GOD EATER ~The Broker~   作:魔狼の盾

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神蝕剣タキリ「解せぬ」
なんかうちの主人公が優等生になった…おかしいな…ちょっと捻った子にするつもりだったのに…


mission47 答え

 -神機保管庫-

 

 夜中まで訓練をした翌日、ユウキはリッカに呼び出された。神機保管庫には昨日と同様に、作業効率の落ちたリッカが神機の整備をしていた。

 リッカはユウキが来たことに気が付くと小さな声で『あっ…』と声を漏らした。

 

「神蝕剣タキリ…出来てるよ。」

 

「ありがとう。早速試してみようかな。」

 

 このあと3時間後には哨戒任務があるが、それまでならば試運転が出来そうだ。うまく扱えそうなら今回の哨戒任務で出番があるかは分からないが使ってみようかと考えていると、リッカがある提案をする。

 

「ねえ、見に行ってもいい?」

 

「え?」

 

「あまり作られる事のない珍しい装備だからね。ちょっと見ておきたいんだ。」

 

 極東支部でもスサノオ討伐の討伐例は少ないのか、神蝕剣タキリが珍しいようだ。今後のためにもデータを取りたいのだろう。リッカが着いてくる事を了承して、ユウキは訓練室に向かった。

 

 -訓練室-

 

 リッカが管制室に到着してデータを取る準備が終わると、放送で訓練室にいるユウキにリッカから声がかかる。

 

「よし!それじゃあ始めるよ!」

 

 リッカの声と同時にヴァジュラが現れた。

 

  『ガアァァァア!!』

 

「ヴァジュラか…試し切りには丁度いい!」

 

 ユウキが呟いて前に飛び出すと同時にヴァジュラが飛びかかる。その下をスライディングで潜り抜ける。ヴァジュラが着地する頃には、ユウキはヴァジュラの後ろに出ていた。さらにはヴァジュラ姿勢制御のために下げたであろう尻尾がユウキの眼前にあった。

 

「シッ!」

 

 スライデングしながら、短い呼吸と同時に神機を振る。『ヒュン』と空気を切る音と同時にヴァジュラの尻尾が切り落とされる。

 

(ん?これは…)

 

 ユウキはいつものように神機を振っただけなので、変化や違和感に気が付かなかったが、遠目からその様子を見たリッカがある点が気になった。

 しかし、自身の見立てが正しいか判断するにはまだ早すぎる。もうしばらく様子を見てから結論を出すことにして、ユウキとヴァジュラの戦闘に目を向けた。

 ユウキがヴァジュラの後ろから奇襲をかけるが、それを察知したのか、ヴァジュラが前に跳んでユウキと距離をとる。すると、ヴァジュラは空中でユウキと向き合う様に体勢を変えて雷球を飛ばす。

 それを視認した瞬間、右足に力を込めて地面を蹴ると、雷球の下を潜ってヴァジュラに一気に近づく。急加速した勢いを乗せて神機を振ると、再び『ヒュン』という音と共に、未だ空中にいるヴァジュラの前足を何の抵抗もなく切り落とす。

 

(す、すごい…何て切れ味だ…)

 

 さっきの尻尾とは違い、それなりの太さがある前足を抵抗もなく切り落とした事で、ユウキも神蝕剣タキリの切れ味に気がついた様だ。少なくとも、神機と一体になる感覚は引き出せていなかった事は自分でもわかっている。そうなると、この切れ味は神蝕剣タキリ本来の切れ味ということになる。

 しかし、今は訓練用のアラガミとの戦闘中だ。そんなことでいちいち驚いていられない。止めのために横凪ぎに神機を振ると、ヴァジュラが残った足でなんとか横に跳んで避けようとするが、距離が足りずにマントで攻撃を受ける。

 

  『ギィイン!!』

 

 金属音と共に神機を握る手にビリビリと衝撃が走る。勢いよく振ったため、そのまま頭を上下に切り分け、コアごと切り裂いた。

 ヴァジュラが霧散したのを確認すると、リッカから放送が入る。

 

「神裂君、もう1体別のアラガミでデータを取りたいんだけど、いいかな?」

 

「わかった。いつでもいいよ。」

 

 ユウキが了承すると、今度はボルグ・カムランが現れた。ボルグ・カムランが先制攻撃に針でユウキを突き刺す。

 しかし、ユウキは難なくそれを横に避けると、がら空きの正面に向かって飛び出す。今度は神機を縦に振る。

 

  『キィン!』

 

 再び金属音が鳴り、手に衝撃が走る。

 

「チッ!!全く効いてないみたいだな…」

 

 攻撃を加えたところを見てみたが、今度は全く切れていなかった。そのせいでボルグ・カムランに反撃の機会を与えてしまう。

 

  『キシェアァア!!』

 

 ボルグ・カムランが奇声を発すると、体を回転させる事で尻尾を振り回して周囲を凪ぎ払う。それをバックフリップで避けると、ユウキは再び攻撃の体勢をとる。それを察知したのかボルグ・カムランが盾を構える。

 しかし、ユウキはいつもの火刀等を使う感覚で神機を振る。

 

 『ボギンッ!!』

 

 鈍い音と共に神蝕剣タキリが真っ二つに折れる。

 

「え"!!?!?」

 

 予想もしなかった事態にユウキは妙な声をあげて動きを止めてしまった。その隙にボルグ・カムランの針がユウキに迫る。

 

「チィッ!」

 

 ユウキは舌打ちをしながら装甲を展開して構える。ボルグ・カムランとティア・ストーンが衝突する。

 そう思い、ユウキが身構えたその瞬間、ボルグ・カムランが黒い煙となって霧散した。

 

「っ!!」

 

 何が起こったのか理解できずに固まっていると、管制室からリッカの声が聞こえてきた。

 

「ふう、危なかった。試運転は中止!そっちに行くからそのまま待ってて!」

 

 そう言うと、リッカはすぐに管制室から見えなくなった。折れた破片を回収しながら、言われた通り待っていると、5分もしないうちにリッカが訓練室に降りてきて、装甲を展開する等ユウキに神機を動かしてもらいながら神機を観察する。

 

「え?何これ…何でこんな…」

 

 リッカが信じられないといった声と表情で驚いていた。

 

「も、もしかして完全にぶっ壊しちゃった?」

 

「あ、ううん。むしろ逆…壊れたのは刀身だけで、神機本体には何のダメージもなかった…」

 

「えっと…どう言うこと?」

 

 以前火刀を壊したときは神機に何かしらのダメージがあったのに、神蝕剣タキリをへし折った今回は神機へのダメージは無いといっているのだ。前回よりも酷いダメージのはずなのに、神機本体はノーダメージという訳の分からない状態に、ユウキの頭は理解が追い付いていなかった。

 

「神機が休止状態になってるんだよ。でも何で…?」

 

 一見しただけではいつもと変わらないように見えるが、整備で毎日神機を見ているリッカには、細かい変化がわかるのだろう。

 

「えっと…休止状態?になるのはそんなに変なことなの?」

 

「神機は腕輪と接続することで起動するんだけど、神機のパーツ交換のときは休止状態、まあ要するに装備を変えられる状態の事なんだけど、今君の神機はその休止状態になってるの。腕輪と繋がってるにも関わらずにね。」

 

 神機にもいくつかの状態がある。神機と腕輪を接続する事で戦闘を可能にした起動状態、戦闘を行わなず保管するための待機状態がある。

 さらに、待機状態もいくつか枝分かれしている。装備を変更するために、神機と各パーツの結合を弱める、あるいは完全に断ち切る休止状態、機械的な整備や人間で言うところのメンタルケアや健康診断のようなものを含んでフルメンテナンスを行う整備状態というものもある。

 ちなみにフルメンテナンス中は人間で言うところの精神や肉体のケアも行うため、普段抑圧されている神機の補食本能も全開になる。その関係上、専用の整備道具が無いと触れることさえままならないと言う危険な状態なのだ。

 

「?…それってそんなにおかしな事かな?休止状態は神機に元々ある機能なんでしょ?」

 

 ユウキは納得していないといった様子でリッカに聞き返す。説明を聞く限りでは、休止状態は神機に最初からある機能のはず。それが発動すること自体はおかしな事では無い…というのがユウキの考えだった。

 

「言ったでしょ?神機は腕輪と接続される事で起動するって。あのとき神裂君の神機は間違いなく腕輪に接続されていて起動状態だった。それに、神機は起動と休止なら起動が優先されるの。戦闘中に突然休止状態になったら命に関わるからね。」

 

「そっか…腕輪と繋がってるなら休止しないはずってことか。」

 

 リッカの説明にもあったように、起動状態の鍵となるのは腕輪と神機の接続だ。そして神機との接続は使用者の意思で行われる。接続状態が戦闘が可能になる状態ということもあり、この状態では『戦場にいる』という前提になっている。そのため、戦場で待機状態等になるとそれこそ格好の餌食となってしまう。そんなことにならないように、腕輪と神機が接続されると、強制的に起動状態になるようにしてあるのだ。

 今回の場合、ユウキと神機の接続は確かに確認されていた。にも関わらず、神機が休止状態に移行したのは本来ならあり得ない事なのだ。

 

「そう言うこと。本当はきちんと神機を調べたいけど、神裂君…あまり時間ないんでしょ?」

 

「うん。2時間後には居住区で哨戒任務に出る事になってる。」

 

 試運転の準備と実際に動かした時間を合わせると、約1時間足らず時間が流れていた。リッカに会いに行ったのが哨戒任務の3時間前ほどだったので原因を探るにしてもあまり時間はない。

 

「そっか…なら装備の方を解決しようか。よし!強化プランの打ち合わせだよ。1時間で済ませるよ!ほら急いで!」

 

「あ、ああ!」

 

 神機が休止状態に移行した原因を探る時間は無さそうなので、とりあえず神蝕剣タキリが折れた原因と強化プランを考えることにした。

 リッカはユウキの手を引いて神機保管庫に戻っていった。

 

 -神機保管庫-

 

 神機保管庫に着くと、リッカは2、30分程破損箇所を拡大して調べたり、試運転で取ったデータを見て1人で納得したような仕草をしていた。

 その間、ユウキはリッカの後ろでその作業を眺めながらボケッとしていた。しばらく待っていると結論が出たのか、ユウキの方を向いて話を始める。

 

「たぶん、今回の破損の原因は神裂君の身体能力に神機、強いて言うなら装備の強度が追い付いてなかったんだと思う。現状の装備を考えると、刀シリーズ同様に金属や超硬合金を混ぜ混んで強度を上げるのが近道かな?」

 

 リッカの見解によると、武装の強度不足が原因らしい。しかし、そうなると矛盾…とまではいかないが、おかしな事が思い当たる。

 

「そう言うものなのかな?今回の神蝕剣タキリだってオラクル細胞の塊なんでしょ?そんな簡単に折れるなんて思えないんだけど。」

 

 そう、神機の装備は腐っても近代兵器でも傷1つ着かないオラクル細胞の塊だ。もし近代兵器で傷を着けたければ核兵器を平然と使う核戦争を起こさなければならない。いや、それが通じるのは昔の話かもしれない。アラガミも成長し、進化した今となっては、核戦争を起こそうがアラガミに傷を着ける事は出来ない可能性もある。

 そんなオラクル細胞が、偏食因子で強化されているとは言え、人間の腕力で破壊出来るのか疑問ではあった。しかし、それを否定するようにリッカは首を横に振った。

 

「さっき破断面や表面のオラクル細胞の働き、それから試験の記録を調べたんだけど、神蝕剣タキリについて色々わかったよ。」

 

 そういいながら、リッカはデータを取ったメモを見ながら話していく。

 

「まず、神蝕剣タキリは斬れる所を斬るととんでもない切れ味になるけど、それ以外はまるでナマクラ…かなり偏った偏食傾向みたいだね。そのせいで斬れない所を攻撃するとその衝撃が全て刀身に返ってくる。」

 

 確かに、ヴァジュラを切ったときは何の抵抗もなく斬れてしまうとんでもない切れ味だったが、ボルグ・カムランの時は全くと言っていいほどに切れなかった。

 本来の斬ると言う役目を果たせないまま衝撃を加え続ければ装備の方が疲弊していくのは当然だ。

 

「で、問題は次…タキリは君が使ってる刀シリーズと違って、金属を使って強度を上げたりしないで、アラガミの素材をそのまま使ってる。その結果、強度を捨てる代わりに特殊な能力を持ってるんだよ。そんな神機に神裂君の異常に上昇した腕力を乗せて攻撃するとこうなるってわけ。」

 

 『例えるなら骨で作るか金属で作るか位の違いかな?』と最後にリッカが付け足す。

 金属で強度を上げた火刀さえも破損させる異常な腕力であれば、遥かに強度の劣る神蝕剣タキリをへし折る位、造作もないだろう。

 

「なるほど…結局のところ、武装の脆さと俺の身体能力のせいだったのか。加減を覚えてきたと思ったんだけどな。」

 

 結局のところ、ユウキと神蝕剣タキリの相性が最悪だったと言うことだ。最近になって加減が出来るようになってきたと思っていた分、ユウキは明らかに気落ちしていた。

 

「いや。加減はしっかり出来ていたと思うよ?刀シリーズ用の加減だけどね。」

 

「うーん…そう、かな?」

 

 強度の上がった刀シリーズでの力加減は覚えたが、それより強度の劣る神蝕剣タキリではその力加減でも破損すると言うのがリッカの見解だった。ユウキもそれを聞いたら『そりゃそうだよな』と納得した。

 

「さて、悩んでいるところ悪いけど神機の強化のプランは折れた神蝕剣タキリをベースに刀シリーズのように金属を混ぜ混んで強化する…って言うのが一番現実的かなと思うんだけど…特別なギミックとかは必要ないよね?」

 

「うん。いろんな装備も使うしあんまり複雑にすると、神機の学習量が増えそうだし。」

 

 複数の装備を切り換えて戦うユウキにとっては複雑なギミックはむしろ邪魔にしかならない。神機の学習の件もそうだが、ユウキ自身もそのギミックに慣れなければならない。いざ戦うときに、ギミックに不馴れなために全力を出し切れないなんて事に繋がりかねないとして、ユウキはギミックを取り入れる事は基本的にしない。

 

「おっけ!ならあとは強化素材か…スサノオの素材は金属系とは親和性が低いみたいだし、金属との親和性が高いものを経由しないと…何かいい素材はないかな?」

 

「テスカトリポカはどうかな?あいつの装甲は金属系だと思う。」

 

 取り敢えず真っ先に『金属』で思い付いたアラガミ素材を提案する。テスカトリポカの名を聞くと、リッカは納得して考える様に顎に手を添える。

 

「ふむ、確かに良さそう…ならあとはスサノオ素材との親和性か。同じ禁忌種だし相性いいかも…これはこっちで調べておくよ。」

 

「あ、禁忌種ならディアウス・ピターの刃物みたいな翼とかもどうかな?あれも刀?ナイフ?みたいで金属っぽいと思う。」

 

 今度は禁忌種と金属で連想した素材を提案する。『それも良いかも』と思うとリッカは強化用の素材に組み込む事にした。

 

「うん。その路線も行けそうだね。よし!早速色々試してみよう!出来上がりを楽しみにしててね!」

 

「うん。何か手伝えることがあったらいつでも呼んで。」

 

 神機を弄れるからだろうか?以前よりは元気を取り戻したリッカが楽しげに笑う。

 

「そろそろいい時間だ。哨戒任務に行くよ。」

 

「いってらっしゃい。」

 

 哨戒任務まであと1時間を切った。刀身の交換を依頼して、ユウキは出撃準備に入った。

 

 -ラボラトリ-

 

 一方その頃、ソーマはペイラーと共にシオの様子を見にラボラトリに居た。1度は落ち着いたように見えたが、またすぐにボーッとして心ここに在らずと言った様子になった。

 

「博士、持ってきたぞ。」

 

 そう言うソーマの両手にはカーゴの取っ手が握られていた。そのカーゴの中には薄く赤みががった爪か牙に見えるモノが敷き詰められていた。

 

「いやあ助かるよソーマ。けど良くこんなに早く堕龍牙を揃えられたね。」

 

「別に…今まで使ってなかった素材が余ってただけだ。」

 

 ソーマは視線を切るようにふプイッと横を向いた。

 

「そうかい。でも、そのわりとにはかなり急いで用意したみたいじゃないか。よっぽどシオの事が心配だったんだね。」

 

 そんなソーマを見て『素直じゃないな』と感じる。すると、ペイラーはどうしてもからかいたくなり、イタズラ心に従って含みを持たせつつ焦った様子だったとソーマをからかう。

 

「なっ?!テメッ?!」

 

 ソーマが動揺し、大声でペイラーに食って掛かる。だがその様子はどう見ても照れ隠しにしか見えずペイラーはソーマの変化を微笑ましく思っていた。

 

「んー…」

 

 しかし、ソーマの声に反応して眠っていたシオが目を覚ますと、ペイラーはソーマの抗議を受け流してシオに食事である堕龍牙を与える。

 

「おや。お目覚めだね。さあ、シオご飯だよ。」

 

「んあ?…んー…?」

 

 意識がハッキリとしないまま、シオは与えられた堕龍牙をムシャムシャと食べ始める。すると、少し以前の元気を取り戻したのか、『美味しい!』や『うまい!』と無邪気な笑顔で食べ続けた。

 

「チッ…!呑気なもんだぜ…」

 

 ソーマが無邪気に食事をしているシオ見て悪態をつく。しかし、その口角は微妙に上がっていた。

 

「まあ、そう言わないで。たまには世話を焼くのも良いものだろう?」

 

「冗談じゃない。いつも厄介事ばかり押し付けやがって。」

 

 さっきまで緩んでいた表情が固くなり、いかにも不機嫌ですと言いたげな表情を作る。だが、その不機嫌そうな表情もいつもと比べるとまるで取って付けた様な、急いで無理矢理作った様な表情だった。

 しかし、話を進めると同時にソーマの表情は真剣なものになった。

 

「それに、シオの状態は気になるが、あれから姿を見せないクソ親父の事も気がかりだ。おそらくエイジスに籠ってるんだろうが…何か知らないか?」

 

「残念ながら何も。ただ、ヨハンが私にすら連絡を寄越さないと言うのがどうにも気がかりだ…何か裏で動いているのかも知れないが…今はシオの回復に努めるとしようか。」

 

「情報なし…か…後手に回るのは性に合わないが…今は向こうの出方を待つか…」

 

 ソーマとペイラーの話が終わると、2人はシオに目を向ける。以前空母で突然行方を眩ませた時のように、ヨハネスの網に自ら掛かりにいくような事態は避けたい。正直今の状態が続くといつ飛び出したりするか分からないので、気が気じゃないと言うのが本音だ。

 そのため、シオの回復を優先しようとしているのだが、今はシオの件もヨハネスの件も様子見するしかないと結論付けて話を終える。その傍らで、シオは食べるだけ食べて満足したのか再び眠りに落ちた。

 

 -1週間後-

 

 リッカに新装備の製作を依頼してから1週間が経ち、ユウキの元に装備が完成したと連絡が入った。

 ユウキが神機保管庫に着くとリッカは以前の様に忙しなく動き回っていた。

 

「リッカ?」

 

「やあ、例の装備…ようやく完成したよ。」

 

 ユウキが話しかけると、リッカは以前のような明るい笑顔でユウキを迎えてくれた。対するユウキは、アーク計画の件で未だに迷っているのか、どこか暗い表情だった。

 話の途中で、リッカがピンク色にも見える薄い赤紫色の刀の方を向いたのでユウキも釣られてその刀の方を見る。

 

「うん…ありがとう。」

 

 ユウキは礼を言いつつも、リッカの変化が気になっていた。

 

「なんか…雰囲気変わった?いや、戻った…って言ったら良いのかな?」

 

「自分なりに答えを出せたから…かな?」

 

「答え…」

 

 リッカの言う答えと言うのはアーク計画に対する答えだろう。ユウキはこの1週間の間に答えを出せたリッカが羨ましく思った。

 

「いろいろ考えたけどさ、私…方舟に乗るのはやめとくよ。」

 

 リッカが自分の考えをユウキに話し始め、ユウキは黙って聞いている。

 

「支部長が言ってる事はさ、たぶん沈みそうな船から逃げるべき人を逃がすって事だと思う…言ってる事は正しいんだろうけど…私は船を直すべき人間だから…そんな自分が船から真っ先に降りるわけにはいかない。」

 

 あくまで自分は技術者…戦場で仲間が困らないように、皆が扱う武器を最善の状態で渡すのが役目だと言うスタイルを崩さないようだ。共に戦場に出ることは出来ないが、仲間の命を預ける武器の手入れをする事で一緒に戦う。そのスタイルこそ自分の思う技術者の姿だと思い出したようだ。

 

「それにさ、残された船に残って戦う仲間がいるのなら、私はその仲間たちのために一緒に戦う…それが私の流儀だって気がついたからさ。」

 

 そう言うとユウキを近くの長椅子に座らせ、その隣にリッカが座る。

 

「この1週間、仲間のためにひたすら神機を弄り続けたことで、私の原点って言うのかな?それを思い出せた。ここに残った仲間と…神裂君のお陰でね。」

 

「俺は、そんな大それた事…してない。この1週間も、ずっと考えが纏まらなくて…仲間の助けになりたくて…強くなるって決めたのに、アーク計画が発動すれば…そんな決意も無意味なモノになる。」

 

 自分のお陰だと言われても、はっきり言っていまいちピンと来ない。実際、ユウキは武器製作を頼んで、ひたすら任務と訓練を重ねて悩みから逃げただけだった。そんな自分のお陰だと言われても、それが事実とは思えない。

 しかし、そんなユウキの迷いを聞くと、リッカは真剣な目でユウキを見た。

 

「本当にそれだけ?」

 

「…え?」

 

 リッカから予想もしない言葉が飛んできて、ユウキは困惑して返事を返すのが精一杯だった。

 

「本当にそれだけなの?なら…何で今でも強さを求めるの?」

 

「…」

 

 ユウキはリッカの問いに答えられなかった。計画に乗るか、計画を潰すかさえも決めかねている状況で、力が必要かと言われれば疑問ではある。

 しかし、そんな状況でもユウキは自身の力の制御や神機の扱い方を改善しようとしていた。

 アーク計画が発動する瀬戸際ではそこまで過剰な力は必要ないはず。何故そこまでして力を欲したのか、そこに答えがあるのではないかとリッカは言っているのだ。

 

「きっと仲間のためだけじゃないからだと思うよ。君の答えはきっとそこにあると思う。」

 

「俺の…答え…」

 

 仲間のため『だけ』じゃない。ならば他に何があったのか、今までに自分どんな体験をしてきたのかを振り返り始めた。

 

(アリサやコウタ、ソーマにサクヤさん、シオもリッカも…守りたい、助けになりたいと思って強くなろうって決めた…そのきっかけがリンドウさんの死だった。自分の無力さを思い知った…から?)

 

 真っ先に思い付いたのはリンドウの死がきっかけで強くなろうと決めたことだ。しかし、この時の事を思い出してみると少し違和感があった。

 

(あれ違う…?そう言えばその前から強くなろうとしていた…エリックさんが目の前で殺されて、死ぬのが怖くて…その後…)

 

 一番最初に悪い意味で印象に残った事を思い出す。目の前でエリックが頭を喰い千切られて死んだ事だ。この時、死ぬことが怖くなって、少しでも死から逃げるために、強くなろうと決めた。

 しかし、この時はまだ新人と言う甘えもあり、そこまでキツい訓練はしていなかったはず。

 そうなるとそこから先、そしてリンドウの死よりも前に何があったかを思い出す。

 

(確かあの時…キャラバンの人たちと会ったんだ…あの時、助けられなくて、助けてもらえなくて…泣いてた。)

 

 キャラバンの少女が命懸けで助けを求めても、規則だからと足蹴にされて悲痛な表情で泣き叫んだ事も、それを目の当たりにして己の無力さを思い知らされて、悔しさのあまりゲートを殴ってひしゃげさせた事も、今はハッキリと思い出せる。

 

(そうだ…!俺と同じ境遇の人を1人でも減らしたくて、戦う術も、守る術も持てない人たちを助けたくて強くなろうとしたんだ!)

 

 キャラバンの一件の後、すぐにリンドウの事件があり、その後リーダーに抜擢され、シオと出会っていろんな事があった。

 あまりに短い間にいろんな事があって、大事なことであるはずの強くなろうと思ったきっかけを忘れてしまっていたようだ。

 

(思い出した…俺が強くなろうと思ったきっかけ…戦う理由…)

 

 そう思いながら一つ一つ思い出していく。

 

(以前の俺の様に…毎日アラガミに怯えて、飢えに苦しみ、非道な扱いを受ける人達の助けになりたい。)

 

 カエデやペイラーの言う自分にとって大切なモノ、やりたいこと、なりたい自分を思い出せた。

 

(そして俺の目指すモノは…ゲンさんの言っていたゴッドイーターの本分と同じだ。)

 

 以前ゲンの口から語られたゴッドイーターの在るべき姿…それが、自分の思うゴッドイーター像と一致していた。だからその話を聞いた時、理想的なゴッドイーターだと感じたのだろう。

 

(けれど、皆が同じ考えって訳でもない。残る人もいれば逃げる人もいる。)

 

 タツミの様に自分の生き方に誇りをもって残る者もいれば、カノンの様に答えを出せない者いる。ブレンダンやカレル、シュンの様に星を捨て、生きる道を選ぶ者もいる。

 どんな理由にしても、大勢の人を犠牲にして自分だけ助かろうとする決断をした彼らは、一見非道な人間だと思われそうだ。しかし、アーク計画の件で多くの人の意見や考え方を聞いたユウキは、一概に彼らを『非道な人間』と一括りには出来ないと思っていた。

 ユウキは多用な意見を聞いて、自身がそうであった様に人…強いて言うなら生命体の本質は『逃げる』事にあると感じた。危険や苦痛、過激な環境…生き残るために、生命を脅かす『死』を連想させるものから物理的な距離、あるいは適応して進化すると言う形で逃げる。さらには人の様な『感情』を持つ生物は迷い、悩み、後悔する事から生まれる苦悩で、精神が不安定になることからも逃げようとする。

 そのために生命体は安心、安全、安楽と命の危機のないところや、精神の安定するところへ逃げる。だからこの星を捨てて生き延びる決断は、『人間』と言う『生命体』にとって辿り着いたとしても何ら不思議ではない普通の考えだなのだとユウキ自身は思っていた。

 しかし、たった今固めたユウキの決断は、そんな命の本質にしたがった者達の意思に反している。毎日が命懸けの『イカれた世界』では誰もが生き残るため、死から逃れるために我先に助かろうとするだろう。そんな状況でごく一部だが確実に助かる手段を、自分が『後悔するから』と言う理由で奪うのだ。

 意味合いや規模は違うが、ジーナが残る理由のように自分がやりたいから、後悔したくないからと言う、ひどく自分勝手な理由だとユウキ自身も思っている。

 

(でも…例え綺麗事や偽善者と罵られても…俺は皆とこの世界で生きていく。)

 

「?…神裂君?」

 

 突然物思いに耽ってしまったユウキを心配してリッカが声をかける。

 

「ありがとう…リッカ。お陰で大事な事を思い出せた。」

 

 そう言ってユウキは立ち上がり、リッカの方を向いた。

 

「もう迷わない。俺は…残って支部長を止める。俺は俺のエゴを押し通す。」

 

 迷いのない、真っ直ぐで強い意志を持った目をリッカに向ける。目の前にいるユウキは、いつもと変わらない女にしか見えない顔立ちのはずなのにハッキリ男だと認識できる何かを感じる。突然ユウキが男だと思わせる変化を目の当たりにして、リッカの心臓は早鐘を打ち始め、顔も熱を持っていた。

 

(あれ…何か…顔が熱い…?!)

 

 そんなリッカの変化を他所に、ユウキは新しく作られた装備に近づいた。

 

「あ、リッカ…コイツの名前、決めていい?」

 

「え?あ、うん。」

 

 突然話しかけられてリッカは驚きながら返事をする。

 

「『護人刀』…人を守るための守り刀…今すぐは無理でも、必ずコイツを使うのに相応しい強さを手に入れて見せる。」

 

 かつて極東の地で人々が魔除けの御守りや魑魅魍魎から家族を守る守り刀として使った護身刀の名に因んだ名前にした。

 今の時代では相手は魔ではなく神であるが、その意味合いは変わらない。『自分達』が人々を守れるような存在になると言う誓い…そんな意味を込めて護人刀と名付けた。

 

「ありがとうリッカ。早速任務で使ってみようかな?」

 

「あ、ユウ!」

 

「何?」

 

 リッカがしたの名前でユウキを呼ぶ。無意識に出てきた呼び方にリッカ自身も戸惑ったが、呼ばれた本人はさほど気にしていないように振り返ったので、怒らせた訳でもないととりあえずホッとした。

 だが、リッカの中で神裂ユウキと言う男の印象は大きく変わった。今までは大人しくやや頼りない印象と、公開されているプロフィール上年下と言うこともあり弟の様に見ていた。だが、強い意志、決意が宿った目を見た後からは、一人の男として見ているようだ。

 そんな自身の変化にドギマギしながら、ユウキの役に立つであろうある提案をする。

 

「あ…あのさ、支部長と戦うなら、役に立ちそうな物があるんだ…あとは最終調整だけだから、ちょっと付き合ってくれない?」

 

「そっか…それは…」

 

 リッカからの提案を聞くと、ユウキは不適な笑みを浮かべた。

 

「いいことを聞いた…」

 

To be continued




後書き
 ようやっとユウキがデモデモダッテなヘタレから脱しました。書いているうちになんだか進路に悩む中高生にしか見えなくなったのは私だけでしょうか?
 勢いで書いたらなんかリッカがチョロインになった気が…ただ地味で大人しくて頼りない印象の子が大きな決断をして男になっていく様子は個人的には好きです。ギャップ萌えってやつです。(ちょっと違う?)
 自分のネーミングセンスのなさに泣いたorz

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