-医務室-
「…ぅぁ?」
「あ!気が付いたんですね!!良かった…」
「…グガッ!!」
ユウキが意識を取り戻すと白い天井が見えた。その後すぐにアリサの心配そうな声が聞こえてきた。
「…アリ…サ?」
「…ん?起きたか…取り敢えずは大丈夫みたいだな。」
「スピー…」
ユウキとアリサの声が聞こえたのか、壁に背中を預けて眠っていたソーマが起きてユウキに声をかける。
「ソーマ…ここは…アナグラ…か?」
「ああ…」
「…ゴガッ!!」
ユウキはまだ頭がボーッとしているのか、身体を起こしつつ右手で自分の頭を押さえる。その途中で共に任務に出た仲間が神機も持たずにいた事から極東支部にいるのだと判断した。
「覚えてますか?コウタを庇ってハンニバルの攻撃を受けて気を失ったんですよ。」
「ああ、そう言えばそうだったな。あれからどうなった?」
「シュルルルゥ…」
気を失う前に何が起こったのかをアリサから聞くと、ユウキ自身も何があったのか思い出した。そして頭を押さえていた手を退け、気を失った後どうなったのかを聞いてきた。
「お前はほぼ丸1日寝てて今は昼過ぎだ。あとは全員怪我もなく無事だ。」
「そっか…良かった。」
「…フガッ!!」
誰も怪我をしていない。それを聞くとユウキは安堵した様な表情になる。
「…お前が負傷したことを除けばな。」
「…」
「フシュゥ…」
ソーマから鋭い指摘が入り、ユウキも思わず黙ってしまった。ソーマだけでなく、アリサの目付きも鋭くなり、ユウキは思わず萎縮してしまった。
「部下を守るのは結構だが、それでお前に何かあったら元も子もねえ。前のリーダーみたいな事だけは…絶対するなよ。」
「…」
「…フゴッ!!」
前リーダー、リンドウのように仲間を助けるために自分の命を犠牲にするような事はするなとソーマは釘を刺す。それだけ言うとソーマはユウキの返事を聞かずに医務室を出ていった。
「…ソーマの言う通りです。ユウが私達の事を守りたいって思ってくれているのと同じように、私達もユウの力になりたいって思ってます。だから…独りで無茶しないで下さい。」
「…うん…」
「スピョー…」
アリサからも厳重注意を受けた。本当に心配そうな声色で話しかけてくるので、ユウキも罪悪感を覚えた。
しかし、さっきからイビキをかいて寝ているコウタに対して、遂に我慢の限界が来たのか、『イラァ…』と言う擬音語が見えてきそうな怖い顔なったアリサが右手を振り上げる。
『バギィッ!!』
「フガホッ!!」
「うるさいですよ!!いつまで寝てる気ですか!!」
コウタの後頭部にアリサの平手打ちが決まり、コウタは変な声をあげる。その時、人から出てはいけないような鋭い衝撃音が出ていたが、頭を叩かれると同時に難なく起き上がれたのなら大丈夫なのだろう。
「あっ!!良かった。目ぇ覚めたんだ!」
寝起きで涎を拭いながらコウタは驚いた様な声でユウキの無事を確認する。
「うん。コウタは?大丈夫だった?」
「いや、俺の事より自分の心配をしろよ…怪我だって軽くなかったんだし。それと…俺のせいでユウが怪我した事と…神機…装甲ごと壊されたみたいで…治すのに時間がかかるみたいなんだ…その、ごめん…」
自分が怪我をしたのに他人の心配をしているユウキの様子を見て流石にコウタも呆れているようだった。コウタは怪我の原因が自分にあると理解しているのか、頭を下げつつ謝った。
しかし、それを見た瞬間アリサの様子が一変した。
「本当ですよ!!大体倒したら即撤退と言う任務でコウタがいつまでも遊んでるからこんな事になるんです!!お陰でユウが怪我して、私があげたティア・ストーンも壊れてしまったじゃないですか!!もっとしっかりと反省してください!!」
「あばばばばばばごごごごごごめんなさいぃぃいい!!!!」
アリサが鬼のような形相でコウタの胸ぐらを掴んで揺する。その様子を見たユウキは怒り狂ったアリサ…いや鬼神と化した亞莉裟を見て少し怯えていた。
「そ、そんなに怒らなくていいよアリサ。俺もコウタもこうして生きてるんだし…」
「ユウだってしなくていい怪我をしたんですよ?!ここはリーダーとしてビシッと言うべきところです!!」
確かにアリサの言う事は至極全うな事だと思う。本来ならばコウタの不注意がなければ、ユウキはこうして怪我をして寝込む事もなかった。つまりする必要のない怪我を負わされたのだ。コウタが余計な事をしてユウキが怪我をしたと言う事実と、自分が贈ったティア・ストーンが壊された事でアリサは頭に血が上っているようだ。
「確かにアリサが大事にしていたティア・ストーンは壊れて頭に来るのは分かるけどさ、それでも、結果的には俺の守りたい仲間を守れたんだ。壊れちゃったのは残念だけど…仲間に代えられるものじゃないから、これで良かったんだと思う。」
だが、ユウキはどうしてもコウタのミスを追及して叱責するよりも、こうして皆が生きている状況に安堵する気持ちの方が強く、コウタのミスを追及する気にはなれなかった。
「そう言う問題じゃ…!!」
『ただいまより、対ハンニバル緊急対策会議を行います。出撃可能な神機使いはただちに会議室に集まって下さい。繰り返します。対ハンニバル緊急対策会議を行います。出撃可能な神機使いはただちに会議室に集まって下さい。』
会話の途中で突然緊急召集がかかり、アリサは渋々会話を切り上げる。
「…それじゃあ、私達は行きますね。今はゆっくり身体を休めて下さい。」
「いやもう大丈夫!!戦かえ「絶対ダメです!!!!」…る…」
ユウキも緊急召集に応じようとするもアリサの怒号によって止められた。
「今はもう治ってますけど、本来ならショック死してるような出血量だったんですよ?!傷が塞がったばかりで何が起こるか分からないんですからしっかり身体を治して下さい!!」
「だ、大丈夫だって!ユウもその辺は分かってると思うよ?じゃあユウ、行ってくる。」
「…ちゃんと安静にしてて下さいよ?」
「…分かった。」
凄く嫌そうな顔をしながらユウキは渋々承諾する。それを聞いたアリサとコウタは医務室を出て行った。
-エントランス-
緊急召集の放送からしばらくすると、ルミコから出歩いても良いと言われたので、エントランスに来てみるとカウンターにヒバリが居るだけで他には誰も居なかった。
「あの…ヒバリさん?」
「ユウキさん?!怪我は大丈夫なんですか?!」
昨日今日でユウキが大怪我から復帰した事に流石にヒバリも驚いて作業の手を止めてしまった。
ちなみにユウキとヒバリはアーク計画以降、下の名前で呼び会うようになっていた。
「ええ、もう傷も塞がっているので何ともありませんよ。それよりアナグラが妙に静か…と言うか、神機使いが居ませんよね?」
「そうですね。今はハンニバルの蘇生対策のために神機使い総出でサンプルを集めています。何でもハンニバルはコアを失っても再生する能力を持っているみたいで、今は再生能力を阻害する方法を探しているところです。」
ヒバリが言うにはハンニバルの蘇生対策のためにハンニバルを倒して回っているようだ。それにしても失ったコアを再生させるとは恐ろしい能力だ。早く対策を考えないと外部居住区に攻め込まれた場合に厄介な事になりそうだ。
「そのためのサンプル採取ですか。手伝いたいけど…神機が使えないと出来ることがないな。」
ユウキも何か手伝えないかと考えたが、ハンニバルを倒す必要がある以上、神機が使えなければ足を引っ張るだけだろう。ここは大人しく待っているべきだろう。
「フフ…ならもうすぐ来る娘の相手をしてあげてください。」
「?」
「あっ!!ねぇ!!」
ヒバリの意味深な発言を聞くと、ユウキは間抜けな顔になる。すると後ろから聞いたことのある幼い声が聞こえてきた。
「エリナちゃん?!」
「ねっ!強い神機使いになるにはどうすればいいのか教えて!約束でしょ?」
声の主はノートを抱えたエリナだった。確かに何時だったか神機使いについて教える約束をしていた事をユウキは思い出した。教材になりそうなものに心当たりはあるが、現在手元には無い。1度部屋に戻る必要がある。
「あ、ああ。それは良いけど…お父さんは?」
「お父様には内緒で来ちゃった。絶対反対するもん。」
一応はエドワードに神機使いになると伝えるとどう思うのかエリナなりに考えたようだ。エリックを喪い、未だ立ち直れていない状態でエリナが神機使いになると言うと、間違いなく止めに来るだろう。
「そっか…でもあまり遅くならないようにね。部屋に教材取りに行くから、ちょっと待ってて。」
しかし、適合する神機が見つかったら否応なしに戦場に出ることになる。そうなった時のために今のうちから知識だけでも詰め込んでおいた方が良いかも知れない。そう思ってユウキは教材となるものを取りに1度自室に戻った。
-2時間後-
「へぇ…神機ってスイッチで動くんじゃないんだ。」
「うん。神機を使うのは腕や足、指を動かすのと大きな差はないんだ。イメージや感覚で動かすと思っていい。だからこの場でどうすれば良い、みたいな事は言えないんだよ。」
携帯で神機の説明をした動画を流しつつ、途中でユウキが補足しながら説明していく。そして最後に総括として神機の扱い方の説明やエリナからの質問にユウキが答えていた。
「自分で感覚を覚えていくしかないってこと?」
「そう言うこと。飲み込みが早くて助かる。」
「よし!!神機使いになったら一杯練習しなきゃ!!」
エリナはユウキの説明を聞いて、神機の扱いは自分の感覚で掴むしかないと言う事をあっという間に理解した。
握り拳を作り、意気込みが伝わるようなポーズを取るエリナだったが、ユウキはあることが心配だった。
「練習は良いけど…身体を大事にしながらやってよ?」
「大丈夫!!最近お外を走って身体を鍛えてるの!お陰で病気になりにくくなったよ!」
エリナ自身は元々病弱な方で、治療のために極東に来ていると言うのを聞いた事があったのだ。無理をして身体を壊しては元も子もない。その一点が特に気がかりだったが、エリナも神機使いを目指すだけあって、最近動いて鍛えているようだ。お陰で病気になりにくくなったらしいので、それならば多少は安心できるとユウキは考えていた。
「そっか。なら安心だ。」
「あっ!!そろそろ帰らなきゃ!!お父様に怪しまれる!!」
ふと時計を見てみると、そろそろ夕刻になろうとしていた。流石に遅くまで戻らないと父が心配(警戒)すると言って、エリナは慌ててノートやペンを片付け、出口に向かって走る。
エントランスを出る直前、エリナは立ち止まって振り替えると若干頬を朱に染めながらユウキに一言声を掛ける。
「またね…お、お兄ちゃん!」
「うん。またね、エリナちゃん。」
別れの挨拶を済ませると、ユウキは手を振ってエリナを見送る。それを見たエリナは笑顔でエントランスから出ていった。
「ふふふっ!随分と様になってましたよ?お兄ちゃん?」
「そう言うキャラじゃ無いんですけどねぇ…」
今まで誰かの世話になることはあっても、誰かの世話をした事が無いとユウキ自身は思っていたため、どこか自嘲じみた笑みを浮かべる。
しばらくヒバリと雑談していると、気が付けば1時間が経過していた。
「それにしても、随分とエリナちゃんには親切にしますね?」
「いや、それほど特別な理由はありませんよ?強いて言うなら、エリックさんが亡くなったのは…俺のせいだから…」
エドワードが未だにエリックの死から立ち直れていないように、ユウキの脳裏にもエリックの死がこびりついて離れないままだった。仕方なの無い事ではあるが、1番近くに居た自分に今のような即座に動く判断を下せれば十分助けられたはずだった。
判断が遅れた…ただそれだけでユウキの目の前でエリックは一瞬のうちに無惨な肉堺に変わり果ててしまった事が忘れられなかった。
すっかり気落ちしたユウキをどうにか励まそうとヒバリが言葉を発そうとした途端、極東支部内にけたたましい警報が鳴り響く。
『緊急連絡!!第2訓練場に小型のアラガミが侵入!!全職員はただちに退避してください!!第2訓練場にアラガミが侵入!!ただちに退避してください!!』
「300秒後、第2訓練場フロアの隔壁を閉鎖します。該当フロアに居る職員はただちに退避して下さい。」
館内放送を聞いたヒバリが即座に隔壁の閉鎖のプラグラムを起動させ、同時に退避命令を出す。
そして極東支部に侵入したアラガミを最短で排除できる部隊を探す。
「一番近くに居るのは…防衛班!!タツミさん、聞こえますか?!…冗談言ってる場合じゃないんです!!緊急事態なんです!!アラガミに侵入されました!!至急アナグラに戻って下さい!!今アナグラには『非戦闘員』しか居ないんです!!」
またタツミがデートしようと言ってきたのだろう。しかし、状況が状況なので、ヒバリから余裕の無い声が飛んでくる。しかし、ユウキはある言葉にショックを受けていた。
(非…戦闘員?)
神機使いであるユウキを含めて非戦闘員『しか』居ないと言う言葉が頭に引っ掛かっていた。
(俺は…戦えるぞ?神機が壊れてるだけで…俺は…戦える…)
身体は治った…問題なく動く。ただ神機壊れてが使えない、それだけだ。
(戦わなければ…生き残れない…戦わなければ…皆死ぬ…)
エリックの事を思い出したせいか、自分が戦えないがために何もかも喰い尽くされて仲間達が死んでいく場面を鮮明に想像してしまう。
(なら…神機が無くても…やるしかない!!)
殺らなきゃ皆が殺られる…ならば殺るしかない。そう思った瞬間、ユウキは動き出していた。
「あっ!!ユウキさん!!」
ユウキはアラガミが侵入した神機保管庫に向かって走る。この決断が後に自身の運命を大きく揺るがすとはまだ本人は知る由もなかった。
-神機保管庫-
神機を使おうと保管庫に入ると、神機のロック作業のため忙しく手を動かして端末を操作しているリッカがいた。
「リッカ!!俺の神機は?!」
「使える訳ないでしょ?!戦えないならこんなところに来ちゃダメだよ!!」
流石にこの状況ではリッカも余裕はなく、普段よりも荒れた口調でユウキに怒鳴る。だが、リッカの言う事は尤もであり、『戦えない人間』が戦場に来たところで何が出来ると言う訳でもなく、ただの足手まといでしかない。
『ガァン!!』
「そんな…!」
「ヴァジュラテイル…!!」
保管庫のゲートを突き破り、黄色い体のヴァジュラテイルが侵入してきた。
「早く下がれリッカ!!」
そう言いながらユウキは神機もなしにヴァジュラテイルに突っ込む。その間もリッカは神機のロックを続けていく。
ユウキは吠えているヴァジュラテイルに近づくと側頭部に右フックを叩き込むと、ヴァジュラテイルは体勢を崩す。
「クソッ!!やっぱり素手じゃ…!!」
神機を使っていないため、有効打になっていないようだ。ヴァジュラテイルはすぐに体勢を立て直す。
ヴァジュラテイルが一歩踏み込んで尻尾を振り回す。ユウキはジャンプして飛び越え、ヴァジュラテイルの胴に回し蹴りを叩き込む。するとヴァジュラテイルは勢いよく部屋の隅に跳ばされたが、やはりダメージを受けている様には見えなかった。
(このままじゃじり貧だ!どうする?!)
どうにかして倒す、或いは追い出さなければいけないのだが、神機が使えない現状ではどちらも難しい。内心苛ついていると、ヴァジュラテイルが尻尾を振り上げて雷を落とす体勢を取る。
しかしユウキの周辺には雷が落ちる気配はない。もしユウキ以外を狙ったものならば狙われる人物は1人しか居ない。
「リッカァア!!」
ユウキは即反転してリッカの元に飛び込む。そのままリッカを抱えて落雷を避ける。しかし、間髪いれずにヴァジュラテイルから雷球が飛んでくる。
リッカを抱えていると言う事もあり、思うように動けないユウキの背中に雷球が直撃した。
「グッ!!」
「キャア!!」
雷球が直撃したところは赤く爛れてた上に火傷もしている。そして電気をもろに浴びた事でユウキは軽く感電していた。
雷球を受けた後、リッカを抱えたまま立ち上がるが、ユウキはリッカの様子がおかしい事に気が付いた。
「リッカ!!オイ!!起きろ!!」
リッカは動かずにぐったりしている。ユウキは軽くリッカを揺するが気を失ったままだった。恐らくユウキを通じて感電したのだろう。
ヴァジュラテイルも体勢を立て直し、足音を立ててユウキ達に向かって走ってくる。
リッカを寝かせ、反撃と陽動のために反転してヴァジュラテイルに向かおうとする。その時、視界の端にチラリと見えたのはまだロックされていない赤いチェーンソーのような神機だった。
(リンドウさんの神機…)
一瞬だけ迷ったが、ヴァジュラテイルを無力化しなければならない状況になり、ユウキはリンドウの神機に手を伸ばす。
(やるしかない!!)
ユウキがリンドウの神機を掴むと、コアから触手が伸びてユウキの腕輪に接続される。
「グッ!!ア"ア"ア"ア"!!!!」
その瞬間、適合試験の時の様な激痛や形容しがたい不快感に襲われると同時に雪が見える何処かの景色が脳裏に映る。それでも神機のロックを無理矢理外そうと力を込める。
「グッ…!!ぐぎッ!!は、早く…外れろ!!」
中々ロックされた神機を引き剥がす事が出来ずにユウキは焦り出す。
(早く…!!早く!!外れろよ!!!!)
相変わらずヴァジュラテイルがユウキ達に向かってくる。急がなければ殺される。
ユウキは神機を握りながらヴァジュラテイルに向かうような体勢になり、腕だけでなく足を初めとした全身の力を使い、力ずくで神機を固定装置から引き剥がす。
「オ…ラァ!!」
『バキンッ!!』
固定装置を破壊した勢いでヴァジュラテイルを斬る。ユウキの腕力でヴァジュラテイルは吹き飛ばされたが、元々適合していない神機を使ったせいか、大して硬くもないヴァジュラテイルが相手であるにも関わらず、薄い切り傷が付いただけだった。
「グッ!!ギッ…ア"、ガア"ア"ア"ア"!!!!」
さらに強くなった痛みに思わず踞る。それと同時に何故か脳裏にプリティヴィ・マータの顔と、雪の上で月に向かって吼える男が脳裏に浮かび、肉体的なダメージと精神的な混乱によって軽い錯乱状態となっていた。
その隙にヴァジュラテイルはユウキに近付き、大口を開けてユウキの頭を捉えた。
『バンッ!!』
突然ユウキの後ろから狙撃弾が放たれ、ヴァジュラテイルが怯んだ。今極東支部にはユウキを除けば『非戦闘員』しか居ないはず…何事かと思い後ろを向く。
「立てますか!?」
そこには銃形態の新型神機を持った黒髪の癖ッ毛、橙色の瞳に長い睫毛の中性的な少年(?)が神機を構えながら立っていた。
「早く!とどめを!!」
少年(?)が立ち上がったヴァジュラテイルに再び狙撃弾を撃ち込んでヴァジュラテイルの体勢を崩させる。
「ジャラァ!!」
少年(?)のサポートでヴァジュラテイルが体勢を立て直している間にユウキが全力で神機を振り下ろす。辛うじてヴァジュラテイルの体を引き裂いてコアを破壊する。
「ハァ…ハァ…グッ!!ウゥ…!!」
「大丈夫ですか?」
コアを失ったヴァジュラテイルは倒れると霧散する。それを確認したところで、再び体の内側を蝕まれる様な痛みに襲われた。一瞬だけ耐えたが最後に強烈な痛みに変わり、ユウキは意識を手離した。
-医務室-
保管庫での戦闘から約1時間後、ユウキは医務室のベッドの上で目を覚ました。傍らにはリッカと助けてくれた少年(?)が居た。
「…あっ!気が付き「気が付いたんだ!!良かった…」…ました?」
少年(?)の言葉を遮ってリッカがユウキに声を掛けつつ顔を覗き込む。少しボーッとする頭を押さえながらユウキは起き上がと、リッカは他の人が居るにも関わらず抱き付いてきた。
「バカ!!こんな…無茶な事して…」
「っ!!!!??!?」
ユウキは顔を真っ赤にして固まってしまった。まさかリッカが抱き付いて来るとは思っておらず、ましてや他の人が居るところでこんな事をするとは思っていなかかった。何よりも異性に抱き付いかれた事など今までに無かったのでユウキの脳内はパニック状態になっていた。
「もうこんな…他人の神機を使う様なことは2度としないで。適合してない神機を使うと、そのオラクル細胞は容赦なくユウを喰い尽くす…そんな事になったら、何が起こるか分からないから…」
「あ…ぅ…」
リッカが適合していない神機を使う危険性を話していく。どうやらユウキは神機使いの最もやってはいけない事をしたようだ。それを聞いては居たが、理解する余裕は無かった。
「約束して…もう他人の神機は使わないって…」
「う…ん…」
「…言質は取ったからね。約束だから。」
ユウキから言質を取った事で少し安心したのか、リッカも今どう言う状況なのか気が付いた様で顔を真っ赤にして慌ててユウキから離れた。
「…そ、それじゃあ、ユウが目を覚ましたってルミコ先生に伝えに行くね。」
『ま、また来るよ。』と手を振って赤い顔のままリッカは医務室を出ていった。ユウキはフリーズしたままリッカが居た場所を眺めていた。
「…リッカさん、いい人ですね。あの人は神機の事、本当に良く理解しています。」
「…ぁ…」
少年(?)はリッカに手を振り返して、ユウキに話しかけるが、ユウキは空返事で返す。
「あ、自己紹介もせずに申し訳ありません。僕は医療班に配属になります『レン』と言います。貴方の噂はかねがね…」
ここまで話してユウキから何の反応もない事に気が付いたレンはユウキの目の前で手を振って見た。しかしそれでも何の反応もなかった。
「ここまで初な方だったとは…まあ、それはそれで今は寝かせやすいからいっか。」
そう言いながらレンはユウキを寝かせた。恐らく全く聞こえていない訳ではないと思い、レンは軍事医療の中でも神機使いのアラガミ化の予防と治療の研究している事などを話して簡単に自己紹介をしていった。
-同時刻、贖罪の街-
「…ハッ!!」
「ん?どうしたのさアリサ?」
「い、いえ…何だか凄く良くない事が起きている様な気がして…」
「何を言っているんだ?」
(…女の勘ってやつかしらね?)
この日…■■が死のイメージを振り切る事が出来れば、少女を見捨てる事が出来れば、少なくとも■■はこのあと、■■の運命を辿る事はなかったのだろう。今回の事は、■■を■■■■へと叩き落とす…そんな未来が確定する要素でもあったのだ。
後に起きる1つの大きな■■の代償として、■■が自らの人生を■■■■程の■■を背負う事になる…それを独りで背負わせてしまったと知った時、俺達は酷く後悔することになる。
極東支部第一部隊活動記録
著:ソーマ・シックザール
『カチッ』
■〇の■=が=〇■った。
To be continued
後書き
バースト編キーパーソンのレンが登場です。私は未だに顔立ちだけで男なのか女なのか見分けがつきません。
ユウキが他人の神機を使う禁忌を犯した事で今後ユウキにどのような変化があるのかは多少アレンジを入れていきます。