GOD EATER ~The Broker~   作:魔狼の盾

42 / 126
明かされる真実、動き出す計画、真実を知り、ゴッドイーター達は何を選ぶのか…


mission41 アーク計画

 -サクヤの部屋-

 

 ユウキとアリサは、サクヤの部屋で先日奪還したリンドウの腕輪を使い、開けられない置き手紙を開こうとしていた。既にディスクはターミナルに入っていて、あとは腕輪の認証が通れば中身が見れると言う状態だった。

 

「それじゃあ、始めるわよ…」

 

 そう言ってサクヤは腕輪をターミナルに挿入する。

 

「認証…通ったわ!!」

 

「レポートファイルが1つ、リストファイルが1つ、それにプロジェクトファイルが1つ、後は何かのプログラム実行ファイル…ですか?」

 

 ロックが解除されて、自動的にディスク内のフォルダが開かれる。そこにはいくつかのデータファイルが入っているだけだった。

 

「実行ファイルは何が起こるか分からないから、先にレポートから見ていきましょう。」

 

 サクヤがターミナルを操作してレポートファイルを開く。

 

『エイジス計画を隠れ蓑に『アーク計画』という別の計画が進行している事は疑いようがありません。アーク計画は『真の人類救済のための計画』とされているが、その全容は不明。調査の過程で関連資料と思わしきリストを入手しましたので、添付いたします。』

 

「アーク計画…?2人は聞いた事ある?」

 

「いいえ。」

 

「私も初めて聞きました。レポートによると、リストファイルは関連資料の様ですけど…」

 

 ここに居る3人共、初めて聞いた計画の名前に困惑する。どうやらエイジス計画は『人類救済』を目的としたアーク計画のためのものらしい。その内容を知るべく、関連資料であるリストを開く。

 

「各支部の神機使い、役員、エンジニア、スタッフ…その親族?」

 

「私たちの名前もありますね。」

 

 リストは本部や各支部で役職に分かれていて、非常に綺麗に整理されていて分かりやすかった。そのため、割りと直ぐに見知った名前をいくつか目にする事となった。

 だが、このリストは結局何なのか、どんな目的で使われるのかは分からないままだった。

 

「アーク計画に必要なリストみたいてすけど、どう使われるんでしょうか…」

 

「今考えていても仕方ないわ。プロジェクトファイルを開いてみましょう。」

 

 そう言いながらサクヤは別のファイルを開く。タイトルは『エイジス潜入』となっていた。

 

『アーク計画の全貌を掴むにはエイジス島を直接調査するしかないようだ。先日発見したエイジス島の管理システムのバグを利用し、警備システムを一時的にダウンさせるプログラムを作成した。これを使えばすぐに対策されるはず。チャンスは一度しかない。』

 

 どうやらリンドウはアーク計画の全容を掴むため、エイジス島に潜入しようとしていてたようだ。その事を知ると、サクヤは思わずため息をついた。

 

「なるほど…まったく、リンドウったら私にも黙ってこんな事を…」

 

「サクヤさん…」

 

 少し憂鬱そうな雰囲気を出すサクヤをアリサが心配する。

 

「でも、これで色々と見えてましたね。」

 

「ええ。たぶんリンドウは、このアーク計画の事を知りすぎたせいで殺されたのね…しかもこの支部の誰かに…!」

 

 リンドウが殺された理由には察しがついたユウキだったが、サクヤが返した話を聞いた途端に驚いたような声を上げる。

 

「え?それってどう言う…あ!!」

 

 サクヤの言った事を最初は理解出来なかったが、少し考えてたらあらゆる情報が繋がった。

 人類救済の計画、カムフラージュの為のエイジス計画、そして名簿リスト…これらの情報から、ユウキはとある仮定に行き着いた。

 

「そう、アーク計画にはエイジス島が関わっている。となれば、その計画を進行している極東支部の誰かが、このアーク計画に関わってるって事…でも、これで私が次に何をすべきか、分かったわ。」

 

「リンドウさんの遺志を継ぐんですね!」

 

 アリサからしてみれば至極当然の事を言ったつもりだったが、サクヤの返事は予想外なものだった。

 

「いいえ。この事は忘れましょう?」

 

「な、何を言ってるんですか!」

 

「ならアリサは…フェンリルと言う組織を敵に回す覚悟はあるか?」

 

「…え?」

 

 サクヤとアリサの会話の中で、突然ユウキが割って入る。その目は任務中の様に鋭くなっていた。

 

「俺の予測でしかないけれど、レポートによるとアーク計画は人類救済のための計画と銘打ってる。そして、その関連資料に名簿…計画の意義を素直に捉えるなら、恐らくはこのリストの人間は少なくとも救済される人なんだと思う。そのリストには本部の人間の名もある。そこから本部の人間はこの計画を黙認している可能性もある。たぶんリンドウさんもその事には気が付いていたと思う。」

 

 何を以て救済と言うのかは分からないが、人類救済の計画と名簿リスト、この2つだけでも計画の一部の内容は読み取れる。このリストが本当に最低限救済する人間の名簿であるなら、本部の人間も救済の対象になる。ならばその計画に便乗して、救いを得るのが普通だろう。そう考えて、ユウキは本部の人間は当てにならないと言っているのだ。

 

「ええ。それを調べていくうちにリンドウでさえやられたのよ?私たちじゃ、どうしようもないわ。」

 

「でも可能性ですよね!?なら、他の支部に応援を要請するとか、本部に緊急連絡して確かめるとか!!」

 

 納得がいかないと言う様にアリサは声を荒げて反論する。そんなアリサをサクヤは落ち着かせる様に少しゆっくりと語りかける。

 

「…この部屋や、このターミナルてさえも、そいつの監視下にあるかも知れない…私たちが今こうして計画の内容を知った事に気が付いて、いつ潰しに来るかも分からない。そもそも、確証もない計画の素性、通信インフラも掌握されているこの状況で、勝ち目があると思う?」

 

「そ、それは…でも!」

 

 それでもなお食い下がるアリサだったが、不意にサクヤは暗い表情になる。

 

「ちょっと…1人にして貰えるかな?」

 

 1度に多くの事を知り、少し複雑な心境なのだろう。リンドウの事を思い出し、人類救済のアーク計画の一端を知り、本部がそれに乗っかる可能性を考えた。少し心の整理も必要になるだろうと思い、ユウキはアリサと共に部屋を出ようと促す。

 

「行こう、アリサ」

 

「…分かりました…」

 

 ユウキに促され、渋々アリサも部屋から出ていく。その2人の背中を見送った後、遠目にリンドウ、ツバキ、そしてサクヤが並んで写っている写真を眺める。

 

(流石にこれ以上は…巻き込めないわよね…)

 

 そう心の内で呟きながら、サクヤは再びターミナルを操作し始めた。

 

 -ユウキの部屋-

 

 サクヤの部屋を出た後、ユウキとアリサはすぐ横にあるユウキ部屋に来ていた。アリサはサクヤの反応がおかしいと言って怒り、それとユウキが落ち着かせていた。

 

「あんなにあっさり手を引くなんて…サクヤさんらしくないです!ユウもユウですよ!何も動かないまま諦めるなんて!!」

 

「…いや、動くにしても何の対策も無しに動いたら、どうぞ潰してくださいと言っている様なものさ。計画の内容も、フェンリルを敵にするかもって話も、本当は暴走しそうなサクヤさんを止める為に話すつもりだったんだけど…あんなにあっさり諦めるなんて正直意外だった。」

 

 『アリサの方が暴走しちゃってたから、アリサを止めるのに使う事になったけどね。』と最後に揚げ足をとると、アリサはバツが悪そうな表情になる。

 

「で、でも…!!」

 

『神裂ユウキさん。榊博士がお呼びです。榊博士のラボまでお越しください。神裂ユウキさん、榊博士のラボまでお越しください。』

 

「っと…ごめん。ちょっと行ってくる。」

 

 館内放送でユウキに呼び出しがかかる。ユウキが部屋を出ようとしたので、アリサもそれに続いて部屋を出る。エレベーターでラボラトリに向かうユウキを見送り、1人取り残されたアリサはさっきのユウキとサクヤの態度に違和感を感じていた。

 

(2人共あんな風に諦めるなんて、どう考えても不自然です!こうなったら、私だけでも…!)

 

 何かを決意したような目をしたアリサは、戻ってきたエレベーターに乗り込んだ。

 

 -ラボラトリ-

 

 アリサと別れた後、ユウキは真っ直ぐラボラトリまでやって来た。扉を開けると、ペイラー以外には誰も居なかった。

 すると、ユウキが入ってきたのに気が付いて、さっそく要件を話していく。

 

「やあ、待ってたよ。実はまたシオをデートに連れて行ってほしくてね。出撃メンバーは任せるよ。」

 

「そう言う事ですか。分かりました。」

 

 案の定シオが絡んだ任務だった。呼び出しを受けた時から何となくこうなる気がしていたので、何ら驚くことはなかった。

 しかし、その後ペイラーは何やら不安そうな声色でユウキに語りかける。

 

「ただ、ちょっと気になる事があってね。」

 

「気になる事…ですか?」

 

 思わずユウキも聞き返す。しかし、ペイラーからの答えは何とも頼りないものだった。

 

「どうも昨日辺りから、シオの様子がおかしいんだ。できれば、気にかけてやってくれないか?」

 

「…分かりました。」

 

 結局原因不明、何処が悪いのかも分からない。とにかくシオの様子がおかしいと言う事だけ聞いて、ユウキはシオの様子を気にするようにした。

 その後、ユウキはシオの部屋に入る。そこには端を喰われたベッドに座るシオが居た。たがペイラーが言っていたように、今のシオはいつものように天真爛漫な様子ではなく、どこか気だるげで虚ろな目をしていた。

 

「シオ、ご飯食べに行くよ?」

 

「ん…お腹…空いた?シオ…お腹…空いた…」

 

 その声を聞いた瞬間、ユウキの目付きが鋭くなりつつも虚ろになり、異様な雰囲気を放っていた。

 

「腹…減った…」

 

「じゃあ…いただきます…だな。」

 

「うん…全部…喰う…」

 

 言い切った後、ユウキの異様な雰囲気は無くなり、虚ろな目ではなくいつも通りの目付きになっていた。

 

「じゃあ、行こう。」

 

「だな!」

 

 まるで今までの会話が無かったかのように、ユウキとシオはいつもと変わらない様子で、元気に返事をした。そのままユウキとシオは1度別れて、秘密の抜け道を出た所で落ち合う事になった。

 

 -愚者の空母-

 

『敵はコンゴウ神属の第二種接触禁忌種、ハガンコンゴウ…特異なアラガミを好むシオにとってはご馳走だね。』

 

 ペイラーの説明を聞きつつ、ユウキはあとから来たシオとソーマ、コウタを連れて任務に来ていた。

 サクヤとアリサは、アーク計画を知った事で動揺しているのではないかと思い、気持ちの整理をつけるために呼ばなかったのだ。

 

「ターゲットは禁忌種か…大丈夫かな?」

 

「問題ないだろう。この間大型の禁忌種を狩ってきたところだ。あれよりはましだろ。」

 

 どこか不安そうな表情のコウタをソーマが落ち着かせる。そしてシオは相変わらず落ち着きがない様子でソワソワしている。

 3人の先頭にいるユウキは遠目で、黄金の体で雷神を思わせる羽衣を纏ったハガンコンゴウを見つけた。その瞬間、目付きがより鋭くなり、ハガンコンゴウを睨み付ける。

 

「…任務…開始!!」

 

 待機ポイントから飛び降り、信じられない速さで空母の甲板に走る。

 

「なに!!」

 

「え!!?!はや!!」

 

「おお!!速いなあ!!」

 

 全員が驚いている間にあっという間に甲板のハガンコンゴウの元まで来た。ハガンコンゴウがユウキに気がついた頃には、もう神機を振り上げていた。

 

「…邪魔。」

 

 鋭い目付きのままユウキがぼそりと呟くと目にも止まらぬ速さで面が割れた様なハガンコンゴウの顔面を斬り、一撃で結合崩壊させる。

 それを振り払うように、ハガンコンゴウが体をコマ回しのようにしてユウキを攻撃する。ユウキはそれを後ろに跳んで躱す。

 その隙にハガンコンゴウが構えてユウキに落雷を落とす。その瞬間、ユウキは一瞬でハガンコンゴウの背後まで近づいて片足を切り落とす。その後、再びユウキに落雷が落ちてきたので一旦離れる。

 ハガンコンゴウの落雷はまだ終わっていない。回避先に落雷を落とすと、今度はユウキがハガンコンゴウに接近して腕を切り落とす。

 これを繰り返していくうちにハガンコンゴウは四股を失い、動けなくなる。最後の抵抗に落雷をもう1度落とすが、それもアッサリと躱され、ユウキはハガンコンゴウの背後を取り、羽衣を砕きながら神機をハガンコンゴウの首を突き刺した。

 

「す、すげぇ…」

 

 コウタを始めとした出撃メンバーが唖然としていると、ユウキはシオに向かって、突き刺したハガンコンゴウを投げた。

 

「さ、ご馳走だよシオ!たくさん食べなよ?」

 

「いただきまーす!!」

 

 そう言うユウキの雰囲気はいつも通りのものになっていた。シオは目の前のご馳走に飛び付いて捕食し始める。

 さっきの雰囲気の変化は何だったのか。ソーマとコウタが聞こうとした時、不気味な鳴き声が辺りに響く。

 

  『キシェエアアア!!』

 

 何時の間にかユウキの後ろに黄色い体のボルグ・カムランが現れた。間髪いれずに目の前にいるユウキの頭を串刺しにしようとボルグ・カムラン尻尾を振り上げる。

 

「あ!!」

 

「「ユウ!!」」

 

 ソーマとコウタが心配をするようにユウキの名を呼び、シオも食べるのをやめて思わず声を上げる。

 ボルグ・カムランが針のついた尻尾を降り下ろし、突き刺し攻撃をする。それを再び目付きが鋭くなったユウキが振り替えることなく頭をずらして避けると、体を回転させて尻尾を切り落とす。

 尻尾を切り落としたダメージを受けている隙に、ユウキはそのままボルグ・カムランに急接近する。対してボルグ・カムランは盾を構えて防御する。

 

  『ギイィィイイン!!』

 

 金属音が鳴り、ユウキの神機は止められた。誰もがそう思っていた。この隙にソーマとコウタは前線に加わろうとしていた。

 

  『ブシャァァアア!!』

 

 突然ボルグ・カムランの盾が真っ二つに引き裂かれた。ユウキが力業で盾を切り裂いたのだ。

 強引に開いた盾を突破し、ボルグ・カムランの眼前に飛び出し、神機を両手でしっかりと握る。

 

「…」

 

 次の瞬間、ユウキは全力で下から掬い上げるようにカムランを真っ二つに切り裂いた。

 

「思わぬ収穫だったね。回収しとこ。」

 

 といつもと変わらぬ様子で黄色いボルグ・カムランを捕食していく。シオが食事を終え、ボルグ・カムランの捕食が終わったところで、全員帰投準備に入った。

 

「ん?おい、ユウキ、お前そんな状態の神機を持ち出したのか?」

 

「うお!?なんだこれ?!刀身にヒビ入ってるじゃん!!」

 

 そう言われて慌てて神機を確認すると、確かに火刀の伸縮部を中心にヒビが走っていた。

 

「な、なんだこれ!!来るときんこんなのなかったのに!!」

 

 来るときはついていかった損傷を見て、ユウキが慌てる。が、それもリッカに見てもらえばすぐに分かるだろうと、とりあえずその場は収まった。

 

「あ!エイジス…こっからも見えるんだな…」

 

 待機ポイントに戻る途中、海に浮かぶエイジス島がコウタの目にふと止まった。

 

「コウタ?」

 

「早く完成してもらわないとな…」

 

「そう…だね…」

 

 コウタがエイジス計画に大きな期待を寄せているのは分かっている。だが、エイジス計画の裏でアーク計画と言う計画が進行してる事をついさっき知ったばかりだ。もしかしたら、エイジス計画自体が出任せと言う可能性もあるとユウキは考えている。

 もし、予想が当たっているなら、それを可能にする人物も極東支部内の誰かは目星は何となくだがついている。

 そうなればエイジス計画は空虚の計画となる。その事をコウタに伝えるか迷っていると、不意に崖にシオが立っているのが目についた。

 

「シオ!」

 

「なにやってんだシオ!危ないぞ!」

 

 ユウキとコウタの声を聞いてソーマも異変に気がついた。すぐにソーマも人に合流し、シオに戻ってくるように説得する。

 

「おいシオ!!バカな真似は止せ!!早く戻ってこい!!」

 

「…」

 

 しかし、ソーマの呼び掛けにも答えず、シオはじっとエイジスを見つめている。すると、突然シオの身体に青く輝く模様が浮かび上がった。

 

「「「シオ!!」」

 

 3人ともシオの変化に驚き、シオに呼び掛けるが、もうこちらの声は届いていないようにも思えた。

 

「ヨンデル…イカナキャ…」

 

 シオは迷いなくそのまま崖の方に歩いていく。

 

「待て!!シオ!!」

 

 ソーマの制止もむなしくシオは海に飛び込んだ。

 

 -ラボラトリ-

 

「で、そのままシオは海に消えた…と…」

 

「申し訳ありません…」

 

 ユウキは深々と頭を下げて謝る。

 

「いや、君たちが無事で何よりだ。ともかくシオの居場所が分かったら捜索任務を出すことになると思うから、その時はよろしく頼むよ。」

 

「…はい。」

 

 シオが居なくなった以上、早急に捜索して連れ戻さなければ支部長に見つかってしまう。ペイラーとしてはそれは何としても避けたかった。そのため、急いでシオの反応を探り、捜索任務を出すことをユウキに伝えると、ユウキは部屋を出ていった。

 

(思っていたよりも速い…実にマズイな…)

 

 だれも居なくなった部屋で、ペイラーは1人心の内で焦りを見せていた。

 

 -???-

 

 サクヤは神機を持って、ある場所に来ていた。その道中は大した警備システムも無かったが、少し前から警備システムの数が異様に多くなっていた事が気になっていた。

 

(この辺りはやけに警備が厳重ね…それにしても、視界が悪い)

 

 しばらく歩いていると、暗がりの中に触手に絡まれた『何かを』発見する。

 

(これは…?)

 

  『ビー!!ビー!!』

 

 正体を探ろうとその何かを注視していると、サイレンが鳴り辺りが警報灯で赤く染まる。どうやらリンドウの遺したプログラムの対策を打たれたようだ。

 警備システムが復活し、サクヤに向かってレーザーが飛んでくる。しかし、警報に一瞬気を取られて回避も防御も間に合わない状態になってしまった。

 

「くっ!!」

 

 間に合わないと分かっていながらも、回避しようと両足に力を入れる。しかし、その瞬間眼前に赤が割り込みレーザーを装甲で防いだ。すると、銃形態に変形して、辺りをガトリングで撃って警備システムを破壊していった。

 

「大丈夫ですか?」

 

「ア、アリサ!?」

 

 まさかアリサがここに居るとは思っておらず、サクヤは困惑する。

 

「全く…何だか様子がおかしいと思って尾行してみれば…案の定でしたね。私達を置いてった挙げ句、こんなところでやられたんじゃ、笑い話にもなりませんよ。」

 

 アリサが表面上は怒った様にサクヤを嗜める。すると聞き慣れた紳士的な声が辺りに響く。

 

「ようこそエイジスへ。」

 

 ヨハネスが作業用のゴンドラに乗って現れた。そのままゴンドラはサクヤとアリサから離れた位置に降りてきた。

 

「やはり君たちか…どうかね、思い描いていた楽園と違い、落胆したかな?」

 

「支部長、やっぱり貴方が…!!」

 

 『やはりお前か』と言いたげな視線をヨハネスに向け、サクヤは怒りを隠すことなく、ヨハネスを睨む。と言うのも、サクヤはアーク計画のレポートを見たときから、リンドウ抹殺にヨハネスが関わっていると感づいていた。エイジス計画の裏で大規模なアーク計画を進めるなど、計画の当事者でもなければ至難の技だ。

 そのため、ユウキとアリサを巻き込まないように敢えて諦めたと思わせたのだが、結局アリサは付いて来てしまった。

 だが、そんな怒りも全く届いていないかのようにヨハネスは余裕な表情のままサクヤに語りかける。

 

「まさか、リンドウ君は、ここまで侵入する手筈まで整えていたのかね?いや、それともペイラーの差し金かな?」

 

「はぐらかさないで!!」

 

 『ここまで来たのなら何がなんでも真実を暴いてやる。』と躍起になっていたサクヤは更に語気を強めてヨハネスを問い詰める。

 

「もしリンドウ君の手引きだとしたら、本当に彼は優秀な男だ。実に惜しい人物を亡くした…」

 

「戯れ言を…!!貴方が…そう仕向けさせたクセに!!」

 

 あまりに白々しい態度に、アリサも怒りを覚える。そのままサクヤとアリサは怒りに任せてヨハネスに銃口を向ける。しかしヨハネスは余裕を崩さずに、涼しい顔で2人を見ている。

 

「ああ、その通りだ。どうやら彼には別の飼い主が居たようでね、噛みつかれる前に手を打たせてもらった。」

 

 ヨハネスは誤魔化す事もなくアッサリとリンドウ抹殺を認めた。それがサクヤとアリサの怒りをさらに駆り立てる。

 

「早すぎたのだよ…終末捕食の鍵となる『特異点』が見つかっていないあの段階では、この計画を知られる訳にはいかなかった。」

 

 そこまで話すと、ヨハネスは一瞬何かを考え込む様な仕草をした後、再び2人を見て話を進める。

 

「そうだな…ここまで来たのだ…今さら隠す必要も無いだろう。君たちには、『真実』を教えてあげよう。」

 

「真実?」

 

 何の事だと言いたげにアリサが聞き返すと、ヨハネスはゆっくりとアーク計画の全容について語り始めた。

 

「アーク計画とは、1度人類を宇宙に逃がし、人為的に終末捕食を引き起こし新たな星を創る計画…アラガミによって引き起こされる終末捕食…それにより、この星は完全な破壊と再生を迎える。」

 

 ヨハネスは少しずつ声を大きくして、興奮しようにアーク計画について語り続ける。

 

「完全なる再生だ!!地球上のあらゆる種が完全に滅び、生命の歴史が再び再構築される。その再生した地球に、人類と言う種とその遺産を残す方舟…それがアーク計画だ!!」

 

 要するに地球のリセットとも言える事をやろうとしているのだ。その地球のリセットでは1度生物が完全に滅び、生命が再構築すると言うのだ。

 しかしその地球のリセットで地上の人間が確実に生き残れるとは限らない。そのため、人類を確実に生き残るため1度宇宙に逃がし、新しい星で再び人類が生きられる様にする計画がアーク計画なのだ。

 

「しかし、新しい世界への方舟の席は限られている。新時代を担う者達の限られた席だ。ならば、真に優秀な人間こそが座るべきじゃないかね?」

 

「で、そこに座れるのは、貴方と貴方に選ばれた人間だけってわけてね…」

 

 サクヤはここまで聞くとまるで旧約聖書『創世記』を再現している様にも思えた。洪水は終末捕食、ノアの方舟は宇宙船、そして方舟に乗る者を選別したノアはヨハネス…まさしく自分が神だと言わんばかりの傲慢ぶりだと軽蔑の目を向ける。

 

「他に適役がいるかね?残念だが、今回の件で、君たちはリストから外れてしまった。申し訳ないが、ここで消えて貰おう!!」

 

 サクヤの視線を受けても動じず、ヨハネスは冷静に計画の進行を考える。アーク計画を知られ、未だ特異点を手中に納めていない以上、周囲にバラして回られても面倒だ。生かして返すわけにはいかない。

 そう考えて、ゴンドラにある警備システムの起動スイッチを押す。しかし、何時まで経っても警備システムが起動することはなかった。

 

「あら?セーフガードなら、私が来る途中に全て破壊しましたけど?」

 

 ヨハネスが、警備システムが起動しないことを不思議に思っていると、アリサが得意気な表情で真相を伝える。どうやらさっきの銃撃と道中の警備システムは全て破壊してきたようだ。

 

「ふむ…それは困った…」

 

 そう言うヨハネスの表情には全く困っている様子は感じられない。

 

「ならば仕方がない…君たち2人で殺しあって貰おう。」

 

 そう言いながらヨハネスが横を向く。『何をいっているんだ?』『そんな事するはずがない。』そう思いながらも、サクヤとアリサはヨハネスに釣られて目線を移す。

 そこにはアリサにとって最も会いたくない人物であり、もう死んだと聞かされた人物が居た。

 

「お、大車!!」

 

「あ、貴方…生きて…!!」

 

 サクヤとアリサは驚きを隠せず、動揺する。大車もその事には気がついているようで、更なる動揺を誘うように、ゆっくりと諭すようにアリサに話しかける。

 

「やあ、アリサ…久し振りだね。あのまま眠ってくれれば、何も知らずに新しい世界で、幸せに生きられただろうに。」

 

 語りながらも大車はアリサに近づいていく。

 

「そんなに殺し足りないなら…また手伝ってあげよう…」

 

「くっ!!」

 

 アリサは動揺したままだったが、どうにか銃口を大車に向ける。しかし、その瞬間、大車は『あの言葉』をアリサに聞こえるように、はっきりと発音してく。

 

「один…два…три…」

 

 洗脳の鍵となる言葉を聞いた瞬間、アリサの目が虚ろになる。そして、大車に向いていた銃口をサクヤに向ける。

 

「アリサァァァア!!」

 

 サクヤは無防備にも神機をアリサに向けることなく駆け寄る。

 

(貴女は…こんな暗示になんて負けてない!あのときも、最後までリンドウを撃たなかったもの!!大切なモノを守る力を、貴女は始めから持っていた!!そんなアリサの強さを…私は信じてる!!)

 

 アリサから銃口を向けられているにも関わらず、サクヤは相変わらず無防備なままだ。

 そのままサクヤはアリサに飛びかかるが、ついにアリサの銃口から弾丸が放たれた。

 

「ふあははははは!!!!血迷ったかサクヤ!!」

 

 大声をあげて大車がサクヤを嘲笑う。その様子は抵抗もせずに殺されたサクヤを大いにバカにしているようにも見える。

 しかし、一頻り笑ったあと、ある事が起きていないことに気がついて、今度は大車が驚愕の声を上げる。

 

「な、何?!」

 

「おあいにく様!回復弾よ!!」

 

「し、しまった!!」

 

 回復弾、つまりゴッドイーターにとって攻撃ダメージの入らない、細胞分裂を促進する弾丸だ。怪我をしていないサクヤに使っても何ら意味はないのだ。

 洗脳が効いているのなら、攻撃能力の高い弾丸が装填されているはず。何故思い通りにならなかったのかと大車が考えていると、アリサの目がパチリと開いた。

 

「どうでしたか?私の迫真の演技は?」

 

 今度はアリサが辛うじて銃口を大車に向ける。どうやら洗脳にはかからなかったようだ。だが、最初の一瞬だけは洗脳に掛かってしまい、それを無理矢理自我を保って防いだのだ。

 そのため、アリサは頭が働かず、もう戦える状態じゃない。このまま大車とヨハネスを相手にするのは分が悪い。

 

「さようなら。元主治医さん!!」

 

「支部長、私達は必ず貴方の狂行を止めて見せる!!」

 

 捨て台詞を残すと、サクヤの神機から閃光が放たれ、その光が収まる頃にはサクヤとアリサはその場からいなくなっていた。

 

「ちっ…面倒を増やしてくれる…!」

 

 2人が去ったのを確認すると、静かに怒りを宿した声色で呟いた。

 

To be continued




後書き
 アーク計画の全容が遂に明かされました。次の話ではありますが、この事をユウ君が知ったらどんな選択をするのか、何を選ぶかの葛藤を表現していきたいと思います。
 今回禁忌種やボルグ・カムランの亜種をアッサリ倒した辺りの話も近いうちに明かしていきたいと思います。
 ペルソナ5が楽しいくて筆が進みません!!!!(。∀°)アヒャヒャヒャヒャ!!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。