-マーナガルム計画-
〈機密事項〉
フェンリルの雛形となる生化学企業の傘下となる『オラクル細胞総合研究所』で行われていた研究の1つ。
オラクル細胞から直接採取されたP73偏食因子を人体に組み込む事で、アラガミの捕食に強い人間を人工的に作り出す計画の総称である。捕食に強い人間を量産し、人類滅亡を回避することを目的とした計画だった。
しかし、P73偏食因子を人体に組み込むうえで大きな問題があった。それは人体細胞をオラクル細胞に変異させる働きが強すぎると言う事だ。さらには、P73偏食因子自体のアポトーシスが誘導されずらく、そのまま体内に残り続けてしまうので、よりアラガミ化してしまう危険性が高いとされている。
それを防ぐ為に、細胞分裂と自己消滅が盛んに行われる胎児期に、母体を通じて投与するという方法がとられた。胎児期の短いサイクルで行われる細胞の自己消滅によって、アラガミ化する前に細胞そのものが消滅すると考えられるためだ。
その被験体に名乗りを上げたのが、当時妊娠が発覚したオラクル細胞総合研究所所長の『アイーシャ・ゴージュ』だった。彼女の子供である、ソーマ・シックザールに遺伝子変異を起こし、捕食に強い人間を作り出そうとしていた。
しかし、オラクル細胞の暴走事故により、研究主任であるヨハネス・フォン・シックザールとその息子、ソーマ・シックザールの両名以外の総勢20人のスタッフが死亡した。
この暴走事故で研究所は閉鎖、計画は永久凍結された。
-P73偏食因子-
〈機密事項〉
ヨハネス・フォン・シックザールによって発見された、オラクル細胞に捕食の対象と思わせないための物質である。
オラクル細胞から直接採取されたものである。その特徴として、人体細胞の遺伝子構造を変異させる働きが強い事と、アポトーシスが誘導されにくい事が挙げられる。これらの特徴から、人体に直接投与することは出来ない。(遺伝子変異が起こる前に消滅させられれば投与は可能である。)
現在、P73偏食因子の投与が成功したと報告を受けているのは、マーナガルム計画被験体のソーマ・シックザールのみである。
なお、P73偏食因子と言うのはオラクル細胞から直接採取された偏食因子の総称で、取り出した個体によって同じP73偏食因子でも、偏食の傾向が違う事が判明した。
-P53偏食因子-
ゴッドイーターに投与される、人工的に培養されたオラクル細胞への捕食に対抗するための物質である。彼らにとって命綱とも言える存在である。P53アームドインプラント、通称腕輪から静脈注射される。血中に投与することで、栄養素と同じように人体細胞に吸収される事で、オラクル細胞への耐性を得ることが出来る。
比較的に低強度であり、自壊するまでのサイクルが短い事から、投与する量を間違えなければアラガミ化する危険性はほぼ皆無とされている。
なお、P53偏食因子と言うのは、人工培養された偏食因子の総称で、培養環境等の要因で同じP53偏食因子でも偏食の傾向が違うとされている。
あくまで偏食因子の投与は捕食への耐性であり、超人的な身体能力や高い回復力はオラクル細胞に近づいた事による副次的なものである。
-ソーマ・シックザール-
〈機密事項〉
マーナガルム計画の生き残り。人類初の偏食因子を持って生まれた人間であり、ゴッドイーターのモデルでもある。
生後間もない頃に、ペイラー榊から送られてきたレポートを元に、彼の遺伝子構造を解析し、人体への直接投与を可能にしたものがP53偏食因子である。(なお、このレポートの内容から彼はどのように遺伝子構造が変化するのか、ある程度予測していたようだ。そのため、P53偏食因子の生成には1月もかからなかった。)
骨髄での造血の過程で自らP73偏食因子を生成し、血中に流している。これを栄養素と同じように体の各細胞が取り込み、オラクル細胞の捕食に適応している。
よりオラクル細胞に近い体細胞のため、従来のゴッドイーターと比べて非常に高い身体能力と回復力を持っている。
2071年4月現在、存命。
-アイーシャ・ゴージュ-
〈機密事項〉
オラクル細胞総合研究所所長で、マーナガルム計画の立案者。当時P73偏食因子を人体への投与実験の際、自身と自らの子であるソーマ・シックザールを被験体とする。
投与した当時は特に不調は無かったようだが、胎内にいたソーマ・シックザールが生成したP73偏食因子を取り込んでしまい、水面下でアラガミ化していたと考えられる。
そのため、出産の際の傷や出血の修復のために細胞が活性化して、オラクル細胞の暴走事故に繋がったと考えられる。
享年26歳
午前3時を過ぎた頃、訓練を終えたユウキはターミナルでマーナガルム計画の事を調べるために過去のレポートを見ていた。
リーダーになり、権限が強化された事もあって、本来閲覧に規制が掛かっている機密事項も閲覧出来るようになっていた。
いくつかのレポートを読んできたが、マーナガルム計画の資料は全て規制対象となっていて、リーダー権限無しでは閲覧する事が出来なかった。やはり人道的に問題があったせいなのだろう。あるいは事故を起こした事自体がフェンリルの信用等に影響して、今後の支配体制に支障が出る事を恐れたからだと考えられる。
しかし、マーナガルム計画の資料には、ペイラーとの話で聞いた事よりも踏み込んだ内容が書かれていたが、それ以上の情報は得られなかった。
そんなこんなで午前4時になる前に就寝して、夢の世界へと旅だったのだが…
『ピリリリリリ!』
「…ぁい…もしもし…?」
「やあ、おはよう。」
「…おはようございます…」
早朝5時、ユウキは突然の電話に叩き起こされた。電話を取るとそこからはいつもと変わらぬ調子で話す、ペイラーからの朝の挨拶が聞こえてきた。
『…何でそんなに元気なんだ…?』と思いながらも眠そうな声で挨拶を返す。
「早朝から悪いんだけど、特務を頼みたいんだ。」
「…特務…ですか…?」
特務と言う単語を聞くと、寝ぼけながらも着替えを始める。しかし、眠気が勝っているのか、内容がろくに頭に入ってこない。
「旧市街地に特務対象の反応が近づいていてね。辺りのアラガミを一掃して欲しいんだ。」
「…はい…」
とりあえず旧市街地に行けば良いと言う事だけ理解して返事をする。あとは眠気のせいもあって聞き流してしまった。
「前にも言ったけど、この任務はソーマと一緒にやってもらうよ。彼にはもう伝えてあるから、急いで準備してね。あ、君たちが任務に向かった事はヒバリ君には伝えておくよ。」
「…分かりました…」
ユウキの返事を最後に通話は切れた。着替えを終えて、このあとの動きを軽く考えるが、頭が半分寝ているせいで思考が纏まらない。
(えっと…着替えたし…歯磨いて…一回寝て…腹減ったからエナジーゼリー買って…そのあと寝て…ソーマさんと会った後車で寝て…現地で寝る…)
睡魔に負けて、結局思考は寝ることばかり考えるようになった。そのあと、どうにか出撃まで漕ぎ着けたが、バギーに乗った瞬間に寝てしまった。
そのため、現在はソーマの運転で作戦地域に向かう。ユウキは途中で起きては寝てを繰り返していた。
「おい…てめぇそんなんで戦えんのか…?」
「…ん~…向こう着くまでには…起き…ます…」
ユウキは出撃前に自販機で買ったエナジーゼリーを寝ながら飲む。もう既に意識は半分夢の中に旅立っているのか、目は開いてない。
「チッ!こんなんで大丈夫なのかよ…おい、足を引っ張るなよ?」
「…うぁい…」
ソーマの苛立ちを感じながらも眠そうな声で返事をした。
-贖罪の街-
作戦領域に着く頃には無理矢理だがユウキも目を覚まし、任務に集中出来るようになった。
出撃前に神機の最終調整をしていると通信機から声が聞こえてきた。
『やあ、聞こえるかな?』
「博士!?」
声の主はペイラーだった。いつもなら任務のオペレートはヒバリの筈なのに今回はそのヒバリがオペレートする気配はない。
『まあ、早朝でなおかつ特務だからね。今回は私がオペレートするよ。』
「だ、大丈夫なんですか?」
今までにペイラーがオペレートしたと言う話しは聞いていない。謂わば素人である。ユウキが心配するのも無理はない。
『そうは言ってもこの時間じゃオペレート出来る人も居ないからね。』
ペイラーの言うことももっともだった。そもそも緊急時以外にこんな早朝から任務を行う事自体が、ゴッドイーターにとてつもない負担を強いるため、普通はやらないのだ。
『さて、それじゃあ仕事をしようかな。今捕捉しているのは、西側にヴァジュラ、東側にボルグ・カムランの2体だね。東西に別れているから各個撃破も可能だろうね。』
「だそうだ。足を引っ張るなよ?」
ソーマが珍しく、率先して単独行動をしないなと考えていた。ソーマの実力と、標的の配置を考えると、2手に別れる方がいいだろうと考えた。
「ソーマさんは東側でボルグ・カムランをお願いします。俺は西側でヴァジュラを相手にします。」
そう言うとユウキは待機ポイントから飛び降りて西側に走る。対してソーマは東側に走り、2手に別れた。
その後、ユウキは西側の小部屋でヴァジュラを発見した。どうやら食事中らしい。こちらに気づいている様子はない。後ろに回ってチャージ捕食壱式を展開する。ただし、その顎の向きを横に向けて構えて後ろ足を確実に喰い千切るようにした。
ヴァジュラがこちらに気付いてない事もあり、あっさりと後ろ足を喰いちぎった。
身動きが取れなくなったヴァジュラが最後の抵抗にデタラメに雷球を発車する。気のせいか雷球の発生や反応が鈍い気がする。
いつもより遅い攻撃にユウキが当たるはずもなく、一旦下がった後、確実に避けながらヴァジュラとの距離を縮める。
そして雷球をうち終わった後、神機を横に振ってコアが剥き出しになるようにヴァジュラが上下に切り裂かれた。
コアを回収した後、急いで東側に走る。一番奥の建物に入ると、ソーマがつまらなさそうに佇んでいた。しかも既に戦闘が終わっていて手足をもがれ尻尾も切り落とされたボルグ・カムランもいた。
ソーマがこちらに気が付くと、待機ポイントに帰りながらユウキに話しかける。
「さっさとコアを回収しろ。お前が回収した方が都合が良い。」
そう言われてユウキはボルグ・カムランのコアを回収して、2人は極東支部に帰還した。
-エントランス-
極東支部に戻ると既にゴッドイーターを始めとしたフェンリル職員が仕事を始めていて、エントランスは活気づいていた。
そんな様子を気にすることなく、ユウキは真っ先にミッションカウンターにいるであろうヒバリの元に向かう。
「ただいま戻りました。殲滅任務、無事に終了です。コアも2体分回収しました。」
「はい。お疲れさまです。コアの回収…確認しました。ミッション成功です。報告書の提出を忘れないで下さいね。」
そう言ってヒバリはユウキに報告書を手渡す。この様子から察するに上手く通常任務に偽装できているのだろう。
ユウキは白紙の報告書を受け取り、『報告は通常任務の方を書けばいいのかな?』と考えながら返事をする。
「ええ。分かってますよ。」
「ああそうだ!博士がお話があるのでラボまで来て欲しいそうです。」
「そうですか…分かりました。ありがとうございます。」
恐らく今終わらせた特務の事だろう。やはり報告書等のような記録として残す訳にはいかないため、口頭での報告のために呼び出したと言ったところか。
ペイラーが呼んでいると教えてくれた事に礼を言って、そのままペイラーが居るであろうラボラトリに向かった。
-ラボラトリ-
ペイラーの呼び出しで、ユウキはラボラトリに来た。入室の許可を得て扉を開けると、その目の前にペイラーが立っていた。
「いやあ、毎度毎度呼び出してすまないね。」
「あの…博士…近いです…物理的に。」
事実上、扉を開けた所で通せんぼしている状態では必然的に彼らの距離は近くなってくる。さらにペイラーが前屈みになって話しているため、ユウキは大きく後ろに反り返りながら、元に戻ってくれと頼む。
「ああ、ごめんごめん。」
そう言うとペイラー前屈みを止めて普通の姿勢になった。これでユウキも普通の姿勢に戻ることが出来る。
その後、ペイラーはユウキを部屋に入れ、用件を話していく。
「今回呼んだのは、例の特務に関係する事でね。」
「そう言う事ですか。今回は何を?」
どうやらユウキの読みとは少しずれていたようだ。先の特務の事ではなく、次の行動についての呼び出しだった。
「今回は特に変わった事はしないよ。今度は特務対象が旧寺院付近に現れたんだ。そこで該当地域のアラガミを殲滅して欲しいんだ。」
「通常任務…って事になるんですか?」
「そう。だからサクヤくんとアリサくん…それからコウタくんも連れていって欲しいんだ。」
「分かりました。」
今回の任務はあくまで通常の任務として発注されるらしい。そのため、フルメンバーでの出撃が可能だが、何故特務絡みの任務なのにソーマをメンバーに入れなかったのか、何故通常任務なのかと、いくつか疑問には思った事はある。だが、恐らく聞いたところではぐらかされると思い、結局ユウキは任務を了承してその話題を打ち切ろうとした。
正直なところ、早朝から任務に出たため少し30分程度で良いので休みたいと思っていたのだ。
「じゃあ、早速お願いできるかな?」
「え?…今からですか?」
ペイラーからの残酷な言葉を聞いたとたんに、ユウキの顔がひきつり、全身から冷や汗を流し始めた。
「もちろん!今こうしている間にも、作戦地域に近づいているんだからね。」
「…はい…分かりました…」
『こんなのを社畜って言うのかな…?』と考えながら、淡い期待が砕け散った事を再認識した。
そして、ユウキは肩を落としながらペイラーの部屋を出ていった。
「さて…そろそろお出迎えの準備をしなくちゃね…」
何を、誰を迎えるのか分からないが、ユウキが部屋を出ていった後にペイラーの独り言を呟いた。
-鎮魂の廃寺-
ペイラーの部屋を出た後、ソーマを除いた第一部隊のメンバーとヘリで旧寺院に向かっていた。その間も、ユウキは寝ては起きてを繰り返していた。
「あの、大丈夫ですか?疲れているようなら、任務が終わった後はもう休んだ方が…」
「うん、大丈夫…」
ユウキが珍しく、移動中に居眠りをしている事に気がついてアリサが話しかけてきたが、ユウキは何でもないとごまかした。
「でも、毎日遅くまで訓練してるんだろ?もうそろそろ一度休んだ方がいいって。」
だが、コウタにもわかるほどに疲れたような様子だった。コウタも休めと言ったが、その瞬間に視界が白く染まった。
その場にいた全員が一瞬何が起こったのか分からなかったが、直後に自分達が落下している事を理解した。
状況を理解すると、全員が自分の神機を掴みに行く。その途中でヴァジュラが上を見上げているのを確認した。恐らくヘリを堕としたのはこいつの電撃だろう。ヘリの操縦士もパラシュートで作戦領域外に逃げた事を確認すると、中庭部にコウタと共に落下し、戦闘体制をとる。
近くにはアリサとサクヤは居ない。別の場所に落下したのだろう。2人ならこんな事では死ぬことはない。そう信じてユウキとコウタは目の前のヴァジュラを倒す事に集中する。
『ガアアアア!!』
ヴァジュラが吠える間にユウキがシュトルムで一気に接近する。捕食口がヴァジュラの喉元に喰い付いて引きちぎり、ユウキはバースト状態になる。コウタも負けじと神機を吹かして足を狙う。片方の前足をだけを狙い機動力を削いでいく作戦のようだ。
ヴァジュラもただやられているつもりもなく、周囲に電撃を張り、ユウキが回避せざるを得ない状況を作り出す。
「俺も居るってことを忘れんなよ!」
ヴァジュラを挑発した後にコウタの神機が銃弾を放つ。その銃弾がヴァジュラの前足に着弾すると、爆発が起こって結合崩壊を起こした。
その衝撃でヴァジュラが蹲っていると、ユウキが攻撃体制に入る。
「はあ!!」
掛け声と同時にユウキは神機を横凪ぎに振る。その衝撃でヴァジュラが吹き飛ぶ。その最中にヴァジュラが体制を建て直して、雷球をユウキに向かって放つ。それを危なげなく躱し、反撃の体制をとる。
「ユウキ!止めだ!」
ヴァジュラが着地の瞬間、コウタが再び神機を吹かす。その弾丸が着弾すると、ヴァジュラの動きが止まった。まるで、ホールドトラップに掛かったかのように痙攣しだした。
「ぜああああ!!」
全力の一撃で、ヴァジュラを両断して、切り捨てた。幸いにもコアが残っていたので、捕食してコアを回収した。
「よし!コウタ!アリサとサクヤさんを探しに行くぞ!」
「おう!」
ユウキが指示を出し、コウタが了承するとアリサとサクヤを捜索する。しかし、ユウキとコウタの目の前に突如何かが現れた。
『グオオオ!』
その正体はボロボロのシユウだった。恐らくアリサかサクヤ、あるいはその2人によるものだろう。
「ユウキ!止めを!」
視界の端にアリサとサクヤが映る。サクヤの声を聞いて神機を握り直してシユウに突っ込む。シユウが手刀を真っ直ぐにユウキに向かって突き出す。それを姿勢を落として躱し、下から切り上げてシユウの翼手を切り捨てる。
その瞬間にシユウが怯み、隙ができた。その隙を見逃す事はなく、振り上げた神機をそのまま振り下ろし、その胴体を両断して動かなくなった。
シユウを倒し、ユウキがコアの回収のために捕食口を展開する。その間、周囲の警戒のためサクヤ、コウタ、アリサが周りを囲む。
捕食口を展開し、今まさに喰らおうとする瞬間に不意に聞き覚えのある声が待ったをかけた。
「すまないが、ちょっと待ってくれるかな?」
「「博士!?」」
「な、何で博士がここに!?」
「ソーマさんも…一体何が…」
声の主はペイラーだった。ここまで単身で来られるはずもなく、護衛としてソーマも連れてきたようだ。
「詳しい話は後だ。とりあえず、そのアラガミはそのままにしておいて、こっちに来て欲しいんだ。」
恐らくここに居るのが第一部隊でなくても、何故ペイラーとソーマがここに居るのだろうかと疑問を持つだろう。しかし、それらの疑問に聞く耳を持たずに、倒したシユウを放置するようにだけ伝えて第一部隊にその場を退くように促した。
シユウが見える位置で隠れながら待機している。しばらくすると、ペイラーが懐中時計を確認し、シユウから離れてから5分程経ったことを確認する。
しかし、そろそろシユウが回復し、動き始める頃合いでもある。事実、先の戦闘での傷も癒え始めている。
一度倒したと言ってもコアの摘出は済んでいない。そのため、このまま放置しているとシユウが復活してしまう。
皆がそんな心配をしつつも、ペイラーが何をしたいのか理解出来ずに待機していると、不意にペイラーが声を発する。
「おぉ!来たよ!!」
嬉々とした声色で何かが現れた事を皆に伝える。その何かはシユウを捕食している。そこを確保するため、第一部隊が全員飛び出す。
物音で第一部隊が近づいた事に気が付くと、現れた何かは捕食を中断してこちらを向いた。
そこには血塗れの手足で布切れを巻いていて、肌も髪も色が抜けたような真っ白い少女がいた。
人(?)がアラガミを喰う。衝撃的な光景を目の当たりにして第一部隊が固まっていると、少女が話しかけてきた。
「オナカ…スイ…タ…」
一旦言葉を区切ると、少女は口元の血を拭い、再び言葉を発する。
「ヨ?」
「ひぃ!」
血塗れの少女を見て、コウタが思わず短く悲鳴を上げる。恐怖心から神機の銃口を少女に向ける。しかし、少女はその意味を理解出来ていないのか、向けられた銃口をただ見つめていた。
少女を除き、全員が警戒心を緩めない状況で、剣呑な雰囲気を放っている。だが、その雰囲気を壊すようにペイラーが話始める。
「いやぁ御苦労様!!ようやく姿を現してくれたね。ソーマも、ここまで護衛してくれてありがとう。お陰でこの場に居合わせる事が出来たよ。」
「礼などいい。どういう事か説明しろ。」
この場に居る誰もが状況の説明を求めるだろう。恐らくペイラーの目的はこの少女に会うことだと言うのは理解出来る。だが、この少女に会う目的は何なのか?少女に何をどうするのか?何をさせるのか?少女に一体何を求めているのか説明が欲しいところだ。
ソーマの要求もあり、ペイラーは説明を始める。
「いやなに、彼女がなかなか姿を見せてくれないものだからね、この辺り一帯の『餌』を根絶やしにしてみたのさ。どんな偏食家でも、空腹には耐えられないだろう?」
「チッ…悪知恵だけは一流だな…」
要するに食料を無くし、飢えさせて餌に釣られたところで捕獲すると言う事だった。
ここ最近、廃寺での殲滅任務が多かったのはこの為だった。さらには確実にここで餌に食い付かせるため、旧市街地に移動させないように早朝から殲滅任務を行ったのだ。
「…悪趣味ですよ…博士…」
その内容を聞いたとたん、ユウキの目付きが変わった。軽蔑や嫌悪を宿した目でペイラーを見ていた。
(…ユウキ?)
アリサがその様子に気が付いた。ユウキがゴッドイーターになる前の記憶は感応現象で体験したが、そのときは盗みを働いて食料を確保していたのでそこまで強い飢えを感じた覚えは無かった。
何故そこまで嫌悪するのかは分からなかったが、コウタが誰もが思うであろう疑問をペイラーに投げ掛けたのでアリサは意識をペイラー達の会話に戻す。
「えーっと…博士、こ、この子は?」
「そうだね、立ち話も何だから私のラボで話そうか。」
すると、ペイラーは何の迷いもなく、少女に近付いて話しかける。
「ずっとお預けにしてすまなかったね。それを食べたら君も来てくれるかな?」
「イタダキマス!」
少女も迷いなく頷いて、着いていく意思表示をする。その後、何故か少女はソーマを見つめて動かなくなった。
「あぁ?」
「イタダキ…マシタ?」
良くわからない言葉を最後に、少女は食事に戻った。
To be continued
序盤の最重要キャラの白い少女の登場です。この小説を書き始めたころは20話位で出てくると思ったのにな…
この調子じゃオリジナルに入るまでにいつまでかかるやら…