GOD EATER ~The Broker~   作:魔狼の盾

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あああぁぁ…ぺごにモチベが吸われるのぉ…


mission46 選ぶ意志

 -極東支部-

 

 スサノオのコアを回収し、ユウキとソーマは極東支部に戻ってきた。当然、シオの食料として、スサノオの素材も回収してある。しかも今回はヨハネス直々の任務ではあるが特務ではなかった。尚更、素材の横流しが楽に出来た。

 だが、その途中でエントランスを通った瞬間に違和感を感じた。誰も彼もが妙によそよそしく、ピリピリした空気が流れていた。

 さらには人が居るにも関わらず『特異点が見つからねえ…全く情報も無いなんて…クソッ!誰か隠してんのか…?』と言うカレルの独り言がはっきりと聞こえるまでに静まり返っていた。

 そんな極東支部に帰還したユウキとソーマは、この異様な空気を感じて怪訝そうな顔でエントランスを抜けていった。

 

 -ラボラトリ-

 

「いやあご苦労様!シオの食料に鳥神大爪…ホントに助かるよ!」

 

 ユウキは頼まれた素材が入ったカーゴをペイラーに渡す。そのついでに、ペイラーにエントランスでの異様な空気について聞いてみる。

 

「あの…博士。アナグラが…その…何か変な気がするんですけど、何か知りませんか?」

 

「うーん…そうだね、今第一部隊の大半がアナグラから抜けて他の神機使いがフル稼働している。皆休み無く働いてストレスが溜まってるのかもね。」

 

 『リーダーが部隊員の手綱も握れていないって酷くバッシングしてたよ。』とペイラーが付け足すと、ユウキは事実だから仕方がないと苦笑いした 。

 

「極めつけは疲弊した心理状態でのアーク計画の情報開示だ。この話を聞いてアナグラ全体が猜疑心に満ちている。通常の防衛任務をこなす者…特異点であるシオを探す者…皆バラバラでも、とにかくアナグラに居ないように「おい、シオが起きたぞ。」…おや、お目覚めだね。」

 

 会話の途中でソーマがシオの目覚めたと報告する。シオの容態の改善を優先したいペイラーは当然そちらに気を向けて食事を与える。

 そんな中、ユウキはなぜアナグラが猜疑心に満ちているのか気になった。アーク計画の詳細を聞いて、動揺することはあっても誰かを疑う必要は無いはずだと考えていた。

 

「ん…イタダキマス!」

 

 しかし、ご飯を見て元気を少し取り戻したシオの声でユウキは我に返る。しばらく見ていたが、いつもの通り勢いよくムシャムシャと食べていた。

 

「少し落ち着いたようだな。しばらくは様子見だな。」

 

 食事の様子を見ていたソーマがシオの状態を見て、前よりはマシだと判断した。確かにこの間のようにボーッとした様子も、人が変わったかのようになる様子も見受けられない。

 

「うん…そうだね。」

 

 シオの症状が改善されたかは様子を見るしかないと思い、ユウキも様子見に同意する。

 

「俺は…シオの件が一段落したら支部長を潰しに行くつもりだ…」

 

「そう…えっと、お、俺…も…」

 

 予想通り 、ソーマはヨハネスと敵対するようだ。だが、それは人類が確実に生き延びる道を潰す事になる。確かにブレンダンと話したときも思ったが、大勢の人間を犠牲にするアーク計画は正論かも知れないが正しくはない。だが、アーク計画を潰した後、人類に未来はあるのかを考えても疑問符を浮かべる。

 未だにユウキ自身はどうするか選べないまま、周りが決意を固めていくところを見せつけられる。『俺も戦う』その最後の 一言を口にする覚悟が未だに持てなかった。

 そんな苦悩を読み取ったのか、ソーマが独りで話を進める。

 

「お前の助けは期待していない。1人でも…行くさ。」

 

「ごめん…」

 

 最後の一言を言う覚悟を持てない自分が情けなくなって、ユウキは逃げるようにラボラトリを 出ていった。

 

 -エントランス-

 

 少しでもアーク計画の事を忘れたくて、ユウキ久しぶりに訓練室に籠る事にした。体を動かしている間は他の事を考えないで済む。そう考えての事だったが、エレベーターを降りた瞬間に周囲から突き刺さるような敵意を感じた。

 それに、ペイラーから極東支部が猜疑心に満ちていると聞いたせいか、敵意だけではなく、敵か味方か…相手を探る様な視線を感じた。

 敵意はいつもの事なので取り敢えず置いておくが、この疑念に満ちた視線を受け続けるのは何とも居心地が悪い。

 取り敢えずそう言った視線を送ってこない人を探すと、真っ先にゲンが目についた。

 

「あの、ゲンさん…何だかアナグラがおかしいんですけど…一体何が?」

 

「ああ、これか。タツミの奴から聞いたんだが、例の件…どうやら箝口令が敷かれたらしい。」

 

「箝口令…ですか?」

 

 例の件とは、おそらくアーク計画を指しているのだろう。しかし、箝口令が敷かれているとはユウキ自身は聞いていなかった。

 なぜ自分と他人で情報に食い違いがあるのか考えていると、ゲンが話を進める。

 

「まあ、アイツ…支部長は昔っからこう言う薄汚いやり方だな。タツミとかが嫌いそうな手だ。」

 

「え?支部長の考え…分かるんですか?」

 

 ユウキは驚いた様な顔でゲンに聞き返す。

 

「アイツが何を狙ってこんな事をしたかって事くらいはな…まず方舟のチケットを餌に忠誠を誓わせる…そいつには箝口令を敷いて、忠誠を試しつつアナグラ全体を疑心暗鬼の状態に陥れる。これでアーク計画にとって、敵か味方かをあぶり出す…何ともアイツらしい人心掌握のやり方だ…」

 

 要するに、アーク計画には特異点と呼ばれる物が必要だと言う情報は与えるが、特異点とは何なのか等、詳細な情報は一切敢えて与えない状態で箝口令を敷いたのだ。

 最初こそ我先に特異点を手に入れようと躍起になっていても、何の収穫も無いままでは、同じ神機使いから情報を得るしかない。アーク計画に乗るものは『コイツなら情報を持っていそうだ』と疑いの目を向けながら積極的に情報を聞き出そうとする。

 計画に乗らない者は懐疑的な目を向けられる事に耐えながら日々の任務をこなしていく。

 さらにはアーク計画に乗る者でも、積極的に捜索をする者とそうでない者がいる。前者はチケットに食い付き真に忠誠を誓った者、後者は口だけの忠誠を誓う者を選別する事も出来る。

 だが、そんな状態で特異点の情報をが一切出てこなければ、支部内の神機使いは精神的に追い詰められ、アーク計画に乗る者はより必死に特異点を探し、始めは計画に乗らないつもりだった者もこの懐疑的な視線にさらされ続ける事を終わらせたくて特異点を探し始める。

 そして、それでも屈しなかった者がアーク計画にとって邪魔な存在と言うことになる。恐らくユウキを始めとした第一部隊のメンバーは、サクヤ達がエイジス島に侵入したときから、或いはもっと前からアーク計画の敵と疑われていたのだろう。だからユウキと他の神機使いとの間で情報の食い違いがあったと考えるのが自然だ。

 しかし、ユウキ達が方舟に乗ることまで阻止する気は無いようだ。忠誠を誓い特異点を探す、或いは差し出すのであれば方舟に乗せること自体はやぶさかでも無いようだ。

 

「えげつないやり方ですね…」

 

「そうだな。それにしても…慎重なアイツがここまで手の内を見せるとはな…もはや、世間に知れ渡っても計画を完遂する自信があるからなんだろうな…」

 

「完遂…する?」

 

 ゲンの『読み』を聞くと、気になるワードがユウキの頭に引っ掛かる。

 

(完遂する自信がある…?まさかシオの事がバレてる?)

 

 ユウキが最悪の状況を想像する。アーク計画を完遂する自信がある。つまりは特異点に目星がついていると言うことになる。

 確かに、極秘の計画をここまで開示するタイミングとシオを連れ戻した時期は重なっている。ヨハネスがシオが支部内に居ることに気がついているなら、実質特異点はほぼ手中に納めたとも言える。

 

(い、いや…博士のセキュリティやその他諸々はアナグラから隔離されているはず…なら博士のラボを強制捜索でもしなければ分からない…はずだ。)

 

 しかし、ユウキはラボラトリの情報は極東支部から隔離されていると以前ペイラーから聞いている。ならば、直接シオを目撃しなければバレることはないと考えてゲンとの話に意識を戻す。

 

「そういやお前さんも支部長に呼ばれたんだったな…どうするか決めたのか?」

 

「…」

 

 ゲンの問いにユウキは思わず黙り混む 。アーク計画に対する答えが出せていない今の状態では答えられるはずもなかった。

 

「まあ、分からないなら何も答えなくていい。あくまでも俺の考え…と言うか信条なんだが…」

 

 一呼吸おいてゲンが続ける。

 

「神機使い…ゴッドイーターの本分は、この弱肉強食の世界で、弱い者を守るために強いモノを喰らい退けること…俺はそう思っているし、そうしてきた。この通り俺はもう老いぼれでそんな力はないが、その意志が少しでも根付くように若手にアドバイスなんかをしてきたつもりだ。だから、この先も俺はこの信条を貫き通す。俺がお前の立場なら、計画には乗らないな。」

 

「…」

 

 ゲンの信条を聞いて、ユウキは固まる。そこには理想的なゴッドイーター像が描かれていて、それを正しいと信じた男の信念を感じた。

 だが同時に、それを聞いた後には計画に乗ってはいけないと言う、強迫観念の様なものに苛まれた。

 

「おっと…おしゃべりが過ぎたな。老兵の戯言だと思って聞き流せ。後はお前自身で決めるんだな…」

 

 そう言ってゲンはその場を去っていった。1人残されたユウキはゲンの言葉を思い出していた。

 

(弱い者を守るために強いモノを喰らい退けること…それがゴッドイーターの本分…)

 

 ならば自分のそうするべきなのか?一瞬そう考えたがそれは違う気がした。あくまでこの答えはゲンの答えでユウキの答えではない。参考にすることはあっても、そのままこの考えに飛び付くわけにはいかなかった。

 

(でもそれはゲンさんの思う信条…俺の場合は何だ?それが分かれば…答えが見つかる?)

 

 何となくゲンの言葉が、いままでカエデやペイラーに言われた事にも繋がる様な気がした。自分にとっての戦う理由、ゴッドイーターとは何なのか。それが見えてくると答えが出せるような気がした。

 しかし、この場でいくら考えても答えは見つからず、結局訓練に行く事に逃げた。

 下階に降りると、第二部隊がカウンター前に集まっていた。すると、ブレンダンがユウキに気がついて話しかけてきた。

 

「神裂か…お前とはこれが最後かもしれんな。俺は呪われた航海に出る。ここまで愛する者たちの屍を乗り越えて、多くの人を犠牲にしてここまで生きてきたんだ。自分からこの命を捨てるなど、許されるはずもない…」

 

「そう、ですか…」

 

 自分が生き残ってこられたのは、多くの人が自分を生かすために犠牲となった者が居たからだと理解しての考えだろう。客観的に見ても、ブレンダンはヨハネス同様クソがつくほど真面目だ。その真面目さが、自分の命をここで終わらせる事は犠牲にしてしまった者達への冒涜になると考えたのだろう。

 

「ブレンダンさんは計画に乗るんですね…私はまだ選べないんです…夜中でも考え込んで眠れなくって…助かったとしても、見捨てた人たちを忘れて、何事も無かったように生きていけるのか…そんなこと…できないです、きっと…」

 

「それは、俺も分かります…多くの人を見捨てて生き延びても…きっと後悔すると思います。でも、仮に計画を止められたとしても、絶望的な未来しかない…どっちを選べば良いのか…」

 

 カノンの考えはユウキの考えに近いものだった。何を選んでも大勢の人が死ぬ。かと言って計画が正しい訳でもなく、何を選べば良いのか分からず悩んでいる。

 そんな3人の様子を見て、タツミが『辛気臭えなぁ!』と足蹴にする。

 

「どいつもこいつも縮こまって…面白くねえ!」

 

 人当たりのいい 熱血漢というイメージのタツミが珍しくイラついている事を隠さずに、声を荒らげて極東支部の現状に反発する。

 

「タツミさんは乗らないんですね…」

 

「まあ、お前はこんなやり方気に入らないだろうな。」

 

「当たり前だ!俺は死ぬまで防衛班だ!これは俺の誇りであり、生き方だ!今さら曲げるつもりはねえ!それに俺は船酔いがひどいんでな!方舟なんてもん乗らねえよ!それにな…」

 

 声を荒らげていたタツミが急に声量を落とす。

 

「まだヒバリちゃんとデートしてないんだよ!だからヒバリちゃん!今からいかない?」

 

「あ、じゃあ私方舟に乗りますね。」

 

「え?あ!じ、じゃあ俺も方舟に…いやでも、俺は防衛班だし…ど、どうすれば…」

 

 ヒバリが方舟に乗ると言った瞬間、タツミは慌て始める。だが、ヒバリが本気で言っている訳ではない事も、タツミも最後には残る方を選ぶ事もその場に居た者には何となく分かる 。

 

「ヒバリさん…空いてる訓練室はありますか?」

 

「今はどの訓練室も空いてますね。第一訓練室で手配しておきますね。」

 

「お願いします。」

 

 訓練室使用の手配を頼むと、ユウキは上階に上がっていく…はずだったが、丁度任務が終わり、上階から降りてきたジーナと鉢合わせる。

 

「あ…すいません。」

 

 そう言ってユウキはその場から後ろに下がった。ちなみに下階のミッションカウンターと出撃ゲートのある上階を繋ぐ階段はカウンターの両サイドにあるが、どちらも2人が通る事ができない幅になっている。

 

「ねえ?貴方はアーク計画…どう思ってるのかしら?」

 

「え?」

 

 すれ違い様にジーナがアーク計画について聞いてきた。ユウキはここでアーク計画について考えた事を話していく。

 

「アーク計画が正しいとは思ってません…でも、人類が生き残るには、現状この計画しかない事も事実です。」

 

「だから、選べない…と?」

 

「…そう、です。」

 

「ふーん…」

 

 ユウキの考えを聞いたジーナだったが、興味が無さそうに返事をすると、そのままヒバリに任務終了の報告に行こうとしたを、ユウキが慌てて止める。

 

「あの!ジーナさんはアーク計画に乗るんですか?」

 

「ああ…私は地球の再生とか方舟とか…あんな誇大妄想に付き合う気は無いわ。何より好きに撃てなくなるじゃない。そんな世界に興味は無いわ。」

 

 ジーナが計画に乗らない理由は至極単純で『撃てなくなるから』だった。確かにジーナらしいと言えばらしいのだが、あまりにも自分勝手過ぎないか?と思ったが、大きな選択をするにはこの位の自分勝手さも必要なのだろうと自分を納得させて、ユウキは上階に上がる。

 

「おい人形!ちょっといい取引があんだけどよ!」

 

「取引…ですか?」

 

 訓練室に向かう途中、シュンに呼び止められる。以前投げ飛ばしたにも関わらず、普通に話かてきたのでユウキは少し警戒している。

 

「ああ、損はさせねえぜ!特異点の情報がわかったら俺も回収任務に連れていけよ。その代わり、俺が見つけたらお前を呼んでやるからよ。もし取引に応じるなら、この間の事は水に流してやるよ!」

 

 要するに特異点の情報をお互いに交換する約束をする代わりに、投げ飛ばされた事も許すと言うのだ。

 この取引を持ち出す辺り、シュンは計画に乗ると見ていいだろう。

 

「…まあ、いいですよ…」

 

 しかし、この取引はユウキが方舟に乗る側でなければ成立しないのだが、取引に応じなければ解放してくれなさそうなので取り敢えず了承しておく。

 それを聞くとシュンは満足そうな顔をしてヒバリの元に向かう。シュンも大衆を犠牲にしてでも生き残りたい理由があるのだろうか?そんな事を考えながらユウキは神機保管庫に向かった。

 

 -神機保管庫-

 

 ユウキは訓練前に装備の新規製作を頼もうと、リッカの元に訪れたが、どこか上の空でその手はいつもと比べると遥かに遅く、効率がかなり落ちていた 。

 

「リッカ…?」

 

「え?…あ!何かな?」

 

 ユウキに話しかけられるまでその存在に気が付かなかったようで、驚いたように慌てて返事をする。

 

「スサノオの素材が沢山手に入ったんだ。確か神蝕剣タキリって名前だったかな…?それを作って欲しいんだけど…」

 

「ん…了解。」

 

「じゃあ…後、お願い。」

 

 いつもと比べると明らかに短い会話を終えて、ユウキは神機を受け取って訓練室に向かった。

 

To be continued




後書き
 もうすぐ無印編も終わりと言うことでユウ君も色んな人の考え方や答えを聞いて答えが見え始めたところです。この辺りで見られるゲンさんのような『信念を持つ男』のカッコ良さを表現出来たら良いのですが…
 ただ本編でも大事な所なのにペルソナ5に夢中になったりとモチベが持っていかれているんですよね…

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