予測のつかない変化をしたオラクル細胞を生成する…この事からも、アラガミ化の治療方法はまだ全く確立されていないと言っていい。」

 

 アラガミ化の説明をしながらペイラーはデスクの紙の山から1枚の書類を見つけると、今度は別の書類を探し始める。

 

「このまま行けば、ユウキ君…君は間違いなくアラガミ化する。」

 

「もう…アラガミ化は止められないんですか?」

 

「ああ…君の『アラガミ化』は止められない。たが…」

 

 最早アラガミ化を止める事は出来ない。無情な現実を突きつけたペイラーは目当ての書類を見つけたのか計2枚の書類を持ってユウキの元に戻っていく。

 

「現状では、君が生きてる間にアラガミ化する事は恐らくないと私達は診ている。」

 

 だが戻ってくる途中、ペイラーはここまでの話を覆す発言をした。アラガミ化は止められないと言ったのにアラガミ化しないと言われ、ユウキは混乱していた。

 

「え?どういう事ですか?」

 

「神裂君のアラガミ化の進行度合いを調べてみたんだけど、とても緩やかに進行しているの。」

 

「その結果と君の身体を調べたところ、ユウキ君は『抗体持ち』だと言うことが分かったんだ。」

 

「抗体持ち…ですか?」

 

 初めて聞く単語にユウキは首を傾げる。するとペイラーは持ってきた資料をユウキに手渡した。抗体持ちに関する資料とペイラー直筆のメモ書きだ。恐らくユウキのアラガミ化や抗体持ちかを調べた際のメモだろう。

 

「アラガミ化してもオラクル細胞への変化が現れにくい人の事を『抗体持ち』って言うのさ。一応細胞を調べれば分かるは分かるんだけど、抗体が作られるメカニズムや要因は不明…アレルギーの様な体質的なものなのかも知れないけれど、分かっている事はまだ少ないんだ。」

 

 ルミコが抗体持ちについて簡単に説明していく。さっき貰った資料を読みながら説明を聞いて、大まかには抗体持ちがどう言うものかは理解出来た。

 

「それから抗体持ちにも幾つかタイプがあってね。ユウキ君のようなアラガミ化の進行が極端に遅くなるものを『漏斗型』、一定のレベルまでならアラガミ化の症状を抑える事が出来るが、そのレベルを越えると一気にアラガミ化が進行する『防壁型』、そして…噂ではアラガミ化の進行と症状の一切を完全に抑える『完封型』と言うのも存在するらしい。これは事実上どんな偏食因子にも適合出来る事になるね。」

 

 ペイラーが抗体持ちの詳しい説明をしていく。ユウキは説明を聞きながら自分がどの型に当てはまるかを考えながらペイラーから説明された事を整理していく。

 

「なら…俺は『漏斗型』の抗体持ちだからアラガミ化の進行が遅くなってる…だから生きてる間にはアラガミ化はしないって事なんですよね?」

 

「かなり楽観的な見解だけどね。でもそれも何かの切っ掛けで進行が早まるとも限らない。油断は出来ない状況なのは変わりないよ。しばらくは任務の合間に検査を受けてもらうよ。」

 

「…分かりました。」

 

 取り敢えずはアラガミ化の心配は無いだろうが、危険な状態であることには変わらない。しばらくは経過観察とアラガミ化の進行への対策と治療のためにも、ラボラトリに顔を出さなければいけなくなった。

 

「さて、私達からの報告は以上だが…ツバキ君、何かあるかい?」

 

「…」

 

「ツ、ツバキさん…?」

 

 今まで沈黙を貫いていたツバキが、一言も発する事なく目元に影を作りながらユウキを睨む。まるで羅刹や阿修羅の様な迫力にユウキだけでなくルミコやペイラーも涙目になり怯えている。

 

「神裂…お前のしたことは重大な軍規違反だ。それは分かっているな?」

 

「はい!」

 

 『YES』以外の答えを許さない迫力で迫られて、ユウキは思わず勢いよく返事をする。ユウキ自身も他人の神機を使う事が軍規違反であることを理解しているので、これからツバキから言い渡されるであろう罰に大人しく従つもりだった。

 

「神裂…今日から1週間、懲罰房に入れ。それがお前への罰だ。」

 

「分かりました…」

 

 ユウキへの罰を伝えるとユウキもそれに従い、懲罰房に向かうつもりだったがツバキにか声をかけられて歩みを止める。

 

「…が、その前に仲間達に今回の件を報告しに行け。そこで仲間からも絞られると良い。報告をしてすぐに来い。」

 

「…はい…」

 

 それを聞いた瞬間、ユウキの目が死んだ魚の様な目になった。ついさっき仲間達に無茶はしないと言ったばかりだ。全員から袋叩きに合うのは想像するに容易い。特にアリサ…もとい亞莉裟には注意しなくてはならない。

 どんな目に合うかを想像した結果、ゲンナリしながらラボラトリを出ようとするが、今度はペイラーに呼び止められる。

 

「ああそれと最後に…悪い知らせだ。君と神機の適合率なんだが…約70%近くまで下がってしまった。君の身体に別のオラクル細胞と言う不純物が混ざったためだ。その結果、今までのように神機の力を引き出す事も、脳のリミッターをはずす事も出来なくなった可能性が高い。戦闘に出るときは気を付けてくれ。」

 

「…分かりました…」

 

 適合率が下がった…今までの様に戦う事が出来なくなったと言う事だ。さらに脳のリミッターを外すことが出来なくなった可能性が高いそうだ。ここからは特別な力は使えない。純粋な身体能力と培った経験で戦うしかなさそうだ。

 

「今回の事はハンニバルの対策を確立する事を優先し、支部の守りを崩してしまった私の判断ミスだ。本当に申し訳ない。」

 

「…構いませんよ。結果的には誰も死んでない。偶然でも抗体持ちのこの身体のお陰で助かったのなら、俺のアラガミ化なんて安いものですよ。」

 

 ペイラーが神機使いを総出撃させた事について謝罪されたが、ユウキは特に気にした様子もなくはラボラトリを出ていった。

 

「博士…」

 

「…」

 

(何をそんなに焦っているんだ…?それではまるで…)

 

 ペイラーを始めとした全員がユウキの態度から最悪の事態を想像する。そして自分のアラガミ化さえ軽く見ているユウキの様子にその場に居た全員が怪訝そうな顔でユウキが居た場所を見ていた。

 

 -エントランス-

 

「ユウ!!」

 

「お前…!もう動いて良いのか?!」

 

 ユウキは事後報告のため、第一部隊のメンバーを探してエントランスに移動した。すると、ユウキが来た事に気がついたサクヤとコウタがユウキに駆け寄る。その一連の流れを見てアリサとソーマもユウキに気がついた。

 

「う、うん…えっと、皆のところには何処まで話が伝わってるのかな?」

 

「ユウ…「お前が他人の神機を使ったってところまでだ…」…です。」

 

 コウタが事の詳細を何処まで聞いているのかを伝えようとするが、ソーマがそれを遮り話していく。だが、ソーマのあからさまに怒っている雰囲気にユウキはたじろいだ。

 

「わ、分かった。取り敢えず…緩やかにアラガミ化しているらしい。」

 

「そんなっ!!」

 

「マジかよ…」

 

「「…」」

 

 ユウキの口から自らがアラガミ化が進行していると語られると、第一部隊のメンバーは驚いたのあまり声を上げるか、言葉を失った。

 

「でも、今のとこは俺が生きている間にアラガミ化はしないらしい。抗体持ちって体質らしくて、そのお陰で普通の人よりもアラガミ化の進行がとても遅いみたいなんだ。」

 

 この一件でアラガミ化が進行こそしているが、抗体持ちであることを理由にアラガミ化の心配はないと、軽い感じで話していく。

 

「…で、軍規違反の罰でこれから1週間懲罰房に入る事になった。しばらくは部隊の事は任せるよ。」

 

「そう言う話じゃないでしょ!!ユウ…あんまり自分で自分を追い詰める様な真似はしないで!!そんなんじゃ命がいくつあっても足りないわよ!!」

 

「…お前、アリサにもう無茶はしないと言ったらしいな…で、その数時間後にはこれだ…何か言い訳はあるか?」

 

「…」

 

 サクヤがユウキを叱ると、今度はソーマが何時もより低く、怒りを孕んだ声で話ながらユウキを睨む。その迫力にユウキは何も言い返す事が出来ずに黙ってしまった。

 

「ユウ…」

 

 そんなユウキの沈黙に耐えかねたアリサがユウキに話しかける。

 

「今のユウは、何かに焦って無茶ばかりして…生き急いでる様に見えます…いつか本当に、取り返しのつかない事になりそうで…皆心配しているんです!!だから…もう本当にこんな事しないで下さい!!」

 

「だ…大丈夫だって!今回の事は抗体持ちってお陰で大した事無かったんだし!!」

 

 アリサが必死にユウキに無茶しないように言うが、それを分かっていないのか、相変わらず自身に降りかかっている事態を軽く見ているようだ。

 

「そう言う問題じゃねえ!!」

 

「お、落ち着きなよソーマ。きっと今までに散々怒られてきただろうし、もうこの辺で…」

 

「そ、そうして貰えるとありがたいかな?今回の件は俺の落ち度だけど、こうして何ともなかったんだし、心配する必要なんてないって!!AーHAッHAッHAッ!!」

 

 皆が心配だから怒っているのに、その事を理解しないユウキに業を煮やしたソーマが、何時かの喧嘩の様な剣幕でキレる。

 だが、コウタがここに来るまでに説教をされたはずだからとソーマに落ち着く様に言う。

 そんなコウタのフォローも虚しくユウキはエセの外国人の様な笑い方をして大丈夫とアピールする。ユウキはユウキなりに皆に心配をかけないようにと考えた行動だったが、この状況では心配してくれた仲間達をバカにしているようにしか見えず、フォローを入れたコウタも怒りを覚えた。

 

「おいユウ!!皆心配して言ってるのにその態度…」

 

  『バチンッ!!』

 

 思わずコウタも怒りから説教しようと思ったが、全て話す前に渇いた音がエントランス内に響いた事で止めてしまう。

 そしてその渇いた音と同時に、ユウキの視界は右を向き、左の頬から熱と痛みを覚えた。

 

「…いい加減にしてください…ユウに…もしもの事があったら、悲しむ人が大勢居るんです…私だって…そんなの絶対に嫌です!貴方の命は…貴方が好きに捨てられる程安くないんですよ!!」

 

「…あ…り…」

 

 痛む左の頬を押さえながら視線を戻すと、右手を振り抜いた様な体勢になっていた。恐らくさっきの痛みの原因はアリサのビンタだったのだろう。突然の事にユウキが呆けていると、アリサが涙を流しながらユウキを睨んでいた。

 そのままアリサは呆けているユウキに抱き付いて泣きながら心の内を話していく。

 

「…今のユウを見ていると…怖い…」

 

「ぇ…?」

 

「いつか…誰かを助けるためなら…自分の命さえ…簡単に投げ捨てそうで…いつか…私の前から居なくなりそうで…凄く…怖い…」

 

 目の前で仲間を泣かせた事で、ユウキは罪悪感を感じ少し冷静なった。そして同時にアリサは言いたい事を言って少し落ち着いたのか、今現在どんな状況なのかを理解し、羞恥から頭が真っ白になっていた。また、ユウキも今こうして抱き合っているのが公衆の面前だった事を思い出し、これまた羞恥から思考を停止していた。

 

「「…」」

 

「お、おーい…お2人さん?いつまで引っ付いてる気?見せつけてんの?」

 

 コウタが白い目で2人を見ながら話しかけるが、ユウキとアリサからは何の反応もなかった。

 

「…?」

 

「コイツら…2人揃ってパニクってフリーズしてやがる。」

 

 ソーマが2人の様子を見てため息をつくと、後ろからヒールの音が聞こえてきた。

 

「…いつまでそうしている気だ?」

 

「「「「ツバキ(さん)?!」」」」

 

 突然ツバキが現れた事でフリーズしていたユウキとアリサを含めた全員が後ろのツバキをの方を向く。

 

「…いつまで経っても来ないから何かあったのかと思えば…報告だけして来いと言ったはずだが?」

 

「あ…えっと…」

 

 ツバキの視線からは普通とは違う、何かおぞましい怒りを感じて、ユウキは完全にビビっていた。

 

「…まあいい。さっさと来い。私も暇ではないのだ。」

 

「は、はい…」

 

 そのままユウキはツバキと一緒に懲罰房に向かった。結局ツバキの機嫌は最後まで良くなる事がなく、ユウキは半泣きで懲罰房に入った。

 

 -懲罰房-

 

 懲罰房に入った後、ベッドに腰掛けながらしばらく今回の事を考えていた。

 

(分からない…確かにリンドウさんの神機を…適合してない神機を使ってアラガミを倒した…)

 

 何も無い空間で今回の事を思い出していた。

 

(その結果、俺の身体はアラガミ化が進行している…けど…偶然にも抗体持ちだった事でそのアラガミ化も生きている間には起こらない…)

 

 ユウキは事の詳細を思い出しながら自分の両手を見つめる。

 

(結果的にはリッカは無事に生きているし、俺のアラガミ化はそれほど深刻な問題じゃない…なのに…何で皆あんなに怒ってたんだ…?)

 

 仲間があんなに怒る理由を考えながら両手を下ろし、空虚を見つめる。

 

(俺たちは人類救済の道を閉ざし、この地獄の様な世界を残す事を選んだ…その事は後悔してない。)

 

 そしてアーク計画を止めた事を思い出しながらベッドに横になる。

 

(でも、アーク計画で死ぬはずの人達を生かし、助かるはずだった人達を地獄に叩き落とした…なら、そんな地獄で生きていく事を『俺』に強要された人達を…目指す世界が訪れるまで命を張ってでも守り抜く。それが俺なりの…地獄で生きる事を強要した事に対する、責任の取り方だと思っていた…けど…)

 

 天井を見つめたままユウキはアーク計画を止めた事に対して自分の方針をもう1度よく思い出す。

 

(そんな俺の考え方は…間違ってるのか?)

 

 しかし、そんなつもりはなかったのに結果的にユウキのやった事で仲間が泣いた。自分のやった事は間違っていたのだろうかと考えながら、答えの出ない問答を自分の中でも繰り返していた。

 

To be continued




後書き
 怒られて打たれて唖然としているユウちゃんを想像すると背中がゾワゾワしました。
 今回の件で自分の価値(?)についてユウちゃんと仲間との間に認識の差が出てきました。今後この溝が広がって仲間とすれ違う…かも知れません。
 さて、他人の神機を使った事でユウちゃんが弱体化しました。神機の適合率が90%から70%まで落ちて、さらにはリミッタ解除が出来なくなりました。今までのようなゴリ押しが出来ない状態でどう戦うか今から考えておかないと…

抗体持ち
 アラガミ化の際、DNAを書き換えられても人体細胞が変化しにくい体質の人間、あるいはアラガミ化の進行を遅くする体質の人の総称のこと。あくまで表面に現れにくいと言うだけで、アラガミ化を止める訳ではない。
 『漏斗型』、『防壁型』、『完封型』の3つが確認されている。

漏斗型
 アラガミ化の際、オラクル細胞からの侵食が遅くなり、非常にスローペースでDNAが書き換えられる。アラガミ化の進行自体は止められない。

防壁型
 アラガミ化が一定以上進むまでは完全にその症状を抑える。その間は人体細胞も細胞もオラクル細胞に変化しない。しかしDNAの侵食は続いているのでアラガミ化が進行すると一気にアラガミ化してしまう。

完封型
 アラガミ化の一切を抑える体質の人間のこと。その特性上、様々な偏食因子に適合することが可能で、適合していない神機を扱う事も出来る。現在噂で流れている程度の存在で、都市伝説のようなもの。

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