mission51 不仲
突如現れたアラガミ…アルダ・ノーヴァの急襲により、エイジスは半壊…その崩落事故で、当時の極東支部支部長、ヨハネス・フォン・シックザールはエイジスが崩落により死亡。そんなフェンリル本部の『公式』見解と共に、アーク計画は粛々と闇に葬り去られた。
多く犠牲の果てに得られた痛みと孤独は…癒される事のないまま、新たな戦いの日々に塗り重ねられようとしていた。
-鉄塔の森-
『キュララアァ!!』
深い紫色の身体と言う毒々しい色のサリエル…『サリエル堕天種』が足を結合崩壊させられた事で声をあげて活性化する。
(強力な毒を含む光弾や毒霧、原種と比べて広くなった攻撃範囲…まあ、データ通りか。なら…)
ユウキは既に得ていたサリエル堕天種の情報と実際との間で食い違いがないと判断すると、早々にこの任務を終わらせる事にした。
「そろそろとどめだ!!」
ユウキは戦闘でデータを取る必要もなくなったとして、共に来ていたソーマとアサルト使いの新人の少女2人にとどめの指示を出す。
ユウキはジャンプしてサリエル堕天種の胴体を体勢が崩れるの気にせずに全力で斬りつける。するとサリエル堕天種は胴体に深い裂傷が着いた。
サリエル堕天種が体勢を崩し、その隙に新人2人の神機から弾丸が放たれて少しずつサリエル堕天種の体は傷付いていく。最後にソーマが飛びして、白く染まったイーブルワンを振り上げてとどめとなる…はずだった。
「っ!!」
突如ソーマが神機の軌道を横凪ぎに変え、威力を加減して振り抜くと、ソーマの体は新人の方に跳んでいった。
『グオォォオ!!』
「え?」
新人の少女2人の真後ろから別のアラガミの鳴き声が聞こえる。少女2人が思わず後ろを見ると、すぐ近くまで赤と黄色を基調としたヴァジュラテイルが迫っていた。
「キャアァァァア!!」
「イヤァァァァア!!」
いつの間にか大口を開けて迫ってきたヴァジュラテイルを見て、もう終わりだと感じて新人2人は悲鳴をあげる。
「ハァッ!!」
短い掛け声と共にソーマがヴァジュラテイルを一撃で切り捨てて、新人2人をフォローする。
ソーマはヴァジュラテイルを倒し、すかさずサリエル堕天種の方を見る。すると着地の際、装甲の展開を利用して地面スレスレでスライドするユウキが目についた。ユウキはアルダ・ノーヴァ戦以降、着地を考えなくて済むこの方法を良く使うようになった。
スライドしつつ銃形態に変型する。水平移動と共に回転しつつもサリエル堕天種の頭を撃ち抜いた。
ユウキが体勢を直す隙が出来たが、その間はサリエル堕天種は怯んで動けないでいた。再び剣形態に変型してサリエル堕天種に向かって走り出す。サリエル堕天種に向かってジャンプすると、ユウキの右腕から『ドクン!!』と強い鼓動を感じる。
サリエル堕天種が体勢を立て直したら頃にはユウキは既に攻撃体勢に入っていた。
「くたばりな。」
一言捨て台詞を残すと、ユウキは神機を振り下ろす。その瞬間サリエル堕天種は真っ二つに切り捨てられて絶命した。
ユウキがコアの回収しているのを眺めていると、新人はようやく戦闘が終わったと理解した。
「た、助かったぁ…」
「こ、怖かった…」
安堵した新人の少女2人がその場にへたりこむ。それを見たソーマが神機を担ぎながら2人に歩み寄る。
「ボサッとするな。そんなんじゃ命がいくつあっても足りねえぞ。」
ソーマから厳しい叱責が飛んできて新人の少女2人はうなだれながら落ち込んだ。
「今すぐには無理だろうが、今度からは目の前だけじゃなく音や気配で周囲の敵を察知しろ。」
「で、でも…そんなこと…」
「出来る気が…」
新人には難易度の高い要求に2人は顔を意気消沈しながら互いの顔を見合わせる。
「今すぐ出来るようになれとは言ってない。何か必要あれば手を貸すくらいはしてやる。」
「え?」
「ソ、ソーマさん…」
ここまで鞭と言う名の厳しい言葉をかけてきたが、最後の最後で飴と言う名の不器用な優しさを与える。ここ1月の間ソーマは無自覚に飴と鞭を与え、特に新人を中心に信頼を得ていた。
「ほら、さっさと立て。帰るぞ。」
「…はい…」
「あ、ありがとうございます。」
ソーマが女子2人を立たせようと手を差し出すと、2人の内1人は頬を染めながら蕩けた様な目でソーマを見てその手を取り、もう1人は自分で立ち上がった。こうやって信頼を得ると同時に無自覚に女子を落としていた。
ここ1月の間で性格も丸くなった事もあり、新人とソーマの事を悪く思っていなかった人を中心にソーマのファンクラブが密かに出来上がりつつあった。
(また1人落ちたか…)
今までに人と関わる事が少なかったため他人の心情に疎いユウキでも、あそこまであからさまに態度に出ていると流石に気が付く。気が付いていないのは当事者のソーマだけだろう。
(どう見てもイケメンな上、不器用な優しいさだからなぁ…そらモテるわな。)
この1月でのソーマの変化に喜びながらも驚いていた。しかし、そんな平和(?)な思考もある気配を感じて打ち切る。
「ソーマ…2人を待機ポイントに…」
「いいのか?」
どうやら気配はソーマも感じていたようだ。ソーマがユウキの心配をして加勢しなくても良いのか確認する。
「大丈夫!2人の事は頼むよ。」
「分かった。お前なら大丈夫だろうが…まあ、無理はするなよ。」
「りょーかい!!」
ユウキがこやかに笑いながらソーマに返事を返す。
(あ、綺麗…)
もう1人の新人の女子はそんな事を思いながら見とれている。すると、先に歩き出したソーマが彼女に声をかけると、ようやく我に返り待機ポイントに移動した。
『グオォォ!!』
雄叫びと共に犬の様な顔の女性に羽根が生えたシユウ…第二種接触禁忌種の『セクメト』がユウキの背後に降り立った。
(確か…セクメトだったか?パッと見シユウと大差ないようだが…)
ユウキがセクメトの方を方に向き直り観察していると、挑発するように手招きをしてきた。しかしユウキも挑発し返すように、構える事なく自然体のまま棒立ちしてる。
それをチャンスと見たのか、セクメトが摺り足でユウキに近づきながら右の翼手を振り上げる。
ユウキは神機を両手で握り直しながら後ろに軽く跳んでギリギリで躱す。
(1回…)
その後、振り抜いた右の翼手を左の翼手と合わせて両翼手を突き出して、はっけいの要領で両翼手から衝撃を与えるが、ユウキは右に跳びつつ体を捻り回避する。
(2回…)
掌から衝撃を放ち、その勢いで後ろに軽く跳んだセクメトを追撃しようとユウキは前に出る。しかしユウキの追撃の直前でセクメトは着地し、両翼手を地面を叩き付けてセクメトの周囲に衝撃が走る。ユウキはジャンプしてセクメトの上に跳んで躱す。
「っ!!」
セクメトが地面を叩くと周囲だけでなく、十字に地面が抉れていく。そのまま真後ろに降りて斬りつけるつもりだったが、咄嗟に空中でインパルスエッジを爆発させて滞空時間を稼ぐ。セクメトが姿勢を直している間にユウキはセクメトと背中合わせになるように背後を取り合り、回転しながら神機でセクメトを捉えつつ後ろに跳ぶ。
(チッ!!)
ユウキは神機の力を引き出そうとするが今回は上手くいかず、ただ固い胴体を斬りつけただけとなった。アーク計画の後、ユウキは神機の力を引き出す感覚をほぼ確実に引き出せるようになったが稀に失敗してしまい、このようなただ斬りつけるだけの攻撃になってしまった。
(なら…バーストするまで!!)
セクメトが振り向き様に火球を何度も投げつける。ユウキは横に走って火球を避ける。最後の巨大な火球が飛んでくると、ユウキは上に跳び回避する。
すると、穿顎を展開してセクメトに急接近する。
『ブジュッ!!』
セクメトの右の翼手を喰い千切り、バーストする。しかそ、すかさずセクメトがユウキを振り払う様に回転してオラクル弾をばら蒔く。ユウキは後ろに大きく跳んで避けると、間髪いれずにセクメトが炎を纏って突進してくる。
(…3回目!!)
ここまで限定的であるが一撃で倒せる機会を数えていた。結果、後隙が少なく、火を扱う事で間合いが変わったりしているが、基本的にシユウと大差無いことを確認すると、ユウキは体の右側を下にしながら上に大きく跳び、神機を両手でしっかりと握る。
「終わりだ!!」
ユウキが全力で神機を振り抜くと、制御ユニットで強化した神機がセクメトを捉えると、一瞬にして真っ二つに切り捨てた。
「ふう…何とかなったか…」
ユウキは息を吐いて1度落ち着くと、コアを回収しながらソーマに連絡を入れる。
「ソーマ?今終わった。そっちに行くよ。」
『了解した。さっさと戻ってこい。退屈で死にそうだ。』
冗談を最後にソーマからの通信は切れた。ユウキはコアの回収を確認すると待機ポイントに向かった。
-???-
ユウキたちはソーマが運転するバギーで荒野を走っていた。極東支部への帰路の途中ユウキはあるものが目に入った。
「…ん?ソーマ、ストップ!!」
ユウキが制止をかけるとソーマはブレーキを踏み、バギーを止める。
「何だ?」
「あれ、アラガミの死体…」
そう言ってユウキは右前方を指差す。そこには倒れている複数体のアラガミから黒い煙を吹きながら倒れているのが見えた。
「ちょっと様子を見てくる。2人は待機。何かあったら俺達に構わず車で逃げて。」
新人に待機と緊急時の指示を伝えると、ユウキとソーマはバギーを降りてアラガミの死体の方に向かって歩いていく。
「こいつは…」
「うん…まただ…」
そこにはズタズタに切り刻まれたオウガテイルやコンゴウ、シユウ…数種類のアラガミが倒れていた。
「この1月でよく見かけるようになったが…一体誰が?」
「う~ん…アラガミ同士の喰い合いの結果なのかな?」
アーク計画を潰してから一ヶ月の間、今回の様にアラガミがズタズタにされて発見されると言う事例が相次いでいる。倒されたアラガミはどれもノコギリを振り抜いた様に傷口はグチャグチャで、その様な傷が体中至るところに着いていた。しかもコアは過去のアラガミにおいて全て破壊されていた。例外なく摘出された形跡はない。
このような事が続いたお陰で、討伐任務で現地に行くと討伐対象が既に倒されていて仕事にならないとぼやいてる神機使いが大勢いた。
「いや、それにしては不可解な点が多すぎる。恐らく違うだろう。」
アラガミ同士の喰い合いならば恐らく跡形も残らずに喰い尽くすだろうと考えられ、ユウキの立てた仮説はすぐにソーマが否定する。
とにかくアラガミの死体を調べようと近づくと、アラガミは黒い霧となって霧散した。
「あ、消えた…」
「少し遅かったみたいだな。帰ったら報告するぞ。」
今までと同じ現象にあったが、詳しい事は何も分からなかった。極東支部に戻るとそう報告する事にしてユウキとソーマはバギーに乗り込んだ。
-極東支部-
ユウキ達が極東支部に着いたが、人が居るはずのエントランスで会話は一切なく、ギスギスとした空気が流れていた。
「う~ん…相変わらず…だな。」
「まあ、仕方ないと言えば仕方ないがな。色々と整理する時間が必要なんだろう。」
1月前にアーク計画を潰した後から極東支部内の空気は完全に冷えきっていた。方舟に乗った者と乗らなかった者で直接的ではないが対立している、所謂『冷戦状態』だった。
アーク計画に乗った者からしたら、残った者達は大勢の人助けて自分達が助かる道を閉ざした偽善者…アーク計画に反対した者からしたら、乗った者は皆を見捨てて自分だけ生き残ろうと癖にノコノコと帰ってきた卑怯者…互いが互いを敵視して敬遠している状態が続いていた。
「…でも早く色んな人と協力を取り次ぎたいんだけどな…」
ユウキは頭を掻きながら本音を洩らす。今までに無い試みをしようとする中で、いつかは支部全体を巻き込んだ試験や実験を行う可能性がある。そうなると支部内で誰にもバレずに、コソコソと動き回るのは不可能だと考えて、ユウキは早めに協力体制を作りたいと思っていたのだ。
「だったら、なおさら皆が納得するまで待つべきだ。仮に今協力を取り次ぐ事が出来たとしても、最悪本部に密告されて邪魔されるのが落ちだ。特に何の成果も挙げてない現状では不審に思われても仕方がない。」
「…」
だが、研究は現在動いてない…と言うよりは動けないでいる。研究のために何をどうしたら良いのかまだ分からないからと言う理由もあるが、何より資源も資金も無いため、動きようがないのだ。
エイジスを解体出来れば何かしら動けるのだが、アーク計画の根城だった事もあり、今では本部がエイジスを管理している。そう簡単には解体することは出来ない。そんな現状で協力してくれと言っても何の説得力もないので、足蹴にされるのが落ちだろうと、ソーマの話を聞いた後、ユウキはそんな事を考えながら棒立ちしていた。
「さっさと報告するぞ。」
「…うん。」
ソーマの声を聞くと、ユウキ小さく返事をしてペイラーが待つ支部長室歩を進めた。
-支部長室-
「失礼します。」
ユウキとソーマが支部室に入ると、書類の山に忙殺されて生気を失っているペイラーが目に入った。
「や、やあ…よく来てくれたね…」
「…この前よりも書類増えてないですか?支部長『代理』?」
半月程前に支部長室に入った時は書類は机一杯に広がっている程度であったが、現在は書類が山の様に積み重ねられている。
…比喩でなく本当に山になっている辺り、作業は進んでいないようだ。
「ん~『代理』と言うのが美しくないねぇ…まあこの際それは良いか。にしてもヨハンは良くこんな量の書類仕事をこなせてたねえ…」
「…書類仕事に専念すればいいんじゃ?」
ペイラーは支部長職をこなす傍らで今でも研究を続けている。と言うよりは未だに研究がメインで、支部長職からたまに逃げている。それでは書類が片付かないのも無理はない。
「おい。さっさと本題に入るぞ。」
「ああ、ごめんごめん!!で?どんな報告かな?」
何時まで経っても世間話ばかりしているので、しびれを切らしたソーマが強引に本題に持っていく。
「アラガミが切り殺されている事例に遭遇した。今度は旧工場跡地付近だ。」
ソーマが簡潔に報告すると、ある程度察したのかペイラーは顎に手を添えて考え込む様な仕草をする。
「そうか…少しずつ範囲が広くなってるね。君たちが戦わなくても済むのは良い事ではあるんだけど、資源と資金が手に入らないのは痛いねえ…さて、どうするか…」
「エイジスが解体出来れば解決するんですけどね。まだ本部が所有権を主張してるんですか?」
「残念ながらね。今エイジスにはノヴァの残滓にアラガミが引き寄せられて危険地帯であると同時に、あらゆる資源の宝庫となっている。本部としてはこれを逃す手はないと言うのが本音だろうね。だだまあ、禁忌種なんかも大量に引き寄せられている様な危険地帯と言うだけあって、向こうも現状手出し出来ないでいる。お陰で第一部隊…特にユウキ君は休む暇も無いけれどね。」
アーク計画を潰して以来、ノヴァ本体は月へと飛び去った影響で月は緑化してかなりの騒ぎにはなったが、 今は多少落ち着いている。
それよりも、現状は地球に残ったノヴァの一部の影響の方が深刻で、他のアラガミを引き寄せる性質があるのか、世界中から禁忌種を始めとした強力なアラガミがやって来たり、新たなアラガミが発生したりしている。そのアラガミが途中で外部居住区に近づいたりするので、第一部隊はその対応に追われているのだ。
しかし、裏を返せばエイジスはオラクル資源の宝庫でもあり、エイジス建設に使われた資材も多数残っているのだ。すぐには手に入らないが、取り合えず確保しておこうと言うのが本部の思惑だ。
「どうにかしてエイジスを取り戻せないですかね?」
「難しいね…アーク計画の様に、陰謀の根城にされると言ってこちらの所有権を認めないだろうね。」
エイジスはアーク計画の隠れ蓑に使われた事があるため、また何か企みに利用するのではないかと警戒して、その可能性を摘むためにも本部はエイジスを管理する権限を主張している。さらにはあらゆる資源が手に入るのなら、管理権限を主張しない訳がなかった。
どうしたものか…と考えていると、突然緊急事態を知らせる警報が極東支部に鳴り響く。
「襲撃か!?」
『緊急連絡!!エリアS33からS35にアラガミが侵入!!広域防衛戦になるため、出撃可能な神機使いはただちに出撃せよ!!繰り返す!!S33から35にアラガミが侵入!!出撃可能な神機使いはただちに出撃せよ!!』
ユウキの予想通り、外部居住地が襲撃を受けている様だ。その場に居る全員が険しい表情になり、ペイラーから指令が入る。
「ユウキ君!!ソーマ!!緊急出撃だ!!」
「「了解!!」」
ペイラーの指示で帰ってきたその足で再び防衛戦に参加する。ユウキとソーマは全速で現地に向かって走り出した。
-外部居住区『S33』-
ユウキが現場に着くと、既にアラガミが居住区に侵入していた。外に通じるゲートがあるS35ソーマを向かわせて、ユウキは小さな居住区があるS33に雪崩れ込んてきたアラガミの排除を始める。
「こちら神裂!!応援に来ました!!状況は?!」
『アラガミはゲート破って西側に流れてる…このエリアに最も多く入り込んでるわ。今の所一点から入り込んでるけど、いつ拡散してもおかしくないって所ね。』
散らばり始めているアラガミの真正面に陣取り、向かってきたオウガテイル堕天種を切り捨てながら周囲を確認すると、既にアラガミと戦闘を始めている第三部隊を見つける。すぐに通信を入れるとジーナから返信があり、ユウキは現状の確認をする。
「部隊の配置は?!」
『第二部隊はS35のゲートを守ってる。第四部隊は比較的アラガミの少ないS34を担当してるわ。それじゃあ、指示をお願い。』
『はあ?!ふざけんな!!何でコイツの言うこと聞かなけりゃなんねぇんだよ!!』
だがジーナが指示を仰ぐと、後輩に指示されるのが気に入らないのかシュンはジーナの言葉を足蹴にする。
『支部長代理の指示よ。通信が来てたでしょ?』
『シュンの言う通りだ。こんな偽善者の指示なんざ聞く気はない。』
支部長代理であるペイラーの指示だと言い聞かせようとするが、カレルもシュンに同調してますます纏まりの無いチームになりつつあった。
「指示は出す!!聞くも聞かないも好きにすればいい。だが独断で動いた者を助けるつもりはない!!死ぬ時は独りで勝手に死ね!!」
目の前の赤い体のザイゴート堕天種を切り捨てながらも、早く防衛戦に集中したいユウキは高圧的な態度で怒鳴りシュンとカレルを黙らせ、無理矢理言うことを聞かせる。指示を聞く気がないのなら端からそのつもりで、状況とこれからの動きを思考する。
(ざっと見て30か…この数なら1人でもどうにか出来るが…)
ザイゴートを倒した後は3体並んでいる赤、黄、青のコクーンメイデンをまとめてぶった切る。
それと同時に大まか敵戦力を分析する。ただ目の前の敵を倒しきるだけなら自分1人でどうにか出来ると判断するが、防衛戦では必ずしも倒しきる事を優先する事が正しいとは限らない。拠点、施設、そこに住む人達…これらを守りながら戦わなければならない。
特に避難民の動きは本当に予測できない。火事場泥棒に野次馬、或いは戦場の様子を記録しようとする記者など、誘導に反して戦場に戻って来る者も守らなければいけないのだ。
「シュンさんとカレルさんは外周に流れたアラガミを掃討、ジーナさんは最後方で全方位を援護、正面と内側は俺がやります!!」
正面からコンゴウが腕を振り上げて近づき、その堕天種は車輪のように回転しながら突進してくる。それを確認して、ユウキはポジションの指示を出す。
ジーナは後ろに下がって前線からの討ち漏らしの処理、シュンとカレルは施設の少ない防壁のすぐ内側から抜けていくアラガミの処理を指示する。もっともこのときのユウキにはシュンとカレルは戦力としては数えていなかった。指示を聞かない、従わない可能性を考慮して敵が少ない場所を担当させた。
「ジーナさんはここが落ち着き次第第二部隊の援護!!その後はタツミさんの指示に従って下さい。」
ジャンプして体を勢いよく左に捻り、殴りかかってきたコンゴウの顔面を蹴り飛ばすと、護人刀を装備した神機を下から振り上げてコンゴウ堕天種を両断する。
そのついでに遠距離神機使いの支援を受けられない第二部隊に、ジーナを増援に向かわせるよう指示する。
(さて、あとは敵を殲滅するだけ!)
神機の能力を引き出した状態にして、さっき蹴り飛ばしたコンゴウを真上から神機を振り下ろすとあっさりとコンゴウを斬り捨てた。
ちらりとシュンとカレルを見ると、思いの外指示通りに動いてい小型種3体を同時に相手をしていた。取り合えずは大丈夫だろうと、ユウキは自らの敵に集中する。
外部居住区の中心部に向かって数体のアラガミが移動しているのが目についた。ユウキは走りながら銃形態に変型して、先行する青い 身体のザイゴート堕天種とグボロ・グボロ堕天種を射ち抜く。
ザイゴート堕天種はコアごと射ち抜かれて倒されたが、グボロ・グボロ堕天種は背ビレに結合崩壊を起こして怯む。グボロ・グボロ堕天種は怒りながら反転すると、腹滑りの要領で猛スピードでユウキに迫る。さらには後ろからシユウも滑空して来る。
(ギリギリだが…シユウの方が近い。やってやる!)
グボロ・グボロ堕天種とシユウ…どちらが自身に近いかを判断してユウキは神機を自身の右下に構えながら反転する。
(もう少し…)
ユウキは自身の間合いにシユウが入るまで待つ。
(ここだ!!)
間合いに入った瞬間、ユウキは右下から左上に一気に斬り上げてシユウをコアごと両断する。ユウキは斬り上げた勢いを利用して反転、神機はそのまま半円を描きグボロ・グボロ堕天種に振り下ろす。
(クッ!少し下がらないと!)
だが予想以上にグボロ・グボロ堕天種との距離を詰められていた。下がらなければ斬った後に切り分けるのが間に合わずに激突してしまう。ユウキは神機を振り下ろしながら足に力を込めて後ろに跳ぶ準備をする。
『パンッ!!』
炸裂音と共にグボロ・グボロ堕天種に着いている額の砲塔が砕けて怯む。ジーナの支援でグボロ・グボロ堕天種が動きを止めた瞬間、ユウキは足に込めていた力で前に出て神機を振り下ろす。すると『フッ』と空気を切る音と共にグボロ・グボロ堕天種を斬り捨てた。
その後反転すると、赤いヴァジュラテイルを最前列して、その左後ろにオウガテイル堕天種、右後ろに黄色のザイゴート堕天種、少し遅れてサリエルがいる一団が目についてアラガミの群れに突っ込む。
最前線のヴァジュラテイルを攻撃に転じる前に右から左に神機を振って斬り倒し、その間に左から喰い殺そうとするオウガテイル堕天種の噛みつきを後ろに軽く跳んで躱しつつ、左下からの逆袈裟斬りで真っ二つにする。
するとザイゴート堕天種がガス弾を放つが、ユウキは姿勢を低くして潜ると地を蹴ってザイゴート堕天種の上に大きくジャンプする。
(…行ける!)
サリエルが前方にいる事を確認すると、ザイゴート堕天種を踏みつけて勢い良くサリエルに向かって跳ぶ。そのついでに、神機を足下まで振り下ろして踏み台にした後のザイゴート堕天種を斬り倒す。
ユウキはサリエルの眼前まで来ると、神機を振り抜いた勢いを殺さずに、円を描きながら神機を頭上に持ってくる。それと同時にサリエルの額の目が光り出し、レーザーを発射する態勢になる。しかし、サリエルがレーザーを発射するよりも先に、ユウキが唐竹割りの要領でサリエルを両断する。
だが、倒したサリエルの真後ろからユウキを狙ってシユウ堕天種が走ってきた。ユウキは銃形態に変型してシユウ堕天種の頭を撃ち抜くと、シユウ堕天種が怯み、その隙にユウキは剣形態に変型してシユウ堕天種から離れる様に、装甲で地面と水平になるように跳ねる。そして跳ねた瞬間、再び銃形態に変型してシユウ堕天種の胸部のど真ん中にあるコアごと撃ち抜いた。
まだまだ敵は残っている。今度は外周側に抜けようとするヴァジュラを見つける。ユウキはチラッと外周部で戦闘しているシュンとカレルを見る。現在ジーナの支援を受けつつコンゴウと交戦中だった。このままヴァジュラを向かわせると状況は不利になると考え、ユウキは剣形態に変型指せながらヴァジュラに向かっていく。
ヴァジュラが迎撃のため、尻尾の先から雷球を発射する。それを右に跳んで躱し、一気にヴァジュラとの距離を詰める。そしてヴァジュラの左の前足を斬り落とす。
(っ!!)
足を斬り落とした瞬間、ヴァジュラは態勢を崩して倒れるが、ユウキは険しい表情になる。何故なら、ヴァジュラの影からオウガテイルが飛び出して、ユウキの横を抜けていくのが見えたからだ。ユウキは追撃のため、即反転してオウガテイルを追う。
『パンッ!!』
発砲音と共にオウガテイルの大きく開いた口から尻尾にかけて少し小さな風穴が開いた。ジーナの放った狙撃弾がオウガテイルのコアごと胴体を貫いたのだ。
その様子を見たユウキは安堵していると、後ろで倒れているヴァジュラが右の前足を振り下ろしてユウキを切り裂く。しかし、それよりも先にユウキは上に飛び上がり回避する。その間に銃形態に変型して、ヴァジュラの頭上に来ると爆破レーザーを撃ち込むと、ヴァジュラは衝撃を受けて再び態勢を崩す。その隙にユウキは剣形態に変型しつつ姿勢を整え、マントに隠れているヴァジュラの首元に銃口を向ける。
『バァン!!』
インパルスエッジの爆音と共にヴァジュラのマントが砕け、首元の肉をコアもろとも抉り取った。
「ジーナさん!!S35へ!!」
着地の際にS33の残存勢力を確認すると、大型1体、中型5体と大分減ってきたので、ジーナに第二部隊の増援に行くように伝える。その中型のうち1体のコンゴウはシュンとカレルの元で戦闘中なので、残り全てをユウキが相手する場合は5体となる。
(あとは隙を見て2人と合流出来れば…っ!!)
着地の隙を狙ってグボロ・グボロが突っ込んできた。それをインパルスエッジで吹き飛ばそうと構えるが、突如グボロ・グボロの後ろから大量のミサイルが飛んでくる。ユウキは咄嗟に装甲を展開し、グボロ・グボロの突進を防御する。ユウキは後ろに飛ばされ、それを追ってミサイルが装甲に直撃する。
(ぐっ!!)
ミサイルを受け止める度に衝撃で後ろに下がりつつもどうにか全てのミサイルを受けきった。その一瞬の隙をついてグボロ・グボロとミサイルを射ったであろうクアドリガ堕天種がユウキに迫る。
つ混んできた グボロ・グボロの突進を右に跳んで躱し、そのついでに神機を 横に振りグボロ・グボロを両断する。ユウキはそのままクアドリガ堕天種に向かって走ると、クアドリガ堕天種は一度動きを止めてミサイルをばら蒔く。しかしユウキはそれでも前に走る。その結果、全てのミサイルを躱しつつクアドリガ堕天種との距離を詰める事となった。
『ならば正面から撃ち殺すまで。』と言わんばかりに、正面の装甲が開いて冷却トマホークを発射する。しかしそれも、ユウキはジャンプしてトマホークを踏み台にした事で難なく躱す。そして正面の装甲が閉じきる前にクアドリガ堕天種との距離を詰め、神機を全力で下から振り上げてクアドリガ堕天種を両断する。
『『グオォォォオ!!』』
ユウキから見て左右の前方からコンゴウとその堕天種が腕を振り上げて襲いかかってくる。ユウキはコンゴウの間に飛び込み、右足を左から右に振りコンゴウ堕天種を蹴り飛ばし、反対側のコンゴウには神機を振り下ろして切り捨てる。そして蹴り飛ばしたコンゴウ堕天種に向かって走り出す。
『ガガガガガ!!』
しかし、突如蹴り飛ばしたコンゴウ堕天種に銃弾が直撃する。コンゴウ堕天種は向きを変えてカレルの方に走り出す。
「チィ!!余計なことを!!」
ユウキは悪態をつくとカレルの元に走る。
『ドガッ!!』
ユウキがカレルを突き飛ばすと、代わりにユウキが殴られることになった。そのまま数回バウンドした後、態勢を立て直しつつ銃形態に変型してコンゴウ堕天種の頭を撃ち抜く。その怯んだ隙にカレルが機関銃の様に銃弾を乱射し、コンゴウ堕天種の胴体を削っていき、最後はコアを破壊した。
ユウキは辺りを見渡し、残りのアラガミを確認する。残るは2体、
コンゴウとその堕天種だ。
「カレルさん!!シュンさんに合流します!!急いで!!」
「…」
ユウキは指示を出すがカレルからの反応はない。ならば自分だけでもフォローするだけだ。ユウキはシュンの元に走る。
シュンと交戦するコンゴウはボロボロになりながらも腕を振り上げてシュンを叩き潰そうとする。シュンは1度引くと、鋭い逆袈裟斬りで殴ってきた腕を斬るが、大したダメージににもならず 弾かれてしまった。
シュンは今までに剣を嗜んだことがあるのか、太刀筋自体は鋭いのだが それをアラガミとの有効に扱う技術がないため、効果が薄い所にも攻撃を続ける傾向がある。今の攻撃も、本来有効な場所に入れられれば倒す事が出来たはずだった。中々倒しきれない現状と最後の一体のコンゴウ堕天種がシュンの方に向かっている状況で苛つきながらもシュンは神機を握り直す。
「う、うわぁぁああ!!アラガミだあぁぁあ!!」
何故か分からないが、シュンから少し離れた場所から男の子の叫び声が聞こえてきた。シュンだけでなく、ユウキとカレルも『…は?』と言いたげな表情になり動きを止めてしまった。
しかしコンゴウ2体は男の子を狙って走り出す。
「…っ!!やべっ!!」
シュンは我に返ると走り出し、ボロボロのコンゴウに追い付くと、男の子の前に出て、神機を上から下に振り下ろしてコンゴウを両断する。
『グオォォォオ!!』
しかし、斬り倒したコンゴウの真後ろからコンゴウ堕天種が大口を開けて迫ってきた。
『ブシャッ!!』
大口を開けていたコンゴウ堕天種が突然縦に斬り分けられた。そして斬り分けられたコンゴウ堕天種の後ろには神機を振り下ろした格好のユウキが居た。それを見た瞬間、シュンは恨めしそうな目でユウキを睨む。
とにもかくにも、これでS33の防衛戦は終わり。そう思い、タツミに連絡を入れようと、通信機を手に取る。
『『キシェアアア!!』』
しかし、突然何処からともなく赤い体のボルグ・カムラン堕天種と金色のボルグ・カムラン堕天種が現れた。
ユウキはシュンと男の子を突き飛ばしつつ反転する。だが一歩遅く、赤いボルグ・カムランの針がユウキの脇腹を抉り爆発する。
しかしその爆炎からユウキが、飛び出して赤いボルグ・カムランの真上に跳ぶと、神機を下から振り上げて胴体と尻尾を斬り裂き真っ二つにする。そして斬り落とした尻尾を左手で掴むと、槍投げの要領で金色のボルグ・カムランに向かって投擲する。
『ブジュッ!!』
投げた針が金色のボルグ・カムランの頭に突き刺さり怯む。その隙に神機を握り直し、全力の唐竹割りを繰り出して金色のボルグ・カムランを真っ二つに斬り倒した。
-戦闘後-
全体の戦果としては何人かの犠牲を出してしまったが、防衛戦を終えた事をタツミに報告すると、特に増援は必要無いのでそのまま改修班を呼んで帰還するように言われたので、現在帰還の準備をしているところだった。
「まったく…何だってあんな所に?」
ユウキは何故男の子が戦場に突如現れたのか聞いている。
「お父さんの所に遊びに来たときに、アラガミに襲われて…起きたらあんな事に…」
「ああ、そう言うことか…避難所に行ってお父さんを安心させてあげなよ。」
S35には外と繋がるゲートがある。さらには極東支部に直通するバギーが通るための道とゲートもある。それらの管理と守衛、それから外で得られた物品の回収を担当する者の仕事場でもある。その付近にはそこで仕事をする者達の事務所兼簡易居住区もある。この男の子も普段はちゃんとした居住区に住んでいるのだろう。だが父親に会いたくなってここまで来たは良いが、その途中でアラガミの襲撃に巻き込まれたと言ったところだろう。
「はい…ごめんなさい…」
男の子が叱られて項垂れていると、その少し離れた所でシュンが極東支部に向かって歩いて行くのが目についた。男の子はシュンを追いかけると、シュンの手を掴み静止させる。
「あ、あの…ありがとう、お兄ちゃん。」
「…うるせえんだよ。」
さっき助けた男の子がシュンに礼を言う。しかし、シュンそれを足蹴にしてスタスタと歩き始める。
「え…」
「シュンさん!!」
男の子が落ち込んでいるのを見ると、ユウキはシュンを止める。
「そんな言い方しなくてもいいでしょう?!」
「…るせぇ…」
ユウキの説教に対してシュンがボソリと呟く。
「え?」
「うるせえんだよ!!」
「っ!!」
シュンの怒鳴り声にユウキが一瞬怯む。
「テメェに何が分かんだよ?!大勢の人を助けるために立ち上がった『英雄様』には…俺たち見たいなやつらの事なんか分かってたまるかよ!!」
言いたいことを言い尽くしたのか、シュンは苛つきを 隠すことなくそのまま極東支部に帰投した。
「アーク計画は間違いじゃなかった…俺が言いたいのはそれだけだ。」
「…」
カレルもまた極東支部に帰投する。そしてユウキはカレルとシュンの言葉を聞いてただ立ち尽くしていた。
To be continued
後書き
バースト編は原作とは少し変えて序盤は第一部隊以外との関係の変化をメインに書いて行く予定です。(それでも本編描写もそれなり入ると思いますが…)
この辺りは小説版の地下アリだったか天国でも触れられていますが自分は小説を読んだ事はありません。なので自分の解釈で頑張って書いていきますのでよろしくお願いします。